埼玉県飯能市と横瀬市にまたがる武川岳(たけがわだけ)と二子山(ふたごやま)に登りました。
奥武蔵の懐深くに佇む、なだらかな山容をもつ山です。武川岳から隣の横瀬二子山を結ぶ稜線上には、秩父のシンボル武甲山をすぐ傍らに臨む、静かなるハイキングコースが連なります。
早くも初夏の気配がただよい始めた近場の低山で、ゆるめのハイキングをしてきました。
2019年6月16日に旅す。
武川岳は、奥武蔵と呼ばれる一帯のほぼ中央付近に位置する山です。大柄な山容を持ち、あまり特徴の感じられない低山が団子状に連なる奥武蔵の山の中にあっては、比較的見分けがつきやすい存在であります。
登山道は四方から拓けており、地味めな山ながらも、奥武蔵の山の中では割と多く歩かれている山です。
今回はこの武川岳から稜線に沿って北へ向い、横瀬の二子山までをつなげて歩いて来ました。
ルート上の大半は深いに樹林に覆われていて、眺望には余り恵まれない一帯です。それでも数少ないながら好展望地は存在し、そこからは奥武蔵の盟主武甲山の、迫力ある姿を目の前にすることが出来ます。
直前になって晴天の予報へと転じた、梅雨時の週末日曜日。ほとんど準備もなしに慌ただしく繰り出した奥武蔵の低山は、早くも夏の到来を思わせる灼熱の世界でした。
コース
名郷バス停より天狗尾根を登り、武川岳へと登頂。その後は尾根沿いに二子山まで歩き、芦ヶ久保駅へと下山します。
1.武川岳登山 アプローチ編 実は言うほど近くない奥武蔵への旅路
この日、朝6時に目を覚ますと、外はスッキリと晴れていた。
時は梅雨シーズン真っ盛りの週末の日曜日。金曜時点の天気予報で、週末土日に傘のマークがずらりと並んでいるのを目の当たりにしてすっかり気落ちしていた私は、特に何の用意もしていませんでした。
しかし晴れています。カンカン照りと言って差し支えないほどの強烈な日差しでもって。なんてこったい。こんなスッキリと晴れるのならば、もっと早起きして遠出すれば良かった。
6時と言うのは、遠出をするにはもう行動開始が遅すぎる時間です。という事で、急遽近場の山へと繰り出すべく、慌ただしく準備をすませて発進するのでありました。
行き先は、特に深い考えもなしに近場で未踏の山の中から適当に選んだ、奥武蔵の武川岳です。
8時4分 西武池袋線 池袋駅
秩父鉄道直通の快速急行に乗り込み、飯能駅へと向かいます。ボーイスカウトと思われる集団が乗り合わせており、車内は大盛況でした。
8時52分 飯能駅に到着しました。
ここまで来てふと思ったのですが、奥武蔵エリアと言うのは、実は近場と言うほど近くは無いんですよね。
飯能駅から名郷行きのバスに乗車します。終点の名郷までの乗車時間はおよそ1時間に及び、なかなかの長丁場です。座って行きたい人は余裕をもって列に並ぶと良いでしょう。
今回は、割と発車ギリギリの時間であったにもかかわらず、運よく座席にありつくことが出来ました。
9時55分 名郷バス停に到着しました。
ごらんの通りの、素晴らしいまでの晴天です。そして、バスから降り立つなり、むっとする暑さの空気です。
これはひょっとしなくても、もう低山歩きには適さない季節になってしまっているという事なのか。
名郷では、ちょうど名郷味(なごみ)市なるお祭りが開催されていました。せっかくなので、少し冷やかして行くことにしましょう。
これから山に登ろうと言うのに、何故かジャガイモと言う途方もない重量物を買ってしまった・・・
10時40分 ようやく登山を開始します。武川岳に向かうには、この橋を渡って真っすぐです。
2.武川岳登山 登頂編 天狗尾根の急登と地味な山頂
入間川の支流である横倉入(ナギノ入)沢に沿って進みます。綺麗な沢ですね。さきほどから暑くてしょうがなし、登山やめて水遊びに変更したい気分になってきます。
ちなみに、これから登る武川岳は、Windows10のIMEで変換されないくらいにはマイナーな山です。先ほどから、打ち込むたびに竹川岳と変換されて地味にイラっとします。
民宿西山荘の看板が見えたら右折します。なおここを曲がらずに直進しても、妻坂峠経由で武川岳に登頂することが可能です。
日影に入ると、割と涼しくて人心地つけます。今日はそれだけ直射日光が強烈なのでしょう。
沿道には立派な建物が立ち並んでいました。これも民宿なのでしょうか。
ここまで来て、初めて道標上に武川岳の名前が現れました。ようやく登山開始です。
と思いきや、すぐにまた車道に飛び出しました。なかなか登山道が始まりません。このお日様がギラギラの道から、早く樹林の日影の中へと逃げ込みたいのですけれど。
沿道のアジサイは、まだ咲き始め言ったところです。現在地の標高はおよそ400メートルほどあり、平野部よりも咲き始めるのは幾分遅めです。
背後の視界が開けて来ました。どこにでもある、里山そのものと言った趣の風景です。
草むらにポツンと置かれた兎の置物。周囲には別荘と思われる建物が何件か並んでいます。
林道沿いに山奥へと進みます。なかなか車道歩きが終わりません。汗が止めどもなく無く流れ落ちてきて、水が2Lで足りるか少々不安になってきました。
森の中に入るなり、周囲は静謐な空気に満たされます。冷たく湿った空気が、火照った体に心地よい。
しかしそんな安らぎの時間は長くは続かず、すぐにまた無粋なガードレールの姿が視界に飛び込んできました。なかなかしつこい林道ですな。
またもや灼熱の林道歩き再開かと思いきや、今度はほんの一瞬横断するだけでした。
三度目の正直で、今度こそ本当の山道がスタートします。登り始めから早々に容赦のない急坂です。
まるで奥多摩のような杉の植林が広がります。まあ里に近い山と言うのは、どこも基本的にはこんなものですよね。
奥武蔵エリアの多くの山と同様に、武川岳の中腹にも石灰岩の採掘場が存在します。それにしてもこの看板のイラストは、なかなか良い味が出ております。
立派に育った杉の大木の中を登って行きます。これで樹齢何年目くらいなのでしょうか。
採掘場の上部へと登って来ました。一部の視界を金網に遮られはするものの、眺望が開けます。
遠くに薄っすらと、都心部の高層ビル群を視認できました。霞も少なく良好な視界です。
こんなにも天気が良いのだったら、もっと遠出して標高の高い山に登りたかったところです。いよいよ、早起きしなかったことが悔やまれます。
採掘場の上部を過ぎると、登山道上には岩の姿が目立ち始めます。この白っぽい色合いの岩は、明らかに石灰岩ですね。
ほどなく男坂と女坂の分岐地点に行き当たりました。山と高原地図には記載の無い分岐です。
毎度思うのですが、ルートにこんな名前をつけられてしまっては、例えゆるく行きたい気分であっても男坂へと進まざるおえないではないですか。わしゃ男じゃけんのう。
という事(?)で、ここは男坂へと進みます。普通に三点支持で登って行けば、特に難しい要素は無い岩場です。
登りきると背後の展望が開けました。奥武蔵の山の先に広がるは、広大なる関東平野です。
11時40分 天狗岩に到着しました。ルート名の由来ともなっている岩です。
空腹感を覚えたので、少し早いけれどここで弁当を広げました。それにしてもジャガイモが邪魔です。なんで買ってしまったのだろう・・・
12時5分 のんびりしすぎて、まだ登頂もしていないのに正午を回ってしましました。ここからは、少しばかりペースを上げて行きましょう。
相も変わらずの奥多摩のような杉林を突っ切ると、頭上に空が見えて来ました。
ようやく武川岳の山頂部がお目見えかと思いきや、これはまだ山頂ではなく、前衛の前武川岳です。
南に目を向けると、川を挟んだお隣の山である蕨山(1,044m)の姿が見えました。
前武川岳に向かって、鹿よけの柵にそった急坂を一気に登ります。この天狗尾根ルートは、最初から最後まで全般的に急坂続きです。
12時35分 前武川岳に登頂しました。ここで山伏峠経由のルートと合流します。
IMEで変換されないようなマイナーな山の割には、竹川岳武川岳は登頂ルートの選択肢が多い山ですな。
山頂に向かいましょう。まずは鞍部に向かってゆったりと下ります。大した傾斜でもないのに、濡れた土の表面が恐ろしく滑って肝を冷やしました。
そのまま和風庭園の置物にでも出来そうな、見事な苔生す岩がありました。自然が生み出した造形美です。
鞍部から緩く登り返します。道中の天狗尾根こそ急坂でしたが、一度稜線に出れば実にゆったりとした山容の山です。
山頂が見えて来ました。これはまた、とびっきり地味な山頂ですねえ。
13時 武川岳に登頂しました。
あまりの暑さに一時はどうなるかと思いましたが、森の中に入ってからは気持ちの良い山道でありました。
山頂の様子
そこそこ広い空間にベンチが多数用意されています。展望は東側だけが開けています。
前方に広がるは関東平野。まあ、とくに何が見えると言う訳でもありません。眺望はさほどない山ですね。
3.秩父のシンボル武甲山を一望する横瀬二子山
13時20分 二子山に向かって行動を再開します。
なお、秩父には二子山が二つ存在します。区別するために、これから向かう二子山の方は横瀬二子山と呼ばれることが多いようです。ちなみにもう一つの二子山は、小鹿野にあるクレイジーなやつです。
ここからはしばらく稜線歩きです。緩やかにアップダウンを繰り返す、とても歩きやすい道です。
沿道にはコアジサイが開花しつつありました。見頃を迎えるのは、まだ少し先のことのようです。
道は基本的に樹林に覆われており眺望はありませんが、ときよりこうして視界の開ける場所があります。右奥に見ているのは筑波山(877m)です。
13時45分 蔦岩山(つたいわやま)に登頂しました。
特に何があると言う訳でもない、稜線上に突き出した小ピークと言ったところです。
振り返ると、僅かな木の間から武川岳の大柄な山容を目の前にすることが出来ました。冬枯れの季節だったら、もう少し良く見えるかもしれません。
蔦岩山の直下に少しだけ急な場所がありますが、そこを過ぎると再び穏やかな稜線歩きが戻ってきます。
先ほどから、すぐ隣に武甲山(1,304m)があるのがちらちらと見え隠れしていますが、なかなか全体の見えるスポットが現れません。
下りきったとこで、林道にぶつかりました。この先、尾根沿いの道は寸断されているので一度林道へ降ります。
林道が大きく向きを変える地点で、ようやく待望の眺望の開けた場所へ出ました。
武甲山は本当に目と鼻の先の場所にありました。近くで見ると凄い迫力です。
ちなみに、今お見せした秩父盆地と武甲山の2カットは、この法面の上から撮りました。意外と木が邪魔で良く見えなかったものですから。
自分でやっておいて言うのもなんですが、危ないから絶対にマネしないでください。・・・登るのは簡単でしたが、降りる時は冷や汗をかきました。
わざわざ法面に登るなどと言う阿呆な真似をせずとも、この先に武甲山を一望できる好展望地がちゃんと存在します。
先へ進みましょう。こから登山道は林道と袂を分かち、再び高度を上げ始めます。
頭上に大きく空が見えて来ました。見るからに眺望が良さそうな姿に、期待が高まります。
14時45分 焼山に登頂しました。
事前には全くノーマークだったピークでしたが、ここからの眺望は素晴らしいの一言です。
この通り武甲山が目の前にあります。これほど近くから見ることの出来る場所は他にありません。焼山はまさに、武甲山を眺めるために存在しているような場所です。
こんなに良く見える場所があると前もって知っていたならば、法面に登ったりなんてしなかったのに。
武甲山の奥には、言わずと知れた秩父の名峰、両神山(1,723m)と、クレイジーな方の二子山(1,166m)の姿が見えます。
狂気の山などと言われるだけのことあって、こちらの二子山はなかなかインパクトのある姿をしております。
秩父盆地の外に薄っすら見えているこの山は、位置的に榛名山(1,449m)でしょうか。あちらは少し曇っているようです。
そしてこちらがこれから向かう、クレイジーではない方の二子山です。確かに見事なまでの二子です。
武甲山と言う盾が無くなったからなのか、焼山を過ぎるなり強風が吹き始めました。
焼山の直下はかなりの急勾配です。特に土がむき出しなっている部分は恐ろしく滑るので、慎重に下ります。
再び訪れる穏やかなる稜線歩き。しかし、安息の時は長くは続きません。ほどなく二子山に向かって急な登りが始まります。
という事でこれが本日最後の登りです。気合を入れて行ってみよう。
急坂を登りきると、平坦な山頂部へと飛び出しました。結構な広さのある空間です。
山頂標識は、坂を登り切った地点から見て左の方にあります。しかしその前に、反対の右方向に素晴らしい展望の岩があるので、そちらへ先に立ち寄って行きます。
こちらがその岩です。なお岩の下は垂直の崖になっているので、上に立つときは足元に要注意です。
岩の上からは、今日ここまで歩いて来た武川岳から続く稜線が一望できます。中央左奥にある平たい山が武川岳です。
武甲山の姿もこの通り一望できます。左手間の稜線上に突き出した突起が、先ほど通ってきた焼山です。
武甲山とは反対の南東に目を向けると、これまた特徴的な姿の双耳峰の姿が目に入ります。伊豆ヶ岳(851m)と古御岳(830m)です。
スカイツリーまでこんなにクッキリと見えました。霞がちな今の季節にして珍しい、真冬並みな空気の澄み具合です。
なおこの好展望地、道標や地図上には一切案内はありません。
しかしながら、この場所に立ち寄ったか否かで、二子山に対する評価が一変してしまうくらいのインパクトがある場所です。二子山へお越しの際には、忘れずに立ち寄ることをオススメします。
山頂の様子
三角点がある他には何もない空間です。眺望も一切ありません。
もう一つのピークである雌岳へと向かいましょう。降りて登ってしますが、大したアップダウンではありません。
15時50分 二子山の雌岳に登頂しました。こちらも雄岳と同様に、まったく展望の無い空間です。
展望のない山頂に長居しても得るものはありません。ついて早々ですが、下山を開始します。
4.横瀬二子山 下山編 沢沿いルートを辿り芦ヶ久保駅へ
二子山から芦ヶ久保(あしがくぼ)駅へと下る下山路は二通り存在します。端的に言えば、尾根沿いルートと谷沿いルートです。
本日はもう尾根歩きは十分お腹いっぱいな気分だったので、谷筋のルートを選択しました。
やっぱり尾根沿いルートにすべきだったかと後悔してしまうような、泥の滑り台状態の急斜面が現れました。写真だと傾斜度が伝わりにくいですが、恐怖心を覚えるような急勾配です。
しっかりとロープがが張られていたので、ここはロープを頼りに体を後ろ向きにしてゆっくりと下りました。まったくなんて道だ。
滑り台並みの急坂を下りきると、ようやく傾斜が緩んでほっと一安心です。
この付近はカラマツの植林となっていました。昼でも薄暗い杉の植林とは違い、カラマツ林は地面まで光が届くので良い雰囲気です。
谷底まで下ってきたところで沢とぶつかります。この先はゴールまで、気持ちの良い沢沿いの道です。
梅雨の長雨の影響なのか、登山道が水没して沢と一体化しつつありました。
沢沿いに出てからも意外と長いです。徐々に支流を集めて大きくなって行く沢と共に下って行きます。
今は一年でも最も日の長い季節です。日没まではまだまだ時間の余裕がり、特に先を急ぐ理由もありません。滝などを眺めながらゆっくりと下ります。
三脚があれば撮影が捗りそうな場所です。持ってきてはいないので、すべて手持ちの腕力手ブレ補正です。
17時30分 芦ヶ久保駅に到着しました。
最後の最後に沢沿いではしゃいだおかげで、下山は標準コースタイムを大幅に超過しての到着となりました。
その後30分近く待って現れた電車に似り込み、帰宅の途につきました。
さほど期待もせず、前情報もなしに思い付きで訪問した奥武蔵の山々でしたが、思いのほか展望もよく良い意味で予想とは違った山行きとなりました。特に焼山から望む武甲山の姿は、奥武蔵の盟主たるにふさわしい圧巻の光景でした。
そろそろ気温的に、1,000メートル未満の低山に登るのは辛い季節に差し掛かってきており、今回の訪問は奥武蔵を快適に歩くことの出来るギリギリのタイミングだったのではないかと思います。真夏には灼熱地獄と化す場所なので、春先か晩秋頃の訪問がオススメです。
武甲山の姿を眺めに、ふらっと奥武蔵の山へと繰り出してみてはいかがでしょうか。
<コースタイム>
名郷BS(10:40)-天狗岩(11:45~12:05)-前武川岳(12:40)-武川岳(13:00~13:20)-蔦岩山(13:45)-焼山(14:45)-二子山(雄岳)(15:25~15:45)-二子山(雌岳)(15:50)-芦ヶ久保駅(17:30)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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