福島県の桧枝岐村にある会津駒ケ岳(あいづこまがたけ)に登りました。
かつて秘境と呼ばれた山間の集落、桧枝岐(ひのえまた)の脇に立つ、非常に山深い場所にある山です。広くなだらかな草原状の山頂部を持ち、雪解けのシーズンには広大な高層湿原帯が出現します。
最高の天気のもと、稜線と湿原を愛でる山行きをして来ました。
2017年8月27日に旅す。
今回の行き先は、平家の落人伝説で知られる秘境の村、桧枝岐に立つ会津駒ケ岳です。
桧枝岐村の周囲一帯は国内でも有数の豪雪地帯にあたり、夏になると山頂部にはその豊富な雪解け水により高層湿原帯が広がります。
駒ケ岳の名を冠した山は日本に多数存在します。
駒とは子馬のことを指します。駒ケ岳の名をもつ山の多くは、雪解けシーズンになると、斜面に馬形の雪渓が現れることが名前の由来となっています。
総じて、駒ケ岳と言うのは豪雪地帯の山に多い名称だと言うことです。
会津駒ケ岳の山頂部に広がると言う湿原帯は、はたしてどんな光景を見せてくれるのか。ワクワクしながらの旅立ちです。
コース
滝沢橋登山口から会津駒ケ岳に登頂。駒ケ岳山頂から、高層湿原帯の広がるお隣の中門岳を往復します。下山は来た道をそのまま引き返します。標準コースタイム7時間半ほどの、そこそこ歩き応えのあるルートです。
1.会津駒ケ岳登山 アプローチ編 秘境の村へのながーい旅路
8月26日(土)
中年二人を乗せた車は、東北自動車道を快調に北上します。
目指す会津駒ケ岳の登山口がある桧枝岐村は、物凄い山の中にあります。なにせ秘境と呼ばれるくらいですから。
公共交通機関によるアクセスが非常に悪い場所なので、今日は友人のST君に車を出してもらいました。桧枝岐村にあるオートキャンプ場で前泊し、翌朝早くから登山を開始しようと言う算段です。
高速道路を降りてからがまた長い。曲がりくねった山道を延々と走り、峠を幾つも越えて行く必要あります。
沼田街道は、伊南川沿いの谷底を上流に向かって奥へ奥へと伸びて行きます。
大掛かりなスノーシェッドが次から次へと現れます。
日本有数の特別豪雪地帯である桧枝岐に、冬でも安全に通行できる道を維持するためには、これだけの規模の構造物が必要なのでしょう。
出発からおよそ7時間をかけて、ようやく桧枝岐村に入りました。
渋滞につかまらなければ、だいたい5時間くらいで到達できるようです。今回の行程では東京を脱出するのに一番時間を要しました。
桧枝岐の市街地を抜けて、かわばたキャンプ場を目指します。
・・・なんか、イメージしていたのとは大分雰囲気が違います。秘境感と言えるものは全く存在せず、ごく普通の田舎町といった佇まいです。路線バスまで走っているし。
まあ、交通不便な山奥とは言えど、普通に車で往来できる場所ですからねえ。秘境感に期待して訪れた人は、肩透かしを食らうかもしれません。
16時50分 かわばたキャンプ場に到着しました。キャンプ料は一人500円です。車一台の駐車代も500円なので、しめて1,500円です。
一泊の値段としては破格の安さと言えるでしょう。テントがあるのならば、車中泊するよりは断然快適なのでオススメです。
キャンプ場の裏手は川になっており、ゴウゴウと音を立てて流れています。この水音がいい感じに周囲の喧騒をかき消して睡眠導入効果を発揮してくれます。ロケーションは最高です。
明けて翌8月27日(日) 早朝4時
真っ暗闇の中テントを撤収します。気温は12度しかありません。寒いな(月並みな感想)
一夜を過ごしたキャンプ場を引き払い、車で滝沢登山口へと移動します。
登山口から少し下がったところに、20台分ほどのキャパの駐車スペースがあります。ここで軽く朝食を取りつつ身支度を整え、5時30分に登山開始を開始します。
滝沢登山口まで舗装道路を登っていきます。路肩に溢れんばかりに車が停まっていました。結構人気なんですね、会津駒ケ岳は。
2.滝沢登山口から山頂直下の駒の小屋へ
5時45分 滝沢登山口に到着しました。階段を登ると、山道がスタートです。
登り始めからいきなり樹林帯の急登が始まります。前日までは雨だったということもあり、登山道はぬかるんでいて非常に滑りやすい状態でした。
この山の行程の中で、一番キツイのはこの登り始めの部分です。後に行くほど道は楽になっていきます。
夏山ならではの、圧倒的に濃い緑の中を登って行きます。あまり変わり映えのしない光景の中を黙々と登っていく苦行がしばし続きます。
7時ちょうどに水場のある休憩ポイントに到着です。駒の小屋までの行程の中間地点になります。
水場は斜面を少し下ったところにあります。我々は既にキャンプ場で汲んだ桧枝岐の美味しい水を十分な量携えていたので、見には行きませんでした。
水場を過ぎると、徐々に道の斜度が緩んで歩きやすい道に変わります。キツくは無くなったものの、ここから稜線に出るまでがまた結構長いです。
背後の視界が開けて来ました。秘境の山というだけあって、視界内に人工物の姿は一切入りません。
歩き始めて2時間以上が経過したところで、ようやく草原状の稜線が見えて来ました。
会津駒ケ岳の山頂部が姿を現しました。まるで小高い丘のようなこんもりとした姿をしています。
広角レンズに換えて駒ケ岳をもう一枚。実に広角映えする光景なので、この先はしばらく広角レンズをつけたままで行きます。
とても標高2,000メートルオーバーの場所とは思えないような、平坦な大地が広がっています。スケールを大きくした大菩薩嶺といった風情です。
正面の雲に覆われている山は、東北地方最高峰のタイトルをもつ尾瀬の名峰、燧ケ岳(2,356m)です。遠くからでも一目でわかる特徴的なシルエットをした双耳峰ですが、山頂部が雲に隠れてしまっていては全く判別できません。
8時5分 駒の小屋に到着しました。ずっとノンストップで登ってきたので、ここで一本立てます。
小屋の前には駒ノ大池と言う名の池があります。大池というほどの大きさには感じませんでしたが、雪解け直後であればもっと大きいのでしょう。
池があるのなら、そこでやるべきことは一つです。多少水面が揺らいではいるものの、見事な逆さ駒ケ岳を見せてくれました。
需要があるかどうかわかりませんが、とりあえず逆さ駒の小屋を撮ってみました。
3.会津駒ケ岳登山 登頂編 花咲く湿原と恐怖のスリップ木道
山頂へ向かいます。木道に湿原という、実に尾瀬っぽさ満点の光景です。
ちなみに、会津駒ケ岳は全域が尾瀬国立公園の中に含まれています。なので、ここは一応尾瀬です。まあ、普通尾瀬と言われたら、それは尾瀬ヶ原のことを差しているとは思いますが。
小屋付近の湿地帯には、数多の高山植物が花を咲かせていました。
おなじみのハクサンコザクラ。わりと多くの山で見かける定番の高山植物です。
木道の急坂を登っていきます。この木道が曲者で、浮いていたりナナメッていたりで、歩きにくいことこの上ない。
振り返ってみる駒の小屋。遠くには日光方面の山々が見えるはずなのですが、曇っていて遠望は効きません。
中門岳へ通じる巻き道との分岐まで登って来ました。ここまで来れば、山頂まではもうあと一息です。
この藪の中の木道がまた、表面が濡れたままで物凄く滑ります。登りですらズルズル滑るので、下りなら最低最悪な状態でしょう。
8時30分 会津駒ケ岳に登頂しました。駒の小屋からは、だいたい15分くらいあれば登ってこれます。
山頂の様子
あれだけ広々とした草原状の山なのに、山頂部は非常に狭く眺望もありません。
休憩するのには不向きなので、さっさと次へ向かいます。
4.広大な高層湿原帯の広がる中門岳
中門岳へ向かおうとしたところで、先ほどまでの快晴と打って変わって、稜線からガスが立ち昇って来ました。ちょうど駒ケ岳自体が盾になって、駒の小屋側へのガスの流入を防いでくれている格好です。
斜面にニッコウキスゲが咲いていました。もうとっくにピークは過ぎて、散る寸前の状態でした。
駒ケ岳から中門岳へと至る稜線上は、数多の池塘が点在する湿原帯となっております。
この道の両脇に広がる風景がこれまた大変素晴らしい。会津駒ケ岳へお越しの際は、駒ケ岳山頂までで引き返さずに、是非とも中門岳まで足を伸ばしてみて欲しいです。
ワタスゲの群落。ニッコウキスゲと同様に、ピークは過ぎて散る寸前の状態です。
こちらはキンコウカ。ちなみに毒草です。食べる人は居ないとは思いますが念のため。
こちらはミヤマリンドウ。比較対象が無いので分り難いですが、非常に小さな花です。
ここの木道は全般的に整備不良気味です。腐って折れていたり、踏むと動いたりと罠が満載です。足元が大変危険なので、湿原の美しい光景を愛でたい時には、立ち止まってから鑑賞しましょう。
偉そうな事を言っておりますが、私はこの先の下り坂で盛大にコケました。前方に広がる絶景に目が行って、足元をロクに見ていなかったのが敗因です。
まったく、ケツが割れるかと思ったぜ。
中門岳の山頂標識がありました。この場所が最高地点というわけではありません。顕著なピークの無いなだらかな山頂なので、一番広いところに標識を立てただけのようです。
登山道は、山頂標識の少し先まで続いています。いける所までは行ってみようということで、前進を継続します。
正面に見えているのは大戸沢岳(2,089m)です。登山道が存在しない藪山です。雪のある時期であれば、登ること自体は可能なようです。
ここでザックを落として弁当を広げました。
5.会津駒ケ岳登山 下山編 灼熱地獄と化した樹林帯の下山路
何時までもボーとしていたくなる、楽園のような場所です。ですが我々は、今日中には東京へ帰りつかなければならないと言う宿命を背負った存在なのです。名残惜しいけれど、下山を開始します。
ガスが晴れて駒ケ岳の姿が一望できました。緩やかな稜線が続く放牧的な山です。私は個人的に、アルペン的な鋭鋒よりもこう言う山の方が好みです。
晴れたのは、ほんの短時間の出来事です。すぐに新手のガスが立ち昇り、山頂部を覆い隠しました。
恐怖のスリップ木道を通りたくなかったので、帰りは巻き道を通って駒ケ岳山頂を巻きました。巻き道自体も安全からは程遠い道で、ST君は木道から滑り落ちて宙を舞っていました。
木道の下りは、最後の最後まで油断できません。ここはゆっくりと慎重に下りました。そうそう何べんもコケたくは無いのでね。
10時10分 駒の小屋まで戻って来ました。大した標高差こそありませんが、すべる木道のおかげで神経をすり減らす道程でありました。
完全予約制の素泊まり小屋です。寝具つきで宿泊料は3,000円と、大変リーズナブルです。立地のよさも相まって、非常に人気が高い小屋です。
ここで山の定番のお土産である山バッチを購入。お値段は600円でした。
小屋の前からみた会津駒ケ岳です。この小屋の立地は本当に最高です。
何時しか眼下には雲海が広がっていました。雲より高い駒ケ岳です。
風が出てきたのか、逆さ駒ケ岳は見えなくなっていました。この時間に登ってきた人には残念賞です。
10時20分 下山を開始します。山のこちら側は、相変わらずの快晴状態でした。
ここで嬉しいサプライズ。行きしには雲の中に隠れてしまっていた燧ケ岳が、完全な姿を見せてくれました。東北地方最高峰の肩書を持つ山だけに、非常に目を引く立派な山です。
会津駒ケ岳もこれで見納めです。さらば駒ヶ岳。素晴らしき楽園の様な光景をありがとう。
湿ってぬかるんだ急坂は、案の定とても良く滑ります。これ以上コケてたまるかと、慎重に下りました。
すっかり気温の上がった樹林帯の道は灼熱地獄と化していました。朝の涼しいうちに登っておいて正解でした。
最後の階段を下って、無事に文明社会へ帰還です。木道から宙を舞ったST君は、どうやら無事とはいかなかったようですが。。
行きしと同様に、駐車場まで舗装道路をテクテクと下っていきます。
12時30分 スタート地点の沢登山口駐車場まで戻って来ました。行動時間は7時間ちょうど、長すぎず短すぎない程よい行程でありました。
下山後にすべきことは温泉です。アルザ尾瀬の郷という温泉施設に立ち寄って、汗を流し落としました。
浴槽が露天風呂しかないと言う、一風変わった温泉です。温めでほんのりと硫黄の香りのするお湯でした。
入浴料は通常500円ですが、キャンプ場の利用者は300円で入れる割り引きチケットを購入できます。
温泉の隣にあったお食事どころで昼食をとって、長い長い帰還の途につきました。
高層湿原帯マイブームに乗ってやってきたこの会津駒ケ岳ですが、山頂から中門岳に至る稜線上には、まさに期待していた通りの光景が広がっていました。
交通不便極まる地にある山ではありますが、それだけの苦労に十分見合うだけの価値のある山だと思います。
登り始めに樹林帯の急坂という試練が待ち構えていますが、森林限界を超えてから先には、息を呑むような草原状の美しい稜線が広がっていました。是非とも、晴天の日に登って欲しい山です。
今年の夏山シーズンは、何処へ行っても灰色の空をしたハズレ天気ばかりでしたが、8月も下旬になってようやく夏山らしい青空の下で満足の行く登山が出来ました。
決して気軽に行ける山ではありませんが、非常にオススメです。
<コースタイム>
滝沢登山口駐車場(5:30)-滝沢登山口(5:45)-駒の小屋(8:05~8:15)-会津駒ケ岳(8:30)-中門岳(9:05~9:15)-駒の小屋(10:10~10:20)-滝沢登山口(12:20)-滝沢登山口駐車場(12:30)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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