茨城県城里町と栃木県茂木町にまたがる鶏足山(けいそくさん)と焼森山(やけもりやま)に登りました。
茨城県と栃木県の境界近くの北関東平野部にある、標高500メートルにも満たない里山です。焼森山の山中には大規模なミツマタの群生地が存在し、妖精の森と呼ばれています。また、弘法大師こと空海ともゆかりがある修験の山でもあります。
折りたたみ自転車を引っ提げて、妖精の森のミツマタをみに繰り出して来ました。
2024年3月30日に旅す。
今回は北関東のミツマタ群生地として名高い焼森山に登って来ました。ミツマタの名所として有名な山は関東地方各地に何座か存在しますが、焼森山は丹沢の不動尻に次ぐくらいに全国区の知名度があります。
以前よりその名前はメディアなどで頻繁に目にしていましたが、実際に現地で目の当たりにした光景は想像をはるかに超えていました。
鶏足山と焼森山の周辺一帯は公共交通の不毛地帯です。登山口の目の前にバス停がありますが、これは通学のための路線で、学校がある平日限定な上に、そもそも駅とは接続しない経路で運行されています。
ミツマタの開花シーズン中の土休日限定で、JR宇都宮駅から直通バスが運行されています。ただしこちらは一日一往復のみのため、行動には色々と制約が付きまといます。
そこで今回私は最寄り駅まで折り畳み自転車を持ち込み、自転車によるアプローチを試みました。輪行登山と言う暗黒面を極めた私に、もはや不可能などは存在しないのです。
最寄り駅となる水戸線の笠間駅から登山口までの距離はおおよそ11kmほどあり、そこそこ離れてはいますが標高差はそれほど大きくはなく、きついヒルクライムをする必要はありません。
遠路はるばる黄色い妖精達が舞い踊る森を訪れて来た一日の記録です。
コース
鶏足山駐車場よりスタートし鶏足山へ。山頂から鶏石を往復した後にミツマタ群生地へと向かいます。ミツマタ見物を終えたら、焼森山山頂を経由しつつ鶏足山駐車場に戻ります。
鶏足山駐車場を起点にして見所となる場所をコンパクトに周回する行程です。
1.鶏足山&焼森山登山アプローチ編 普通列車で行く北関東への旅路
6時18分 JR赤羽駅
鈍行列車を乗り継いで茨城県を目指します。宇都宮線は朝からそこそこ混雑しており、自転車という大荷物を抱えていると居心地の悪さを感じます。
見た感じ土曜日のこの時間帯の宇都宮線は、これから出かけるのではなく帰る人の割合の方が多いようです。
小山駅で水戸線に乗り換えます。ここでもそこそこの乗車率で、何とかギリギリ座れるくらいでした。
8時30分 笠間駅に到着しました。鶏足山と焼森山は茨城県と栃木県の境界にある山ですが、本日は茨城県からアプローチします。
なお、最短でミツマタ群生地に向かいたいのであれば、栃木県側からアクセスする方が近いです。今回茨城県側からにしたのは、こちらの方が駅から登山口までの標高差が小さいからです。
何しろ登山口まで自転車で自走して行かなければならないので、あまり坂を登らなくてすむのは大きなポイントです。
駅前で手早く自転車を組み立てたてたら、張り切って出発進行です。今回のアプローチは、登山口までの標高差が100メートル少々でしかないため、そんなにキツくは無いはずです。・・・たぶん。
2.自転車で鶏足山駐車場を目指す
そもそも笠間駅から鶏足山駐車場まで自転車でアプローチしようなど言う物好きはそう滅多にいないでしょうから、道順について事細かな解説はしません。さっくり言うと、途中までは茨城県道1号線にそって進みます。
始めのうちはほぼ真っ平な道が続きます。であれば快適なサイクリング出来そうなものですが、歩道はガタガタだし車道には大型トラックがひっきりなしに走っているしで、あまり快適であるとは言い難い状況です。
城里方面への分岐が現れたら、右折して県道226号線に入ります。
ここから先は山間部となりますが、小径車であっても苦もなく走れる緩やかな登り坂です。
やがて左手に採石場が現れて、道が埃っぽくなりました。なるほど先ほどから頻繁に見かける大型トラックは、どうやらこの採石場に出入りしている車両であるようです。
ゆっくり走ろう茨城県との標語が書かれたベルトコンベヤーが、道の上を跨いでいました。これはステレオタイプ的な偏見なのかもしれませんが、北関東のドライバーの運転マナーはお世辞にも良い方とは言えない印象があります…
坂を登りきると、田畑の広がる小集落が広がっていました。周りを山に囲まれており、小さな盆地のような地形です。
9時45分 鶏足山駐車場に到着しました。笠間駅からここまで距離はおよそ11kmほどあります。タクシーで来ると4300円くらいかかるそうです。
駐車場の目の前にバス停がありますが、このバス路線はそもそも駅とは接続しておらず、登山には使えなさそうです。
自転車には駐車場の脇で留守番を命じます。先ほど採石場地帯を通り抜けた時に巻き上がった飛沫で、凄い汚れてしまっておりますな。帰ったら洗車しなくては。
ミツマタシーズンもたけなわと言う事もあり駐車場は満車状態で、溢れてしまったらい車が何台か路駐されている状態でした。焼森山の人気の程がうかがえます。
3.赤沢富士を経て鶏足山へ
10時5分 身支度を整えて登山を開始します。まずは前方に見えている赤沢富士を目指します。
登山道のすぐ脇を清冽な沢が流れています。真夏なら水遊びが捗りそうです。もっとも、夏に焼森山に登る人はあまりいなさそうではありますが。
沢沿いの畦にムスカリかポツポツと咲き始めていました。うーん、春ですねえ。
反対側には茶畑が広がっていました。かつて水戸光圀が好んだという、城里町特産品の古内茶です。
登山口まで歩いて来ました。赤沢富士にむかうには、ここから右の山道に入って行きます。ちなみに、帰りは左側の林道から下ってくる予定です。
登り始めはまるで奥多摩のような杉の植林です。里に近い場所にある山というのは、どこも大体はこんな感じです。
途中に浅間神社の中宮があったという小さな平場がありました。全国各地に存在する浅間神社は、富士山自体をご神体とする信仰です。なにしろ赤沢富士と名乗っているくらいなので、富士山信仰の山だったのでしょう。
中宮跡を過ぎると、結構な傾斜度の急登になりました。岩が露出している箇所もあり、早くも修験の山らしさの片鱗が見えて来ました。
そんな急登も長くは続きません。あっけなく頂上らしき場所が現れました
10時25分 赤沢富士に登頂しました。この付近はかつて赤沢村と言う名前だったとのことで、赤沢にある浅間神社が祭られている山であるから赤沢富士と言う事らしい。
赤沢富士を過ぎると、鶏足山との鞍部にある富士ヶ平十字路に向かって一度緩やかに下ります。正面に見えているのが、この後に登る鶏足山です。
鞍部は切通しになっており、未舗装の林道が横断しています。多少遠回りにはなりますが、始めからこの林道を歩いてくれば赤沢富士をスルーすることも出来ます。
鶏足山に向かって緩やかに登り返します。3月下旬は新緑シーズンにはまだ少し早い時期であるため、周囲は冬枯れの殺風景が広がっていました。
道中に富士山が見えるらしい展望ポイントがありました。今の季節だと恐らくは春霞の影響で見えないだろうとは思いますが、一応は見てみましょうか。
デスヨネー。ええ、始めから期待はしていませんでしたとも。心の目で見ればきっと見えます。
10時50分 鶏足山に登頂しました。この山頂がちょうど、茨城県と栃木県の境界になっています。ちなみに、この後に登る焼森山の方は完全に栃木県内にあります。
山頂標識の足元に、カタクリが1輪だけポツリと咲いていました。本日はミツマタがお目当てで、まったく期待していなかっただけに、嬉しい出会いでした。
4.弘法大師にゆかりのある見晴らし台と鶏石
鶏足山山頂の三角点があるのは現在地なのですが、脇道へ少し進んだ先に見晴台があります。絶景だと言う事なので、ミツマタ群生地へ向かう前にちょっと寄り路をしていきましょう。
見晴台までは片道10分とかからないくらいの距離です。ミツマタ見物をメインイベントと位置づけている人も、大した距離ではないので取りあえずは寄って行く事を推奨します。
前方の視界が大きく開けているのが見えて来ました。なるほど確かに眺めは良さそうで、期待が高まります。
この鶏足山は、全国各地に数々の伝承を残している謎の高僧、弘法大師こと空海にゆかりがある山です。この山に鶏の鶏冠のような岩があったころから、空海自身が名付けたと伝えられています。
あまり広くはない見晴らし台の山頂は、大勢の人で溢れかえっていました。ミツマタシーズン効果によるところが大きそうではありますが、それにしても人気がある山なんですね。
こちらにも山頂標標識が立っていました。僅か1メートル差ではありますが、標高も見晴台(鶏足山北峰)の方が高いので、ここが山頂であると考えた方が良さそうです。
展望が大きく開けていますが、ここでも春霞の影響でモヤーっとしていてあまり遠望は効きません。景色を楽しみたければ冬に訪れた方が良さそうです。
地平線の彼方に薄っすらと、雪を被った日光連山の姿が見えていました。奥に辛うじて写っているのですがお判りになるでしょうか。
この見晴台からさらに少し先へ下ったところに、鶏足山の名前の由来となった鶏石があります。せっかくここまで来たのだから、ついでに見ていきましょう。
少し下った地点に護摩焚石があります。伝承によると、弘法大師がこの岩の上で護摩を焚いてたら、どこからともなく鶏の鳴き声がした。見に行ったら鶏の鶏冠のような岩があったことから、この山を鶏足山と名付けたとのこと。
さらに先へ進むと道が二手に分かれていました。道標には案内が無くて迷いましたが、鶏石へ行くには石柳と書かれている方へ直進します。
そこそこ急勾配の尾根を下って行くと、目指す鶏石がありました。
確かに鶏の鶏冠っぽく見えなくはないかな。でもそれだったら名前は鶏冠山になりそうなものですが、なぜ足になったのかはよくわかりません。
見るものも見たのでそろそろ本題に戻りましょう。もと来た道を引き返します。
11時35分 鶏足山の山頂まで戻ってきました。だいぶ前置きが長くなりましたが、ここから本日のメインイベントであるところのミツマタ群生地へと向かいます。
5.想像以上の規模感の焼森山ミツマタ群生地
鶏足山から緩やかに下って行きます。この道を直進すると焼森山の山頂に至りますが、その前に先にミツマタ群生地へ向かいます。
下り坂の途中で、右方向に入って行ける横道があります。なお、国土地理院の2万5千分の1スケールの地形図に描かれている焼森山周辺の登山道は、全くのデタラメなのでご注意ください。
ミツマタ群生地は、山頂からは200メートル近く下った山の中腹にあります。鶏足山駐車場側から登ってきた場合には、事実上1度下山するようなものです。
途中からは沢沿いの道になりました。前日が雨だったこともあり、至る所から水が染み出してきていて、登山道が水浸し状態でした。
肝心の咲き具合の方は、ほぼ満開と言って良い状態でした。例年ですと見頃のピークはもう少し早い時期に来るのですが、2024年の春は3月に入ってから寒の戻りで、開花がだいぶ足踏みをしました。
独特の強い芳香が周囲に立ち込めています。ミツマタの香りは強烈過ぎてちょっと下品な感じがするので、個人的にはあまり好きではありません。ロウバイくらいほんのりとした香りだと良いのですが。
斜面一帯に咲いています。これだけでも十分に凄い規模の群生地だと思いますが、しかし焼森山のミツマタはまだまだこんなものではありませんでした。
12時10分 ミツマタ群生地の入り口までやって来ました。栃木県側の登山口はこの道をさらに少し下った場所にあり、ミツマタ鑑賞が主目的であるなら、栃木県側から登る方が一般的です。
群生地の入口で環境保全協力金の徴収を行っています。以前は300円だったと言う情報を得ていましたが、現在は値上げされたらしく500円でした。
群生地は小さな沢に沿った谷間にあり、ぐるっと1週出来るように散策路が整備されています。道幅が狭いため一方通行です。
最初のカーブを曲がると、いきなりミツマタが視界いっぱいを埋め尽くす光景が目に飛び込んできました。何だこりゃ凄げぇ。
正直なところミツマタ群生地と言っても、丹沢の不動尻よりは見劣りするだろうと思っていたのですが、まったくそんなことはありませんでした。かつてお目にかかったことが無い密集度で咲いています。
ミツマタのトンネルの中を進みます。ここでもやはり、香りが凄いことになっています。
群生地の一番奥まで歩いて来ました。群生地内にはわりと大きな高低差があり、結構しっかりと登らされます。登山をするつもりはなくミツマタの見物だけをしに来た人も、靴はしっかりとしたものを履いて来ることを推奨します。
かつてマンガン鉱を採掘していたという、坑道の跡が残っていました。どれくらいの奥行きがあるのかはわかりませんが、内部は水浸し状態でした。
群生地の一番奥から入口方向を眺めた際の光景です。かなりの奥行きがあることがお分かりいただけるかと。
反対側の斜面を下って入口へ戻ります。道幅がかなり狭い場所もあるので、足元には要注意です。
それにしても凄まじい密度です。確かにこれは、妖精が住んでいそうな光景です。
この群生地のミツマタはもともと、和紙の原料とするため人為的に栽培されていたものです。その後長らく放置されて、今では野生化しています。
最後は階段の下りです。ここでも前日の雨の影響なのか足元がドロドロ状態でした。
入口まで戻って来ました。写真を撮りながらゆっくりと回って30分少々の滞在時間でした。良いものを見せてもらいました。
6.焼森山登山 登頂編 始めからオマケ扱いの山頂へ
13時35分 ミツマタ群生地の見物を終えたところで、もと来た道を登り返します。何しろ自転車は茨城県側に停めて来てあるので、山越えをしないことにはそもそも帰れないのです。
この分岐を左側に進むと元来た道に戻れるのですが、どうやら直進すると焼森山の山頂へ直接行けるようなので、ここから登って行きます。
正直なところ、もう焼森山の山頂などどうでもいいかと言う気分になっていましたが、それでも一応はピークハンターとしてのお勤めを果たさなくてはなりません。
あまり歩かれてはいないルートなのか、やや荒れ気味の登山道です。それでもミツマタ効果なのか、結構な数の登山者とすれ違いました。
最後の方は急勾配で、無理やり取って付けた感のある登山道でした。素直に元来た道を戻った方が、圧倒的に安心安全であると思います。
思った通り山頂近くの尾根上に出ました。ここまで登ってくれば、山頂はもうすぐ目の前です。
犬を連れた登山者がいるあたり、地元の人にとってはそれこそお散歩レベルの山なんでしょうね。
13時10分 焼森山に登頂しました。やはり山頂なんてどうでもいいやと考える人は多いと見えて、ミツマタ群生地に比べるとずっと人は少なくて空いていました。
鶏足山には及びませんが、焼森山の山頂にもしっかりと展望があります。霞んでいて良く見え無いという点においても同様です。
南西方向に見えているこの山は、位置的に恐らく筑波山だと思います。普段見慣れた姿とは反対側からの眺めです。
7.焼森山登山 下山編 鶏足山駐車場へと戻る
ピークハンターとしての務めは無事に達成されました。後はスタート地点の鶏足山駐車場まで戻れば良いだけです。
すぐ隣に、先ほどの乗って来た鶏足山の姿が見えました。傍目には、どこにでもありそうなごく普通の里山に見えます。
座禅岩と呼ばれる岩が現れますが、ここは直登せずに左わきから巻きます。名前からして、その昔弘法大師がこの上で座禅をしていた伝承でもあるのでしょうか。
陽当たりの良い南側では笹竹の姿が目につきます。登山道の手入れがされていなかったら、恐らくまともに歩くことすらままならない藪山なんでしょう。
下小貫と書かれた分岐が現れましたが、ここから下ってしまうと駐車場には戻れなくなるので、素通りしてそのまま進みます。
続いて赤沢駐車場方面と書かれた道標が現れたら、右の脇道に入っていきます。ここから下れば、鶏足山に登り返すことなくスタート地点に戻れます。
緩やかで歩きやすい明瞭な尾根道です。登山道の周囲がすべて広葉樹になっているので、紅葉の頃に訪れてもきっと良い感だろうと思います。
最後まで尾根沿いとはならず、途中で左折して谷底に向かって下っていきます。
あとは道沿いに下って行くだけです。この林道は赤沢富士と鶏足山の間を通っていたのと同じ道です。
14時20分 鶏足山駐車場に到着しました。台数はかなり減っているものの、この時間になってもまだ多くの車が残っていました。ミツマタ群生地をゆっくりと見物しているのかな。
留守番を命じてあった自転車も、何事もなく無事にありました。一応ワイヤーで電柱に括り付けてはありますが、大きさが大きさだけに車があれば簡単に盗めてしまうので、ちょっと気になっていました。
帰路は途中までずっと下り坂なので実に楽なものです。自転車でも比較的アプローチのしやすい登山口であったと思います。実際にやる人がいるのかどうかはさておき。
快調に飛ばして帰りは実にあっけなく笠間駅まで戻って来ました。
ちなみに、この写真の左端の方に写っている観光案内所で、電動アシスト付きの自転車をレンタルできます。
電車でわざわざここまで折りたたみ自転車を抱えてくるつもりなどはないと言う人でも、鶏足山駐車場へのアプローチ手段として割と現実的ではあると思います。
再びお荷物と化した自転車を抱えて、長い帰宅の途に着きました。
前々から凄いとの噂を耳にしていた焼森山のミツマタ群生地でしたが、その規模感は想像をはるかに超えていました。谷を覆いつくすミツマタは圧巻の光景であり、遠方から見に訪れるだけの価値は十分にあると思います。
公共交通機関利用時のアクセスの悪さだけは如何ともしがたい立地にありますが、苦労に見合うだけの光景に出会えることは保証いたします。
<コースタイム>
鶏足山駐車場(10:05)-赤沢富士(10:25)-鶏足山(10:50)-鶏石(11:10)-鶏足山(11:35)-ミツマタ群生地(12:10~12:45)-焼森山(13:15~13:35)-鶏足山駐車場(14:20)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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