栃木県日光市および塩谷町にまたがる高原山(たかはらやま)に登りました。
栃木県の北部に位置する、釈迦ヶ岳火山群と塩原火山群からなる複数のピークを持った山塊です。北関東の山らしくヤシオツツジの咲く山として名高い存在ですが、同時に紅葉の名所でもあります。隣接している同じく紅葉の名所として名高い日光や那須岳に比べると、訪れる登山者は少なく静かな山域となっています。
紅葉が見頃を迎えた北関東のマイナーな山を巡って来ました。
2022年10月16日に旅す。
高原山は栃木県の北部に大きく裾野を広げる火山群です。馬蹄形のカルデラといくつかのピークから成る複雑な山容を持つ山で、最高峰の名前を釈迦ヶ岳と言います。
宇都宮付近から見た際にかなり目を引く存在であり、その極めて宗教色の強い名前からも察せらる通り、古くから山岳信仰の対象となって来た山です。山頂に立つ高原山神社は、西暦8世紀の創建と伝えられています。
ツツジの名所として名高い存在であり、特にアカヤシオとシロヤシオが咲く5月初旬から下旬ごろにかけて、多くの登山者が訪れます。
ツツジばかりが注目されがちな高原山ですが、山のほぼ全域が落葉広葉樹林に覆われているため、紅葉の名所でもあります。今回は紅葉の時期を狙って訪問しました。
途中まではガスが多めでピリッとしない天気でしたが、山頂では雲海が広がる大逆転が待っていました。北関東のマイナーな山で紅葉を愛でてきた一日の記録です。
コース
高原山の中腹に位置する大間々台駐車場から釈迦ヶ岳を往復します。往復でおおよそ6時間ほどの手軽な行程です。
1.高原山登山 アプローチ編 中腹の大間々台駐車場を目指す
頭上がどんよりとした曇天に覆われたイマイチ風味のなかを、中年二人を乗せた車が快調に東北自動車道を進みます。
高原山のある一帯は公共交通の不毛地帯です。アプローチの手段は基本的に車しかありません。車も買えない貧乏人環境意識高い系ハイカーにはまったくもって優しくない山であると言えます。
矢板北パーキングから高速を降ります。最近増えて来たスマートインターチェンジと言うやつです。
目指す高原山が正面にドーンとそびえ立っているはずなのですが、雲のベールに覆われていてその姿は一切見えません。実に幸先の悪い展開です。
高原山の中腹に位置している、大間々台の駐車所を目指して山道を登って行きます。途中から完全にガスの中に突入してしまいました。
しかし何となく空は明るい状態で、今にもガスが抜けそうな予感がします。
不意にガスが抜けて青空が広がりました。ここで思わず「ハハハ、敗北が知りたい」と、早々勝利宣言を出してしまったったわけなのですが、山の神様はそんな私の慢心を決して見逃してはくれませんでした。。。
8時 大間々台駐車場に到着しました。紅葉シーズンもたけなわなだけあってか、マイナ―な山である割に駐車場は結構な利用率でギリギリの状態でした。
なお大間々台駐車場が満車であった場合は、多少歩くことにはなりますが、少し下ったところにある小間々台駐車場を利用できます
大間々台の周辺には、八方ヶ原と呼ばれる溶岩台地が広がっています。レンゲツツジの名所であり、散策のための遊歩道が整備されています。
今はシーズンではないため、枯れ木となった寒々しい姿をさらしていました。
行く手の前方に見えているこのピークが釈迦ヶ岳なのかなと思っていましたが、これは矢板市最高地点と呼ばれている名も無き1,590メートルのピークでした。
この時点では頭上に見事な青空が広がっており、この日一日の勝利を微塵にも疑ってはいませんでした。・・・この後あれよあれよという間にガスってしまいましたがね。
2.見晴らしの無い見晴らしコースを行く
身支度を整えて8時10分に行動を開始します。見晴らしルートと林間ルートの二つのルートが選べますが、ここは当然見晴らしルート一択です。
歩き始めは車も通行可能であろう林道歩きです。久々の登山に張り切った友人は、前日のトレーニングでハッスルし過ぎたらしく、最初から片足を引きずっていました。一体何をやっているんだか。。
お目ての紅葉の方は、良い感じに色づいています。この様子なら、もう少し標高の高い一帯では一面の錦模様を期待できそうです。
十分少々歩いたところで見晴らしコースの登山口が現れました。ここから登山道へ分け入って行きます。
信仰の山らしく、登山口にいきなり鳥居がありました。なにせ名前からして釈迦ヶ岳ですからね。宗教色の強い山であろうことは明らかです。
いかにも北関東の山らしい、足元に笹が茂った道です。この時点ではまだ頭上に青空が広がっており、この先に素晴らしい見晴しが広がっているのであろうことを少しも疑ってはいませんでした。
最初の坂を登りきると、頭上の開けた水平移動の道に移りました。そしてあろうことか、南から吹きあがって来たガスが、あっという間に頭上を覆いつくしてしまいました。
前方に、目指す釈迦ヶ岳の山頂らし木場所が僅かに見えました。しかし。次々と舞い上がってくるガスの前にもはや風前の灯状態です。
前方の視界が大きく開けました。本来なら釈迦ヶ岳の全容が目の前にドーンと現れる所なのでしょうけれど、すっぽりと隠されてしまいました。
登山口に辿り着く前から早々と勝利宣言を出したのは、完全なる早とちりでありました。なんてこったい。
樹木のない大きく視界の開けた斜面を登って行きます。ここが見晴らしコースと言う名称の由来となっている場所なのでしょう。今は振り返っても一面の虚無の世界しか見えませんが、晴れていれば関東平野を見渡せます。
こうして時よりぽっかりと頭上にだけ青空が顔を覗かせる状態です。このガスにはあまり厚さは無く、山肌に纏わりつくようにして発生しているのでしょう。
9時5分 八海山神社の跡地に到着しました。かつては小さななお社があったようですが、潰れてしまったらしく瓦礫が散乱していました。
ここが見晴らしの無かった見晴らしコースと林間コースとの合流点となります。
辺りは虚無に没しつつありましたが、いちいち一喜一憂していても始まりません。ともかく前進を続けましょう。
八海山神社を過ぎると、登山道は再び樹林帯の中へと突入し展望はなくなります。今日はどの道展望は無いので、気にせずどんどん行きましょう。
道中に矢板市の最高地点だと言う、矢板市民以外にとっては(矢板市民にとっても?)どうでもいい名も無きピークがあります。入り口の駐車場から見えていたのはこの場所です。
矢板市最高地点を過ぎると、一度ガッツリと大きく標高を落とします。それはつまるところ、帰りに漏れなく登り返しが付いて来ると言う事です。
登山道の周りを、ヤシオツツジだと思わる樹木の見事なアーチが覆っていました。ツツジシーズン中に歩いたら、さぞや壮観であることでしょう。
ほんの一瞬でしたが、ガスの切れ目から目指す釈迦ヶ岳の山頂部が姿を見せました。まだまだ距離がありそうですね。
鞍部から少し登り返したところにあるのが、剣ヶ峰と呼ばれているピークです。名前から想像されるような急峻さは一切なく、ただの尾根上の小さなコブのようにも見えます。
登山道はこの剣ヶ峰のピークは通らずに脇を巻いています。分岐からは大した距離ではないので、せっかくだからピークを踏んで行きましょう。
9時30分 剣ヶ峰に到着しました。本当に、何故こんな尖っていそうな名前をしているのかよくわからない場所です。麓から見ると鋭利に見えるのでしょうか。
三角点があるだけの、展望も何も無い空間です。留まっても何も良いことは無さそうなので、着いて早々ですが行動を再開します。
3.高原山登山 登頂編 急登の果てに待つ雲海の広がる頂
剣ヶ峰からは、再び大きく標高を落とします。それはすなわち、下山時に約束された登り返しその2もあると言う事です。今から気乗りしませんな。
相変わらず釈迦ヶ岳の山頂は見えたり見えなかったりを繰り返している状態です。なんとかスカッと晴れてくれませんかね。何しろこちらはもう、勝利宣言を出してしまっている身の上なので。
釈迦ヶ岳に向かって小刻みにアップダウンを繰り返す尾根道が続きます。緩やかなアップダウンで歩きやす道ですが、横方向方向への移動距離が思っていた以上に長めです。
この尾根道の標高付近がが、ちょうど紅葉の最盛期でした。このオレンジに染まっている木々は、どう見てもシロヤシオです。花の季節と紅葉の季節の両方で楽しめる、まさしく一粒で二度おいしい存在ですね。
釈迦ヶ岳の本体に近づくにつれて、徐々に傾斜が増して来ました。いっちょう気合を入れて参りましょう。
山頂直下はなかなか急峻な姿をしています。遠目にはゆるやかそうな山に見えていただけに、少し意外な感じがしました。
所々にロープの張られており、手も使わない登れないような急登です。登る分にはなんと言うこともありませんが、下山時には神経を使いそうです。
背後の視界が開けて来ました。見えているのは塩原方面の山並みだと思われますが、依然として雲が多いため良くわかりません。
急登を登りきると、鶏頂山(けいちょうざん)方面からの登山道を合流しました。麓にあるスキー場からのアプローチが可能で、大間々台からではなくこちら側からの登って来る人も多いようです。
山頂が見て来ました。これはなんと言っていいのか、一言で言うと虚無でしょうかね。
10時50分 釈迦ヶ岳に登頂しました。登山開始から2時間40分程で到着です。手軽であると言っても差し支えはなさそうな行程でありました。
山頂に祭られている大己貴命(おおあなむちのみこと)が、何故か打ち出の小鎚らしきものを振りかざしていました。良くわからないモチーフですね。
釈迦ヶ岳であると言う事で、こうしてしっかりお釈迦さまもいらっしゃいました。重さは優に100kg以上はありそうな石仏ですが、一体どうやってこの場所まで運び上げたのでしょう。ヘリで運んだのだろうか。
相変わらず頭上以外は虚無に包まれたままでしたが、何となくガスが取れて雲海が見えそうな予感がします。しばらく待機して様子をみることにしましょう。
背後で祈祷が始まりました。この方々は高原山神社の宮司と氏子の皆様で、これから山頂の整備作業を行うとのだとか。良く見るとセメントやらなにやら、大量の資材が運び込まれていました。
待つことおおよそ10分少々。山頂の周囲を薄く覆っていたガスのヴェールが剥がれ始めました。
日光連山が雲海の上にピョコっと頭を覗かせていました。左から順に男体山、女峰山および太郎山です。
一時はどうなる事かと思いましたが、何とか待った甲斐があるだけの光景を拝むことが出来ました。これでもう、思い残すことはありません。
4.高原山登山 下山編 最後まで取れる事は無かったガスの中を下る
もと来た道を引き返します。山頂直下はかなりの急勾配で滑りやすいため、慎重に参りましょう。
標高が下がってくると、辺りは再び虚無の中に没しました。ちょうど山頂から見えていた雲海の中に入ったわけですな。
急登を下りきった後は、ほぼ水平移動のような尾根歩きがダラダラと続きます。紅葉したツツジのトンネルの中をゆるゆると下ります。
約束されていた剣ヶ峰への登り返しです。こんなに急だったっけとぼやきつつ登り返します。。
12時40分 剣ヶ峰まで戻って来ました。帰りは山頂には立ち寄らずに素通りします。
矢板市最高地点に向かって、約束されていた登り返しその2です。下山時の登り返しほど気乗りしないものはありません。登った分だけまた下らなきゃいけないんですよ。
ひとしきり悪態をつきつつ、矢板市の最高地点まで登り返しました。これでもう後は下るだけです。
13時5分 八海山神社まで戻って来ました。陽射しが完全に失われた上に強風が吹き抜けており、思わず身震いするような寒さでした。・・・いつまでも半袖一枚のままでいるのがいけないのでしょうけれど。
吹っき晒し状態だと寒くてかなわないので、下山は林間コースを選択しました。名前の通りに森の中を行く道で展望はありませんが、足元が柔らかくて足に優しい道です。
涸れ沢を下ると、ほぼ水平移動のような道になりました。大間々台から散策に来たのであろうスニーカー履きの人の姿も見られ、完全に観光地の装いです。
14時 大間々台駐車場に到着しました。登山開始から5時間50分の山行きでした。
朝方の青空が嘘の様に、どんよりとした空模様になっっていました。やはり朝方の勝利宣言は早急過ぎでしたな。
後は風呂に入って帰るだけな訳ですが、近くに良い感じの温泉が見当たらなかったため、30分程かけて塩原温泉へと移動します。八方道路と呼ばれる、なかなか良きワインディングロードです。
この道の途中に、景勝地として名高いスッカン沢の入り口がありました。流石に今から散策を始めるには時間が遅すぎたので、立ち寄りませんでしたが。
塩原温泉の福の湯に立ち寄ります。無色透明の温めの湯で、ゆっくりと長風呂するのには向いていると思います。
那須塩原と言う新幹線の駅名からも察せられる通り、塩原温泉は那須温泉に比べて人気知名度共に低く、常に後塵を拝している感があります。箒川沿いの風光明媚な場所なんですけれどね。
まだ空の明るいうちに早々と撤収します。いつも日没ギリギリになる様な登山ばかりしているので、こんなに速い時間に撤収するのは久しぶりです。
その後、結局はいつものように高速道路の渋滞につかまりはしましたが、それでも中央道や東名高速の混み具合に比べれば全然マシなレベルでした。
高原山は以前に宇都宮の古賀志山に登った際に良く見えていて興味を持った山でした。
あまり知名度が高いとは言い難い存在ですが、(晴れていれば)眺めも良く埋もれさせるには惜しいポテンシャルを持った山であると思います。
今回は生憎のガッスガスな天気であったため、次回は是非ともツツジシーズンに再訪したい一座です。アクセスが良好とは言い難い場所に立っている山ですが、訪問の手間に見合うだけの光景に出会える山であることは保障します。
<コースタイム>
大間々台駐車場(8:10)-八海山神社(9:05)-釈迦ヶ岳(10:50~11:35)-剣ヶ峰(12:40)-八海山神社(13:05)-大間々台駐車場(14:00)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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