霞沢岳 常念山脈の最南端に立つ穂高連峰の展望台

K1ピークから見た霞沢岳
長野県松本市にある霞沢岳(かすみざわだけ)に登りました。
上高地バスターミナルのすぐ背後にあり、常念山脈の南端に位置している山です。北アルプスの主要な縦走路からは少し外れた位置にあることから、訪れる人はあまり多くない静かなる頂です。周囲を名だたる名峰に取り囲まれた立地にあることから、山頂からの眺めは圧巻です。
頑張れば上高地からの日帰りも可能な山ですが、無理はせずに徳本峠で一泊して登って来ました。

2023年9月24~25日に旅す。

霞沢岳は焼岳と向かい合うようにして、上高地の入り口近くに立っている山です。見た目も堂々としており、山頂からの眺望に優れているにも関わらず、何故かあまり訪れる人は多くない不遇な一座です。
西穂高岳から見た霞沢岳
この霞沢岳の不人気ぶりはちょっと不思議にも思えるレベルです。上高地の周辺には、穂高連峰を筆頭とした超大物の名峰たちがひしめいているためか、それらと比較されてしまうと、どうしたって多少は見劣りしてしまうのかもしれません。

言うなれば、日光における太郎山みたいな立ち位置の山でしょうか。

霞沢岳に至る一般登山道は、徳本峠(とくごうとうげ)を経由するルートしか存在しません。梓川沿いを行く現在の国道158号ができる以前の時代は、上高地に入るには新島々からこの徳本峠を越える必要がありました。
徳本峠小屋
現在ではわざわざ徳本峠を越えて上高地入りする旅人はほとんど存在せず、主に霞沢岳に登る人が訪れるだけの静かなる場所です。令和5年で開業から100周年を迎えると言う小さな山小屋が、ひっそりと建っています。

ともするとマイナー扱いされかねないような霞沢岳ですが、山頂からの眺望は秀逸です。特に穂高連峰の眺めが大変すばらしい。人気の山の喧騒を避けて、北アルプスの大パノラマを満喫してきた2日間の記録です。
霞沢岳から見た穂高連峰と笠ヶ岳

コース
霞沢岳のコースマップ
上高地バスターミナルよりスタートして、明神館を経て徳本峠でテント泊します。翌日は徳本峠から霞沢岳を往したのち、上高地バスターミナルへ戻ります。霞沢岳登山としては最も一般的であろう行程です。

頑張れば上高地から日帰り出来ないこともありませんが、思いのほかアップダウンが多めでなかなかの長丁場となるため、素直に一泊して登った方が幸せになれる山だと思います。

1.霞沢岳登山 アプローチ編 鈍行列車でゆく上高地への遠き旅路

東京から上高地へ出かけようと思った場合、最も簡単な方法はバスタ新宿からさわやか信州号に乗車する事です。昼行便から夜行便まで、多数の上高地直通便が設定されています。

一度乗ってしまえば、後は寝ているだけでつつがなく上高地まで運んでもらえます。料金も新幹線や特急あずさを利用するよりは安価で、お財布にも優しい交通手段です。

6時11分 JR高尾駅
そんな便利な移動手段があるにもかかわらず、中央本線の鈍行列車で上高地を目指そうと言うもの好きも世の中には存在します。ええ、私のことなんですけれどね。
早朝の高尾駅のホーム
霞沢岳に日帰りで登ろうと言うのであれば、移動手段はさわやか信州号の夜行便一択となる訳なのですが、今回は徳本峠で一泊する計画なので、のんびりと気長にまいります。

9時36分 高尾駅から実に3時間20分を費やして、終点の松本駅に到着しました。「まつもとぉ~まつもとぉ~まつもとぉ~」と、独特のイントネーションの到着放送が出迎えてくれました。
松本駅のホーム
この駅放送はナレータの沢田敏子氏の声です。かつては上野駅でも使用されていたことから、通称上野おばさんと呼ばれています。上野駅ではもう使用されておらず、今では松本駅でしか聞くことができません。

松本駅の窓からはガスタンクの先に乗鞍岳の姿が見える・・・はずなのですが北アルプスの上空は濃密な雲に覆われていました。まあ本日は移動日みたいなもので、本命は明日なのだからひとまずは気にしないことにしましょう。
松本駅からの景色

松本駅の切符売り場で、上高地までの電車とバスのセット券が購入できます。中央本線の鈍行と組み合わせると、料金的には新宿からさわやか信州号に乗るよりもほんの僅かだけ安くなります。
上高地行きの切符

最初は電車です。10時10分発の上高地線に乗車します。電車で上高地を目指す人は少数派だろうと思いきや、座席がすべて埋まり立客が出るほどには混在していました。行楽シーズン真っ盛りですからね。
上高地線の松本駅ホーム

10時40分 松本駅からちょうどピッタリ30分の乗車時間で、終点の新島々駅に到着しました。
新島駅のホーム

お次はバスに乗り換えです。ちゃんと電車の乗客全員が乗り切れるだけの台数が用意されていました。上高地までは新島々からさらに1時間ほどを要します。
新島々バスターミナル

バスは梓川に沿いの国道158号線をひた走ります。上高地から非常に大きな標高差を流れ下る急流河川の梓川は、水力発電の適地であり、道沿いに揚水発電を行うための巨大ダム湖がひしめいてます。
水殿調整池
上高地が純然たるただの観光地であったのなら、現在のような高規格な国道が整備されることは恐らくなかったのではなかろうかと思います。

こうした事情はなにも上高地に限った話ではなく、我々登山者は山奥にあるダム建設のために投じられた電源開発マネーの恩恵を少なからず受けています。

釜トンネルを抜けて大正池まで登ってくると、雲が多めではあるものの頭上に青空が広がり始めました。
バスの車窓から見た大正池

12時 時刻が正午を迎えたたころで、ようやく上高地バスターミナルに到着しました。自宅を出発してから実に7時間を費やしての道程でした。いやはや、やはり上高地は遠いい。
上高地バスターミナル

2.明神館までの上高地トレッキング

身支度を整えて登山届を提出したら、行動を開始します。まずは明神館を目指して、上高地のトレッキングコースを進みます。
230925霞沢岳-014

上高地まで来たからには、まずは手始めに河童橋と穂高連峰と言う大定番の構図を押さえておく。穂高は生憎と雲隠れを決め込んでいましたが、これはこれでいかにも夏山っぽくて悪くない無い光景です。
梓川と河童橋
季節的にはもう夏山ではなくて秋山なはずなのですけれど、まだまだ厳しい残暑が続いて秋らしさは全くと言って良いほど感じられません。

河童橋の周囲は観光客で溢れていました。上高地を訪れる人の数は年々減少傾向にあると言うニュースをどこかで目にした記憶がありますが、しかしこの光景を見る限りではまだまだオーバーツーリズム状態であるようにも思えます。
河童橋

河童橋から見た焼岳は、完全に雲隠れ状態でした。まあ正午を過ぎてしまったら、だいたいいつもこんなものでしょう。
河童橋から見た、雲に覆われた焼岳

先へ進みましょう。この先にある明神館までの区間は、まだ登山道ではなく観光地の領域であると言えます。
230925霞沢岳-018

クマやらスズメバチやらが出るらしい、なにかと物騒な小梨平キャンプ場を通り抜けます。移動だけに一日を使えるのであれば、窮屈な思いをして夜行バスに乗って来るよりも、ここに前泊した方がきっと快適なんだろうな。
小梨平キャンプ場

小梨平を過ぎると、ほぼ水平歩道と言っても良い森の中の道がしばしの間続きます。もう過去に何度も歩いている道なので、道中の様子などはスパッと省略します。
230925霞沢岳-020

場面は飛んで、明神館の手前までやって来ました。今年の北アルプスは水不足が深刻であるとの情報を耳にしていましたが、確かに普段はなみなみと水を湛えていたはずの池が、干上がりかけていました。
明神館

12時55分 明神館に到着しました。ここまで道のりはまだ序盤のウォーミングアップのようなもので、観光客と登山者の割合も半々くらいなものです。
明神館から見た明神岳

徳本峠方面への分岐は、明神館からさらにもう少しだけ進んだ地点にあります。
230925霞沢岳-023

13時 徳本峠登山口に到着しました。ここからようやく観光地の領域を離れて、登山道へと入って行きます。
徳本峠登山口

3.沢沿いを緩やかに登る、徳本峠への道

分岐を過ぎて以降もしばしの間、沢沿いにほぼ水平移動の道が続きます。峠の直下まで基本的にずっと沢筋の道です。
230925霞沢岳-025

なにやら微妙に傾いている木橋を渡ります。マイナーな山でならこれくらい傾いた橋くらいはありふれた光景ですが、ここは天下の上高地です。やはりあまりメジャーとは言えないルートであるようです。
230925霞沢岳-026

徳本峠まであと2kmと書かれた標識が現れるあたりから、登山道は真面目に標高を上げ始めました。
230925霞沢岳-027

時より折り返しを挟みつつ、沢沿いに谷をひたすら登ってゆきます。急登と言えるほど勾配は無く、至って歩きやすい優等生的な登山道です。
230925霞沢岳-028

やがて本流に向かって流れ込む小さな沢にぶつかりました。そう言えば先日徳本峠小屋に予約の連絡を入れた際に、水が不足しているので自分で使う分は途中の沢で給水してきてほしいと言われていたっけか。
230925霞沢岳-029
確かベンチがある地点の沢と言っていたような気がしますが、ベンチらしきものは見当たりません。ここではなく、もっと上流の地点にも給水可能な地点があるのかな。

そう思って進もうとしたら、しっかりとベンチがありました。なるほどここの事で間違いはなさそうです。
230925霞沢岳-030

ということで、翌日の分も含めてここで合計3Lを調達しました。ズシリと重くなった荷物にため息をつきつつ先に進みます。
230925霞沢岳-031

行く先にようやく稜線がらしき場所が見えて来ましたが、ガスに覆われつつありました。徳本峠は地形的にちょうど風の通り道になっていて、もともとガスが沸き立ちやすい場所です。
230925霞沢岳-032

背後を振り返ると、明神岳の姿がありました。もう少し標高の高い地点まで登れば、明神岳の背後にある奥穂高岳までもが良く見えます。
230925霞沢岳-033

手作り感あふれる木製の梯子が現れました。ちょっと体重をかけることに躊躇を感じる華奢な造りです。私の体重は、明らかに登山者平均よりもかなり重めであると思われるので・・・
230925霞沢岳-034

沢の源頭付近に近づくにつれて、道の険しさが増して来ました。流石に谷沿いには進めなくなったと見えて、ここから対岸に移ります。
230925霞沢岳-035

ここでも僅かに水流がありました。山と高原地図上に水場のアイコンが書かれている地点は、恐らくここのことだと思われます。この様子だと、乾燥した日が続くと涸れることもありそうです。
230925霞沢岳-036

沢沿いを外れると、峠に向かって最後の登りが始まります。ここまでの道よりは少し勾配がきつめです。ラストスパートをかけてゆきましょう。
230925霞沢岳-037

徳本峠方面と霞沢岳方面の分岐まで登って来ました。霞沢岳に日帰りで登ろうと言うチャレンジャーな方は、このまま右へ進んで下さい。
230925霞沢岳-038

峠に近づくと、前方から人の話し声が聞こえて来ました。マイナーエリアとは言えども、週末ともなれば流石に宿泊者はそれなりに居るようです。
230925霞沢岳-039

14時50分 徳本峠に到着しました。今年で100周年を迎えると言う、年季の入った山小屋が出迎えてくれました。
徳本峠

早速テント泊の受付をします。料金は2,000円です。それほど広いテント場ではないため、小屋泊ではなくテント泊であっても要予約です。
徳本峠小屋
新島々から徳本峠に至る徳本峠古道ルートは、豪雨災害の影響により長らく通行止めの状態が続いています。そのため現在は、上高地側からしかアクセスすることができません。

事実上、霞沢岳に登る人のためだけの宿泊施設状態となっています。

テント場は2ヵ所に分かれています。こちらは梓川側のテント場です。晴れていれば明神岳の眺めが良いとのことですが、吹きっ晒しのためしっかりとペグを打っておかないとテントを飛ばされることがあるそうです。
徳本峠のテント場

もう一つは新島々側の森の中にあります。こちらの方が雨風の影響を受けにくいため、快適な幕営地であると思われます。
徳本峠のテント場

一番奥にまだ空きがあったので、安心安全であろう森の中の側にテント張りました。夜は雨になる予報であるため、できれば吹きっ晒しの場所は避けたいですからね。
徳本峠のテント場
予報の通り、夜中になると結構な量の雨が降り始めました。明日は登山道がぬかるんでいませんように。Zzzzz。

4.アップダウンが続く霞沢岳への道程

明けて25日 6時
朝靄が立ち込める徳本峠よりおはようございます。本当はまだ暗いうちから行動開始するつもりでいたのですが、朝方まで雨が降り止まなかったために、ゆったりとした始動となりました。
早朝の徳本峠

昨日はガスっていて全く見えなかった明神岳が、今朝は良く見えています。朝4時の時点でまだ雨が降り止んでいなかった時にはどうなる事かとやきもきしましたが、このまま晴れてくれそうです。
徳本峠のテント場から見た明神岳

先日通った分岐地点まで引き返さなくても、徳本峠から霞沢岳方面へ直接向かえる近道があります。だいぶ時間が遅くなってしまいましたが、ともかく出発しましょう。
230925霞沢岳-047

山肌には朝靄が立ち込めており、あらゆるものがしっとりと濡れていました。真夏だったら不快指数全開になりそうなものですが、気温自体が低いためか冷たく湿った空気が心地よい。
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歩き始めて10分程で、分岐地点からの道と合流しました。ここからジャンクションピークと呼ばれる地点に向かって登りが始まります。
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いきなりの急登が始まりました。峠からあっさり辿り着けるただの小ピークだろうと思い込んでいたのですが、予想に反して意外にしっかりと登らされます。
230925霞沢岳-050
徳本峠から霞沢岳までの往復の標準コースタイムは7時間ほどで、距離と標高差からするとかなり重めの数字となっています。実際に歩いてみれば良くわかりますが、このルートはアップダウンがかなり激しいです。

ようやく雲間からお日様が顔を覗かせました。右手に見えているピークは地図によれば小嵩沢山という名前です。調べてみた限りでは、道の無い藪山であるらしい。
230925霞沢岳-051

反対側の明神岳も朝日に照らされて行きます。今日は良いお天気になりそうです。
230925霞沢岳-052

胸を突くよう急登を息を切らせながら登ると、ようやく傾斜が緩んできました。
230925霞沢岳-053

6時50分 ジャンジョンピークに登頂しました。このルートにおける最初のチェックポイントと言ったところです。それにしても、まるで取って付けたかのような投げやりな名前ですな。
230925霞沢岳-054

ジャンジョンピークを過ぎると、尾根は一度大きく標高を落とします。それはすなわち、帰路には漏れなく登り返しが付いて来ると言う事です。気乗りはしませんが、道がそうなっている以上は仕方がありません。
230925霞沢岳-055

オーバーユース状態になるほど多くの人が歩くルートだとは思えないのですが、道は大きく洗堀されていて、昨夜の雨でぬかるんでいました。転ばないように慎重に進みます。
230925霞沢岳-056

行く先に霞沢岳だと思われる山の姿が何となく見えて来ました。まだまだ結構な距離がありそうです。
230925霞沢岳-057

木の隙間から少しだけ展望が開けて、乗鞍岳の姿が良く見えました。この山は大柄な上に山頂部のシルエットが割と特徴的なので、識別は容易です。
230925霞沢岳-058

乗鞍の左後方に見えているこの山は木曽御嶽山です。乗鞍と同じくらい大柄な山体を持つ独立峰なので、こちらも遠くからでも識別しやすい。
230925霞沢岳-059

鞍部の近くまで下ってくると、森に中にひっそりと小さな池塘がありました。真夏には花が咲いていたりするのかな。
230925霞沢岳-060

池塘を過ぎると、登山道は再び登りに転じました。一部に足場が崩落気味の個所もあるので慎重に参りましょう。
230925霞沢岳-061

登り一辺倒とははならず、小刻みに数回のアップダウンを繰り返します。距離の割にはやたらとコースタイムが長めなのを怪訝に思っていましたが、歩いてみて納得です。確かにこれはしんどいかもしれない。
230925霞沢岳-062

続いて大きな崩落地の脇を通り抜けます。ここを過ぎると、いよいよ霞沢岳本体への登りが始まります。
230925霞沢岳-063

頭上の開けた草付きの急斜面を登ります。ここはどうやらお花畑であったようですが、夏の花のシーズンはすでに終了しており、萎れた残骸だけが僅かに残っていました。
230925霞沢岳-064

明神岳の背後に隠れていた前穂高岳と奥穂高岳が姿を見せました。この先のk1ピークまで行けばもっと良く見えるので、喜んでいないで先へと進みましょう。
230925霞沢岳-065

ここまで歩いてきて、ようやく霞沢岳の山頂がその姿を見せました。霞沢岳は複数のピークを持つ鋸のようにギザギザした山で、左端に見えているのが最高地点です。
230925霞沢岳-066

山頂に向かうにはまず手始めに、このk1と呼ばれているピークを越える必要があります。なかなか登りがエグそうなこの絶壁感よ。
230925霞沢岳-067

この傾斜度を直登するのは流石に厳しかったと見えて、登山道は梓川側に回り込みつつ登って行きます。
230925霞沢岳-068

最後の方は四つん這いにならないと登れないような急登になりました。一泊すれば楽に登れるのかと思いきや、意外としんどいですぞこの山は。
230925霞沢岳-069

背後の視界が開けて、ここまで歩いて来た尾根が一望できました。ぱっと見では気持ちよく歩けそうな尾根根に見えるのですが、歩いてみないと判らないものですね。
230925霞沢岳-070

9時5分 K1ピークに登頂しました。ここからは大絶景の稜線歩きが始まります。大いに期待して良いですよ。
230925霞沢岳-071

5.霞沢岳登山 登頂編 名だたる名峰たちのパノラマが広がる頂へ

現時点で既に達成感でいっぱいな気分ですが、山頂まではまだもうひと道あります。正面右に見ているのはK2と呼ばれているピークで、山頂はその左奥です。
K1ピークから見た霞沢岳

背後を振り返ると、梓川を挟んだ向かいに穂高連峰の姿がありました。日本第3位の標高を持つ高峰にして、圧倒的なまでの存在感を放つ岩の大伽藍です。
K1ピークから見た穂高連峰
右から順番に前穂高岳(3,190m)、奥穂高岳(3,190m)および西穂高岳(2,909m)です。涸沢カールがあるのは穂高の裏側で、北穂高岳や槍ヶ岳の姿はここからでは見えません。

穂高連峰の左手には笠ヶ岳(2,897m)の姿がありました。立山付近から見ると見事な編笠の形をした山なのですが、こちらから見ると横に長くて笠っぽくはありません。
K1ピークから見た笠ヶ岳

穂高の右手には常念山脈の山並み。霞沢岳からは尾根伝いにつながっていますが、蝶ヶ岳よりも南の区間を歩く登山者は極めて稀です。
230925霞沢岳-074

焼岳(2,455m)もすぐ近くにあります。北アルプスにおける入門の山として非常に人気が高い山なので、今頃は大勢の登山者で賑わっていることでしょう。それに比べて、我らが霞沢岳のなんと静かな事か。
K1ピークから見た焼岳
焼岳と霞沢岳は立地的にはほぼ隣接していると言ってよい場所にある山ですが、ここまで人気に差があるのはやはり日本百名山のブランドパワーによるものか。

焼岳の背後の彼方に見えているこの山は、北陸地方きっての名峰、白山(2,702m)です。登った経験のある人が口をそろえて素晴らしかったと賞賛する、名峰の中の名峰です。
霞沢岳から見た白山

足元に上高地帝国ホテルの屋根と上高地温泉ホテルが見えています。徳本峠を経由しグルっと遠回りして登って来ましたが、場所的には上高地バスターミナルのすぐ裏手と言っていい場所です。
霞沢岳からみた上高地温泉ホテル

あまりの絶景についつい油を売り過ぎました。そろそろ山頂へ向かいましょう。K1ピークからは両側が切れ落ちた痩せ尾根となります。慎重に参りましょう
230925霞沢岳-078

梓川の反対側には、地図上に一切道が描かれていない山岳地帯が広がっています。確かに視界内には、人工物が一切見当りません。
230925霞沢岳-079

山と高原地図ではk1から霞沢岳の山頂までのコースタイムが35分と言うになっていますが、これはかなりシビアというか、実際にはもう少しかかるのではないかと思います。
霞沢岳k2ピーク

k1からかなりしっかりと登らされたところで、k2ピークに到着しました。ここでも全方位に展望が開けています。
230925霞沢岳-081

中でもとりわけ焼岳の眺めが素晴らしい。まるでひっかき傷のような浸食谷が幾重にも走っているのが印象的です。
k2ピークから見た焼岳

ようやく山頂を正面に捉えました。最後にもうひと踏ん張り、頑張って登りましょう。
230925霞沢岳-083

いかにも北アルプスらしいハイマツの稜線です。霞沢岳の登山道は9割がたが樹林帯であり、森林限界を超えた稜線は山頂一帯の僅かな区間にしかありません。k1から先の稜線は、ここまで頑張ったご褒美タイムの様なものです。
230925霞沢岳-084

山頂が見えて来ました。どうやら先行者がいるらしく、人の話し声が聞こえます。
230925霞沢岳-085

9時45分 霞沢岳に登頂しました。徳本峠を出発してから実に3時間45分を要しての到着です。なかなか登り応えのある山でした。
霞沢岳の山頂

ここまでのk1、K2ピークと同様に、山頂からはほぼ全方位の展望が開けています。穂高連峰の眺めに関しては、山頂からよりもK1からの方が良く見えていたかな。
霞沢岳から見た穂高連峰

西穂高岳の後方に小さく見えているのは、位置的に双六岳(2,860m)辺りかな。実は私、山登りが趣味なくせに裏銀座方面を一度も歩いたことが無く、この界隈の山の同定にはイマイチ自身がありません。
230925霞沢岳-088

笠ヶ岳の眺めは相変わらず素晴らしい。穂高連峰は長野県と岐阜県の境界上にありますが、この笠ヶ岳に関しては完全に岐阜県内にあります。
霞沢岳から見た笠ヶ岳

ここまでは霞沢岳本体の裏に隠れていた、乗鞍岳と御嶽山方面の展望が一気に開けます。どちらも惚れ惚れするくらいに大きな山ですねえ。
霞沢岳から見た乗鞍岳と御嶽山

こちらは中央アルプス(右)と南アルプス(左)方面の眺めです。特別よく見えると言うわけでもないので、まあ一応は見えていますと言った程度か。
霞沢岳から見た中央アルプスと南アルプス

こちらは若干雲が多めですが、奥に見ている横に長い山並みは八ヶ岳です。編笠山から蓼科山まで全部見えています。
霞沢岳から見た八ヶ岳

いやはや聞きしに勝る素晴らしい眺望の山でした。かくも絶景の広がる山が、殆どその存在を認識されることもなく埋もれてしまっているのは、実に勿体ないことだと思います。
霞沢岳から見た焼岳と白山

6.霞沢岳登山 下山編 上高地へとんぼ返りする怒涛の下山行

10時5分 絶景を心行くまで満喫しました。名残惜しくはありますが、そろそろ下山に移りましょう。何しろ今日中に東京まで帰り着かなくてはならないので。
230925霞沢岳-094

K2とK1でしっかりと2回登り返しをさせられます。道がそうなっている以上は仕方がありません。
230925霞沢岳-095

こうして上から見下ろすと、K1への登り急登っぷりが良くわかります。登りはまだ何とかなりましたが、下りだと相当怖そうな予感がします。
230925霞沢岳-096

10時40分 K1ピークまで戻って来ました。絶景タイムはこれで終了です。ここからは怒涛の急降下が始まります。気を引き締めて行きましょう。
霞沢岳 k1ピーク

正面に見えているジャンクションピークへの登り返しが、今から気乗りしませんな。
230925霞沢岳-098

思った通り、下りはかなりおっかないことになっていました。お助けロープが張られているので、ありがたく使わせてもらいつつ慎重に下ります。
230925霞沢岳-099

暫しの間、気の抜けないトラバース地帯が続きます。登る時はさほど気にもなりませんでしたが、結構際どい所を通っています。
230925霞沢岳-100

森の中まで下って来て、ようやく人心地つきました。ここから先はもう、消化試合のようなものです。
230925霞沢岳-101

始めから約束されていた、ジャンクションピークへの登り返しです。下山時の登り返しほど憂鬱なものはありません。登った分だけまた下らなきゃいけないんだよ!
230925霞沢岳-102

12時35分 こんなに下ったっけかとぼやきつつ、ジャンクションピークまで戻って来ました。
230925霞沢岳-103

あとは峠に向かって下るのみ。とか言いつつ、最後にまた少しだけ登り返しがあるんですけれどね。
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13時35分 徳本峠に戻って来ました。先日の宿泊者たちはあらかた撤収しており、どうやら私が最後尾であったようです。
徳本峠

まったく乾いておらず濡れたままのテントを手早く撤収します。水を吸ってしまったためか、心なしかズシリと重くなったような気がします。
230925霞沢岳-106

一晩を過ごした徳本峠に別れを告げます。新島々からの古道ルートが復活した暁には、いつかまた来ます。
230925霞沢岳-107

ピストンなので、この先はもう脇目も触れず足早にサクサクと巻いて行きましょう。
230925霞沢岳-108

と言う事で場面は一気に飛んで、徳本峠登山口まで下って来ました。
230925霞沢岳-109

14時55分 明神館に戻って来ました。だいぶ足に疲労がたまっている感もありますが、この先はもう平坦なの道なので、休まずに行動を続行します。
230925霞沢岳-110

早歩き気味にズカズカ飛ばして、あっけなく河童橋まで戻って来ました。標準コースタイムだと1時間と言う事になっている区間ですが、早歩き気味に歩けばだいたい40分くらいの距離だと思います。
230925霞沢岳-111

綺麗に晴れて奥穂高岳までバッチリと見える河童橋の姿を写真言収めたところで、本日のミッションは完了です。これでもう、心残りはありません。
230925霞沢岳-112

15時40分 上高地バスターミナルに到着しました。先日の到着時と同様に、多くの観光客で混雑していました。
230925霞沢岳-113
上高地バスターミナルからはバスタ新宿行きの直通バスも数多く運行されていますが、週末の中央道は100%の確率で渋滞することが約束されています。なので帰路も電車で帰ることにします。

7.霞沢岳登山 帰還編 あずさ満席 くりかえす あずさ満席

新島々駅行きのバスにも大行列が出来ており、バスが2台出て何とかギリギリ全員が乗れました。恐るべし、秋の行楽シーズンの上高地。
バス待ちの行列ができた上高地バスターミナル

往路と同様に新島々駅で上高地線に乗り換えます。電車もバスもどちらも同じアルピコ交通の運行なので、さほどの待ち時間もなく乗り継ぎはスムーズに行われます。
新島々バスターミナル

しかし順調なのは松本駅まででした。直近の特急あずさはすでに満席御礼状態で、空席があるのは20時の最終列車のみです。帰りもまた高尾まで鈍行で行こうかと逡巡するも、思い直して最終便の席を押さえました。
松本駅
普通の旅行者は、前もって駅ネットなどで帰路の指定席も予約してあるのが一般的なんでしょうかね。私は基本的に往路ではしっかりと予定を組み立ててますが、帰路に関しては行き当たりばったりなことが多いです。

思いがけず2時間近い待ち時間が発生してしまったため、時間つぶしがてらに松本城へとやって来ました。もっと駅から近いのかと思いきや、歩くと結構な距離がありました。
松本城の入り口

既に営業時間は終了しているため城の中には入れませんが、こうしてライトアップされた姿を眺める事は出来ます。お堀のリフレクションが見事です。
夜の松本城

このアングルが一番定番かな。もっと大きな城だったような印象があったのですが、意外とコンパクトな天守です。
夜の松本城
なにしろ前回訪問したのは30年以上昔のまだ子供だった頃の事なので、自分自身が小さかったから相対的に大きく見えていただけなのかもしれません。

駅へ戻ってくると、最終便の座席もすでに満席であるとの案内が出されていました。行楽シーズン真っ盛りのあずさと言うのは、こんなにも混雑するものでしたか。やはり高尾行きの鈍行列車こそが、最強にして至高の移動手段なのだろうか。
松本駅に停車する特急あずさ
満席の特急列車に揺られて、帰宅の途に着きました。

秋の行楽シーズン真っ盛りに決行された北アルプス行きは、こうして大満足の内に幕を下ろしました。

紅葉の最盛期にまだ少し早い中途半端とも言える時期であったにもかかわらず、この週末の涸沢は相当な混雑であったようです。人気スポットの喧騒を避けてマイナーな霞沢岳に目をつけたのは、我ながら冴えた判断であったように思えます。

上高地エリアにおける霞沢岳の不人気ぶりは怪訝にさえも思えるレベルで、ハイシーズン中は混雑することが必至な付近の山と比べて別天地であるかのように静かな山です。それでいて眺望に関しては一級品と言える存在であり、北アルプスにおける穴場的存在として大いに推奨できます。

人気の山の混雑に嫌気が差したと言う人は、穂高連峰の向かいにひっそりと立っているこの山を目指してみては如何でしょうか。

<コースタイム>

1日目
上高地バスターミナル(12:10)-明神館(12:55)-徳本峠(14:50)

2日目
徳本峠(6:00)-ジャンクションピーク(6:50)-K1(9:05)-霞沢岳(9:45~10:10)-K1(10:40)-ジャンクションピーク(12:35)-徳本峠(13:15~13:35)-明神館(14:55)-上高地バスターミナル(15:40)

霞沢岳山頂で記念撮影

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

コメント

  1. くりこま より:

    霞沢岳からの展望、絶景ですね。
    素晴らしいです。
    私もいつか行ってみたいと思いました。
    とても参考になりました。
    ありがとうございます。

    余計なお世話ですみません、漢字変換誤りですね
    穂高連邦→連峰

    • オオツキ オオツキ より:

      くりこまさま
      コメント&ご指摘をありがとうございます。

      誤字を訂正しました。不人気きすぎて不憫に思えてくる反面、このまま静かな山であり続けてほしいと言う想いもあって、宣伝したいようなしたくないような複雑な気分のする山です。文句なしの秀峰であることは保証いたします。