長野県茅野市と諏訪市にまたがる霧ヶ峰(きりがみね)に登りました。
山と言うよりは高原と呼ぶ方がふさわしそうな、なだらかな山容を引く古い火山です。古くから茅場の山として利用されてきた山で、現在でも野焼きが行われており、背の高い樹木の無い笹原に覆われています。内陸性気候に属する諏訪地方にあることから、西高東低の気圧配置になる冬期においても比較的天応が荒れることが少なく、冬にも登りやすい山です。
遠路はるばる公共交通機関を乗り継いで、冬の車山高原を巡って来ました。
2025年1月18日に旅す。
霧ヶ峰は長野県のほぼ中心近くに位置している、笹に覆われたなだらかな稜線が特徴的な山です。雪融けと共に湿原が出現し、レンゲツツジやニッコウキスゲなどが咲き誇る花の名峰として名高い存在です。
通称ビーナスラインと呼ばれている観光道路が、山頂のすぐ近くにまで通じています。そのため殆ど労することもなく容易に山頂に立つことが可能です。
登山の対象と言うよりは、どちらかと言うと観光地寄りの性質を持つ場所と言えます。
山の上に広がるこの花咲く高原台地は、冬の間は一面の銀世界と化します。内陸性気候に属する諏訪地方にあるため、日本海側の山のような極端なドカ雪が降ることこそ滅多にありませんが、それでもまとまった量の降雪はあります。
前爪のあるアイゼンが必要となる様な勾配の箇所はなく、ワカンやスノシューとの相性が良い山です。冬でも比較的晴天率が高めであることから、雪山初心者向きと言えます。
山頂の直下に車山高原スキー場があり、ビーナスラインは冬の間も除雪が行われています。本数は非常に少ないものの、冬季にも路線バスが運行しており、公共交通機関による訪問が可能です。
冬期のバスは車山肩までは入らずその手前の車山高原バス停止まりですが、車山山頂を往復するだけであれば時間的に全く問題はありません。そう、車山山頂を往復するだけならばね。
往復ではなく周回がしたいと言う変なこだわりを発露したがために、帰りのバス時間がギリギリとなる慌ただしき山行きとなりました。バス時間に追われながら、冬の車山高原を巡って来た1日の記録です。
コース
車山高原バス停からスタートし、スキー場のゲレンデの脇を登り車山に登頂します。下山は車山肩方面へ下り、そこからビーナスラインを歩いて車山高原バス停に戻ります。
車山高原バス停を起点に周回する行程です。
1.霧ヶ峰登山 アプローチ編 鈍行列車で行く信州への遠き旅路
6時12分 JR高尾駅
いつもの6時14分発の松本行き鈍行列車に乗り込み、遠路はるばるさわやか信州の茅野駅を目指します。え?特急あずさ?なにそれ、おいしいの?
自分の内部では漠然と、甲府駅までは鈍行圏内だと言う意識があります。茅野は甲府よりもずっとに先なのだから、別に特急に乗ったって良いと言えば良いのですが、それでも鈍行で参ります。
なにぶん根っからの貧乏性なものですから、鈍行で行くよりも早くに現地に辿り着けるわけでもない特急に、お金を使おうと言う気にはなれないのです。
早さではなく快適さをお金で買うと言うのも一つの考えではありますが、私はこの爆音をまき散らしながら疾走する211系の乗り心地がまったく不快ではないと言うか、むしろ大好きなんです。
8時50分 走り出すなりいつものように完全爆睡している間に、茅野駅に到着しました。寝惚け眼でよろよろとホームに降り立ちます。
車山高原行きのバスは9時25分発なので、ここで少し待ち時間が発生します。バス停には既に行列が出来上がっていましたが、こちらは車山高原ではなく、北八ヶ岳ロープウェイ行きのバスを待っている列です。
出発時間のギリギリになってバスが現れました。もしかしたら乗り場を間違えているのではないかと思って少々焦りました。3番乗り場であっています。
満員御礼ですし詰め状態な北八ヶ岳ロープウェイ行きのバスとは違い、車山高原行きのバスは並んでいた全員が着座できるくらいの乗車率です。冬の霧ヶ峰は、北八ヶ岳ほどの人気は無いようです。
出発して早々に、車窓に目指す霧ヶ峰の姿が見えて来ました。ビーナスラインは大きく回り込みつつ、山頂の近くまで標高を上げていきます。
白樺湖は完全凍結して一面の雪原状態です。近隣に複数のスキー場があるからか、人通りも多く冬でもそこそこ賑わっていました。
車山が正面に見えました。霧ヶ峰と言う名称は山域全体のことを指している呼び名で、霧ヶ峰と言う名前のピークは存在しません。霧ヶ峰の最高地点はこの車山です。
10時30分 車山高原バス停に到着しました。冬期以外にはこのさらに先にある車山肩までバスが乗り入れているのですが、冬は車山高原止まりとなります。
冬期ダイヤのバスは1日に3往復のみです。帰りのバスは14時50分発が最終便となります。現地に留まることができる時間は、僅か4時間20分しかないと言うことになります。
車山山頂を往復するだけならば、4時間もあれば全く問題はありません。車山山頂を往復するだけであればね。(何かのフラグ)
2.スキー場のゲレンデ脇を登る、車山乗越への道程
バス停を降りた目の前に、車山高原SKYPARKスキー場があります。スキー場のリフトを利用すると、山登りを一切せずに車山山頂に立つことも可能です。
山登りがしたくて来ている私は、当然リフトには乗りません。ここから歩いて登ります。
登山口がどこにあるのかが良くわからなくて少し探しましたが、ファミリーコースの脇に道がありました。
雪の状態が全く読めないので、ひとまずは6本爪の軽アイゼン装着で行きます。先週登った蛇垰山で、長年愛用していた軽アイゼンのバンドが切れてしまったので、本日は新しく買ったアイゼンの試し履きです。
アイゼン装着に少し手間取って、10時50分にようやく登山開始です。踏み跡はかなりたくさんあるので、スキー場のリフトを使わずに車山に登る人はそれなりにいるらしい。
最初の坂を登りきると尾根の上に出て、ちょうど真正面に蓼科山(2,531m)が姿を見せました。諏訪富士の異名を持つ山ですが、富士山型に見えるのは特定の角度限定で、ここから見ると両肩があるような姿をしています。
天狗岳から編笠山に至る、南八ヶ岳の山々も良く見えています。これだけ天気が良いとなると、どこの山も多くの登山者で賑わっていそうです。
ゲレンデの脇に追いやられたかのように登山道が続いています。追いやられたかのようにと言うか、実際に追いやられたのでしょう。
車山高原SKYPARKスキー場の全容を一望できます。あまり大きな標高差も無くコンパクトなゲレンデで、スキー初心者向きだと思います。
進むにつれてどんどん雪は深くなってゆき、踏み抜きが多発するようになって来ました。これは明らかに選択を誤った様な気がします。
このままツボ足で頑張り続けるべき理由もないので、早々にワカンに履き替えました。アイゼンでないと危ないような勾配の坂は最後まで無いので、最初からワカンが正解であると思います。
ファミリーコースのリフトの上まで登って来ました。ここまでずっと、スキーコースの外周に沿って大きく回り込んで来ています。
この先も同様に、スキーコースのフチに沿うように登って行きます。この辺りには特に明確な境界線が無いので、コース内に入り込まないように注意してください。あとたまにボーダーが境界外まで突っこんでくるので、それにも要注意です。
人工降降雪機が並んでいます。今のところは天然の雪だけで事足りていそうですが、近年は雪不足に苦しんでいるスキー場のニュースを多く目にします。
登山コースの案内がありました。言葉遣いはとても丁重ですが、言わんとしていることは「ゲレンデに入って来るな」でしょうな。
少し傾斜が増して来ましたが、わざわざアイゼンに履き替えるほどではないので、ワカンのまま足を逆ハの字に広げて登ります。
背後の展望が開けて来ました。八ヶ岳の端から端までがすべて見える、贅沢な眺めです。今日は登山をしに訪れていますが、滑走しても気持ちが良さそうです。
浅間山(2,568m)も良く見えています。霧ヶ峰は長野県のほぼ中央に位置している山なので、360度どちらを見ても名だたる名峰たちに取り囲まれています。
山頂らしき場所が見えて来ました。もっとあっさり辿り着けるものと考えていましたが、ゲレンデの外周に沿ってぐるっと大回りしていることもあってか、意外に時間がかかっています。
山頂にあるレーダ雨量計のドームが見えています。遠くから見た際にも非常に目をひく、ある意味車山の象徴的な存在とも言えそうな人工物です。
12時15分 車山乗越まで登って来ました。4差路になっており、車山の他に蝶々深山や山彦谷方面への分岐点です。
隣にある蝶々深山まで、白一色に染まった平原が広がっています。とても気持ちよく歩けそうでな道ではありますが、公共交通機関を利用してやってきている身の上では、時間的に寄り道するのは難しそうです。
ということで、寄り道はせずにこのまま真っすぐに車山を目指します。
3.信州の中央に立つ大展望の頂
山頂まではもうあと一息です。ラストスパートをかけていきましょう。無雪期ならばそれこそ鼻歌混じり歩ける距離ですが、これだけが雪が深いと何気にしんどい道程です。
だいぶ雪が深くなって来ました。夏道がどこにあるのかは全く見えないので、先行者のトレースに従って道なき斜面をよじ登ります。
山頂からスロープ状にスキーコースが整備されており、その脇を登って行きます。今は完全に雪に覆われていますが、足元は一目の笹原であるはずです。
右手には上信国境の山並みが見えています。2つ並んで見えている山は四阿山(2,354m)と根子岳(2,207m)です。どちらも比較的、冬にも登りやすい山なので、これだけ天気が良ければきっと賑わっていることでしょう。
思いのほか時間がかかりましたが、ようやく山頂まで登って来ました。リフトで簡単に登って来れるため、山登りの格好をしてない人の姿が目立ちます。
リフトの山頂駅がすぐ隣にあります。このリフトを使用した場合の車山登頂に要する時間は、それこそ5分未満です。
八ヶ岳の裾野の先に、ひょこりと富士山が姿を見せていました。厳冬期とは思えない、素晴らしいまでの晴天模様です。
車山山頂に立つ車山神社です。柱が4本立っている辺り、諏訪大社の系列なのであろうことが伺えます。
前回訪問した時にはなかった、展望テラスらしきものが出来ていました。どこまでも観光地的な装いな山頂です。
12時40分 車山に登頂しました。訪問前はコースタイム的に短すぎて物足りないのではないかと考えていましたが、積雪状態だと意外に歩き応えはありました。
4.車山山頂からの展望
車山の山頂からは、文字通り360度前方に展望が開けています。早速見ていきましょう。
まずは東側です。北端の蓼科山から南端の編笠山まで、八ヶ岳連峰の端から端まですべてが一望できます。ちょうど真横からのアングルです。
中でも一番目を引くのは、距離的に最も近くにある蓼科山です。八ヶ岳連峰の一部ではありますが、主脈からは少し外れた位置にあるため、独立峰であるとみなす向きもあります。
蓼科山の隣に並んでいるこの3座は、左から順に北横岳(2,480m)、縞枯山(2,403m)および茶臼山(2,384m)です。いずれも雪山初心者向けの山としては定番中の定番な存在です。
北八ヶ岳ロープウェイがあるおかげで登りやすいのが人気の理由ですが、北八ヶ岳は冬でも比較的晴天率が高い点も見逃せ無い重要な要素です。
雪山登山において難易度を左右する最も重要な要素は、1にも2にも当日の天気ですからね。
そして南八ヶ岳の山並み。赤岳はだいぶ怪しいですが、硫黄岳や天狗岳辺りなら私の技量でも冬期に問題なく登れそうかな。なにしろこちとら、永世雪山初心者なものですから。
南側には南アルプス北部一帯の山々が連なります。数が多すぎるので一つ一つの同定は割愛しますが、南ア北部の主要な山はほぼすべて見えています。
支線をさらに右へ移動すると、今度は中央アルプスと御嶽山(3,067m)の姿が視界に入ります。
北や南に比べるとイマイチ人気は振るわない中央アルプスです。駒ケ岳ロープウェイがあるおかげで冬でも入山する人は多いようですが、千畳敷カールは地形的にどう見ても雪崩の巣なので、私は冬に登ってみようとは思いません。怖すぎる。
付近の山の中でも頭一つ抜けた圧倒的な存在感を放つ御嶽山です。今日は良く晴れているようですが、風を遮るものが何もない独立峰であるため、冬期は相当過酷な環境であるはずです。
西側には北アルプスの山並みが、まるで壁の様に横一列に並んでいます。その手前には高ボッチ高原が広がっており、そのさらに手前には、雪原と化した八島ヶ原湿原が見えます。
みんな大好き槍穂高です。北アルプスは基本的に冬の間は荒れた天気の日がほとんどで、これだけ綺麗に晴れているのはかなり珍しいのではなかろうか。
鹿島槍ヶ岳(2,889m)より南の一帯の後立山連峰も見えています。白馬岳などがある北寄りの一帯は、ちょうど美ケ原の背後に隠れてしまうためここからは見えません。
美ヶ原(2,034 m)とその周辺の山々です。霧ヶ峰ともよく似た、平坦な高原状の山が連なっています。この辺り一帯は公共交通の不毛地帯で、車が無いと訪問が難しいのが難点です。
さらに北側には妙高山(2,454m)を始めとする頚城山塊の山々が連なりますが、こちらは生憎と雲が多めです。あの辺りはもう新潟県なので、雪の量は桁違いに多いはずです。
満足行くまで展望を満喫しました。帰りのバス時間と言う動かしのようが無い制約があるので、そろそろ下山に移りましょう。
5.車山肩に下山して周回する
下山は元来た道には引き返さずに、反対側の車山肩の方へ下ります。「往復ヨリ周回ヲ持ッテ尊キモノトス」と言ういつもの価値観を発露した結果であることは、言うまでもありません。
山頂から車山肩までの標高差は100メートル少々しかありませんが、大きく九十九折れした非常になだらかな道になっており、その分歩行距離は長くなります。
高原の上を蛇行するビーナスラインの道筋が良く見えます。こうして上から見ると、今年の雪の量はかなり少なめであるようです。しかし、こんな所に良くもまあを道を作りましたな。
南アルプスが近い。目に入る光景のすべてがいちいち絶景で、遅々として歩みが進みません。もうあまり時間に余裕はないのですけれどね。
車山肩まで下りて来ました。冬季にバスはここまでは入って来ませんが、ビーナスラインの除雪自体は行われているため、周囲に人は結構います。
車山肩から振り返って見た車山です。霧ヶ峰と言われて多くの人が脳裏に思い浮かべるであろう光景は、おそらくはこのアングルだろうと思います。
コロボックルヒュッテは冬にも営業していました。見たところ入り口は雪に塞がれているようですが、どこかに冬用の出入り口があるのでしょうか。
13時40分 車山肩バス停まで下って来ました。前述の通り冬期にバスはここまで来てくれません。車山高原まで歩いて戻る必要があります。
ワカンは収納して、ここからはビーナスライン上を歩いて車山高原バス停へ向かいます。帰りのバス時間まではあと1時間ちょっとしかないので、ここからは早足気味に参ります。
車山高原までは4.9kmの道程です。雪が無い状態なら1時間あれば何の問題もなく歩ける距離ですが、意外と余裕がありませんぞこれは。
道の上はしっかり除雪されていますが、路肩は雪に埋まっており道自体が少し狭くなっています。車の往来時には注意を要します。
ビーナスラインの途中にあるこちらの建物は、富士見台と呼ばれている休憩所兼土産物店です。冬でも土日祝日限定で営業しているようです。
名前の通り富士山が良く見えます。って、今はのんびりと景色を眺めている場合ではないのですけれどね。
周囲の絶景を楽しみつつ進みます。運転しながらよそ見するのは危険ですから、ビーナスラインからの景色を楽しみたかったら、実は歩くのが一番の正解なのではなかろうか。
日影になっている場所は、路上が凍結していました。遅々としてペースが上がらないし、これはもう走らないと間に合わないかもしれない。
と言うことで、最後の区間は大きな靴音を轟かせながら走り抜けました。どうして毎度毎度、こうなってしまうのか。
ようやく車山高原が見えてきたところで、帰路のバスは既にバス停前に待機していました。そのバスに乗りたい。ちょっと待ったジャスタモーメント!
と言うことで、最終バス発車時刻の5分前に何とか駆け込むことが出来ました。危ないところでした。やはりどう考えても、わざわざ車山肩まで周回したのは完全なる蛇足でしたな。
往路の行程は全て鈍行列車でしたが、帰路では流石に特急あずさに乗り込み、帰宅の途に付きました。
完全なる蛇足と読み違いにより最後の方はだいぶドタバタとしましたが、冬の霧ヶ峰訪問は大満足のうちに幕を路しました。
ルート上に危険個所と言えるような場所は特になく、雪山初心者にも向いているコースだと思います。難点としては、公共交通機関を利用する場合は、現地に留まることのできる時間が極端に短いことくらいでしょうか。
お隣の北八ヶ岳に比べるとイマイチ人気は振るわないようですが、軽めの雪山に登ってみたいと思っている人は、候補に入れてみては如何でしょうか。ワカンひとつがあれば十分で、高価な冬靴や12本爪のアイゼンは必要ありません。
<コースタイム>
車山高原スキー場(10:50)-車山乗越(12:10)-車山(12:40~13:15)-車山肩(13:40)-車山高原バス停(14:45)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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