東京都奥多摩町にある鷹ノ巣山(たかのすやま)に登りました。
奥多摩最高峰の雲取山より東に向かって伸びる石尾根の、ほぼ中間地点に存在するピークです。山頂へと通ずる登山道の選択肢が多く、また展望も良い山であることから、奥多摩の山の中でも人気の高い山です。
今回はそんな数ある登山道の中から、最もハードといわれる稲村岩尾根を歩いて来ました。
2018年3月31日に旅す。
warning!
稲村岩尾根コースは、台風の影響による登山道崩落により通行止め状態が続いています。現在、本記事と同じルートを歩くことは出来ませんのでご注意ください。
奥多摩には通称、奥多摩三大急登と呼ばれているルートが存在します。この呼び名は奥多摩の山を歩くハイカー達が何時しかつけたもので、地図に記載のある正式な名称ではありません。
自然発生した通称であるだけに、三大急登が何処なのかは諸説あってはっきりしません。
候補として良くあげられるのは、大体以下のルートでしょうか。
・鷹ノ巣山 稲村岩尾根
・本仁田山 大休場尾根
・三頭山 ヌカザス尾根
・六ツ石山 水根からトオノクボ
・惣岳山 大ブナ尾根
2番目以降は人によって結構マチマチだったりします。しかしながら、その筆頭が稲村岩尾根であることだけは常に不動です。このルートは誰もが等しく認める急登だと言うことです。
具体的な数字をあげると、日原(標高620m)から鷹ノ巣山(標高1,736m)まで、標高差は1,100メートルあります。そして、山頂までの歩行距離はおよそ3kmほどです。
キツイ登りとして名高い丹沢の大倉尾根が、標高差1,200メートルに対して歩行距離が7kmあることを考えると、相当な急勾配であることが窺えます。
稲村岩尾根の恐ろしさは、傾斜のキツだけではありません。このルートは山頂までずっと展望皆無の樹林帯が続きます。先の見えない急坂を前にして、スタミナよりも先に精神力が削られて行きます。
ここ最近の私は、新春に咲く花を追い求めて、府抜けた低山歩きばかりしておりました。
ここは一つ、すっかり鈍ってしまった体に活を入れ、ついでに冬の間に蓄えられてしまった皮下脂肪を少しでも燃焼させるべく、すこしばかり骨太な山へと繰り出します。
コース
東日原BSから稲村岩尾根を登り鷹ノ巣山へ登頂。下山は石尾根縦走路に沿って下り、奥多摩駅まで歩きます。
総歩行距離がおよそ15kmと、希望通りの骨太な行程です。
1.鷹ノ巣山登山 出発編 東京の秘境、日原集落へ
8時20分 奥多摩駅
毎度お馴染みのホリデー快速に乗って、やって参りました奥多摩駅。相変わらず凄い数のハイカーが一斉に下車します。
この季節のホリデー快速の混み具合は、御嶽駅を過ぎるまでは立ち客がチラホラといる程度です。立川駅から乗車した私は、当然ながらその立ち客の一人でした。
1番バス乗り場から東日原行きのバスに乗り込みます。臨時便が増発されて2台出ました。
奥多摩駅からおよそ30分の乗車時間で、東日原バス停に到着です。乗客の大半は途中の川苔橋で下車し、最後まで乗っていたのは10人ほどでした。
本日の行程ではこの先にトイレはありません。用はここで済ませておきましょう。
トイレと身支度を済ませて、9時ちょうどに行動開始です。登山口に向かって、道なりに真っ直ぐ進みます。
途中の交番に登山届けの投函ポストあり。ここの他に、奥多摩駅の駅前にも投函ポストがあります。
交番の先の角を曲がると、正面に日原のシンボル稲村岩が姿を現しました。稲村岩の左側に伸びている尾根が、これから登る稲村岩尾根です。
日原の集落は今まさに春爛漫です。沿道には多くの花が咲き乱れていました。
登山口にある場所に春が訪れていると言うことは、見方を変えると山の上の方ではまだまだ冬枯れの殺風景なままだということです。
4月と言うのは新緑にはまだ早く、春霞の影響で展望もイマイチです。寒気が緩んできているとはいえ、実は1年のなかでも最も登山に適していない季節かもしれません。
この季節にベストと言える山行きは、里山で花見登山を洒落込むか、さもなくは遠征して残雪を踏みに行くかの2択でしょうかね。
2.圧倒的存在感で屹立する日原の象徴、稲村岩
稲村岩が登山口の真正面に佇んでします。一見すると絶壁に囲われているように見えますが、裏側から登れます。当然この後に登りますよ。
登山口からは、まず一旦下りです。谷底まで下って日原川を渡ります。
この日原川に架かる己の戸橋は、今からちょうど1年ほど前に老朽化によって架け替えが行われました。が、以前と全く同じ見た目をしていて、新しくなったのが全然わかりません。
ひょっとして、底板を張り替えただけなのでしょうか?
川を渡ると、THE奥多摩の道と言った風情の杉の植林に入ります。
杉林の只中と言うのは、意外と花粉症の症状が出ないのだと言うことを最近知りました。風で遠くへと飛ばしているので、足元へは落ちないのかもしれません。
目の前にそびえ立つ稲村岩。落差は200メートル以上あります。
ルートは稲村岩の真下をぐるりと回りこむようにして続いています。
小規模ながら渡渉箇所があります。奥多摩クォリティの素晴らしい透明度の水です。夏場の暑い盛りだったら、この場で頭からかぶるでしょうね。
稲村岩尾根の付け根に向かって、一気に高度を上げていきます。まだ尾根に乗ってすらいないというのに、すでにこの急登とは恐れ入りますな。
9時55分 稲村岩分岐まで登って来ました。
歩行開始からおよそ1時間で、ようやく尾根に乗れました。
なにやら脅し文句が掲げられておりますが、気にせずにまずは稲村岩へ寄り道をしていきましょう。
稲村岩の頂上部が見えました。
クライミング、クライミング、ヤッホーヤッホー♪
目の前に岩の壁が立ちはだかります。ここは直登します。左側からも回り込めそうに見えますが、すぐ下は崖なのでやめておいたほうが無難です。
これを見て引き返してしまう人もいるかもしれませんが、ここを突破しさえすればその先はさほど難しくありません。
普通に3点支持で登れる一般登山道レベルの傾斜度です。特にクライミングの技術がなくとも登れます。なにせ、当の私自身にクライミング技術なんてものは備わっていませんし。
この岩が見えてきたらてっぺんです。分岐からは15分ほどで辿り着きました。
岩の裏手にこのようなお社がありました。標高は920メートルで、東日原バス停と標高差はぴったり300メートルです。
眼下に日原集落を一望できます。信じられますか、これ東京都の光景なんですよ。
野太い声で「ヤッホー」と叫んでみましたが、反応を返してくれたのは犬だけでした。
稲村岩の頂上より、これから登る稲村岩尾根を望む。
鷹ノ巣山頂はここからは見えません。今見えている最高地点は、単なる尾根上にある小さなコブの一つです。
分岐まで戻ります。なお稲村岩からの下りは、それなりに高度感があってかなり怖いです。行きは良い良い帰りは怖い。
相当へっぴり腰になりながら下ったらしく、登りと全く同じ時間を要しました。
3.鷹ノ巣山登山 登頂編 奥多摩三大急登筆頭に挑む
10時45分 稲村岩分岐まで戻って来ました。
ここからいよいよ、奥多摩三大急登の尾根へと突入します。骨太な山が良いと自分で選んでおきながらなんですが、気が進みませんなあ。
稲村岩尾根は、実はそこまで急勾配な訳でもありません。緩いところも普通にありますし、単純な斜度で比較するなら三頭山のヌカザス尾根の方が急峻だと思います。
このルートの真の恐ろしさは急坂であることではなく、道中の風景が全く変わり映えしないことと、ほぼ全域でずっと登りっぱなしである所です。
この先に一箇所だけ平坦地が現れますが、そこに至るまではノンストップの登りです。
標高が1,300メートルを越えた辺りで、周囲はブナ林に変わりました。新緑にはまだ早く、殺風景な森が広がっています。
展望は一切ありません。ただ黙々と坂を登り続けます。
雪がチラホラと目につき始めました。稲村岩尾根は北側斜面にあるので、結構長く雪が残ります。この季節であっても、ザックには軽アイゼンを忍ばせておいたほうが無難です。
登り始めて1時間30分ほどが経過した時点で、初めて平坦な場所に出ました。ヒルメシクイノタワと呼ばれる場所です。
この不思議な名前は、ここくらいしか平坦地は無いから、ここで弁当を使っておけと言う先人からのアドバイスなのでしょうか。
せっかくのお気遣いですが、山頂まではもう一息なので昼飯はお預けです。行動を続行します。
最後の登りです。標高は1,500メートルを越えて、いよいよ雪の量が増えて来ました。
凍結はしていないので、とりあえずアイゼン無しでも問題なし。早朝の時間だとどうなるかは分かりません。
山頂直下には思いのほか多くの雪が残っていました。これは完全に想定外です。スパッツを履いて来るべきだったか。
稲村岩分岐から登り続けること実に2時間。ようやく山頂が見えました。
4.鷹ノ巣山山頂に広がる展望
12時45分 鷹ノ巣山に登頂。
山頂標識が、雲取山や七ツ石山と同じデザインのものに変わっていました。
山頂の様子
樹木が広く刈り払われて草原状となっており、非常に良好な展望が得られます。
南側の正面には奥多摩三山の最高峰である三頭山(1,531m)。三頭山の右奥には富士山が見えるはずなのですが、残念ながらこの日は霞んでいて遠望はまったく駄目でした。
現地では気づきませんでしたが、帰宅後に見返したら、富士山の頭だけがかすかに見えていました。
大寺山の仏舎利塔が眼下に見えます。
こちらは奥多摩三山の御前山(1,405m)。こうして離れた所から見ると、実に山らしい形をした山です。
同じく奥多摩三山の一つ大岳山(1,266m)。非常に特徴的なシルエットで見つけやすいので、奥多摩で山座同定する時には、最初にこの山を見つけるとスムーズです。
西側には東京都最高峰の雲取山(2,017m)が控えています。鷹ノ巣山のある石尾根はこの山に端を発しており、このまま尾根沿いに歩いて行けば、最終的にあそこまで辿り着けます。
こちらは東京都標高第2位の芋木ノドッケ(1,946m)。まだ山頂を踏んだことが無いので、そのうち行ってやろうかと思っています。アクセスに少々難のある場所ですが。
こちらは大菩薩嶺(2,057m)。都内からのアクセス良好にして展望雄大な大人気の山です。こうして見ると、以外と奥多摩から近い場所にありますね。
5.鷹ノ巣山登山 下山編 石尾根は続くよ何処までも
13時20分
急登のご褒美とでも言うべき展望を満喫し、大いに満足しました。下山を開始します。
石尾根縦走路の交差点とでも言うべき鷹ノ巣山には、実に多様な下山路の選択肢があります。本日のテーマは骨太な登山なので、一番長距離を歩く必要のある奥多摩駅へ直接下るルートを取ります。
木が刈り払われた防火帯の中の道を進みます。視界が開けて実に気持ちの良い道です。陽が直接あたるおかげか、雪は殆ど残っていませんでした。
水根への分岐点を通過します。最短で下山したい時は、ここかもしくは反対側に進んで峰谷に下るのが最も早いかと思います。
急な下りと平坦な尾根道を繰り返しながら、少しづつ高度を下げていきます。とても歩きやすい道ですが、ひたすら長いです。
六ツ石山の北側を巻くように道が続いています。この辺りは雪解けが遅かったのか、非常に道がぬかるんでいました。
14時40分 六ツ石山分岐を通過。
六ツ石山の頂上には既に一度立ったことがあるので、山頂へ寄り道はせずにスルーしました。
石尾根縦走路は実に気持ちの良い道です。ただ頭上が開けていると言うだけで、ここまで気分が良くなるものなのですね。お天道様と言うのはまことに偉大であります。
山頂から延々と下り続けることおよそ2時間、運命の分岐点までやって来ました。真っ直ぐ進めば奥多摩駅。右に進めば奥多摩駅。
・・・とまあ、どっちに進んでも行き先は奥多摩駅です。このまま石尾根沿いに進むなら直進。林道に出たいなら右です。
見知らぬ誰かが置いた目印によれば、オススメは直進であるようです。と言うことで、導きに従い直進します。
防火帯は終わり、奥多摩らしい杉の植林に突入しました。こうなってしまったらもう、後は消化試合です。
登山道が尾根の南側から北側に移ったらしく、これまで全く見えていなかった川苔山(1,363m)の姿が見えました。
代わり映えのしない光景の中を、黙々と高度を下げて行きます。長くていい加減ダレて来ました。
奥多摩駅の裏手にある奥多摩工業のセメント工場が見えてきました。あそこまで下ればゴールです。
単調な杉林の道を駆け足気味に下りきると、林道に飛びだしました。
残念ながらまだ終わりではありません。このまま最後まで舗装道路歩きかと思いきや、再び山道に突入します。
奉納されてからまだあまり時間の経っていならしい、真新しい狛犬が鎮座していました。
参道の急坂を転がり落ちるように下りきると、ようやく集落に出ました。
集落と言ってもここはまだ斜面の上です。ここまでの長い長い下りですっかり棒の様になってしまっている足にとって、舗装道路の下り坂と言うのは何気に堪えるのです。
こちらは斜度45度の急階段で有名な氷川の裏山、愛宕山です。オデキみたいな姿をしておりますな。
17時10分 奥多摩駅に到着です。
いやはや長かった。途中から半分駆け足でしたが、それれでも4時間近くかかりました。今日も沢山歩いて大満足です。
かくして今回の山行きは、望んだ通りのなかなかの骨太な行程でした。奥多摩駅まで歩いたのは完全なる蛇足で、日原から往復するか、もしくは水根に抜けるのが鷹ノ巣山登山としては最も一般的な行程でしょうか。
稲村岩尾根は、山頂までほぼノンストップで登りが続く体力勝負の道であることに間違いはありませんが、急登とはいいつつも道の斜度自体はそこまで急でもありません。あせらずにゆっくり登れば、以外に呆気なく山頂に着く感じです。個人的には三頭山のヌカザス尾根の方がキツイのではないかと思います。
急登を登りきったご褒美とでも言うべき展望は大変素晴らしいものがあります。今回は春霞の影響で少々残念な感じでたが、空気の澄んだ日であれば、遠くの山々まで広く見渡すことが出来るでしょう。
<コースタイム>
東日原BS(9:00)-鷹ノ巣山登山口(9:10)-稲村岩分岐(9:55)-稲村岩(10:10~10:30)-稲村岩分岐(10:45)-ヒルメシクイノタワ(12:15)-鷹ノ巣山(12:45~13:20)-六ツ石山分岐(14:40)-奥多摩駅(17:10)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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