北アルプスの奥穂高岳(おくほだかだけ)に登りました。
標高3,190メートルを誇る日本第三位の高峰です。切り立った鋭い岩からなる堂々たる山容を持ち、槍ヶ岳と並ぶ北アルプスを代表する山です。
奥穂高岳への登路としては、上高地からは涸沢を経由するルートが最も一般的ですが、今回は山頂までの最短距離を直登する重太郎新道を歩いて来ました。
前評判に違わず、絶壁のような坂道を駆け上がる、非常にハードな山行きとなりました。
2017年9月3日に旅す。
重太郎新道
それは上高地から奥穂高岳まで、標高差およそ1,700メートルを一気に駆け上がる直登ルートです。
地図の等高線間隔を見てみると良くわかりますが、かなりの急登です。破線扱いではない一般登山道ではありますが、ヘルメットの着用が推奨されている急峻な岩稜の道が続きます。
登りだけで標準コースタイム8時間オーバーと言う、かなりハードな行程であります。
涸沢からのルートは過去に登ったことがあるので、「せっかくだから違うルートで登ってみたいなー」という、非常に安直な理由でこのルートをチョイスしました。
しかしながら、重太郎新道はそんな安易な気持ちで挑戦していいような簡単な道ではなかったのです。。。
コース
上高地から岳沢小屋を経由し前穂高岳に登頂。そこから吊尾根を通って奥穂高岳に登頂。その後、穂高岳山荘へ下り一泊します。
1.奥穂高岳登山 アプローチ編 夜行バスで北アルプスの玄関口上高地へ
9月2日(土)22時 バスタ新宿
毎度お馴染み、さわやか信州号の夜行便に乗るべくやって参りました。
3列シートのグリーンカーはアルピコ交通、4列シートのスタンダードカーは京王バスの運行です。私は当然、京王です。京王線ユーザーですから!
嘘です。単にグリーンカーの予約が取れなかっただけです。
9月3日(日) 5時20分
予定時刻とおりに上高地バスターミナルに到着です。4列シートでも問題無く熟睡できました。グリーンカーにこだわる必要は無いのかも。
朝食を取ったり登山届けを書いたりと、準備に30分ほどを費やし、5時50分に登山開始である。まずは河童橋に向かって歩きます。
山の日に建てられたという記念碑。おにぎりにしか見えないのは、きっと私の目が曇っているからなのでしょう。
上高地のシンボル河童橋へやって来ました。岳沢登山口はこの橋を渡った先にあります。
上高地には何度も訪れたことがあるのに、この橋を渡るのは自身初です。いつも横尾方面を目指していたのでね。
河童橋から望む焼岳(2,455m)。中腹に雲を纏い、頭だけが見えていました。
かつて、この山の噴火によって梓川が堰き止められ、それにより生まれたのが大正池です。今なお活発に噴煙を上げる、現役の活火山でもあります。
北側にはこれから登る穂高連峰の山々が絶壁のように連なります。今日中にあのてっぺんまで行くのだと言われても、イマイチ現実感が沸きません。
名前をつらつら書き連ねるのも面倒なので、山座同定についてはこちらをご覧下さい。
案内板によると、奥穂高岳の山頂はココです。奥と名前がついているだけあって、上高地からでは見え難い場所にありますな。
2.フィジカル・モンスター達が集う岳沢登山口
岳沢登山口まで、木道の散策路を歩いていきます。この辺はまだ、登山ではなく観光地に属するエリアです。
この水辺の美しさこそが上高地クォリティです。初めて訪れる人は、水の透明度の高さに圧倒されることでしょう。
6時30分 岳沢登山口に到着です。ここより山道が始まります。最初のチェックポイントである岳沢小屋までは、およそ2時間の行程です。
始めは鬱蒼とした樹林帯の中を登って行きます。日の光は一切差し込まず、肌寒いくらいの陽気です。
コケと言うのは、何故こんなにも見る者の心を癒すのでしょうか。
緩すぎずキツ過ぎない、程よい傾斜の道が続きます。いい感じに体が温まってきました。
重太郎新道に戦いを挑もうなどという人たちは、皆体力に自身ありと見えて、すごいハイペースでどんどん登っていきます。
私自身、べつにチンタラ歩いているつもりは全く無いのですけれど、どんどん追い抜かされます。
視界が開けました。目の前にある涸れた沢が岳沢(だけさわ)です。
目の前に絶壁のような岩峰がそびえ立ちます。「え、本当にあそこまで登るの?」と言う気分にさせられます。
登山道は、岳沢から少し離れた森の中を登って行きます。雪のある時なら、岳沢の上を直接歩けるようですね。
花のシーズンはもう終わりかと思いきや、まだ結構残っていました。
小屋の手前で岳沢を横断します。沢の上部は夏でも溶けな万年雪となっています。
8時10分 岳沢小屋に到着しました。本日のルートの最初のチェックポイントと言った所です。
定員60名ほどの小さな山小屋です。完全予約制で、当日にフラッと行っても泊めてはもらえません。重太郎新道を一日で歩ききる自信の無い人は、ここで一泊して翌朝早くから登り始めるのが良いでしょう。
と言うか、自信があろうが無かろうが泊まった方が良いです。一日で上高地から奥穂高岳山頂まで行くのは、ある種の苦行ですから。。
少し引いた位置から、小屋の前の様子を一枚。テラスがあって、とても良い雰囲気です。
テラスからはこの通り、上高地が一望できます。・・・なんかヤな感じの雲が沸いてきているなあ。
前穂の山頂までは2.5kmです。たったの2.5kmで所要時間が3~4時間となっている辺りに、重太郎新道の恐ろしさの片鱗が見えてきます。
3.重太郎新道を登り、前穂高岳山頂へ
行動再開です。まずは岳沢に沿って登っていきます。しょぱなから結構な急登りです。まあ、後半はもっと凄いことになりますが・・・
登山道の両脇に岳沢小屋のテントサイトがあります。石だらけな上に微妙に傾斜があって、あまり快適そうではありません。
テント場を抜けるたところで、北岳の草スベリを思い出すような草原の急斜面が現れました。
毒草の代名詞トリカブト。私はいつもアヤメと見間違えます。
こうして見ると、あまり似ていませんねえ。なんで間違えるんだろう・・・
こちらはハクサンフウロ。各地の山で割りと良く見かける、定番の高山植物です。
これはミヤマアキノキリンソウかな?黄色い花は全般的に識別が難しい。
しゃがんで花を撮影する度に、後続のハイカーに追い抜かされていきます。やはり北アルプスという場所は、全般的に体力レベルの高い人が多いのでしょうか。
目の前に立ちはだかる断崖絶壁。本当に登れるんですかね、これに。
あまりに急登なので、つい先ほどまで居た岳沢小屋があっという間に小さく見えるようになりました。
草スベリ(?)を登りきると、いよいよ岩場が始まります。この先は、最後までずっと岩場です。
狭くなっていて隙間にはまりそうになる場所も。テントを担いでいると、苦戦しそうなポイントです。
重太郎新道を象徴する鉄のハシゴまで登ってきました。このハシゴは言うなれば門です。自信が無いならここで引き返せと言う無言の警告を発しています。
大分ひしゃげてますけど、本当に大丈夫なんですかコレ。造り自体はかなりガッチリとしていそうではありますが。
登り切ってから見下ろすとこんな感じです。結構な高度感があります。
気温の上昇と共に、雲が上がってきました。雲海から頭を突き出しているのは乗鞍岳(3,026m)です。
そうこうしている内に、私の居る位置にまでガスが舞い上がってきてしまいました。
完全に真っ白とまでは行きませんが、これで遠望は利かなくなりました。
再び鉄のハシゴが出現。このハシゴは細い針金で固定されているだけで、登っている矢先からガタガタと揺れました。
視界の開けた場所に出ました。カモシカの立場と呼ばれる場所です。ここは本来、岳沢や上高地を一望できるスポットです。
両側が切れ落ちた痩せた岩尾根を進みます。ガスっていなければ、おそらくは高度感がすごい場所なんでしょうね。幸か不幸か、今は全く恐怖を感じません。
手もフルに使わないと登れません。岩場が好きな人にはたまらない道だと思います。
突如ガスから抜けて、再び頭上に青空が戻りました。これは大逆転なるのか。
下を見ると相変わらず真っ白です。どうやら雲の高さを突き抜けたようです。このまま何とか振り切れるように、ペースを上げていきましょう。
頭上高くにそびえる前穂高岳。まだまだ先は長い。それにしてもすごい急勾配だ・・・
重太郎新道を象徴する光景の一つであろうこのハシゴは、登りの場合には降りることになります。・・・自分で言っていて若干混乱してきましたが、そう言うことです。
上高地が真下に見えます。重太郎新道が、本当にまっすぐ一直線に登っていることが良くわかる光景ではないでしょうか。
10時50分 雷鳥平に到着しました。平とか言っている割には、平坦地は全くありません。坂の途中です。その名の通り、ライチョウが生息しているのでしょうか。
奥穂の山頂はしつこい雲に付きまとわれて、依然見えないままです。
こちらは奥穂の反対側にある明神岳(2,931m)です。上高地から横尾に向かって歩いている時に、左手にずっと見えている岩山です。
めちゃめちゃカッコイイ山ですが、残念ながら一般登山道が存在しない山です。登るにはクライミングの技術が必要です。
このクサリ場が重太郎新道の核心部といわれている場所です。つま先を掛けられる窪みがいくつもついているので、特段難しくはありません。
もっとも、雨が降って濡れていたらそう簡単にはいかないでしょうけれど。
11時15分 紀美子平に到着しました。重太郎新道の開設者である今田重太郎氏が、作業中に娘の紀美子をここで遊ばせていたと言うのが名前の由来です。
なんて所で遊ばせるんだよ重太郎。
この近辺では唯一の、ザックを落として休憩できるだけのスペースがある場所です。多くの人が休憩していました。
ここにザックをデポし、サブザックに水と貴重品だけを放り込んで、前穂高岳をサクッと往復します。
まあ実際の所、前穂高岳はサクッと往復できるほど甘くはありません。ここまでの疲労の蓄積もあって、大分足取りが重くなって来ました。
取れそうで取れない奥穂のガス。今日の奥穂高岳は、極度の恥ずかしがり屋さんです。
11時50分 前穂高岳に登頂しました。何気に今年初の3,000メートルオーバーです。
奥穂をバックに記念撮影。と言いたいところですが、恥ずかしがり屋の奥穂は、面に出てくる気が無いようです。
眼科に広がる雲海。前穂の山頂だけが雲の上に突き抜けている状態です。
一瞬でもいいから奥穂のガスが晴れないものかと、山頂でしばし粘ります。ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、前穂の山頂からみた奥穂というのは、物凄くカッコイイんです。
しかし、待てど暮らせど目の前に現れるのは新手のガスばかりで、結局1時間近く粘ってもガスは晴れませんでした。
なので、残念ながら自分で撮った写真で、そのカッコイイ姿をお伝えする事はできません。興味のある方は、ヤマケイに非常に良い感じの写真が出ているので、そちらご覧下さい。
4.奥穂高岳登山 登頂編 吊り尾根を伝い標高日本第三位の頂へ
諦めて紀美子平に引き上げます。前穂の下りはちょっとした恐怖でした。傾斜が急すぎです。
岩場の登りが長く続いたせいか、膝にダメージが溜まって来て、踏ん張りが効かなくなっていました。何時も以上にゆっくりと慎重に下って行きます。
紀美子平に戻ったところで、吊尾根と呼ばれている前穂・奥穂間をつなぐ尾根を通って奥穂高岳を目指します。
吊尾根の登山道は、尾根の上ではなく南側の山腹に沿って付けられています。このように、片側が切れ落ちた断崖絶壁の上を歩きます。難しくはありませんが、結構スリリングです。
足を踏み外しらたタダでは済まないので、ここは慎重に参りましょう。
まったくコルの奴は最低だな!・・・・ところで、コルって誰ですか?
※コルとは尾根上のピークとピークの間の標高が低くなった場所のことです。鞍部、乗越、タワなどと同じ意味です。
ガスっては晴れガスっては晴れと、目まぐるしく景色が移り変わります。
この辺で高山病の予兆と思われるかすかな頭痛を感じたので、ロキソニンを投入しました。
前穂高岳がほぼ完璧な姿を見せてくれました。これは奇跡の一瞬をうまく切り取っただけで、数秒後にはガスに飲まれました。
ええ、まあ本当に一瞬だけでしたがね。今日のガスは本当にしつこいですね。
尾根の上に出たところで、登ってきたのとは反対側の涸沢カールが一望できました。紅葉の名所として知られる涸沢ですが、9月上旬ではまだ青々としています。
こちらは上高地側の展望。写真では分り難いですが、河童橋や遠く大正池までもが一望できました。上高地と涸沢の両方が同時に見える場所は、この吊尾根の一帯にしかありません。
山頂が近づくにつれて、道は再び険しさを増していきます。ペンキマークを目印に、手を使って岩をよじ登って行きます。
上部に行くほど斜度が増してきます。一番上はクサリ場になっていました。
山頂直下最後のクサリ場です。長かった登りも、ようやくフィナーレの瞬間が近づいてまいりましたよ。
真ん中の突き出した岩が邪魔で、何気に苦戦しました。ここは腕力に物言わせて強引に突破しました。
山頂直下最後の登りです。この高さまで来ると、空気の薄さがはっきりと体感できます。息を切らせながら必死に歩きます。
西穂高岳方向の稜線上に、通称ジャンダルムと呼ばれるピークが見えました。山頂に二人の人影が見えます。
奥穂から西穂にいたる稜線は、一流の登山者しか足を踏み入れることが許されない、北アルプス屈指の険路が続きます。
私みたいな気楽な週末登山家など、始めからお呼びでない場所です。
山頂に辿り着きました。山の神様は、遠望が利かない代わりに、飛び切りの青空を用意してくれていました。
15時10分 奥穂高岳に登頂しました。上高地を出発してから実に9時間20分後の登頂です。重太郎新道はキツかった。
ちなみにこの山頂のケルンは高さが3メートルあり、ケルンを含めると標高日本第二位の北岳(3,192m)と同じ高さになります。
このケルンを作ったのも今田重太郎氏で、「北岳がナンボのもんじゃい」と対抗意識をむき出しにして積みあげたのだとか。重太郎さんマジ大人気無えっす!
少し離れた場所から山頂の様子を一枚。社のあるケルンが山頂部です。右の高くなっている場所には方位版が置かれています。
ガスが晴れて、ジャンダルムの完全な姿が見えました。カッコ良すぎるので、今後はジャン様とお呼びすることとする。
5.山頂を辞去し、宿泊地の穂高岳山荘へ
登頂を果たしたところで、今宵の宿の穂高岳山荘へ下っていきます。
正面に見えているのは涸沢岳(3,110m)です。穂高連峰の一員でありながら、~穂高と言う名前ではない異端児です。
そして、実は穂高岳山荘の目の前の斜面が、この日歩いたルートの中で最も難しい場所だったりします。
16時5分 穂高岳山荘に到着しました。最後尾ではなかったものの、かなり遅い到着です。分かり切っていた事ではありますが、やはり一泊を挟まずに一日でここまで登ってくるのはなかなハードでした。
農鳥門限を1時間5分も過ぎての到着なので、山荘のスタッフに「山を舐めるな」と怒られんじゃないかとドキドキしながら受付をしまいした。
実際には、怒られるどころか温かい言葉で労われました。
穂高岳山荘は最高です。
イワカガミと言う部屋に案内されました。受付時に布団は二人で一枚かもと言われていましたが、最終的には一人一枚に納まりました。
到着が遅かったので、食事は一番最後の18時15分からです。特にすることも無いので、小屋の前をプラプラします。
穂高岳山荘前から睥睨する涸沢カール。稜線の山小屋とだけあって、眺望は最高です。
一日目はこれで終了です。明日に備えて、この日は20時前に早々と眠りにつきました。
長くなったので、ここで一旦切ります。
重太郎新は実にキツかった。
前穂を往復した辺りから完全にバテてしまい、一向にペースの上がらない苦しい山行きでした。とりあえず、テント担いで行かなくて正解でした。
日帰り登山で8時間以上歩くことは割りとザラにありますが、登りっぱなしの8時間オーバーと言うのはなかなか無いのではないでしょうか。登りで膝が笑うのは、自身初めての経験でした。
前穂の山頂で空費した1時間を差し引いても、15時までに山小屋に辿り着くのは結構ギリギリです。このルートを歩くなら、岳沢小屋に1泊を挟んだ方が無理のない行程になろうかと思います。
岩場の急登とは言え、技術的に特段難しい箇所はありません。このルートを歩こうと考えている人は、ひたすら体力勝負であると言うことを念頭において計画してみてください。
<コースタイム>
上高地BT(5:50)-岳沢登山口(6:30)-岳沢小屋(8:10~8:30)-雷鳥平(10:50)-紀美子平(11:15)-前穂高岳(11:50~12:50)-紀美子平(13:15)-奥穂高岳(15:10~15:30)-穂高岳山荘(16:05)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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