栃木県日光市にある半月山(はんげつやま)と社山(しゃざん)に登りました。
中禅寺湖の南岸に連なる山です。その立地上、中禅寺湖と男体山の展望が素晴らしいことで知られています。また、北関東の山の例に漏れず、春になると多くヤシオツツジが咲き、それを目当てに数多くの登山者がこの山を訪れます。
満開のシロヤシオと男体山の展望を同時に楽しむ、とても贅沢な山歩きをして来ました。
2018年5月20日に旅す。
今回の行き先は、日光は中禅寺湖畔に立つ半月山と社山です。
この二つの山の特長は、たった一言で言い現すことが出来ます。「男体山の展望台」です。
これは半月山にある展望台から見た中禅寺湖と男体山です。
恐らく多くの人にとって、既視感のある光景なのではないでしょうか。日光の観光案内などに使われることの多い、大定番のアングルであります。
この山はまさに、男体山を眺めるために存在していると言ってしまっても、過言ではないでしょう。
またこの山はヤシオツツジの名所でもあります。シーズンには稜線上の至る所に花をつけ、華やかなる登山道の風景を作り出してくれます。
中禅寺湖に男体山。日光の2大シンボルを見晴らす、白い花に囲まれた爽快なる稜線歩きへと繰り出します。
コース
半月峠登山口より半月峠へと登り、そこから半月山を往復します。その後は稜線沿いに中禅寺山、阿世潟峠を経て社山に登頂します。下山は阿世潟峠から中禅寺湖畔へと下り、湖沿いに歩いて中禅寺温泉バス停へ戻ります。
標準コースタイム7時間超えの、そこそこ歩きでのある行程です。
1.出発編 中禅寺湖までの長い道のり
6時40分 東武日光線 北千住駅
本日は珍しく奮発して、鈍行ではなく特急で日光へと向かいます。単に2度寝してしまい、始発電車に乗れなったかっただけとも言います。
北千住から東武日光までの特急料金は1,440円ほどかかります。特段高くも安くも無いと言った印象です。
快適な特急列車のシートで気持ちよく睡眠をむさぼり、目が覚めると東武日光に到着していました。
駅前から中禅寺温泉行きのバスに乗り込みます。湯元行きのバスには行列が出来上がっていましたが、こちらは比較的空いていました。
ここで、男体山に行こうと思われている人へワンポイントアドバイスを。男体山登山口の最寄バス停は二荒山神社前になりますが、実は中禅寺温泉バス停からでも、徒歩10分程度の距離しか離れていません。
と言うことで、湯元行きのバスが混んでいる場合には、中禅寺温泉行きに乗車することを推奨します。立ったままでいろは坂を越えるのは辛いと思うのでね。
9時18分 中禅寺温泉バス停に到着しました。東武日光駅からの乗車時間はおおよそ40分で、運賃は千円オーバーです。スイカ・パスモが使えます。
男体山が頭に雲を被っています。おいおい勘弁してくれよ。こちとらお前さんを姿を眺めに来たのだから。
半月峠の登山口へと向かいます。大鳥居の前を左折して、中禅寺湖沿いに歩いて行きます。
目指す半月山(左)と社山(右)が対岸に見えています。間にある阿世潟峠(あぜがたとうげ)が大きく窪んでいるのが目に付きます。登り返しが大きそうですな。
右手奥には関東地方最高峰の日光白根山(2,578m)の姿も見えます。標高の高い山だけに、山頂付近にはまだ雪が残ってる様子が窺えます。
しばらく湖岸沿いに歩くと、その名も中禅寺という寺がありました。
中禅寺の前にある湖だから中禅寺湖だったのか。と今更ながらに知って、一人合点が行くのでありました。・・・もしかして常識なんですかね。無知でスイマセン。
湖畔ではちょうどシロヤシオが見頃を迎えていました。バスに運んでもらったおかげで忘れそうになってしまいますが、この場所はすでに標高1,200メートルを越える場所です。
風光明媚で夏も涼しいとあって、ヨーロッパ各国は明治時代の頃より好んで中禅寺湖畔に大使館の別荘を建ててきました。今では、その跡地が公園として保存されています。
一先ず今は素通りして、帰りに寄ることにしましょう。
この辺りの湖畔は浜になっており、水際を歩くことが出来ます。周囲には釣り人が多くいました。
目指す社山がだいぶ大きくなって来ました。見事な三角型をした、良いカタチの山ですね。
背後を振り向くと、いつの間にか男体山の雲はキレイに取れていました。これは、展望台からの眺望が大いに期待できそうです。
この中禅寺湖上にまるで盲腸のように付き出している半島は、八丁出島と言います。この半島の存在がまた、展望所から見た中禅寺湖と男体山の光景に、ほどよいアクセント加えてくれるのです。
10時20分 湖畔を延々と1時間ほど歩き続けて、ようやく登山口に辿りつきました。ここら半月峠までは、標準コースタイムで1時間の行程となります。
2.男体山展望台からの絶景
周囲にはコメツガ林が広がります。登り始めからいきなり広葉樹林ではなく針葉樹林であるのは、スタート地点の標高が高い登山ならではではの光景です。
ゆったりとした九十九折れの付いた、とても歩きやすい道です。逆に言うと、なかなか高度は上がりません。
峠に近づくにつれて、徐々に道の斜度が増して来ました。前半はゆったりで、最後になって一気に高度を稼ぐタイプの道です。
11時5分 半月峠に到着です。やたらと歩きやすい道だったのは、中禅寺湖周回歩道として整備されている道だったからのようです。登山道ではなく遊歩道だったのね。
ここから半月山を往復します。笹の急斜面に生えた、多くのシロヤシオが迎えてくれました。
稜線に乗ったことにより、これまで見ていなかった南側の展望が開けます。途方もなく広い、関東平野の裾野が眼下に広がっていました。
薄っすらとですが、東京スカイツリーまでもが見えました。まさか栃木の山からも見えるとは、少々驚きです。
すぐ下に半月山の駐車場が見えます。車でお越しの人はあそこまで上がってこれます。登山と言うよりはピクニックみたいなものですね。
こちらは皇海山(すかいさん)(2,144m)です。深田久弥が選んだ日本百名山のブランドに輝く山ですが、あまりにも交通困難な僻地にあるせいか、いまひとつ人気の無い山です。
かく言う私も未だ登ったことがありません。行きたいとは思っているのですけれど、基本的にこの山は車が無い奴お断りで、私のような公共交通機関頼みのハイカーにはなかなか手出しが出来ません。
日光連山ファミリーのお父さんの堂々たる姿が現れます。・・・まあ、記事の冒頭で既に見せてしまっている光景なんですけれどね。
深田久弥曰く、中禅寺湖と男体山の組み合わせは「天の造詣の傑作」であると。
確かに、この光景から男体山か中禅寺湖のどちらか一方を無くしてしまったら、途端に平凡な風景に成り下がってしまうことでしょう。かけあわせによって生み出された傑作です。
西側の展望。白根山が壁となって立ちはだかっているため、上信越方面の山の姿はここからでは窺えません。
右側に連なっている稜線が、この後歩く社山への道です。中央には、先ほども見えていた皇海山の姿があります。
さて、展望台からの光景だけで十分に満足してしまいましたけれど、一応は半月山の山頂を踏みに行きましょうかね。山頂は展望台から5分ほどの場所にあります。
11時35分 半月山に登頂しました。ご覧の通り展望はありません。ピークハントに興味の無い人は、わざわざ来なくとも良いと思います。
山頂の様子
三角点があるほか何も無い空間です。そもそも三角点があるのに驚きです。こんな展望の無い場所で、どうやって測量したのでしょう??
3.シロヤシオが咲き誇る爽快なる尾根道
ここからずっと尾根沿いに進んで、社山へと向かいます。湖畔からも見えていた通り、一度大きく下ることになります。
半月峠からは登り返しです。尾根上にある中禅寺山(1,655m)を乗り越える必要があります。
この辺りは熊笹と針葉樹林がミックスしています。森林限界を越えそうで越えない微妙な標高であるようです。
12時25分 中禅寺山を通過します。特に何があると言うわけでもない、稜線上の小ピークです。
目指す社山の姿を真正面に捉えました。ここから阿世潟峠に向かって大きく標高を落とします。体感的には二つの別の山を登るようなものです。
男体山に中禅寺湖にシロヤシオというこの組み合わせは、この山でしか見ることの出来ないオンリーワンの光景です。一点物好きの人にはたまらない魅力に満ちた山であると言えるでしょう。
僅かながらミツバツツジも散らずに残っていました。白と紫の共演が繰り広げられます。
一箇所、ガレ場のフチを通るような場所があります。花ばかりを見上て歩いていると危険です。足元を良く見て歩きましょう。
13時 阿世潟峠に到着しました。多くの登山者が休憩を取っていました。みなこれから下山する所で、この時間から社山に向かって登ろうと言うのは私一人だけでした。
さあ、時間も遅いけれど張り切っていってみよう。
阿世潟峠から社山までの標高差はおよそ400メートルあります。つまり1高尾山です。ということであれは、だいたい1時間あれば山頂に到着できるでことでしょう。
血とか言ってないで、もう少しエレガンスな感じのする例えが出来ないものかと、脳内の乏しいボキャブラリーを一生懸命引っ掻き回すも、よい表現が出てきませなんだ。
社山の山頂部が見えます。一見すぐそこのように見えて、意外と時間がかかります。
南側には足尾方面の山並みが広がります。全く足を踏み入れたこの無い一帯なので、見えている山の名前は一切わかりません。
男体山再び。この先は山頂までずっとお父さんオンステージ状態が続きます。
こちらは背後を振り返ったところ。右側の一番高い山が半月山です。この尾根をずっと歩いて来ました。
先ほどまではお父さん陰に隠れていた、日光連山ファミリーの息子たちが姿を見せます。正面の山は太郎山(2,367m)です。
ここだけ見ると実に丹沢っぽい光景ですね。社山の稜線上に樹木が無いのは、足尾銅山から出た鉱毒を含む煙による煙害が原因です。
山頂が見えて来ました。ここまでの道中はずっと好展望でしたが、山頂部だけは樹林に覆われていて展望はイマイチだったりします。
14時5分 社山に登頂しました。1高尾山であるとの見立ての通り、阿世潟峠から1時間5分ほどで到着しました。
山頂の様子
あまり広くはない山頂に、大きな石がゴロゴロと転がっています。ベンチ等はありませんが、この石が腰掛けるのに良い塩梅です。
南側だけが広く展望が開けています。足尾の山並みの先に、関東平野のとてつもない広さを感じることが出来るでしょう。
男体山も見えないことはありませんが、藪を掻き分ける必要があります。ここまで登ってくる道中にずっと見えているので、無理して山頂から眺めることはありません。
山頂にシャクナゲが咲いていました。これには全く期待していなかったので、見れたのは嬉しい誤算です。
4.下山編 好展望はまだまだ続くよ
社山は登りよりも下山の方が楽しい山です。登る時には背後にあった絶景が、今度はずっと正面に広がります。
山腹に大規模なヤマツツジの群落があるのが見えます。残念ながら、登山道から大きく外れた斜面にあるので、近くから鑑賞する方法はありません。目の前まで行くことが出来たら、さぞや見ものでありましょうな。
スタート地点の中禅寺温泉の町並みが見えます。当然ながら、この後あそこまで歩いて戻らないといけない訳です。こうして見ると、結構遠い所まで歩いてきたものですな。
拡大して見ると、行きに脇を通った二荒山神社の大鳥居の姿も確認できます。
こちらも拡大した一枚。関東平野の先に筑波山(877m)の姿が見えます。特徴的なシルエットをした双耳峰なので、山座同定が容易に出来ます。
絶景を楽しみつつ、あっという間に阿世潟峠まで戻って来ました。
峠から湖畔までの道は、これまた大変良く整備されたとても歩きやすい道です。
中禅寺湖周遊歩道は、この先の千手ヶ浜までずっと続いています。約10kmあるので、ここからだと2時間はかかると見たほうが良いでしょう。
この先まで進むつもりはもとより無いので、本日はここで引き返します。
風が無い日であれば、浜辺からは逆さ男体山の姿を見ることが出来ます。今日はこの通り、湖面のゆらぎが大きくて全然駄目です。
本日の登山開始地点である半月峠登山口まで戻って来ました。ここからは一度通った道です。
我が物顔で道草を食うシカの群れ。
人の存在など全く歯牙にもかけておらず、すぐ背後に釣り人が立っていても全然お構い無しです。
中禅寺湖の遊覧船が、結構な高頻度で通り抜けて行きます。一度も乗ったことがありませんが、紅葉シーズンなどはきっと素晴らしい湖畔の風景を見ることが出来るでしょう。
せっかっくなので、行きにはスルーした大使館別荘跡を見物して行くことにします。
押しも押されぬ先進国となった今日の日本しか知らない者にとって、明治時代初期にヨーロッパから日本に赴任した大使たちの心情を想像することは非常に困難です。
当時の日本はヨーロッパ人にとって、その名を聞いたことすらないような未開の僻地でした。変な髪形をして腰に刃物を2本ぶら下げて歩く人間が闊歩する国への赴任は、心休まる瞬間の無い緊張の連続であったことでしょう。
この別荘地で過ごす時間は、彼らにとっては数少ない寛げる時間であったはずです。
こちらはイタリア大使館の別荘跡です。
ジャッポネとか言う、まったく聞いた事も無いような極東の島国に赴任した公使たちは、ここで湖の風景を眺めながらパスタとマカロニを茹でたのでしょうか。
こちらは英国大使館の別荘跡です。
ジャパンとか言う極東の僻地に赴任した公使たちは、ここで湖の風景を眺めながら紅茶とビスケットでティータイムを過ごしたのでしょうか。
アーネスト サトウも眺めたであろう、中禅寺湖の美しき光景です。
朝には頭上を雲に覆われていて、どうなることかとヤキモキしたお天気も、最後まで崩れることなく持ってくれました。
16時55分 中禅寺温泉バス停に戻ってきました。バスは大体1時間に2本の頻度で運行されています。ちょうど5分前にバスが行ってしまった直後で、次のバスまで30分ほど待ちました。
その後、多くの外国人観光客が続々とバス停に詰め掛け、バスは超満員でした。
早々と並んでいた私は座席にありつけましたが、すし詰め状態で立ったままでのいろは坂の下りは、相当辛かったのではないでしょうか。
かくして社山登山は、最高の天気とまさに見頃の真ん中を迎えたいたシロヤシオによって、大満足の内に幕を閉じました。
振り向けば常に男体山が傍らにある。社山はある意味、男体山に登るよりも遥かに男体山の魅力に触れることの出来る山です。こと立地に関して言えば、恵まれすぎているとも言えるでしょう。この山から見える光景は、どこをどう切り取とろうが絶景です。
アプローチの段階で湖の周囲をぐるっと回りこむことになるので、登山口からの標高差の割には結構な長距離を歩くことになります。そういう意味この山は、決してお手軽なお散歩登山ではなく、まる一日をかけてガッツリと歩きたい人向きの山です。
白い花と湖の絶景が広がる魅惑の稜線歩きを、貴方の山行き計画に組み込んでみてはいかがでしょうか。
<コースタイム>
半月山登山口(10:20)-半月峠(11:05)-半月山展望台(11:25)-半月山(11:35~11:50)-半月峠(12:15)-中禅寺山(12:25)-阿世潟峠(13:00)-社山(14:05~14:30)-阿世潟峠(15:15)-阿世潟(15:30)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント
はじめまして。
いつも楽しく拝読させていただいてます。
素晴らしい天気とシロヤシオに恵まれよい山行でしたね。
私は毎度、ひとの
すみません。
間違って途中で送信してしまいました。
以下、続きです。
記事の後追いばかりしているので、見頃を逃してしまいます。
先週も檜洞丸のシロヤシオは残念な状態でした…
いけませんね、反省します。
ところで、語彙が貧困等と謙遜されてますが、とんでもない。
文章が面白く楽しませていただいてます。
Cozy様
はじめまして。コメントを頂きましてありがとうございます。
檜洞丸のシロヤシオシーズンは例年ですと5月下旬頃なのですけれど、今年は非常に早かったですね。花と言うのは実に気まぐれなものなので、うまい具合に旬な時期に巡り合えるかどうかは、運に左右されるところが大きいかと思います。来年に期待しましょう!