東京都奥多摩町にある天目山(てんもくざん)から蕎麦粒山(そばつぶやま)に至る稜線を歩きました。
東京都と埼玉県の境界に跨る尾根、天目背稜(てんもくはいりょう)を辿るルートです。
主要幹線道路からは少し離れた位置にあり、奥多摩側と秩父側のどちらからアクセスするにしても、あまり気軽には立ち入ることの出来ない奥地であります。
はたして、ほとんど人と出会うことの無い静かな山行きとなりました。
2016年12月23日に旅す。
今回は奥多摩屈指の好展望地と名高い天目背稜の天目山と、同じ尾根上にある蕎麦粒山の2座を目指して歩きます。
天目山とは主に奥多摩側で使われる名称で、尾根を挟んだ反対の秩父側では三ツドッケと呼ばれています。その名の通り、遠目には3つのピークがあるように見えます。
天目背稜とは、長沢背稜と共に東京都の北の境界線を形成する長大な尾根です。おおむね雲取山から天目山(三ツドッケ)までを長沢背稜とよび、そこから先を天目背稜と呼ぶことが多いようです。
人によっては酉谷山から先を天目背稜と言ったり、逆に棒ノ折山までを長沢背稜線と言う人もいたりで、実際のところ、明確な定義は良くわかりません。
一言、奥多摩エリアと言っても、その領域は広大です。その中でも王道と言えるのは、やはり石尾根かもしくは奥多摩三山周辺でしょうか。
天目背稜一帯は、完全なるマイナーエリアです。東京の山と言えども、結構山深い場所ゆえに、取り付くのにも一苦労させられます。
しかし逆にそんな所が、マイナーな山が大好物の天邪鬼系ハイカーである私のツボを強く刺激するのです。
そんな訳で、人影疎らなる都県境への冒険へと繰り出しましょう。
コース
東日原バス停より奥多摩随一の展望との呼び名が高い天目山(三ッドッケ)へ登頂し、そこから蕎麦粒山までを縦走する計画を立てました。下山は、川苔山を経由して鳩ノ巣駅へ下ります。
コースタイムは8時間半ほどと、なかなかのロングコースです。
奥多摩三山縦走に引き続き、日没時間に追いたてられるタイムアタック登山となりました。
1.天目山登山 アプローチ編 東京都最果ての地、日原集落へ
7時14分 JR立川駅
奥多摩への訪問時に毎度馴染みのホリデー快速奥多摩号に乗り込み、終点の奥多摩駅へと向かいます。
線形の問題なのか、青梅線と言うのはやけに速度が遅い印象です。立川から奥多摩まで一時間以上かかります。
中央線だったら大月よりも先にまで到達できる時間です。もっとも、そのおかげでこちらは前日の睡眠不足をある程度取り戻すことが出来るわけですがZzzzzz
寝ている間に、電車はつつが無く奥多摩駅に到着しました。眠気眼で、朝日が目に沁みます。
奥多摩駅より8時35分発の東日原行きのバスに乗ります。本当はもう少し早く行動開始したいのですけれど、自宅最寄の京王線の駅からの出発だと、この時間より前のバス便には間に合いません。
9時5分 東日原バス停に到着しました。乗客の大半は途中の川乗橋で下車し、終点まで乗っていた人間はごく少数でした。
ここ日原(にっぱら)集落は、離島部を除けば東京都の最果ての地と言っていい場所でしょう。
ここは行き止まりの地です。南を石尾根、北を長沢背稜に遮られ、日原川沿いのすれ違いも困難な一本の細い道だけが、外界と繋がる唯一のルートです。
土砂災害等でこの道が塞がれば、ここはいとも簡単に陸の孤島と化します。
2.天目山登山 登頂編 人影疎らなヨコスズ尾根を歩き、東京都北の境界へ
天目山にむかって登山家開始です。登山道の入り口は、東日原バス停から、もと来た方角へ少し戻ったところにあります。
道標に書かれた「ねねんぼう」というのが一体何なのか凄く気になります。どうやらお食事処である模様です。
登り始めてしばらくはTHE奥多摩の道と言った趣の人工林が続きます。
日本の林業は、主に価格競争力の問題からすっかり衰退しきっており、こうした杉林も活用されること無く荒れるに任せているのが実情です。
花粉症持ちの身としては、どうせ活用していないのならすべて伐採して、杉檜以外の雑木林に戻してほしいと切に願う次第です。
杉林を抜けると周囲が一気に明るくなりました。ここら先しばらくは人工林の境界に沿って道がつけられています。
すごい成長の仕方をしている杉がありました。一度折れてしまった後に、しぶとく生き延びたんですかね。
ヨコスズ尾根の登山道は、尾根筋ではなく山の中腹を這うよう道がつけられています。片側が切れ落ちているので要注意です。
吹き溜まりならぬ落ち葉溜まりで道が埋もれています。ストックで掻き分けながら進みました。
ヨコスズ尾根の名前の由来になっている、ヨコスズ山の脇をトラバースします。直登ルートもありますが、展望も何も無い場所なのでスルーしました。
ヨコスズ山を過ぎると、尾根の幅が広くなり、非常に歩きやすい道になります。新緑の時期に歩いたら気持ちよさそうですね。
11時10分 筋肉ハウスにソックリだと評判(?)の、一杯水避難小屋に到着しました。
確かに似ている。
この小屋を根城にした山賊が出没したことがあるそうです。念のためにつけ加えると、大昔の話ではなく、平成になってからの出来事です。
小屋から少し離れた場所に、小屋の名前の由来となっている水場があります。季節によっては枯れていることもあるので要注意です。
天目山へ至る道は避難小屋の裏にあります。ここからは結構な急登です。気合を入れて登ります。
アップダウンを繰り返したところで、ようやく山頂直下最後の登りです。奥多摩随一といわれる展望に期待が高まります。
11時40分 天目山に登頂しました。さあ、お待ちかねの展望タイムです。
3.天目山山頂からの大展望
南東方向を望む。写真の中央左よりにある大岳山の特徴的なシルエットが目立ちます。奥多摩で山座同定する際には、最初に大岳山を見つけるのが一番スムーズです。
南西方向を望む
写真中央の一番奥にあるのが東京都最高峰の雲取山(2017メートル)。その手前の山腹に石灰石の採掘場が見えているのが天祖山(1723メートル)。
天祖山の手前に見えているのがタワ尾根ですかね。
この辺りは奥多摩エリアの最深部とでもいうべき一帯です。いつか歩いてみたいと思っておりますが、長丁場になること間違いなしであるため、もう少し日が長くなってきた頃合に計画しようかと思います。
南方を望む。石尾根の向こうに頭が雲に隠れてしまった富士山が見えます。
北東を望む。奥に薄っすらと見えているのは筑波山でしょうか。関東平野の途方もない広さを感じることが出来ます。
西にはこれから歩く天目背稜の稜線と、最終目的地の川苔山が見えます。
蕎麦粒山をズーム。山頂の形が、蕎麦の実のようであることから、この名が付いたのだとか。うーん、言われてみれば、そう見えなくも無いかな?
こちらは川苔山です。奥多摩エリア中でも一二を争う人気の山です。
天目山がこれほどの展望に恵まれているのには実は理由があります。それはこの山を愛してやまない一人のおじさんが、展望を良くしようとチェーンソーで山頂の木を伐採してしまったからなんです。
後にこのおじさんは自ら警察に出頭し、国有林を無駄伐採した廉で、罰金ウン十万円を支払ったのだとか。
この看板は、きっとそのおじさんに向けたメッセージとして立てられたのでしょう。
4.天目山から蕎麦粒屋へ、天目背稜を縦走する
絶景を一通り堪能したところで、次なる目的地の蕎麦粒山に向かって行動再開です。登山道は一杯水避難小屋を経由する形で付けられていますが、戻るのが面倒くさいので尾根筋をそのまま進みます。
考えることは皆同じと見えて、道の無いはずの斜面に薄っすらと踏み跡が付いていました。
しばらく進んだところで、正規の登山道と合流しました。このコース外の尾根上は、多少勾配が急ではありましたがしたが、特に通行に難儀するような点はありませんでした。
崩落地の脇を通過します。ここは割とマイナーなエリアではあると思いますが、それでもしっかりと補強されていました。
覗き込むとこんな感じです。見ている目の前でサラサラと砂がすべり落ちていきます。
崩落地を過ぎた辺りから道が荒れ気味になってきました。落ち葉に埋もれていて、道幅がどれくらいあるのか良く見えません。
場所によっては、靴一足分くらいしか道幅がありません。ここはゆっくりと慎重に通過しました。
13時10分 蕎麦粒山に登頂です。この不思議な名前が目を引いて、前々からずっと気になっていた山でした。ようやく訪問が叶って大満足です。
山頂の様子
大きな岩が幾つも転がってる、かなり狭い空間です。まあ、大勢の登山者が詰めかけるような場所でもないので、狭さは特段問題にはならないでしょう。
蕎麦粒山の山頂より望む川苔山です。まだまだ、結構遠いですね。
5.マイナ―エリアを離れ、人気の川苔山へ
最後の目的地である川苔山に向けて出発します。山頂直下は物凄い急坂です。
下りきったところで振り返った光景がこちらです。その急坂の程がお分かり頂けるでしょうか。
防火帯の中を進みます。頭上が開けていて、じつに気持ちの良い道です。
※防火帯とは、山火事の延焼を防ぐために帯状に伐採された場所のこと。県境地域に多く見られます。
オハヤシの頭なる場所を通過します。地図に記載の無い地名です。漢字で書くとお囃子?なんですかね。とりあえず四拍子しておきましょうか。
オハヤシの頭の様子
特に何があると言うわけもない、稜線上のひとつの瘤といった所です。
続いて、棒ノ折山との分岐地点を通過します。このまま進むの魅力的ではありますが、日没ゲームセットが近づいてきているため、ここから天目背稜を外れて川苔山方向へ南下します。
13時50分 日向沢ノ峰に到着しました。
「ひなたさわのうら」と読みます。飯能市の最高地点という、飯能市民以外にとっては極めてどうでもいいタイトルを保持しております。
山頂の様子
蕎麦粒山同様、ここも岩が転がってるだけの狭い山頂です。
振り返ってみる蕎麦粒山です。なかなか目立つシルエットをしていますね。
かくも個性的な名前でかつ、外観もそれなりに目立つ蕎麦粒山が、登山の対象としては殆ど顧みられないマイナーな存在に甘んじているのは、やはりアクセスの悪さが理由なのでしょうか。
日向沢ノ峰から、川苔山との鞍部である踊平に向かって大きく下っていきます。
対岸の川苔山が大きく見えるようになって来ました。何気に、北側から見たのは初めてかもしれません。
踊平に到着しました。ここからは登り返しになります。
オハヤシの頭だの踊平だのと、お祭りに関するような地名が多く残されていると言うことは、この辺りに地元の祭祀に関わる何かがあったんでしょうかね。
すぐそこなのですが、この辺りは谷が入り組んだやたらと複雑な地形をしており、大きく回り込まないと近づけません。
地図を見ても、この付近は道がゴチャゴチャしすぎていて、何がなんだか良くわかりません。
寒くなってきたと思ったら、天気雨ならぬ天気霰が降ってきました。
なんだか、すごく見覚えのある場所に出ました。川苔橋から来るルートとの合流地点です。
山頂直下最後の登り。ヤマレコですっかりお馴染みのアングルですね。何故かみんなこの場所で写真を撮りたがると言う。
15時 川苔山に登頂しました。先客は一人だけです。こんな空いている川苔山は始めてです。まあ、時間が時間ですからね。
山頂の標識が微妙に傾いてます。人気の山なのに新調しないんですかね。
6.日没が迫る中、駆け足気味に鳩ノ巣駅へ下山
山頂滞在時間5分未満で早々と下山を開始します。鳩ノ巣駅までの標準コースタイムは2時間ほど。そして日没までの残り時間は1時間半ほど。つまり急がなければいけないと言うことです。
鳩ノ巣駅へ下るルートはこれまたTHE奥多摩の道な杉林を延々と下るルートです。はっきり言ってつまらない道ですが、危険箇所の少ない安全な道であるため、急ぎ駆け下りたい場合にはオススメです。
それにしても長いよこの道。途中からほぼ水平移動となるため、そこからは駆け足で下りました。
再び登山道に突入します。山頂にいた先客一名が物凄い勢いで駆け下りてきて、ここで追い抜かれました。スニーカーを履いた外国人のお姉さんでした。
鳩ノ巣集落まで降りてきました。ギリギリヘッドランプを出さずに間に合いました。
16時50分 鳩ノ巣駅に到着しました。目の前をホリデー快速が通り抜けていきました。この駅には鈍行しか止まりません。
天目背稜の一帯は、奥多摩エリアの中でもあまり歩かれていないマイナーなルートです。
アクセスがあまりよくない上、なによりとっても地味なので、致し方ないところではあります。
しかしながら、(違法伐採の結果とは言え)天目山からの展望は大変素晴らしいものがあり、個人的にはもっと日の目を見て良い山だと思っています。奥多摩随一の展望と言う評価に、誇張は一切ありません。
今回は川苔山を経由して鳩ノ巣駅まで歩くという、非常に欲張りなロングルートを歩きましたが、天目山だけを目当てに登っても、きっと満足できる山行きになることでしょう。
たまには、石尾根などのメジャーな場所ではなく、東京の僻地へと足を運んでみてはいかがでしょうか。
<コースタイム>
東日原BS(9:10)-一杯水避難小屋(11:10)-天目山(11:40 ~ 12:00)-蕎麦粒山(13:10)-日向沢の峰(13:50)-踊平(14:15)-川苔山(15:00)-鳩ノ巣駅(16:50)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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