山梨県甲州市と丹波山村にまたがる大菩薩嶺(だいぼさつれい)に登りました。
熊笹に覆われた稜線からの眺望に優れ、比較的手軽に登れることから人気の高い山です。標高2,000メートルを超える山ではありますが、上日川峠から登れば山頂までのコースタイムはおよそ1時間20分程度であり、初心者向きと言える一座です。
今回はそんな素晴らしき稜線からの眺望と、紅葉たけなわの牛の寝通りを楽しんで来ました。
2019年11月09日に旅す。
時はいよいよ秋も深まって来た11月の上旬。紅葉登山シーズンの最盛期であります。そんな中今回は、山梨県が誇る手軽に登れてかつ富士展望雄大な大人気の山、大菩薩嶺を歩いて来ました。
雲一つない秋晴れの下の富士展望と言いたいところではありますが、生憎と少々雲は多めのお天気でありました。
しかし、雲が多めだと言うのも悪い事ばかりではありません。眼下をあたかも水面であるかのように覆いつくす、見事な雲海を眺めることが出来ました。
下山は上日川峠方面へは戻らず、小菅村方面へと下るロングルートの、牛の寝通りを歩きました。
一度でもこのルートを歩いた経験のある人であれば、この見上げる高さの巨樹が立ち並ぶ道が黄葉した時に、どんな素敵な光景が繰り広げられるかは、容易に想像がつくことでしょう。
期待していた通り、牛の寝通りの紅葉はまさに見頃の最盛期を迎えていました。眺望と紅葉を心行くまで満喫した、秋の一日の模様をお届けます。
コース
上日川峠より唐松尾根を通り大菩薩嶺へと登ります。(展望皆無な山頂はスルー)その後、好展望の稜線を石丸峠方面へ縦走し、牛の寝通りを歩いて小菅の湯へと下ります。
総歩行距離は長めですが、ゆるやかな下り坂が主体となるため、キツくも緩くもないほど良い行程です。
1.大菩薩嶺登山 アプローチ編 路線バスで労せず標高1,500メートル地点の上日川峠へ
6時11分 JR高尾駅
いつもの電車で甲斐大和駅へと向かいます。ええ、この6時14分発松本行きの電車は、私にとっては最早いつもの電車ですとも。
7時12分 甲斐大和駅に到着しました。
ドアが開かずに軽くパニック状態になっている登山者を見かけました。こいつは驚いた!今どき押しボタン式開閉ドアの存在も知らないだなんて、どんな田舎から来たのでしょうか。
以前にも一度書いたような気もしますが、ここで大菩薩嶺へ登ろうとしている人へお役立ち情報を一つお教えしておきましょう。
栄和交通が公開している大菩薩線の時刻表によると、上日川峠行きバスの始発時刻は8時10分という事になっています。ですが実際には、人数が十分に集まると時間前であっても臨時便が出ます。
という事で、始めからその臨時便を当て込んで、早々とやってまいりました。
かくして当て込んだ通りに、7時20分を過ぎたころに臨時便がやってきました。7時40分着の電車でやって来た乗客を収容したところで出発です。
台風19号の痕跡が至る所に生々しく残る日川沿いに標高をあげて行きます。山肌の紅葉がとて良い感じで、期待が膨らみます。
道中に路肩が崩壊し、片面通行になっている場所がありました。通行止めにはなっていないものの、重量制限があるらしく「ここだけバスを降りて歩いてください」と言う、実に珍しいアナウンスがされました。
乗客を下ろして軽くなったバスが、徐行で崩壊箇所を通り抜けます。
カラマツの紅葉が実に美しい。中腹がこれだけ見頃であるという事は、山頂付近にあるカラマツ林の紅葉は、もう終わってしまっていそうですね。
8時35分 上日川峠に到着しました。この時点で既に標高は1,580メートルあります。山頂までの標高差は500メートル未満であり、言ってみれば高尾山レベルの山です。
2.唐松尾根を経て好展望の広がる稜線へ
途中にある福ちゃん荘までは、車道と登山道のどちらからでも行けます。私は登山をしに来ている訳だから、ここは当然ながら登山道一択です。
案の定と言うか、この標高一帯は既に紅葉が終わり、冬枯れの光景が広がっていました。
それでもこうして所々に、僅かな紅葉の名残とでも言えるものがありました。
歩き始めて20分ほどで福ちゃん荘までやってきました。私は食べたことがありませんが、ここの馬刺しは大変おいしいと評判です。
頭上高くには、熊笹に覆われた稜線が連なっていいます。あの上を歩いたらどんなに気持ちが良いか、言うまでもないことでありましょう。
福ちゃん荘からは、稜線まで最短で到達できる唐松尾根ルートを辿ります。
カラマツの紅葉もほぼ終わりかけでした。もう1~2週前がベストな訪問時期だったようです。
いかにも大菩薩嶺らしい、熊笹が茂る斜面です。最短ルートであるがゆえに、唐松尾根ルートの傾斜は全般的にきつめです。
カラマツ林を抜けると、森が切れて一気に展望が開けます。ここから、大菩薩嶺の真骨頂とでも言うべき好展望がはじまります。
森林限界を超えるほどの標高はないにも関わらず、何故大菩薩嶺にこれほどの好展望なカヤトが広がっているのか、気になって調べてみたのですが、結局理由はよくわかりませんでした。
ドカ雪が降るわけでもなければ、突出した強風が吹くわけでもないこの稜線に、何故森林が無いのか。実に不思議です。
振り返ると富士山が真正面にあります。本日は少々雲が多めです。
ススキの茂る急斜面をえっちらおっちらと登っていきます。ひょっとしたら、昔は茅場だったのですかね。
9時45分 雷岩に到着しました。富士山の展望が素晴らしい場所として知られた岩です。展望が皆無な山頂に変わって、ここで昼食休憩を取る登山者も多いです。
さてその富士山の方はと言うと、残念ながら雲に隠れてしまいましたね。
雲滝が発生していました。郡内地方で発生した雲が、笹子峠を越えて甲府盆地内へと流れ込んでいる状況です。
右へ視線を転じると、甲府盆地の背後に南アルプスの山並みが連なります。こちらも全般的に霞み気味で、少々残念な感じです。
白根三山はすでに冠雪して、その名の通りの白い頂きとなっていました。
大菩薩嶺の山頂は、雷岩からおおよそ10分ほどの場所にあります。展望は一切なく、過去に何度も登ったことがある場所なので、今回はパスしました。
<参考画像>山頂はこんな場所です。登っても特に良いことはありません。
3.雲海を見下ろす標高2,000メートルの稜線歩き
10時 行動を再開しましょう。大菩薩峠方向を目指して稜線上を縦走します。
この雷岩から大菩薩峠へ至る区間の稜線歩きこそが、大菩薩嶺の魅力の源泉です。ここを歩かずしては意味がありません。唐松尾根を往復してしまう人などまずいないとは思いますが念のため。
私は割とピークハントする事へのこだわりが強い方ではありますが、この山に関しては正直どうでも良いです。山頂の土を踏むことなどどうでも良いと思わせてくれるだけの魅力が、この光景にはあります。
前方にある奥多摩方面の山並みが、完全に雲海の下に沈んでいました。今頃、東京のお天気は曇りなのでしょうな。
ちょうどいま私の居る大菩薩山系の山並みが、この雲の海をせき止めているかのような状態でした。
稜線の上も相変わらず雲は多めの状態です。先ほどから、太陽が出たり隠れたりを繰り返す微妙な天気です。
富士山が少しだけ復活しつつありました。少し粘れば綺麗に晴れてくれるのかもしれませんが、本日の行程はまだまだ先が長いので、立ち止まらずに前進を続けます。
稜線上に一ヵ所だけ岩場がありますが、取り立てて危険はありません。
カラマツ林に抱かれた福ちゃん荘の姿が見えます。1時間ほど前に青の場所から稜線を見上げたのと、ちょうど反対側からの光景です。
この鞍部は賽の河原と呼ばれています。江戸時代の青梅街道は、現在の大菩薩峠ではなくこの場所を越えていました。同じ名前を冠した峠であっても、時代と共に場所が変遷している言うのは割とよくあることです。
賽の河原付近から振り返ってみたこの光景は、山岳雑誌や観光パンフレットなどで定番の大菩薩嶺の姿です。
登り返したところが親不知ノ頭です。山と高原地図にはその名前を記載すらしてもらえない小ピークです。誰かがこの山頂で歯痛に悶えでもしたのでしょうか。
この場所も雷岩に負けず劣らずな好展望地です。先ほどよりも雲が取れてきた南アルプスの山並みを一望できました。
大菩薩峠が見えました。魅惑の稜線歩きはもう間もなく終わります。
10時30分 大菩薩峠に到着しました。雷岩から30分ほどの、実に気分の良いトレイルでありました。
雲海の下の丹波山村を挟んで、奥秩父主脈の頭だけが見えていました。
4.静かなるコケの森と好展望地の石丸峠
大菩薩峠から上日川峠へと戻るのが、大菩薩嶺をめぐる最も一般的な行程であるかと思います。ですが、時間に余裕があるのであれば、是非ともこの先にある石丸峠へと足を延ばすことをオススメします。
介山荘の裏手から先へ進むと、周囲を歩く人の数は一気に減り、静かなトレイルとなります。
ここまでの視界の開けた稜線とは打って変わった、苔生す奥秩父の幽玄なる森が広がっています。
薄暗い苔の森に差し込む木漏れ日が実に美しい。北八ヶ岳には及ばないのの、奥秩父の森もまたコケ好きな人にはたまらない場所です。
この石丸峠付近から見た小金沢山と富士山は、私のお気に入りの山岳風景の一つです。この光景を見たいがために、この場所へは過去に何度も足を運んでいます。
これから歩く牛の寝通りはと言うと、雲の下へと吸い込まれて行ってしまっておりますな。これは、下山はガスガスの中を歩くことになるのかな。
11時 石丸峠を通過します。この峠は、小屋平バス停からであらば1時間少々で登ってこれる場所です。
大菩薩峠界隈の喧騒が嘘のような静かな場所です。それでいて眺望は素晴らしいものがあります。ここは本当におススメの穴場です。
峠からはほんの少しだけ登り返しがあります。大した高さではありません。
牛の寝通りの取り付きへとやって来ました。ここから小菅の湯までは、標準コースタイムで4時間20分の行程となります。結構な長距離を歩くことになるので、自信の無い人は小屋平バス停へ引き返してください。
5.大菩薩嶺登山 下山編 紅葉の牛の寝通りを下り、小菅の湯へ
さあ、覚悟を決めて牛の寝通りへと足を踏み入れます。歩き始めは、思わず鼻歌なんかが出て来てしまうような、ゆるい傾斜の歩きやすい道です。
谷を挟んだお向さん雁ヶ腹摺山(1,874m)が、雲海から頭を突き出していました。このシーンだけを見ると、なにやらとてつもない山奥にいるかのような印象を受けます。
・・・バスを使えば割とあっさり登ってこれるため忘れてしまいそうになりますが、よくよく考えてみると、ここはとてつもない山奥でした。
登山道はここで一度北に進路を転じます。正面に見えているのは東京都最高峰の雲取山(2,017m)です。
という事で、ついに約束されていた未来である、ガスの中へと突入しました。
標高が差がるにつれて、徐々に周囲の季節が冬から秋へと戻って行きます。紅葉と言うのは、曇り空だとイマイチ映えませんね。
枯れ葉をザクザクと踏みしだきながら下って行きます。秋と冬の境界の光景です。
おや、なんだか徐々に晴れ間の様なものが見え始めて来ましたよ。
晴れたー。ここに来てまさかの大逆転です。眼下を覆いつくしていたあの雲は、実はたいした厚さでは無かったようです。
やはり紅葉は、青空にこそよく映えます。日に照らされて輝く葉が、実に美しい。
木漏れ日が射しこみ始めた森の中を、気持ちよく下って行きます。傾斜緩めの歩きやすい道が延々と続きます。
牛の寝通りの森はいすれも見上げるような巨木ばかりで、紅葉しているのも頭上高くになります。したがって、鑑賞するためには必然的に上を見上げることになります。
くれぐれも、よそ見をしながら歩かないようにしてください。上を見ながら歩いていた私は、枯れ葉に足を滑らせて盛大にコケました。
12時10分 榧ノ尾山に到着しました。尾根上にある肩のような場所で、あまり山頂っぽくはありません。
頭上が開けているだけで、眺望もありません。なのにこうして名前までつけられているのは、麓から見上げた時には山のように見えるからなのでしょうか。
榧ノ尾山付近の標高が、今まさしく紅葉最盛期の状態でした。今度はしっかりと立ち止まって鑑賞します。
前方に連なる山並みは奈良倉山(1,349m)方面です。牛の寝通りからは尾根伝いにずっと繋がっており、松姫峠と鶴峠の二つの峠を経て、奥多摩の三頭山(1,531m)まで続いています。
眼下に葛野川ダムと松姫湖が見えました。東京電力が所有する、発電用のダム湖です。
以前、新緑のシーズンに訪れた時には、葉に隠れていて全く姿が見えませんでした。上からこの湖の姿をうかがうことが出来るのは、葉が枯れる季節限定です。
それにしても牛の寝通りは長い。ひたすら長い。僅かですが登り返しもあり、なかなか標高が落ちません。
13時 大ダワまで下って来ました。松姫峠方面と小菅村に下るルートの分岐地点です。
まだまだ歩き足りないと言う人は、このままお隣の大マテイ山にでも足を延ばしてみてはいかがでしょうか。
もっとも、牛の寝通りを歩き切ってもなお歩き足りないだなんていう人は、滅多にいないとは思いますがね。
道幅の狭いトラバース路がしばし続きます。紅葉の見頃の方がまだ続いていましたが、この道でよそ見をするのは極めて危険なので、くれぐれも足元に集中してください。
段々とまだ緑の葉の方が目立つようになってきました。そろそろ紅葉タイムは終わりかな。
道標もなにもなくて分かりにくいですが、ここで右へと折り返すのが小菅の湯方面への近道です。
一見すると作業道か何かのように見えますが、ここで間違いありません。
少々遠回りであると言うだけで、直進しても下山は出来ます。なので、例えこの分岐を見落としたとしても、特に問題はありません。
谷底に向かって杉林の急坂を一気に下ります。最短ルートではあるものの、あまり面白味は感じられない無い道とも言えます。
下りきると沢にぶつかりました。奥多摩クォリティの澄んだ清流です。
この清流を利用したワサビ田があります。何のことは無い、この道はもともとワサビ田のための作業道であるという事です。
台風19号による影響なのか、石垣が一部破損しており、脇には流出物が堆積していました。
ワサビ田の脇を抜けると林道に行き着きました。あとは道なりに下って行くだけです。
小菅村の集落まで下って来ました。正面に見えているのは鹿倉山(1,288m)でしょうか。
もうすっかり下界へと戻って来たかのような錯覚を覚えますが、実際のところここはまだ奥多摩湖よりもさらに上流にある奥地です。
これまた特に道標もありませんが、最短で小菅の湯に向かうにはここを右です。
14時20分 小菅の湯に到着しました。多摩源流の秘湯として知られた温泉です。真新しい施設のためか、まるで秘湯感がありませんけどね。
ここでひと風呂浴びて行くのが理想ではありますがど、大月行きのバスがすぐに来てしまったので入浴はパスです。
先ほども述べた通り、ここは人里離れた遥か山の奥です。バスの本数は極めて限られており、これを乗り逃してしまうと、次までは相当待たなければならないのですよ。
このバス路線は、終点の大月駅までおよそ1時間はかかる中々の長丁場です。道中には、紅葉の名所として知られる深城ダムなどがあります。
約一時間の乗車時間で猿橋駅に到着しました。終点の大月まで行く必要はないため、ここで下車します。
午前中に雲の下にあったであろう大月市も、いつの間にやらすっかりと晴れ渡っていました。本日の天気は登り坂であったようですね。
かくして秋の大菩薩嶺と牛の寝通りを巡る山行きは、大満足の内に幕を下ろしました。
これほどお手軽に森林限界越えの稜線(厳密に言うと越えてはいないですが)歩きを楽しむことの出来る山と言うのは、そうそうあるものではありません。行けば必ず良い思いが出来る、文句なしの納得の秀峰です。是非とも、石丸峠までの周回と合わせて歩いてみてほしいです。
牛の寝通りの方はと言うと、こちらはかなりのロングコースであるため、万人に対してオススメであるとは言い難いルートです。ガッツリと歩きたい人向けの道ですね。ズラリと立ち並ぶ巨樹の森の景観を最大限に楽しむためにも、新緑の頃かもしくは紅葉シーズンの訪問を推奨します。
<コースタイム>
上日川峠(8:40)-福ちゃん荘(9:00)-雷岩(9:45~10:00)-大菩薩峠(10:30)-石丸峠(11:00)- 榧ノ尾山(12:10)-大ダワ(棚倉)(13:00)-小菅の湯(14:20)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント
こんばんは
ランキングから来ました
きれいな雲海ですね
山道で重量制限ってドキドキですね
bescon様
コメントを頂きましてありがとうございます。
2,000メートル級の山からでは、なかなかお目にはかかれないであろう規模の見事な雲海でした。狙って見れるようなものではないので、今回は運が良かったのだと思います。
大マテイに寄り道しましたがほぼ同ルートを歩きました。何を間違えたのか4月に行ってしまったのですが、どう考えても紅葉時期に行くべきだと記事を読み再認識しました。
いずれ再訪とは思うものの、バスの小菅線は平日廃止・休日2便となりそうですね。このルートもバスでは難しくなりそうです…
ペン生さま
コメントをありがとうございます。
牛ノ寝通りから大マテイ山に至る尾根上の広葉樹林は、杉の植林の割合が多い首都圏近郊の山の中では際立っている規模感だと思います。減便後の奥多摩行きの最終バス時間が何時に設定さるのかは不明ですが、今以上に歩く人の数が少ないマイナーな山域になって行くのでしょうかね。