宮城県、岩手県、秋田県の三県に跨る栗駒山(くりこまやま)に登りました。
東北地方の中央部を南北に向かって連なる、奥羽山脈に属する活火山です。標高1,626メートル程の低山ですが、経度の高い位置にあることから、関東地方の山々と比べていち早く紅葉シーズンが訪れることで知られています。
2016年の紅葉シーズンを先取りすべく、遠路はるばる東北の山まで遠征してきました。
2016年10月1日に旅す。
栗駒山は日本一の紅葉の山と言われています。[要出典][誰によって?]
山岳雑誌などにありがちな「紅葉の名所10選」と言った企画において、必ずその名があげられる紅葉登山の定番中の定番な山です。
東北地方の背骨、奥羽山脈のほぼ中心に位置するこの山は、その経度の高さから本州の山の中でもいち早く紅葉シーズンが訪れます。見ごろの迎えるのは9月の下旬から10月上旬頃にかけてです。
公共交通機関によるアクセスはお世辞にも良いとは言えない奥まった場所に存在する山ですが、紅葉シーズンに限り、東北新幹線のくりこま高原駅から臨時のバスが運行されます。
首都圏からは500km近く離れた東北地方の只中にありながら、新幹線と紅葉バスを組み合わせることにより、日帰り登山も十分に可能です。
一足先に紅葉を見るべく、遠路はるばる東北地方まで繰り出してみましょう。
コース
宮城県のいわかがみ平登山口よりスタートし、中央コースを通って栗駒山へ登頂。下山は岩手県側の須川温泉へと下ります。
栗駒山を南北に縦断する、コースタイムは4時間ほどのお手軽なハイキングコースです。
1.栗駒山登山 アプローチ編 遠路はるばる、栗駒山の懐いわかがみ平を目指す
8時30分 くりこま高原駅
東北地方への日帰り登山を可能にしてくれる、魔法の乗り物新幹線で、はるばる宮城県までやってまいりました。
この駅は今からおよそ25年前に、何も無い田んぼのど真ん中に作られました。
当時少年だった私は、開業間もないこの駅を実際に目にしています。比喩的表現ではなく、周囲は本当に田んぼしかない場所でした。
開業から四半世紀を経た今はと言うと・・・立派なバスロータリーが出来ておりますが、相変わらず周囲にあるのは田んぼだけです。くりこま高原駅には静かな時が流れているようです。
紅葉号は、9月下旬から10月上旬の期間の土日祝日にのみ運行されます。運行期間は年によって違うので、最新の情報は公式サイトで確認してください。
なお、便数は一日に一往復だけです。コースタイム的には十分余裕があるので、そんなに慌しくなく戻ってこれるかと思います。
私は岩手県側の須川温泉まで抜けるつもりでいるので、帰路の便は利用しません。
バス乗り場には行列が出来ていました。臨時便が増発されましたが、結局全員は座れず、立ちになる人が何人かでました。
イワカガミ平までは1時間以上かかるので、立ったままは結構つらいかと思います。出遅れにないように、新幹線を降りたら真っ直ぐにバス乗り場に向かったほうが良いでしょう。
ミヤコーバスと言うなんとも不思議な名前をしたバスに乗り込みます。ミヤコー??。美也子さんが社長を勤めるバス会社か何かかな?
ミヤコーが宮城県交通の略なのだと言うことに気がついたのは、バスの発車アナウンスを聞いた直後の事でありました。
10時30分 一時間半にも及ぶ山道走行を経て、登山口のいわかがみ平に到着しました。
登山開始時刻としては遅すぎる感がありますが、公共交通機関頼みの身としては、こればかりはどうすることも出来ません。
2.栗駒山登山 登頂編 山全体が紅葉で真っ赤にもえる栗駒山
出発地点から、早くも日本一と称される紅葉の様子が見えました。これは大いに期待できそうです。
山頂部もこの通り始めから見えています。出発地点で既に標高が1,100メートルもあるので、山頂までの標高差は500メートルたらずです。高尾山レベルの山ですね。
登山口の脇に立つ木までもが、既によい感じに紅葉しています。身支度に10分ほど費やし、10時40分に登山を開始します。
中央コースと呼ばれる、山頂まで最短距離のルートを登ります。足元は石畳で舗装されており、とても歩きやすい道です。この辺りはまだ緑色ですね。
今まさに紅葉しつつあるもみじが沿道を飾っていました。緑から赤へと推移していく軌跡を、ありありと見せてくれています。
こちらは綺麗なオレンジ色をしていました。赤一色ではなく、様々な色が錦のように交じり合うのが栗駒山の紅葉の特徴です。
東北の山は森林限界高度が低いため、スタートして早々からいきなり展望が開けます。
よく整備された歩きやすい道ではあるものの、所々でこのように舗装面が崩壊しています。高尾山レベルの山だとは言いましたが、スニーカーではなく登山靴を履いてきた方が無難です。
半分くらい登ってきたところで、目の前にすごい光景が飛び込んできました。見た瞬間に、思わず感嘆の声を漏らしてしまいました。これは本当に凄い。
斜面を覆う一面の錦模様です。間違いない。確かにこの山の紅葉は日本一だ。
なんと言うか、山全体が赤いです。これほどの広範囲が隙間なく紅葉している光景と言うのは、栗駒山以外の場所ではそうそうにお目にかかれるものではありません。
私のつたない写真で、この圧倒的なまでの美しさを伝えることは難しいです。こればかりは、実際に現地に足を運んで体験してもらうほかありません。
先ほどから鳥肌が立ちっぱなしです。撮影が捗りすぎて、なかなか歩みが進みません。
そうこうしている内に、山頂が近づいて来ました。紅葉が広がっているのは中腹付近の斜面で、山頂部には笹原が広がっています。
足元が溶岩の固まった砂礫に変わってきました。栗駒山は、今なお盛んに噴気の立ち上る現役の活火山でもあります。
振り返って見た中央コースの全容です。まだ紅葉は始まったばかりで、下のほうは青々としています。これから時間をかけて麓までまで下っていくのでしょう。
11時50分 栗駒山に登頂しました。塔ノ岳並みの、特大サイズの山頂標識です。3メートくらいはあるかな。
山頂の様子
紅葉シーズンもたけなわとあって、非常に多くの人で賑わっていました。まあ、これだけ素晴らしい光景に出会えるわけですから、人気があって当然ですよね。
何とか腰掛けるスペースを見つけて、弁当を広げました。
北側には、岩手山へと続く奥羽山脈の主脈が連なります。あまり馴染みの無い山域なので、山座同定が難しい。
今回は紅葉がお目当てでここまでやってまいりましたが、山頂からの眺望についても文句なしの山です。麓には温泉まで完備しており、栗駒山は何気に非常に高いポテンシャルを持った山です。
もっと交通アクセスの良い場所であれば、さらに人気が爆発していたことでしょう。
3.天狗平へと続く紅葉の稜線歩き
下山を開始します。那川温泉方向に向かって稜線沿いに移動します。この稜線が宮城県と岩手県の県境となっています。
眼下に須川湖が見えました。栗駒山の噴火によって出来た窪に水がたまって出来た火山湖です。
ちなみにあの湖がある場所は秋田県になります。栗駒山は、宮城、岩手、秋田の3県にまたがった場所に横たわっています。
岩手県側の斜面もまた、宮城県側に負けず劣らずの見事な紅葉の錦模様が出来上がっていました。
栗駒山の紅葉は、赤とオレンジが主体で黄色いものはあまり見られません。赤みが強く現れるのは、それだけ日中と夜間の寒暖差が多きことを示しています。
宮城県側はガレ場の急斜面になっています。強風の通り道になっているからなのか、この付近にだけはハイマツすら生えておらず、岩が剥き出しになっていました。
こちらは反対の岩手県側です。本日のゴール地点である須川温泉の建物が見えています。
振り返って見た栗駒山の山頂部です。いかにも東北地方の山らしい、とてもなだらかな山容をしています。
天狗平と呼ばれる稜線の鞍部に向かって緩やかに下っていきます。
こちらは天狗岩と呼ばれている岩です。雪のある季節では、この岩が登山ルートの大事な目印となります。
天狗平の先に続いている稜線は、天馬尾根と呼ばれています。何処まででも歩いて行きたくなる様な光景ですが、しかし進んだが最後、帰る手段がなくなってしまいます。
忘れてはいけません。ここは奥羽山脈のド真ん中なのです。自家用車を持たない人間が、勝手きままに散策できる場所ではないのです。
正面に見えているのは秋田県の山々なのでしょうけれど、何分全く馴染みの無いエリア故に、名前は一切わかりませぬ。
奥羽山脈の山々と言うのは、飛びぬけて背の高い山が無く、同じような高さの山がダンゴになっているため、山座同定が非常に難しいのです。ええ、早々と諦めましたとも。本日のお目当ては、展望では無く紅葉なのでね。
12時30分 天狗平に到着しました。短い距離ではありましたが、最高の稜線歩きを楽しむことが出来ました。
この天狗平は4方から登山道が合流する十字路となっている地点です。ここでも多くの登山者が休憩していました。
栗駒山というのは、多種多様なルートをもつ実に懐の深い山でもあったりするのです。まあ、その大半は公共交通機関ではアクセスのできない、車の無い奴お断りなルートであったりするのですが。
この山はどちらかと言うと、遠方よりはるばる登りに来る山というよりは、地元の人たちが気軽に週末を過ごしにやってくる場所なのでしょう。
帰りのバス時間と言う制約に縛られている私は、残念ながらあまりのんびりとはしていられません。須川温泉に向かって降下を始めます。
4.栗駒山登山 下山編 荒々しき火山帯が広がる須川温泉ルートを下る
こちらから側から見た栗駒山本体もまた素晴らしい。いわかがみ平と須川温泉の、どちら側から登っても後悔のない山であることは間違いありません。
岩手県側から登るこの須川温泉ルートは、宮城県側の中央コースほどには整備されていません。
登山らしい登山がしたければ、こちら側の方から登った方が楽しいかな。逆に山登りはどうでも良く、紅葉だけを楽しみたいと言う人は、いわかがみ平側の方が整備されていて歩きやすいかと思います。
それにしても美しい・・・これほど見事な錦模様は、栗駒山以外の場所ではお目にかかった事はありません。
水はけが悪いのか、下るにしたがって、足元が水浸しになってきました。水に濡れた木製の階段と言うのは、極めて凶悪なスリップ効果を生み出すので、ここは慎重に下りましょう。
30分ほど下ったところで、昭和湖に到着しました。昭和19年に起きた小規模なガス爆発によって生まれた火山湖です。昭和生まれなので昭和湖という、実に安直なネーミングですな。
火山性物質が溶け込んだ強酸性の湖で、周囲には鼻が曲がりそうなくらい強烈な硫黄臭が立ち込めています。
窪地になっているこの昭和湖の周囲は、有毒な火山性ガスが溜まりやすい場所です。周囲はロープで囲われており、中へ立ち入ることは禁止されています。
須川温泉から山頂までのちょうど中間地点にあたり、格好の休憩スポットとなっています。奥に見えている建物はトイレです。
昭和湖周囲は湿原帯となっており、木道が整備されています。花の季節に訪れても楽しむことができる山です。
昭和湖から見上げる栗駒山です。ここまでで標高差の大半を既に消化しています。あとはほとんど平坦な道を歩いていくだけです。
地獄谷と呼ばれる、火山性ガスが噴出している一体を通り抜けます。高濃度の硫黄臭が依然として周囲に漂っています。
ガスが発生している一帯は、柵で厳重に囲まれています。まかり間違っても、中へ入ってみようなどと思ってはいけません。
火山性ガスの影響で、草木が一切生えない場所となっています。黄色っぽく見えているのはおそらく硫黄の結晶でしょう。
真っ白な温泉が、沢となって流れています。須川温泉の源泉に近づいてきているようです。
渡渉ヵ所がありますが、大した川幅ではないので一跨ぎに出来ます。
滝に湯の花がビッチリとこびりついて、鍾乳石を思わせるような姿になっていました。
地獄谷を抜けると、再び木道が出現しました。ここだけ見ると、実に尾瀬っぽい光景です。
振り返ってみる栗駒山。一見なだらかな丘のような姿をしていながら、活発な活火山としての荒々しい一面も持ち合わせていました。
こちらは剣山と呼ばれているピークです。手間の地面からは、盛んに噴気が立ち登っていました。
13時50分 須川温泉に到着しました。いわかがみ平を出発してから僅かに3時間10分ほど、超お手軽登山でありました。
須川温泉の源泉から、勢いよく温泉が湧き出して流れを作っています。
深い緑味を湛えています。PH値2.2と言う強酸性の湯です。その酸性度の高さから、もともとは酢川温泉と呼ばれていたのだとか。
と言うことで、当然ながらここで一風呂浴びて行きます。カランすらないような昔ながらの湯治場です。入浴料は600円と大変リーズナブルです。
ちなみに男性用の露天風呂は、気持ち程度の目隠ししか存在せず、外からは丸見えです。湯船の端っこで仁王立ちになるのはやめておいたほうが無難でしょう。どうしても見せたいのであれば話は別ですが・・・
全身が硫黄臭くなって満足した所で撤収です。須川温泉側には、紅葉シーズン限定ではない普通の路線バスが運行されています。
どうでもいい事ですが、イワコーバスじゃないんですね。
バスは1日に2往復しかありません。乗り遅れたら即終了です。
岩手県は、自家用車は一家に一台ではなく一人一台だとまで言われる、公共交通の一大不毛地帯です。公共交通機関頼みの人間と言うのは、ここでは圧倒的に小数派なのでしょう。
それでもバスは満員でした。これだけ需要があるなら、もっと増発してもいいんじゃないでしょうかね。
16時50分 山道を2時間近くゆすられて、ようやく一ノ関駅に到着です。
あまり見慣れない、赤い新幹線に乗って長い長い帰宅の途に付きました。
栗駒山は間違いなく日本一の紅葉の山でした。
出展?そんなものは、現地に足を運んで見てみれば一目瞭然です。その時に目の前にひろがる光景こそが、この山が日本一である根拠となることでしょう。
紅葉の名所と呼ばれる場所はそれこそ日本全国に数多存在しますが、この山ほどのカラフルな錦模様は、他の場所でお目にかかることは出来ません。この山はまさに唯一無二の場所です。
コースタイムも手頃で、おまけにすべての登山口に温泉まで完備されています、あらゆる面において非の打ち所がありません。山好きな人間にとって、必ず一度は足を運ぶべきマストな山だと思います。あらゆる人にオススメします。
<コースタイム>
いわかがみ平(10:40)-栗駒山(11:50~12:10)-天狗平(12:30)-須川温泉(13:50)
完
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
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