黒川鶏冠山 大菩薩嶺の北にそびえ立つ奥秩父の展望台

切り刻まれた黒川鶏冠山の標識
山梨県甲州市にある鶏冠山(けいかんざん)に登りました。
奥多摩湖よりさらに上流の奥深くへ遡った、多摩川源流域にある山です。かつて甲州武田氏の経済を支えた、黒川金山跡のある場所としても知られています。
奥秩父山塊の主脈から少し離れた場所にあり、奥秩父のほぼ全域を見渡すことが出来る、格好の展望所となっています。
落葉が始まり、秋が終わりつつある奥秩父の真ん中を歩いてきました。

2016年11月6日に旅す。

鶏冠山といえば、甲武信ヶ岳のすぐ隣にある岩峰が有名です。
西沢渓谷から見た鶏冠山
こちらの読みは「とさかやま」です。山梨百名山にも選ばれている一座ですが、そもそも一般登山道が存在しない、難易度の高い危険な山であったりします。

今回私が登ったのはこの鶏冠山ではなく、大菩薩嶺の北隣にあるほうの鶏冠山です。前者と区別するために黒川鶏冠山と呼ばれます。

立地的には、奥秩父山塊の主脈から南より場所に位置しています。アクセスにやや難ありの山奥に存在し、登山の対象としてはどちらかと言えばマイナーな存在です。

一昔前までこの山は、「車の無い奴お断り」な場所でした。現在では季節限定ながらも、塩山駅から青梅街道の最高地点である柳沢峠までバスが運行されおり、公共交通機関によるアプローチが可能です。
柳沢峠から見た富士山
そんなマイナーな山に、今回私が目をつけた理由はと言いますと、、

いつものように、エアー登山(ソファーで寛ぎながら、ぼんやりと山と高原地図を眺める行為を指す)をしていて、たまたま目に付いたので白羽の矢を立てました。

要するに単なる思い付きです。それではいざ、鶏冠のてっぺんを目指して行ってみましょう。レッツ、コケーッコッコッコ!

コース
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柳沢峠より黒川山を経由して鶏冠山に登頂。下山は六本木峠から南下し、丸川峠を経て裂石方面へと下る。標準コースタイムはおよそ6時間半ほどの行程です。

長すぎず短すぎない、温泉に向かって歩く良い塩梅のルート計画にまとまりました。

1.鶏冠山登山 アプローチ編 塩山駅から青梅街道最高地点の柳沢峠へ

8時15分 JR塩山駅
以前にも同じようなことを書いた気もしますが、塩山と書いて「しおやま」ではなく「えんざん」と読みます。
塩山駅

塩山駅前のバスロータリーから落合行きのバスに乗車して、柳沢峠を目指します。本数が非常に少ないので、事前に時刻表を良く確認してからご訪問下さい。乗り逃すとその時点で計画終了です。
塩山駅のバスロータリー

バスは青梅街道に沿ってひた走ります。裂石を過ぎた辺りからループ橋のような道を延々と登り、柳沢峠に向けて高度を上げていきます。
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チラチラと山腹に旧道らしき道が見えるのですが、一車線しかないかなりエキサイティングな道です。かつての柳沢峠越えの苦難が偲ばれます。

9時20分 柳沢峠に到着しました。青梅街道の最高地点で、標高は1,472メートルほどあります。車で直接上がることの出来る峠としては、かなり高い標高です。
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峠越え好き系ハイカーである私としては、ここは前々から訪問したいと願っていた場所です。

自分の足ではなくバスに運んでもらったと言うのが少々引っかかりはしますが、とりあえずは念願がかなって満足です。

・・・登山開始前に満足感に浸っててどうすんだ。

なお、バスは1日2往復のみです。もっとも、本日のルート計画では、ここへ戻って来ることはありません。
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柳沢峠は富士山の撮影スポットとして知られています。写真を撮るためだけに訪れる人も多いのだとか。この日も晴天で、この通りバッチリ見えました。
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富士山をアップで一枚。手前の紅葉した斜面が映えて、なかなかの見ごたえです。
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2.紅葉に染まる多摩川源流の森

トイレと身支度をすませて、9時35分に登山開始です。登山口は道の脇にあります。
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道標上に鶏冠山の名は見当たりませんが、六本木峠方面を目指せば問題ありません。
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上り始めは一面のカラマツ林です。大菩薩嶺の唐松尾根とよく似た雰囲気です。杉と同様に人工的に植林されたものですが、日の光が差し込むため、杉林のような陰鬱さがありません。
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紅葉はすでにピークを過ぎて、終わり際の状態です。それでも、まだまだ金色に輝く美しい光景を見せてくれました。
鶏冠山の紅葉

鶏冠山のある一帯は、多摩川の源流域にあたる場所です。古くから水源の森として手厚く保護されてきたおかげで、豊かな自然林が多く残されています。
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まだ落葉して間もないらしく、足元に紅葉の絨毯が出来上がっていました。
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この鮮やかなの葉の色も、やがては変色して茶色一色になってしまうハズです。期間限定の美しい光景に出会うことが出来ました。

道標に従って進みます。相変わらず鶏冠山の文言はありませんが、六本木峠方面に向かいます。
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ところで、このような枯葉の絨毯を見ると、寝そべって葉に埋もれてみたくはなりませんか?
私はなりました。

例え思っても、想像して楽しむだけにしておいた方が無難です。実際にやると首筋から虫が侵入してきます。

所々に紅葉が残っており、単調になりがちな樹林帯の光景に華を添えてくれます。
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いたるところから清水が滲み出し、ウェットな空間が広がっています。夏場ならば一服の涼を感じることが出来るのでしょうが、この季節ともなると日陰の水辺はひたすら寒い。
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湿った環境のおかげか、このようなコケの庭園といった風情の場所がしばし出現します。雰囲気や良しです。
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目的地である鶏冠山の隣にある黒川山が見えてきました。鶏冠山本体は、黒川山の裏手にあるため、こちら側からでは見えません。
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10時15分 六本木峠に到着しました。大菩薩嶺方面に向かう道との分岐地点です。ヒルズ族とかが居たりするんでしょうか。
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ここで前方に絶景スポットの予感が。
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正面に大菩薩嶺(2,057m)の姿が一望できました。穏やかな稜線の山のイメージが強い大菩薩嶺ですが、北側からみると全く異なる印象の山です。
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六本木峠からは緩やかな下り道となり、下りきったところで林道に出ました。泉水横手山林道と言う名前です。
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林道を横断して再び登山道に入ります。ここでようやく鶏冠山の名前が出現しました。
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3.鶏冠山登山 登頂編 奥秩父主脈の山並みを一望する、好展望の頂へ

軽トラが進入できそうな幅の道です。高低差がほとんど無く、とても歩きやすい。
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何故か俳句調になっている防災標語がありました。日本人のDNAには、5・7・5のリズムが心地よい音色として刻み込まれているのでしょう。
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10時45分 横手山峠に到着しました。平坦な道はここまでで終わりです。この先は少し傾斜が増してきます。
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峠の様子
幅の広い明瞭な踏み跡が付いてします。林道が出来る以前は、ここが峠越えのメインストリートだったのでしょう。
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まずは鶏冠山の手前に陣取る、黒川山を目指して登ってきます。
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この山、奥秩父の匂いがします。なにぶん感覚的なものなので言葉で説明するのが難しいのですが、笹の青臭ささとカラマツの葉が腐った匂いがミックスしたような、独特の甘い香りが周囲に漂っています。
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登りきった所で、開けた場所に出ました。黒川山の肩に当たる部分です。
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黒川山の山頂はこちらです。見ての通り、全方位が樹林に囲まれており、展望は一切ありません。
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今まで黒川山の裏に隠れていた鶏冠山の全容がようやく一望できました。麓から見ると鶏冠のような姿をしているらしいのですが、ここからだとイマイチよくわかりません。
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とりあえず黒川山の山頂をピークハント。三角点があるほかは何も無い山頂です。
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鶏冠山に向かう前に、黒川山の山頂から少し離れた場所にある見晴し台へ寄り道します。
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この岩の上が見晴台です。いかにも展望がよさそうなその姿に、期待が高まります。
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意外と狭いので足元には要注意です。定員は2~3名と言ったところです。
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見晴台からはこの通り、目の前に奥秩父主脈の姿を一望できます。
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中央左から順に破風山(2,318m)、笠取山(1,953mで)、唐松尾山(2,109m)かな。
地味な通好みの渋い山々が連なっています。

こちらは北西方向。正面中央に見えているのは国師ヶ岳(2,592m)と朝日岳(2,579m)。
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奥秩父山塊の主峰、金峰山(2,599m)も頭だけが辛うじて見えました。
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金峰山を最大ズームで。山頂の五丈岩が非常に目立っております。
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こちらは北東方面。正面の山はたぶん竜喰山(2,011m)だと思います。特長のない山並みで、山座同定が非常に難しい。
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眼下には、柳沢峠へと向かう青梅街道の姿が見えます。
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青梅街道が現在の柳沢峠を越えるルートとなったのは明治以降のことで、江戸時代までは大菩薩峠を越えていました。昔の旅人と言うのは、ちょっと甲斐へ行くのにも一苦労だったのですね。

そして南の展望。大菩薩嶺と富士山のツーショットが撮れました。
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展望を十分楽しんだところで、鶏冠山へ向かいます。
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山頂直下は岩場になっていました。ここはしっかり三点支持で登ります。
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山頂の目前まで来たところで、なにやら場違いな音が聞こえて来ました。トントン、カンカンと、まるで大工仕事をしているかのような音です。
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11時40分 鶏冠山に登頂しました。山梨百名山の標識を立て直してる最中でした。なんともレアな場面に出くわしたものです。
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ちなみに、この方たちは皆ボランティアです。この募集に応じて作業を行っていたようです。

無残に切り刻まれてしまった先代の標識。
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鶏冠山本体は岩で出来ています。山頂直下はこの通り断崖絶壁です。
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北側には大菩薩嶺が見えます。黒川山に視界を阻まれて、富士山はここからは見えません。
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東側の奥多摩方向の展望が開けています。
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北東には飛竜山や雲取山も見えます。
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とりあえず、日常生活において何か頭にくる出来事あった人は、憂さ晴らしにこの山へ訪問してみてはいかがでしょうか。・・・鶏冠に来たぜと言うためだけに。

4.丸川峠方面へと縦走する

12時 狭い山頂でそそくさと弁当を使い、下山を開始します。
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所々に残る紅葉の名残が、目を楽しませてくれます。
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落ち葉が堆積したフカフカな道は足に優しく、とても楽に歩けます。おかげでかなりテンポよく下れました。
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12時50分 六本木峠まで戻って来ました。このまま真っ直ぐに柳沢峠へ戻っても良いのですが、それだと少々物足りない感じがするので、丸川峠方向へ進みます。
六本木峠

水源の森らしく、至る所から水が染み出しています。豊かな森が大きな保水力を生み出していることが良くわかります。
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再びコケの庭園が現れました。ルート上にこのような場所が幾度と無く現れます。
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殆どアップダウンの無い平坦な道が続きます。展望はありませんが、歩きやすくてとても気持ちのいい道です。
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13時25分 天庭峠を通過。峠と言うのは普通、坂を下りきった鞍部にあるものだと思うのですが、ここはどう見ても坂の途中です。
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「峠」と「鞍部」は同じような意味をもつ言葉ですが、違いはそこを超える道があるか無いかです。この場所も、峠と名前がついている以上は、かつてはここを乗り越える道が存在したのでしょう。

丸川峠は六本木峠よりもほんの僅かに標高が高い場所にあります。必然的にこの尾根道も微妙な上がり勾配が続き、眼下にある青梅街道との標高差が大きくなっていきます。
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13時40分 寺尾峠を通過します。この辺りは峠だらけですね。天庭峠と同様に、峠道があったような形跡は全く見当たりません。
寺尾峠

六本木峠から延々と1時間ほど歩いたところで、森を抜けて視界の開けた場所に出ました。
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13時55分 丸川峠に到着ですしました。大菩薩嶺へ向かうルートとの分岐地点にあたる場所で、山小屋もあります。
丸川峠
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今日において、大菩薩嶺への登路として主流になっているのは、上日川峠からアクセスするルートです。裂石から丸川峠を経由して大菩薩嶺に登る人は、今では余り多くはありません。

言うなれば、ここはクラシックルート上に存在しているような場所なのですが、それでも山小屋の商売が成り立つくらいの人の往来はあるのと言うことなのですね。

この先を1時間ほど登れば、大菩薩嶺の山頂に到達します。せっかくだから山頂まで往復しようかとしばし逡巡するも、コースタイム的に帰りのバスがギリギリになってしまうので、結局断念しました。
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5.鶏冠山登山 下山編 裂石温泉で一日の汗と疲れを洗い流す

裂石方面に向かって下山を開始します。
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そこそこ急勾配ですが、よく踏まれている歩きやすい道です。快調に飛ばして、短時間で見る見る高度が下がっていきます。
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登山道上にあった、一際目を引く美しい紅葉。
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下山開始から1時間とたたないうちに、舗装道路に出ました。
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舗装道路に出てからも、登山口まではまだ一道あります。この時点で私の頭の中は既に温泉のことでいっぱいでした。駆け足気味のペースで下って行きます。
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15時15分に大菩薩登山口を通過。ここは素通りして、そのまま大菩薩の湯まで歩いていきます。
裂石の大菩薩登山口

15時25分 本日のゴール地点の大菩薩の湯に到着しました。ここでゆったりと風呂に浸かり、16時のバスに乗って帰還しました。
大菩薩の湯

思いつきでなんとなく訪れた鶏冠山でしたが、うまい具合に紅葉の終わり際のタイミングに滑り込めたようで、結果としてはとても良い時期の訪問でした。
特に急いだと言う訳でもないのにコースタイムを1時間以上も巻けてしまったので、このコースはもともと緩めのコースタイム設定がされているようです。マイナーエリアゆえに人はあまりおらず、のんびりと静かな山行きを楽しめます。
アクセスが少々面倒ではありますが、展望も良くおまけに温泉にも寄れて、地味ながらも手軽でとても良い山だと思います。
行き先に困った時の、候補の一つとしてみてはいかがでしょうか。奥秩父の香りが、貴方をやさしく包み込んでくれることでしょう。

<コースタイム>
柳沢峠(9:35)-六本木峠(10:15)-黒川山(11:10)-鶏冠山(11:40~12:00)-六本木峠(12:50)-丸川峠(13:55)-大菩薩登山口(15:15)-大菩薩の湯(15:25)

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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