宮城県と山形県の境界にまたがる蔵王連峰の、不忘山(ふぼうさん)から刈田岳(かっただけ)に至る稜線を歩いて来ました。
南蔵王縦走路と呼ばれている稜線を辿るコースです。東北の地方の山が雪解けを迎える初夏の季節になると、この稜線上にはハクサンイチゲを始めとする多くの高山植物が花を咲かせて、華やかなる光景を作り出します。
梅雨入り直前の快晴の空のもと、花咲く縦走路へと繰り出して来ました。
2021年6月9日に旅す。
蔵王連峰は、宮城県と山形県の境界に沿って南北に連なる長大な山塊です。今回はその蔵王連峰の南端に位置する不忘山から北上して、南蔵王縦走路と呼ばれるコースを歩いて来ました。
初夏の南蔵王は、雪解けを迎えると同時に多種多様な高山植物が一斉に花を咲かせる花の名峰です。今回の訪問時には、ハクサンイチゲがちょうど見頃の真ん中を迎えている最中でした。
南蔵王の一帯は公共交通機関によるアクセスが極めて悪く、マイカーによるアプローチが一般的です。観光客も大勢いる御釜の周辺と比べると、比較的歩く人の姿も少ない静かな山域が広がっています。
マイカー登山はしない人である私は、東北新幹線の白石蔵王駅からタクシーを利用してアプローチしました。不忘山からは南蔵王縦走を北上して、ロープウェイのある地蔵山を目指して歩いて来ました。
南蔵王には、いかにも東北の山らしい圧倒的なスケール感の稜線が連なっていました。ほぼ丸一日を費やして、花咲く縦走路を延々と歩いてきた一日の記録です。
コース
みやぎ蔵王白石スキー場よりスタートして不忘山へと登頂します。その後は南蔵王縦走路に沿って北上し、御釜のある刈田岳へ。刈田岳からは、ロープウェイがある地蔵山まで歩きます
南蔵王を縦断する充実の行程です。
1.南蔵王登山 アプローチ編 新幹線で行く宮城蔵王への道程
5時39分 JR新宿駅
さて、本日は有給休暇を取得しての平日登山です。平日朝の通勤時間帯の新宿駅と言うのは、これから遊びに行こうとしている人間にとっては、なんとなく居心地の悪さを感じさせる空間です。
東京駅から東北新幹線やまびこ号に乗車します。ここ最近は立て続けに新幹線を使用した登山ばかりをしておりますが、この調子ではいつか交通費で破産してしまうではなかろうか。
乗車したやまびこ号は目的地の白石蔵王駅には止まらない便であったため、一つ手前の郡山駅で一度下車して乗り換えます。
車窓に目指す蔵王連峰の姿が見えて来ました。見たところ、稜線上にはまだわずかに残雪があるようです。本日は軽アイゼンを用意してきてはいないのだけれど、はたして大丈夫なのか。
8時6分 白石蔵王駅に到着しました。蔵王と言えば山形県の山であるイメージが強いですが、宮城県側の玄関口となる駅です。
この白石蔵王駅は、在来線とは接続していない新幹線単独の駅です。電車の停車本数も利用者数も極めて少なく、さらには平日であると言うこともあってか、駅前は人影もなく閑散としていました。
不忘山の登山口である白石スキー場に乗り入れている、バスなどの公共交通機関は存在しません。よって、アプローチするには駅からタクシーを利用することになります。
しかしここで、思もよらぬ誤算が生じました。駅前にタクシーがいない!
駅前の案内図にはタクシー乗り場がしっかりと描かれていたため、当然ながら流しのタクシーが待機しているものだと思い込んでいましたが、失敗しました。まあ、平日ですからねえ。
仕方がないので、地元のタクシー会社に電話をかけて配車を依頼しようとした矢先に、タイミングよく一台のタクシーが現れて無事に乗れました。
なお、白石タクシーの公式サイトによると「常にタクシーが待機しております。時間によりタクシーがいない時もございますが、その際はお電話をいただければすぐに向かいます。」とのことです。
8時40分 白石スキー場に到着しました。ここまでの料金はおよそ6千円くらいだったかな。割と高くつくので、可能であればお友達とお誘いあわせの上で訪れた方が良いと思います。
2.直射日光に晒さられる灼熱のゲレンデと、ツツジが咲き誇る静かな森
8時50分 身支度を整えて登山を開始します。登り始めはスキー場のゲレンデ歩きです。残念ながら、無雪期にリフトは運行されていないため、文明の利器を使ったショートカットは一切出来ません。
ゲレンデ入口の左脇に無料休憩所があります。登山届の投函ポストがあるので、ここで提出して行きます。用紙と筆記用具も備え付けられています。
この無料休憩所内に自動販売機があるので、水の携行量に不安がある人は補充しておきましょう。
南蔵王縦走路は基本的にずっと尾根上を歩くため、途中で給水できる場所はありません。くれぐれも、水は多めに携行してください。
登山道はゲレンデの左端にあります。最後までずっと左端に沿って進むイメージです。
登り始めて早々ですが、日陰が一切ないゲレンデは、直射日光に晒されて灼熱地獄さながらです。これは堪らん、早く樹林帯に逃げ込みたい。
道中にはしっかりと道標も整備されていました。白石スキー場の駐車場には既に結構な数の車が停まっており、不忘山が人気の山であることが窺えます。主に地元の人々に多く歩かれている山であるようですね。
オフロード仕様の車・・・ではないただの軽自動車が、激しく揺れ動きながらゲレンデを登って行きました。スキー場の関係者(?)なのかな。
少し登ったところで、背後の展望が開けました。右の方に見えている山は、青麻山(799m)と言う山です。蔵王連峰には属していない独立峰です。
ゲレンデで歩きが終わり樹林帯へ入ります。日陰に入ってようやく人心地着きました。あー、暑かった。
森の中ではタニウツギが満開を迎えていました。遠くから眺める分には良いですが、近づくと虫だらけです。。
これはドウダンツツジの一種であるサラサドウダンですね。全然そうは見えませんが、ツツジの仲間です。
9時15分
森の中を進んできたところで、突き当りに人工的に造成されたと思われる広々とした空間がありましたた。
この場所が、白石女子高山小屋跡と呼ばれている地点です。かつてはこの場に小屋が立っていたようですが、現在は跡形もありません。スキー合宿でもしていたのかな。
ここから山道らしい山道となります。傾斜は緩めで、とても歩きやすい道です。その分、後半になってからエグイ傾斜を登らされる事になりますがね。
沿道ではヤマツツジが良い感じに見ごろを迎えていました。日本全国の多くの山で見られる定番の花です。
街中の植え込みなどで多く見られる園芸種のツツジと比べると、かなり小ぶりな花です。
前方が明るくなってきました。ひょとしてもう森林限界を超えてしまうのでしょうか。いくらなんでも早すぎます。暑くて干物になってしまう。
部分的に頭上に開けていたけで、流石にまだ森林限界ではありませんでした。しかし、周囲には徐々に背の高い木が少なくなってきており、その時が近づきつつあるように感じます。
続いて今度はレンゲツツジがお目見えです。森の中に多く咲くヤマツツジに対して、レンゲツツジは主に頭上の開けた日当たりの良い場所に咲きます。
ヤマツツジとよく似たオレンジ色のツツジですが、花弁のサイズが大きいのが特徴です。ツツジ科の花の中でも最大級の大きさです。
一ヵ所渡渉がありますが、水流は少なく一跨ぎです。まだ残雪たっぷりのもう少し早い時期だと、水の勢いはもっと強いかもしれません。
新緑のトンネルが延々と続いています。依然として道は緩やかで、なかなか標高を上げ始めません。
不意に前方の視界が開けて、山頂部がお目見えました。稜線までは、まだまだ結構な標高差が残っておりますな。
ようやく不忘山の本体に取り付いたところで、お待ちかね(?)の急登が始まります。地図の等高線の密度からして、この先はかなり急勾配であることが予想されます。気合を入れていきましょう。
頭上を優しく覆てくれていた樹林が、ついに無くなりました。暑さと急登のダブルパンチを見舞われる苦しい展開を前に、大粒の汗が止めどもなく流れ落ちます。
10時10分 弘法清水まで登って来ました。体感的には、この場所が不忘山への登りのほぼ中間地点となります。
弘法大師こと空海の足跡にまつわる伝承は日本各地に残されており、中でも「杖で地面を突いたらそこから水が出た」と言うエピソードが数多くあります。
この場所もまた、そんな数ある弘法清水の一つであるようです。
実にか細い水流ではありますが、確かに水が湧いていました。いろいろと不純物だらけ水なので、飲料には適さなものと思われます。水場としては当てにはしない方が無難です。
少し空腹を覚えたので、この場所で一本立てて弁当を広げました。
3.不忘山登山 登頂編 急登を乗り越えて、花咲く楽園の様な稜線へ
10時15分 後半戦に向かって行動を再開します。ここから山頂までは、緩むことの無い急登が続きます。
洗堀による土壌の流出対策なのか、やたらと杭が沢山打ち付けられた道です。段差が大きいため必然的に一歩の歩幅も大きくなり、地味に足の筋力を大きく消耗する苦しい登りです。
背後の眼下に湖があるのが見えます。これは川原子ダムの堰き止めによってできた農業用のため池で、ダム湖に特に名前は付いていないようです。
足元にチラホラとイワカガミが咲いていました。高山植物としては定番中の定番と言える存在で、日本各地の多くの山で見られます。
これはシラネアオイですね。日光白根山に多く咲いていることからつけられた名称で、日本固有種です。
雪の多い山域特有の、雪の重みに負けて横向きに延びている木の姿が目立つようになってきました。森林限界に近づきつつある証拠です。
稜線まではもうあと一息です。この急登がよほど堪えらしい夫婦連れの登山者に、追い抜きざまに「緩やかだと聞いていたんですけどッ!」と、まるで非難するかのような強い口調で愚痴られました。
知らんがな。なんと言うかまあ、頑張ってくださいとしかコメントのしようがありません。。
森林限界を超えたところで、周囲はいかにも火山らしい溶岩の散乱する光景に変わりました。
背後の視界が開けましたが、気温が高めであるためか何となく霞んでモヤっとしています。本日は遠望に関しては期待薄かな。
ここまで登って来たところで、本日初となるハクサンイチゲがお目見えしました。さあここからは、待望のフラワータイムが始まりますよ。
苦しかった急登は終わり、ようやく稜線へと辿り付きました。暑さも相成って、意外としんどい登りでありました。
不忘山のシンボルだと言う、カエル岩が出迎えてくれました。どうでしょう、言うほどカエルに見えますかね?
山頂部を視界に捉えました。もうあとひと頑張り、ラストスパートをかけて行きましょう。
日影が無い稜線上はさぞや暑かろうと思っていましたが、冷たい風が通り抜けるため、むしろ半袖では少し肌寒いくらいの快適空間でした。
見知らぬ誰かからの励ましの言葉をかけられながら、山頂へと向かいます。
正面にこの後に歩くことになる、屏風岳方面の稜線が見えました。ふむ、これは間違いなく私好みの良い稜線です。
稜線に出たらもうすぐに山頂なのかと思いきや、意外としっかり登らされます。南蔵王縦走路のスタート地点程度にしか考えていなかった山でしたが、不忘山は侮れない防御力の持ち主です。
良い感じに息絶え絶えになってきたところで、山頂が見えました。
11時15分 不忘山に登頂しました。もう少し巻けるかと思っていたのですが、きっかりと標準コースタイム通りの時間を要しました。暑さに祟られた、なかなか苦しい道程でありました。
山頂の様子
さほど広くはない岩場の山頂部です。文字通り360度全方位の展望が開けています。
足元には見事なお花畑が広がっていました。なんだここは、楽園か。
せっかく好展望な頂ではありますが、やはり霞んでいて遠望はイマイチです。南西方向に薄っすら見ている、こののっぺりとしている山並みは、福島県と山形県の境界にまたがる吾妻連峰かな。
東側の仙台方面の展望です。空気が澄んでいる日であれば、平野の先に太平洋まで一望できます。
北側にはこれから向かう南蔵王縦走路方面の稜線です。見るからに気持ちの良さそう稜線が続いており、期待が高まります。
登頂して早々ですが、このまま行動を続行します。本日は蔵王ロープウェイの営業終了時刻である16時45分までに地蔵山へ辿り着く必要があり、実はあまり時間に予裕がありません。
4.稜線上に広がるハクサンイチゲの楽園を行く
山頂から少し離れた場所に、天之水分の神と国之水分の神をまつっている小さな祠があります。水の分配を司っている神で、主に水源地などに祭られています。
祠の脇にはユキワリコザクラが群生していました。比較対象がないため分かり難いかもしれませんが、かなり小さな花です。高山帯の乾燥した場所に多く自生しています。
ここら圧巻のハクサンイチゲロードが始まります。なかなかお目にかかれない規模の群生地なので、大いに期待していいですよ。
お隣の南屏風岳との鞍部に向かって、一度大きく高度を落とします。一部痩せている場所もあるの慎重に参りましょう。
足元はハクサンイチゲ畑状態です。あまりにも隙間なくな咲いているため、誤って突いてしまう事の無いように、ストックさばきにはかなり神経を使います。
正に見頃のど真ん中の時期だったらしく、どこもかしこも花だらけです。なんだここは、楽園か。(2度目)
下ってしまったからには、その後は当然登り返しです。急坂は無く、至って緩やかなトレイルが続いています。
振り返って見た不忘山は、「東北のマッターホルン」とか呼ばれていそうな外観をしていまいした。実はこんなに尖った山だったのですね。
※東北のマッターホルンと呼ばれている山は、不忘山とは別に実在します。山形県の祝瓶山(いわいがめやま)と言う山です。
少しだけザレ場の登りがあります。クサリが整備されていましたが、まあ使わなくても登れるレベルです。
登り切ってから振り返ると、今度はさほど険しくも無さそうに見えました。マッターホルン感があったのは、特定の角度から見た時限定のようですね。
登り返しは終わりかと思いきや、まだ先がありました。左奥に見えているのが南屏風岳です。
山腹には、まだ結構大きな雪渓が残っていました。こうした残雪が、お花畑に常にフレッシュな雪解け水を供給し続けているわけですな。
蔵王は冬の降雪量がそこそこ多い山ではありますが、日本海側の山のような極端なドカ雪が降ることは滅多にありません。そのため、東北の山の中では、雪解けシーズンの訪れが比較的早い方です。
ハクサンイチゲの群生地は、不忘山と南屏風岳の鞍部一帯に集中しており、ここまで登ってくるともうお花畑はありませんでした。凄まじい密度で咲いていましたが、群生地の範囲としてはさほど広くありません。
再び周囲が大きく開けた場所へと飛び出しました。どうやらここが山頂のようです。
12時 南屏風岳に登頂しました。再び空腹感を覚えたので、ここで本日2度目のザック落とした休憩を取りました。
周囲から聞こえてくる会話がことごとく、いわゆるズーズー弁と呼ばれる東北鈍りです。私の母親は岩手県の出身なので、ズーズー弁を聞いていると、もう10年以上も前に亡くなった祖母の事を思い出します。
ここまで来て、ようやく蔵王最高地点の熊野岳の姿を視界に捉えました。この後にあの山を越えて行こうと言う訳ですが、しかし思った以上に遠く見えます。あと2~3時間ちょっとで、本当にあそこまで歩けるのでしょうか。
熊野岳にはまだ結構な量の残雪があるようです。この先に、アイゼンが必要となる場面が無ければよいのですが。
熊野岳の左奥に、薄っすらと霞んで白い山の姿が見えます。出羽の名峰として誉高き月山(1,984m)です。あちらは雪の量が桁違いなのが大変良くわかります。
眼下に薄っすらと見えているのは、山形盆地の端っこのあたりですかね。やはり霞んでいて、あまり遠くは良く見えませんでした。
5.刈田岳へと続く、長い長い南蔵王縦走路を行く
12時15分 行動を再開します。正面に見えているなだらかな丘のようなシルエットの山が、縦走路の次なるピークある屏風岳です。いかにも東北の山らしい広大なスケール感を持った山ですね。
南屏風山からは、緩やかに下って緩やかに登り返します。実質、ほとんど水平移動のようなものです。
振り返ると、ここまで歩いて来た稜線が良く見えました。左のピークが不忘山で、ぐるっと馬蹄形に稜線が続いています。
この付近には、ミネザクラが沢山咲いていました。関東地方の山に多く咲いているマメザクラとよく似た花です。
シャクナゲはまだ咲き始めです。見頃を迎えるのはもう少し先になりそうな状態でした。
登り返したところが、水引入道コースとの分岐地点です。ここからスタート地点の白石スキー場へ下ることも出来ます。不忘山のみを目的として登る場合は、ここから下山する周回ルート取るのが最も一般的です。
分岐を過ぎたら山頂まではもうあと一息です。最後まで急坂はなく、緩やかな登りが続きます。
12時30分 屏風岳に登頂しました。おそらくこの山は多くの人にとって、目的地ではなくただの通り道でしょうな。
展望は東側だけが開けています。空気が澄んでいる日であれば、遠く仙台の街並みまでが見えるはずです。
屏風岳を過ぎてからはしばしの間、薮の中を突っ切るような道となります。半袖シャツを着た状態で突入したため、色々なものが引っかかって痛い。
山頂から緩やかに下ります。傾斜自体は至ってゆるい道なのですが、足元にはガラ石が散乱しており地味に歩きづらい下りです。
下りきった鞍部の一帯は湿原となっており、木道が整備されていました。・・・腐りかけて崩壊寸前状態の木道でしたがね。
この湿原は芝草平と呼ばれています。なかなか容易にはたどり着けない奥地にあるため、刈田岳方面から往復する人が多いようです。
季節的にもう少しするとワタスゲやチングルマが咲き始めるようですが、まだ姿は見えません。代わりにヒナザクラがチラホラと花を咲かせていました。
芝草平からは、再び緩やかに登り返します。周囲には、ハイマツの姿が目立つ様になって来ました。
振り返って見た屏風岳と南屏風岳です。東北の山がもつ圧倒的なスケール感に奮えます。
再び藪を突っ切るような道となりました。この道がまた結構長いのですが、特に見所もなかったのでスパッと中略いたします。
13時30分 杉ヶ峰に登頂しました。刈田岳の手前にある最後の主要なピークです。ひたすら長かった南蔵王縦走路も、いよいよ最終段階へと差し掛かってまいりました。
あれだけ遠くに見えていた熊野岳の姿が、かなり大きく見えるようになってきました。ここまで来れば、御釜のある中央蔵王まではもうあと一息です。
この時点で既に、標準コースタイム未満のペースにまで失速しない限りは、ロープウェイの最終時刻には間に合う状態となりました。
しかしながら、可能であれば下山後に温泉に立ち寄りつつ、17時20分に蔵王温泉を発つバスに間に合わせたいところです。という事で、ここからは少しペースを上げて行きます。
鞍部に向かって再び高度を落としていきます。その後に待ち受ける刈田岳への登り返しの事を思うとイマイチ乗り気がしませんが、道がそうなっている以上は仕方がありません。
これはヤシオツツジの一種である、ムラサキヤシオです。関東地方の山に多く見られるアカヤシオヤシロヤシオと違って、主に長野県の北部や東北地方の山で多く見られる花です。
ここまで順調に飛ばして来ましたが、前方に登山道を塞いでしまっている団体連れが現れました。どうやら地元の小学校の遠足であるようです。
こうなってしまったらもう、小学生のペースに合わせて歩くしかありません。はやる気持ちは一旦押さえて、ゆっくりと登り返します。
14時 蔵王エコーラインまで歩いて来ました。どうやら小学生たちは、あのオレンジ色のバスに乗って帰るようですな。
刈田岳に向かって登り返します。大きく九十九折れを繰り返しながら登る蔵王エコーラインに対して、登山道はその中心をまっすぐに突き進むようにして続いています。
この刈田岳への登りは何気に急勾配で、すっかりと打ちのめされてもはやグロッキー状態です。
息も絶え絶えになりながら、何とか刈田岳へと辿り着きました。つっ・・・疲れた。
目の前に、蔵王のシンボルとでも言うべき御釜の姿がドーンと現れました。別名で五色沼とも呼ばれる火口湖で、今からおよそ3万年前の火山活動により形成されたカルデラです。
刈田岳山頂に立つ刈田嶺神社です。この神社は蔵王権現を祭っており、蔵王連峰と言う名称自体、この神社が存在することに由来しています。
14時50分 刈田岳に登頂しました。あれだけ遠くに見えていたのに、人間の歩く速度と言うのは意外と早いものですな。
この山に登頂したのは自身3度目となります。これまで秋と冬に登っているので、ほぼすべてのシーズンを網羅した感があります。
新幹線でアクセス出来るため、蔵王は東北の山の中では比較的登りやすいんですよね。
振り返って見た、南蔵王の山並みです。ここまで、ほんとによく歩きました。・・・いやまあ、達成感に浸るにはまだ早いんですけれどね。
6.南蔵王登山 下山編 ロープウェイがある地蔵山を目指し、足早に駆け抜ける
そう、私にはゆっくりと感慨に浸っている時間などないのです。今この瞬間にも、ロープウェイの営業終了時刻へのカウントダウンは進んでいます。という事で、僅かな滞在時間で山頂を後にします。
熊野岳方向に向かって、緩やかに登り返します。普段は多くの登山者や観光客で賑わう場所なのですが、この時間帯ともなると流石に周囲に人影はありませんでした。
しかしホント、御釜とは良くつけた名前だと思います。緑味を帯びた湖水は、エメラルドグリーンと言うよりは、お茶漬け海苔を注いだみたいな色合いに見えます。
もう時間も押しているので、蔵王連峰最高峰である熊野岳のピークハントは割愛して、最短距離の避難小屋脇を越えて行きます。過去に一度、登頂を果たしている山ですからね。
熊野岳避難小屋まで登って来ました。この小屋は万が一噴火が発生した際のシェルターを兼ねているため、鉄筋コンクリート製の非常に堅固な造りをしています。
最後に振り返って、今日まる一日を費やして歩いてきた南蔵王縦走路に別れを告げます。さらば蔵王。花々に飾られた素晴らしき光景をありがとう。
前方の中央に見えているのが地蔵山です。蔵王ロープウェイの山頂駅はこの地蔵山の裏側にあります。という事で、最後のもうひと頑張りです。
眼下に山形盆地を一望できます。本日の山行きは宮城県側から山形県へと、蔵王連峰を乗り越えて来たことになります。
地蔵山の山頂を経由しないショートカットルートへ進みましたが、これはこれは完全に失敗でした。日影の北側斜面では今まさに雪解けが進んでいる真っ最中で、足音は水浸し状態でした。
濡れて表面がツルツル状態になっている木道もあり、最後最後に油断ならぬ道が待っていました。
16時 蔵王ロープウェイ山頂駅に到着しました。急いだ甲斐あって、なんとか営業終了時間の45分前にゴールすることが出来ました。今日もたくさん歩いて疲れたあ。
周囲にまったく人の気配がないため、ひょっとして平日は運行していないのではないかと一瞬焦りましたが、しっかりと営業はしていました。
7.ロープウェイでラクラク下山して、温泉で一日の疲れを癒す
暇そうにしていた係の人からチケットを購入します。山麓駅までの料金は1,500円です。このゴンドラは客がいるときにしか動かしていないらしく、私が乗るなり動き始めました。
ロープウェイ下山最高ーう!厳密に言うと、これはロープウェイではなくゴンドラリフトと呼ばれるタイプの乗り物ですがね。何れにせよ下山で楽が出来る山は大好きですよ。
なお歩いて下山した場合、麓まではおよそ約2時間少々を要します。
中間地点の樹氷高原駅で、今度はロープウェイに乗り換えます。こちらは乗客がいようがいまいが、時刻表通りに20分間隔での運行です。
ロープウェイには安全のために案内係の乗務が義務付けられているらしく、たとえ客が一人であろうとしっかりと案内してくれます。なんだか・・・とっても気まずいです。
流石にこの時間になってから登ってくる人はいないと見えて、向かいのロープウェイに客は誰も乗っておらず、案内係のお嬢さんが一人こちらに手を振ってくれました。
16時40分 蔵王ロープウェイ山麓駅へと戻って来ました。季節が秋だった前回訪問時には、ほぼ同じ時間だったのに周囲はすでに薄暗かったっけか。
17時20分発山形駅行きバスに乗りたいので、時間的にカラスの行水しか出来そうにはありませんが、しかし蔵王温泉まで来ておきながら温泉に入らないと言う選択肢はありません。大急ぎで日帰り入浴施設へと向かいます。
こちらのゆー湯は料金600円と、温泉観光地にある日帰り入浴施設としてはリーズナブルな価格設定です。安価ながらもしっかりと露天風呂まで備えています。
浴場の入口は無人で、入浴券は併設されている土産店で購入します。
湯につかっていた時間は正味5分程度と慌ただしい入浴でしたが、一日の汗を洗いとしてスッキリしました。これで何の心残りもなくバス停へと向かいます。
蔵王温泉バスターミナルから山形駅までの所要時間はおよそ45分で、運賃は1,000円ちょうどです。
帰路の山公バスと山形新幹線は、まるで嫌がらせか何かのように乗り継ぎがギリギリ噛み合わない時刻表設定となっています。そんな訳で、山形駅で約1時間30分の足止めを食らったのち、帰宅の途につきました。
最高の天気にも恵まれて、南蔵王への訪問は大満足の内に幕を閉じました。蔵王と言うと、どうしても御釜のある中央蔵王付近ばかりが注目されがちですが、南端に位置する不忘山もまた大変魅力にあふれた場所でありました。いかにも東北の山らしい雄大なスケールの稜線と、その稜線上に出現するのお花畑が繰り広げる景観は、名峰と呼ばれるにふさわしい圧巻の光景のです。
公共交通機関が乗り入れしておらず、アプローチが少々厄介な場所ではありますが、それだけの手間とコストを費やして訪れるだけの価値が十分すぎるほどにある場所であることは保証いたします。花咲く楽園のような魅惑の稜線へと、繰り出してみては如何でしょうか。
<コースタイム>
みやぎ蔵王白石スキー場(8:50)-弘法清水(10:05~10:15)-不忘山(11:15)-南屏風岳(12:00~12:15)-屏風岳(12:30)-芝草平(13:05)-杉ヶ峰(13:30)-刈田岳(14:45~15:00)-熊野岳避難小屋(15:25)-蔵王ロープウェイ山頂駅(16:00)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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