東京都奥多摩町にある川苔山(川乗山)(かわのりやま)に登りました。
奥多摩北部を流れる多摩川の支流日原川の傍らに立ち、奥多摩エリアの中でも屈指の人気がある山です。その人気の理由はなんと言っても、落差およそ40メートルを誇る名瀑、百尋ノ滝(ひゃくひろのたき)です。
奥多摩最大級の滝と清流を巡る登山をしてきました。
2017年6月10日に旅す。
川苔山は奥多摩と呼ばれる一帯の中でも北寄りの、埼玉県との県境近くに立つ山です。奥多摩エリアの山の中でも特に人気が高く、数多くの登山者が訪れます。
山頂へと延びる登山道には何通りかの選択肢が存在しますが、その中でも一番人気の王道と言えるのが川乗橋から登る沢沿いのコースです。
美しき清流に沿って登り、名瀑百尋ノ滝の滝を目指すこのルートは、奥多摩の大自然を身近に感じることが出来る道です。とても東京の山とは思えない水辺の雰囲気が、訪れるものを魅了します。
人気の山ではありますが、決して易しい山ではありません。
沢筋のルートと言うのは基本的に多少の危険が付き物でありますが、この川乗橋コースでも過去に滑落死亡事故が発生しています。気を引き締めて歩く必要があるコースです。
沢を登り詰めた先には、奥多摩屈指の名瀑を目の前にする圧巻の光景が待っています。新緑と清流に癒される山旅へと繰り出しましょう。
ちなみに、川苔山を記事にするのはこれで2度目です。
前回は、いきなり赤坑尾根(あかぐなおね)と言うマニアックなルートを紹介する誰得記事を書いてしまったので、今回は一番人気である川乗橋BSからのルートを紹介しようかと思います。普通、順序が逆じゃない?
正直なところ、あまりオススメは出来ないルートでした。
コース
川乗橋BSから百尋ノ滝を経由し川苔山へ登頂。下山は鳩ノ巣駅へ直接下ります。川苔山登山としては最も一般な正統派ルートです。
1.川苔山登山 アプローチ編 始発電車を乗り継ぎ奥多摩の川乗橋へ
6時3分 JR立川駅
始発電車を乗り継良いでやってまいりました。ここから6時4分発の青梅行きに乗り込みます。
単純に奥多摩駅を目指すなら、7時15分に立川駅を通るホリデー快速奥多摩1号に乗るのが最も時間効率が良い方法です。
しかしそれには一つ問題がありまして、夏を迎える直前の5月から6月上旬にかけて、ホリデー快速奥多摩号は通勤時の満員電車並みに混雑します。
休日にまで満員電車に揉まれたくは無いので、今日は効率を度外視してもっと早くに行動を開始しました。
青梅駅で奥多摩行きに乗り換えです。
この先は4両編成になるので、ここでイス取りゲームが発生します。どうしても座りたい人は東青梅駅を出た辺りから扉付近で待機していましょう。
7時18分に奥多摩駅に到着しました。この時間帯だと、周囲にはハイカーの姿しか見当たりません。
1番乗り場から発車する東日原行きバスに乗ります。こんな朝早い時間ですら既にこの行列です。ホリデー快速に乗ってきたら、一体どういうことになってしまうのでしょうか。
並んでいる人の数に応じて臨時便を出してくれるので、乗り損なうことはまずありません。この西東京バスの臨機応変な対応は、登山者的には大変ありがたい。今回は2台出ました。
バスは日原川沿いの隘路をグネグネと進み、川乗橋バス停に到着しました。奥多摩駅からは大体15分ほどの乗車時間です。
二台のバスにぎっちりと乗車していた多くのハイカーたちが、一斉に降り立ちました。川苔山の人気のほどが伺えます。
川苔山というのが正式な名称なのですが、バス停の名前や国土地理院の地図上では何故か川乗山になっています。誤字がそのまま定着してしまったのでしょうか??
川乗橋から沢を見下ろす。目指す百尋ノ滝は、この沢をずっと遡っていったところにあります。
2.百尋の滝を目指して川乗谷を進む
身支度を整えて、7時50分に登山を開始します。登り始めはしばらく林道歩きです。
林道の脇を流れるこの沢では、川苔と言う名の食用の藻が取れたのだそうです。川苔山と言う名前の由来もそこから来ています。
大きな切通しが何度も出現します。落石の跡もチラホラとあり、川乗谷の地形の険しさが窺えます。
この林道歩きは地味に長いです。まあ、ちょうど良いウォーミングアップと言えなくもないですが。
道の両側を覆う圧倒的杉林。シーズン到来とともに、これらが一斉に花粉を放出するわけですよ。なんと恐ろしい。
川苔山はチャートと呼ばれる堆積岩の一種でできた山です。チャートは非常に硬い岩盤で崩れにくく、結果としてこのような深い谷が形成されます。
林道を黙々と歩き続けること35分で細倉橋に到着しました。
ここにはバイオトイレがありますが、故障中で使用禁止でした。確か以前に来たときにも故障中だったような?
全般的に稼働率が低いのかもしれません。あまり当てにせずにトイレは奥多摩駅で済ませた方が無難でしょう。
始まりからいきなり、道の径が細めです。油断せずに参りましょう。
早速滝がお出迎えしてくれました。この川乗橋ルートは、百尋の滝の他にも多くの有名無名の滝を見ることが出来るのが大きな魅力です。
登山道は沢の両岸を何度も行き来しながら奥へと伸びていきます。
ちなみにこの川乗橋コースは、割りと頻繁に通行止めになります。原因はこんな風に、斜面の浸食で木橋が落ちてしまうからでしょう。
コケと岩清水。登山道脇のいたるところから水が染み出し、コケの一族が大いに繁栄しています。
今にも土台ごとすべり落ちそうな木橋もありました。このコースに限った話ではありませんが、沢筋のルートというのは尾根筋の道と比べて全般的に危険度は高めです。
これまた立派な滝です。聖滝という名の滝です。沢登の愛好家たちの間では名の知れた滝であるそうです。
という事はつまり、この滝を登るのでしょうか。どこをどうやって登るのか、見当もつきませんが。
マイナスイオンが溢れ出てきそうな光景が続きます。周囲にはひんやりとした湿った空気が漂い、非常に涼しいです。
どうでもよいことですが、最近マイナスイオンと言う言葉自体をあまり耳にしなくなりましたね。結局あれは、胡散臭い疑似科学の一種だったという結論で良いのでしょうか。
ここはみんな写真を撮りたがるポイントなのですが、明暗差が極端に大きいため白飛びを発生させずに写すのが非常に難しい。
思わずダイブしたくなるような美しい沢ですね。私ももう少し若かったら、躊躇なく水遊びを始めたところでしょう。
岩に所々ペンキマークがついているのは、沢登コースの目印でしょうかね。登山道とは別なので、惑わされないようにしてください。
沢沿いの道と言うのは、ただ歩いているだけで何故こんなにも気持ちが良いのでしょう。水音を心地よい音色に感じるのは、人間のDNAレベルに刷り込まれた本能なのでしょうか。
一年を通じてほぼまんべんなく登山者が訪れる川苔山ですが、ベストなシーズンはやはり新緑の季節と言えるでしょう。葉越し降り注ぐ緑色の陽光が美しい。
谷の幅が狭くなってきたところで、道は右側の崖を高巻きます。たまに、高巻きに気がつかずに真っ直ぐ進んでいってしまう人がいますが、ルートはここを右です。
こんな風に道標が掲げれれているので、見落とさないように注意しましょう。
この高巻き地点に名もなき水場があります。生水を飲んでも大丈夫だとはどこにも書いていませんが、美味しく頂きました。
岩肌が露出した崖をよじ登ります。階段状にステップが切られていますが、濡れていると滑りやすいので慎重によじ登ります。
曲がり角の先から大きな水の音が聞こえてきます。もうまもなくのようです。
3.奥多摩屈指の名瀑、百尋の滝
9時10分 百尋ノ滝に到着しました。滝の音がゴウゴウと鳴り響く、谷に囲まれた空間です。
尋(ひろ)というのはタタミ一畳分の長さを表す単位です。百尋ならおよそ180メートルになります。
百尋ノ滝の実際の高さは40メートルほどとのことなので、正しくはおおよそ二十二尋の滝ですね。
チャートの岩盤の上を水が流れ伝っています。強固な岩盤であるため、これだけ落差の大きな滝であっても、浸食で削り取られることもなく長くこの形を保っているのでしょう。
靴が水没しないギリギリの位置まで近づいて見上げます。落差が大きいため、水は霧状になって降り注いでいます。シャワーみたいで打たれたら気持ちよさそうです。
霧状の水しか降り注がなためか、大きさの割には滝つぼの水深は浅めです。
靴を脱いで素足になり、もっと真下まで行ってみようかと逡巡するも、濡れた足を拭くためのタオルを用意していなかったのでやめておきました。
しばらく待機して、無人になった所で全景を一枚。
東京の名瀑といえば、桧原村にある払沢の滝(ほっさわのたき)が有名ですが、スケール感で言うなら百尋ノ滝の方が断然上です。見に来るのが少々大変ではありますが。
4.川苔山登山 登頂編 百尋ノ滝から川苔山山頂へ
当たり前な話ですが、沢や滝があるのは谷の一番底の部分です。そこから山頂を目指すためには、まずは谷底から這い上がらねばなりません。
百尋ノ滝から先の崖を上る道は、奥多摩エリアの中で最も多くの滑落死亡事故が発生している場所です。
特に難しい道と言う訳ではありませんが、足を踏み外したが最後、谷底へ100メートル以上転落します。集中力を切らさないように慎重に通過しましょう。
対岸に切り立ったチャートの岸壁がそびえ立っていました。川乗谷の急峻な地形が良くわかる光景です。
崖を上りきると、なだらかな歩きやすい道に変わります。ここまで来れば、もうこの先に危険な場所はありません。
途中で何度か小さな沢を渡ります。
川苔山は谷が幾つも入り組んだ非常に複雑な地形をした山です。人気の山だけに踏跡は明瞭ですが、ルートからは外れないように注意してください。
10時 足毛岩分岐に到着しました。どちらに進んでも最終的には山頂に辿り着けます。今日は山頂まで最短の左回り方向へ進みます。
石垣が多数ありました。こんな山奥だというのに結構大規模です。
昔この辺りのはワサビ田が存在し、この石垣はその名残です。こんな山奥では、収穫するのにも一苦労しそうですね。
水流と呼べるものは無く、涸れ沢状態です。季節によってはしっかりとした流れがあるのかな。
あまり陽が差し込まない湿った場所だからでしょうか。この辺り一帯は、コケマニア垂涎の光景が広がっています。
分岐地点の写真を撮り忘れてしまいましたが、コケの沢沿いから途中で左側の尾根に乗ります。そのまま沢沿いを登っていく紛らわしい踏み跡がありましたが、山頂まで行けるのかどうかは未確認です。
稜線に出ました。ここまで来れば山頂はもう目の前です。ラストスパートをかけて行きましょう。
10時45分 川苔山に登頂しました。百尋の滝からここまで、なかなか骨のある登りでありました。
山頂の標識も苔でなく乗なんですね。人気の山なのに、正しく直す気はないのでしょうか。
山頂の様子
かなり広々としています。ベンチが3つありますが、人気の高い山なので大概は埋まっています。
展望に関してはあまり良くはなく、西側だけが開けています。
正面左が東京都最高峰の雲取山(2,017m)。右手前の山腹が削り取られている山が天祖山(1,723)。天祖山の右奥が東京都標高最二位の芋ノ木ドッケ(1,946m)。
広角でもう一枚
視界が開けているのは本当にここだけです。まあ、川苔山は展望を売りにした山ではありませんから。
そしてほんの微かに富士山が見えているのですが、お分かりになるでしょうか。
写っていないのかと思いきや、液晶モニタの角度を倒したら辛うじて見えました。
5.川苔山登山 下山編 鳩ノ巣駅と続く長い道
下山時にはストックがあったほうが安心できます。転ばぬ先の杖と言う奴です。
ちなみにトレッキング・ポールなどと言う洒落た品は持っていないので、スキー用のストックを流用しています。少々重いですが、実用性にはなんら問題ありません。
赤杭尾根を通って古里駅に下ることも出来ますが・・・物好きな人以外にはあまりオススメしません。
このルートを登ってくる人が結構多いのが意外に感じました。下りでも嫌になるぐらい長ったるい道ですが、登るとどうなんでしょう。
ツツジが僅かに残っていましたが、もう散る寸前の状態でした。ツツジシーズンはもう終わりです。
山頂から急な下りがしばらく続きます。最初に一気に高度を落として、後半はゆるやかになります。
平坦になってからがこれまた長いんですけどね。この辺りは半分駆け足で下りました。
途中で一度林道に出ます。やれやれやっとゴールか思きや、まだ終わりではありません。
林道から振り返ってみる川苔山。この林道を進んだ先にはかつて、峰集落と呼ばれる村が存在しました。1972年に最後の住民が村を離れ、現在は廃村となっています。
林道から離れて再び登山道に入ります。麓までは20分くらいです。
周囲は見渡す限り一面の山の中です。正面奥に見えている人工物が立っている山は御岳山かな。
集落の中を通って駅へ向かいます。かなり急坂な斜面に張り付くようにして人家が並んでします。平坦地がほとんどない山村ならではの光景です。
舗装道路を10分ほど下ったところで、ゴールの鳩ノ巣駅に到着です。歩き応えのある、なかなかのロングコースでありました。
トイレに寄っている間に電車が1本行ってしまいました。30分以上待って次の14時10分の電車に乗って帰還です。
今回歩いた川乗橋からのルートは、美しい清流と奥多摩最大級の滝を同時に堪能するが出来る、とても良いルートです。これだけの規模の滝に、滝壺の目の前まで接近して眺めることの出来る場所と言うのは、そうそう無いのではないでしょうか。また、比較的涼しい沢筋を行くルートであるため、暑い時期であってもある程度快適に登ることが出来ます。
本文中でも触れましたが、このルートには切れ落ちた崖際を歩く場所や、一部に道が不明瞭な箇所があったりするため、どちらかと言えば経験者向けのルートと言えます。初心者だけで入山するはやめておいたほうが無難でしょう。もう少し簡単な山でステップアップしてから訪れることをオススメします。
<コースタイム>
川乗橋BS(7:50)-細倉橋(8:25)-百尋ノ滝(9:10~9:30)-足毛岩分岐(10:00)-川苔山(10:45~11:10)-舟井戸(11:25)-大根ノ山ノ神(12:40~13:00)-鳩ノ巣駅(13:30)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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