栃木県日光市にある日光男体山(にっこうなんたいさん)に登りました。
中禅寺湖のすぐ傍らに立ち、日光を象徴する極めてシンボリックな山です。湖畔から望むその姿は、日本百名山の著者である深田久弥に「天の造詣の傑作」とまで言わしめたほどの光景です。傍から眺める分には優美なこの山も、いざ登るとなると直登一辺倒のドロ臭い山行きとなります。
名前通りの男らしく真っすぐな山で、湖と関東一園の山並みを望む絶景を楽しんで来ました。
2019年5月5日に旅す。
日光男体山は、山そのものが二荒山神社(ふたらさんじんじゃ)のご神体でもあります。そのため、男体山へ登ると言う行為の事を、登山とは言わず登拝(とうはい)と言います。
登拝が許される期間は予め決まっており、例年だと5月5日の子供の日が男体山の山開きでありました。
ここはひとつ山開き当日に登ってやろうかと思い訪れたわけですが・・・改元に伴う対応なのか、2019年より山開きは4月25日に変更されたとの事でした。
と言う訳で今回の山行きは、山開き当日でも何でもない、ただの男体山登拝記です。まあ、おかげであまり混雑はしなかったので、良かったと言えばよかったのかもしれません。
全般的に積雪量の少なかった2019年の冬ですが、春も近い3月から4月にかけてから新たに雪が降ったこともあってか、男体山にも意外と多くの雪が残っていました。
想定外の雪との格闘があったものの、天気は上々で格好の登山日和でありました。山頂からの中禅寺湖パノラマビューを心行くまで楽しむ、ゴールデンウィーク終盤の男体山訪問記をお送りします。
コース
二荒山神社から男体山を往復します。標準コ-スタイムで往復6時間20分の行程です。
1.男体山登山 アプローチ編 電車とバスで行く日光へ道のり
6時15分 東京メトロ日比谷線 秋葉原駅
日光へ方面へ向かうためにはまず、東武鉄道における北のターミナル駅である北千住に出る必要があります。
行き方の選択肢はそれこそ無数にあります。日比谷線でも半蔵門線でも千代田線でも常磐線でも、どれでもお好きなものでどうぞ。
6時29分 北千住駅に到着しました。
世界で6番目に利用者数が多いと言うこの駅は、駅構造からして超巨大です。結構な距離を歩くことになるので、乗り換え時間には多少の余裕を持たせて来ることを推奨します。
本日は珍しく奮発して特急にしました。なお東武の特急は全席が指定なので、ゴールデンウィーク期間中ともなれば、事前に席を押さえておかないと乗り損なう可能性があります。
東武日光までの特急券代は1,440円。得られた快適さはプライスレス。
日光が近づいてきたところで、車窓風景に日光連山の姿が見えて来ました。なんだか・・・とても白いです。
8時25分 東武日光駅へと到着しました。
天気は雲一つない快晴です。絶好の登山日和と言えるでしょう。ゴールデンウィークにおける日光の混雑具合と言うのは、思ったほどではない印象です。
奥日光行きのバス停にはすでに長蛇の列が出来上がっていたため、中禅寺温泉行きのバスに乗車します。こちらのバスだと、バス停から登山口まで少々歩くことになりますが、その分いくらか空いています。
バスの車窓から望む男体山の姿はと言うと・・・やっぱり白いですな。これは思った以上に積雪がありそうな予感です。
9時20分 終点の中禅寺温泉バス停に到着しました。
日光市内が少し渋滞していたこともあり、時刻表より僅かに遅れての到着です。
これから目指す男体山は、この通り目の前にそびえ立っています。ここから山頂までの標高差は1,200メートルほどあります。だいたい高尾山3個分です。
トイレと身支度を整えて、9時25分に行動を開始します。まずは男体山の登山口(登拝口と呼ぶべきなのか)である二荒山神社を目指します。
前方に広がるのは中禅寺湖(ちゅうぜんじこ)です。今から約2万年前に、男体山の噴火によって生じた溶岩流によって川がせき止められてできた火山湖です。
こちらは本日の同行者である友人のyo君です。登山の経験はほとんどないとのことですが、フルマラソンを完走したこともあるマラソンランナーなので、体力的にはなんら不安はないでしょう。
二荒山神社まで歩いてきました。中禅寺温泉バス停からは、普通に歩いて15分くらいです。
境内ではアカヤシオがちょうど見頃を迎えていました。日光へ行けば、わざわざ山へ登らずとも普通に町中でアカヤシオを見ることが出来るのですね。
神聖なる信仰の山であるという事で、男体山へ牛や馬を連れて入ることは禁止されていました。この牛は、禁を破って山中に連れ込まれた牛が、山の神の不興をかって石にされてしまったものなのだとか。牛さん可哀そうに。。
社務所で登拝料の500円を納めます。簡単な説明と共に、コース概要の書かれたパンフレットと御守りがもらえます。
御守りは一年間有効ですと言われましたが、一年経つと霊的な力(?)が失われるのでしょうか。ソニータイマーみたいなご加護ですね。
この時はまだ、こんな戯れをする位に元気でした。この先に待ち受けている苦難の道のりを、彼はまだ知らない。
2.男体山登山 登頂編 直登一辺倒な急坂の果てに待つ大展望
始めは如何にも神社らしい石段です。石段はそんなに長くは続かず、すぐに土の道になります。
のっけから笹に覆われた急斜面が続きます。最初から飛ばすと後半に確実にバテるので、意識してゆっくり登るのが良いかと思います。
二合目の石碑は見当たらず、いきなり三合目に飛びました。三合目からは四合目までは林道歩きとなります。
男体山の全行程の中でも、斜度が緩むのはここくらいなものです。ほんの一時の安息の時間が流れます。
四合目まで歩いて来ました。ここから山頂までは、緩むことの無い急坂が続きます。覚悟を決めて突入しましょう。
11時 五合目に到着しました。
半分まで登って来ました。ここまでは極めて順調なペースです。
「これでやっと半分なのか」と立ち尽くすyo君。前半に飛ばしすぎて少々バテて来ている模様。
追い打ちをかけるようですが、男体山で最もキツであろう場所にはまだ到達していません。気合を入れて後半戦へと行って見ましょう。
一時的に樹林帯に入ります。日陰になっている場所には雪が残っており、足元は泥濘状態でした。ゲイターを履いて来るべきであったか。
樹林帯を抜けると、急勾配の岩場が始まります。七合目から八合目にかけてが、最も傾斜が急になる場所です。手足をフルに使ってよじ登って行きます。
振り返れば中禅寺湖の絶景。山頂まで行けばもっと凄い光景が見えるので、振り向いていないでさっさと登った方が吉です。
11時45分 七合目まで登って来ました。
ガレ場の急坂の只中にあり、一時の安息が得られる場所です。
避難小屋と称するものが建っておりますが、粗末なトタン張りのあばら家です。文字通り緊急避難するためのもので、宿泊に耐えるような設備はありません。
だいぶ疲労の色が濃くなってはきているものの、まだ見えない敵と戦えるくらいの元気は残っているようです。疲れすぎて幻覚でも見えて来たのでしょうか。
相変わらずのエグイ傾斜度の道が続きます。男体山の核心部と言えるのは、この七合目~八合目区間であると考えて間違いないでしょう。
どこから登るべきかを常に考えながら歩く必要があるため、集中力を要します。それがまた疲労に拍車をかけてきます。
八号目に着いたかと思いきや、ただの鳥居でした。なかなか手が込んだ心折設計の罠ですね。
八合目には割と立派な神社が立っています。滝尾神社と言う名の二荒山神社の別宮だそうです。
八合目を過ぎると、急坂はひとまず終わり傾斜が緩みます。ここまで来れば、山頂まではもうあと一息と言ったところです。
そしてついに、麓からも見えていた白い部分へと到達しました。これはまた、思った以上に雪が残っておりますなあ。
グズグズに腐った雪で凍ってはいないので、とりあえずアイゼンは必要なさそうです。一応念のため、チェーンスパイクを貸し出しました。
九合目に到達しました。ここを過ぎるといよいよ森林限界を突破し、男体山の真骨頂とでもいうべきパノラマが広がります。
突如として開ける頭上の光景。ここまでの苦難の道のりが報われる瞬間です。
前方に日光白根山(2,578m)が姿を見せました。関東地方最高峰の肩書を持つこの山は、まだまだ残雪で白く染まった姿のままです。
振り返ればこの中禅寺湖のパノラマビュー。テンションが上がって来ましたよ。
山頂部は、如何にも火山らしい荒々しい姿をしています。この辺りの雰囲気は富士山とよく似ています。
13時10分 男体山に登頂しました。
登山開始から3時間20分で登頂です。途中でバテつつも、最終的に標準コースタイムよりも速いペースでの大健闘でした。
本当の最高地点は、さらに少し奥に進んだ所にあります。剣が突き刺さっているので一目瞭然です。
という事で、ここが男体山の最高地点となります。この剣はステンレス製の2代目で、重さは百キロあるそうです。
山頂の様子
かなりの広さがりあります。奥に見ている建物は二荒山神社の奥宮です。
3.男体山山頂からの大展望
男体山は周囲を遮るものが何もない独立峰であるだけに、山頂からは文字通り360度の展望が広がります。
眼下に見下ろすは中禅寺湖です。小さな雨水だまりのようなカルデラ湖を除けば、人造のダム湖でない天然の湖としては最も標高の高い場所にある湖です。
湖の対岸に立つこのひと際目を引く山は、難読な山名で知られた皇海山(すかいさん)(2,144m)です。
皇海山にもいつか登ってみたいですねえ。もし行くのであれば当然、庚申山からのクラシックルート一択です。
こちらは先ほども見えていた日光白根山です。過去に一度登ったことがあるものの、山頂でガスッてしまい眺望に恵まれなかった心残りな山です。この山へは、いずれ必ず再訪しなければなりません。
この真っ白な山は東北地方最高峰の肩書を持つ燧ヶ岳(2,356m)です。特別豪雪地帯に指定されている場所にある山なだけあって、雪の量が桁違いです。
北へ視線を移すと、そこには日光連山ファミリーの山達が仲良く並んでいました。右から順に女峰山(2,483m)、大真名子山(2,357m)、太郎山(2,368m)です。
東側に広がるのは関東平野です。こちら方角は、霞んでしまって遠望はイマイチでした。
眼下に目を移すと、ヘアピンカーブで有名ないろは坂と、坂の途中にある明知平の駐車場が見えます。こんなところに良く道を通したものだと感心させられます。
スタート地点の中禅寺温泉バス停も見えます。あの場所から遥々登って来たのだと思うと感慨深い。
4.男体山登山 下山編 元来た道を下りスタート地点の二荒山神社へ
13時55分 山頂からの眺望を、心行くまで目に焼き付けました。ボチボチ下山を開始します。
再び雪の積もる樹林帯の中へと足を踏み入れます。チェーンスパイクは貸してしまっているのでベタ足です。ズボンの尻に「私はコケました」という刻印を刻んでしまう事の無いように、ゆっくり慎重に下ります。
登りの時にはさほど気になりませんでしたが、浮石が割と多めです。落石を起こさないように、足を置く場所をじっくり吟味しながら下って行きます。
清々しいまでに一直線な登山道です。「こんなに登ったけ?」等とぼやきながら、黙々と高度を下げます。
7合目を過ぎると、道は再び樹林の中へは入ります。登った時よりもさらに惨くなった泥濘が迎えてくれました。
16時 五合目まで下って来ました。ようやく半分です。
yo君は「ハーフマラソンよりもしんどいぜ」とボヤいていました。私に言わせれば、21kmも走る方がよほどしんどいです。登山とマラソンでは、そもそも使用する筋肉の部位が違うのでしょうか。
もう後は帰るだけなので、特に先を急ぐ旅でもありません。ゆるりと下山を続けます。
森に薄っすらと西日が射しこんできました。日の長い季節なので、別に慌てる必要はありません。なによりもコケないことが一番重要です。
一合目まで下ってきたところで思わず万歳が飛び出します。登頂した時よりも嬉しそうなのは、よほど下山が長く辛かったのでしょう。
タイミングよく、十分ほどの待ち時間でバスがやって来ました。ゴールデンウィーク中と言えど、時間が遅めであったためかさほど混んではおらず、無事に座席にありつけました。
特急電車の方は当然ながらすでに満席です。という事で、鈍行列車に揺られて、長い長い帰宅の途につきました。
かくして山開き日・・・ではない男体山訪問は、最高の晴天にも恵まれて大満足の内に幕を閉じました。
なお本文中でも触れた通り、男体山は麓からの標高差が1,200メートルほどあり、普段から運動の習慣を持たない人が気軽に登ることの出来る山では決してありません。ある程度歩ける自信をつけてから訪問することを推奨します。
<コースタイム>
中禅寺温泉バス停(9:25)-二荒山神社(9:50)-五合目(11:00)-男体山(13:10~13:55)-五合目(16:00)-二荒山神社バス停(17:20)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント
6/5に男体山登ってきました。
山頂付近で雨が降ってきてしまって眺望を楽しめなかったのが残念。
個人的に3合目までが一番キツかったです。
入口にいろいろな登山記録が書いてありましたが、24時間で8往復する女性がいるのには驚きです。
次の日は一転快晴だったので、湯ノ湖~戦場ヶ原~中禅寺湖のルートを散策してきました。
小学生の団体がたくさんいて、やっぱり遠足は日光が鉄板だなと思いました。
ニャーす様
コメントをありがとうございます。
24時間で8往復という事は、単純計算で1往復3時間ですか。化け物じみたフィジカルの持ち主ですね。
今日こちらブログを参考に男体山へ登りまして、ペース配分・核心部など事前に知ることでいい登山になりました。ありがとうございました。
令和のビギナーHikerさま
コメントを頂きましてありがとうございます。
男体山登山お疲れさまでした。なにしろ登り一辺倒の山なので、ペース配分が重要になってくる山だと思います。良い登山となったようで何よりです。