山梨県と長野県にまたがる八ヶ岳連峰の南半分を縦走して来ました。
一般的に北八ヶ岳と南八ヶ岳の境界は夏沢峠だと言われています。今回は八ヶ岳の南端にある観音平から、夏沢峠手前の最後の峰である硫黄岳までを一泊二日の行程で歩いてきました。
まずは縦走登山一日目、キレット小屋までの行程です。
2018年9月23日に旅す。
ヤツが見える!
これは、北八ヶ岳の蓼科山山頂に居合わせていた多くの登山達が口にしていた言葉です。
ヤツとは言うまでもなく、南八ヶ岳の山々の事です。なだらかで放牧的な北八ヶ岳の山々とは対照的な、鋭く切り立ったアルペン的な姿をしているのが特徴的です。
この刺々しい山並みを遠巻きに眺めた時から、あそこを繋げて歩いてみたいという欲求が沸々と沸き起こっておりました。今回、ようやくその欲求をかなえる機会が訪れたと言う訳です。
直前になって晴天の予報に変わった秋の三連休後半戦。最高の天気と眺望に恵まれた会心の山行きでありました。
コース
標高1,550メートル地点にある観音平からスタートし、編笠山と権現岳を越えて、キレット小屋で一泊します。
テント泊も考えましたが、二日目に結構険しい場所を歩くことになるので、装備の軽量化を図るべく小屋泊にしました。
1.南八ヶ岳縦走登山 アプローチ編 電車とタクシーを乗り継ぎ、南八ヶ岳の玄関口、観音平を目指す
6時10分 JR高尾駅
松本行きの鈍行列車に乗り込み、小淵沢駅を目指します。ちなみにこの電車は、7時に新宿を発つスーパーあずさ一号よりも4分だけ早く松本にたどり着きます。
8時30分 小淵沢駅に到着しました。
高尾駅を発車した直後から完全爆睡したおかげで、体調は万全です。
小淵沢駅周辺では、コスモスが満開の時期を迎えていました。小淵沢駅自体が標高886メートルの高所にあるため、東京よりも秋の訪れは早めです。
登山口のある観音平まで行ってくれる路線バスは存在しません。小淵沢駅からタクシーを利用することになります。
よって、小淵沢駅に着いたらまず初めに行うべきことは、登山用ザックを背負った人に片っ端から声かけて、相乗りを持ちかけることです。
「観音平ですか?」「はい観音平です」
たったの二言で会話が成立する不思議な世界。
8時50分 観音平登山口に到着しました。
ここまでのタクシー料金は3,450円でした。4人そろった割り勘パワーのおかげで、一人当たり1,000円以下に抑えることが出来ました。
2.八ヶ岳の前衛峰、編笠山を目指す
身支度と腹ごしらえを済ませて、9時10分に登山を開始します。まずは、好展望地として名高い八ヶ岳の前衛峰の編笠山を目指します。
登り始めは笹の茂った緩やかな斜面です。先は長いのでゆっくり行きましょう。
ちなみに、キレット小屋のキャンプ指定地は割と狭く、テント泊の場合は場所取り合戦で先を急ぐ必要があります。ゆっくり出来るのは小屋泊の特権です。カネの力と言うのは偉大ですなあ。
9月下旬の観音平付近の紅葉は、まだ色づき始めと言った所です。見ごろを迎えるのは10月以降になってからでしょうか。
9時50分 編笠山最初のチェックポイントである雲海展望台に到着しました。ここまではウォーミングアップのようなものです。
雲海は見えませんが、かわりに頭上に覆いかぶさりつつある雲の姿が見えました。あれれ、今日は終日晴天の予報だったはずなんですけれど。
カネの力で余裕をこいていたことに対する、山の神からの叱責でしょうか。展望を台無しにされたくなければ、もっと気張って登れと言う。
雲海展望台を過ぎると、登山道の雰囲気が少し変わります。まるで川底のような角の丸い石の散乱する、しっとりと湿った空間です。
10時30分 編笠山第二のチェックポイントである押手川に到着しました。
編笠山の山頂へ向かうルートと、青年小屋へ向かう巻き道の分岐地点です。ちなみにカメラは傾いていません。看板が傾いているのです。
その名が示す通り、季節によっては僅かな水流のある場所であるようですが、今はこの通り完全に涸れています。
やまなしの森林100選を発見。山梨県内の山を歩いているとチラホラと見かける謎の看板です。
押手川を過ぎると、いよいよ山頂に向かって急登が始まります。何気に結構キツイ登りです。
一面のコケが素晴らしい。ここだけはまるで北八ヶ岳のような雰囲気です。コケ好きの人にとって、八ヶ岳は奥秩父と並ぶ理想郷です。
背後を見ると、南アルプスの山々が雲海から頭を突き出していました。なんとか雲を振り切れたようで。
南アルプスの隣に頭を突き出しているのは、もしかしなくても世界遺産のアイツではありませんか。雪の全くない完全なる夏富士です。
あまりうかうかしていると、われらが編笠山とて、いつガスに食われるともしれません。少しばかりペースを上げて行きます。
11時40分 編笠山に登頂しました。
いやはや、割としんどい登りでした。前衛峰だと思って、正直少し侮っていました。
山頂の様子。
丸みを帯びた岩が数多く散乱した、そこそこ広い空間です。森林限界を超えているため、周囲には360度の展望が広がります。
正面には、これから目指す南八ヶ岳の中心部が一望できます。最高のお天気ではありませんか。この眺望には思わずテンションが上がりまくりです。
中心に鎮座するのは、八ヶ岳連峰の最高峰である赤岳(2,899m)です。その名が示す通りの赤々しい岩肌を晒しています。
こちらは赤岳のお隣さんの阿弥陀岳(2,805m)です。縦走路からはすこし外れた場所にあるため、残念ながら今回の行程ではこの山のピークは踏みません。
こちらはこの後に登る権現岳(2,715m)です。右奥が権現岳で、左手前のピークはギボシと呼ばれています。
ここから見ると、ギボシの山頂直下はかなり急峻であるように見えます。果たして登山道はあのピークを、一体どのようにして乗り越えて行くのでしょうか。
北八ヶ岳の蓼科山(2,530m)は、雲隠れしている最中でした。
こちらは西側の長野方面の展望です編笠山からは、南北中央すべてのアルプスを見渡すことが出来ます。
こちらは北アルプス。穂高から大キレットをへて槍ヶ岳へと続く稜線が良く見えます。
どこから見ても目立つこの大柄な山は乗鞍岳(3,026m)です。バスを使えば、おそらくは一番簡単に登れる3,000メートル峰です。
乗鞍と同じくらい目立つこちらの山は御嶽山(3,067m)です。
2014年の噴火以来続いていた山頂の立ち入り規制は、2018年9月26日をもって解除されることが決まりました。という事で、この山も新たに「いつか登りたい山リスト」に登録決定です。
こちらは中央アルプスの山々。顕著なピークが無いので山座同定が難しい。
南方には南アルプスと富士山の姿が一望できます。山梨方面は背の高い一部の山を除き雲海の下です。下界の天気は曇りであるようですな。
編笠山は実に晴らしい眺望の山でした。この山だけを目当てに登っても、十分に満足できること間違い無しです。
3.縦走路2番目ピーク、権現岳を目指す
12時20分 ゆったりと休憩して、だいぶ疲れも取れました。ボチボチ行動を再開します。
山頂付近の植生はハイマツやコメツガなどの針葉樹が主で、紅葉はあまり見られません。紅葉が目当てであれば、本命はもっと標高の低い一帯です。
編笠山と権現岳の鞍部に立つ青年小屋の屋根が見えてきました。いったんあそこまで下ります。
小屋付近は、蓼科山を思い出すような大岩が散乱する一帯となっていました。これがまた非常に歩きにくい。身軽でバランス感覚の良い人ならばなんてことは何のでしょうけれど。
大岩地帯に四苦八苦しつつ、なんとか下まで下って来ました。この直後に、また登り返さねばならないとならないんですけれどね。
鞍部に立つのは、遠い飲み屋の赤提灯で有名な青年小屋です。町から遠いと言う意味だそうです。飲み屋を称しているだけの事あって、酒類のメニューが実に豊富です。
この鞍部には水場も存在しますが、小屋からは少し離れた場所にあります。4~5分と書かれていますが、よほど身軽で足の速い人でない限りもう少しかかります。
こちらがその水場、その名も乙女の水です。どのあたりが乙女なのかはわかりませんが、冷たくておいしい水でした。
テント場から見上げる編笠山。編笠に見えるかどうかはさておき、山らしい形をした山ですね。
すぐにでも雲に飲み込まれそうに思えていた富士山ですが、正午過ぎの時間になってもまだ頑張っていました。今日は最後まで天気が持ってくれるのかな。
登り始めてすぐに、再び森林限界を突破します。八ヶ岳における森林限界は、おおむね標高2,500メートル付近にあります。
小石の散乱するガレた急斜面を登って行きます。登る分には何という事はありませんが、下りだと神経を使いそうな道です。
北側斜面は断崖絶壁になっています。ここから落ちたら、それは滑落ではなく墜落です。
鎖場なども出現します。危険個所皆無で安心安全だった編笠山と比べると、権現岳はそこそこ険しい山だと言えるでしょう。
ついにギボシが目の前に姿を現しました。なるほど、直登はせずに右から巻いて行くのですね。
という事で恐怖のトラバース路に突入します。鎖もあるので特段危険という事はありませんが、雨で濡れているときに通りたくはありませんな。
トラバースが終わると今度は直登です。手がかりは豊富にあり、鎖が無くても登れます。それでも、ストックはしまった方が良いんじゃないかな。
ようやく権現岳の山頂を目の前に捕らえました。直下に見えているのは権現小屋です。
前方に再び南八ヶ岳の中心部が姿が現しました。少しガスッてきましたね。
圧倒的存在感で屹立する赤岳。単に最高峰であると言うだけでなく、その見た目の迫力においてもまた、八ヶ岳の盟主たるに十分な貫禄の持ち主です。つまり、とってもかっこいい。
そしてここで、有名な権現岳直下の鉄ハシゴの姿が見えてしまいました。高さは20メートルあります。
山頂直下に立つ権現小屋。ちなみに、カメラは傾いていません。小屋が傾いているのです。この小屋は、つっかえ棒でかろうじて倒壊を免れていると言う噂です。
ギボシの頂上にいる人の姿が見えます。なんだ、登れたのですね。登山道が山頂を通っていなかったのでスルーしてしまいましたよ。
山頂ほっそい。あの岩の先端が頂上と言う事で良いのでしょうか。
本当の山頂はどう見てもあそこなんですよね。見るからに恐ろしげな場所ですが、しょうがない登るか。
14時20分 権現岳に登頂しました。
編笠山を出てからおそよ2時間での到着となりました。ここまで、なかなかスリリングで楽しい道でしたよ。
大分雲が上がってきたことにより展望は失われつつありましたが、富士山がかろうじてまだ頑張っていました。
そして権現岳から見た編笠山。こちらも、もう間もなく雲に没しそうな感じですね。
4.権現岳から、今宵のお宿キレット小屋を目指す
ここまでゆっくりしすぎて、結構良いお時間になって来ました。日没の手が迫ってくるまでに、今宵の宿を目指すことにしましょう。
いつの間にやら、赤岳もガスに包まれつつありました。これから、権現岳と赤岳の間の鞍部にあるキレット小屋を目指します。
キレットに向かって、まずは先ほど見えていたあの20メートルのハシゴを下る必要があります。ハシゴばかりがクローズアップされがちですが、ハシゴに至る道の時点ですでに怖いという事実を申し送りしておきます。
ハシゴの真上までやって来ました。もっと垂直に近いものをイメージしていましたが、角度は思ったよりも緩いです。たとえ踏み外しても、即墜落とはならい程度の傾斜度です。
下りきったところで見上げるとこんな感じです。流石に、下っている最中にカメラを構える余裕はありませなんだ。
垂直ではなくナナメであるため、下っている最中はずっと腕立て伏せのポーズを取っているようなものです。長さも相成って腕が疲れました。
ハシゴを下りきると、真の前にコブのような突起が現れます。旭岳と言う名の小ピークです。鞍部に向かってただ下るだけなのかと思いきや、キレット部には結構なアップダウンがあったりします。
権現岳までの道であれば間違いなく鎖が垂らされていたであろう岩場にも、何もありません。キレットに入るなり、難易度ランクが一段階上がった感じです。
痩せた岩尾根を進んでいきます。キレットと言うのは実は日本語で、漢字で書くと切戸です。その意味することろは、両側が切れ落ちた痩せた稜線のことです。
西からの風が吹きこみ、ちょどキレットを境に雲が発生しています。これはこれで幻想的な光景です。
思った以上に大きく高度を落としていきます。それはつまるところ、明日の赤岳への登り返しがどんどん大きくなっていることを意味しているわけですがね。
キレット付近では、紅葉が良い漢字に見ごろを迎えつつありました。赤よりも黄色が目立ちます。
その後も小刻みに、登ったり下りたりを繰り返します。緊張を強いられる痩せ尾根は過ぎたものの、キレット部は思った以上に長い。
徐々に近づいてくる赤岳。いやはやホントに迫力満点ですです。我こそが八ヶ岳なりとでも言わんばかりです。
明日登る事になる道筋らしきものが徐々に見えてきました。こうして見ると、結構すごいところを登るんですね。。。
下っても下っても一向に姿を現さないキレット小屋に、徐々に不安がよぎりはじめます。もしかして通り過ぎちゃったとか?このまま赤岳への登りが始まったらどうしよう。
心が折れかかっていたところで、ようやくキレット小屋が姿を見せました。この小屋は樹林に隠されているため、目の前に来るまで姿は一切見えません。
16時 なんとか無事にキレット小屋にたどり着きました。
初日の行動はここで終了です。宿泊の受付を済ませます。料金は2食付きで7,800円です。
キレット小屋は基本的に完全予約制の山小屋で、定員は決まっており詰込みは行いません。今夜のお部屋はこちら。このスペースで二人部屋でした。
谷間にある小屋のため、あまり展望はありませんが、ちょうど真正面に富士山が見える位置です。
小屋から少し下がった斜面にキャンプ指定地があります。あまり広くはありません。人気のあるテント場で、夏山シーズン中だと、あっという間に埋まってしまうのだとか。
テント場からさらに下がったところに水場もあります。小屋へのポンプアップは行われておらず、水が必要であればここまで下りて汲む必要があります。
夏場には涸れることもあるという事でしたが、この通り滾々と湧き出ていました。わりと不純物の多い水だったので、気になる人は煮沸するなり浄水器を使うなりしましょう。
お楽しみの晩御飯は、キレット小屋自慢の釜で炊いたと言いうご飯とカレーです。
甘口のシーフードカレーでした。山でシーフードと言うのも、なにやら妙な感じがします。海のものとも山のものものとも知れぬハーモニーと言うやつでしょうか。
一日目の行程はこれで終了です。この日は満月だったので、恒例の星空撮影会は行わずに、早々と就寝しました。
南八ヶ岳縦走の一日目は、最高の天気に恵まれて文句なしの滑り出しでした。
八ヶ岳の前衛峰とでもいうべき編笠山と権現岳からの眺望は圧巻モノで、南北中央のアルプスから八ヶ岳の中心部に至るまで、文句のつけようのない山岳展望を楽しむことが出来ます。今回は縦走路の初っ端と言う位置づけでしたが、これらの山のみを目当てに登っても、きっと満足出来るではないかと思います。
そして次回はいよいよ、赤岳を始めとする南八ヶ岳の中でも最も標高が高く、最もおいしい一帯へと足を踏み入れて行きます。
<コースタイム>
観音平(9:10)-雲海(9:50)-押手川(10:30)-編笠山(11:40~12:20)-青年小屋(12:40~13:00)-権現小屋(14:05)-権現岳(14:20)-キレット小屋(16:00)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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