長野県白馬村と富山県黒部市にまたがる唐松岳(からまつだけ)に登りました。
北アルプスの後立山連峰にある標高2,695メートルの山です。鋭く切り立った岩峰の多い北アルプスの中にあっては珍しい広くなだらかな尾根である、八方尾根の先端に位置しています。積雪期においても比較的安全に登ることが出来るため、冬山登山の対象として絶大な人気を誇っています。
最高の晴天のもと、周囲一面が白一色に染まった北アルプスの大絶景を眺めて来ました。
2019年3月20日に旅す。
唐松岳は冬山登山の対象としては定番中の定番と言える存在です。八方尾根は広くなだらかで歩きやすいルートであり、また白馬八方スキー場のリフトを利用することとで、標高1,800メートル地点から登山を開始することが出来ます。
しかしだからといって、唐松岳は誰でも気軽に登れる楽な山なのかと言えば、必ずしもそうとは言えません。山頂までの標高差は1,000メートル近くあり、登り一辺倒のなかなかタフな道です。
特別な技術は必要ありませんが、体力はそれなりに必要となるでしょう。また幅の広い尾根であるがゆえに視界不良時には迷いやすく、天候を味方につけることがなによりも絶対に必要な条件です。
長い長い白一色の道を登り詰めた先に待っていたのは、壮重なる北アルプスの白銀世界でした。
コース
八方尾根スキー場のリフトトップにある八方池山荘から、唐松岳を往復します。標準コースタイム約7時間ほどの極めてシンプルな行程です。
1.唐松岳登山 アプローチ編 夜行バスで白馬八方スキー場を目指す
3月19日 22時30分 バスタ新宿
白馬八方バスターミナル行きの夜行バスへ乗車すべく、毎度おなじみのバスタ新宿へとやってきました。
今回は溜まりに溜まった有休を消化するための平日登山です。どうでもいいことですが、平日の満員電車に登山の荷物を抱えて乗り込むと、周囲から白い目で見られているような被害妄想に苛まれます。
白馬八方までの運賃は、夜行料金を上乗せした状態で6,200円です。昼行便だと4,750円だったかな。
平日とあってか空いており、4列シートのバスですが一人で二席を占有できる状態でした。おかげさまで、ぐっすりと良く眠ることが出来ました。
明けて3月20日 6時40分 八方バスターミナル
お早ようございます。何時もより長く眠れたおかげで、体調は万全です。天気は雲一つない快晴で、最高の登山日和となりそうです。
目の前には朝焼けに染まる白馬三山の雄姿が立ち並びます。右から順に白馬岳(2,932m)、杓子岳(2,812m)、白馬鑓ヶ岳(2,903m)です。
こちらは「山が好き酒が好き」のTシャツで馴染みの五竜岳(2,814m)です。岩々しくてカッコイイ山ですな。
スキー場のゴンドラ乗り場まで歩いていきます。白馬八方バスターミナルからの送迎バスも存在しますが、歩いても10分少々の距離なので、わざわざバスを待つまでもありません。
白馬村の至宝とでもいうべき八方尾根が真正面に見えます。長野五輪の開催地として名高い場所です。白馬村の経済は、この尾根の存在に少なからず依存しています。
このように要所要所に看板が出ているので、道に迷う心配はありません。
ゴンドラ乗り場までやって来ました。運行開始は8時からです。平日&運行開始1時間前とあってか、周囲には人影もまばらで閑散としていました。
これが土日だと、運航開始前から長蛇の待ち行列が出来るのだそうです。
登山届を提出しないと、ゴンドラのチケットを売ってもらえません。チケット売り場の脇に用紙が備え付けられているので、事前に書いておきましょう。
2.ゴンドラとリフトを乗り継ぎ、標高1,800メートルの白衣銀世界へ
ゲレンデの最上部まで行くには、ゴンドラとリフト2基を乗り継ぐ必要があります。料金は往復で2,900円です。
暖房の効いた更衣室でぬくぬくと過ごしていたら、いつの間にか待ち行列が出来上がり出遅れました。見たところスキーヤーと登山者の割合は半々くらいと言ったところです。
まずはゴンドラリフト・アダムで標高1,400メートル地点の兎平へと上がります。
続いてアルペンクワッド・リフトに乗り継ぎます。ゴンドラ乗り場を出て真正面にあります。
リフトと言うこの偉大な文明の力で、労せずにどんどん標高が上がり周囲の展望が開けます。
進行方向左手には五竜岳と鹿島槍ヶ岳(2,889m)が並んで見えました。これほどの絶景を眺めながら滑走できるスキー場というのは、なかなか無いのではないでしょうか。素晴らしいロケーションです。
右手には白馬三山。こちらも文句なしに素晴らしい眺望です。白馬八方スキー場は、どっちを向いても絶景三昧です。
お次はグラートクワッドリフトに乗り換えです。アルペンクワッドを降りた左手にあります。
前方に樹木一つないのっぺりとした尾根が続いているのが見えます。あれがこれから歩くルートです。
8時40分 ゲレンデトップまで登って来ました。
リフトの営業終了時間は季節によって異なるようですが、本日は16時までです。標準コースタイム通りのペースで歩ければ、十分に余裕のある時間です。
ゲレンデトップに立つ八方池山荘。通年営業の山小屋です。ここに前泊すれば、空気の澄んだ午前中の内に登って降りてくることも可能です。
毎回のように、12本爪アイゼンのストラップを輪っかへ通すやり方を忘れてしまうのは何故なのでしょうか。あーでもない、こーでもないと試す内に、なんとか思い出しました。
備忘のためにメモしておくと「ストラップを銀と黒の両方の輪っかに通した後に折り返し、黒の輪っかにだけもう一回通す」です。
・・・言葉で説明してもサッパリなので、購入時に店員さんに教えてもらう事を推奨します。
3.唐松岳登山 登頂編 直登一辺倒の尾根の先に待つ北アルプスの絶景
身支度を整えて8時50分に登山を開始します。天気は雲一つない快晴で、暖かいを通り越して暑さを感じるような状態です。
登り始めて早々に汗だくになり、たまらずにグローブと目出し帽を脱ぎました。そのことが後に、悲劇を生むことになるとも知らずに。。
登り始めからいきなり森林限界を超えているため、晴天であれば最高の眺望の中を歩くことが出来ます。極端なことを言えば、別に頂上まで行かずとも、十分すぎるほど満足できる光景を目にすることが出来ます。
鹿島槍をクローズアップ。とても特徴的なシルエットをした双耳峰です。確か日本百名山の作者の深田久弥が、百名山の中で一番好きな山として、この山の名前をあげていたように記憶しています。
・・・ええい、貴様も「いつか登りたい山リスト」に追加だ。困ったことに、このリストは増える一方で全然残が減りません
15分ほど登ったところで、一挙に前方の視界が開けました。八方尾根は、山頂に至るまでどこまでもゆったりとした佇まいです。
ぱっと見ではどこが山頂なのか判りにくいですが、唐松岳の山頂はこれです。意外と遠いいですね。
石神井ケルンに到着です。八方尾根には、悪天候時の道迷い防止のために、ルート上の数か所にこのようなケルンが配置されています
次へ進みましょう。石神井ケルンからしばらくの間は、ほとんど標高差の無い平坦な道となります。
目の前に姿を見せたこの鋭い切れ落ちは、不帰ノ嶮(帰らずのキレット)と呼ばれる場所です。北アルプス三大キレットなるものに数えられている険路です。
岩場は余り得意ではないのですが、それでも一度は歩いてみたいと思わせるだけの迫力があります。
前方に、これまでとはスケールの違う大きなケルンの姿が見えてきました。
9時25分 八方ケルンに到着しました。まるで人の顔のように見えると評判(?)のケルンです。確かにこの配置は、狙ってやった感じですね。
振り返れば背後には頸城山塊の山並みが連なります。妙高山(2,454m)や火打山(2,462m)などがある一帯です。
雪解けを迎える初夏には一面のお花畑が広がるこの一帯も、この季節にはその片鱗すら見えません。一面の真っ白な世界です。
雪解け後にこの場所に出現する八方池は、逆さ白馬岳の姿を見ることが出来る、北アルプスでも屈指の景勝地です。当然のことながら、今はただの真っ白な平地です。
ボードを背負ったバックカントリーヤー達が、足取りも重くドタドタと登って行きます。なんと言うか、重そうですね。(月並みな感想)
八方池を過ぎると、傾斜が増してきてようやくアイゼンの前爪が役に立つような斜面となりました。
近づくにつれてどんどん迫力を増して行く五竜岳。デンと構えた大柄でマッシブな山です。
前方にこんもりとしたピークの姿が見えて来ました。あれが地図上にも記載のある丸山なる場所でしょうか。
結構な急坂です。空気の薄さも相成ってか、すっかり息が上がってしまいました。ロープウェイを使った楽々登山なのかと思いきや、意外とキツイですぞ唐松岳。
そして、丸山だと持っていた場所は名もなき小ピークで、丸山はさらに一つ先でありました。登り一辺ではなく意外とアップダウンがあります。
10時40分 丸山ケルンに到着しました。
小腹が空いてきたのでここで小休止します。寒風吹き晒す中での食事は辛いかと思いゼリーを大量に持ってきていましたが、寒いどころか先ほどから汗だくです。
エネルギーを補充したところで、後半戦へ行ってみよう。見たところ、この先も何度か登ったり下りたりを繰り返すようです。
頂上に近づくにつれて、徐々に両側が切れ落ちて来ました。風が強い状況であれは注意を要する場所です。本日はほぼ無風状態という恵まれすぎたコンデションであるため、特に恐さを感じるような場面はありませんでした。
雪庇の先に唐松岳の山頂部が立ちはだかります。後立山連峰の山々の例にもれず、信州側の斜面だけが鋭く切れ落ちています。
危なっかしい感じのするトラバースが一ヵ所だけ存在します。誰かが滑落したような痕跡がモロに残っておりますな。ここを登りきると、一挙に前方の視界が開けます。
突如目の前に広がるは立山連峰の山並みです。この光景には一挙にテンションが上がりまくりです。
隣にはどっしり構えた五竜岳。ここまで来ると、鹿島槍は五竜岳の裏に隠れてしまって見えなくなります。
唐松岳の山頂はもう目の前です。ラストスパートをかけて行きましょう。ここから山頂までの標準コースタイムは20分です。
ちなみに唐松岳頂上山荘はこの分岐地点にあります。この季節は当然ながら冬季閉鎖されており、営業はしていません。
先ほどの絶景を前にして脳内でドーパミンが大量噴出でもしたのか、割と疲れていたはずなのに、一挙に足取りが軽くなりました。山頂に向かって駆け上がります。
11時50分 唐松岳に登頂しました。
歩き始めてから3時間ちょうどでの到着です。もっとサクッと登れるのかと思いきや、意外と遠かったです。
山頂の様子
そこそこの広さの山頂に、驚くほど多くの登山者が所狭しとひしめいていました。唐松岳の人気のほどが伺えます。
4.唐松岳山頂からの展望
山頂からは文字通り360度全方位の展望が開けます。その中でも特に目に付くのはやはりこいつ。岩と雪の殿堂こと、立山連峰の剱岳(2,999m)です。
ギザギザの岩肌にビッチリと雪が付いています。剱岳を含む黒部川流域の山々は、世界でも有数の豪雪地帯です。
同じく真っ白なこちらは立山(3,015m)です。富士山と並び称される、古くから信仰の対象となってきた霊峰であります。
すぐ隣には五竜岳。さっきからいったい何度目だよ言われてしまいそうですが、「だってカッコイイだもん!」と子供じみた返答をしておきます。
五竜岳の脇に小さく、槍ヶ岳(3,180m)と奥穂高岳(3,190m)の姿も見えました。槍ヶ岳は本当にどこから見ても目立ちますね。
反対側には不帰ノ嶮の、その先に続く白馬への山並み。良いですねえ、是非とも縦走してみたくなりましたよ。・・・当然ながら、無雪期にですよ?
背後には頸城山塊の山並み。これら豪雪地帯の山々は何れも、夏には素晴らしき高山植物の宝庫となります。
その極めて特徴的なシルエットにより、一目でそれとわかる妙高山。難解な地質学用語でいうところのコニーデ型二重式火山と言うやつです。面白いカタチですよね。
これは戸隠連峰の高妻山(2,353m)かな。古くから修験の山として知られる険しい岩峰です。
前評判通りの素晴らしい眺望でありましたした。山頂を辞去する際に胸の内に去来したこの気持ちは、名残惜しいなどというありきたりな言葉で言い表せません。
5.唐松岳登山 下山編 雪山の下りはあっという間
とは言っても、いつまでもずっとここに居るわけにも参りません。絶景を十分に目に焼き付けたところで、12時30分に下山を開始します。
アドレナリン大量噴出によるボーナスタイムはもう終了したらしく、ちょっとした登り返しにも息が上がります。
登る時にちょっと嫌に感じたトラバースを通過します。滑落の跡があった場所なのでここは慎重に。
トラバースを過ぎれば、もう後は危険を感じるような場所はありません。どこまでも穏やかなる八方尾根の光景です。
ハイマツが冬眠から目覚めんとしていました。不意に穴ぼこがあったりするので、足元をよく見て歩きましょう。
雪山の下山ほど楽なものはありません。雪がクッションとなって衝撃を軽減してくれる上に、アイゼンの刃が効いていてスリップする危険もありません。大股でズンズンと気持ちよく下って行きます。
その後も快調に飛ばして、あっという間にゲレンデトップまで戻って来ました。
14時25分 八方池山荘の前まで戻って来ました。最後の最後まで素晴らしい快晴に恵まれた山行きでありました。
白馬岳もこれで見納めです。西日に照らされたその姿は、朝に見た時とはまた違った雰囲気を醸し出していました。
下りのリフトについては、特に係員も存在せず、勝手に乗って降りろと言うおおらかなシステムです。
リフト下山最高ー!
下山が嫌いな私としては、下りで楽が出来るスキー場のある山は大好きです。
かつて長野五輪の開催地であったことをアピールするかのような建物が立っていました。もう20年も前の出来事なのですね。
さあ後は温泉に入ってシメるだけだ。などと呑気に思っていたところで、ようやく自分が日焼けを通り越して顔面に火傷を負っていると言う事実に気が付きました。
登り始めて早々にバラクラバを脱いでしまっていた上に、何の日焼け対策もしていなかったのだから、まあ当然と言えば当然の結果です。ドピーカンの照り返しで、こんがりと焼けてしまっております。
意識するなり急激にヒリヒリしだした顔面を前にして、温泉は諦めました。なにはともあれ冷やさなければ。
白馬八方バスターミナルまで戻って来ました。16時30分発の新宿行きの便を予約済みであったので、バスを待つ間、水道で顔面を冷やして過ごしました。唇まで焼けてるな。
偶然にも行きと同じ運転手のバスに乗り込み、帰宅の途につきました。
かくして最高の天候に恵まれた唐松岳登山は、大満足の内に幕を閉じました。
払った犠牲も大きかったですが。この記事を執筆している今この瞬間も、私の顔面の下半分はまるで酔っ払いのように赤黒く染まったままです。雪山へお越しの皆様におかれましては、くれぐれも、日焼け対策だけは怠りなく。
唐松岳山頂からの白銀世界のパノラマは圧巻の一言です。白く染まった剱岳や五竜岳を眺めるためだけでも、この山へ訪れるだけの価値は十分すぎるほどあります。
天候さえよければ、八方尾根のルート上に特に危険個所は存在しません。天候が荒れがちな厳冬期ではなく、雪が締まり天候の安定する残雪期であれば、雪山初心者であっても比較的安全に登ることが出来るかと思います。
<コースタイム>
八方池山荘(8:50)-石神井ケルン(9:10)-八方ケルン(9:25)-八方池(9:35)-丸山(10:40~10:50)-唐松岳頂上山荘(11:35)-唐松岳(11:50~12:30)-八方ケルン(14:00)-八方池山荘(14:25)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント
Manohiroと申します。
ブログランキングから訪問させて頂きました。
スキーで白馬周辺は行きつくしました。
50年前の話です。
写真に見入っていました。
今後も訪問させていただきます。
よろしくお願い致します。
Manohiro様
コメントを頂きましてありがとうございます。
50年前とは驚きです。その頃、私はまだ生まれてすらいません。
でもきっと八方尾根から見た北アルプスの山並みは、50年前も今も変わってはいないのでしょうね。
銀世界の北アルプスは
絶景で美しいですね。
この景色みたら悩みなど吹き飛びそうなくらい
別世界に思えます。
美しい写真ありがとうございます。
いつか登って自分の目で見たいです。
むにむに様
コメントをありがとうございます。
晴天で雪のコンデションが良い時であれば、八方尾根を登るのに特別な技術は必要ありません。アイゼンを履いた状態で、標高差1,000メートルを歩ききれる体力さえあれば登れます。
歩ける自信が付いたら、是非とも訪問してみてください。別世界の眺望が待っています。
いつも楽しく拝見させて頂いております。
GWに唐松岳を八方池山荘から登る予定でいますので
今回の記事は自身の予習も兼ねて特に楽しく拝見させて頂きました。
後一ヶ月も経てば完全に残雪期となっているのでしょうが
やはり雪を頂いた山は特別な感情を抱かせますよね。
ともあれ、私にとっては初めての山小屋、初めての本格的な雪山
初めての2000M超えの山・・初めて尽くしですが、八方尾根は
スキーで散々通った場所なのでそれだけの勢いで決めてしまいました。
お顔の火傷、お大事になさって下さいね。
macky様
コメントを頂きましてありがとうございます。
八方池山荘発なら、時間に追われずにゆっくりと眺望を楽しめそうですね。気温も今よりずっと上がってくるでしょうから、日焼けにはくれぐれもご注意ください。
私の顔面火傷は、その後2度の脱皮を経てようやく落ち着きました。