東京都府中市にある浅間山公園(せんげんやまこうえん)を散歩してきました。
府中の市街地の中にポツンと存在する標高およそ80メートル小さな山で、全体が都立公園として整備されています。日本国内では唯一ここにしか自生していない大変な希少な花である、ムサシノキスゲの群生地として知られています。
見頃を迎えたムサシノキスゲの群落を鑑賞すべく、近場のお散歩をしてきました。
2020年5月8日に旅す。
浅間山公園について
浅間山公園は府中市の市街地の只中にある公園です。山と名乗ってはいるものの、その標高は100メートルにも満たず、遠目にはただの雑木林か何かのようにしか見えません。
場所で言うと多摩霊園のすぐ隣になります。霊園とは道を挟んで隣接しており、連絡のための橋まで架けられています。
周囲の市街地とは30メートルほどの標高差しかありません。この山・・・と言うより丘は、古代の多摩川の浸食により形成された段丘の切れ端が、平地の只中に取り残されたものであると考えられています。
浅間山公園に自生する希少種ムサシノキスゲ
一見するとどこにでもありそうなただの雑木林でしかない公園ではありますが、日本国内では唯一となるムサシノキスゲの自生地となっています。
ムサシノキスゲはワスレグサの一種で、ニッコウキスゲが平地に適合して変種したものです。
見た目は殆ど同じですが、陽当たりが良好な高地に咲くニッコウキスゲとは違い、日陰の雑木林の中に多く自生しています。
かつては多摩丘陵などにも多く自生しており、武蔵野の様々な場所に存在する花でした。しかし、都市開発の影響などで次第に生息地は失われて行き、いまでここ浅間山公園にしか残っていません。
そんな希少な花が見頃を迎えていると言う情報を耳にし、見物がてらお散歩に繰り出しました。
浅間山へのアクセス
京王線の東府中駅から武蔵小金井行きのバスに乗車し、浅間山公園バス停で下車します。
もしくはその反対に、中央線の武蔵小金井駅からから東府中駅行きのバスに乗車して浅間山公園バス停で下車。
付近に駐車場はありません。徒歩、自転車または公共交通機関お越しください。
マップ
浅間山は前山、中山および堂山という3つのピークからなっています。すべてのピークを巡りつつ、ムサシノキスゲ群生地を散策します。
訪問記
自宅からおよそ1時間ほど自転車を漕いで。浅間山公園へとやって来ました。公園の入り口は周囲に何ヵ所かありますが、正門にあたる場所はどこなのでしょうか。
なお、現在時刻は16時です。すでに日は傾きつつあります。
現在私の勤務先では、新型コロナウィルス感染対策の一環として時差出勤を実施しており、早番担当は14時までに職場から追い出されます。
そんな訳で日中の時間を持て余していたところで、ムサシノキスゲ開花の情報を知りそのまま自転車に跨った次第です。
例年ではムサシノキスゲの開花時期に合わせて、キスゲフェスティバルという催しが行われています。しかし、今年はやはりコロナ渦の影響により中止となってしまいました。残念ですが仕方がありません。
早速ですが公園内の散策を始めましょう。この時点では、そもそもムサシノキスゲが園内のどの辺に自生しているのかも知らないまま訪れておりました。
早速黄色いお花が出迎えてくれましたが、これはお目当てのものではなく、キンランという花です。まだ開き始めの蕾状態です。
たとえどんな低山であろうと、山と名の付く場所へやってきた以上、まず始めに行うべきことはピークハントです。という事で、1座目である前山の山頂を目指します。
新緑の緑が濃い。花が咲き木々の芽吹くこの春と言う季節は、低山巡りには最も適した季節だと思います。
じつにアッサリと前山の山頂に到着しました。登頂に要した時間は5分未満です。
なお、標高は72メートルです。言うまでもないことですが、山の貴賎は決して標高では決まりません。どんな山であろうと、その頂に立った喜びは唯一無二のものなのです。
・・・あまり白々しいことばかり言っていると、鼻が高くなってしまうかもしれないのでこれ位にしておきましょう。
肝心のムサシノキスゲの姿は今のところ全く見当たりませんが、ともかく前進です。お隣の中山へ縦走(?)を開始します。
やがて少し広くなっている場所へ出ました。地図上に富士見百景と書かれていた場所です。
ここ浅間山公園は、関東の富士見百景に選ばれています。
日本各地に存在する浅間山神社は、富士山をご神体とする山岳信仰です。浅間山と名の付く場所は、基本的には富士山が見える場所か、あるいはかつては見えた場所であるはずです。
では早速見てみましょう。やや霞んではいるものの、ビルの間から確かに富士山の頭が見えました。
手前の高層マンションは府中駅周辺のものです。
ちなみにこの浅間山からは、11月21日と1月21日の年に2回、ダイヤモンド富士を鑑賞することが出来ます。
見える場所がそもそも狭いため、三脚の場所取り合戦が割と激しいようではありますが。
これは丹沢の大山(1,252m)ですね。半ば独立峰のような立地にあるため、遠くからでも良く目立ちます。
富士山が見えたからと言って、喜んでいる場合ではありません。そもそも今日は、富士山を見に来たわけではないのですから。肝心のキスゲは一体どこに咲いているのでしょうか。
東屋の脇にポツポツと黄色い花が咲いているのが目に入りました。あれがお目当てのムサシノキスゲっぽいです。
この前山と中山の間の鞍部一帯が、1ヵ所目のムサシノキスゲの群生地となっていました。
ようやくお目当ての花と対面できました。見た目はニッコウキスゲそのものですが、一回りほど小ぶりです。
一面が真っ黄色と言うほどの密度ではありませんが、まずまずの規模の群生です。
まだ咲き始めと言った所でしょうか。満開を迎えるのはもう少し先のようです。
頭上が開けた場所に咲くニッコウキスゲとは違い、ムサシノキスゲは雑木林の中に咲くのが特徴です。
花の撮影に夢中な飼い主を横目に、退屈そうに佇む犬。花を愛でると言う感性と言うのは、人間にしか芽生えないものなのでしょうかね。
密集するなとのお達しが、山の中にまで張り出されていました。まあ山の中と言っても、5分とそこらでで上がってこれる公園内ですけれどね。
標高は74メートルです。どんな山であろうと、その頂に立った喜びは唯一無・・・いや、なんでもありません。
最後のピークである堂山へ向かいましょう。堂山の山頂には浅間神社のお社があります。
この堂山の北側斜面が、園内で最大規模のムサシノキスゲ群生地となっていました。
陽当たりの良い南側の斜面ではなく、北側に咲いているのは珍しいですね。直射日光を好まない性質の花なのでしょうか。
浅間山公園のムサシノキスゲも、かつては生息数が激減し危機的状況に瀕していたこともありました。
地元の有志達による保護活動が功を奏し、今では回復傾向にあります。
とは言っても、依然としてこの花が絶滅の危機に直面していることに変わりはありません。環境省の絶滅危惧種レッドリストにも登録されています。
言うまでもないことですが、絶対に盗掘してはいけませんよ。とって良いのは写真だけです。
キンランも負けじと咲いて、黄色い花の競演を繰り広げていました。
山頂に立つ浅間神社。大掛かりな社殿などは無く、小さなお社があるだけの素朴な場所です。
もえる若葉の浅間山。武蔵府中郷土かるたに謳われた場所であることを示す標識のようです。詳細について興味がある方は、府中市の公式サイトを参照してください。
しっかりと二等三角点までありました。例え80メートルしかなくても、やはりここは山なんですね。
樹木が大きく育っているので、眺めの方はさほど良くもありません。三角点を設置した当時は、これらの木々は伐採されていたのでしょうかね。
今では見上げる高さの巨木に覆われています。周囲がすっかり宅地化されてしまっている今となっては、太古の武蔵野の姿を知ることの出来る貴重な場所です。
冒頭でも少し触れましたが、浅間山公園は多摩霊園と隣接しており、橋で連絡されています。
この橋はその名もきすげはしです。誰が何を目的にかけた橋なのかイマイチよくわかりませんが、せっかくなので渡ってみましょう。
という事で、多摩霊園から見た浅間山です。浅間山は周囲を完全に宅地に囲われてしまっているため、全容を眺めることの出来る場所は墓地の中くらいしかありません。
一通り歩き回って満足しました。自転車を止めてある入り口へと引き返します。
再び富士見百景へ。陽が傾いて気温が下がってきた影響か、先ほどよりもクリアーに富士山の姿が見えました。
夕焼けの時間までここで待機しようかとも思いましたが、半袖一枚では少々寒くなって来たので、このまま撤収することにします。
ニッコウキスゲ群生地と言え言えば、日光にある霧降高原をはじめ、群馬県の尾瀬ヶ原や長野県の霧ヶ峰などが有名です。これらの有名群生地に比べ規模の点では全く及びませんが、もっと近場にもキスゲの群落を楽しめる場所は存在します。
ムサシノキスゲの見頃は、まだまだ当面の間は続きます。お近くにお住いの人は、散歩がてらこの希少な花を愛でに行ってみては如何でしょうか。
なお、浅間山は町中にある公園ですので、くれぐれもマスク着用の上、密を作り出さないように十分な間隔をあけての鑑賞を徹底してください。
完
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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