北アルプスの白馬岳(しろうまだけ)に登りました。
この記事は二日目の下山の記録となります。白馬岳山頂から白馬大池へと続く稜線上には、雪解け迎えると同時に多くの高山植物がまるで競うかのように一斉に花をつけ、天上の楽園さながらの光景が繰り広げられます。
最高のシーズンを迎えた稜線歩きを心ゆくまで満喫して来ました。
2018年7月16日に旅す。
前日の登頂編はこちらです。
二日目となる今回は、白馬岳より北へと向かい、高山植物の宝庫として名高い白馬大池に立ち寄ります。沿道に満開の花々が咲き乱れるこの稜線には、まさに楽園そのもの光景が広がります。
花々のみならず、嬉しいライチョウとの出会いも待っていました。
今まさにベストーズンを迎えた、後立山連峰の魅惑の稜線歩きの模様をお届けしましょう。
コース
白馬岳より小蓮華岳、白馬大池、乗鞍岳とを経由し、栂池(つがいけ)平へと向かいます。栂池平からはロープウェイとゴンドラリフトを乗り継いでラクラク下山することが出来ます。
1.山頂からのご来光は見事に空振り
4時20分 山小屋の朝は早い。
おはようございます。早出する人たちが奏でるビニール袋カサカサ音の大合唱により、アラーム無しでも自然に目が覚めました。
下界では今頃、新聞配達のスーパーカブのエンジン音が町中に轟いている頃合でしょう。
折角なので山頂へご来光を見に行きます。頂上まで行かずとも小屋の脇からでも見えはしますが、たかが15分ほどなので横着せずに登ります。
日の出の方向を見てみると、これはどうも雲行きが芳しくありませね。これは雲に阻まれて見えないパターンかな。
山頂まで登って来ました。前日に引き続き2度目の登頂です。すでにご来光待ちの人々が大勢スタンバイしていました。
あらかじめ確認してあった日の出時刻の4時43分を迎えましたが、やはり見えません。厚ぼったい雲に阻まれてしまったようです。残念。
折角登ったので少し山座同定して行きます。こちらは頸城三山の山々。右側から順に妙高山(2,454m)、火打山(2,461m)、新潟焼岳(2,400m)。
雲から頭を出したこちらの2座は、右が浅間山(2,568m)で左が四阿山(2,354m)です。
これはもしかしなくても、富士山(3,776m)ではありませんか。左手前に見えているのは八ヶ岳連峰です。
白馬岳からは直線距離で170~180km位は離れていますが、結構見えるものなんですねえ。最も遠くから見えた富士山の自己レコードを更新です。
山頂から見下ろす大雪渓。流石にこの時間帯に登っている人の姿は見えません。
こちらは昨日も散々見えていた剱岳(2,999m)と立山(3,003m)。
拡大&名前入りを一枚。色々見えすぎていてきりが無いので、有名所だけです。
そうこうしている内に、時刻は5時になりました。白馬山荘の館内放送で「野郎ども、エサの時間だ!(かなり意訳)」と言っているのが微かに聞こえてきました。
ということなので、朝飯を食べにボチボチ山荘へと引き返します。
夕食と違って、朝食については特に時間帯の指定はありません。5時に提供が開始され、順番は早い者勝ちです。山頂までご来光を見に行っていると、当然の事ながら出遅れます。
30分近く並んで、ようやく朝食にありつけました。夕食に比べるといささか質素なメニューですが、味海苔付きなのがポイント高しです。
こちらは館内に飾ってあったポスターです。白馬鑓ヶ岳から白馬岳を眺めると、こんな風に見えるのですね。
すごく良いなぁ。いずれは三山縦走もして見たい。
2.白馬岳登山 下山編 高山植物の楽園、白馬大池を目指す
6時10分 下山を開始します。
下山といっても、まずはまた山頂へ登るわけですがね。昨日から同じ道を登ったり降りたり、これで3度目です。
背後を振り返ると、富山側から立ちこめた雲が覆いかぶさってきて、なにやら凄い光景を作り出していました。
後立山連峰は、雲滝と呼ばれる現象の発生ポイントとして知られていますが、予期せずにそれを目の当たりにした格好です。
6時25分 つつがなく3度目の登頂を果たしました。
それにしても、ここは何時来ても人でいっぱいです。無人の白馬岳山頂を眺めたかったら、真夜中に訪れるしかなさそうですね。
これからこの稜線に沿ってずっと歩いて行きます。実に気持ちの良さそうな道に、大いに期待が高まります。
まだ早朝と呼んで差し支えの無い時間であるにもかかわらず、背後の富山側は早くも雲が上がってきていました。夏山で遠望を得ることの出来る時間と言うのは、朝早くのほんの一時しかないのと言う事です。
雲の上に微かに頭を覗かせている白山(2,702m)の姿が見えました。言わずとも知れた、北陸地方きっての名峰です。
うーん。次はあそこにしようかな(独り言)。
後立山連峰の地形上の特徴としては、富山側がなだらかで長野側だけがが大きく切れ落ちています。ちょうどこの場所が、フォッサマグナ(中央地溝帯)の西端に沿っているためです。
常に強風が吹き抜ける厳しい環境であるにも関わらず、岩陰には多くの花が咲いていました。これはミヤマアズマギク。
斜面にはコマクサが沢山咲いていましたが、登山道から少し離れているため余り寄れません。長いレンズを持ってきていないことが悔やまれます。
この通り、見渡す限りの大絶景なので、待たされても少しも苦ではありません。むしろ撮影が捗って助かります。
正面に見えているのは小蓮華岳(2,766m)です。これから、あの頂きを乗り越えて行きます。
クサリ場ではありませんが、手を使って降りたくなるようなガレ場になっていました。
眼下には高原大地風の平地が広がっていました。写真中央付近の雪渓の中に誕生しつつある小さな水溜りは、地図によると長池と言う名であるようです。
どうせすぐに雲って見えなくなるだろう思っていた富士山ですが、意外と頑張ってこの時間にもまだ見えていました。
7時5分 三国峠に到着しました。
日本全国にそれこそ数多ある名前の峠です。信濃(長野)、越中(富山)、越後(新潟)の三国の境界となっている場所です。
正面に見えているのは左が針ヶ岳(2,563m)で右が雪倉岳(2,610m)かな。
ここから日本海沿岸の親不知まで続く、栂海新道(つがみしんどう)というコースが存在します。海抜ゼロメートルからアルプスの頂までを歩き通せるというのが売りのコースなのだとか。
うーん、歩いてみたいような、みたくないような。体力自慢な人は、一度挑戦してみてはいかがでありましょう。
小蓮華岳に向かって登り返します。見ての通りのなだらかな稜線で、大した登りではありません。
何の前触れもなしに突如として始まるライチョウの撮影会。ヒナを一羽連れています。人慣れしているのか、全くこちらを警戒するそぶりがありません。
ヒナ鳥はちょうど雀くらいの大きさでしょうか。丸々としています。
先ほどのコマクサに引き続き、長いレンズを持っていないことが悔やまれる場面でした。白馬岳へお越しの際には、換算200ミリくらいまでズームできるレンズを一つは持っていたほうが、幸せになれるかと思います。
先へ進みましょう。相変わらず信州側だけが切れ落ちた尾根道を登ってゆきます。
7時45分 小蓮華岳に到着しました。
この場所もまた、全方位の展望が得られるスポットです。
山頂の様子
余り広くは無いガラ石の散乱する山頂に、多くのハイカーが所狭しと休憩していました。
これから向かう白馬大池の全貌がようやく視界に入りました。大池と名乗っているだけのことはあってかなりの大きさです。
そしてこちらが、振り返って望んだ白馬岳の全貌です。この場所が、最高の白馬岳の展望台の一つであろうことは間違あいりません。
まだ余り疲れてもいないので、休憩は取らずに下山を続行します。
この付近の沿道は今まさに花満開です。白いのがハクサンイチゲで黄色いのはシナノキンバイかな。
こちらはコバイケイソウです。今年のアルプスはコバイケイソウの当たり年らしく、至る所で大量の花を咲かせていました。
ゴール地点の栂池平が眼下に見えます。すぐそのように見えますが、ぐるっと回り込んでゆくのでまだまだ時間が掛かります。
さて唐突ですが、このアングルの光景にどこかで見覚えはあませんか?
この場所はNHKで放送していたドラマ「坂の上の雲」の、エンディング映像の撮影地です。実際はもうちょっとローアングルだったかな。
山頂に一朶の雲が掛かってくれればパーフェクトだったのですが。
さらにもう少し引いた位置から眺めた小蓮華岳。うむ、これはよい坂道だ。
8時25分
白馬大池手前にある最後の小ピークである、船越ノ頭を通過します。
白馬大池に向かって下って行きます。
なお、この池はとてつもなく大きいため、距離感覚が少々狂ってしまいますが、見えてからも意外と遠いです。
白馬大池山荘の赤い屋根が見えてきました。いい所に建っていますねえ。
雪解け水の集まるこの大池の周辺は、草原一面に花が咲くまさにお花畑状態の場所です。
背後の雪渓から途切れることなく水が供給され続けてるわけですから、花にとってこれほど都合の良い場所もそうそう無いことでしょう。
9時 白馬大池山荘に到着しました。
この場所にテントを張って白馬岳を往復するという人も多いようですね。確かに、是非とも泊まってみたいと思わせるロケーションです。
3.天狗原の湿原と灼熱の下山路
山荘前の日陰でしばし小休止ののち、下山を再開します。親切にも、最終ロープウウェイの時間が張り出されていました。この辺のサービスの充実振りは、流石は北アルプスといった所です。
テント場は池のすぐ辺にあり、背後には船越ノ頭がそびえています。いやはや、本当に良い場所にありますねここは。恵まれすぎているロケーションです。
登山道は湖の周囲をぐるっと回りこんでいます。飛び石伝いに進むなかなかワイルドな道です。つまずいて池に転げ落ちないように、ここは慎重に進みましょう。
船越ノ頭と小蓮華岳のツーショット。
やっぱりいいなぁ、この光景は。山岳風景と言うのは、手前に池があると言うだけで断然引き立つと思うんです。
シャクナゲが咲いていました。梅雨入り頃に咲く花だと思うのですが、標高の高い場所だと初夏になってから咲くのですね。
9時45分 乗鞍岳に到着です。
どこかで聴いたことのあるような名前のピークですね。登り返しはこれでラストになります。あとは下ってゆくだけです。
山頂の様子
極めて平坦な山頂部で、どこがピークなのか良くわかりません。一面がハイマツに覆われています。
風雨による侵食の結果であろう、面白い形をした岩がありました。とりあえず白馬卵石と命名しておく。
乗鞍岳からの下りには、かなり大きな雪渓が残っていました。割と傾斜があったので、念のために軽アイゼンを装着します。
下の方はかなりの急勾配でした。安全のためにロープが張られているので、それに掴まりながら下って行きます。
振り返ってみるとこんな感じです。下りの大渋滞が発生していました。
もう少し季節が後になれば、雪が無くなり岩場が露出する場所らしいのですが、初夏シーズンにこのルートを下る時には要注意の場所です。
雪渓を過ぎると、今度は雪解け水ですっかり川と化した道です。濡れている岩肌がまた非常によく滑るので、ここは慎重に下って行きます。
この付近は天狗原と呼ばれる湿原帯となっており、木道が整備されています。
散りかけのワタスゲが、僅かですが残っていました。最盛期に訪れれば、きっと素晴らしい光景が広がっていることでしょう。
振り返ると、先ほどの通過した雪渓に蟻の行列のごとく渋滞が発生してました。まあ気持ちはわかります。下りだと結構な恐怖を感じるような急勾配でしたからね。
天狗原を過ぎると、あとはひたすら苦行のような単調な道を下るだけです。容赦なく直射日光に晒される上に、風も全く無く灼熱地獄のような道でした。
始めからゴール地点が見えてはいますが、天狗原から1時間くらいかかります。
11時40分 栂池平に下山しました。
まだ標高が1,800メートルもある地点ではありますが、ロープウェイで上がってこれる場所なのでもう観光地の領域です。
栂池平に建つ栂池山荘。登山口にある山荘と言うのは、イマイチ利用目的が思い浮かびません。前日乗り入れして早朝から歩き出したい人のための施設でしょうか。
麓の栂池高原まで下るには、ロープウェイとゴンドラリフトを乗り継ぐ必要があります。両方セットの料金は片道で1,920円です。
ちょうど下山時間帯のど真ん中だったらしく、ロープウェイ乗り場には行列が出来ていました。
普段は20分間隔の運転ですが、ピーク時には連続運転してくれるらしく、さほど待たずに乗れました。
ロープウェイから望む小蓮華岳は、もうすっかり雲に覆われていました。雲が登ってくる前の良い時間帯に歩けたようです。
ゴンドラリフトに乗り換えます。栂池高原は冬場はスキー場となっている場所で、このゴンドラも本来はスキー用です。
行きにあれだけ苦労して登った標高差が、見る見るなくなって行きます。
麓にスキー場のある山と言うのは、下山時にロープウェイで楽が出来るのが良いですね。樹林帯に入って以降の下山なんて、苦行みたいなものですから。
12時45分 栂池高原に下山完了です。
実にラクラクかつ快適な下山でした。この快適さに比べれば、片道1,920円という値段は安いものです。
4.白馬岳登山 帰宅編 行き当たりばったり旅行者の無計画なる帰還
あとは東京まで帰り着けば今回の山行きは終了と相成るわけですが、例のごとく私は、帰りのことはなにも考えておりません。完全なるノープランです。
料金的に言えば、白馬八方バスターミナルまで戻り、そこから新宿行き高速バスのチケットを買い求めるのが最も安くつくでしょう。三連休の最終日に、事前予約も無しに今から席が取れるのかという疑問はさて置きです。
しかしながら、乗り鉄を自認するオオツキとしては、ここは是非とも大糸線に乗りたいところです。電車で帰ることに、経済的な合理性は一切ありません。ただ乗りたいから乗るのです。はい、決定。
と言うことで白馬駅行きの路線バスに乗り込みます。ちょうど良いタイミングで13時発の便がありました。
およそ40分ほどで、白馬駅に到着しました。下車するなり、下界の余りの暑さに閉口しました。サウナか何かか、これは。
白馬駅の駅前から見上げる後立山連峰の稜線。正面に見えているのは、位置的に恐らく白馬鑓ヶ岳です。気温35度近い街中から見上げる、雪を被った山と言うギャップが凄い。
大糸線の鈍行で松本まで出ようかと考えておりましたが、日中のこの時間帯はそもそも電車が走っておりません。しかも冷房の効いた待合室がないと言うオマケつきです。
一日に一往復だけ小谷までゆく特急あずさが白馬駅にも停車するというので、結局はいつものあずさに乗って帰還しました。
さて、普段は「下山は消化試合」と考えがちな私ですが、今回の下山路に限って言えば、初日に勝るとも劣らない爽快な山歩きを楽しめました。
小蓮華岳から白馬大池に至る稜線は、まさに花咲き誇る天上の楽園そのもので、展望も良く歩いていて最高に気分の良い道でした。
今後、季節の進行と共に、白馬岳周囲の豊富な雪渓も徐々に雪解けが進み縮小して行きます。この山のベストシーズンと言えるのは、まだ雪が多く残されている初夏の季節だと思います。これほど素晴らしい山を目ざとい登山者達が放っておくはずも無いので、混雑することだけは避けようがありませんが、是非ともベストシーズンに訪問して欲しい山です。
白と緑のまだら模様と、色とりどりの花々に飾られた魅惑の稜線歩きに繰り出してみては如何でしょうか。
<コースタイム>
白馬山荘(6:10)-白馬岳(6:25)-三国峠(7:05)-小蓮華岳(7:45)-船越ノ頭(8:25)-白馬大池(9:00~9:15)-乗鞍岳(9:45)-天狗原(10:40)-栂池平(11:40)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント
いつも楽しく拝見いたしております。
帰路に時々あずさを利用されておりますが、
テント泊のリュックは一般的にどちらに置かれているのでしょうか。
普段車で目的地に行くのですが、今後バスや電車を使ったハイキングを検討してまして、ご教示頂けたらと思い記載させていただきました。
アライ様
コメントを頂きましてありがとうございます。
ザックの置き場所は”足元”です。新幹線だとスペース的に割と余裕がありますが、あずさだと隣の領域を侵犯せずに収めるのは結構ギリギリで、自分の足を隙間にねじ込むのには少々難儀します。
オオツキ様、ご回答ありがとうございました。
確かに足の置き場に難儀しそうですね。
今度早速試してみます。
これからも楽しいブログ拝見させていただきます。