山梨県南アルプス市にある小太郎山(こたろうやま)と、ついでに北岳(きただけ)に登りました。
北岳から北に向かって伸びる小太郎尾根上にある、標高2,725メートルのピークです。周囲を南アルプスの名だたる名峰に囲われており、北岳を始めとする山々の格好の展望台となっています。
山梨百名山にも選ばれている一座ですが、主要な登山ルート上からは外れた位置にあるため、訪れる登山者は極めて少ない静かなる頂です。
冬の到来を目前に控えた、晩秋の南アルプスの大展望を満喫してきました。
2022年10月29日~30日に旅す。
小太郎山は北岳から張り出した小太郎尾根上にあるピークです。傍目から見ると、独立したピークと言うよりは北岳の一部のようにも見えます。
山梨百名山にも名を連ねている一座ですが、訪れる登山者は殆どおらず、山頂に至る道程はハイマツの藪に覆われています。北岳周辺の喧騒が嘘の様に静かなる頂です。
頑張れば広河原から日帰りで登れないこともありませんが、無理はせずに白根御池小屋に一泊して登って来ました。
その立地上、小太郎山の山頂は格好の北岳の展望台です。冠雪して薄っすらと雪化粧した北岳の姿が目の前にありました。
小太郎山への登頂を果たした後は、せっかくすぐ近くまで来たのだからと言う事で、ついでに北岳にも足を伸ばします。北岳に登ったついでに小太郎山にも登る人はいるかもしれませんが、逆は極めて珍しいのではないでしょうか。
まあどちらがついでの扱いであろうと、やったこと自体は全く一緒ですけれどね。最晩秋の南アルプス2座を巡ってきた2日間の記録です。
コース
白根御池小屋に一泊して、翌日に小太郎山と北岳の2座を巡ります。登頂後はそのまま広河原に引き返します。初日が楽な分、二日目はそこそこ長丁場となる行程です。
1.小太郎山登山 アプローチ編 公共交通機関で行く、広河原への遠き道程
10月29日 7時53分 JR高尾駅
初日の行程は白根御池小屋まで行けば良いと言う事で、朝は比較的ゆっくりと始動しました。鈍行列車で、広河原行きのバスが発着する甲府駅を目指します。
え?特急あずさ?あんな自由席すらないようなブルジョワな乗り物は、始めからお呼びではありません。
9時49分 甲府駅に到着しました。特段の理由や根拠があるわけでもないのですが、なぜか以前より私の内部では「甲府までは鈍行圏内」という取り決めがなされており、今回もそれに従いました。どうせ寝ていくだけですし。
今日も甲府の町を見守る武田信玄公像です。ここ最近あまりにも足繁く山梨県に通い過ぎているためか、甲府に来るとまるで実家に居るかのような妙な安堵感を覚えます。
10時5分発の広河原行きのバスに乗車します。この広河原線は、何故か駅前にあるバスの行き先電光掲示板上には表示されません。乗り場は1番乗り場です。
早朝発の始発便では立客も出るほどに込み合う路線ですが、この10時発の便に関しては至って空いておりました。
いつの間にか交通系ICカードに対応していましたが、マイカー規制協力金だけは別会計で、広河原線名物(?)の切符切りおばちゃんも健在です。
南アルプス林道に入る前に、芦安(あしやす)バス停で一度停車します。南アルプス林道は通年でマイカー規制が敷かれているため、車でお越しの人もここから先はバスに乗る事になります。
いわゆるパークアンドライドとよばれるもので、芦安は北アルプスで言うところの上高地に対する沢渡ポジションの場所です。その割には狭いですが、まあこれが北アルプスと南アルプスの人気の差なんでしょうな。
夜叉人トンネルを抜けると、バスはいよいよ南アルプス林道へ入ってゆきます。林道を歩いている歩行者がチラホラといることに少々驚きました。紅葉シーズもたけなわですから、広河原までウォーキングするのでしょうか。
眼下に野呂川が刻みし大渓谷が広がります。初めて広河原を訪れた際に、林道から見た川とのあまりの比高の高さに怖さを感じたのを今でもよく覚えています。とんでもない場所に来てしまったのではなかろうかと。
南アルプス林道が開通する以前の北岳は、近づくだけでも容易ではない秘境の山でした。この林道が完成するまでの苦難に満ちた建設史は、どこか一大叙事詩的ですらあります。
11時58分 広河原に到着しました。登山者しか来ない場所だろうと思いきや、意外にも観光客風の乗客も何名か乗車していました。紅葉見物をするのでしょうかね。
見覚えの無い新しい建物が建っているなあと思ったら、リニューアルされた広河原山荘でした。以前の建物は野呂川の対岸にありましたが、バス停の目の前に移動したのですね。
広河原周辺の紅葉は、今がまさに見頃の最盛期を迎えていました。出発地点が既に見頃を向かえていると言う事は、山の上の方の紅葉はもうとっくに終わってしまっていそうですね。
2.最初から急登が続く白根御池への道
12時15分 身支度を整えて行動を開始します。初日は白根御池小屋まで行くだけですからお気楽なものです。小屋までは、標準コースタイムで2時間30分程の行程です。
なお白根御池小屋の予約サイトには、15時までにはチェックインするようにとの注意書きが書かれていました。南アルプスの山小屋はどこも農取門限を採用しているのだろうか。
ちなみに北岳の山頂は、出発地点の広河原からすでに見えています。現在地からは1,600メートルの標高差があります。
気のせいではなく明らかに白いですね。すでに冠雪しているようです。チェーンスパイクは用意してきていますが、果たして登山道はどんな状態なのでしょうか。
標識には北岳の名だけが書かれており、我らが小太郎山の名前はありません。まあ、そんな扱いなんでしょうね。
野呂川に架かる吊り橋を渡って登山開始です。人一人分の幅しかない無い橋なので、すれ違いはできません。対向者がいないことを確認してから踏み出します。
吊り橋の上からアサヨ峰(2,799m)の姿が良く見えました。あちらもまだ未踏の山梨百名山なので、何れは登らねばなりません。
橋を渡ったところに、旧広河原山荘の建物がそのまま残っていました。なるほど確かにだいぶ年季が入っておりますが、これはこれで味があって好きだったのですけれどね。
暫しの間、大樺沢に沿った紅葉の森の中を進みます。この区間は、その後に始まる激登り前のウォーミングアップのようなものです。しっかりと体を温めておきましょう。
陽に照らされた楓の葉が実に美しい。時期的にもう紅葉には期待していなかったのですが、思いがけずに美しい光景を目にすることが出来ました。
大樺沢コースと白根御池コース分岐地点まで登って来ました。大樺沢コースのほうは今シーズンはもう終了で、木橋も撤去済みであると言う事でロープで封鎖されていました
道標には白根御池まで3時間かかると書かれていますが、これは少々大げさな数字で、実際そこまではかかりません。
分岐を過ぎると、胸を突くような急登に次ぐ急登が始まります。それでは、いっちょう気合を入れて参りましょう。
登るにつれて傾斜は増して行き、木製の階段や梯子が連続します。この辺りはひたすら我慢の登山が続きます。
今から7年前にも一度歩いたことのあるルートなのですが、あまり印象に残っていません。広河原から割とあっけなく着いたように記憶していたのですが、こんなにしんどかったっけか。
背後の展望が少し開けて来ました。見えているのは位置的に鳳凰三山と高峰かな。
急登を登りきると、傾斜が緩みほぼ水平移動の道になりました。ここまで登って来れば、白根御池まではもうあと一息です。
一ヵ所沢を渡る箇所があり、少し際どいトラバースになっていました。日影に少量の雪が残っていて嫌な感じです
14時20分 白根御池小屋に到着しました。ちょうど北岳の日影になる場所にあるため、この時間でも既に陽が射さず寒々しい限りです。と言うか実際に寒いです。
小屋の名前の由来となっている池が、小屋のすぐ近くにあります。池の辺はテント場となっており人気のあるテントサイトですが、流石に冬を目前に控えた晩秋の時期ともなると閑散としていました。
白根御池に映った逆さ北岳もバッチリと頂きました。明日はここから正面に見ている急斜面を登ります。
3.白根御池小屋で過ごす一夜
いつまでも油を売っていないで受付を済ませましょう。コロナ対策と言う事で、寝床はパーテーションで仕切られていました。
小屋閉め間際の時期と言う事で至って空いており、宿泊客は私を含めて10人前後しかいませんでした。広々とスペースを使えて実に快適です。
山小屋では定番の山岳雑誌のバックナンバーが置かれた書籍コーナーもありました。私のようなお一人様宿泊者からすると、時間つぶしの手段が出来て大いに助かります。
ちなみに、小屋の周辺でAUの電波は一切は入りませんでした。ドコモやソフトバンクだとどうなのかは不明です。
専用の談話スペースはありませんが、食堂前の廊下に石油ストーブを囲むようにしてベンチが置かれています。この日は空いていたのでここで悠々と過ごせましたが、混雑している時期だと寝床以外に居場所はないかもしれません。
あえて詳細には記しませんが、まるで画に描いたかのような山ナメ遭難未遂事案が発生して、少し騒ぎになりました。
富士山などの半ば観光地化しているような山ならいざ知らず、あのパーカーにスニーカーにといういでたちのボーイズは、いったいどういう経緯で北岳に登ろうと思い至ったのだろうか・・・
お楽しみの晩御飯です。ご飯とはスープはお替り自由です。疲れた体にはしょっぱめの味付けなのが嬉しい。
夜中に星空撮影を行うべく、夕食後は早々と寝床に入りました。
12時過ぎの真夜中になってから表に出ると、頭上には期待していた通りの満天の星空が広がっていました。あまりにも寒かったので、数枚撮影しただけで早々と切り上げましたけれどね。
本当はもっと綺麗な星空だったのですが、F4通しの標準ズームによる撮影ではこれが限界でした。大口径の広角単焦点レンズが欲しいなあ。
4.草スベリの急登を登り、小太郎尾根分岐を目指す
明けて10月30日 5時10分
まだ夜は明けていませんが、ヘッドライト装着で行動を開始します。気温は0度以下まで下がっており、手袋をしていても指先がジンジンとするような寒さです。
上り始めから、いきなり容赦のない急登が始まります。先ほどから寒くてしょうがないので、手っ取り早く体を温めるのにはかえって好都合です。ガンガン飛ばして行きましょう。
東の空が薄っすらと明るみ始めました。ご来光を拝めそうな開けた場所まで、急いで登りましょう。
灌木帯の中をジグザクと登って行くと、ちょうど日の出を見るに良さげな開けた場所が現れました。ここに陣取ってその瞬間を待つことにしましょう。
あーたーらしーいー あーさがきたー♪
なぜか毎度毎度、ご来光を見るとラジオ体操のテーマ曲が脳内で自動再生されます。体操はしませんけれどね。
若干雲が多めな空模様ではありますが、それでも美しい日の出を拝むことが出来ました。今日は良き一日となりそうな予感がします。
朝日に照らされた北岳の山頂が、茜色に染まって行きます。モルゲンロートと呼ばれる、日の出直後の僅かな時間にしかお目にかかれない光景です。
先へ進みましょう。ここからはしばしの間、ずっと同じようような光景が見えているのに一向に辿り着かない、急な上り坂が延々と続きます。肉体のみならず、精神的にもだいぶ辛いものがあるのでので覚悟してください。
草スベリと呼ばれる地点まで登って来ました。ここは夏にお花畑となる場所ですが、今の季節は一面の枯草模様です。
かつて北岳ではもっと広域にお花畑が広がっていましたが、深刻なシカの食害によりその大多数が失われてしまいました。鹿よけの柵の設置により、現在植生は徐々に回復しつつあります。
草スベリの領域に入ったあたりから、森林限界を越え背後の展望が開けます。容赦のない急登はなおも続き、辛いことに違いはありませんが、気分はだいぶ上向いて来ました。
背後を振り返ると、野呂川挟んだ向かいの鳳凰三山が立ち並びます。南アルプスの中では比較的アクセスしやすく、入門的な位置づけの山です。
富士山の頭も見えて来ました。手前の池山吊尾根に遮られるので、もう少し上まで登らないと全体が綺麗には見えません。
6時55分 小太郎尾根分岐まで登って来ました。古くなった道標が倒れてしまっていますが、ここを直進するすると小太郎尾根に入るようです。・・・本当にここが分岐?
半信半疑でハイマツの中に足を踏み入れると、前方に小太郎尾根の全容が見えました。本当にここで良かったようです。
一見近そうにも見えますが、意外と距離はあり分岐から往復でおよそ3時間を要します。
一応念のために補足しておくと、正面の一番目立っている白い山は甲斐駒ヶ岳(2,967m)です。これから向かう小太郎山は、この写真の左下に見ているピークです。
甲斐駒ヶ岳の隣にあるこのギザギザした山は、つい1ヵ月間に登って来たばかりの鋸岳(2,685m)です。こうして一目見ただけでも、危ない山であるのが一目稜線です。
甲斐駒ヶ岳の左には、南アルプスの女王の異名を持つ仙丈ケ岳(3,033m)が佇んでいます。いかにも南アルプスの山らしい大柄な山容をしています。
仙丈ケ岳の左奥には中央アルプスこと木曽山脈の山並み。あちらも本日はお天気が良さそうですね。
5.小太郎山登山 登頂編 岩場とハイマツの藪の先に待つ大絶景の頂
人気の百名山のメジャールートを外れて、マイナールートの小太郎尾根へと足を踏み入れます。なおこの小太郎尾根は、山と高原地図上では破線ルートの扱いです。
道らしきものがあるような、ないような、破線ルートらしく最初から少々心許ない踏み跡です。
日影となる北側の斜面には、びっちりと雪が残っていました。念のためここからチェーンスパイクを装着します。
右手の眼下に小さく広河原が見えました。あの場所からほぼ真っすぐに登って来たのだと言う事が大変よくわかる光景です。
行く手の彼方には、雲海から頭を覗かせた北アルプスの山並みが良く見えました。今のところ山の上は晴れていますが、下界の天気は曇り空なんでしょうね。
道が藪っぽくなってきましたよ。チェーンスパイクによる万全のグリップ力を手に入れた代償として、ハイマツの藪に爪をひっかけやすい状態となっています。転倒しないように、足元に十分注意しつつつつみます。
遠目には平坦でとても歩き易そうにも見える小太郎尾根ですが、ハイマツの藪や尾根上を塞ぐように立ちはだかる岩などもあり、意外に歩きにくい道です。
尾根上は当然吹きっ晒しのため、北風に吹かれてだいぶ寒くなってまいりました。本日の北岳山頂の風速はおよそ5メートルほどだと言う事なので、10月下旬の北岳としては比較的穏やかな方であろうかと思います。
とは言っても比較的穏やかと言うだけの話であって、寒いものは寒いのです。
岩場は直登する事もあればトラバースな事もありったり色々ですが、道は全般的に不明瞭でわかり難いので、集中力を要します。
意外としっかり標高を落とします。小太郎尾根はギリギリ森林限界を超えるか超えないかくらいの高さにあり、鞍部の一帯だけが灌木帯となっていました。
灌木帯に入ると風が和らぐ溜め、ほっと一息付けます。しかしそうすると今度は薄っすらと汗ばんできたりして、なかなかちょうど良くはなりません。
やっと着いたと思ったら、まだ山頂ではなく前小太郎山と言うピークでした。うむむむ、小太郎山は思った以上に防御力が高いですぞ。
前小太郎山から小太郎山へ至る尾根は痩せた岩尾根となっており、片側が切れ落ちています。チェーンスパイクの爪を引っかけて転びでもしたら転落しかねないので、ここは一歩づつゆっくり慎重にまいります。
この尾根歩きにくーい。分岐から眺めた時には割とサクッと往復できるのではないかと思っておりましたが、全然そんなことはありませんでした。実際に歩いてみないとわからないことって、色々とあるものですね。
思いのほか苦戦を強いられましたが、何とか山頂までやって来ました。
8時40分 小太郎山に登頂しました。これで自身の山梨百名山登頂数は、ゾロ目の88座となりました。
6.小太郎山山頂からの眺望
小太郎山の山頂からは、360度全方位に展望が開けています。中でも一番の見所はやはりこちら、お隣の北岳です。日影となる北側の斜面は完全に雪山の装いとなっていました。
東側には鳳凰三山尾の山並み。標高がほぼ同じなので、視線と同じ高さに並んでいました。
反対側の西側には仙丈ケ岳。目の前で見ると本当に大きな山です。ちなみに仙丈ケ岳は長野県と山梨県の境界上にある山で、最も西に位置している山梨百名山です。
北側には仙丈ケ岳と甲斐駒ヶ岳の鞍部である北沢峠が見えます。野呂川を挟んだ向かいにはアサヨ峰が鋭く屹立し、その背後には甲斐駒ヶ岳の頭だけが見えます。
眼下に、広河原から北沢峠へと向かう南アルプル林道が見えます。令和元年台風19号による被害から未だに復旧しておらず、通行止めとなっている区間です。アサヨ峰に登るためにも、早く復旧してほしいのですけれど。
富士山南には富士山も見えます。だいぶ雲が湧いて来て、雲海の上に頭だけを覗かせていました。
辿り着くのに意外と苦戦しましたが、しかしその苦労に十分見合うだけの光景が見られました。極めて地味でマイナーな頂ですが、小太郎山は大にお気に入りの場所となりました。
7.せっかく近くまで来たので北岳に来ただけ
9時 名残惜しくはありますが、再びあの歩きにくい尾根を攻略しなくてならないのでボチボチ出発しましょう。
ちなみに小太郎山の山頂は、小太郎尾根分岐よりも若干低い標高にあります。つまり、帰路の方が登る量が多いと言う事です。こんなに大きく下ったっけかとボヤきつつ登り返します。
視界を遮るものがないもないためか、距離の感覚が少々おかしくなっており、すぐそこのように見えてなかなかつきません。いや、本当にしんどいんですけれど。
10時30分 小太郎尾根分岐まで戻ってきました。往路に通った分岐とは明らかに違う場所ですねえ。あの倒れた道標のある地点ではなく、どうやらこちらが本当の分岐であったようです。
さて、小太郎山に登ると言う本日の目的はすでに達成されているわけですが、しかしやはりここまで来ておいて北岳をスルーすると言うのは妙な話でありましょう。
過去に何度も登ったことがある山ではありますが、せっかくなので登って行きましょう。
と言う事で、北岳に向かって登って行きます。人気の百名山のメジャールートに復帰しただけに、目に見えて道が良くなりました。
日影になる箇所はすっかりと雪山の光景になっていました。まだ新雪で根雪にはなっていないため、チェーンスパイクだけで全く問題無く歩けます。
背後を振り返ると、つい先ほど死闘を繰り広げて来たばかりの小太郎尾根の全容が見えました。こうして遠巻きに見る分には、凄く歩き易そうに見えたんですけれどね。
肩の小屋の手前に、北岳でほぼ唯一の危険個所と言えなくもない岩場があります。ドライな状態であればなんてことはない場所ですが、しっかりと雪が付いているため油断はなりません。グリップをよく確かめながら登ります。
10時55分 北岳肩の小屋まで登って来ました。この場所がちょうど標高3,000メートル地点となります。
ここにも一度は泊まってみたいと思いつつ、まだ宿泊した経験がありません。この場所から朝日を眺めたら、さぞや素敵でありましょう。
小屋の目の前から富士山がドーンと見えます。登って来るだけでも一苦労しますが、素晴らしい立地にある山小屋です。
さて時間もだいぶ押してきたので、もったいぶっていないでサクッと北岳を往復して来ましょう。小屋から山頂までは、標準コースタイムで50分の行程です。
振り向けば甲斐駒ヶ岳と仙丈ケ岳。いや素晴らしい光景です。撮影が捗りすぎてなかなか歩みが進みません。
と言うのは単なる口実で、単にすぐ息が上がってしまうからです。標高3,000メートルを超えると、空気の薄さをはっきりと体感できるようになります。息切れしないよう、ジリジリと牛歩で標高を上げて行きます。
先ほどから頭の奥の方に、高山病の予兆と思われる微かな鈍痛を感じます。今のところはまだ問題なしですが、ひどくなるようならロキソニンを投入します。
山頂が見えて来ました。ウィニングランを決めたいたころですが、息が上がるのでジリジリと進みます。
お隣の間ノ岳(3,189m)の姿が見えました。あちらも既に冬の装いです。今見えているこの稜線は、全体が標高3,000メートルを超えており、まさしく天空の回廊です。
良い感じに息絶え絶えとなりつつ、山頂に辿り着きました。はい、ちょっと北岳に来ただけですよ~。
なんやかんやで、今回が今年最初で最後の3,000メートル峰登頂です。山梨百名山にばかり入り浸っていた1年でしたからね。
11時35分 北岳に登頂しました。富士山に次ぐ日本第二位の標高を持つ山でありながら、何故か地味山扱いされる不遇の頂です。そりゃ名前が地味だからでしょう。
北岳も当然ながら山梨百名山ですが、過去に登頂済みであるため今回登頂数のカウントは増えません。
私自身にとってこれで人生で4度目となる北岳の登頂なのですが、何気に晴れている北岳山頂は今回が初めてです。何故か毎度毎度虚無の山頂だったものですから。
こんな絶景が広がる山頂だったのですね。ますますもって、地味呼ばわりされていることが理解できません。そりゃ名前が地味だからでしょう。(2度目)
日本で二番目に高い山の頂から見た、日本で一番高い山です。だいぶ雲が湧いてきてしまいましたが、それでもこうして頭を覗かせてくれただけでも感謝です。
こちらはほぼ真横から八ヶ岳連峰です。八ヶ岳のほぼ全ての山から南アルプスは良く見えますから、当然逆もまたしかりな訳です。
小太郎山からだと見上げる高さにあった甲斐駒ヶ岳も、北岳からは逆に見下ろすことになります。富士山以外には現在地よりも高い山が存在しないのですから当然ですね。
甲府盆地から見るとあれほど天高くに見える鳳凰山のオベリスクも、ここからなら見下ろす高さでしかありません。
山頂の直下は、北岳バットレスと呼ばれる高さ600メートルに及ぶ大岩壁となっています。上から見下ろすと、タマが縮み上がりそうになる光景です。
8.小太郎山登山 下山編 北岳山頂から広河原へ、怒涛の下山行
12時 単なる寄り道にしてはいささかヘビーでしたが、おかげで十分満足しました。ボチボチ下山を開始しましょう。何しろ、これから広河原まで一気に下らなければいけないのですから。
正午になるのとほぼ同時に湧き上がって来た雲が、あれよと言う間に間ノ岳を覆い隠してしまいました。私が登頂したのは、まさに眺望を台無しにされる間一髪のタイミングであったようです。
山頂付近は急勾配の岩場が続きます。ここでコースタイム巻こうとするのは危険なので、ゆっくり丁寧に下山しましょう。巻けるタイミングはこの後にしっかりとあります。
12時30分 サクサクと順調に下り、あっさりと肩の小屋まで戻って来ました。ここで残っていたシャリをすべて胃袋に収めて気合を入れます。
北岳でほぼ唯一の危険個所と言えなくもない岩場を慎重に下ります。私は横着して前向きのまま下ってしまいましたが、真面目に体を後ろ向きにして下った方が無難であるかもしれない。
小太郎尾根分岐まで戻って来ました。やけに長い寄り道でありましたな。
休憩中の人がいるのが見えている辺りが、往路に間違えて通ってしまったニセモノの小太郎尾根分岐です。まあ、あちらからでも難なく下れたので、あながちニセモノであるとまでは言えないのか。
先ほど間ノ岳を呑み込んだ雲は、今度は北岳をも覆いつくしつつありました。本日の晴天タイムはそろそろ終わりかな。
さあ、ここからは谷底にある広河原に向かって、怒涛の下山行が始まります。あとはひたすら下り続けるのみなので、覚悟を決めて参りましょう。
ひたすらジグザグジグザクと、延々と下り坂が続きます。よくもまあこんなに登ったよなあと、我ながら感心してしまうほどに。
あまり大きな段差もなく、下る分には至って歩きやすい道です。おかげでかなりのハイペースで下れます。
眼下に白根御池が見えて来ました。朝にはコチコチに凍り付いていた地面も、この時間になると流石に少し緩んでいました。
一度も立ち止まることなくサクサオクと下り続けて、あっさりと白根御池まで下って来ました。
13時55分 白根御池小屋まで戻って来ました。標準コースタイムよりも大幅に速いペースでの到着です。草スベリルートは、下山向きな道であると思います。
あともう消化試合です。昨夜は普段よりもしっかりと睡眠を取れたことが良かったのか、この日は最後まで絶好調で足が止まらずに前に出続けました。
ということで、途中をだいぶ端折りましたが、無事に吊り橋まで戻ってきました。
北岳はすっかり雲の中です。ありがとう北岳。きっとまた5度目の訪問もあることもあるでしょう。
15時40分 広河原に下山しました。標準コースタイムよりも大幅に速いスピード下山でした。
16時40分発の甲府行き最終バスで撤収します。空いていた往路のバスとは違って、帰りのバスは座席がすべて埋まるくらいには盛況でした。
甲府駅に戻って来た時には、周囲はすっかりと暗くなっていました。
二日分の心地よい疲労感と共に、再び鈍行列車に揺られて帰宅の途につきました。
マイナーな山梨百名山(と超メジャーな日本百名山)を巡る山行きは、こうして大満足の内に幕を下ろしました。
恐らく小太郎山を訪れる人の9割以上は、北岳に登ったもののついでにこの山に足を延ばしていることでしょう。そして、それは正解であろうかと思います。小太郎山の真価は周囲を名だたる名峰に囲われたその立地にあり、こと北岳を間近に眺めるのには格好ロケーションです。当然ながら北岳からでは北岳自身の姿は見えませんから、北岳に登りつつついでに隣からその姿を眺めるのに最適です。体力的レベルからして決して容易ならざる山であるため、小太郎山単体であれ北岳とのセットであれ、白根御池か肩の小屋で一泊する行程で訪問するのがオススメです。
既に冠雪している可能性もありますが、10月末の北岳は混雑もしておらず快適でした。ハイシーズンの混雑を避け、穴場の時期を狙って訪れてみては如何でしょうか。
<コースタイム>
一日目
広河原(12:15)-白根御池小屋(14:20)
二日目
白根御池小屋(5:10)-小太郎尾根分岐(6:55)-小太郎山(8:40~9:00)-小太郎尾根分岐(10:30)-北岳肩の小屋(10:55)-北岳(11:35~12:00)-北岳肩の小屋(12:30)-白根御池小屋(13:55)-広河原(15:40)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント
お天気に恵まれたようで、北岳を含む、南アルプスの山々がよくみれました。ほんと素晴らしい景色でした。オオツキさんもいうように北岳に登ったら北岳自身はみえないものですからね。今回、小太郎山の展望力の真価発揮ですね。
しょうへいさま
コメントをありがとうございます。
私は昔から少し引いた位置から自分の登った山の全容を眺めてみたいと言う欲求が強く、小太郎山は北岳の姿を眺めるのに格好の場所でした。この山はまさに、北岳を眺めるために存在しているようなものだと思います。
小太郎山に入ってませんが、今年、北岳~間ノ岳~塩見岳の縦走をした時のことを思い出しました。
結果ですが、初日北岳山頂残り10分程度の所で両太ももを思いっきり攣ってしまいリタイアしました。
代わりに登っていただきありがとうございます。
U-leafさま
コメントをありがとございます。
間ノ岳から塩見岳の縦走は一度歩いてみたいと思いつつ、なかなかまとまった休みが取れず未だ未踏です。人生度5度目の北岳があるとすれば、それは塩見岳を目指す時かもしれません。
私は30日〜31日にかけて肩の小屋でテント泊をしており、オオツキさんとはおそらく30日の13時前に小太郎尾根分岐のあたりですれ違っていると思います
とにかく二日ともいい天気で、肩の小屋付近ではブロッケン現象に遭遇したり、今年最後の3000m峰として最高の山行となりました
今回は小太郎山に登っていないので、この記事を読んで次回行ってみたいと思っちゃいました
roadhopperさま
コメントを頂きましてありがとうございます。
天気も良かったですし、何よりも空いていて最高の登山日和でしたね。晩秋の小屋閉め間際の時期は狙い目なのかもしれません。
広河原を訪問する登山者の多くは北岳が目当てであろうかと思いますが、小太郎山もいいですよ。是非とも足を運んでみてください。
オオツキさん、こんにちは。
名前も見た目も地味な北岳はこれまであまり注目したことがありませんでしたが(^^; 小太郎山から見るとイケメンですね!
岩壁を“バットレス“というのですね?“キレット“や“爆裂火口“についで響きがかっこいいなーと思いました。最初の急登がきつそうですが、いつか行ってみたいです。
MMさま
コメントを頂きましてありがとうございます。
北岳は南アルプスの3,000メートル級の山の中ではアクセスがしやすい山なのでおすすめです。北アルプスの上高地周辺ほどには混雑しないのもポイント高しです。
小太郎山には・・・まあ無理に足を延ばす必要はありません。時間と余力があればどうぞ。