長野県松本市と岐阜県高山市にまたがる焼岳(やけだけ)に登りました。
上高地の玄関口脇に佇む活火山です。北アルプスの山の中では比較的標高が低く登り易い山であり、このエリアにおける入門の山として人気があります。
河童橋から見て真正面の位置に佇んでおり、上高地を象徴する景色の一つして広く知られている存在でもあります。
例年よりも一足早くに訪れた夏山シーズンを先取りすべく、はるばる北アルプスまで繰り出して来ました。
2018年7月1日に旅す。
夏山シーズン到来!
早くも関東甲信地方に梅雨明け宣言が出されました。なんでも、6月中の梅雨明けと言うのは観測至上最速なのだとか。
2018年の季節の移ろいは春先からずっと、すべて前倒しに進行しているように感じます。
なんにせよ夏山シーズンです。夏山シーズンと言う言葉を聞いただけで、なんと言うかこう「アルプスに行きたい」という欲求が体の奥から悶々と沸き起こってきませんか?私はきます。
しかしながら、不覚にも金曜日の夜に深酒し土曜の昼近くまで眠りこけてしまった私には、もはや日曜日の日帰り登山しか選択肢がありません。折角の観測至上最速な夏山シーズン到来だと言うのにです。
そもそも、日帰りで行けるアルプスの山なんてものはあるのでしょうか?
それがあるのです。そう、焼岳が。
焼岳は、上高地の入り口に立つ標高2,455メートルほどの山です。かの有名な大正池が出来るきっかけの噴火を引き起こした、現役の活火山でもあります。
北アルプスの山の中では比較的登りやすく、このエリアの登竜門ともなっています。
ちなみに、私の人生初北アルプス登山は15歳の時に登った奥穂高岳でした。いきなり最高峰に連れて行かれてしまったせいか、その後も、この登竜門を長らく登らずに放置したままとなっていました。
と言うことで、今更ですが北アルプスに入門してきます。
コース
帝国ホテル前BSよりスタートし焼岳に登頂。下山は往路を逆に辿り、上高地バスターミナルへと下る。上高地から焼岳を往復する、極めてオーソドックスな行程です。
1.焼岳登山 アプローチ編 夜行バスで上高地へ
6月30日 21時50分 バスタ新宿
上高地へと直行する、さわやか信州号の夜行便に乗車すべくやってまいりました。
焼岳に行こうと思い立ったのはこの日の昼過ぎになってからでしたが、幸いにも空席がありました。さわやか信州号は例え満席状態であっても、直前まで粘ると意外とキャンセルで空席が発生したりします。
4列シートのスタンダードカーです。寝心地はまあ、良くは無いですね。上高地までの運賃は6,800円です。
プラス1,200円で3列シートのデラックスカーと言うのも存在しますが、そちらの方が予約が埋まるのは早いです。
明けて7月1日 5時25分
寝ている間に、バスはつつがなく帝国ホテル前バス停に到着しました。
バス停の前に、ソフィスティケートされた笑みを湛えたホテルマンが直立不動の姿勢で待機しており、下車した乗客一人一人に「本日お泊りのお客様ですか?」と問いかけていました。
・・・早朝の5時半に現れた、一目で山登りをしに来たとわかる格好をしている人間にまで、わざわざ声をかけなくてもよいと思うんです。
行儀悪く路上で立ったまま軽く腹ごしらえを済ませて、5時30分に行動を開始します。
瀟洒な建物ですな。背後に薄っすらと焼岳の姿が見えております。
一泊の宿泊料は3万円/1人からだそうです。多分、一生泊まる事は無いんだろうなあ。老境に至ってから心境に変化が訪れる可能性はゼロではありませんが。
道なりに進み、田代橋で梓川を渡ります。まだ早朝の時間だというのに、散策中と思われる観光客の姿がチラホラとありました。
お天気は今のところ文句なしの晴天模様です。正面に見えているのは穂高連峰の岳沢カールと吊尾根です。
ヒャッハー、上高地を浄化だー
浄化センターとは一体何者ぞと思いきや、何のことは無いただの下水処理施設だそうです。
「梓川の水は田代橋より上流ならば飲める」などと言われることがありますが、理由はこの施設があるためです。
汚らしい話題になってしまったので、お目直しに上高地の美しい森の光景をご覧下さい。
これはカラマツソウかな。糸のようなふわふわした花です。沿道のいたるところに咲いていました。
登山口まで、ほぼ水平の砂利道を歩いていきます。この辺りはまだ、登山ではなく観光地の領域です。
6時 焼岳登山口に到着しました。
看板の上に乗っかっているナルゲンボトルは、誰かの忘れ物でしょうか。
2.数多のハシゴを乗り越えて稜線を目指す
笹の刈り払われた深い森の中へと分け入ります。半袖では少し肌寒さを感じるような気温です。
あまり傾斜の無い穏やかな道がしばし続きます。こういう苔生す森の雰囲気は大好物です。
登山道上にまさかの雪が残っていました。これは全くの想定外です。軽アイゼンなんて用意していないけれど、この先大丈夫なのかと一瞬不安が過ぎります。
登山道上に雪があったのは結局ここだけで、全くの杞憂でした。
焼岳本体が見えてきました。山頂部はガスに覆われていました。これはよくない兆候です。
登山道は、峠沢と呼ばれる巨大な侵食谷に沿うように付けられています。見下ろすと凄い高度感です。
ここでこの日初めて他の登山者とすれ違う、と言うか追い抜かされました。
焼岳登山のメインルートと言えるのは中ノ湯側らしく、上高地ルートは人気の百名山とは思えないくらい静かで閑散としていました。
焼岳本体に近づくにつれて、道は徐々に険しさを増してゆきます。
前方に崖のような岩壁が現れました。さーて、登山道はこの落差をどのようにして乗り越えるのでしょうか。
この鉄製の渡りは、乗っかると結構たわみます。おかげで見た目よりはずっと怖いポイントでした。単に私が重すぎるだけなのかもしれませんが。。
巻いた直後に今度は鉄製のハシゴです。こちはらはガッチリしており揺れません。
山頂のガスが晴れて来ました。今から一喜一憂していてもしょうがないので、山頂到達時には晴れていてくれることを願いながら、無心で登ることにしましょう。
眼下には大正池の姿が見えます。この池はもともと、大正4年に発生した焼岳の噴火によって発生した泥流が、梓川の水を堰き止めて出来たものです。
草つきの急斜面をトラバースするように道が続いています。樹林帯から出たことにより、直射日光を浴びて一気に体感温度が上昇します。
峠沢の岩壁が凄い迫力です。この侵食谷は今日もなお、とどまることなく拡大し続けています。
この辺りはトゲトゲした葉がやたら多く、半袖だと非常にチクチクします。上半身裸で歩いている外国人を見かけましたが、彼らは痛くないのでしょうか。
なにやら凄いことになっているハシゴがありました。普通の可動式ハシゴを三段くらい強引に括りつけて繋いだような構造をしています。高さは10メートルくらいあるかな。
頻繁に壊れるらしく、交換用のハシゴが草むらの中にデポしてありました。
曲がってるし揺れるしで、なかなかスリリングです。慌てずにゆっくりと確実に登りましょう。
見下ろすとこんな感じです。写真だとイマイチ高度感が伝わりませんが、下りだと結構怖そうなポイントです。
ハシゴを超えると、今度は鎖が垂らされているだけの一枚岩の登りです。濡れてる時には非常に良く滑りそうな岩の質感でした。
8時10分 焼岳小屋に到着しました。
焼岳で唯一の山小屋です。ここで焼岳の山バッジが買えるので、バッジコレクターの方は必ず立ち寄りましょう。一つ500円で、3種類ありました。
ひっそりとした谷間に佇む、昔ながらの山小屋と言った雰囲気の小屋です。
もっと火口の近くに建っていたと言う旧焼岳小屋は、昭和37年に発生した水蒸気噴火で噴石の直撃を受けて破壊されました。その後に再建された現焼岳小屋は、噴石の直撃を受け難い谷間に作られたのだそうです。
山頂へ向かいましょう。焼岳小屋からは、標準コースタイムで1時間10分ほどの行程となります。
3.焼岳登山 登頂編 荒らしい火山帯の光景と北アルプスの大絶景が広がる頂へ
焼岳山頂を真正面に望みながら、まずは山頂手間にある展望台と呼ばれる小ピークへ登ります。
ここで笠ヶ岳(2,897m)さんがこんにちは。以前より「いつか登りたい山リスト」に名を連ねている山です。まだ大分雪が残っておりますね。
「そのうち登ってやるからな。覚悟してやがれ」と、良くわからない捨て台詞を投げかけておく。
展望台の頂上に焼岳ライブカメラが設置されていました。土砂災害予防を目的に、国土交通省が設置したものです。
火山活動の監視が目的ならば気象庁の管轄なのに、土砂災害の監視だと国土交通省になるのですね。なるほど、良くわからん。
噴気孔からモクモクと水蒸気が立ち上っています。焼岳が、今なお活発に活動する現役の活火山であることをうかがわせる光景です。
目の前に立ちはだかる焼岳本体。なかなか迫力のある光景ではありませんか。
背後には、今まさにガスに飲み込まれようとしている穂高連峰の姿が一望できました。
こちらは梓川を挟んだお向かいさんの霞沢岳(2,645m)です。白く霞んで見えているのは、ガスではなく地中からの噴気の影響です。
展望台からは一度大きく下ります。と言うことはつまり、下山時には漏れなく上り返しがついて来ると言う事です。
岩にペンキでかかれた矢印を見ると、「ああ、アルプスに来たんだなあ」と言う気分になります。
斜面のあちらこちらから噴気が立ち上っており、周囲には濃厚な硫黄臭が漂っています。無性にゆで卵が食べたくなってきました。
硫黄臭とよばれる匂いの正体は硫化水素です。決して体に良いものではないので、なるべく吸い込まないように噴気孔の脇は足早に通り抜けたほうが良いでしょう。
背後に今度は槍ヶ岳(3,180m)さんがこんにちはです。
中央の奥に小さく見えているのは鷲羽岳(2,924m)かな。北アルプスの最深部にある山です。
登山道は割りと噴気孔のすぐ近くを通ります。こんなに近づいて大丈夫なのかと心配になってくるほどです。
結構な急斜面です。ザレていて歩き難いので、特に下山時には神経を使いそうな道です。
背後を振り返ると、先ほどまでは見えていた槍ヶ岳がガスに飲み込まれていました。姿を拝めたのは、まさに滑りこみセーフだったようです。
本日の教訓としては「写真は撮れる時に撮るべし」です。山頂まで行ってからとか余裕をかましていると、そもそもシャッターチャンスそのものを失います。
眼下には、稜線に出るまでずっと併走していた峠沢の溝が、麓まで裂け目のように続いている姿が見えました。
頂上付近に斜面を一面ピンクに染めるような。イワカガミの大群落が広がっていました。これまでにお目にかかったことの無いような規模の群落です。
地熱の影響などがあるのでしょうか。この一帯にだけ密集して咲いています。
山頂直下最後の登りです。頂上部は、まさに絵に描いた様な溶岩ドームそのものといった姿をしています。
4.焼岳山頂からの展望
9時30分 焼岳北峰に登頂しました。
行動開始からちょうど4時間で到着です。長すぎず短すぎない、程よい疲労感を感じさせてくれる行程でした。
山頂の様子
そこそこの広さのある山頂です。多くの登山者が所狭しと休憩していました。
こちらは火口を挟んだ向かいにある焼岳南峰(2,455m)です。焼岳の最高地点はあちらの方なのですが、崩落により立ち入り規制が敷かれているため、登ることは出来ません。
山頂よりより火口を覗き込む。手前に立ち上っている白い煙は、ガスではなく噴煙です。この山が活発に活動中であることが窺えます。
火口部には、エメラルドグリーンの水を湛えた火口湖があります。立ち入り禁止なので確かめるすべはありませんが、もしかしたら噴気で温められた温泉だったりするのでしょうか。
眼下には上高地と呼ばれる一帯を一望することが出来ます。周囲の山が防壁になって雲を防いでいるおかげで、ここだけが晴天状態でした。
上高地の拡大&名称入り。スタート地点にあった帝国ホテルの赤い屋根が非常に目立っています。
こちらは大正池です。上流からの多量の土砂の流入で、今や消滅の危機にあると言う話を聞いたことがあります。なにしろ、噴火と言う偶然によって出来た産物ですからね。
奥穂高周辺は完全にガスってしまっており、前穂高岳(3,090m)だけが良く見えました。
燕の大群が上空を乱舞していました。こんな標高の高い所まで飛んで来るものなのですね。
ガスが取れないかなーと期待しつつ、しばし山頂で待機しますが、次から次へと新手が発生して、一向にクリアーにはなってくれません。
5.焼岳登山 下山編 山頂を辞去し上高地へ
山頂で一時間ほど粘ったものの、一向に晴れず諦めました。10時30分に下山を開始します。
焼岳に別れを告げます。さらば焼岳。ガスり気味ではあったけれど、素晴らしい展望をありがとう。
こちらはすっきりと晴れている霞沢岳。名だたる名山が立ち並ぶ北アルプスにおいては、地味な存在と見なされあまり人気の無い不遇の山です。
12時50分 下山完了。
看板上に放置されたナルゲンボトルは、そのままの状態でした。
登山口の脇に「まあここで顔でも洗って行きたまえ」と言わんばかりの小川のせせらぎがあったので、ありがたく汗を洗い流します。冷たくて気持ちいい。
河童橋に近づくにつれて、散策中の観光客の姿が多くなって来ます。ここまで来ると、登山の格好をした人は小数派です。
日本アルプスという名称の名付け親だと言うウォルター・ウェストンの碑があります。明治時中期に日本に滞在した、登山好きなイギリス人宣教師です。
その経歴を見ると、登山好きとかいう言葉では片付けられない超一流のアルピニストですね。
この辺りには湿原帯が広がっており、まるで尾瀬のような散策路が整備されています。
・・・木道を見る度に「まるで尾瀬のよう」とワンパターンな言い回ししかできない、自分の表現力の貧困さに絶望する今日この頃です。
河童橋までやって来ました。上高地一帯は最高のお天気です。周囲をガスに包囲されつつあることを知っているのは、焼岳に登ってきた人間だけだという事です。
河童橋から望む焼岳。つい3時間ほど前まで、あのてっぺんに居たのだと思うと感慨深い。
河童橋に穂高連峰とういうド定番の構図で一枚。おそらくは日本全国の家庭にある写真アルバムに、全く同じ構図の写真がそれこそ何万枚と収蔵されているに違いない。
13時45分 上高地バスターミナルまで戻って来ました。
時間的にはまだまだ早いし少し上高地観光をしようかとも思いましたが、ここから自宅まで6時間以上かかるのだという事実を思い起こして、止めておきました。このまま撤収に移ります。
交通費的には、帰りもさわやか信州号を利用するのが一番割安ではあります。しかしながら、休日夕方の中央高速道と言うのはほぼ100%の確立で渋滞します。
と言うことで、帰りは松本から電車を使います。
新島々へ向かうバスでは、何時もスイッチが切れたかのように眠りに落ちてしまうのですが、この日は何故か目が冴えていました。バスの車窓から、梓川沿いのダム湖の姿などを写真に収めて過ごします。
上高地からは1時間ほど新島々駅に到着します。ここから電車に乗り換えです。
「しんしましま」とは何度見ても不思議な名前の駅です。どこかに旧島々もあるのでしょうか。
突発的な思いつきで敢行した夏山シーズン第一弾は、かくして大満足の内に幕を閉じました。2018年夏山シーズンの本格始動に向けて、幸先のよいスタートを切れたのではないかと思っています。
焼岳は北アルプスの山の中では比較的簡単に登ることの出来る山ですが、それでいてしっかりとアルプスらしさを体験することが出来ました。登竜門などと言われたりもしていますが、何度でも足を運びたくなるような魅了に満ちた山だと思います。
現役で活動中の活火山であるので、訪問に際しては噴火警戒情報の確認だけはしっかりと行ってください。
<コースタイム>
帝国ホテル前BS(5:30)-焼岳登山口(6:00)-焼岳小屋(8:10~8:20)-焼岳(9:30~10:30)-焼岳小屋(11:20)-焼岳登山口(12:50)-河童橋(13:30)-上高地バスターミナル(13:45)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント
ちょうど2018年に登頂したのでコメントさせてもらいました。
とはいえ、コースは中ノ湯から登り西穂山荘を経てロープウェイに抜けるコースですが。
ちなみに一応西穂の独標まで行きました。
焼岳山頂を過ぎてから猛烈に大きな雉撃ちをしたくなり山荘に駆け込んだり、かわいい女の子グループがいたのでこんなにも身軽に登れるんだぜ!!と張り切って駆けだしたところ速攻で足を取られてずっこけるなど思い出深い山です。
U-leafさま
コメントをありがとうございます。
「思い出深い」と言いつつ、ろくでもないエピソードばかりのような?
日帰りだとなかなかシビアな行程ではありそうですが、西穂方面へ縦走は見るからに眺めが良さそうだったので一度歩いてみたいです。
オススメはしないです。
普通の樹林帯が西穂山荘まで延々と続くだけなので、身近な奥多摩の笹尾根あたりと代り映えしません。
ついでに眺望もほぼなしでした。
はじめまして。やよいと申します。
オオツキさんの記事を参考に、同じルートを辿った低山ハイキングをぼちぼちとしています。
なかなか飲食の記事を(ソフトクリーム以外)見かけないのでお酒は召し上がらないのかと思っていましたが、今回「深酒」のワードが気になってはじめてコメントしました。
記事にあるどの山にも行ってみたくなる楽しい文章で、遡って読み進めています。
色々と参考にさせていただきます。
やよいさま
コメントを頂きましてありがとうございます。
世の中には、下山後に一杯やるのが楽しみで山に登ると言う方も多いようですね。私は特別酒好きと言う訳ではありませんが、まあ人並み程度にはたしなみます。
温泉に入った後のソフトクリームは個人的にマストです。何なら生ビールよりも優先度が高いです。