新潟県妙高市と長野県長野市にまたがる高妻山(たかつまやま)に登りました。
修験の山として名高い戸隠連峰の最高峰であり、北信地方の山の中でもひと際目を引く鋭鋒です。山頂に至る道程はアップダウンが多くて険しく、容易には登れない厳しい山であるとみなされています。山麓に広がる戸隠高原は紅葉の名所で、シーズンになると一面が錦模様に染まり、多くの人が見物に訪れます。
紅葉シーズンも終盤を迎えつつある修験の山で、紅葉と大展望を満喫してきました。
2022年10月21日に旅す。
高妻山は、北信地方と呼ばれる長野県北部にある戸隠連邦に属している山です。作家深田久弥が選んだ日本百名山にも選ばれている一座ですが、百名山の中にあっては人気知名度共にあまり高い方ではありません。
隣接する戸隠山と共に、古くから修験の山として知られた存在です。戸隠山とは尾根伝いに繋がっており、縦走することも可能です。
北信地方の代表的な山岳の総称である北信五岳に含まれていませんが、戸隠連峰の一部である事から、戸隠山・高妻山として広義には北信五岳に属している山だとみなす向きもあります。
修験の山であったと言う事実が示す通り、決して容易な山ではありません。山頂に到る道のりは小刻みにアップダウンを繰り返すなかなか険路で、登りの標準コースタイムは5時間近くにもおよびます。
体力に自信がある人向けの山であり、そのあたりが日本百名山でありながらもイマイチ人気がない事に繋がっているのかもしれません。
苦労した先に待っているご褒美は圧巻です。山頂からは北信地方と後立山連邦の山並みを見晴らす大展望が広がります。
忙しない日帰り弾丸で、麓の戸隠高原が錦秋に染まる、ベストシーズンの高妻山を巡って来た一日の記録です。
コース
戸隠キャンプ場バス停よりスタートし、かつての修験者たちが歩いた一不動ルートを辿り戸隠山に登頂します。下山は近年になってから新たに開かれた弥勒尾根(みろくおね)を下ります。
標準コースタイムで8時間30分程となる、骨のある行程です。
1.高妻山登山 計画編
高妻山は長野市街の外れに広がる戸隠高原に立つ山です。戸隠高原は観光地でもあるため、公共交通機関によるアクセスが比較的良好な場所です。
長野駅からの路線バスが数多く走っており、登山口のある戸隠牧場の目の前まで乗り入れることが出来ます。そのため高妻山は、公共交通機関を利用して山に登る人にも優しい山であると言えます。
しかしながら、この高妻山に日帰りで訪れよう思うと、なかなかどうして容易ではありません。その理由は極めて単純に、北信地方の山間部深くにある戸隠高原は距離的に非常に遠く、到達するのに時間がかかるためです。
当日の朝に都内を出発した場合、新幹線を利用しても最速で現地に降り立つことのできる時間は9時45分と、結構遅い時間になってしまいます。
それに対して、土休日の帰路バスの最終便は17時13分に現地を発ちます。行動可能時間はおおよそ7時間30分と言う事になり、標準コースタイム通りのペースで歩いたのでは、帰りのバスに間に合いません。
健脚な人なら頑張れば1時間くらいはコースタイムを巻けるかもしれませんが、前述の通りかつては修験の場であった高妻山の登山道は、決して容易ならざる道程である事には留意すべきです。
何故か平日限定で帰路に18時33分の便が存在します。時間的にヘッドライト下山となってしまうことは避けられませんが、平日であれば一応は公共交通機関を利用した日帰り登山が無理なく可能です。
そのため公共交通機関を利用して高妻山に登るには、前日の内に現地に前入りを行うのが一番現実的です。登山口のすぐ隣にキャンプ場があるため、当初はここにテント泊して翌日の早朝から登り始める方向で計画を温めてていました。
ですが今回は平日に休みを取れたので、急遽日帰り弾丸の計画に変更して登って来ました。翌日も休みだったので、日程的には一泊しても良かったのですが、天気が持ちそうなのはこの日一日だけだったものですから。
と言う事で、始めからヘッデン上等の慌ただしき弾丸登山にいざ赴きます。
2.高妻山登山 アプローチ編 通勤客で混雑する平日の朝に行く、さわやか信州への旅路
6時20分 JR 東京駅
通勤客で混雑する平日朝の電車で肩身の狭い思いをしながら、東京駅へとやって来ました。中央線の混雑が嘘の様に、新幹線ホームの方は人影が疎らでした。まあ、北陸新幹線を通勤に使う人はそんなに多くはないでしょうからね。
8時6分 快適な新幹線の座席でうつらうつらとしている内に、電車はつつがなく長野駅へと滑り込みました。
あまりにも早く着くので距離感覚がおかしくなりそうになりますが、東京からは200km以上離れています。流石は夢の超特急です。高いけれど早い。早いけれど高い。
平日朝の長野駅に降り立ったのは初めての事です。当然のごとく駅前のバスロータリーは通勤客で混雑していました。
戸隠方面行きのバスが発着するのは、駅前のロータリからは道を挟んだ向かいにある7番乗り場です。すでに行列が出来ていてぎょっとしましたが、別の行き先に向かう人々でした。
終点の戸隠キャンプ場まで往復する場合、1日乗り放題の周遊きっぷを買った方がほんの少しだけお得です。バス停の目の前にあるアルピコ交通の営業所で買えます。
8時30分発の戸隠キャンプ場行きのバスに乗車します。この前1本前に7時発の便も存在するのですが、当日朝の東京発だと乗り継ぎが間に合いません。
平日なのでさぞや空いているだろうと思いきや、バス車内は意外に混雑していました。紅葉シーズンの戸隠高原の人気の程が伺えます。
長野駅から戸隠高原までは、バスで1時間以上の長丁場です。ループ橋を登り飯縄山の脇を通り抜けると、やがて車窓にギザギザとした戸隠山の異様な姿が見えて来ました。
戸隠山は昔から修験の山として名高い存在で、その険しさの程はこうして下から眺めただけでも一目瞭然です。目指す高妻山は奥まった場所に隠れているため、麓からその姿はうかがえません。
9時45分 戸隠キャンプ場バス停に到着しました。乗客の大半は途中の戸隠神社中社で下車し、終点まで乗っていたのは私を含めて3人だけでした。
帰路のバスはここを18時33分に発つので、今から8時間45分以内に戻ってこなければなりません。
3.戸隠牧場を通り抜けて、一不動ルートの登山口へ
9時50分 さて、本日はあまり時間にも余裕の無い計画であるため、身支度も早々に歩き始めます。高妻山の登山口は戸隠牧場の中にあり、牧場の敷地内を通り抜けて行きます。
なんやかんやで、深田百名山に登るのはかなり久方ぶりです。最近は百名山と言っても、山梨百名山にばかり登っていたものですから。
キャップ場の受付らしき建物が見てきました。登山口へ向かうには、ここを右に入ります。道標はあるので、その導きに従えば問題ありません。
正面に戸隠山がまるで絶壁のようにして立ちはだかっています。まるで屏風か何かのような岩の大伽藍です。冒頭でも少し触れましたが、北信五岳に数えられているのは高妻山ではなくて、隣にあるこの戸隠山です。
古くから名の知れた修験の山であり、人気や知名度においても高妻山より上の存在であると思われますが、深田久弥は何故戸隠ではなく高妻の方を百名山に選んだのか。興味深いところです。
キャンプ場の売店があり、名物の戸隠蕎麦やソフトクリームなどが販売されています。下山後に立ち寄れると良いのですが、残念ながら本日私がここまで戻ってくるのは日没後でしょうから、もう営業はしていないでしょうね。
そうした点からも、やはり高妻山は前日の内に前乗りして登るべき山であるのかもしれない。
戸隠牧場の入口へとやってきました。ここはいわゆる観光牧場として運営されており、乗馬体験やふれあいコーナーなどが設けられています。
牧場の事務所の脇に登山届の提出ポストがあるので、ここで提出して行きましょう。用紙と筆記用具も備え付けられています。
放牧が行われているのは10月の中旬頃までと言う事で、今年のシーズンは終了しており、既に牛たちは小さな柵の中に移動していました。
牧場兼キャンプ場となっているらしく、ここにもテントサイトがありました。戸隠山を一望できる素晴らしいロケーションです。
正面に見えているのは、北信五岳の一つである黒姫山(2,053m)です。あまり全国区の知名度は無い山ですが、その分静かでとても良い山ですよ。
あまりそういうイメージはありませんが、馬って人を噛むんですね。前述の通り今年の放牧シーズンはもう終わっているため、柵の中にはいませんでした。
道標の導きに従い今度は左折します。前方にこれから登ろうという山並みが連なっていますが、ぱっと見でもかなりの急勾配な山である事が一目瞭然です。
正面に見えているのは、高妻山の手前に位置している五地蔵山です。今からこの山を乗り越えて行きます。高妻山の本体は五地蔵山のちょうど真後ろに隠れています。
分岐地点へとやって来ました。左に入ると一不動ルートの入口で、真っすぐ進むと弥勒尾根ルートの登山口があります。本日は一不動ルートから登って、弥勒尾根ルートで降りてくる予定です。
ゲートを通って放牧地の中を横切るように進みます。あえて写真は載せませんが、至る所にベコ糞地雷が仕掛けられているので足元には十分ご注意ください。
紅葉が良い感じに色づいています。登山口付近が既に見頃を迎えていると言う事は、山の上の方ではもう既に終わってしまっているかもしれません。
10時15分 一不動登山口に到着しました。最初から時間が押しまくっていますが、張り切って行きましょう。
帰りのバス時間を勘案して、撤退開始時刻を14時30分と決めました。その時間までに登頂できていなかったら、諦めて引き返します。
3.紅葉に染まった沢沿いを行く、一不動への道程
歩き始めて早々に大洞沢にぶつかりました。鉄製の橋が架かっていたようですが、落橋しいるので手前を渡渉します。
紅葉に光り輝く森が実に美しい。現在地付近の標高が、今まさに見頃のど真ん中を迎えているようです。
一部崩落して高巻きになっている個所もありますが、一不動ルートは基本的に最後までずっと沢筋の道です。
最高やんけ。あまり時間には余裕が無いと言うのに、ついつい同じような写真を何枚も撮ってしまいます。
何度か渡渉箇所がありますが、秋も深まった今の時期は水量も少なく一跨ぎです。残雪期に歩いたら相当難儀しそうな道ですが。
沢沿いの紅葉が実に見事です。陽に照らされて、まるでステンドグラスか何かのように輝いていました。
基本的に紅葉は日当たりの良い場所から始まるので、あまり陽当たりが良くない沢沿いの谷底が見頃を迎えていると言う事は、全体で言えばもう終わり際のタイミングだと言う事です。何とかギリギリ間に合いました。
目指す稜線が、まるで絶壁のようにして前方に立ちはだかります。見た目の通りに、この先は勾配がかなりキツくなっていきます。
何時しか沢と登山道は完全に一体化し、区別がなくなりました。燧ヶ岳のナデッ窪を思い出すようなワイルドな道です。
10時55分 滑滝まで登って来ました。一不動ルートを象徴する、ランドマーク的なスポットです。
滑滝(ナメたき)とは、一枚岩の表面を文字通りナメるようにして流れ落ちる滝の事を示す一般名詞です。要するに滝の形状を現している言葉に過ぎず、この滝は事実上名無しの滝であるも言えます。
滝のすぐ脇に鎖が垂らされており、ここを登ります。修験の山らしくなって来ましたな。
突起の多い岩でグリップ自体は良好ですが、岩肌の一部が飛沫で濡れていてイヤな感じです。凍結している時期だと難易度は跳ね上がるものと思われます。
滑滝を越えるといよいよ道の傾斜が増してきて、這って登るような勾配になりました。評判通りにキツい登りですぞこの道は。
右手に帯岩と呼ばれている巨大なスラブが見えてきました。岩から流れ落ちている滝には、不動滝という当たり障りのない名称がつけられています。
登山道はこの帯岩の上を横切ります。私が大いに苦手としている岩場のトラバースです。
とりあえず凍っていないのは幸いでしたが、しかしそれにしたって心臓に悪いことに違いはありません。クサリの手すりが設置してあるのですが、子供用かと思うくらいに取り付け位置が低くて、まったく頼りにはなりません。
通り抜けてから振り返って見るとこんな岩場です。下山にはあまり使いたいとは思えない道ですね。もともと弥勒尾根を下る予定なので、もうここを通ることはありません。
先ほど見えていた不動滝の上部で再びクサリ場です。ここでもやはり岩肌が濡れていてイヤな感じです。
クサリ場を突破すると、氷清水と銘打たれた水場がありました。水は出ているには出ていますが、水量はか細く500ml貯めるのにも1分以上はかかりそうな状態でした。
名前からして、季節によっては氷のように冷たい水が湧き出ているのでしょう。
水場を過ぎると、ようやく頭上が開けて空が見えて来ました。厳しかった急登はひと先ず終わりそうな予感がします。
本当にキツくなるのは、この先の稜線に出てからのアップダウンなのだと言う事を、この時の私はまだ知りませんでした。
11時30分 一不動避難小屋まで登って来ました。戸隠山と五地蔵山の間の稜線上に立つ避難小屋です。
ちょっくら中を拝見。かなり年季の入った小屋ですが、中はそこそこ広く居住性は悪くなさそうです。この小屋は本当の緊急時の利用を想定しているもので、計画的な宿泊のご利用はご遠慮くださいとのことです。
背後を振り返ると、戸隠高原を見下ろす展望が開けていましたも。もっとも、山頂まで行けばもっと凄い大絶景を目に出来ますけれどね。
黒姫山の麓にある古池が良く見えます。以前に私が訪問した時には、水が抜かれていて茶色い底面を晒していた場所です。
池の周囲の紅葉が見事ですね。目の前まで行けばきっと素敵なリフレクションを目に出来ることでしょう。
避難小屋のすぐ裏手に、一不動と銘打たれたお社があります。この先はかつての修験者たちが歩いた道であり、山頂までの間にある10の社を巡りながら登ります。
4.信仰の道に連なる果てなきアップダウン地獄
稜線上に出れば少しは急登が緩むだろうと言う淡い期待は、歩き始めて早々から打ち砕かれました。この先は、鋸の歯のようにギコギコとアップダウンを繰り返す尾根道となります。
二釈迦の下は断崖絶壁で、ドーンと目の前の展望が開けました。正面には、北信五岳の一つである飯縄山(1,917m)が大きく裾野を広げています。
実は冬にしか登ったことがないと言うかなり偏った飯縄山経験しかないのですが、こうして見ると紅葉シーズンも良さげですね。
ここまで登って来た登山ルートがすべて見えてます。上から見ると良くわかる、見事な紅葉っぷりですね。
前方の視界も開けて、これから歩く道程が見渡せました。心がボッキリと折れそうになる、この圧倒的なアップダウンの連続ぶりよ。
ここまで登って来て、初めて高妻山の山頂が視界内に入りました。なんと言うか、凄く高いです。
いくらなんでもちょっと尖り過ぎなんじゃないですかね高妻さん。山頂直下の急勾配ぶりが見るからにヤバそうです。登った経験のある人が口をそろえて「キツい山」と言うのも納得の姿をしています。
登って来たのとは反対側の、西側斜面に広がる紅葉もままた見事です。この辺りは裏戸隠と呼ばれる、人跡も疎らな深山幽境の地です。
3つ目の三文殊は社が失われてしまったらしく、何もない草むらの中にひっそりと看板だけがありました。
相変わらず登ったり下りたりが続きます。距離の割にはやけに長いコースタイムが腑に落ちずにいましたが、歩いてみて納得です。
遠くに薄っすらと小さく富士山が見えました。こんな長野県の北の果てからでも見えるとは、流石は日本一の山です。
五つ目の五地蔵は、五地蔵山の山頂ではなくその少し手前にありました。流石に少し疲労を覚えてきたので、この場所でザックを落として小休止を取りました。
時間も押しているので、軽く腹ごしらえしたらすぐに行動再開です。五地蔵からは5分とかからない距離に山頂がありました。
12時40分 五地蔵山まで登って来ました。ここは言ってみれば高妻山の前衛でしかない山なのですが、なかなかどうしてしんどい登りでありました。
山頂からは、ここまでは全く見えていなかった北側の展望が広がります。妙高山(2,454m)と黒姫山が仲良く並んで立っていました。
遠目にも一目でそれとわかる特異なシルエットの妙高山です。新潟県内にある山なのに、何故か北信五岳の一つに数えられています。
そして信州のブラックプリンセスこと黒姫山です。紅葉シーズン中だとあまり黒くはありませんな。妙高山をそのまま小ぶりにしたかのような、よく似たシルエットをしています。
五地蔵山から先へ進むと、すぐにまたもう一つのピークらしき場所が現れました。
12時40分 六弥勒に到着しました。一不動コースと弥勒尾根との分岐地点です。ここからサクっと高妻山の山頂を往復します。
5.高妻山登山 登頂編 胸を突く急登の果てに待つ大展望の頂
サクっと往復すると言いましたが、六弥勒から高妻山山頂までのコースタイムは1時間50分です。まだまだ先は長く、そして相変わらずモリモリと激しくアップダウンしています。
まだ森林限界を越えてはいませんが、所々に視界の開けた場所があります。北には妙高山、火打山および新潟焼岳からなる頚城山塊の山並みです。
南には、まるで恐竜の背ビレをもわせる様なギザギザの戸隠山が良く見えました。私は岩場は苦手のなので、今のところ戸隠山への訪問の計画はありません。蟻の戸渡とか、見ているだけでもゾッとします。
大きく登ったところで七薬師です。まだ高妻山の本体に取り付いてすらいないと言うのに、アップダウンが厳しい。
岩場もチラホラと現れ始めましたが、特段難しい要素はありません。足を大きく持ち上げなくてはならないので、ただ疲れると言うだけのことです。
まるで壁のように立ち並ぶ、後立山連邦の山並みが見えて来ました。あちらはもう薄っすらと冠雪しています。
八観音です。だいぶ後半戦に差し掛かってきた感が出て来ましたよ。観音様は既に使われていなかったけかと思いましたが、滝の名称になっていただけで初出でした。
いよいよ目の前に高妻山の本体が見えて来ました。見るからに防御力の高そうな姿に奮えます。こちとら既に結構バテバテなんですがね。
13時25分 九勢至に到着しました。後はこの最後の急登を登りきれば良いだけなのですが、ここからさらに1時間近くかかります。いや本当に。
ぜーはーぜーはー。高妻山防御力高すぎぃー。この最後の登りは本当に辛くて、おかげでこの区間で撮った写真が余り残っていません。それだけ必死になって登っていたと言う事ですな。
山頂の直下は本当に壁のような傾斜度です。撤退予定時刻がジワジワと近づいてきいることもあって、焦燥感に拍車がかかります。
日本百名山かつ大絶景が広がる山であるにもかかわらず、高妻山にイマイチ人気がないのは何故だろうと怪訝に思っていましたが、登ってみて理由が大変よくわかりました。単純に辛いからなんですね。
最後の急登を登りきると、広々とした空間に出ました。やれやれようやく山頂ですか。・・・と思うでしょう?でも今見えているのは実は騙しピークなんです。
山頂だと思っていた場所に登ると、そのさらに先に本当の山頂が見えました。この期に及んでまでこちらの心をへし折りに来るとは、高妻さんは本当に容赦がありません。
山頂手前のこの場所が十阿弥陀です。五地蔵山の時もそうでしたが、山頂を少し外した場所にあるのは何か理由があるのでしょうか。
14時15分 今度こそ高妻山に登頂しました。撤退開始予定時刻の15分前と言う、ギリギリの攻防でありました。いやはやしんどかった。
6.高妻山山頂からの展望
散々苦労させられましたが、その分登頂のご褒美は絶大です。山頂からは大パノラマの光景が広がります。
西には姫川を挟んだ向かいの北アルプス後立山連邦の山並みが連なります。
唐松岳(2,696m)、五竜岳(2,814m)、鹿島槍ヶ岳(2,889m)と続く山並みの背後に、剱岳(2,999m)と立山(3,015m)が僅かに頭を覗かせています。
後立山連峰から南に目を向けると、みんな大好きな槍ヶ岳(3,180m)が小さく見えました。この山は本当に遠くからでも見つけやすい。
南側の足元には、長野県の隠れた名勝地である奥裾花渓谷が広がります。こちらも紅葉が凄いことになっていますね。
飯綱高原の先には長野市街地がある長野盆地が広がります。町のすぐ近くにある高原地帯なのが良くわかる光景です。
午後になっても空気は霞まず、相変わらず富士山も良く見えています。富士山の右隣に見えているのは八ヶ岳ですね。北側から見ると蓼科山が手前に重なるので、普段見慣れている山梨県側からの姿とはだいぶ趣が異なります。
西に見えているこの山は雨飾山(1,963m)です。そういえば確かに、雨飾山の山頂からは高妻山の姿が良く見えていたっけか。
北側の頚城山塊方面だけは、樹木に遮られてイマイチな眺めです。こちらに関しては道中からの方が良く見えます。
苦労したかいのある素晴らしき絶景を堪能しました。これでもう、思い残すことは何もありません。
7.高妻山登山 下山編 日没ゲームセットが迫る中のスピード下山
14時50分 あまりの絶景を前にして、ついつい長居が過ぎました。日没まで残すところあと2時間少々になってしまったので、大急ぎで下山を開始します。
山頂直下の急登は、下りだと結構な高度感があります。ここで慌ててコースタイムを巻こうとするのは大変危険なので、ゆっくりと慎重に参りましょう。
ササ付きの斜面まで戻ってくれば、もう危険はありません。と言うことで、ここからは少しペースを上げて行きます。
早くも傾き始めた西日に照らされて、妙高山と火打山が茜色に染まっていました。ホントいい色に紅葉しておりますな。
前方にモリモリと、約束されていた登り返しが立ちはだかります。ええ、最初から分かっていた事ですとも。
いくら覚悟していたこととは言えど、やはりキツイものはキツイ。まったく、世の中に下山時の登り返しほど憂鬱なものはありません。登った分だけまた下らなくてはいけないんですよ。
16時 六弥勒まで戻って来ました。ここから往路とは違う道を辿ります。
この弥勒尾根ルートは、平成24年に新たに整備されたと言う比較的新しい登山道です。アップダウンが続く一不動ルートに比べると圧倒的に歩きやすい道であるとのことですが、さてどんな感じでしょうか。
一部がぬかるんではいるもの、確かに傾斜も緩くて歩きやす道です。これならば多少はコースタイムを巻くこともできそうです。ここぞとばかりに足早に下ります。
ゴール地点の戸隠キャンプ場が眼下に見えます。もう時間的にヘッドライト下山になることは避けられませんが、それでもまだ明るさが残っている間に下れるだけ下ってしまいましょう。
樹林帯の中に戻って来たら後はもう消化試合です。黙々と下山と言う作業に取り組みます。
道の真ん中に陣取って何故か退いてくれない猿に威嚇される。「そこを退けサル」「いや、お前が退け人間」みたいな不毛なにらみ合いが繰り広げられました。
標高が下がるにつれて、周囲に紅葉が戻ってきました。明るいうちに歩けたらさぞや素敵な光景だったのでしょうね。
最後に1ヵ所だけ渡渉があります。大した深さではありませんでしたが、そこそこ川幅があり一跨ぎとはいきませんでした。
17時35分 戸隠牧場まで下って来ました。達成感に満たされそうになる瞬間ですが、バス停まではもひと道あります。当然街灯などはなく、周囲は真っ暗です。
キャンプ場の中をトボトボと歩いて戻ります。平日だと言うのにキャンプ場は意外に盛況で、そこそこスペースが埋まっていました。この様子だと、週末には相当混雑しそうですね。
17時55分 戸隠キャンプ場バス停に戻って来ました。急いで下った甲斐もあり、なんやかんやで最終バスの30分前には戻ってこれました。
バス停の周囲にも街灯はなく辺りは真っ暗で、本当にこの後バスがやって来るのか、少し不安になるような光景です。
そんないらぬ心配をよそに、帰路のバスは早々とやって来ました。良かった良かった。
長野駅に戻って来た時には、時刻はもう間もなく20時になろうとしていました。やはり東京から日帰りで高妻山に登るのは、だいぶ無理のある行程であったようです。
往路と同様に、輝いてはいない北陸新幹線はくたか号に乗り込み、帰宅の途につきました。
慌ただし日帰り弾丸の高妻山登山は、最高の天気にも恵まれてこうして大満足のうちに幕を下ろしました。
本文中でも触れましたが、やはり高妻山は前日の内から前入りして登るべき山であると思います。私は日帰りの強行軍を選んでしまったばかりに、道中は常に時間に追われ続ける苦しい展開でありました。下山後に戸隠蕎麦を食べる間もなく撤収となってしまったことも心残りで、やはり牧場の売店がまだ開いている内に下りてこれるくらいの時間に余裕がある計画を組むべきであると思います。
山頂からの展望は圧巻です。そこに至る苦労が十分すぎるほどには報われる光景だと思います。登り応えのある骨太な山をお探しの人にオススメな一座でした。
<コースタイム>
戸隠キャンプ場バス停(9:50)-一不動避難小屋(11:30)-五地蔵山(12:40)-高妻山(14:15~14:50)-六弥勒(16:00)-戸隠キャンプ場バス停(17:55)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント
山が大好きなのですが、富士山と白山くらいしか登ったことがなく、たまたま目にしたオオツキさんのブログを拝見して…とても綺麗な写真、わかりやすい詳細な説明に自分も登山しているかのように感動しました。
また他の山のも楽しみに拝見させていただきます。
酒師匡実さま
コメントを頂きましてありがとうございます。
誰かの何かの役に立てばと思い書いている山行き記録ですが、楽しんで頂けたのであれば冥利に尽きます。またご気軽にご訪問ください。
オオツキ様
この1週間ほど前に雨飾山の山頂から高妻山を眺めていましたが、尖った山頂から厳しい登山道だと思いましたが想像どおりの厳しさですね。
なかなか行くガッツが湧いてきませんが、登山途中の頚城山塊や頂上からの眺めは最高です。戸隠方面には行ったことが無いので、頭の片隅に置いておきたいと思います。
もうもうさま
コメントをありがとうございます。
雨飾山も決して楽だとは言えない山でしたが、高妻山はそのさらに上をいく困難さでした。だいぶ手こずりはしましたが、こと眺望に関しては付近一帯の山の中でも抜きんでている山だ思います。
時間に追われているとさらに厳しさが増すので、登るのであれば前泊する事を強く推奨します。
初めまして。
最近登山を始めた超初心者です。どの山に登ろうかネットで情報収集していた折、オオツキさんのブログを見つけました。
多くの素敵な写真と、わかりやすくかつ面白おかしい文章に引き込まれ、即お気に入り登録しました。
今後も楽しみにしています。
山波さま
コメントを頂きましてありがとうございます。
山登りを始めたばかりの、行ってみたいと思う山が次々と増えて来る時期は一番ワクワクしますよね。微力ながらも新規開拓の役に立ったのであれば幸甚です。
末永く安全登山を楽しんでください。