栃木県日光市、群馬県沼田市およびみどり市にまたがる袈裟丸山(けさまるやま)に登りました。
栃木県と群馬県の県境地帯に連なる足尾山地に属している古い火山です。交通アクセスが良いとは言い難い奥地にある山ですが、アカヤシオツツジの名所として名高く、シーズン中は多くの登山者で賑わいます。
ツツジ以外にはさしたる期待もなく訪れた足尾の深山で待っていたのは、思ってもいなかった大展望の頂でした。
2022年5月3日に旅す。
袈裟丸山は群馬県と栃木県の境界にまたがる、足尾地方にある深山です。所在地をわかり易く言うと、皇海山の隣にある山です。全然わかり易くはありませんでしたかね・・・
日光山地前衛部の渡良瀬川源流域にある山です。皇海火山と呼ばれる、100万年ほど前に活動していた古い火山群に属しています。
袈裟丸山は前袈裟丸山、中袈裟丸山、後袈裟丸山および奥袈裟丸山などの複数のピークから成る連峰ですが、一般的には三角点がある前袈裟丸山の登頂をもって袈裟丸山登頂とします。
北関東にある山の例に漏れず、袈裟丸山はアカヤシオツツジの名所として知られています。比較的標高の高い山であるため、アカヤシオの開花時期としては後発で、例年だとちょうどゴールデンウィーク辺りに見頃を迎えます。
2022年は寒冬だった影響もあってか、花の開花時期が全般的に例年より後ろ倒し気味になっており、満開にはまだ早いフライング気味での訪問となりました。
笹原が広がる稜線からは、足尾の山並みと関東平野を一望できます。アカヤシオは少々期待外れの状態でしたが、足尾の深山から望む絶景を満喫してきました。
コース
駐車場がある折場登山口から前袈裟丸山を往復します。アカヤシオの群生地を通りつつ、最短で袈裟丸山を往復する行程です。
1.袈裟丸山登山 アプローチ編 足尾山地奥地への遠き道程
本日は僻地専門登山家の友人と、おっさん二人の旅です。関越自動車道を快調に・・・と言いたいところですが、渋滞気味にノロノロと進みます。
高崎JCTから北関東道へ入ったところで、前方の視界いっぱに横たわる赤城山が姿が良く見えました。群馬県の象徴とされているのも大いに納得の、圧倒的なまでの存在感です。
高速を下りた後は 国道122号線をひた走ります。渡良瀬川沿いに日光へ通じるこの道は、なかなか良きワインディングロードです。
わたらせ渓谷鉄道の沢入駅(そうりえき)入り口の少し手前で、この関東ふれあい道の案内が現れたら左折します。
今回はたまたまゴールデンウィークに暇を持て余していた友人が車を出してくれましたが、当初は沢入駅から林道を歩いてアプローチする計画でした。
その場合、コースタイムは3時間少々プラスされます。明るいうちに下山したかったら、前日の内に高崎辺りに前乗りして、渡良瀬渓谷鉄道の始発に乗らないと厳しいかもしれません。
すれ違い困難なガタガタの林道をひた走ると言う、僻地専門登山家のいつもの光景が繰り広げられます。毎度のことながらすまんのう。
7時50分 折場登山口に到着しました。駐車スペースは既にいっぱいでしたが、少し先の路肩に何とか停めることが出来ました。アカヤシオシーズン中の袈裟丸山に登りたかったら、8時頃の到着ではもう遅いと言う事ですね。
本日は終日晴天の予報となっているので、日中は暑くなるものと思い水を多めに携行してきたのですが、車を降りてからの第一声は「寒ッ」でした。
4月から6月初頭くらいまでの季節と言うのは、装備や服装の判断がなかなか難しいものです。
2.アカヤシオが咲き誇る、賽の河原までの道程
身支度を整えて、8時ちょうどに登山を開始します。歩き始めたら半袖で良いかな、なんてことを考えていたのに、ハードシェルまで着込んで完全に冬の装いです。
ここから登り始めるのが袈裟丸山山頂への最短ルートなのですが、どちらかと言うとここより下にある塔ノ沢登山口からスタートする方が、袈裟丸山登山におけるメインルートの扱いであるようです。
あまり傾斜のきつくない、緩やかな尾根道を登ってゆきます。現在位置の標高にまで新緑前線が届くにはまだ先のらしく、周囲には冬枯れの光景が広がっていました。
袈裟丸山は足尾地方の山であると言う事なので、栃木県の山であると言う印象を持っていましたが、本日歩こうとしているコースは、そのほぼ全域が群馬県内にあります。
そういう事であらば、グンマーキャップを被って来るべきだったかな。
早速お目当てのアカヤシオが出迎えてくれました。最大の群生地はこの先の尾根上にあり、こうして登山口付近に咲いているものは前座でしかありません。
現在の標高付近は既に終わりかけであるらしく、足元に花弁が散乱して落ちヤシオ状態になっていました。アカヤシオは割と花季の短い花で、満開のど真ん中を射止めるのはなかなか難しいものがあります。
足尾地方の山に多く見られる、禿山化してしまった斜面が広がっていました。足尾銅山の製錬所から出た、亜硫酸ガスを含む煤煙の影響だと言われています。
眼下に大きな滝が見えます。かなり立派な滝のようにも見えますが、特に名前などは無いようです。
この辺りの標高帯のアカヤシオが、ちょうど満開を迎えていました。と言う事は、この先の尾根上にある群生地では、まだ満開には少し早いタイミングなのかもしれません。
背後を振り返ると、巨大な赤城山が横たわっていました。普段見慣れている関東平野側から見た姿とは反対方向からの姿です。
禿地を抜けると、足元が泥まみれの樹林帯に入りました。きっとこれが足尾の山の本来の姿なのでしょう。
池塘と言うほどのものではありませんが、いくつかの小さな池がありました。なるほどこれが先ほどの泥の発生源ですかね。
やがて笹に覆われた幅の広い尾根に乗りました。この先は最後までずっと尾根沿いです。
目指す袈裟丸山の姿が見えて来ました。複数のピークから成る連峰であるのが一目瞭然です。目指しているのは、一番左にあるピークの前袈裟丸山です。
最高地点は一番右に見えている奥袈裟丸山なのですが、間にある八反帳と呼ばれる尾根が崩落により通行止めとなっており、前袈裟丸山側からは登ることが出来ません。
尾根上に続くアカヤシロードを進みます。頭上が開けており、明るくて気持ちの良い道です。
展望台らしきものがある、開けた空間が現れました。どれ、せっかくなので登ってみましょう。
この展望台がまたなんと言うかアスレチック遊具のようなシロモノで、横着してカメラを首からぶら下げたまま登ろうとしたら、思わぬ苦戦を強いられました。
展望台の上からは、まだ雪を被って白いままの上信国境地帯だと思われる山並みが見えました。頭の方が雲で隠れてしまっているため、山座同定はできません。
足元にはアカヤシオがチラホラと咲いています。最盛期にはこんなものではなく、もっと視界一面がピンクに覆いつくされるらしいのですが、やはり少し早かったようです。
袈裟丸山は関東地方在住のハイカーにはすっかりお馴染みの、関東ふれあいの道の一部に組み込まれています。
この関東ふれあいの道と言うのは、東海自然歩道じように全部が繋がっているものだと勝手に思い込んでいたのですが、そうではなくブツ切りのいくつかのコースに分かれています。
展望台を過ぎて程なく、小石が散乱する河原のような空間が現れました。
8時55分 賽の河原に到着しました。ここが塔の沢コースと合流地点です。ここから下った場所には避難小屋もあります。
袈裟丸山という山名は、弘法大師が自分の袈裟を丸めてこの山に置いていった伝説に由来しています。この賽の河原もそうですが、山岳信仰の対象であったことを思わせる、宗教色の強い地名が山中に多く残っています。
3.アカヤシオシーズンにはまだ少し早かった群生地
先へ進みましょう。相変わらずほぼ水平移動のような、緩やかな傾斜の幅平な尾根道が続いています。
標高が高くなるにつれて、沿道のアカヤシオはまだつぼみの状態に変わって来ました。開花前線のある標高を越えたようです。
満開状態の時に歩いたら見事なアカヤシオのアーチが出来るのであろう、つぼみ状態の中を進みます。やはり少しばかり訪問が早すぎたようですね。アカヤシオは本当にタイミングが難しい。
再び賽の河原のような空間が現れました。前方に見えているのは小丸山と呼ばれるピークです。今からこのピークを越えて行きます。
小丸山への登り坂は足元は水浸しで、登山道が川のようになっていました。
この小丸山の直下付近が、最大規模のアカヤシオ群生地となっています。恐らく1週間後くらいに訪れれば、ピンク色のアーチの下を歩くことが出来たでしょう。
日影の部分にチラホラと残雪が残っていました。なるほど、これが絶え間なく登山道に水を供給し続けている訳ですな。
9時50分 小丸山まで登って来ました。別名で小袈裟丸とも言う、袈裟丸山前衛の小ピークです。
袈裟丸山のピークたちが横一列に並んでいます。今日登るのは一番左の前袈裟丸山だけですが、一番奥まで縦走するのはなかなか骨が折れそうですね。
北に見えているこの頭一つ抜けている山は、日光男体山(2,578m)です。比較的最近になってまた雪が降ったらしく、真っ白な山肌を晒しています。
これは難読な山名の百名山として名高い皇海山(2,144 m)です。この山の姿を見かけて大喜びするのは、基本的にもの好きな人だけだと思います。
4.袈裟丸山登山 登頂編 急登の果てに待つ笹原に覆われた好展望の頂
小丸山からは一度大きく下ります。それは詰まるところ、下山時に漏れなく登り返しが付いて来ることが約束されたわけです。
鞍部まで下ってきたところで、ここにも避難小屋がありました。驚くことにトイレまであります。
かまぼこ型の極小の避難小屋です。這わないと入れないような高さしかありません。
中を覗いてみると、まさに緊急避難するためだけの空間と言ったところです。快適に宿泊が出来そうでな感じではありませんね。
避難小屋を過ぎると、少々笹がうるさくなってまいりました。足元に不意に根っこトラップがあったりするので、油断がなりません。
ようやく前袈裟丸山の本体が見えてきました。何というか、六林班峠付近とよく雰囲気が似ていて、実に皇海山みがあふれる登山道です。
似ているも何も、もともと同じ皇海火山に属している山ですからね。袈裟丸山から皇海山までは尾根で繋がっており、当然植生なども全く同じです。
山頂の直下はかなり急勾配です。相変わらず足元は泥まみれで、登りはともかく下山時に神経を使いそうです。
急登を登りきると、視界の開けた笹の稜線に出ました。ここまで来れば、山頂まではもうあと一息です。
振り返れば、広大なる関東平野を一望できます。アカヤシオ以外の見所には乏しい地味山なのかと思いきや、意外に展望の良い山ですね。
なんなら、皇海山なんかよりもぜんぜん登っていて楽しい山だと思います。おっと、皇海山の悪口はそこまでだ!
左手に群馬の誇り赤城山。長大な裾野を引く際立って大きな山であることが良くわかります。
浅間山の姿も見えました。赤城山と同様に、関東地方の山からであればどこからでも大抵は見える、極めてシンボリックな存在です。
10時50分 前袈裟丸山に登頂しました。登山開始からほぼ3時間をかけての登頂です。長すぎず短すぎない、程よいボリュームの行程でありました。
沢入駅から歩いた場合の標準コースタイムが5時間越えることを考えると、やはり車で登りに来た方が幸せになれる山なんでしょうね。
山頂の様子
広々とした空間ですが、ベンチなどはありません。吹きっ晒しであるため、先ほどから猛烈に寒くてなりません。明らかに服装の選択を誤ってしまっている気がします。。
前述の通り、この先の登山道は崩落の影響により通行止めです。無視して歩いている人の記録がチラホラとあるので、行こうと思えば行けないことは無い程度の崩落ではあるようですが。
もし一人で来ている時ならば「その崩落個所とやらを自分の目で見てやろう」とばかりに先へ進んだかもしれませんが、本日は同行者がいるため流石に自重します。
後袈裟丸山までは行きませんが、山頂から少し先に進むと展望が開けている場所があるらしいので、そこまで行ってみます。
森を抜けると、前方の視界が開けました。実に素晴らしい。前袈裟丸山へお越しの際は、この展望地までは必ず足を運ぶことを強く推奨します。
後袈裟丸山から奥袈裟丸山へと続く稜線です。この鞍部のどこかに崩落している個所があるはずです。なんか普通に歩けそうじゃない?このまま行っちゃおうよ。
奥袈裟丸山方面の右手には、男体山と太郎山の日光連山ファミリーが立ち並びます。いろは坂があるおかげで簡単に出入りが出来ていますが、日光自体が相当奥まった場所であることがここから見ると良くわかります。
皇海山のクラシックルートを、ちょうど真横から一望できます。鋸山のギザギザさ加減が際立っておりますなあ。深田久弥も、実に罪な山を百名山に選んでくれたものです。
左側に見えているこの白い山は、恐らく上州武尊山(2,158m)だと思いますが、山頂が雲に隠れてしまっており同定不能です。
5.袈裟丸山登山 下山編 もと来た道を忠実に辿り登山口へ
11時15分 皇海山の姿も良く拝めた事であるし、十分に満足しました。いい加減寒くてかなわないのでボチボチ下山に移ります。
山頂直下の急坂を慎重にゆっくり慎重に下ります。案の定、泥んこの足元は滑りまくって肝を冷やしました。
本日お天気は上り調子であったらしく、山頂にいた時よりも雲が抜けて、青空が見えている面積が大きくなってきています。
先程までは雲に隠れて見えていなかった、日光白根山(2,578m)がひょこりと姿を見せました。あちらはまだまだ、完全に冬の装いです。
避難小屋まで戻って来ました。ここからは約束されていた登り返しです。
「まったく、登り返しなんて今どき流行らねーよ」と、いつものお決まりの悪態をつきつつ、えっちらおっちらと登り返します。
12時10分 小丸山まで戻って来ました。まだ特に疲れてもいないので、立ち止まらずに素通りします。
標高が下がって来た事により、再び周囲にアカヤシオが戻って来ました。
名前はアカとなっていますが、完全にピンク色をしています。明らかにいちごミルクの色ですよね。
賽の河原まで戻ってきた所で小休止し、残っていた最後のシャリを胃に収めました。
ピストンなので、脇目も触れずにサクサクと下山と言う作業に取り組みます。
いつの間にかすっかりと雲も抜けて、完璧な青空が広がっていました。できれば山頂にいる時に、この状態なって欲しかったのですがねえ。
最後は階段地獄が待っていました。登るときにも通ったハズなのですが、まったく記憶がありません。登り始めのまだ元気な時だったから印象に残らなかったのか。
13時50分 折場登山口に下山しました。こんな早い時間に下山する登山は久しぶりです。いつも意地汚く、日没時間ギリギリを攻める様な登山ばかりをしているもですから。
朝に停めた時よりも、さらに車の台数が増えていました。アカヤシオシーズン中の袈裟丸山の人気の程が伺えます。
6.水沼駅でひと風呂浴びて、帰宅の途へ
再びデコボコの林道へと突入します。できれば対向車には来ないでほしい言うこちらの願いも空しく、正午過ぎの時間になっても意外と登ってくる車がいました。純粋なドライブをしに来ているんでしょうかね。
せっかくなので、帰りがてらに渡良瀬川の草木ダムに寄り道していきます。利水と治水の両方を目的に作られた重力コンクリート式の多目的ダムです。
堤体の高さは158メートルあり、利根川水系のダムとしては奈良俣ダムに次ぐ2番目の高さです。
発電所も併設されていますが、オマケ程度の非常にこじんまりとしたものです。
ちょうど湖の先に男体山の頭が見えました。手前の緑とのギャップが凄い光景です。
ダムに寄り道した後は、続いて水沼駅へと立ち寄ります。と言っても別に、渡良瀬渓谷鉄道に乗ろうと言う訳ではありません。
この水沼駅は、世にも珍しい駅舎が温泉施設を兼ねている駅となっています。
以前皇海山に登った際に、帰りに立ち寄ろうとしたのですが、時間が遅くなりすぎたため諦めて素通りしてしまっていた場所でした。
今回、ようやく念願がかなって訪れることが出来ました。トロットロのいいお湯でしたよ。
ゴールデンウィークの洗礼とでもいうべき、いつもの関越自動車道の大渋滞に巻き込まれつつ、帰宅の途につきました。
アカヤシオの見頃のピークからは少し外れてしまいましたが、こうして袈裟丸山への訪問は満足の内に幕を閉じました。
およそ交通アクセスが良好であるとは言い難い僻地にある山ですが、「深山の趣」とでもいうべきものが残る良い山であると思います。何気に眺めが良いのもポイント高しです。
ツツジの名所であるので、訪問時期は4月後半から6月の頭までくらいがベストです。夏は恐らく藪が惨くてやっていられないと思います。
たまにはありきたりな有名どころ所の山ではなく、どこか皇海山みの溢れるこの足尾の深山へと足を運んでみては如何でしょうか。
<コースタイム>
折場登山口(8:00)-賽の河原(8:55)-小丸山(9:50)-袈裟丸山(10:50~11:15)-小丸山(12:10)-賽の河原(12:55~13:10)-折場登山口(13:50)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント
オオツキさん、こんばんは。
僻地専門登山家という表現、笑ってしまいました!気軽に車を出してくれるご友人は有難い存在ですね!
グレートトラバースで見た袈裟丸山は怖そうな印象でしたが、こんなに美しいアカヤシオが咲くところだったのかとイメージが変わりました。
MMさま
コメントをありがとうございます。
前袈裟丸山までであれば一般登山道ですし、アカヤシオシーズン中は結構人も多く特に危険な要素はありません。アクセスは少々面倒ですが、良い山であることは間違いないと思います。
田中陽希さんが歩いていたのは、奥袈裟丸山から六林班峠へと至る縦走コースです。あちらは完全に玄人向けのルートで、週末登山家が気軽に歩けるような道ではありません。