栃木県日光市にある女峰山(にょほうさん)に登りました。
日光市街を見下ろす位置に屹立する鋭鋒です。古くから修験の道として歩かれてきた、信仰の山として知られています。いかにも修験者が好みそうな荒々しい山容を持ち、そう容易には登らせてくれない厳しい山でもあります。
女峰山の麓に広がる霧降高原はニッコウキスゲの群生地として知られ、開花シーズンになると多くの見物客で賑わいます。
花咲く高原を越えた先に待っていたのは、行動時間10時間にもおよぶ険しき道のりでした。
2017年7月8日に旅す。
今回は日光連山ファミリーの偉大なる母こと、女峰山に登って来ました。
日光のシンボル男体山の北東に位置している山で、麓の日光の市街地からも良く見えます。
標高は2,483メートルあり、男体山とは1メートルしか違いません。
日本百名山のブランドをもち、中禅寺湖とともに日光を代表する景勝地としての地位を占める男体山と比べ、母は知名度の点において少々劣っています。
しかしながら、その登り応えにおいては、女峰山は男体山をはるかに凌駕する山です。日光の市街地から直接屹立している女峰山は、何処から登るにしても非常に長丁場です。
山中にはキャンプ指定地も営業小屋も存在せず、標準コースタイム10時間の行程を日帰りで歩ききるか、さもなくは避難小屋に泊まるしかないと言う、なかなかスパルタンな山であります。
日光連山ファミリーにおいて、母は父よりもはるかに厳しい存在であるという事ですな。
登山口のある霧降高原では、ニッコウキスゲがまさに満開の見ごろを迎えていました。
花咲く高原から始まる登山は、何時しか険しき修験の道へと変わって行きます。なかなかギャップの激しい山です。
ひたすらながーい道程にヘトヘトになりつつも、何とか一日で歩き通してきました。
コース
霧降高原から赤薙山を経て女峰山へ登頂します。下山は、標高差1,700メートルにもおよぶ長大な黒岩尾根を辿り、日光東照宮へ直接下ります。
標準コースタイムは10時間超です。日帰り登山としては、間違いなく健脚者向きの行程です。
1.女峰山登山 アプローチ編 電車とバスで霧降高原へ
6時42分 東武日光線 北千住駅
本日は珍しく奮発して特急にしました。特急リバティけごん1号で東武日光駅へ向かいます。
以前には、普通運賃だけで乗れて、東武日光駅まで直通運転する快速電車が存在したのですけれど、何時の間にか廃止されてしまいました。
快速電車があまりにも快速すぎて、自社の特急券販売の妨げになっていることに、遅ればせながら気付いてしまったのでしょう。
まだ真新しい車両で、内装はとても綺麗でした。東武日光までの特急券代は1,440円。得られた快適さはプライスレス。
なお、東武の特急列車は全席指定で自由席と言うものはありません。当日にフラッと行って満席だったりすると、その後の計画が破綻するので要注意です。
8時25分 東武日光駅に到着しました。青空が広がる最高の天気です。と言うか暑いです。
これから目指す女峰山は、この通り駅前から見えます。山頂付近に少し雲が掛かっていますね。登頂時には取れてくれると良いのですが。
8時42分発の霧降高原行きのバスに乗ります。このバスはJR日光駅発らしく、東武日光駅にやって来た時には、始めから既に満席でした。
超満員のバスにおよそ30分ほど揺られて、霧降高原バス停に到着です。ここまでの運賃は740円でした。
東武日光駅で霧降高原フリーパスと言う乗り放題切符を1,200円で買うことが出来ます。山頂を往復してまたここに戻ってくるつもりであれば、フリーパスを買ったほうがオトクです。
2.ニッコウキスゲが満開の霧降高原
バスから降りるなり、日光市のゆるキャラ日光仮面がお出迎えしてくれました。
地元日光市出身のメタボ中年と言う設定なんだそうです。・・・どうでもいい情報でしたかね。
さて、この霧降高原にはかつて市営のスキー場が存在しました。しかしながら、スキー客の減少や相次ぐ暖冬による雪不足などに悩まされ、スキー場は廃止に。
その後も、リフトだけが夏期の観光客向けに細々と運営されていましたが、それも平成22年をもって営業終了となりました。
今現在、その跡地はどうなっているのかと言うと・・・
頂上までの段数は圧巻の1,445段です。登山開始早々に眩暈を起こしそうになる、圧倒的階段地獄です。
てやんでぃ、こちとら階段地獄の本場丹沢で鍛えた身でぃ。こんくらいサクッと登ったらぁ。
と、何故か江戸弁で気合を入れて、9時30分に登山開始です。
かつてのゲレンデ跡は、ニッコウキスゲが咲き誇るお花畑となっています。6月下旬から咲き始めると言うことで、ちょうど見頃を迎えていました。
ちなみに、ニッコウキスゲというのは通称であり、正式にはゼンテイカといいます。
花弁の直径は10cm以上あり、花としてはかなり大柄なほうに部類しています。
かなりの密度の群生のようにも見えますが、これでも全盛期より個体数は減ってしまっているのだとか。復活ための様々な取り組みがなされているようなので、再びかつての姿を取り戻す日も近いのかもしれません。
100段登るごとに内容の異なる励ましのメッセージ?があります。
段数を数えながら登っている子供がいましたが、多分頂上に着く前に飽きてやめるでしょう。なにせ1,445段ですからねえ。
ニッコウキスゲ目当ての観光客が沢山いて、階段は渋滞を起こしていました。ハイカー風の格好をした人はむしろ小数派です。
半分の700段を越えた辺りから階段の斜度が増してきます。日差しを遮るものは何も無く、早くも大量の汗が噴出してきました。
上に行くほど群生の密度が増してきました。圧倒的黄色さに眼がチカチカします。
9時55分 登り始めて25分ほどで、ようやくこの階段地獄から解放されました。この先はまだまだ長いというのに、なんだかもうお腹いっぱいな気分です。
階段最上部より霧降高原を見下ろす。階段だけでおよそ300メートルの標高差を稼ぎました。
こちらは日光市街地。日光というのが、いかに山に囲まれた場所であるのかが大変良くわかります。
正面に見えているのは、方角的におそらく那須岳です。馴染みの無い山域なのであまり自信はありませんが・・・
本日のルート最初のチェックポイントである赤薙山が正面に見えます。女峰山本体は、赤薙山の裏手にあるため、ここからはまだ見えません。
10時 小丸山に登頂しました。ここが霧降高原と呼ばれている一帯の最高地点となります。
山頂の様子
頂上と言うよりは赤薙山の斜面に張り出した肩のような場所です。
ニッコウキスゲ目当てで来た観光客の多くは、ここまでで引き返すようです。
3.赤薙神社を越えて行く修験の道
赤薙山に向かって笹に覆われた尾根を登っていきます。時より涼しい風が吹き抜けますが、直射日光に晒されているため非常に暑いです。
大岩がゴロゴロと転がっている庭園風の道を進みます。地図によると、この付近は焼石金剛と呼ばれています。
割と急な登りで、先ほど通った小丸山があっという間に小さくなりました。
前方に赤薙山の頂が見えて来ました。その名が示す通り山腹に赤茶けたザレ場がある山なのですが、霧降高原側からは見えません。
ここまで歩いてきた尾根を振り返って見る。展望の開けた非常に気持ちの良い道です。
赤薙山の山頂に近づいてきたところで、好展望タイムは終わり樹林帯に入ります。直射日光が無くなって少しは涼しくなるかと思いきや、今度は蒸し暑くなってきました。
森の雰囲気がなんとなく白根山に似ています。
比較的近くにあって、しかもどちらも火山であるため、植生が近いのかもしれません。
11時10分 赤薙山に登頂しました。この時点で既に標高は2,000メートル越えです。
山頂の様子
森の中にお社があるだけの山頂です。展望は一切ありません。
さあ、ここからはいよいよ目指す女峰山の姿が・・・
って、ガスっとるやんけワレ。
赤薙山の山頂がちょうど天気の境になっているようです。まあ、山ではよくあることですね。
赤薙山の先はこれまでの笹の稜線とは一転して、岩の露出する険しい道になります。
岩の稜線を小刻みに登ったり下りたりします。修験の山らしい光景になってきましたよ。
12時 赤薙奥社跡に到着しました。かつて赤薙山神社の奥社があった場所らしいですが、今は何も無い小さな平場となっています。
シャクナゲが一輪だけ咲いていました。見ごろを迎えるのは6月中旬ぐらいなので、今年のシーズンはもう終わりですね。
奥社跡からは一旦下ります。シャクナゲの枝はまるで鞭のようにしなうので、薮を突っ切るとはたかれて痛い。
下った後は当然登り返し。霧降高原スタートならばさほど標高差はないのかと思いきや、小刻みに登って降りてするので、累計の標高差は馬鹿になりません。
ちょうどこのヤハズの尾根筋がガスの発生地点となっていました。南の日光側からモクモクとガスが立ち昇ってきています。
ここからはしばらく平坦な道が続きます。ここまでの小刻みにアップダウンが続く道で、すっかり疲労困憊気味だった体に一時の安らぎが訪れました。
ここにも、僅かながらまだ散っていないシャクナゲが残っていました。
ここで何よりもうれしい青空が頭上に顔を覗かせました。このままガスが取れてくれると良いのですが。
平坦な道を気持ちよくサクサク歩いてたところで、視界が開けました。
13時 一理ヶ曽根に到着しました。地図上では独標と書かれている場所です。
ここで初めて本日の目的地、女峰山が正面にその姿を現しました。うん、まだまだ遠いいですな。
山頂の様子
岩の散乱した広場になっています。そして、周囲は視界の遮るものが無い360度の展望です。
ここまで歩いてきた稜線。中央右にある小さな突起が赤薙奥社跡です。ほぼ水平移動だったことが良くわかります。
これから歩く女峰山への稜線も一望できます。一理ヶ曽根から馬蹄形に大きく回りこんでゆくように尾根が続いています。
女峰山はかつて、男体山と同様の円錐形をした成層火山だったそうです。
相当古い火山であるため、今ではすっかり開析が進み、このように至るところがガレた険しい山となっています。
日光市街地が彼方に霞んで見えました。ずいぶんと遠くまで歩いてきたものです。
4.女峰山登山 登頂編 幾多のガレ場を越えて、厳しき母なる頂へ
さて、時刻は既に13時。あまりゆっくりとしている時間は無いですぐ先へ進みます。まずは一旦大きく下ります。
夏の盛りであるにもかかわらず、水量は豊富でした。冷たくてとても美味しい。ついでに頭から水を被ってスッキリしました。
実のところ、暑さにだいぶやられかけている所だったので、この水場の存在には救われました。
樹林帯の急坂を登り返します。この辺りは踏跡がやや不明瞭でした。
イワカガミの群生地が広がっていました。これは珍しい白のイワカガミ。
山頂が見えてはいるのですが、なかなか辿り着けません。ここまでの長い道のりで、大分足取りが重くなってきました。
ガレ場の急登です。登りはいいとして、下りに使うならロープかクサリが欲しいところです。
上から見るとこんな感じです。結構な高度感があります。
急登一辺倒であるものの、取り立てて危険箇所と言うものが無かった男体山と比べると、女峰山は結構危険な山です。日光連山ファミリーの中では、お母さんが一番厳しいと言うことです。
どうでもいいことですが、厳父という言葉があるのに、厳母とは言わないんですよね。お母さんのほうが厳しい家はなんと表現すればよいのでしょう。
時より青空が見えますが、長くは続きません。晴れてはガスるのを繰り返します。
日光連山ファミリーの長男、太郎山(2,368m)が見えました。お父さん(男体山)と良く似た山ですね。
山頂付近にもう一箇所エグイ登り返しが待ち構えています。厳母には最期まで慈悲はありません。
ここにはロープが整備されていました。山と高原地図に危険アイコンが書かれている場所一箇所ありますが、多分ここのことです。
ほぼ垂直ですが、手掛かりが十分にあるので特に難しくはありません。
山頂直下最後の登りはハイマツの回廊です。高山帯らしい光景になってきました。
ここにも神社がありました。その名も女峰山神社と言い、麓の白糸の滝付近にある滝尾神社の奥宮です。
14時10分 女峰山に登頂しました。霧降高原からの所要時間は実に4時間40分です。遠かったあ。
標高は2,483メートルあります。なお、男体山の標高は2,484メートルです。たった1メートルの差ですが、なんとかお父さんの沽券は守られていると言うことです。
前方には帝釈山へと続く稜線。時間が許せばこの先まで行ってみたい所ではありますが、公共交通機関利用の日帰りではちょっと厳しいですね。
北側の展望です。麓は晴れているものの、遠望は全く効きません。晴れていれば会津地方の山が見えるはずです。
南側の展望は相変わらずゼロです。男体山が目前にあるはずですが全く見えません。
ここまで歩いてきた赤薙山から続く稜線。尾根筋が馬蹄形に大きく湾曲している様が良くわかります。
5.女峰山登山 下山編 日光のバカ尾根を下って二荒山神社へ
14時30分 登りで思わぬ苦戦をしたため、あまりノンビリしていられる時間の余裕はありません。僅かな山頂滞在時間で下山を開始します。
今からなら、ギリギリヘッドランプを使わずに間に合うかと言うような時間です。
下山路の黒岩尾根は、女峰山山頂から日光東照宮の裏手へ至る標高差1,700メートルにも及ぶ長大な尾根です。かつての修験の道なのですが、なんでも日光のバカ尾根と言う通称で呼ばれているのだとか。
そういう事であれば、是非とも大倉尾根とどっちがよりバカなのか、歩き比べてみなければいけませんねえ。
手始めはハイマツ帯の下りです。女峰山にハイマツがあるのは、本当に山頂直下のごく一部のみです。
ハイマツ帯をぬけると、ガレ場の急坂が出現します。
私はガレ場の下りが非常に苦手です。こういう道が出現すると、眼に見えてペースが落ちて、後から来た下山者に追い抜かれまくります。
というか、何でみんなあんなヒョイヒョイと下って滑らないんでしょうか。不思議でなりません。歩き方が悪いのか。バランス感覚が悪いのか。はたまた体重が重すぎるのか。
ガスの中に隠れているのは多分男体山です。今日のお父さんは極度の恥ずかしがり屋さんなようで。
15時5分 唐沢避難小屋に到着しました。女峰山の山中では唯一の宿泊可能な場所であり、満員とまでは行かないものの結構沢山の人が居ました。
ガレ場で私を追い抜いた人たちも、今日はここに泊まるようです。まあ確かに、一泊したほうが無理のない行程ですよね。
白根山にあった避難小屋と同じデザインをしています。ハシゴで2階へ直接入れる構造をしているのは、雪が多い地域の避難小屋ならではですね。
ちなみにトイレはありません。水場は少し下ったところにあるそうです。
さあ、時間が無いのでサクサク行きます。小屋からはしばらく平坦な道が続きます。見方を変えると、なかなか標高が下がりません
女峰山は至るところがガレている山です。浸食谷が麓まで延々と続いているのが見えます。
16時 視界の良い草原状の場所に出ました。下山開始から1時間半が経過し、いいかげん足が棒になってきたのでここで1本立てました。
16時40分 逢拝石と呼ばれる地点を通過します。ガスっていなければ展望がよさそうな場所です。
これが逢拝石です。信仰の山である女峰山はかつては女人禁制の山であり、女性はここまでしか立ち入ることが出来ませんでした。山頂の神社を詣でる代わりに、この岩を拝していたとのことです。
再びガレ場に突入します。踏み跡が疎らで非常に道がわかりにくいです。ペンキの印を辿って進みましょう。
薄っすらと谷底の雲竜渓谷が見えます。冬期になると、巨大な氷瀑が出来ることで有名な場所です。
八風と書いて何と読むのでしょうか。ヤフー?な訳ないですよね。
急坂を下りきると傾斜が緩み、なだらかな道になります。日没ゲームセットも近づいてきていることであるし、ここぞとばかりにペースをあげて行きます。
ここからがひたすら長いです。2時間近くずっとこんな感じの光景が続きます。この辺りは半分駆け足で下りました。
うん、この尾根は大倉尾根よりもずっとバカですね。
17時50分 稚児ヶ墓に到着しました。地図によれば、麓まではまだ1時間以上はかかります。周囲はまだ明るいですが、直ぐに取り出せるようにヘッドランプをザックの底から雨蓋に移しました。
と思いきや、また山道に逆戻りします。日光のバカ尾根はなかなかのしつこさです。
ここでついにタイムオーバーです。足元が見えなくなってきたため、ヘッドランプを装着しました。
19時 行者堂に到着しました。明るく見えるのは単にISO感度を上げているからで、実際の周囲はもっと薄暗い状態でした。
二荒山神社の境内に入ったようです。巨木の立ち並ぶ参道を下ります。
ちなみに、男体山の麓にある二荒山神社は中宮です。何でも、日光と呼ばれている一帯のほぼ全域が二荒山神社の境内なのだとか。スケールが大きいですな。
19時30分 総合会館前バス停に到着しました。行動開始からちょうど10時間でのゴールです。たくさん歩いて疲れたあ。
幸いなことに、バスはすぐにやってきました。10分ほどで駅に到着です。
世界遺産の町日光には、夜でも大勢人が居るかと思いきや、駅前は閑散としていました。日光と言うのは実に健全な場所なのですね。
女峰山は厳しい山であると聞いていましたが、前評判とおりの実にハードな行程でした。名だたる名山が立ち並ぶ日光にあっては、玄人向けの山と言えるでしょう。
10時間におよぶ標準コースタイムも、いくらかは巻けるだろうと高を括っていましたが、実際に歩いてみると、足場の悪いガレ場が多く、結局ほぼ標準コースタイム通りの時間を要しました。
日帰りしようと考えている方は、もしもの時のために、避難小屋で一晩を過ごせるだけの用意をして行くことを強く推奨いたします。
霧降高原ピストンならば多少は楽かもしれませんが、どのみち長丁場であることには変わりありません。容易な山ではないと言うことを十分に認識した上で挑戦して下さい。
<コースタイム>
霧降高原(9:30)-小丸山(10:00)-赤薙山(11:10)-赤薙奥社跡(12:00)-一理ヶ曽根(13:00)-女峰山(14:10~14:30)-唐沢避難小屋(15:05)-逢拝石(16:40)-稚児ヶ墓(17:50~18:00)-行者堂(19:00)-総合会館前BS(19:30)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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