富山県立山町にある立山(たてやま)に登りました。
日本三大霊山の一つに数えられている、言わずとも知れた名峰の中の名峰です。毎年4月中旬に立山室堂へと通じる黒部立山アルペンルートが開通するため、ゴールデンウィークの残雪期であっても比較的容易にアプローチすることが出来ます。もっとも、アプローチが容易であると言うだけのことであって、この時期に登頂を果たしたければ、完全な冬山の装備が必要となります。
猛烈な暴風が吹き荒ぶ中を登った先に待っていたのは、一面が白銀に染まった残雪期北アルプスの大絶景でした。
2021年5月9日~10日に旅す。
今回は前々よりずっと行ってみたいと思っていた、黒部立山アルペンルート開通直後の残雪期の立山へと登って来ました。道の両側に雪の壁がそびえ立つこの雪の大谷の光景は、あまりにも有名です。
世界でも指折りの豪雪地帯である立山室堂付近には、多い年には20メートル近くもの雪が積もります。この室堂へと通じる黒部立山アルペンルートでは、毎年4月中旬の開通を目指して1月の下旬ごろから除雪作業が行われます。
この時期の立山室堂で忘れてはいけないのがライチョウです。ライチョウは日本国内におよそ3,000羽が生息しており、そのうちおよそ半分が立山周辺に居ると言われています。
公園のハト並みとまでは言いませんが、特に苦労して探し回るまでもなく、複数の個体の姿を目にしました。
黒部立山アルペンルートにより標高2,450メートル地点から登山を開始できるため、立山は3,000メートル峰の中では比較的容易に登ることの出来る山です。
とは言っても、それはあくまで比較的にです。天候や雪の状態次第ではありますが、五月上旬の立山は決して誰にでも簡単に登れる山ではありません。過去には大量遭難事故も発生しています。
季節が5月に入ったと言っても、3,000メートル峰である立山周辺の気象は冬と何ら変わりません。一たび天候が悪化すれば、気温は一気に氷点下まで下がり猛吹雪に見舞われることもあります。
当初の計画は、室堂にある雷鳥荘で一泊したのち、翌日は早朝から行動を開始して、別山から雄山までの立山連峰すべてのピークを縦走する予定でしました。
しかしながら、二日目は午前中いっぱいしか天気がもたず、午後からは崩れて大荒れになるとの天気予報が出されました。この直前の天気予報を受けて、野心的な縦走計画は中止して雄山のみに的を絞り、午前中の内にスパッと往復してきました。
雄山の山頂からは、見渡す限り白一色の残雪期北アルプスの大絶景が広がっていました。当初計画よりも大幅に行程が短縮され、若干の不完全燃焼感もありましたが、それでも晴天に恵まれた会心の山行きでありました。
暴風に翻弄されつつも、素晴らしき光景と出会えた立山訪問二日間の記録です。
コース
初日は純粋な移動日とし、室堂バスターミナルから宿泊地の雷鳥荘へ。二日目は、当初計画では別山から雄山までを縦走するつもりでしたが、前述の通りそれは取り止めて雄山にのみ登りました。
結果として、無理の無いゆとりある計画となりました。
1.立山登山 アプローチ編 新幹線と高速バスを乗り継ぎ、黒部立山アルペンルート玄関口の扇沢へ
5月9日 6時51分 JR大宮駅
北陸新幹線はくたか号に乗車し、扇沢行きの高速バスが発着する長野駅を目指します。
今回の計画は初日は完全な移動日となるため、特に先を急ぐ必要はまったくありません。ですが、だからと言って鈍行列車で行ける距離でもないので、贅沢に新幹線を奮発しました。
・・・奮発したと言っても自由席ですけれどね!
8時6分 長野駅に到着しました。私は一体、年に何回ここへ来ているのでしょうか。最早すっかり見慣れた光景です。
最近割と真剣に、長野県民になりと言う思いが脳裏にもたげております。寒さには強い方だし、何よりもバッタを普通に食えるし、十分に長野県民になれる素養があると思うんです。
住むなら大町辺りが良いかな。100%リモートワークが可能な仕事でも探してくれようか。と、日々妄想を膨らませています。
東口の25番バス乗り場より、8時15分発の扇沢行きのバスに乗車します。乗り場はこの階段を下った正面です。
乗車率はそこそこで、ガラガラとまでは行かないものの、混雑はしていませんでした。なお運賃は先払い方式で、扇沢までは3,100円と結構な値段です。
扇沢に近づいてきたところで、ポツポツと雨粒が落ち始めました。これは始めから織り込み済みで、午後から天気は回復して来る予報となっております。
9時53分 扇沢駅に到着しました。正面に見えているはずの爺ヶ岳(2,670m)も、今は濃厚な雲の中です。まあ本日は移動日ですからね。いちいち天気に一喜一憂せずに、デンと構えて行きましょう。
2.黒部立山アルペンルートで、立山室堂へ
ここからは、立山室堂行きの黒部立山アルペンルートに乗車します。何種類もの乗り物を乗り継いでゆく、乗り物好の人間には垂涎の行程です。
往復券の値段は9,470円と、これまた結構な値段です。この券は発行日から5日間有効なので、複数日を費やす縦走登山の計画であっても、往復券を購入してしまって問題はありません。
という事で最初の乗り物は電動バスです。映画「黒部の太陽」でおなじみの、破砕帯をぶち抜いてしまって大量出水で掘るのにえらい苦労したという、いわくつきのトンネルの中を走行します。
およそ15分程で黒部ダムに到着しました。バスから降りるなり、下界とは明らかに違う冷たい空気が出迎えてくれました。と言うか寒ッ!
長々としたトンネルを抜けると、目の前に立山がその姿を現しました。雄山が真正にあるはずなのですが、ここでも予報の通りに濃密な雲に覆われていました。
今の時期の黒部湖の水量はかなり少なめです。これから飛騨山脈の雪解けが進んで行くにしたがって、やがてここは雪解け水で満杯になります。
水があまりないため、当然ながら観光放水も行われていません。例年ですと、6月の下旬頃から10月の中旬までの間に行われます。
ダム堤体の眼下には、日本有数の急流である黒部峡谷が続いています。今は穏やかなものですが、雪解けシーズンになると凄まじい激流となります。
この渓谷に沿って、下流の黒部宇奈月温泉まで、かつてダム建設の資材搬入のためにつくられた歩荷道である、水平歩道が続いています。いつか必ず歩かなくてはと思いつつ、未だに訪問が叶っておりません。
この下ノ廊下と呼ばれるルートは、残雪が完全に無くなる9月頃に入ってから解放され、再び雪が降り始める10月の下中までしか歩くことが出来ません。
1ヵ月ちょっとの間にしか歩くことが出来ない、期間限定のコースです。
お次はケーブルカーに乗車します。どことなく昭和を思わせる雰囲気の看板が素敵です。まあ、実際に昭和に作られたものですが。
このケーブルカーは、真っ暗なトンネルの中を移動するだけなので、あまり楽しくはありません。
10時50分 黒部平に到着しました。この先の乗り継ぎはあまりスムーズではなく、多少の待ち時間が発生します。
ただボッーとして待つのも退屈なので、待ち時間を利用して屋上の展望所に登ってみましょう。
屋上はまさに天上のテラスと言える、小洒落たスペースになっていました。天気の方も回復して、青空が見えて来ましたね。これは良い兆候です。
正面には、次に向かう大観峰が良く見えました。雄山の山頂の方は、相変わらず雲に覆われたままです。
お次はロープウェイです。11時10分発の大観峰行きに乗ります。
この黒部ロープウェイは、途中に支柱が一本も無いのが特徴です。言われてみると確かに見当りません。見るからに雪崩の多そうな地形だから、柱を立てたくなかったのでしょうか。
良く見ると、テンションの異なっているワイヤを複数束ねた複雑な構造をしており、途中に重り(?)の様なものがぶら下がっています。
なぜこれでたわまずにテンションが保てるのか、理屈はよくわかりませんが凄いことを考えるものです。
11時17分 大観峰に到着しました。次のトロリーバスの発車時刻は11時45分とのことで、ここでもまた結構な待ち時間が発生しました。
この乗り継ぎの悪さは、客を途中にある土産物点に立ちよらせるために、わざとやっているのですかね?
仕方がないので、ここでも再び展望所へ。見える光景は黒部平からのものとあまり変わり映えしません。
正面に居並んでいるのは、右から順に針ノ木岳(2,821m)、スバリ岳(2,752m)、赤沢岳(2,678m)および鳴沢岳(2,641m)です。何れも北アルプスの中にあっては、比較的歩く人の少ない穴場的な山です。
季節限定の雪のトンネルが出来ていました。常にとけ続けており、通行すると水浸しになります。
いよいよ最後の乗り物です。室堂行きのトロリーバスに乗車します。このバスが走るトンネルは雄山のちょうど真下を貫いており、その土被りは700メートルに及びます。
11時55分 立山室堂に到着しました。扇沢を出発してから実に2時間にもおよぶ長旅でありました。
3.名高き立山室堂の雪の大谷を見物する
ちょうど小腹も空いて来たので、お昼にしてゆきましょう。室堂ターミナルにおけるお食事処は、この立ち食い蕎麦屋か、もしくはホテル立山の高級なレストランの2択となります。
中間が無い両極端な価格帯ですな。私は当然立ち食い蕎麦です。
本日この後はもう、宿泊地である雷鳥荘へ向かうだけです。時間にはまだまだ余裕があるので、出発前に名高き雪の大谷を見物して行きましょう。
現在の室堂の気温は0.9度あり、思ったほど寒くはありません。それよりも、ガスが一向に取れないことの方が気がかりです。
道の両側に、見上げる高さの雪の壁が立ちはだかります。開通直後には20メートル以上あるそうですが、今はもう10メートル少々いくらいかな。
この雪は自身の重みによって高密度に圧縮されているため、横へ崩れることは決してありません。
ちょうど良いタイミングで、富山方面からのバスが通り抜けていきました。バスと比べると、壁の高さの程が良くわかるかと。
一瞬でもいいから青空が顔を覗かせてくれないものかと少し粘りましたが、一面シルキーな光景に変化はありません。諦めて雪の大谷を後にしました。
4.ライチョウ達と戯れながら、宿泊地の雷鳥荘へ
富山県の条例により、残雪期の立山に入山するには、登山計画書の提出とビーコンの携帯が義務付けられています。
ビーコンについてはレンタルがあり、この入山安全相談窓口で受け付けています。
レンタル料は5,000円と結構な値段ですが、買うと4万円以上するので、何度も使用する予定があるわけでもない無い限りはレンタルで充分です。
建物をでると、頭上には青空が広がりつつありました。何たる僥倖。これは何もかもがうまくいってしまうパターンなのではなかろうか。
・・・ええ、一瞬の夢でしたがね。すぐにまた、濃厚なガスに包まれてしまいました。仕方がありません。このまま雷鳥荘へと向かいましょう。
目印の竹竿が一定感覚に並んでいるので、よほど極端な悪天候でもない限りは、道を見失う事は無いと思います。
常時ガスっている訳ではなく、ガスっては晴れるを目まぐるしく繰り返しています。ガスが取れたタイミングで、前方にみくりが池温泉の建物が見えました。
温泉の裏手にある地獄谷が、活発に噴気を噴き上げていました。風に乗って、濃厚な硫化水素臭が漂ってきます。
例えガスってしまっていたとしても、そう悪い事ばかりでもありません。ひょっこりとライチョウが姿を見せてくれました。「何をしているの?」とでも言わんばかりに、こちらの様子を伺っていました。
ライチョウは天敵を避けるために、悪天候時に活発に行動する性質があります。そのため、ガスっている時の方が遭遇できる可能性が大きくなります。
これは雌ですね。真っ白な冬毛から、夏毛への生え変わりが既に始まっていました。
足に個体識別のためタグらしきものが巻かれています。立山のライチョウは基本的に人を全く恐れません。
雷鳥荘があるのは、みくりが池温泉よりもさらにもう少し先になります。晴れそうで晴れない中を進みます。
足元に大きなクラックが走っていました。埋まらないよう足元には要注意です。
再びライチョウが現れました。今度は雄ですね。何かを追うように、目の前を猛スピードで走り抜けて行ってしまいました。
眼下に雷鳥沢キャンプ場が見えました。テントの数はかなり疎らです。もし宿の予約が取れなかった時は、あそこでテント泊するつもりでいました。
15時30分 雷鳥荘に到着しました。なお、この正面玄関があるのは二階で、一階部分は完全に雪に埋まっていました。
5.雷鳥荘で過ごす快適極まりない一夜
宿泊の受付をします。雷鳥荘は完全予約制の宿で、当日飛込みでの宿泊は出来ません。翌日は早出する予定でいるため、夕食のみが付くプランを予約しています。料金は8,950円で、別途入浴料が150円かかります。
個室もありますが複数人向けで、お一人様は有無を言わずに相部屋となります。
相部屋の様子です。2段ベットが4つあり定員は8名です。この日は至って空いており、同室なのは私ともう一人の2名だけでした。
この雷鳥荘の素晴らしい点は、なんと言っても源泉かけ流しの温泉がある事です。この雷鳥荘自慢の展望風呂からは、素晴らしい眺望が広がる・・・はずです。外が晴れていればね。
上下水道がしっかりと整備されているらしく、普通に石鹸やシャンプーが使えます。下界の温泉と何ら変わらない快適空間です。
とりあえずひと風呂浴びた後に窓から外を見ると、天気は回復に向かいつつありました。この様子なら夕焼けは見えそうかな。
さあ、お楽しみの晩御飯です。もはや山小屋の食事と言う域にはない、普通の旅館に出て来そうなご馳走です。
この食事と先ほどの温泉のレベルの高さ鑑みるに、8,950円と言う宿泊料金は、罪悪感を覚えるくらいに破格であると思います。一度この快適さを知ってしまったら、もうテント泊をしようと言う気にはなれなくなりそうです。
長くなったので一行にまとめると、雷鳥荘は最高です。
食事後に夕焼けを眺めようと表に出てみましたが、どうやら駄目なようです。部分的に青空が見えてはいるものの、依然として周囲はガスに巻かれています。
暗くなるにつれて、雷鳥沢キャンプ場を挟んだ向かいの別山(2,880m)の姿が良く見える状態になりました
しかし肝心の立山本体の姿が一向に見えません。この写真はガスの切れ目の奇跡の一瞬を切り取っただけで、すぐにまた見えなくなりました。
何時しか周囲はすっかり暗くなりました。いい加減寒くなってきたことであるし、諦めて部屋に戻りましょう。
深夜12時 懲りずに表に出てみると、頭上には満天の星空が広がっていました。あまりにも寒かったので、この一枚を撮影した後に早々と中に引っ込みましたがね。
6.早朝の室堂平を横断し、一ノ越を目指す
明けて5月10日 朝5時
雷鳥荘前よりおはようございます。昨日はあれほど頑なに姿を見せよとしなかった立山が、本日はこの通り朝から良く見えております。格好の登山日和になりそうな予感ですね。
しかしまことに残念ながら、格好の登山日和とも言えないんです。予報によると、山頂付近には風速20メートル以上の暴風が吹き荒れており、しかも午後からは崩れるという事です。
当初は別山から雄山まで、立山連峰全山を縦走する野心的な計画を温めていましたが、午前中しか天気がもたないという事であるので予定変更です。雄山のみに的を絞って速攻でスパッと往復します。
という事で、前日に歩いた道を室堂方面に向かって引き返します。今のところ雪は堅く締まっており、歩きやすいコンデションです。
振り返って見ると、宿泊した雷鳥荘の背後に、奥大日岳(2,611m)が佇んでいました。この山も、初夏の花のシーズンに歩いてみたいんだよな。
室堂バスターミナルまでは戻らず、途中から一ノ越方面へ進路を変更します。
立山の上に、傘雲らしき雲がかかっているのが見えます。傘雲が出来るという事は、山頂にかなりの強風が吹いているという事です。どうやら予報は正しいようですな。
これは雄ですね。目の上に大きな赤い肉冠があるのが外見上の特徴です。この肉冠は雌にもありますが、雄の方が大きくはっきりと見えます。
5時45分 立山室堂山荘まで歩いて来ました。江戸時代に創建されたと言う、室堂平で最も古い山小屋です。
ここから、鞍部にある一ノ越を目指して登って行きます。
今日歩こうとしている行程のなかで、雪崩が起きる可能性が最も高そうなのが、この室堂山荘から一ノ越の間の区間です。気温が上がって雪が緩んできしまう前に、素早く通り抜けてしまう事にしましょう。
ちょっと嫌な感じのするトラバース地帯に入ります。この時間はまだまだ雪が堅く締まっており、アイゼンの刃が小気味よく刺さります。
まあ仮にここから滑落したとしても、下は断崖絶壁と言う訳でもなので、恐らく死にはしないと思います。埋まってしまう可能性は否定できませんが。
背後を振り返ると、薄暗かった室堂平に陽の光が差し込んでいました。
この奥大日岳という名称の由来となったいるのは、言うまでもなく大日如来でしょう。大日如来は太陽の権現であるとされている仏です。
昔の人がこの山に大日如来にちなんだ名前を与えた理由は一目瞭然です。この山は立山の日影にある室堂一帯の中で、一番最初に朝日に照らされる位置にあります。
割とすぐそこにある様にも見えていた一ノ越ですが、歩いてみると結構な距離があります。空気が薄いため、ちょっと登っただけでもすぐに息が上がり、なかなか苦しい登山です。
稜線に近づいててきたところで、風がかなり強くなってきました。やはりこの先からは、暴風に晒されることは避けられない展開なのか。
鞍部に立つなり、これまでとは次元の違う横風が吹き付けていました。まともに立っていられないレベルの風です。オイオイ、こんな状況で、本当に山頂までたどり着けるのかい。
たまらず小屋の影に避難すると、風は嘘の様にパタリと止みました。どうやらこの暗部は、ちょうど風の通り道になっているようで。
黒部ダムの建設当時に、一ノ越まで運び上げたブルドーザーを、この場所から橇に乗せて谷底へ落としたのだそうですよ。凄いこと考えますよね。
正面には北アルプスの山並みが居並びます。季節は5月に入っても、標高3,000メートル級の山々はまだまだまだ冬のままですね。
槍ヶ岳(3,180m)が見えます。この山は、本当にどこからでも良く目立ちます。
立山の上から、ようやく太陽さんがこんにちわです。強風に吹かれて冷え切っていた体が、温まって行くのを感じます。太陽すげえ。
7.立山登山 登頂編 暴風の吹き荒ぶ急登の果てに待つ、北アルプスを一望する大展望の頂
意を決して、小屋の影から再び暴風の中へと飛び出しました。ここからは、ストックを収容してピッケルに持ち替えました
稜線上は岩と雪のミックス状態です。所々にペンキのマーカーがありますが、これはあくまで夏道を示しているものであり、今の季節の正解であるとは限りません。
それにして凄い急勾配です。過去にテントを担いだ状態で登ったことがある道なのですが、こんなに急だったけっか。
日中にとけた雪が夜にまた再凍結するらしく、岩場はカチンコチンのアイスバーンになっていました。
頂上にある雄山神社の建物が見えて来ました。もううあと少しなのだけれど、強風にゆすぶられてなかなか足が前に出ません。風上を向いていると・・・まともに息が・・・出来ない。
私が過去に体験したことのある強風の中でも最も強力だったのは、富士のお鉢巡りをしていた時に遭遇したものでした。今吹いているこの風は、それに十分匹敵しうる強さに感じられます。
山頂直下最後の登りです。山影に入った事で、風は少し弱くなりました。一気にラストスパートをかけて行きましょう
7時55分 雄山に登頂しました。雄山だけなら大したことは無いかと思いきや、思いのほか苦しい登りでありました。まさかここまで風の影響が強いとは。
最近の私はswc天気予報ばかりを重用しており、てんきとくらすがC判定であったことにさほど注意を払わなかった事への報いなのかもしれません。
8.雄山山頂からの大展望
立山は周辺一帯にある山のなかでも、最も標高の高い山です。山頂からは、視界を遮るものがないもない360度全方位の展望が開けます。
遠くにモヤっと霞んで見えるこの大きな山は白山(2,702m)です。富士山、立山と並ぶ日本三霊山の一つに数えられている山です。
北には、別山へと続く立山連峰の山並みです。こんなに風が強く無かったら、縦走したかったんだけれどな。
別山の先には稜線越しに頭だけ、岩と雪の殿堂こと剱岳(2,999m)の姿が見えました。この山を目の前から眺めたかったら、別山まで行くしかありません。
雄山の最高地点は、この小さなお社が立っている場所です。無雪期には拝観料を納めないと立ち入りできな場所ですが、今なら無料で入れます。
この鳥居ですね。こうして見比べると、どれほど大量に雪が積もって居るのかが良くわかるかと思います。
という事でここが本当の山頂です。前回訪問時には、待ち行列が出来ていて立ち入らなかったので、何気に今日が初登頂という事になりますな。
ちなみに、立山連峰の最高峰は今いる雄山(3,003m)ではなく、この一つお隣の大汝山(3,015m)です。
雄山から大汝山へ行くには、夏道は室堂側をトラバースするのですが、積雪期にはこの山頂から真っすぐ岩場を下るのが正解らしい。
って、ここを下るんかい!・・・確かに足跡らしきものが見えますな。
今回は天候を理由に縦走を断念しましたが、そもそも果たして自分に、ここを登り下り出来るだけの技量があるのだろうか。どちらにしろ、縦走中止と言う判断は正しかったように思えます。
大汝山の右手には、黒部峡谷を挟んで後立山連邦連峰の山並みが連なります。右から順に鹿島槍ヶ岳(2,890m)、五竜岳(2,814m)および唐松岳(2,696m)です。
南には北アルプス中央部のが居並びます。なんと言ってよいのか、絶景過ぎて言葉がありません。
黒部峡谷側に向かって、幾重ものシュプールが残っています。ここから滑り下りたとなると、黒部湖に向かって降下したという事なのかな。
往路のロープウェイから見た限りでは、雪崩の跡だらけだった斜面です。なるほど確かにここから滑りたければ、ビーコンは必携品でしょうな。
薬師岳(2,926m)へと続く稜線です。一見なだらかそうに見えて、意外とアップダウンがあります。ここも花の季節に歩いてみたいんだよな。
眼下には室堂平がドーンと広がります。略して室ドーン・・・いえ、なんでもありません。
室堂平は、今からおよそ4万年前の噴火によって形成された溶岩台地です。上から見下ろすと、かなり特異な地形であることがよくわかるかと思います。
ゴール地点の室堂バスターミナルが見えました。本当にここだけ除雪されていて、上けから眺めると面白い。
大日連峰の先には、薄っすらと富山湾が見えました。立山が富山県のシンボルとされている所以が良くわかる光景です。
最後に遠くに薄っすらと見えている南アルプスと(右奥)と八ヶ岳(左奥)です。
良く目を凝らしてみると、餓鬼岳の背後に、薄っすらと富士山が見えていました。遠くからでも見えるものですな。
眼下にちょこっとだけ黒部湖が見えました。黒部ダムの堤体自体は、ここからでは見えません。
9.立山登山 下山編 雪山の下山はあっという間
名残惜しいですが、天気が崩れ始める前に撤収することにしましょう。8時45分に下山を開始します。
急勾配ゆえに、下山はかなり神経を使いました。そもそもこの傾斜度では、例えピッケルを持っていたところで、滑りだしたときに果たしてちゃんと滑落停止が出来るのだろうか。
9時20分 途中かなりヒヤヒヤしながらも、何とか一ノ越まで無事に戻ってこれました。ここでピッケルは収容して、再びストックに持ち替えます。
早朝はほぼ貸し切りの状態でしたが、この時間になると結構な人数の登山者が登って来ます。朝一に扇沢から登ってきた人々がやってくる時間帯が、ちょうど今くらいなのでしょう。
行動時間に余裕のある一泊二日の行程を組んだおかげで、うまい具合に山頂を独占できたようです。
再びトラバースを通過します。陽に照らされたことによって、雪がかなり緩んできており、朝に通り抜けた時よりは雪崩のリスクが大きくなっているように感じました。なるべく足早に通り抜けてしまう事にしましょう。
雲一ついない快晴だった空には、何時しか雲が湧きつつありました。
その後もサクサクと快調に下り続けて、割とあっけなく室堂バスターミナルが見えて来ました。
立山もこれで見納めです。さらば立山、素晴らし眺望をありがとう。きっといつかまた来ます。
10.立山登山 帰宅編 再び黒部立山アルペンルートを辿る、長い長い道のり
下りでも、やはり途中途中でいちいち微妙に待ち時間が発生するイマイチな乗り継ぎです。
黒部ダムでは約1時間の待ち時間が発生しました。いやまあ、その時間を使って見物していきなさいってことなのでしょうけれど。
帰りはせっかくなので、往路ではスルーしてしまった展望台に立ち寄って行くことにしましょう。上の方に見えているガラス張りの建物が展望台です。
この壁に取って付けた工事現場の階段のようなものが展望台への道です。階段は全部で280段あるので、覚悟して登りましょう。
何時しか予報の通り、頭上が白い雲に覆われつつありました。そろそろ予報の通りに崩れ始めるのかな。
眼下に黒部ダムを一望できます。身も蓋もないこと言ってしまうと、やはり観光放水していない時だとまったく見栄えがしませんな。ただの大きなコンクリートの壁にしか見えません。
展望台でゆっくり寛いでいたら、電気バスの改札開始5分前ですと言うアナウンスが入り、慌てて階段を駆け下りました。
という事で、無事に扇沢への最後の乗り物に乗ることが出来ました。
扇沢に戻ってからの乗り継ぎはスムーズでした。既に信濃大町駅行きのバスが待機していたので、これ幸いとそのまま乗り込みます。
信濃大町から一度松本に出て、そこから特急あずさで帰宅の途に付きました。
さて最後になりましたが、残雪期の立山へ登るために一体いくら費用がかかったのかを、参考までにまとめておきます。
長野駅までの新幹線(自由席):7,810円
長野駅から扇沢への高速バス :3,100円
黒部立山アルペンルート往復 :9,470円
雷鳥荘宿泊 :9,100円
扇沢から信濃大町の路線バス :1,390円
信濃大町から新宿(あずさ) :7,390円
合計する38,260円となります。約4万円かかったという事ですな。決して安くはない、お金のかかる道楽です。
当初の目論見よりはかなり規模を縮小した山行きではありましたが、それでも満足度高いの二日間でありました。
残雪期の立山は間違いなく素晴らしい場所です。何も暴風の中を無理をして登山せずとも、室堂平を散策して雷鳥と戯れてから、温泉に浸かるだけでも十分すぎるほどに満足が出来る場所であると思います。
黒部立山アルペンルートのおかげで簡単にアプローチが出来ると言えども、ゴールデンウィークの頃の立山はまだまだ冬の世界です。天候が急変すれば、たちまち大自然の猛威が降りかかってくることになりますので、くれぐれも天候をよく見極めたうえでご訪問ください。
<コースタイム>
雷鳥荘(5:00)-立山室堂山荘(5:45)-一ノ越(6:35~6:55)-雄山(7:55~8:45)-一ノ越(9:20)-室堂バスターミナル(10:15)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント