山梨県大月市にある雁ヶ腹摺山(がんがはらすりやま)に登りました。
500円札に描かれていた富士山の原画写真の撮影地として有名な山です。大月市が制定した、富士展望の優れた山の称号である秀麗富嶽十二景の一座でもあります。
大月市北部の山岳地帯に位置するこの山は、公共交通機関によるアクセスの良い山が多い秀麗富嶽十二景の中あっては、ややアクセス難の場所にあります。
最高の富士展望を求めて、長き道のりを歩きとおしてきました。
2017年11月25日に旅す。
今回の行き先は、500円札原画の撮影地として名高い、雁ヶ腹摺山です。
大月市の制定した秀麗富嶽十二景の、栄光のNo1に輝く山でもあります。十二景の選定に当たった大月市の人間をして、まず始めはこの山だと思わせるくらい、富士山の好展望地として昔から知られた山だったのでしょう。
前回は、今からちょうど2年前の2015年の11月に登りました。
この2年前の山行きは、公共交通機関によるアクセスがあまりよろしくない雁ヶ腹摺山へ、車を使わずに登るにはどうすればよいか、と言うテーマで登りました。
その際に、帰りを15時台のバスに間に合わせよとして、かなり無茶なタイムアタック登山をしています。
カメラを構える間も惜しんで大急ぎ歩いたためか、道中の写真をあまり撮っていませんでした。当然ながら、記事のほうも場面が飛び飛びで、自分で投稿しておいてこんなことを言うのも何ですが、正直イマイチな出来の記事です。
にも拘らず、この雁ヶ腹摺山の記事は、当ブログにおいて比較的訪問者数の多いページとなっています。
ベスト10にまで顔を覗かせることこそありませんが、常に10位~20位の間をキープし続けています。訪問者の多くが、グーグルなどの検索サイトからの流入です。
この山に車を使わずに登ろうとする人間など、物好きな小数派だろうと思っておりました。
しかし、意外にも公共交通機関だけで雁ヶ腹摺山へ登る方法に、関心を持っている人は多いのだということが分かりました。
趣味でやっているとはいえ、誰でも閲覧可能なweb空間へ情報を発信している以上は、私とて物書きの端くれ。
物書きたる者、読者のニーズには応えねばなりません。と言うことで、今回筆を取らせて頂きました。
題して「完全攻略 電車とバスで行く雁ヶ腹摺山編」です。
ではここで、雁ヶ腹摺山へ車を使わずにアプローチする方法について、軽くおさらいしておきましょう。
バスでアプローチする場合、最寄と言えるバス停は遅能戸(おそのうと)かハマイバ前のどちらかです。
ちなみに、車がある場合は大峠まで乗り入れることが可能です。
1.遅能戸バス停からのアプローチ
・遅能戸の標高は450メートル。雁ヶ腹摺山の標高は1,874メートルあるため、単純に考えて標高差は1,400メートルオーバー。
・山頂までの歩行距離はおよそ10km。歩行距離と標高差は、おおむね丹沢の大倉から丹沢山までと同程度。
・バス本数は少ない。平日は6往復、土日祝日には3往復のみ。
・ここへ下山する場合、帰りのバスの選択肢は17:10の1便のみ。
2.ハマイバ前バス停からのアプローチ
・ハマイバ前の標高は830メートル。山頂までの標高差はおよそ1,050メートル。
・バスの本数は遅能戸よりは多い。平日なら9往復。土日祝日でも8往復。
・大峠までのおよそ11kmメートルは、舗装された林道を歩く必要あり。
・ここへ下山する場合、帰りのバスの選択肢は15:10、17:15および18:25の3便。
どちらのバス停であっても、朝一番のバスで乗り入れれば、コースタイム的にピストンは可能です。
とは言いつつも、せっかく公共交通機関で登るのだからと言うことで、ピストンよりは周回コースを辿る人の方が多いかと思います。
どちらから登るかについてですが、帰りのバスの選択枝と最終便の時間的余裕がある、ハマイバ前に向かって下るほうが無難な選択です。
逆方向であっても、標準コースタイム通りに歩ければ、時間的には十分間に合います。が、帰りのバスが1便しかないので、あまり融通は利きません。
と言うことで今回のコース
遅能戸発、ハマイバ前下山の周回ルートを辿ります。標準コースタイムはおよそ9時間です。
普通に考えれば、帰りのバスは17:15を狙うのが妥当です。
しかしながら、今回も懲りずに15:10のバスを狙ってタイムアタックします。
しっかりと道中の光景を写真に収めつつもタイムアタックが成功するか。せっかち系ハイカーの挑戦です。
1.雁ヶ腹摺山登山 出発編 大月駅から金山鉱泉へ
6時40分 JR高尾駅
天狗のモニュメントでお馴染みのJR高尾駅へやって参りました。ここから中央本線で大月駅へ向かいます。
ちなみに、ミシェランガイド3星に輝く世界の高尾山は、今がちょうど紅葉シーズンの真っ盛りです。
おかげで、高尾駅は非常に混雑していました。
改札外へと向かう大集団がいましたが、あれは陣馬高原下行きのバスに乗る人たちでしょうかね。
6時42分発の松本行きに乗り込みます。この電車は八王子始発なので、高尾駅からだと高確率で座れません。
オオツキ大月に降り立つ。言ってみたかっただけです。特にと言うか、まったく意味はありません。
朝から非常に冷え込んでいたため、まだ11月だと言うのに完全に冬の格好です。
大月駅前では、富士山型のイルミネーションが準備されつつありました。
7時44分
大月駅からおよそ17~18分で、遅能戸バス停に到着です。
なお、車内アナウンスでは「遅能戸金山鉱泉入口」(おそのうとかなやまこうせんいりぐち)と案内されます。
別のバス停だと勘違いしないようにお気をつけ下さい。
これは金山鉱泉で一番始めに現れる森屋荘です。道すがらに何件かの宿が存在します。
谷底にあるが故に薄暗い林道を延々と登っていきます。この林道歩きが結構長いです。
なお、タクシーを使えばショートカット可能です。写真を撮りそこないましたが、実際に一台が追い抜いていきました。
山と高原地図によれば、大月駅から登山口までの料金は3,500円とのこと。
金山鉱泉の中でも一番奥まったところにある、山口館が見えてきました。
8時35分 金山鉱泉山口館に到着しました。遅能戸を出発してから50分で、最初のチェックポイントに到着です。
山口館からさらに少し上へと上がったところで、登山道の入り口があります。
さて、次なるチェックポイントである金山峠へ至る道は、2通りあります。前回登った大岱山(おおぬたやま)経由のルートと、このまま沢沿いに直進するルートです。
沢沿いのコースは最短距離で峠に到達できますが、地図に荒れ気味で通行困難とあり、破線扱いのルートとなっています。
前回は大事をとって、多少遠回りになりつつも大岱山経由のルートを選びました。
どれくらい荒れてるのか実際に見てやろうということで、今回は直進します。さてはて、この選択は吉と出るのでしょうか。
2.大荒の沢コースを越えて金山峠へ
本館から少し登ったところで、山口館の別館があります。車で進入可能なのはここまでです。
この道路の管理者は、この道を自動車が通行可能な道として維持することは、とっくの昔に放棄しているようですな。
奥へ進むにつれて、荒れているというレベルを通り越して、廃道の様相を呈して来ました。
9時 林道の終点まで到達しました。
さあ、見せてもらおうか。荒れていて通行困難であると言う道とやらを。
いきなり幅の狭い崖沿いトラバース路を歩かされます。
ストックを持っていても、ここではまだ出さない方が良いかと思います。とても邪魔だったので。
無造作にトラロープが張られただけの崖を、沢に向かって下ります。
こんな所で怪我をして動けなくなりでもしたら最後、偶然通りかかってくれる人など極めて稀でしょうから、くれぐれもお気を付けください。
ここからは沢沿いに登っていきます。
橋が既に橋として機能していないので、適当に渡渉します。
このルートは、荒れているというか、とにかく道が不明瞭です。道が何処にあるのか良くわからないで、道に拘らずに歩けそうなところを適当に歩きます。
何度か渡渉を繰り返すのですが、渡渉箇所に目印らしきものがありません。進めなくなったなーと思ったら対岸に踏み跡らしきものがある、を数回繰り返しました。
親切に橋が架かっている場合も稀にありますが、大概は何の前置きもなく突然道が途切れます。
名もなき滝などもありました。この滝は左側を迂回します。目印などはありません。周囲をキョロキョロして、踏み跡の気配を感じて下さい。
人工物が現れると、とりあえず道を間違ってはいないのだと一安心します。
道は基本的にずっと沢沿いです。源頭部に近づくにつれて、最早道と呼べるものはなくなってきました。川底を直接歩きます。
10時5分 金山峠に到着しました。
山口館からきっかり標準コースタイム通りの1時間30分かかりました。ルートを探してウロウロしたロスが、思いのほか大きく響きました。
ちなみに前回の山行きでは、ここへは9時50分に到達しております。多少遠回りであっても、大岱山を経由した方が無難なようですな。
3.登り尾根をへて秀麗な富嶽との対面へ
金山峠からしばらくは、高低差の無い水平移動となります。沢歩きで疲弊した体を休めつつ歩きます。
百間干場(ひゃっけんほしば)と呼ばれる場所です。いったい何を干していたのかは分かりませんが、ここからはしばらく林道歩きです。
この林道も、すでに車道として維持する努力は放棄されて久しいようです。雨水に路面をえぐられ、2年前の訪問時と比べても、さらに荒れ果てていました。
地面に無造作に置かれた道標も2年間のままでした。直す気はないのでしょうかね。
ここからは、その名もズバリ登り尾根と呼ばれる道を通って、グイグイと高度を上げて行きます。
右手に姥子山の姿が近づいてきました。二つのピークをもつ双耳峰です。雁ヶ腹摺山とともに秀麗富嶽十二景No1に選ばれています。
11時5分 林道奈良子線に到達しました。対向2車線の幅が確保されている、なかなか立派な林道です。なお、一般車は進入出来ません。
あまり時間がありませんが、それでも姥子山へは寄り道します。なぜならば、そこに秀麗な富嶽があるから!
ここで、この日初めてとなる登山者とすれ違いました。時間的に、大峠から来たのかな。
姥子山の西峰はこの通り、全く展望がありません。秀麗な富嶽が見えるのは、奥にある東峰の方です。
東峰の山頂直下は、ちょっとした岩場になっています。手を使うほどでもなく、特に難しくはありません。
11時25分 姥子山に登頂しました。
標識が取れて地面に置かれていました。この界隈の道標は、全般的に整備が行き届いておりません。まあ、山奥ですからねえ。
お待ちかね。ここで本日の秀麗富嶽のお時間です。天気は文句なしの快晴で、この通りほぼ完璧な姿を見せてくれました。
じつはもっと前から背後に見えてはいたのですが、カメラを向けるのはここまで我慢していました。
西側には北都留三山の勇士が一望できます。
え?北都留三山を知らない?
たしかにちょっとマイナーですかね。ではわかりやすいように山名入りを一枚。
気が向いたら再訪するかもしれません。
ちなみに足元は断崖絶壁です。あまり夢中になってファインダーを覗き込み過ぎないように。
4.雁ヶ腹摺山 登頂編 泥濘の道を乗り越えて山頂へ
日の当たる場所の足元は、霜柱が溶けてすっかりぬかるんでいました。これがまた、異常なまでに滑ります。
この辺りは白樺平と呼ばれています。その名のとおり、白樺の木が数多く見られました。
道中には、岩が沢山転がった庭園風な場所もあったります。基本的には、ドロドロでスベリまくりな歩き難い道が山頂まで続きます。
再び秀麗なる富士山とご対面。ちょっと雲が沸いて来ましたかね。
山頂直下の泥濘っぷりが、また惨いものがありました。最後の最後でこけたくは無いで、ここは慎重に登ります。
12時40分 雁ヶ腹摺山に登頂しました。遅能戸を出発して実に4時間55分後の登頂です。やはり標高差1,400メートルと言うのは、それなりにハードですね。
山頂の様子。
南側だけが展望が開けています。そして、酷い泥濘です。
富士山が見える方角に、500円札原画の撮影地であることを示す碑文が設置されています。
そして、これが秀麗富嶽No1の実力です。確かに、実に秀麗であります。
アップでもう一枚。肉眼でも、吉田ルートの九十九折れの道がクッキリと見えました。
山頂でのんびりと弁当でも使いたいところではありますが、私は今タイムアタック登山中なのです。しかも、前回実績に比べて大分遅延が発生しております。
と言うことで、秀麗な富嶽を写真に収めたところで、早々と撤収を開始します。
せっかくの好展望な山なのに、なぜ私はここへ訪れる度に、いつも慌しく駆け抜けていくのでしょうか。・・・タイムアタックをやめればいいんですよね。はい。
眼下に大峠へと向かう林道の姿が見えます。あそこを目指して下っていきます。
ここで猟銃の発砲音が立て続けに数発鳴り響きました。音の大きさからして結構近くな気がしますが、まさか熊じゃないですよね?
湯ノ沢峠の奥には、すっかり冠雪した南アルプスの山々の姿も見えました。
大峠に向かって一気に降下します。こちら側の道も一面泥まみれで、下るのに難儀しました。急いでいるのに、これではペースが上げられません。
1箇所だけ鎖場がありました。前回訪問時には、こんな親切なものはなかったような気がします。
水場の手前で、ちょっと恐怖を感じる傾斜をもつ砂礫の急な下りがありました。
13時30分 大峠に到着しました。車のある人はここから登山が始められます。・・・別に、羨ましくなんてないですよ?
大峠からでもこの通り、見事な富士山の姿を望むことが出来ます。山には登りたくないけど綺麗な富士山が見たいという人にはオススメのスポットです。
5.雁ヶ腹摺山 下山編 11kmの林道を踏破しハマイバ前へ
ここからハマイバ前バス停までは、林道を延々11kmほど歩いて下る必要があります。
11kmと言うと、上高地から横尾までの距離と一緒です。コースタイムは3時間近かったような?
目標の15:10のバスに間に合うためには、1時間40分で踏破する必要があるわけです。
私は平坦な舗装道路であれば、大体時速6kmのペースを維持して歩くことがでます。ここからハマイバ前まではずっと緩やかな下りが続くので、気張って歩けは時速7kmくらいは出せるかなー。
と言うことで、一旦は走らずに早歩きで行ってみようかと思います。間に合いそうになければ、最悪最後は走ります。
こういう九十九折れをショートカット出来そうな所は、どんどん道から外れてショートカットします。そうでもしないと11kmを1時間40分では歩けません。
14時10分 林道奈良子線の入り口のゲートを通過します。姥子山の手前で通った道です。・・・まだそんな標高の高い所にいたんですね。先は長そうです。
所々に、ゴールのハマイバ前からキロポストが設置されています。あと6kmって、まだ半分も進んでいないのかよ。
途中で、送迎と書かれたタクシーとすれ違いました。誰かが大峠から呼んだのでしょう。大月駅までは7,500円くらいだそうですよ。
別に全然ちっとも少しも羨ましくなんて無いもんね。
さあ、残り時間が少なくなってきましたよ。これは走らないと駄目なのか。
15時8分 ハマイバ前バス停に到着です。バス時刻の2分前と言う、奇跡のような綱渡りのゴールでした。
まあ実のところ、GPSで残りの距離が見えていたので、走らなくてもギリギリ間に合うことはわかっていました。
ピッタリと時刻表通りに現れたバスに乗って、無事に帰還しました。
電車とバスで行く雁ヶ腹摺山徹底攻略編はこれにて終了です。
普通に考えれば、帰りのバスは15:10ではなく17:15の便を目標にした方が無難です。私はこの日、殆ど休憩らしい休憩も取らずに歩き通し、食事も行動食とゼリーだけで済ませました。何かの苦行か。
ご覧頂いたとおり、公共交通機関だけでも日帰りで雁ヶ腹摺山に登ることは可能です。
可能といえば可能なのですが、タクシーを使用しないことへのなにか強いこだわりがあるわけでも無い限り、あまり推奨はしません。最後の11kmの林道歩きはある種の苦行ですし、かといって遅能戸ピストンとなると、体力的に結構ハードな行程となると思います。公共交通機関だけで秀麗富嶽十二景のコンプリートを目指している人にとっては、最大の鬼門であることは間違いありません。
秀麗富嶽No1であるだけの事はあって、山頂からの富士展望は素晴らしいものがあります。この山に登るのは、空気の澄んだ晩秋から冬にかけてがベストシーズンだと思います。
<コースタイム>
遅能戸BS(7:45)-金山鉱泉山口館(8:35)-林道終点(9:00)-金山峠(10:05)-姥子山(11:25)-雁ヶ腹摺山(12:40)-大峠(13:30)-ハマイバ前BS(15:10)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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