滋賀県米原市にある伊吹山(いぶきやま)に登りました。
琵琶湖の傍らに立つ滋賀県の最高峰です。日本海と琵琶湖の上空を通ってきた湿った空気が直接ぶつかる位置にあるため、西日本にありながらも豪雪の山として知られています。
記録的な暖冬となった今年の冬。薄くではあるけれど積もってくれた雪と、日本一の湖を見下ろす大展望を楽しんで来ました。
2020年2月11日に旅す。
豪雪の山と言われたときに真っ先に脳裏に浮かぶのは、東北地方かもしくは新潟県などの日本海側の山々であろうかと思います。しかし意外なことに、過去に日本最大の積雪量を記録した山は、実は滋賀県にあります。
伊吹山では昭和2年の2月に、1,182センチと言う途方もない量の積雪量が観測されています。日本有数どころか、世界でも有数の豪雪の山です。
豪雪の山であるが故に森林限界高度が低く、標高1377メートルとさほど高くはない山でありながら、たいへん眺望に優れた山です。
ところが記録的暖冬となった今期の冬は、待てど暮らせどその肝心の大雪が一向に降ってくれません。このままで結局登れないまま春を迎えてしまうのではないか。
そう焦りを感じ始めていたところで、ようやく週末直前に雪が降ったらしいと言う情報を得て、いざ滋賀へと繰り出します。
かくして決行された西日本への遠征登山。残念ながら豪雪と呼べるほどの積雪量は無かったものの、お天気のほうは雲一つない完璧なる快晴で、爽快な山行きとなりました。
伊吹山登山口から山頂を往復します。冬期には、このルート以外の選択はありません。
1.伊吹山登山 アプローチ編 新幹線を乗り継ぎ、遠路はるばる近畿地方へ
5時50分 JR東京駅
伊吹山は近畿地方の山でありながら、都内発であっても公共交通機関を利用した日帰り登山が可能な山です。行きも帰りも新幹線になるので、交通費はそれなりに嵩みますが。。
なお夜行バスを利用すれば、交通費をもっとお安くあげることも可能です。私は例のごとく、伊吹山へ行こうと思い立ったのが前日の事だったので、手配が間に合いませんでしたがね。
東京駅から近江長岡までの運賃は、しめて12,100円なり。されど得られた快適さはプライスレス。という事で、快適な新幹線の座席でゆったりと寛ぎます。
およそ1時間40分の乗車時間で名古屋駅に到着しました。ここでのぞみ号から広島行きのひかり号に乗り換えます。
目的地に近づいてきたところで、車窓に伊吹山がその姿を現しました。しっかりと雪はあるようで、ひとまずは安心です。でもまあ、やはり豪雪地帯の山と言えるほどの量ではありませんな。
8時 米原(まいばら)駅に到着しました。まさかとは思いますが、間違って「よねはら」と読でしまっているような恥ずかしい人はいませんよね。←それはお前だ。
米原から東海道本線に乗り換えて、伊吹山最寄りの近江長岡駅へ向かいます。なお米原までは行かずに、名古屋で在来線に乗り換えれば、時間は余分にかかりますが多少は運賃を安くできます。
8時15分 近江長岡駅に到着しました。駅名に近江と付けているのは、新潟県の長岡と区別するためでしょうかね。
目指す伊吹山の姿はこの通り、駅のホームからバッチリ見えます。山頂上空に雲がかかっているのが少々気にはなりますが、この雲はじきに晴れて行く予報となっています。
ここから登山口までは路線バスでの移動となります。バス運行会社の名前は湖国バスです。湖の国とはまた、やはり滋賀県と言えば琵琶湖なのか。
バスを待つ間に、雲が徐々に取れて青空が広がって来ました。格好の登山日和となりそうな予感です。
なお、私が周囲を少し歩きまわってみた限りでは、近江長岡駅の周辺にコンビニは見当りませんでした。買い出しは現地に着く前に済ませておくのが良いでしょう。
時刻表通りにバスが現れました。伊吹山登山口までの運賃は370円です。交通系ICカードには対応していないので、小銭を用意しておきましょう。
9時5分 伊吹山登山口に到着しました。奥秩父や北関東の山にアプローチするよりも、よほど早くに登山口に立つことが出来ました。新幹線なくしてはあり得ない、弾丸アプローチです。
2.薄っすらと僅かに積雪したゲレンデ跡
9時10分 身支度を整えて、行動を開始します。人気の百名山と言うだけの事あって、冬であっても多くの登山者で賑わっていました。
夏に来た時に地図をくれた案内所は、この日は閉まっていました。単に時間が早いからなのか、それとも冬の間は常に閉まっているのか、よく分かりませんでした。
案内所の前を過ぎるとすぐに登山口です。山頂までの距離は6kmで、標高差は1,000メートルあります。気合を入れて行きましょう。
登り始めは杉の樹林です。登山道の上には殆ど雪は積もっておらず、足元は早くもぬかるんでいました。
杉の植林を抜けると、足元に雪が積もった状態となりました。前日に降ったばかりの新雪らしく、登りにアイゼンは必要なさそうなコンデションです。
9時40分 一合目に到着しました。この時点で早くも樹林帯を抜けだし、背後に眺望が開けます。豪雪の山であるが故に、麓にほとんど森がないのが伊吹山の特徴です。
ここからは伊吹山スキー場のゲレンデ跡に沿って登ります。
なおこの伊吹山スキー場は、スキー客の減少と積雪量の減少のダブルパンチに見舞われて、10年以上前に廃業しています。リフトも既に撤去されており残ってはいません。
ゲレンデ跡の脇につけられた登山道を登って行きます。九十九折れもなしに直登するため、割と急勾配です。
背後の眺望が開けました。気温が高めなため霞んではいますが、琵琶湖が良く見えました。
比良(ひら)山地の山々が、琵琶湖の対岸に並んでいるのが微かに見えます。あちらも雪を纏って白く染まっておりますな。
比良山地は概ね1,000~1,200メートルほどの山の連なりで、近畿地方在住の人にとっては、手軽に登れる近くて良い山の代表格のような存在です。首都圏在住の人にとっての奥多摩や丹沢に相当するポジションでしょうかね。
ゲレンデ脇の急登を登りきると、一時の安息のような平坦地があらわれました。
10時10分 二合目に到着しました。行動開始からちょうど1時間での到着です。まだまだ先は長いので、気を引き締めて行きましょう。
雪がそこそこ深くなってきましたが、気温が非常に高いためか早くもとけ始めています。これは下山時までには無くなっていそうな予感です。
まだ半分も登っていないと言うのに、素晴らしい眺望です。写真撮影が捗りすぎて、なかなか歩みが進みません。
標高の低い場所から既に見晴が良すぎるというのも、あながち良いことばかりとは言えないかもしれません。「ガスよりも先に眺めの良い場所まで辿り着かなくては!」と言う意識が、すっかり骨抜きにされてしまうので。
正面に見えているのは鈴鹿山脈の御在所山(1,209m)でしょうか。登ったことはありませんが、良い山らしいと言う話はよく耳にします。東海、近畿地方在住の人にとっては身近で手頃な一座です。
カヤトの広がる緩やかな斜面を進みます。傾斜の緩急はあるものの、伊吹山の登山道は登り一辺倒で、下りは一切ありません。
ここでようやく山頂部がその姿を見せました。視界いっぱいにハミ出しそうなくらい大きい山ですねえ。
ここは前回訪問時に、ガスで何も見えなかったところです。広い空間が広がっているのは何となく分かっていましたが、こんな光景だったのですね。
夏にはお花畑が広がっていた場所も、冬はこの通り白一色の平原です。
10時45分 三合目に到着しました。既に結構な距離を歩いた気分になっておりますが、まだまだ半部にも到達してはいません。
3合目のトイレは冬季閉鎖中でした。冬には1号目のトイレがラストとなります。用は事前にしっかりと済ませておきましょう。
まだ全然アイゼンが必要となる様な場面ではありませんが、この先に都合よく腰掛けられる場所があるとは限らないので、ここで装着します。
例年だとこの3合目付近は、ワカンが必要になるくらいの積雪量がある場所らしいのですが、今年はツボ足でも全然問題の無い程度の積雪量しかありません。
山頂部が、まるで絶壁のような斜度でもって立ちはだかります。何気に結構な迫力です。
11時30分 五合目まで登って来ました。単純な歩行距離で言うなら既に半分を越えていますが、登りが厳しくなるのはここからです。
3.伊吹山登山 登頂編 最後まで夏道が露出したままの急登を登り山頂へ
この斜面は陽当たりが良好なためか、もう既に雪がとけて土がむき出しになっている場所が目だちます。これなら12本爪アイゼンよりもチェーンスパイクのほうが断然快適に歩けそうです。
履き替えるべきか悩んだものの、この先でまたアイゼンが必要な場面に遭遇したら面倒だったのでそのまま行きます。
朝の時点では白かった田畑も、もうすでに雪が無くなりつつありました。降雪直後のわずかな時間限定の雪景色だったようですね。
避難小屋の脇を通過します。背後の絶壁感が尋常ではありませんが、ここは雪崩に直撃されたりすることは無い場所なのでしょうかね。
急登ゆえに短時間で見る見る標高が上がって行きます。5合目の建物があっという間に小さくなりました。
琵琶湖の全容も見えて来ました。月並みな感想ですが、でっかい湖ですよね。それ以外に形容のしようがありません。
京都の人間は、滋賀県民の事をどこか見下したかのような態度を取ることが多いのだとか。それに対する滋賀県民の定番の切り返しは「琵琶湖の水を止めたろか」らしいです。やはり滋賀県と言えば琵琶湖なのか。
群馬と栃木でも似たような話をよく聞きますし、隣接する都道府県どうしと言うのは、何故かいがみ合うものなんですね。
もっと雪があるときには、この斜面を前爪を蹴り込みながら直登することになります。それに期待して来たわけですが、残念ながら夏道が普通に見えている状態なので、ジグザクと道に沿って登るしかありません。
登山道から少し離れた場所にポツンと人工物が立っています。冬期専用の避難小屋か何かでしょうか。
かなり登って来ましたが、こうして見ると本当に雪が少ないですね。
話しが戻りますが、何事においてもいがみ合うことが多いと言う京都人と滋賀人も、「東京モンは敵」と言う認識だけは常に一致しているのだとか。
つまるところ、この山は私にとって完全なるアウェー空間だという事です。ひいい、気を付けねば。
こういう岩が剥き出しになっている場所は、アイゼンだと歩きくい事この上ありません。やはり今からでもチェーンスパイクに履き替えるべきか。
12時25分 八合目に到着しました。ここから稜線に出でるまでが、全行程の中でも最も傾斜がきつくなる場所です。後知恵だけれども、ここでアイゼンを履くのが一番自然でしたかね。
山頂まではもうひと踏ん張りです。ラストスパートをかけて行きましょう。
エビのしっぽが生えた灌木の姿がチラホラと目につき始めました。ようやく厳冬期の山らしい光景になってまいりましたよ。
厳冬期の伊吹山に登るには、前爪のあるアイゼンとピッケルが必須とされていますが、本来はこの斜面を直登するはずなわけですから、まあ当然と言った所でしょうか。
頭上に稜線が見えて来ました。厳しかった登りも、これでようやく終わりです。
稜線にたどり着くなり、横殴りの強風に晒されました。さささっ寒いやんけ。
道標には山頂まで10分とありますが、実際にはもう目の前でそんなにはかかりません。
登って来た光景を振り返る。ずいぶんと高い所まで登って来たもんだ。
無雪期には9合目まで車で登ってこれてしまう山であるため、伊吹山の山頂と言うのは半ば観光地化しています。茶屋が無数に存在していますが、流石に冬期にも営業している店は一軒もありませんでした。
茶屋にもエビのしっぽがビッチリ。ここが強風の通り道であることが窺えます。
12時50分 伊吹山に登頂しました。登り始めてから3時間40分での登頂です。アイゼンと言う足かせをつけた状態で登ったためか、意外と時間がかかりました。
山頂に立つ日本武尊の像。地元の人と思しき登山者が、「タケルはんの前で写真を撮ろう」と言いているの耳にして、一人ツボにはまって笑ってしまいました。タケルはん。。
4.伊吹山の山頂から望む眺望
周囲を遮るものが何もない伊吹山の山頂からは、360度全方位の展望が開けます。
ただし山頂部がとてもだだっ広いので、全方位を見て回るにはあっちこっち歩き回る必要があります。
山頂からの展望の中でも、琵琶湖に次いで目立つのがこちら、木曽御嶽山(3,067m)です。関東在住のハイカー達が普段見慣れている姿の、ほぼ反対側から見た姿となります。
彼方には北アルプスの山並み。右に少し離れた場所にあるのは乗鞍岳(3,026m)ですかね。
これは白山(2,702m)ですね。その名が示す通りに真っ白です。
眼下には伊吹山スカイラインの9合目が見えます。無雪期であれば、あそこまで車で上がってこれます。
御嶽山から右に視線を転じれば、中央アルプスの山並みが居並びます。
ちなみに伊吹山の本当の最高地点は、タケルはんの像がある所からは少し離れた場所にあります。
最高地点から見下ろすのは、広大なる濃尾平野です。空気が澄んでいる日であれば、平野の先にある伊勢湾まで見えるそうです。
南には鈴鹿山地。山名が記された方位盤が置かれていましたが、馴染みの薄い山域であるため、名前だけ見てもイマイチピンと来ません。
そして琵琶湖。何となく滋賀県の半分くらいは琵琶湖なのではないかと言うイメージがありますが、実際は6分の1ほどの面積しかないそうです。滋賀と言うのは意外と広いのですね。
山頂が広すぎて、かえって休憩場所の選択に悩みます。山頂はどこも強風の通り道なので、建物の陰で休むのが一番良いかもしれません。
琵琶湖が一番よく見えそうな、山頂の端まで行ってみましょう。ちなみに、金属の板のようなものが並んでいるのは、風よけらしいです。
という事でこちらが日本一大きな湖、LakeBiwaの全容となります。霞んでしまってはいますが、そのスケール感は何となく伝わるのではないかと。
夏に訪問した際に山頂部を写したの同アングルの写真を一枚。やっぱり全然雪が少ないですね。
5.伊吹山登山 下山編 雪がとけてドロにまみれた下山道
13時40分 山頂を辞去し、下山を開始します。ピストンなので、元来た道を戻るだけです。
もう雪がすっかり緩んでしまっており、アイゼンの刃もあまり役に立たない状態です。
それにしても凄い勾配です。これは直登してきた場合には、降りるのは相当怖そうですね。
サクサクと8合目まで下って来ました。ここでアイゼンは外して、チェーンスパイクに履き替えました。
正午を回ったところですこし霞が取れて来たのか、登っていた時よりもいくらか琵琶湖の姿が鮮明に見えました。
すっかり泥水の川と化してしまった道を、テンポよく下って行きます。
14時40分 5合目まで戻って来ました。あれほどキツかった登りも、下りだとあっという間です。
五合目から見上げた伊吹山は、登った時よりも明らかに茶色くなっていました。ようやく降った待望の雪も、結局は一日と持ちませんでしたか。
もう大分時間も押してきているので、休憩は取らずに黙々と下り続けます。
3合目から下は、完全に雪が消えて泥沼と化していました。これはコケたら相当悲惨なことになりますな。
結局、この泥水の川は最後まで続きました。登山口に靴の洗い場が存在するため、汚れてもあまり気にもせずにズカズカと下って行きます。
15時45分 途中でコケることもなく、伊吹山登山口まで無事に下って来ました。
登山口にあるこちらの商店で、伊吹山の山バッジが買えます。バッジコレクターの方は忘れずに立ち寄りましょう。
洗い場で靴とズボン雄のについた泥を丹念に洗い落としてから、バスへと乗り込みます。
駅のホームから見上げた伊吹山は、白いのは山頂付近だけな姿となっていました。
冬期の伊吹山訪問記はこれにて終了です。果たしてこれを、冬の伊吹山に登って来ましたと言ってしまって良いのか、少々疑問の残る山行きでありました。記録的な暖冬となった今年の冬は、どこの山に行っても本当に雪が少ないです。
天気の方は完璧で山行きそのものは満足の行くものでしたが、若干の不完全燃焼感が残ってしまったのまた事実です。いつか三度目の正直はあるかな。
何れにせよ冬の伊吹山らしさをお求めの人は、今年の訪問はもう諦めた方が良さそうです。来年の冬こそは、例年並みに雪が降ってくれることを期待しましょう。
<コースタイム>
伊吹山登山口(9:10)-一合目(9:40)-五合目(11:30)-伊吹山(12:50~13:40)-五合目(14:40)-一合目(15:25)-伊吹山登山口(15:45)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント
お疲れ様でした!
今年は雪も少なく12本爪もいらないぐらいの積雪でしたね…
ただ寒冬で天気が悪い時期に登ると暴風と積雪で魔の山になりますで、次回登る機会がありましたらお気を付けください!
通りすがりのファンさま
コメントをありがとうございます。
私が登った日は最良と言ってよい天気でしたが、それでも山頂の強風はかなりのものでした。森林下界高度の低さからしても、この山の気象の厳しさ加減が何となく想像の付くところです。冬山では天候を味方につけることが何よりも肝心ですね。