椿丸 丹沢最後の秘境の山に広がるミツマタの黄金郷

椿丸のミツマタ群生地
神奈川県山北町にある椿丸(つばきまる)に登りました。
西丹沢の懐深くを流れる世附川流域に立つ山です。周囲一帯の山々には一般登山道は存在せず、丹沢山地の中でも特に歩く人の少ない静かな山域です。この椿丸へと至る道ではない尾根上に、知る人ぞ知るミツマタの群生地が存在します。
丹沢最後の秘境と呼ばれた深山に広がる、ミツマタの黄金郷を巡って来ました。

2023年3月19日に旅す。

warning!
椿丸に整備された一般登山道は存在しません。バリエーションルートのみの山です。
・ルート上の踏み跡は薄く、道標などの案内は一切ありません。必ず詳細な地形図を携行してください。またGPSの使用を強く推奨します。
・誰でも気軽に登れる山ではありません。初心者だけで安易な気持ちでの入山は避けて下さい。

椿丸と唐突に言われても、恐らく大半の人は「何処だその山は?」となるのではないでしょうか。丹沢湖の西を流れる世附川(よずくがわ)の流域に立つ山です。
世附川林道
整備された登山道は存在しない無い山です。道はありませんが、尾根を辿り山頂に到る事の出来るルートは何通りか存在します。

今回は法行沢林道の途中にある尾根から取りついて登って来ました。何故わざわざそんな判り難い場所から登ったのかと言うと、この尾根の途中にかなりの規模のミツマタ群生地が存在するからです。
椿丸 法行沢渡渉地点

道の無い山中に唐突に現れるこのミツマタ群生地は、主にインターネット上の口コミなどで評判が広がり、今ではミツマタのエルドラドなどと呼ばれています。
椿丸 ミツマタのエルドラド
黄金郷とまで評される光景はいったいどれほどのものなのか、実際にこの目で見てやろうと思い訪問してきました。

ミツマタの群生を愛でつつ、丹沢最後の秘境と呼ばれた深山をほっつき歩いて来た一日の記録です。
椿丸山頂からの展望

コース
230319椿丸-map
丹沢湖畔の浅瀬入口バス停よりスタートして浅瀬橋へ。浅瀬橋から大又沢林道を歩き、道の途中からミツマタ群生地のある尾根に取り付きます。

ミツマタ鑑賞の後、尾根上を辿って椿丸に登頂します。下山は往路とは違う尾根を辿り浅瀬橋に戻ります。

登山地図上では破線扱いですらなく、そもそも道が描かれてすらいないルートを辿る行程です。

1.椿丸登山 アプローチ編 西丹沢奥地への遠き道程

5時48分 小田急線 喜多見駅
朝っぱらから自転車をこいで、第2の最寄り駅へとやってまいりました。利用する予定だった一時利用の駐輪場が月極用に変わっていて焦りました。
早朝の喜多見駅
幸いにもすぐ近くに別の一時利用駐輪場があって事なきを得ましたが、危うく出だしで一日の計画が破綻してしまうところでした。

何とかギリギリの滑り込みで当初計画通りの電車に乗車できました。普段からもっと時間に余裕をもって行動しろと言う事ですよね。
早朝の北見駅ホーム

7時 いつものように完全爆睡している間に、電車はつつがなく新松田駅に到着しました。寝ぼけまなこでヨロヨロとホームに降り立ちます。
新松田駅のホーム

新松田駅訪問時の恒例イベントである、晴れていれば富士山が見える窓からのお天気占いを実施います。これは凶ですね。この後晴れると言う天気予報になっておりますが、本当にこのどんよりとした空からの逆転があるのでしょうか。
新松田駅跨線橋の窓

西丹沢行きのバスに並ぼうとしたところで、かつて見たこともない長さの行列に面くらいました。いったいいつから西丹沢はこんな人気の山域になったのでしょうか。
230319椿丸-009
昔はせいぜいシロヤシオシーズンに少し混雑するくらいだったのですが、近年はコンスタントに利用者が増えた印象です。西丹沢が静かな山域だったのは、もう過去の話なのでしょうか。

8時15分 超満員のバスに揺られる事おおよそ1時間で、浅瀬入口バス停に到着しました。ミツマタ効果なのか、結構な数の乗客がここで下車しました。
浅瀬入口バス停

晴れると言う予報に反して、丹沢湖の上空は相変わらずどんよりとした雲に覆われたままでした。それにしても、丹沢湖の水位がやけに低いように思えます。今は渇水期なのだろうか。
浅瀬入口バス停から見た丹沢湖

ピストンの予定なので、出発前に帰りのバス時間を確認しておきましょう。帰路で使えそうなのは15時、16時および17時25分の便です。一応は16時を目標としておきます。
浅瀬入口バス停

2.意外にひと道ある、浅瀬橋への道程

身支度もそこそこに行動を開始します。まずはバスが元来た方へ少しだけ戻り、この落合隧道を潜ります。
丹沢湖畔の落合隧道

意外と距離の長いトンネルです。電気代節約のためなのか、やたらと電灯が間引かれており、中央付近では足元が見えづらいくらいの薄暗さでした。
落合隧道の内部

トンネルを抜けたところで、頭上に少しだけ青空が顔を覗かせつつありました。よしいいぞ、そのまま晴れてくれ。
世附方面の丹沢湖

椿がチラホラと咲いていますが、もうお終わりかけで落椿になっていました。本日の目的地はずばり椿丸という名称な訳ですが、名前の通りに椿が沢山咲いている山なのだろうか。
丹沢湖畔の椿6

前方に見えているこちらの山はミツバ岳(834m)です。ミツマタの名所として名高い山で、浅瀬入口バス停で一緒に下車した乗客の大半は、この山を目指しているのだろうと思われます。
丹沢湖畔から見たミツバ岳
ミツバ岳自体も破線ルートしか存在しないマイナーな山なのですが、それでも椿丸に比べればまだ一般的な山であると言えます。

湖面の水位が低く見えたのはやはり気のせいではなかったようで、干上がった湖底が見えていました。ここ最近、それなりに雨は降っている印象があるのですが、はて。
干上がった丹沢湖の湖底

丹沢湖の周辺には何ヵ所か無料の駐車場がありますが、ミツバ岳のミツマタ効果でどこも軒並み満車状態でした。本日のミツバ岳の入山者は、かなり多そうですね。
丹沢湖の駐車場

ミツバ岳登山口の前を通り過ぎます。本日の目的地である椿丸は、ミツバ岳よりもさらなる奥地にあります。
ミツバ岳の登山口

この干上がった湖底に、ダム湖の底に沈んだ三保村の道や建物の痕跡が残っていたりするのでしょうかね。湖底を散策してみたいような気もしますが、本日の主題からは逸れてしまうため我慢します。
干上がった丹沢湖の湖底

山へ入るまでもなく、道の脇にチラホラとミツマタが咲いています。きっとこの丹沢湖の周辺は、もともとミツマタが多い地域なんでしょうね。
丹沢湖の周辺に咲くミツマタ

世附キャンプ場の跡地まで歩いて来ました。キャンプ場は廃業していますが、跡地のトイレと駐車場は今でも利用可能です。
230319椿丸-023
丹沢湖の領域はここまでで、この先からは世附川沿いの道となります。

路上駐車された車がやけに見に付きます。はて、まさかこの車の持ち主たちは、椿丸のエルドラドを目指しているのだろうか。
230319椿丸-024
・・・な訳ないですよね。恐らくは世附川に渓流釣り来ている釣り人達の車です。

浅瀬のゲートを通って、水ノ木幹線林道に入ります。この先は一般車の通行はできませんが、徒歩での立ち入りは可能です。
世附の浅瀬ゲート

この林道は昭和40年代まで存在していた世附森林鉄道と呼ばれる鉄道の跡に沿って作られています。本日この後に歩こうとしている大又沢林道は、その支線の扱いでした。
水ノ木幹線林道

世附川を流れる水は、西丹沢クオリティの素晴らしい透明度です。夏に訪れたら水遊びが捗りそうですね。
透き通った世附川の水

ここでも沿道にミツマタがポツポツと咲いていました。何なら、別に山には登らずともミツマタ見物が出来そうなくらいには。
水ノ木幹線林道に咲くミツマタ

9時25分 浅瀬橋へとやって来ました。水ノ木幹線林道の本線と、支線である大又沢林道との分岐地点です。
浅瀬橋

ここを右に入って支線の大又沢林道へと進みます。ここから先は自身にとって初めて訪問する領域となります。看板によると2km先の地点で工事中のようですが、特に通行止めの扱いにはなっていませんでした。
浅瀬橋の大又沢林道入口

3.林道を進み大又沢ダムへ

大又沢に沿って進みます。支線とは言っても思いのほか幅も広く、しっかりとした造りの道が続いていました。ここにもかつては鉄道が敷かれていたと言う事で、鉄道がクリアできないような急勾配はなく緩やかな道です。
大又沢林道

なかなか珍しい、木製の砂防堰堤です。これでどれくらいの寿命があるものなのでしょうか。
大又沢林道 木製砂防ダム

この沢の上流には大又沢ダムがあり、道沿いにダムが緊急放流を行った際に警報を出すためのスピーカが設置してありました。ここではありませんが、同じく丹沢湖に流れこんでいる玄倉川で発生した水難事故はまだ記憶に新しいところです。
大又沢林道のスピーカー

頭上にマメザクラがポツポツと花を咲かせていました。もう桜の咲く時期になりましたか。季節が移ろうのは早いものです。
大又沢林道のマメ桜

左から流れ込んでくる沢の合流地点に、小さな橋が架かっていました。地図によると笹子沢と言う名のようです。
大又沢林道 笹子沢

橋のちょうど手前で2段の滝になっていました。この笹子沢は、沢登りの対象ともなっているようです。
笹子沢の滝

いつの間にか、沢と道との高低差がほぼなくなっていました。なるほど確かにこの辺りは、上流のダムに放水されたひとたまりも無さそうです。・・・しかしそうは言っても、逃げ場はなくないですか?
大又沢林道

入口の看板に記載があった工事中の場所がありました。路肩が崩れたのを修復中であるようです。上流にある大又沢ダムの管理道を兼ねていることもあってか、しっかりと整備されていました。
230319椿丸-038

さらに進んだ所で、今度は法行沢を渡ります。目指すミツマタ黄金郷への取り付き地点はこの法行沢沿いにありますが、林道はここからではなくもう少し上流へ進んだ地点から分岐しています。
大又沢林道の法行橋

この火の用心の看板は水ノ木幹線林道の周辺で良く見にするのですが、一見すると焚火をしていた子供が両親に叱られている構図のように見えて、いつ見てもジワジワと来ます。両親の表情が凄くイイですよね。
投げタバコ焚火禁止の看板

川の対岸にも何やら立派な滝が流れ落ちていました。地図によるヤマメ沢と言う名前です。名前の通りに、ヤマメが沢山住んでいるのだろうか。
大又沢林道 ヤマメ沢の滝

よく見ると、滝の上にハシゴらしきものがかかっているのが見えます。完全に崖の上にありますが、あそこまでどこから登るのだろう。
ヤマメ沢の滝の上にかかったハシゴ

法行沢林道への分岐地点まで歩いて来ました。目的地に向かうにはここを左に入るのですが、その前にこの先にある大又沢ダムの見物をしてゆきましょう。そうそうしょっちゅう来るような場所でもないし、せっかくの機会なのでね。
大又沢林道の法行沢林道分岐

分岐地点から5分少々歩いたところで、大又沢ダムへとやって来ました。東京電力が所有する発電用のダムです。
大又沢ダム
このダムで取水された水は、地中の導水路で丹沢湖畔にある落合発電所まで送られています。行きしに通って来た落合隧道のすぐ隣です。

堤体の高さは18メートほどの重力式コンクリート式ダムです。良く見ると微妙に湾曲したアーチ状になっています。
大又沢ダムの堤体

ダム湖には既に多量の土砂が堆積しており、有効貯水量はかなり少なそうです。発電用の水を取水できれば良いだけなので、特に問題は無いのでしょう。
大又沢ダムのダム湖
ちなみにこの大又沢林道をこのまま進み続けると、甲相国境尾根の城ヶ尾峠まで続いています。・・・城ヶ尾峠と唐突に言われても、大半の人には何処の事だかサッパリでしょうけれど。

3.椿丸の東尾根上に広がるミツマタの黄金郷

寄り道は程々にして先へ進みましょう。先ほどの分岐地点まで引き返し、法行沢林道へと入ります。
法行沢林道分岐

進行方向の上方に、なにやら不自然に黄色い一帯があるのが見えます。あそこが目指す黄金郷か。
230319椿丸-048

10時40分 道の脇に唐突にソーラーパネルがポツンとある場所へとやって来ました。こんな薄暗い森の中じゃあ、ロクに発電も出来ないだろうに。ここが椿丸東尾根への取り付き地点です。
法行沢林道のソーラーパネル

パネルの脇に沢へと下って行ける横道があるので、ここを下って行きます。
法行沢林道のソーラーパネル

下りて行った先に小さな堰がありました。この堰は落合発電所宝行棚沢取水口制水門という舌を噛みそうな名称で、ここから先ほどの大又沢ダムへ地下水路で水を引いています。
230319椿丸-051

尾根への取り付きは法行沢を渡った対岸にあります。ちょっとわかり難いですが、真ん中にある小さな沢を挟んだ左側の尾根を登って行きます。
椿丸 法行沢渡渉地点

対岸への渡り方ですが、法行沢の浅い地点を見繕って渡渉してもよいですが、堰の上を跨ぐのがおそらく最も簡単な方法です。
落合発電所宝行棚沢取水口制水門

対岸の道なき尾根をよじ登ります。一応は踏み跡らしきものもありますが、前日が雨だったこともあって足元はドロドロ状態で、取り付くのにかなり難儀しました。
椿丸東尾根の取り付き

最初の急登をクリアすると、傾斜が緩んでようやくまともに歩ける尾根になりました。ちなみにこの尾根は登山道でも何でもなく、一切の整備はされていません。何が起きても自己責任の領域であるとをご承知おきください。
椿丸 東尾根

行く先に黄色いものが見えて来ました。早くあの中を歩きたいと気持ちがはやるも、足元はドロドロの急坂で歩行に難儀します。
椿丸 東尾根

いよいよ群生地の中へと入りました。さあ、見せてもらおうではありませんか。エルドラドとまで評されるほどの光景を。
椿丸 東尾根のミツマタ群生地

肝心のミツマタの開花状況はと言うと、まだ蕾から開花したばかりで咲き始めの状態です。見頃のピークになるのは、もうあと1週間後くらいでしょうかね。
咲き始めのミツマタ

見渡す限り一面にミツマタ群生地が広がっており、文字通りミツマタ畑状態です。一面が黄色く覆いつくされた光景は、確かに黄金郷です。
椿丸 東尾根のミツマタ群生地
ここでもはっきりとした道は無いので、ミツマタの間を縫うように登って行きます。急勾配な上に掴まれるものがないので、素晴らしき眺めとは裏腹に歩行に難儀します。

ちなみにミツマタの木は非常に柔らかくて脆いので、掴まりたくなっても絶対に掴んではいけません。また、生えたばかりの新芽を踏みつけてしまわないように、足元には十分な注意を払って下さい。

登山者の土足に踏み荒らされて黄金郷が消滅した、なんて事態になってしまっては不幸ですからね。

登っても登っても新手が現れて終わりが見えません。ここはミツマタの天国か、はたまた終わりのないミツマタ地獄なのか。
椿丸 東尾根のミツマタ群生地

開花から時間が経つと、このように花弁が広がって行きます。まんまるのボンボリ状態なのは、まだ咲き始めたばかりの状態のものです。
椿丸 東尾根のミツマタ群生地

眼下につい先ほど見物してきた大又沢ダムが見えました。上から見ると、ほとんど水がなく干上がっているように見えます。丹沢湖も干上がっていましたし、やはり現在丹沢は渇水期なのかな。
椿丸 東尾根のミツマタ群生地から見た大又沢ダム

終わりが見えなかった群生地でしたが、ようやく端が見えて来ました。
椿丸 東尾根のミツマタ群生地
素晴らしき黄金郷であることは間違いないのですが、ミツマタにキズを付けないように細心の注意を払いながら歩いているため、地味に神経がすり減りかなりの疲労感を覚えました。

群生地の一番上から見た見下ろした黄金郷の光景です。こんな光景が人知れずひっそりと隠されていたことに、西丹沢の奥行きの深さを感じます。
椿丸のミツマタ群生地
この群生地はもともと、ごく一部の知る人ぞ知る秘密の場所であった訳なのですが、今では主にインターネットなどで口コミが広がり、多く人が訪れるようになりました。

ヤマレコなどを見ると、椿丸の訪問記録は思いのほか多数が投稿されています。しかしそれが故か、群生地の中に割と野放図に足跡がつけられて踏み荒らされているように感じられました。

有名になってしまったが故のオーバーユース。黄金郷の崩壊は、もう既に始まってしまっているのかもしれません。

4.椿丸登山 登頂編 道なき道を進み、丹沢最後の秘境の頂へ

群生地を抜けると、ごくごく普通の尾根道となりました。いやまあ、道ではないんですけれどね。
230319椿丸-063
本日は迷った際の保険としてガーミンのGPSレシーバーを携行してはいますが、せっかくの機会なので地図読みのトレーニングを兼ねて、GPSは見ずに国土地理院の地形図だけを見て歩いてみようかと思います。

誤解のないように申し上げておくと、私はなにも新しいテクノロジーを頭ごなしに否定する頑迷な保守派ではありません。

今や地図読みなどできなくても、スマホのGPSアプリがあれば安全な山歩きが可能であるし、別にそれで良いと思っています。これはただの趣味的趣向にもとづく行動です。

いきなり急坂になりました。写真だとわかりずらいですが、四つん這いにならないと登れないような斜度です。整備されている登山道なら九十九折れがつけられるのでしょうが、当然そんなものは無いので四苦八苦しつつ直登します。
230319椿丸-064

道ではないと言えども、尾根筋自体は明瞭で今のところ迷う要素はありません。注意を要するのは、尾根が分岐している場合です。
230319椿丸-065

12時5分 クマ沢ノ頭と呼ばれるピークと思われる地点まで登って来ました。見たところ山頂標識も何もないため、それを確かめるすべがありませんが・・・
クマ沢ノ頭

少しだけ展望が開けて進行方向の左手にピークが見えますが、山座同定をする気にもなれないくらいにはどこなのかはさっぱりわかりません。
230319椿丸-067

右手は林道工事のためなのか、広く伐採されていました。丹沢最後の秘境などと言われつつも、しっかりと人の手が及んでいる領域ではあります。
230319椿丸-068

不意に行く手の尾根が工事中の林道に寸断されていました。国土地理院の地図上では法行沢林道は現在地よりも遥か下の地点にまでしか伸びていませんが、その後も着々と延長されており、ついには尾根まで到達していたようです。
椿丸 工事中の林道

まだ絶賛工事中と言う事で、舗装も法面工事も済んでおらず土が剥き出しの状態です。しかし早く固めないと、雨のたびにどんどん削られていってしまうのではなかろうか。
椿丸 工事中の林道

当然ながら尾根上に復帰するための階段などは無いので、強引によじ登ります。考えることは皆同じと見えて、足跡らしきものがついていました。
230319椿丸-071

再び尾根上を進みます。恐らくミツマタ見物に来たのであろう、何組かのパーティーとすれ違いました。
230319椿丸-072
こんな道も無いような辺鄙な山に登りに来るのは、いかにも偏屈そうなのベテラン風の登山者だけだろうかと思いきや(偏見にまみれた意見)、意外にも身なりからして初心者っぽい若い人の姿が多くありました。

ネット時代ならではの光景で、恐らくは黄金郷の口コミを目にしてやってきたのでしょう。ベテラン風を吹かせて他人に山をナメるなと説教をしようという気などはさらさらありませんが、かなりの違和感を憶える光景ではありました。

GPSアプリがあれば迷いはしないのでしょうが、一般論として椿丸は初心者だけのパーティーが気軽に登りくるような山ではありません。

再び九十九折れのない急登です。登る分にはまだ良いとして、帰りはかなり神経をつかいそうな勾配です。
230319椿丸-073

急坂を登りきると、山頂らしき場所が現れました。
椿丸の山頂

12時35分 椿丸に登頂しました。現在地を確かめながら慎重に歩いてきたため、標高差の割には思いのほか時間を要しました。
椿丸の山頂標識
タイミングが良かったのか、山頂には私の他に人はおらず、秘境の山に相応しい静寂に覆われていました。

展望は北側だけが開けています。結局晴れる事はなくどんよりとした曇り空に覆われてしまいましたが、晴れていれば正面に甲相国境尾根が横切っているのを一望できます。
椿丸山頂からの展望

山頂近くにもかなりの規模のミツマタ群生地があるのが見えます。大きく崩落している斜面上にあるので、目の前まで見に行くのは危険だろうと思います。
椿丸山頂直下のミツマタ群生地

まるでここに腰掛けなさいとでも言わんばかりの丸太があったので、ありがたくここで一本立てました。
椿丸の山頂

5.笹小屋ノ頭まで道なき尾根を行く

13時 丹沢最後の秘境を存分に味わったところで、ボチボチ撤収に移りましょう。この先も道ではない場所を歩くので、まだまだ油断はなりません。
230319椿丸-079

何とも憎たらしいことに、下山を始めたタイミングになって上空に青空が顔を覗かせ始めました。どうせなら、黄金郷に居たタイミングで晴れて欲しかったのですけれどね。
230319椿丸-080

再び工事中の林道を横断します。安心安全に下りたいのなら、ここから林道沿いに下るのが一番確実です。道なりに下れば、ソーラーパネルの地点まで戻れるはずです。
230319椿丸-081
私は当初の計画通りに、ここからは下らずに尾根上を進み、笹小屋ノ頭を目指します。

13時30分 分岐地点まで戻って来ました。ぱっと見では分岐のようには見え無い場所ですが、左が元来た道で右へ進むと笹小屋ノ頭方面です。
230319椿丸-082

当然ながら、行き先を示した道標などは存在しません。現地にいた時は本当にここであっているの半信半疑でしたが、結論から言うとあっていました。
230319椿丸-083

イマイチ自信が持てない中を踏み出すと、明瞭な尾根筋が続いていました。まあ大丈夫そうかなと言う事で、前進を続けます。
230319椿丸-084

ピンクテープや目印などがあり、人の往来自体があるのは明らかですが、足元はやわらかく殆ど踏み跡の気配が感じられません。ここを歩く人はよほど少ないと見えます。
230319椿丸-085

森の中にチラホラとミツマタが咲いています。群生地と呼べるほどの規模は無く疎らです。
230319椿丸-086

ここはちょっとわかり難くて迷いましたが、正解は左です。踏み跡も目印もないため、地形と地図だけで判断する必要があります。
230319椿丸-087

それほど大きなアップダウンは無く、歩きやすい尾根ではあります。ただ単に道がわかり辛い・・・と言うかそもそも道ではないと言うだけのことです。
230319椿丸-088

登り返し地点にトラバースっぽい踏み跡があったりしますが、それらは全てあなたを死に誘う罠です。面倒であっても直登するのが最も安全かつ無難な選択です。YES直登、NOトラバース
230319椿丸-089

痩せている場所の通過は緊張します。こんなところで滑落して身動きが取れなくでもなろうものなら、偶然発見してもらえる望みはかなり薄い場所です。
230319椿丸-090

進行方向右手の視界が少し開けましたが、見えている山がどこなのかは相変わらずまったくわかりません。
230319椿丸-091

正面に、笹小屋ノ頭だと思われるピークが見えました。最後の登り返しです。
230319椿丸-092

眼下に小さく浅瀬の集落らしき場所が見えます。あそこまで下ればゴールです。
230319椿丸-093

14時5分 笹子屋ノ頭まで歩いてきました。厳密に言うと最高地点はここではなくもう少し西にあるようですが、ここから降下を開始します。
笹子屋ノ頭

6.椿丸登山 下山編 下山の最後の最後に現れた核心部

ここからは林道に向かって尾根沿いに下って行くだけです。尾根筋ははっきりとしており明瞭で、ここでは特に迷う要素はありません。気持ちよく下って行けます。
230319椿丸-095

下山中にもミツマタがポツポツと咲いており、最後まで目を楽しませてくれました。
230319椿丸-096

左手に見えているのは、ミツバ岳と世附権現山(1,018m)かな。権現山はこうして見ると、かなり立派な山容をしています。
230319椿丸-097

丹沢名物の鹿よけ柵と、それを越えるための梯子がありました。こうした人工物があると言う事は、そろそろゴールが近いはずです。
230319椿丸-098

こちらの尾根上にも、ミツマタの群生地が存在しました。エルドラドの規模には大きく及びませんが、それも見ごたえは十分にる光景です。
230319椿丸-099

最後の方はかなりの急勾配でした。踵が痛くなるような勾配で、こちら側から登るのはかなりきついのではなかろうか。
230319椿丸-100

林道に出る最後の斜面は殆ど崖のような勾配で、目印が付いていなかったら誰もここが取り付きだとは思わないのではなかろうか。
230319椿丸-101

最後の最後にかなり肝を冷やしましたが、何とか無事に林道まで下って来ました。現在地は浅瀬橋から水ノ木幹線林道の本線を少し進んだ地点です。
230319椿丸-102

14時50分 浅瀬橋まで戻って来ました。これでグルっと周回してきたことになります。椿丸を巡る行程としては、最も易しく一般的であろう周回ルートでした。
230319椿丸-103

さあ、後はもう帰るだけです。と言っても、浅瀬入り口バス停までは地味に遠いいんですよね。
230319椿丸-104

16時のバスに間に合いそうなタイミングであったので、半分駆け足のようなペースでもと来た道を引き返しました。
230319椿丸-105

15時50分 浅瀬入り口バス停まで戻ってきました。とりあえずは早足気味のペースで歩けば、浅瀬バス停から浅瀬橋まではだいたい1時間の距離であると言う知見が得られました。
浅瀬入口バス停
ミツバ岳に登った人々はもっと前の時間のバスで撤収したらしく、バス停には人影もなく静まり返っていました。

バスは時刻表通りに現れましたが、西丹沢ビジターセンターからの乗客で最初から満席状態でした。やれやれと肩をすくめつつ、1時間近くを突っ立ったまま帰宅の途につきました。
230319椿丸-107

今回は整備された登山道のありがたみと言うものを、しみじみと思い知らされた山行きでした。道なき山へと分け入るのは確かに冒険心をくすぐられる行為ではありますが、同時に危険と隣り合わせでもあります。
椿丸は決して手軽に登れる山ではありません。事前にルート計画をしっかりと立て、万全の準備をもって訪れてください。
オーバーユースによる急激な山の環境の変化は全国各地の人気がある山で実際に発生している事態ですが、口コミで急速に知名度が高まった椿丸の黄金郷も、今まさに同じ危機に向かいつつあるように感じます。訪問を考えている人は、くれぐれも群生地を無造作に土足で踏み荒らしてしまうことが無いように、細心の注意を払って歩いてください。翌年も、そして翌々年以降にも、この素晴らしき黄金郷の光景が続いて行く事を願ってやみません。

<コースタイム>
浅瀬入口バス停(8:15)-浅瀬橋(9:25)-ソーラーパネル(10:40)-クマ沢ノ頭(12:05)-椿丸(12:35~13:05)-笹子屋ノ頭(14:05)-浅瀬橋(14:50)-浅瀬入口バス停(15:50)

椿丸山頂での記念撮影

最後までお読みいただき、ありがとうございました。



コメント

  1. 槍ヶ岳を夢みて より:

    こんにちは!こちらのブログを頼りに先日エルドラドに行ってきました。バリエーションルートということで不安があったのですが、こちらのブログのおかげでほぼノートラブルでエルドラドにたどり着くことができました。ありがとうございました!

    • オオツキ オオツキ より:

      槍ヶ岳を夢みてさま
      こんにちは。コメントを頂きましてありがとうございます。

      近くにあるミツバ岳はすっかり名の知れた存在になった感がありますが、椿丸にはまだまだ深山の趣が残されていて、バリエーションルートらしさを楽しめる山だと思います。

      椿丸の雰囲気が気に入ったのであれば、甲相国境尾根などもオススメです。