源氏山-櫛形山 富士川西岸に連なる南アルプス前衛の静かなる山々を巡る

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山梨県富士川にある源氏山(げんじやま)と櫛形山(くしがたやま)に登りました。
どちらも富士川沿いの南アルプス(赤石山脈)の前衛に連なる山で、山梨百名山に選ばれています。櫛形山はその名の通りに櫛のようなシルエットの山容が甲府盆地からも良く見えて、古くから花の名峰として親しまれてきた存在です。一方の源氏山は外見的特長に乏しく、ほとんどその存在自体を知られていない地味で静かなる一座です。
アクセス困難な地に立つ山梨百名山2座を、一挙に巡り歩いて来ました。

2022年7月18日に旅す。

源氏山と櫛形山は、どちらも甲府盆地南の富士川西岸に並んで立つ山です。もう少し南に下った場所にある富士見山と共に、山梨百名山に選定されています。
鬼ヶ岳から見た源氏山と櫛形山
この富士川西岸に縦に並んだ山梨百名山3座は、何れも公共交通機関による交通アクセスが極めて悪く、山梨百名山の完登を目指す車も買えない貧乏人環境意識高い系ハイカーにとって悩みの種となっています。

櫛形山は麓の甲府盆地内から見あげた際に、かなり目を引く大柄な山です。多くの花が咲く花の名峰として親しまれきた存在で、作家田中澄江が選んだ花の百名山でも、アヤメが咲く「紫の君」として紹介されています。
市川本町から見た櫛形山

一方の源氏山には、櫛形山のような華やかな要素はなに一つありません。比較的奥まった場所にあるため麓からはその姿は伺えず、おそらくこの山の存在を知っているのは、山梨百名山の完登を目指している人くらいなものなのではないでしょうか。
源氏山 山頂の様子
何も期待せずに、ただの消化試合と割り切って訪れた源氏山で待っていたのは、いったい何故この山が山梨百名山に選ばれたのか怪訝に思えてくるような、コスパ最低の山としか表しようがない地味な頂でした。

コース
源氏山と櫛形山のコースマップ
池の茶屋林道ゲートを起点して、源氏山と櫛形山の2座をコンパクトに巡ります。どちらも標高2,000メートル級の山ですが、スタート地点の標高も高いため、無理なく手軽に巡れる行程です。

1.源氏山&櫛形山登山 アプローチ編 標高1,600メートル地点まで車が入れる丸山林道

はたしてオオツキ氏は、このアクセス困難な山にどのようにして挑むのだろうか。

そう固唾のんで見守ってくださっている読者の皆様にはまことに申し訳ございませんが、今回はズルをしました。僻地専門登山家の友人を招聘して、車を出してもらいました。痛いッ痛いッ。石を投げないで!
池の茶屋林道分岐
公共交通機関を利用して源氏山に登る方法については、事前に一応調査はしていました。実際に踏破してレポートすることはできませんでしたが、その調査結果だけはこの場で提供しておきます。

公共交通機関の利用を前提とした場合、源氏山への登山ルートの選択肢は八雲池公園からの往復ほぼ一択となります。
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身延線の鰍沢口駅(かじかざわぐちえき)から出ている、ホリデーバスの小室線に乗車して、終点の小室バス停で下車してそこから歩きます。

このバスは、ホリデーバスという名前の通りに土休日のみの運行です。始発便は鰍沢口駅を9時15分に出発して、小室バス停には9時46分に到着します。

帰路の鰍沢口駅行きバス最終便は16時55分発なので、行動可能時間はおおよそ7時間と言う事になります。

源氏山は山と高原地図の範囲外にあるため、このルートの標準コースタイムは不明です。歩行距離にして18km少々あり、標高差はおおよそ1,400メートルあります。また、上部の方は荒れていると言う情報もあります。

7時間以内に収めるのは決して不可能ではないと思われますが、かなり気張って歩く必要はありそうです。最悪帰りは八雲池公園からタクシーを呼ぶか、もしくは駅まで歩く覚悟を決めてから訪れた方が良いでしょう。

もしこのルートを歩いてみようと思うもの好きな方がいらっしゃいましたら、後は任せました。good luck!

と言う事で、僻地専門登山家が運転する車が快調に中央自動車道を進みます。本日はイマイチな天気となる予報であったため、始めから捨て日と割り切って、もとから展望が皆無だという源氏山に白羽の矢を立てました。
大月付近の中央自動車道から見た滝子山

甲府南インターを降りたら、笛吹川沿いに国道140号線をひた走ります。
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釜無川と笛吹川に架かる浅原橋を渡ると、正面に櫛形山がドーンと大柄な山容を見せる・・・はずなのですが、曇っていて見えませんねえ。まあいいでしょう。くどいようですが、本日は始めから捨て日と割りきっているのですから。
浅原橋
釜無川と笛吹川の両河川はこの橋の少し下流で合流し、そこから先は富士川と呼ばれます。

源氏山の名前はどこにありませんが、櫛形山と書かれた青看の導きに従い、丸山林道へと入って行きます。
丸山

林道に入ってからは、マイナーな山梨百名山では毎度お馴染みの、すれ違い困難な幅しか無い舗装がガタガタの道が続きます。頼むから、対向車はこないでくれよ。
丸山林道

どんよりとした空模様でしたが、林道の途中から富士山が見えました。源氏山の山中には展望が一切ないので、今のうちにじっくりと眺望を楽しんでおきましょう。
丸山林道から見た富士山
大事な事なので2度言いますが、誇張でも何でもなく源氏山の山中には本当に展望が一切ありません。

7時23分 池の茶屋林道分岐までやって来ました。この三差路の路肩に小さな駐車スペースがあるのですが、既に埋まっていたためゲートの手前に路駐しました。
池の茶屋林道分岐

道の脇に小さな池があります。国土地理院地図を見た時には、大きさからしてため池か何かだろうと思っていたのですが、そうではなくかつてはこの池のほとりに茶屋があったのでしょうか。
池の茶屋林道分岐にある池

2.林道からの眺めが最大のハイライトな地味山

7時35分 身支度を整えて登山を開始します。既に駐車してあった他の車の主たちも、源氏山を目指しているのでしょうか。であればきっと、山梨百名山の完登を目指している同志であるに違いない。
池の茶屋林道分岐にある丸山林道のゲート
おそらく源氏山に登る人の100人中99人は、山梨百名山ハンターであろうかと思われます。それ以外の理由で、この山に登ろうと思い立つ動機が想像できません。

丸山林道はさらに先まで続いていますが、ゲートがあり一般車が立ち入れるのはこの池の茶屋林道分岐までとなります。と言う事で、ゲートからスタートです。
丸山林道のゲート

暫しの間の舗装された林道歩きです。何気に現在地の標高は既に1,600メートルを超えており、もっと暑いかと思いきや意外にも半袖では少し肌寒いくらいの涼しさです。
丸山林道

途中で丸山林道とは袂をわかち、今度は未舗装の林道足馴峠線へと入ります。
林道足馴峠線の終点

目指す源氏山の名前が書かれた案内板がしっかりと立っていました。いかに地味でマイナーと言えども、そこは山梨百名山です。
林道足馴峠線の源氏山の案内

そしてこの林道からの眺めこそが、源氏山登山におけるハイライトです。いや本当に。
林道足馴峠線

右手に見えているこの山は丸山(1,910m)です。丸山林道の名前の由来にもなっている一座ですが、地図を見た限りでは山頂へ通じている登山道は存在しないようです。
林道足馴峠線から見た丸山

丸山の左側は開けており、遠くに南アルプス南部の山並みが見えました。
林道足馴峠線から見た南アルプス南部の山

荒川岳(3,141m)の姿が良く見えます。何気に日本で6番目に標高が高い山です。3つの頂を持ち、最高峰の荒川東岳は別名で悪沢岳とも呼ばれます。
林道足馴峠線から見た荒川岳
この山はだいぶ以前より「登りたい山リスト」の上位に名を連ねていますが、アクセス手段が非常に複雑で厄介であり、未だに訪問がかなっておりません。

コロナ渦以降はそれがさらに煩雑になってしまっており、ひょっとしてこのまま一生登れずに終わるのではないかと悲観的なっている今日この頃です。

8時 源氏山の登山口へとやって来ました。林道の左わきにポツンとあるので、見落とさないように注意を要します。それでは、あまり期待せずに行ってみましょう。
源氏山の登山口

3.源氏山登山 登頂編 特にこれと言った見所を見いだせない静かなる頂

明るいカラマツ林の中を行く登山道です。この森は自然なものではなく、明らかに人の手が入っているのを感じます。
源氏山のカラマツ林

左手にある1,882メートルの名も無きピークを、登らずに巻きながら登山道が続いています。ちなみに源氏山の標高は1,827メートルなので、この名も無きピークよりも低いと言うことになります。
源氏山の登山道

登山道が崩落気味の場所がありましたが、しっかりとロープが張られていました。マイナーとは言えども一応は山梨百名山のメインルートであるので、ほったらかしにはされておらずしっかり整備されているようです。
トラロープが張られた源氏山の登山道

トラバース路を登りきると、ちょうどコルになっている地点が四叉路になっていました。右へ行くと足馴峠で、左へ曲がると大峠山と言うピークへ通じています。
大峠山への分岐

源氏山へ向かうには、この四叉路を直進します。ここから登山道は一度大きく標高を落とします。
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左前方にピョコっと突き出しているピークが源氏山です。「まさかアレが源氏山なのか?」と現地では半信半疑だったのですが、アレでした。周囲にある大峠山や名もなき小ピーク達の方が微妙に標高が高いと言う、良くわからない展開です。
大峠山分岐付近から見た源氏山

富士山の頭だけが樹木の間から僅かに見えました。今は青々と葉が茂って視界を遮っている状態ですが、冬枯れの季節であればもう少しよく見えるかもしれません。
源氏山の登山道から見た富士山

途中で小さな谷を渡りつつ、鞍部に向かって標高を落として行きます。
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先ほどから被写体ブレを起こしまくっていることからも察せられる通り、周囲はかなりの薄暗さです。なまじ手ブレ補正が強力なものですから、ついついISO感度を上げ損なってしまっておりました。

鞍部まで下って来ました。明らかに人工的に整地された形跡があり、ドラム缶などの残置物もありました。山頂のすぐ近くにまで林道が伸びていることからも察せられるとおり、かなり人の手が入っていることを感じさせられる山です。
源氏山山頂手前の鞍部

ナイフリッジとまではいきませんが、鞍部の一帯は少し痩せていました。慎重に参りましょう。
源氏山山頂手前の鞍部

ちょっと分かり難いですが分岐がありました。左へ登って行くと丸山林道方面で、右へ進むと冒頭で少し触れた八雲池登山口方面となります。
源氏山 出頂の茶屋分岐

ここからは登り返しです。何気に急勾配なので頑張って登りましょう。登ったところでなんのご褒美もありませんけれどね。
源氏山山頂直下の登り

急坂を登りきると、苔生した原生林が広がっていました。源氏山は広義には赤石山系(南アルプス)の一部であり、ここだけを見ると確かに何となく南アルプスっぽさを感じる雰囲気があります。
源氏山の山頂部

残置されたままのワイヤーが多く目につきます。源氏山ではかつて、盛んに林業が行われていたのであろうことを示す痕跡です。
源氏山の残置ワイヤー

山頂らしき場所が見えて来ました。ハハハハ、これはまた絵に描いたかのような地味山ですねえ。だがしかしそれが良い。
源氏山の山頂

8時50分 源氏山に登頂しました。南アルプスエコパーク仕様の四角い山梨百名山標柱が、この山が南アルプスに属していると言う事実を雄弁に物語っていました。
源氏山 山梨百名山の標柱
この源氏山と言う名前の由来は、甲斐源氏の祖先である源義光がこの山に砦を築いたという伝承によるものです。その歴史的背景が、この山が山梨百名山に選定された決定的な理由だったのでしょう。

登山の対象としての魅力だけで選んだのであれば、絶対に選ばれることは無かったでしょうからね・・・

山頂には見事なまでに何もありません。この山に登るため必要となる労力と、登った時に得られるご褒美(展望)とを鑑みるに、間違いなく山梨百名山の中でもコスパが最低の山であると思います。だがしかしそれが良い。
源氏山 山頂の様子

4.源氏山を後にし、櫛形山の池の茶屋登山口を目指す

僅かな滞在時間で、恐らく二度と訪れることはないであろう山頂を後にします。
源氏山の山頂直下
下から登って来た登山者とすれ違いざまに少し会話しましたが、思った通り目的は山梨百名山ハンティングであると言う事でした。

「微妙な天気予報だったから、微妙そうなこの山に来た」と言うコメントには思わず笑ってしまいました。やはりみな考えることは同じなんですね。

ピストンなので、脇目も触れずにサクサクと戻ります。右手に見えている大峠山のほうが、どう見ても源氏山よりも立派な山容をしているんだよな。
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どうせ誰にもわかりはしないんだから、砦があったのはあちらだったと言う事にしてしまえばよかったものを。

南アルプスフロントトレイルなんてものがあったのですね。初めて知りました。
220717源氏山-043

足元はフカフカした柔らかい土で、足に優しいトレイルです。おかげでサクサクと下れます。
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9時50分 快調に飛ばしてあっさりと源氏山登山口に戻ってきました。無理に公共交通機関で攻略しようとしない限りは、実に手軽に登れる山ではあるんですよね。
源氏山の登山口

下山した直後のこのタイミングになって、頭上に青空が広がり始めました。何たる間の悪さなのでしょう。まあどちらにしろ展望は一切ない訳なのですが。
林道足馴峠線

正面に頭一つ抜けた高さの山があるのがみえます。位置的に恐らくあれは鳳凰三山の観音岳(2,841m)かな。
林道足馴峠線から見た観音岳

10時15分 その後もサクサクと歩いて、あっさりとスタート地点へ戻って来ました。本日一度目の登山は終了です。
220717源氏山-048

源氏山だけで終わってしまうのはあまりにも物足りないので、本日は車での移動を挟んでこのあと山梨百名山をもう一座ハシゴします。
池の茶屋林道分岐

真っすぐ池の茶屋林道を進み、櫛形山を目指します。
池の茶屋林道分岐の青看
本日の当初の計画では、2座目は櫛形山ではなく、甘利山登山口まで移動して未踏の千頭星山(せんとうぼしやま)に登るつもりでいました。

何故目の前にある櫛形山ではなくわざわざ千頭星山へ行こうとしていたのかと言うと、櫛形山は源氏山とは違って大変評判の良い山であるため、今回のように消化試合的に登るのではなく、後日下から真面目に登るつもりでいたからです。

ですがまあ、現地まで来て考えが変わりました。すぐ目の前に未踏の山梨百名山があると言うのに、なにもあえてスルーしなくても良いのではないかと。

同じ山に2度3度登ってはいけない理由などないのですから、下から登るのはまたの機会にして、とりあえずはピークハントしてしまいましょう。

この池の茶屋林道は丸山林道から派生している道であるのに、本家の丸山林道よりも高規格で綺麗な道でした。後から作られてまだ新しいのでしょうか。
池の茶屋林道
櫛形山に登るのは良いのですが、そうすると残った千頭星山をどうしてくれるのかはまた別に考えないといけないですね。とりあえず折り畳み自転車を持ち込んで、行きだけ甘利山までタクシーに運んでもらうか。

10時30分 池の茶屋登山口の駐車場に到着しました。源氏山とは違ってこちらは人気の山らしく、駐車スペースはほぼ埋まっていました。
櫛形山 池の茶屋登山口の駐車場

5.櫛形山登山 登頂編 何故か最高地点ではない場所に立つ、山梨百名山の標柱を目指す

駐車場にはトイレもあり、その脇にコースマップがでかでかと掲げられていました。見ての通り、現在地の池の茶屋登山口はすでにほぼ山頂のようなものです。
櫛形山のコースマップ
中腹付近に描かれている氷室神社の近くまで、一応は公共交通機関によるアクセスが可能です。後日再訪問するとしたら、そこからスタートかな。

鹿よけのゲートをくぐって登山開始です。
櫛形山の鹿よけゲート
かつては多種多様な花が空く花の名峰として知られていた櫛形山ですが、現在では見る影もないほどに花の数が激減してしまっています。その原因の大半が、シカによる食害であると考えられています。

現在復活に向けた取り組みとして、こうして山中に幾重にも鹿よけの柵が設置されています。

登り始めて早々に、ベンチが置かれた視界の開けた場所に出ました。
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正面に富士山がドーンと見えました。やはり山梨百名山からの眺望はこうでなくてはいけません。源氏山はきっと何かの間違いだったのでしょう。
櫛形山から見た富士山

再び鹿よけの柵が現れました。登山道はこの柵の中のエリアを突っ切って行きます。
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草付きの何気にエグイ勾配の急斜面です。この斜面一帯が見事なお花畑となっていました。
櫛形山のお花畑

これはヤマダオダマキです。日本原産の花で、紫色のミヤマオダマキの亜種です。
櫛形山のヤマダオダマキ

この青い花はタカネグンナイフウロです。数の上では櫛形山に咲く花の中の最大勢力で、至る所に咲いていました。
櫛形山のタカネグンナイフウロ

これはタカネナデシコです。比較的多くの山や里で目にする、割とポピュラーな花です。
櫛形山のタカネナデシコ

ランプを思わせるようなこちらの花は、ヤマホタルブクロです。今がちょうど見頃の盛りらしく、かなりの数が咲いていました。
櫛形山のヤマホタルブクロ

鹿よけ柵の効果のほどは絶大で、柵の中だけが百花繚乱状態となっていました。かつては櫛形山全体がこのような状態であったと言うのだから、その頃の光景を見てみたかったものです。
櫛形山のお花畑

急坂を登りきると、南アルプス展望ポイントと銘打たれた、開けた場所がありました。目の前に白根三山が居並んでいる・・・はずですが、本日は雲が多めです。
櫛形山 南アルプス展望ポイント

山頂部分は隠れてしまっていますが、農鳥岳がちょうど真正面に見えます。こうして向かいから見ると、3,000メートル峰の山肌を駆け下る大門沢の急流ぶりがたいへん良くわかります。
櫛形山から見た農鳥岳

中央に見えているこの緩やかな山容の山は、通称山梨百名山四天王と呼ばれている山の中の一つである笹山(2,733m)です。この山にも近いうちに登らなくてはなりません。できれば農鳥岳から縦走したいところです。
櫛形山から見た笹山
別名で黒河内岳とも言います。と言うか、別名の方が断然カッコ良くないですか?

午前中の内にはあれほどよく見えていた荒川岳も、雲に没しつつありました。まあ夏山は基本、正午を過ぎたらこうなってしまいますよね。
櫛形山から見た荒川岳

お花畑エリアは終了です。山頂へ向かいましょう。
櫛形山の鹿よけゲート

見上げる高さの高さのダケカンバの巨木です。櫛形山にはこうした、複雑に枝枯れした奇樹が多く見られます。まっすぐに伸びずこのような姿になってしまうのには、何か理由があるのでしょうか。
櫛形山のダケカンバ

11時15分 櫛形山最高地点の奥仙重に登って来ました。ここにはポツンと三角点があるだけで、山頂標識は何故かこの先の別の場所にあります。
櫛形山の最高地点

ただの通り道状態な最高地点は素通りして、山梨百名山の標柱があるピークを目指してさらに進みます。
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下から見た時の姿からも一目瞭然ですが、櫛形山は平坦で横に長い山頂部を持っています。その広大な山頂には、巨木が立ち並ぶ原始性の高い森が広がっていました。
櫛形山の原生林
確かに評判通りの良い山です。早くも櫛形山の魅力に取りつかれ始めましたよ。

樹林に覆われているため基本的に展望はありませんが、こうして所々に開けている場所があります。
櫛形山から見た富士山

再び頂上らしき場所が見えて来ました。池の茶屋登山口スタートだと、本当にあっけない山です。
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11時30分 櫛形山に登頂しました。この山は山梨百名山であるだけでなく、花の百名山と日本二百名山というタイトルも保持しています。
櫛形山 山梨百名山の標柱
知れば知るほどにこの山は、池の茶屋林道の終点から消化試合的なピークハントをしてしまうのは、余りにも勿体ない存在なんですよね。やはり後日、真面目に下から登ることにしましょう。

山頂は一部がちょこっとだけ開けており、富士山と眼下に富士川が一望できます。特別に良く見えると言う訳でもないので、何が何でもここから見なければいけないと言うほどのものではありません。
櫛形山の山頂から見た富士山

6.かつて紫の君と称された、アヤメ平を周回する

ピークハントは無事に達成されましたが、せっかくなのでこの先にあるアヤメ平まで周回して行きましょう。と言う事で、前進を続けます。
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キャンプ場か何かであるかのように思わせる、広々と開けた空間がありました。ここだけカラマツ林になっているので、恐らくは人工的に造成された空間であると思われます。
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辺りの樹木が、かつて見たこともないような密度のサルオガセにびっちりと覆われていました。これほどに繁茂していると言う事は、ここはよほど湿度の高い場所なのでしょう。
櫛形山のサルオガセ
これが何なのかを知らない方のために説明しておきますと、サルオガセと呼ばれる苔の一種です。おもに大気中の霞などから水分を得て生きています。

そのため基本的には、多湿で霧が発生しやすい場所にしか自生していません。

地面がびっちりとコケに覆われた森が広がっていました。地衣類マニアには垂涎ものであろう空間です。
櫛形山のコケの森

突如目の前にシシ神様が現れても、なんの違和感もなさそうなさそうな光景です。
櫛形山のコケの森
「はりつめたーゆみのー」の続きの歌詞がどうしても思い出せず、始まりの部分だけを延々ループして歌い続けると言う、良くわからない遊びに興じる中年二人組です。

またもや、一体何をどうしたらこんな育ち方をするのだろうかと、不思議でならない奇樹がありました。とてもそうは見えませんが、この木はカラマツであるそうです。
櫛形山の奇樹

山梨県内の山でたまに見かける謎多き表札、やまなしの森林100選がありました。それにしても汚れ過ぎじゃありませんかね?お掃除マイペットを持参して磨きたいくらいです。
櫛形山のやまなしの森林100選

ふと脇を見ると、積乱雲の子供のような雲が垂直に沸き立ちつつありました。これから一雨来たりするのかな。
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ともかく何処も彼処もサルオガセだらけで、とろろ昆布食べ放題状態です。いろいろと不思議な光景の多い山です。
櫛形山のサルオガセ

やがて眼下に、鹿よけ柵に覆われた広大な空間があるのが見えて来ました。
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12時30分 アヤメ平に到着しました。残念ながらアヤメの最盛期には既に遅かったらしく、花の終わった後の緑々とした空間が広がっていました。
櫛形山 アヤメ平
例年ですと、櫛形山のアヤメが見ごろ迎えるのは6月下旬から7月の上旬ごろにかけてです。

鹿よけ柵の効果のほどはここでも顕著でした。柵の中にだけ、びっちりと隙間なく下草が繁茂しています。
櫛形山 アヤメ平
かつてこの櫛形山には、推定で3,000万株に及ぶアヤメが自生していました。しかしその後急速に激減し、2007年に南アルプス市によって行われた調査では、咲いているのは僅かに30株と言う燦々たる状態にまで激減していました。

原因は病気や気候の変動など多岐に及ぶものと考えられていますが、中でも最大の影響を及ぼしていたのがシカによる食害です。復活に向けた努力が今も続いていますが、まだまだ道半ばの状態です。

休憩所兼避難小屋もあります。アブがわんさか寄ってくるので、あまり長い時間留まりたいとは思いませんが。
アヤメ平の休憩所

ピークはもう過ぎてしまっていますが、それでもこうして僅かに咲いている株が残っていました。はたしてかつてのような光景を取り戻す日は、やってくるのでしょうか。
櫛形山のアヤメ

アヤメに変わって今の時期の主役を務めているのは、ここでもグンナイフウロでした。かなりの密度の群生地です。
櫛形山のグンナイフウロ

一通り散策を終えて、アヤメ平を後にします。いつの日にか、紫の君と呼ばれた光景が甦ることを願いながら。
櫛形山 アヤメ平

7.櫛形山登山 下山編 もみじ沢経由の周回ルートで池の茶屋登山口へ

もと来た道を引き返しても良かったのですが、周回ルート取れると言う事なのでこのまま進みます。
220717櫛形山-092

この周回ルートは、てっきりあまり高低差は無いトラバース路なのかなと勝手に期待しておりましたが、そうは問屋が卸さずしっかりと標高を落とします。
220717櫛形山-093

谷底に向かってかなりガッツリと標高を落としてしまった地点が、もみじ沢と呼ばれている地点です。
櫛形山 もみじ沢

周囲一帯が、ブナやカエデなどの落葉広葉樹に覆われています。名前の通りに、紅葉シーズンに訪れればきっと素敵な光景を拝めるのでしょう。
櫛形山 もみじ沢

もみじ沢を過ぎると、ガッツリ下ってしまった分を取り返すかのようにガッツリとした登り返しがありました。おかしいな、確か今は下山中だったハズなのに、なぜこんなにも激しく登らされているのだろう。
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良い感じに息も絶え絶えになったとろで、ようやくこの下山時の登り返しと言う憂鬱極まりないフェーズが終了しました。もう後は下るだけ・・・なハズです。
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足元はビッチリと羊歯に覆いつくされた、羊歯の王国状態でした。先ほどのサルオガセと言い、湿気を好む植物ばかりがこうも多いのは、やはりそれだけ湿度の多い山なのでしょう。
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なにやらお金がかかっていそうな、立派な展望デッキがありました。
櫛形山 北岳展望台

14時25分 北岳展望台に到着しました。晴れていればその名の通りに正面に北岳が見えるのでしょう。本日は完全に雲隠れを決め込んでしまっておりますが。
櫛形山 北岳展望台

北岳は見えませんでしたが、そのかわりにアサヨ峰(2,799m)が良く見えました。
櫛形山から見たアサヨ峰
この山も未踏の山梨百名山なので登りに行きたいのですが、広河原から北沢峠へ行くバスが令和元年台風十九号の影響で未だに運休しているため、アプローチのハードルが少々高いんですよね。

東京在住でかつ公共交通機関の利用を前提とすると、仙流荘は週末近くになってから思い立ってフラっと行くには、少々遠すぎるのです。

こちらは、本当は本日に登るはずだった千頭星山です。どう考えても甘利山とセットで攻略しておくべき山でしたが、今となってはあと祭りです。回収方法については少し真面目に検討することにしましょう。
櫛形山から見た千頭星山

北岳展望台から先は、フラットで大変歩きやすい遊歩道として整備されていました。傾斜が緩い分だけ、やたらと大きく九十九折れを繰り返すので余計に歩かされましたけれどね。
220717櫛形山-103

14時50分 池の茶屋登山口に戻って来ました。あれだけ多く停まっていた車も、もうほとんどいなくなっていました。後半は殆ど人とすれ違いませんでしたが、周回する人はどちらかと言う少数派なのでしょうか。
池の茶屋登山口

再びグネグネとした山道をひた走ります。正面に見えていている山のうち、たぶんどれかが源氏山なんだろうと思うのですが、どれなのかはよくわかりませぬ。
220717櫛形山-105

帰りは日本有数の炭酸泉であるらしい韮崎旭温泉に立ち寄って一日の汗を洗い落としました。入り口が老人ホームの建物と一体化していて、ちょっとわかりづらい場所でした。
韮崎旭温泉

帰りがけの国道20号線から見た櫛形山の姿です。この通りかなり目立って存在感のある山です。単に見た目が目立つと言うだけではなく、名峰と呼ぶにふさわしい要素がたくさん詰まった良き山でありました。
国道20号線から見た櫛形山

この日は三連休の最終日であったのですが、連休最終日の中央自動車道の渋滞を少々甘く見ていました。一向に捌ける様子の無い渋滞にしびれをきたし、下道の国道20号で帰宅の途につきました。
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アクセス難の僻地にひっそりと佇む源氏山は、前評判通りに地味で静かな頂でした。正直、オススメする事のできる要素に乏しい山です。山梨百名山に登るのだと言う明確な目的意識がない限り、訪問は推奨しません。人の一生は思いのほか短く、他に登るべき山は沢山あるのですから。
櫛形山については見所が満載で、文句なしに山梨の名峰であると思います。こちらも交通アクセスが良好とは言い難い立地にある山ですが、手間をかけてでも訪れるだけの価値があります。復活を遂げつつある紫の君に出会いに、訪れてみては如何でしょうか。

<コースタイム>
池の茶屋林道分岐(7:35)-源氏山登山口(8:00)-源氏山(8:50~9:05)-源氏山登山口(9:50)-池の茶屋林道分岐(10:15)

池の茶屋登山口(10:40)-櫛形山最高地点(11:15)-櫛形山(11:30~11:50)-アヤメ平(12:30)-北岳展望台(14:25~14:35)-池の茶屋登山口(14:50)

櫛形山山頂での記念撮影

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

コメント

  1. もうもう より:

    源氏山も櫛形山も自分のターゲットにしているエリアでは無いので初めて聞く山ですが、そもそも山梨百名山って誰が決めたのでしょうかね?

    「人の一生は思いのほか短く、他に登るべき山は沢山あるのですから」というコメントは正にそのとおりだと思います。「山は逃げない」という言葉も有りますが、火山による登山道の閉鎖、台風による被害、コロナ禍などなど山は逃げるものだと思って、行きたいところから素直に登っています。

    ソロで山に登るのも好きですが、気の置けない友人と「はりつめたーゆみのー・・・」的なくだらない話をしながら登山するのも、たまには良いですよね。(自分もその続きの歌詞が分かりません)

    • オオツキ オオツキ より:

      もうもうさま
      コメントをありがとうございます。

      山梨百名山は、一般公募と市町村推薦であがった候補の中から「県民に親しまれている」「全国的な知名度がある」「歴史や民俗との関わりがある」などの基準により選んだとされています。

      源氏山が選ばれた経緯は謎ですが、「歴史や民俗との関わりがある」に該当したのかなあと想像しています。

      「山は逃げない」と言う言葉は事実と異なると言うのにはまったくもって同感です。後々悔いの残らないように、登りたいと思う山には登れるうちに登っておきたいと思います。

  2. MM より:

    源氏山は名前はかっこいいのに、オオツキさんが地味と表現されるということはよっぽどですね。
    そして、鹿の食害がひどいんですか。。鹿というと身近な丹沢が思い浮かび、鹿を媒介して増えるという山ヒルを連想してしまいます。南アルプス方面もヒルが多いんでしょうか?

    山梨百名山ハンター同士の会話は笑ってしまいました。微妙な天気だけど、どうしても山に行きたい日のための山リストも作っておこうと思いました!

    • オオツキ オオツキ より:

      MMさま
      コメントをありがとうございます。

      普段からなるべく、ネガティブな感想ではなくその山の良いところを見つけて書こうと意識しているのですが・・・まことに遺憾ながら源氏山の良いところを見出せませんでした。

      甲斐南部の山にはヒルが出る山が多いのですが、櫛形山にはあまり目撃情報がありません。土壌や植生の違いなどの、複合的な理由があるのだと思います。

  3. GreenFielder より:

    オオツキ様
    毎度ブログを楽しく拝見しております。
    最近は山百のマイナーどころを攻めていらっしゃいますので、かなり山百制覇に近づいているのでは無いかと想像します。
    最近は「いつ残りの四天王を攻めるのか」が最大関心事です。
    公共交通機関でのアクセスが絶望的なことから、またSTさんが登場するのでは無いかと期待しております。
    引き続き子供の頃の週間少年ジャンプのごとくブログ更新を待ちつつ、どこかのお山で目撃出来ることを願っております。

    • オオツキ オオツキ より:

      GreenFielderさま
      コメントを頂きましてありがとうございます。

      現時点で山梨百名山の進捗は84座です。四天王の残りにもぼちぼち手を付けたいと思いつつ、日帰りが困難な山ばかりが残っているため、なかなか日程の都合がつかずに足踏みしている状況です。いずれは登って記事化しますので、気長にお待ちくださいませ。
      山梨百名山登頂状況

  4. ゴト より:

    オオツキさんこんにちは。
    山梨百名山もそろそろ完登ですね!
    櫛形山は初冬にキャンプ場から登りましたが静かで良い印象でした。裸山からの南アルプスが印象的でしたのでまた登りたい山です。源氏山はブログで拝見できたので…汗

    荒川三山、赤石岳は先日登りましたが是非登って欲しいです。アクセス難ではありますがそれを踏まえても奥深く素晴らしい山ですので!

    • オオツキ オオツキ より:

      ゴトさま
      コメントをありがとうございます。

      まあまあそうおっしゃらずに、ぜひ源氏山にも登って山梨百名山を素晴らしさを伝導する殉教者になりましょう。

      荒川三山へは行きたいのは山々なのですが、毎日アルペンの予約と東海フォレストの山小屋予約と自分の休暇と晴天のすべてが同時に揃うのは、もはや天文学的確率も良いところで不可能なのではないかと諦めかけています。