神奈川県山北町にある畦ヶ丸(あぜがまる)に登りました。
かつては西丹沢の秘峰と呼ばれるほど手付かずの自然が残された深山でしたが、今では東海自然歩道として登山道が整備されて、誰でも気軽に登ることが出来る山となりました。
いかにも西丹沢らしい深いブナ林に覆われており、展望は全く望めません。その代わりと言ってはなんですが、美しい清流と、下棚(しもんたな)、本棚(ほんだな)と呼ばれる二つの名瀑に出会うことが出来ます。
台風一過の快晴のもと、秘峰の森でのんびり滝巡りをしてきました。
2017年9月18日に旅す。
warning!
本記事では、台風通過直後の沢沿いコースを歩くと言う、安全上推奨されない行為について扱っています。
・危険を感じたらすぐに引き返しましょう。特に渡渉する場所は要注意です。安全に通過可能か慎重に見極めて行動して下さい。
・倒木や木橋の流出等により、正規のルートを辿れないことがあります。ある程度のルートファイティング能力が必要です。
・登山届けは必ず提出しましょう。
今年の夏はまだ終わっていない
2017年の夏山シーズンは惨々たるものでした。週末になる度に傘のマークが並び立ち、僅かな晴れ間を狙って出掛けても、正午前にはもう山の上はガッスガスになると言うパターンが繰り返されました。
この夏山登山への不完全燃焼感を払拭するためにも、9月の貴重なる3連休には、テントを担いで縦走登山へと繰り出し、夏山の残り香を少しでも回収したいものです。
そして迎えた待望の週末3連休。何故か私は北アルプスではなく、西丹沢の入り口に佇んでいました。
台風18号のクソッタレがー!
・・・天気に向かって文句を言ってもしょうがないですよね。
3連休も最終日になって、ようやく晴れの予報となりました。しかしながら、強風で登山には適さないとの予報も出ております。仕方無しに、風の影響が少なそうな山。つまるところ、樹林に覆われた低山に目星をつけた次第であります。
かつては西丹沢の秘峰などと呼ばれていたくらい奥まった場所にある深山です。西丹沢の山らしくシロヤシオシーズンにはそれなりの賑わいを見せますが、普段は至って静かなる山です。
この山には下棚と本棚と言う、丹沢を代表する二つの名瀑が存在します。
前回の訪問時には、残り時間の都合で割愛してしまっていました。そこで今回は、ゆっくりと時間をかけて滝巡りをしようという算段です。
台風通過直後とあれば、増水して迫力の増した滝を拝めることでしょう。
そこまで辿り着けるのならね。
コース
西丹沢ビジターセンターから、途中にある二つの滝に寄り道しつつ、畦ヶ丸に登頂。下山は大滝峠を経由して中川温泉へと下ります。温泉に向かって歩くと言う、理想的な登山計画に仕上がりました。
1.畦ヶ丸登山 アプローチ編 台風一過の西丹沢は貸し切り状態
7時14分 小田急線 新松田駅
もうすっかりお馴染みになってしまった西丹沢への玄関口、新松田駅へとやってきました。
西丹沢ビジタセンター行きのバスに乗り込みます。なお、バスの行き先表示板には「西丹沢」とだけ書かれています。名称が長すぎて表示できないのでしょう。
天候はこの上ないほどの快晴です。最高の登山日和です。3連休の頭からこの天気だったら、もっと素晴らしかったんですけれどねえ。
8時40分 西丹沢ビジターセンターに到着です。いつの間にかウトウトとしていたらしく、目覚めたら目的地に到着していました。眠気眼でヨロケながら地上に降り立ちました。
ここはもともと人の少ない静かな場所ではありますが、今日はいつにも増して人の気配がありません。
「HAHAHAHAHA!西丹沢を貸し切りだぜ」と、半ばヤケクソ気味に無理やりテンションを上げておく。
2.大荒れの沢沿い登山道
登山届けを提出しつつ身支度を整えて、9時ちょうどに登山開始である。入り口はビジターセンターのすぐ脇です。
はやくも台風18号の爪あとが姿を見せました。地面に大量の葉と折れた枝が散乱しています。
ちなみに、9月の丹沢はまだまだヒルシーズンの真っ盛りです。西丹沢にはあまりいないとの前情報ですが、念のためヤマビル忌避剤を靴や足首周りに丹念にプシュプシュします。
まずは吊橋を渡ります。残念(?)ながら、この吊橋は全く揺れません。揺れない吊橋なんてただの橋だ。
川は当然ながら増水しています。普段ならこの川は非常に高い透明度をしておりますが、今はこの通り茶色く濁っておりました。
巨大な堰が行く手に立ちふさがります。地面を揺るがさんばかりの轟音をたてて水が流れ落ちておりました。
左脇にあるこの階段を登って堰の上に出ます。まるで取って付けたかのような、かなり急な階段です。
堰の上は、この様に広い川原状となっています。本日最初の渡渉ポイントです。
確かここには木橋が架かっていたような気がしたのですが・・・流出してしまったのか、跡形もありませんでした。
この水位ではちょっと、靴を脱いで素足にならないと渡れそうにありません。浅くなっている場所が無いか、渡渉地点を探してしばし行ったり来たりします。
結局、この中州っぽいところを利用した中年走り幅跳びにより、無事対岸へ移動できました。
ここからは沢沿いの道を登って行きます。この橋は何とか流出を免れたようですね。
ゴウゴウと音を立てて流れる水流が、まるで煮立った釜のようです。この沢は、普段は青みがかった清流なんですけれどね。
大量のマイナスイオンが飛び交うリラックスした空間なのであろうこの道も、今は茶色く濁った水が轟々と流れる、緊張感溢れる道と化していました。
正規ルートの渡渉箇所が深すぎて渡れずに、浅瀬を探して水辺をさ迷います。沢登り装備のある人なら、こんな苦労はしなくてすむのでしょうけれど。
流出したて思われる、フレッシュな流木が周囲に散乱していました。なるほど、普段何気なく目にしている流木の多くは、こうして台風の襲来時に作り出されているわけですな。
再び巨大な堰が出現しました。近づくと少し恐怖を感じるような水量です。
大きさが伝わりやすいように、比較対象物を置いてみました。15メートル位はあるかな。この写真を撮るためにポーズを付けていたら、飛沫で全身が水浸しになりました。
ちなみに、この山のハイシーズンと呼べる季節は、シロヤシオが見ごろを迎える5月下旬ごろです。それ以外の季節には、殆ど人はおらず閑散としており、秘峰という呼び名にふさわしい静かな森が広がっています。
今日に至っては、殆どどころか一人もいません。台風が去った直後に、沢沿いのルートを歩こうとする阿呆物好きは、そう滅多にはいないのでしょう。
谷の幅が徐々に狭くなってきました。それは、迂回路の選択肢が少なくなってきたことを意味しています。
この橋は、元々こうV字型に架けられていたのか、はたまた水流に負けて歪んだのか。乗っかると結構大きくたわんで心臓に悪い橋です。
崩落地にミニ鎖場がありました。別に鎖が無くても簡単に通れそうな、クサリいらない場です。
時折こうしてベンチが整備された休憩スポットが現れます。かつては秘峰と呼ばれた山も、今ではこうしてしっかりと手が入っています。
10時15分 下棚沢出会いに到着しました。渡渉可能な場所を探して四苦八苦した影響か、標準コースタイムよりかなり遅めのペースです。
3.落差40メートルの下棚(しもんだな)の滝
最初のカーブを曲がったところで、すぐに滝が視界に飛び込んで来ました。これは思った以上に大きいぞ。
下棚の滝に到着しました。ちょうど谷の行きどまりになっている空間に、轟音を轟かせながら滝が流れ落ちていました。。
見上げるような高さの立派な滝です。落差は40メートルほどあり、奥多摩の百尋ノ滝とほぼ同じ高さです。
滝の上部を覗くと、飛沫が激しく舞っていました。当然ながら、真下まで近づくと頭から水浸しになります。本日は飛沫で水浸しになってばかりな日ですな。
滝壺はあまり深くありません。何分、初めて訪れた場所なので比較のしようもありませんが、普段はさほどの水量はない滝なのでしょう。
少しでもスケール感が伝わるようにと、再び比較対象物を置いてみました。
本当は滝全体が入るアングルで撮影したかったのですが、相当引いた位置からでないと全容が収まりません。10秒セルフタイマーの間にダッシュできる距離内ではこれが限界でした。
次の目的地、本棚を目指して行動再開です。流木の散乱する道を登っていきます。
10時50分 下棚分岐からは10分と経たずに、本棚沢出会いに到着しました。
本日の本命はこの先にある本棚です。先ほどの下棚は言うなれば前座ですな。
4.本棚(ほんたな)の滝と、幻の涸棚(からたな)
下棚までの道のりには、割りとしっかりとした踏み後が存在していましたが、本棚の方は道なき道を行く感じです。靴の中を濡らさぬように歩くのに結構難儀しました。
これまた立派な滝が見えて来ました。あれが本棚かと思って近づいていったら・・・
まさかのダブル!!
ちなみに本棚は左の方です。右の滝は涸棚と呼ばれている、大雨が降ったときにしか出現しない幻の滝です。
こちらが本棚です。落差は60メートルほどあり、丹沢の滝としては最大級の落差を持っています。
そしてこちらが幻の滝、涸棚です。落差はおよそ70メートルと本棚以上の高さを持っています。普段から完全に涸れているわけではなく、岩の表面を湿らす程度の水流は常時あるみたいですね。
良く見ると、上の方で2段に分かれています。岩肌の濡れ具合からして、もうすでに水量は減り始めているようです。
もっと台風通過直後に来ていたら、さらに迫力のある姿が拝めたと言う事ですね。もっともその場合、そもそもここまで登ってこれるかどうかが怪しいものではありますが・・・
目の前まで接近してみたかったのですが、この水量ではちょっと進めそうにはありません。全身ずぶ濡れになる覚悟があるのなら、行けないことも無いのでしょうけれどね。
この場所は、谷が完全に行き止まりになっている場所です。この通り、真上だけが視界が開けています。
5.畔ヶ丸登山 登頂編 地味極まりない西丹沢の秘峰の頂
幻の滝も見れて大満足です。正直なところ、展望皆無な畦ヶ丸山頂なんか、もうどうでもいいやという気分になってきました。
しかしながら、山頂の土を踏むことこそがピークハンターたるもののお勤め(?)です。務めは果たさなくてはなりません。
分岐地点まで戻ってきました。右側から中央の中州へ架かっていたであろう木橋は、流出したらしく影も形もありません。
色々なものが散乱していて、踏跡がまったく見当たりません。どこかで道を間違えたのかと思ってしまったほどです。
時よりこのようなピンクテープが現れ、それでなんとかルートを外れてはいないことが確認できます。
道標を見かけるだけで思わずほっと安心するような、瓦礫だらけの道です。普段からそうなのか、それとも台風直後だからなのか。
しばらく登ったところで、沢筋から離れて樹林帯に入りました。ここまで来れば、もう道に迷う心配はありません。
少し下って小さな沢を横断します。ここも下段のハシゴが流されてしまっており、沢へ降りるのに少々難儀しました。もし反対方向から歩いてきている人がいたら、ここ登れるかな・・・
最後の沢を横断したところで、登山道は一気に標高を上げ始めました。
涼しかった沢沿いを離れたことにより、急激に蒸し暑くなってきました。容赦のない急登を前にして大粒の汗が吹き出します。
12時20分 善六ノタワに到着しました。ここは、かつて滑落死亡事故が発生している場所です。足元を良く見て通過しましょう。
しかし何とも変わったな地名ですな。その昔、世附村に住む善六さんが、この場所でアルペン踊りを踊ったと言う伝説でもあるのでしょうか。(←そんな伝説はありません)
展望皆無な濃い森の中を進んでいきます。5月中旬から下旬ごろのにかけて、この善六ノタワ付近ではシロヤシオが見ごろを迎えます。普段は静かな畦ヶ丸も、その時期にだけは賑わいます。
鞍部にかかる長い木製のハシゴが現れました。何故かみんな同じような写真を撮りたがる、畦ヶ丸西沢ルートにおける象徴的なスポットです。
クサリの手すりまであって、特に危険な要素はありません。木製のハシゴは濡れている時に滑りやすいので、その点だけ要注意です。
視界が開けてお隣の権現山(1,138m)が見えました。丹沢には他にも権現山があるので、区別するために箒沢権現山(ほうきさわごんげんやま)と呼ばれています。
標高が上がるにつれて、周囲がブナ林に変わりました。じつに西丹沢らしい雰囲気の場所です。
ここに来て、初めて畦ヶ丸の山頂部が視界に入りました。この周囲は非常に森が濃いため、畦ヶ丸の全体像を俯瞰でるようなスポットは存在しません。
山頂付近では、僅かながら紅葉が始まりつつありました。こうして徐々に、季節は移ろって行くのですね。
木の隙間から、僅かに遠くの景色が見えました。方角的に、見えているのは小田原の市街地だと思われます。
ようやく山頂が見えてきました。善六ノタワからはもっとあっという間だったような印象がありましたが、意外と距離がありました。
13時5分 畦ヶ丸に登頂しました。登山開始してから実に4時間も掛かっての登頂です。台風の影響は思った以上に大きかったですな。
山頂の様子
丹沢名物のテーブルみたいなベンチが一つ。あとは記念碑があるだけの山頂です。
そして、展望は全くありません。
頭上はこの通り快晴です。予報は外れて、風も全くありません。最高の登山日和です。
ここで1本立てつつ、弁当を広げました。
6.畦ヶ丸登山 下山編 東海自然歩道を下り中川温泉を目指す
13時35分 下山を開始します。行きとは反対側の大滝峠方面へ向かいます。
この大滝コースもまた、往路と同様に沢沿いのコースです。さあて、こちらも台風の影響で荒れているのかな。
中の様子
薪ストーブ付きの小屋です。大分年季の入った建物ですが、とても綺麗に整頓されていまいした。
大滝橋側のルートには、実に丹沢らしい階段地獄が待ち受けていました。蜘蛛の巣の跋扈具合から察するに、こちらのルートを歩く人は殆ど存在しないようです。
14時20分 大滝峠上に到着しました。ここから尾根沿いを外れて、谷底に向かって降下が始まります。
しばらく下ると、すぐに新手の沢にぶつかりました。地図によるとステタロー沢という名前の沢です。いったい何を捨てるのでしょう。
滑滝が幾段にも連なっていました。行きに遡ってきた通った西沢とは、全く趣の異なる沢であるところが面白いですね。
14時50分 一軒屋避難小屋に到着です。なんと言うか、確かに一軒家ですね。これまたえらく年季の入った建物です。
中は土間スペースが広めで、宿泊スペースはあまりありません。立地的にも、沢が増水した際に本当に避難するための場所であるようです。
何故か小屋の中にガマカエルがいました。どこかに進入経路があるのか、あるいは単に閉じ込められていたのか。
後者だったら可哀想なので、とりえず外に出しました。
この場所は、大滝橋から畦ヶ丸までのちょうど中間地点に位置しています。まだまだ先は長いということです。
所々、道が崩落していました。この道の命運は、もはや風前の灯であるようです。そう遠くはない将来、今よりも高い位置に付け替えられるかもしれません。
崖をトラバースするように道が続いています。
今歩いているルートは東海自然歩道の一部でとなっている道です。そのためか、それなりにお金をかけて整備されている印象です。
鉄のハシゴが整備されたこの場所は、元々ザレ場であったようですが、今回の台風でさらに激しく崩落して、もはや元がどういう道だったのかよくわから無い状態です。
前方にまた新手の沢が姿を現しました。畦ヶ丸と言うのは、本当に水が豊富な山です。
マスキ嵐沢と言う名の沢です。ステタロー沢と言い、不思議な名前の沢が多いですね。
この写真を撮った場所から下にある橋の袂までの下りが、何気に結構恐怖を感じる場所でした。クサリも何も無い濡れた岩の上を降りなければなりません。
これがルート名の由来になっている大滝ですかね。落差の大きさこそ下棚や本棚には劣りますが、水量が多い分、迫力満点です。
16時5分 大滝橋BSに到着です。このまま真っ直ぐ帰るのであれば、ここでバスを待つのが一番簡単な方法です。
方角的に、これはたぶん檜洞丸(1,601 m)です。
大滝橋バス停からおよそ20分ほどの舗装道路歩きで、ブナの湯の入り口に到着しました。
16時25分 ブナの湯に到着しました。山北町の町営温泉施設です。日帰り入浴は700円でした。湯はPH値高めのアルカリ泉です。
風呂に入ってすっかり脱力モードに切り替わってしまった体には、このバス停まで戻る登坂が何気にしんどい。
帰りのバスはまさかの貸切でした。この季節の西丹沢って人気無いんですかね。それとも単に台風直後だからなんでしょうか。
貴重な3連休の内の2日間を台風に台無しにされ、半ば不貞腐れ気味に訪れた西丹沢でしたが、結果としては大成功でした。台風直後の荒れ気味な沢沿いルートにやや苦戦を強いられはしたものの、苦労の甲斐あって幻の滝にも出会うことが出来ました。
そうそう狙って見れるものではないので、今回は非常に運が良かったのだと思います。
雨上がり後の沢ルートと言うのは、水量次第ではそもそも通行自体不可能となることも十分に考えられます。始めから、駄目だったら引き返そうと言う腹積もりで行くことが肝要です。ムリだけは絶対にしないで下さい。
西丹沢の山というのは、どこも非常に透き通った美しい沢を幾筋も擁しています。派手さこそはありませんが、涼しげな水辺を巡る静かな山行きを楽しむことが出来ます。
たまには東丹沢のメジャールートばかりではなく、西丹沢の秘峰に足を運んでみてはいかがでしょうか。
<コースタイム>
西丹沢ビジターセンター(9:00)-下棚(10:20~10:35)-本棚(10:55~11:10)-善六ノタワ(12:20)-畦ヶ丸(13:05~13:35)-大滝峠上(14:20)-一軒屋避難小屋(14:50)-大滝橋(16:05)-ブナの湯(16:25)
ここまでまでお読みいただき、誠にありがとうございました。
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