皇海山 庚申山からのクラシックルートで登る足尾の深山

庚申山から見た皇海山
栃木県日光市と群馬県沼田市にまたがる皇海山(すかいさん)に登りました。
渡良瀬川源流域に広がる、足尾山地の懐深くに立つ深山です。かつては修験の山として知られた存在で、三山駆けと呼ばれる庚申山から鋸山を経て皇海山へと至る尾根沿いのルートは、クサリ場がヤセ尾根が連続する難コースとなっています。
歩いた経験のある人の多くが「辛かった」と言う感想を口にするクラシックルートで待ち受けていたのは、前評判に違わぬ長く苦しい道程でした。

2021年11月6日~7日に旅す。

皇海山は足尾山地の奥深く、栃木県と群馬県の境界に立つ古い火山です。遠目にも目立つ大柄な山容を持ち、日光の山を歩いていると非常に目を引く存在です。作家深田久弥が選んだ日本百名山に名を連ねている一座です。
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基本的に日本百名山に選ばれている山の多くは、登山者に人気のある山である事が多いのですが、しかしこの皇海山に対する評判と言うのは、あまり芳しいものではありません。

いわく「山頂からの展望が皆無なガッカリ百名山」だの「そもそも何故この山が百名山に選ばれたのか理解できない」などの悪評をよく耳にします。

皇海山が地味でガッカリな山だって?そんなセリフはクラシックルートを歩いてからほざきな!
鋸山
という事(?)で今回は、かつては修験の道だったと言う、庚申山を経由するクラシックルートを歩いて来ました。

この三山駆けルートは歩行距離が長い上に、切れ落ちた険しい尾根道が続く難ルートです。しかしながらこのルートを歩かないことには、深田久弥がいったい何故この地味な山を百名山に選んだのか、その理由を理解することは難しいと思います。

かつて皇海山は困難を伴うクラシックルートを歩かずとも、群馬県側の栗原川林道からアプローチする不動沢ルートにより、比較的簡単に山頂に立つことが可能な山でした。
不動沢のコル
しかしこの栗原川林道は、令和元年の台風19号により壊滅的な被害を被り、その後復旧は断念されて現在は廃道となっています。

それはつまるところ、現在皇海山の頂に立ちたい思ったら、好む好まざるに関わりなく、クラシックルートを歩くしか選択肢がないことを意味しています。

私自身が全ての百名山に登ったことがあるわけではないので断言はできませんが、皇海山は現状最も登頂難易度が高い日本百名山であると思われます。

まあ厳密に言うと、六林班峠経由の巻き道をピスントすると言う選択肢もあると言えばあります。どちらにしても易しくはない道程ですが・・・

世の中には、このクラシックルートを日帰りで踏破してしまう豪脚の持ち主も存在するようですが、週末ゆるふわハイカーの私は無理はせずに、庚申山荘に宿泊して1泊2日の行程で巡って来ました。
庚申山荘と庚申山

コース
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国民宿舎かじか荘からスタートし、初日は庚申山荘に宿泊します。二日目は庚申山から鋸山を経由するクラシックルートを歩いて皇海山へ登頂します。

下山は六林班(ろくりんぱん)峠を経由する巻き道を使い庚申山荘へ戻ります。

標準コースタイムは初日こそ2時間30分程度ですが、二日目のコースタイムは12時間を超える長丁場となります。修験の道と呼ぶに相応しいタフな行程です。

1.皇海山登山 アプローチ編 わたらせ渓谷鉄道で行く、足尾地方への旅路

11月6日 9時30分 東武線 北千住駅
さて時は11月初頭の紅葉シーズン真っ盛り。日光へと向かう特急けごんは、さも当然のように満員御礼状態です。
東武線北千住駅の特急案内

それに比べて、東武桐生線に直通する我らが特急りょうもうには、日光方面ほどの人気は無いらしく空席はしっかりと残っていました。
北千住駅に入線する特急りょうもう
特急りょうもうに乗車するのは自身にとって初めての事です。新型車両が導入されているけごんに比べると、だいぶ年季の入った古い車両による運行です。

11時30分 相老(あいおい)駅に到着しました。この駅が東武線とわたらせ渓谷鉄道との接続駅となっています。
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なお、わたらせ渓谷鉄道はスイカやパスモなどの交通系ICカードには対応していません。ここまでICカードで乗車してきている場合には、一度出場にタッチしてから切符を購入する必要があります。
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ホームには入場と出場の二つのICカード読み取り機が設置されてますが、入場の方はあくまでわたらせ渓谷鉄道側から東武線に乗り換える時のためのものです。

あとで清算する際にとても面倒なことになるので、間違ってタッチしないよう注意を要します。

無人駅から乗車する場合は、乗車時に整理券を取って降りる際に清算します。要するに路線バスと同じ方式ですな。相老駅には駅員がいるため、普通に切符を購入して乗車します。
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最近はあまり目にしなくなった、昔懐かしの硬券切符です。

程なくディーゼルエンジンの音を轟かせながら気動車がやって来ました。個人的に、非日常的な旅情を感じさせてくれるので気動車は大好きです。
相老駅に入線する渡良瀬渓谷鉄道
このわたらせ渓谷鉄道と言うのは、もともとは足尾銅山で採掘された鉱石を搬出する目的で明治時代に創建された足尾鉄道を前身としています。

銅山の閉鎖後も足尾地方に住まう人々の足代わりとして使われ続けてきましたが、過疎化が進み通勤通学での利用者が減少した現在では、主に観光客を運んでいます。紅葉シーズン中にはトロッコ列車も運転しています。

渡良瀬川に沿って、上流部の奥地へと進んで行きます。秋の行楽シーズン真っ盛りであるだけに、車内はそこそこ混雑していました。
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わたらせ渓谷鉄道は単線であるため、上下線のすれ違い待ちのためにしばし駅に停車します。停車中にお弁当や土産物の販売などが行われたり、完全に観光列車の風情いです。

13時 通洞(つうどう)駅に到着しました。足尾駅の一つ隣の駅ですが、実は足尾地方の中心地により近いのは、足尾駅ではなくこの通洞駅の方です。
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足尾観光における最大の目玉であろう、足尾銅山跡地の最寄り駅となるのもこの通洞駅です。かなりの数の乗客がこの駅で下車しました。

駅のホームの紅葉が、とても良い感じに見ごろを迎えていました。麓の町がこれだけ紅葉しているという事は、山の上の方の紅葉はもう終わってしまっていそうですね。
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ここから、皇海山の登山口となる国民宿舎かじか荘へと向かう訳なのですが、残念ながらかじか荘まで乗り入れている路線バスは存在しません。歩いて行くか、もしくはタクシーで向かうことになります。
通洞駅の駅前
駅前にタクシー乗り場は存在しませんが、観光シーズン中には列車の到着時間にあわせて駅前に待機していることもあるそうです。本日はすでに出払っているのか、タクシーの姿は見当たりません。

ここからかじか荘までは、歩いて行けないこともない距離です。しかし今は、これから容易ならざる道程を歩こうとしている身の上であります。

余計な体力の消耗を押さえるためにも、ここは素直にタクシーを呼ぶことにします。

足尾タクシーに電話をかけて配車を依頼すると、およそ10分程でやって来ました。ちなみに、かじか荘まで歩いて行くつもりであれば、通洞駅からではなくお隣の原向駅が最寄りとなります。
通洞駅前へ侵入する足尾タクシー

13時35分 国民宿舎かじか荘に到着しました。ここまでの料金は確か3,300円くらいだったかな。
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本日宿泊予定の庚申山荘は、このかじか荘が管理しています。受付で一泊の宿泊料金2,080円を支払います。その際に登山届の提出を促されるので、ここで出して行きましょう。

登山計画書を提出すると、下山時に必ず報告に立ちよるようにと言い渡されました。この念の押され様から察するに、やはりそれだけ遭難者の数が多いルートなのでしょうな。

2.荒れ気味の林道と参道を歩き、宿泊地の庚申山荘へ

13時45分 身支度を整えて登山を開始します。登山開始時刻としては相当遅い時間ではありますが、本日は庚申山荘まで行けば良いだけであるため、慌てる必要はありません。
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問題なのは今日ではなく明日の方です。明日歩く予定のルートは、山と高原地図の標準コースタイムだと12時間5分になる計算ですが、かじか荘で聞かされた話では、平均するとだいたいみんな14時間くらいはかかっているという事でした。

やはり一筋縄では行かない道であるようです。

途中の庚申山までは、関東在住のハイカーにはすっかりお馴染みの関東ふれあいの道に含まれているコースとなります。もっとも、修験の山であったと言う事実からも察せられる通り、この庚申山自体もかなり険しい岩山ではありますが。
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かじか荘から少し進んだ所に、登山者用の駐車場があります。まだ暗いうちからここを出発して、皇海山を日帰りで登るもの好きも世の中には結構存在するそうです。私はやってみようとは思いません。
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この先もまだしばらくの間は舗装された林道が続きますが、一般車が入ってこれるのは先ほどの駐車場までとなります。ゲートを越えて、山中へと分け入っていきます。
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林道沿いの紅葉はほぼ終わりかけの状態でしたが、それでもいくらかは残っており、退屈な林道歩きを多少は楽しませてくれました。やはり今回の訪問時期は、少しばかり遅かったようです。
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途中から路面の舗装が無くなってダートになりました。林道歩きはこの後もまだしばらく続きます。
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道の脇には、鋭く切れ落ちた庚申渓谷の谷が連なります。紅葉の最盛期に訪れれば、さぞや壮観な光景を拝めることでしょう。
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このひしゃげたガードレールが雄弁に物語っている通り、この林道は落石の巣です。あまりゆっくりとはせずに、足早に通り抜けてしまったほうが無難だと思います。

進行方向の先に、尖った岩山が立っているのが見えてきました。あれが庚申山なのでしょうか。庚申山荘があるのは庚申山のすぐ直下なはずなので、今からあそこまで歩いて行かないといけないという事ですな。
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この散乱したガラ石の山は、天狗の投げ石と呼ばれています。たしか甲斐駒ヶ岳の仙水峠付近で、同じような光景を目にしたような記憶があります。
皇海山 天狗の投げ石

林道を小一時間ほど歩いたところで、ようやく登山口へと辿り着きました。
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14時55分 一の鳥居に到着しました。今から歩こうとしているルートは、かつて庚申山のひざ元に存在した猿田彦神社へと参拝するための参道であった道です。
皇海山 一の鳥居
案内にはあくまでも庚申山の登山口であると記載されているだけで、ここでは皇海山の名前はどこにも見当りません。

一の鳥居を過ぎると、ようやく登山道が始まります。小さな沢沿いに登り上げて行く、気持ちの良い道です。
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早くも傾き始めた西日が森の中へ差し込み、終わりかけの紅葉を茜色に照らしていました。
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江戸時代から続く歴史ある参道ということで、道中には多くの史跡が残っており、こうして案内板なども整備されています。安心の関東ふれあいの道クォリティです。
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・・・もっとも、こうして整備が行き届いているのは庚申山までであって、その先は酷い道でしたがね。

徐々に道が険しくなって来ました。初日は移動日のようなものだろうと高をくくっていたのですが、意外としっかり登らされます。明日ここを下るときには、きっと全身ズタボロの満身創痍状態なんだろうな。
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急坂を登りきると、前方の森に中に小屋の姿が見えてきました。
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16時15分 庚申山荘に到着しました。山荘のすぐ背後に庚申山があるらしいのですが、ガスってしまっており隠れてしまっていました。
庚申山荘
庚申山荘は素泊まりのみの自炊小屋です。照明設備なども一切ありません。普段は無人ですが、ハイシーズン中の週末に限り管理人が駐留していることもあります。

一階はいくつかの個室に分かれており、二階は大部屋です。布団が多数用意されており、寝具を持参する必要はありません。気になる人はインナーシーツを持参すると良いと思います。
庚申山荘の2階
この日はそこそこ多くの利用者で混みあってはいましたが、それでもスペース的にまだ全然余裕がありました。

水道もあります。と言っても近くの沢水を引いているだけなので、葉っぱなどの不純物が結構含まれていました。長雨が続くと濁ってしまう事もあるそうです。気になる人は浄水器を用意しておきましょう。
庚申山荘の水場
私はまったく気にせずに生水をガブガブと飲みましたが、その後特にお腹が緩くなったりはしなかったので、恐らく問題は無いと思います。

トイレは小屋の外にあります。男女兼用で一つしかないため、朝の出発時間帯には結構混みあいます。
庚申山荘のトイレ

薄暗い崖下に立っている小屋なので、日が落ちると周囲はあっという間に暗くなります。また、携帯の電波は入りません。
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早々と夕食を済ませた後はもう特にする事もないため、18時頃には布団へと潜り込みました。さあて、果たして明日はどんな一日になるでしょうか。怖いような、楽しみなような・・・Zzzzzz。

3.ライトの明かりを頼りに進む、庚申山への登り

空けて11月7日 4時30分
まだ周囲は真っ暗闇ですが、ヘッドライトを装着して二日目の行動を開始します。昨日は実に10時間以上もの睡眠をとったため、体調は万全です。と言うか、寝すぎて体があちこち痛い・・・
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本当は明るくなってから動き出したいところではありますが、行動時間の長さと秋の陽の短さとを鑑みるに、あまり悠長には構えていられません。

昨日かじか荘の人にも「とにかく早出しなさい」と散々脅されましたしね。

三山駆けの最初のピークである庚申山を目指します。距離はたったの1.4kmしかありませんが、その分かなり急な登りです。始めから気合を入れて行きましょう。
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なお庚申山へのルートとしては、直登ルートの他に通称お山巡りと呼ばれる、江戸時代の参拝路を辿るコースも存在します。ただしコースタイムは余分にかかるので、皇海山まで行く気があるのであらば直登ルートを行く方が無難です。

栃木県内の山で多く見かけるこの登山道の目印は、反射板になっておりライトを当てると光ります。たいへん分かり易く、これには大いに助けられました。
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クラシックルート上の最大の核心部と言えるのは皇海山の手前に立つ鋸山ですが、この庚申山も決して優しい山ではありません。暗くて周囲はよく見えませんが、かなり際どい所を歩いているらしいことは何となくわかります。
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ハシゴや鎖で、崖をよじ登る様な急峻な道がしばしの間続きます。道が分かり難い箇所も結構あるので、よく周りを観察しながら慎重に登ります。

視界が開けて、夜明け前の町の明かりが見えました。
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本日は歩こうとしている道が道だけに、流石に妥協して重くてかさばる一眼レフは家に置いてきています。普段はサブ機扱いの小型のミラーレスを使用していますが、やはりフルサイズ機に比べると高感度耐性には難があります。

崖を登りきって尾根に出たところで、ようやく周囲が明るくなり始めました。
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6時5分 庚申山に到着しました。真っ暗な中を歩いたので良く見えはしませんでしたが、なかなかアスレチックな山でありました。この山だけを目的に登ると言うのも、全然ありだと思います。
庚申山の山頂

山頂には展望がありませんが、少し先に進んだところに好展望スポットがあります。早速行ってみましょう。
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森を抜けると、目指す皇海山とこれから歩く尾根道とが視界に飛び込んできました。実質この場所こそが、庚申山の山頂であると考えて良さそうです。
庚申山から見た皇海山

ドッシリと構えた大柄な山です。決して名前負けしていない、名山と呼ばれるのに十分な貫禄があります。やはりこのクラシックルート上から眺めないことには、皇海山の真の魅力は分からないと思います。
庚申山から見た皇海山

皇海山の左手前の尾根上に立ちはだかっているのが鋸山です。この山の存在こそが、クラシックルートを難路たらしめているある種の要害です。
庚申山から見た鋸山

正面には奥日光方面の山並み。中央にピョコっと頭一つ飛び出しているのが日光白根山(2,578m)です。
庚申山から見た日光白根山

昨夜の内に霜が降りたらしく、足元に霜柱がビッチリと生えていました。今にして思えば、これこそが後に訪れるこの日最大の恐怖体験の前兆であった訳なのですが、この時は特に気にもかけていませんでした。
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4.三山駆けのクラシックルートへと足を踏み入れる

さあ、まだまだ先は長いので前進を再開ましょう。庚申山からは一旦下りです。
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ヤセ尾根を行く油断のならない道がしばしの間続きます。本当にあっているのか不安になるような場所もありますが、尾根を忠実に辿るのが正解です。
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下りきると、笹が茂る幅広で歩き易い尾根になりました。この辺りはまだまだ、来る嵐の前の静けさと言ったところです。
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小ピークを登りきると、御岳山と書かれた標識が掲げられていました。地図には記載の無い山名です。
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鋸山と皇海山が見上げる高さになってまいりました。この辺りはまだ道も歩きやすく、短時間の内に見る見ると近づいていきます。
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唐突に始まるエグイ登り。九十九折れの道などと言う登山者を甘やかすものは、ここには一切存在しません。まっすぐに直登です。
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暗く寒々しかった登山道を、ようやく眩い朝日が照らし始めました。冷え切っていた体が温められてゆくのを感じます。
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続いて渓雲岳という、これまた地図には記載の無い小ピークを越えます。こうした尾根上のコブ程度のピークにまでいちいち名前がついている辺り、歴史ある道なのだという事が伺えます。
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だいぶ笹がうるさくなってきましたが、今のところはまだ迷うような要素もなく、はっきりとした道筋が続いています。
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南側の視界が開けました。正面に見えているのは袈裟丸山(1,961m)でしょうか。皇海火山と呼ばれる、相当古い時代に形成されたの火山です。
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袈裟丸山はヤシオツツジの名所らしいので、アカヤシオが咲く頃に訪問してみたいと思っている一座です。交通アクセスが結構厄介な山であるようですが。

鋸山がかなり近くなって来ました。見たところ絶壁に囲まれているようにも見えますが、アレの一体どこをどう登るのでしょうか。
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鋸山へ挑む前に、もうひと山越えて行く必要があります。またもや結構な急坂でしたが、前日に10時間以上も睡眠を取った効果なのか、やけに絶好調で足が良く前に出ました。
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7時30分 薬師岳に登頂しました。ここが鋸山手前の最後の小ピークとなります。ストックを使用している人は、この先は邪魔になるのでここで収容しましょう。
薬師岳の山頂

5.鋸山へと続くクラシックルートの核心部

ここからはヘルメット装着で行きます。さあ、気を引き締めて参りますよ。
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またも急な登りをグイグイと登ると、先ほどの薬師岳よりも断然眺めが良い小ピークがありました。ここには特に名前などは無いようです。
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日光方面へと続く、渡良瀬川源流域の山並みです。尾根沿いに縦走することも可能ではあるようですが、薮に覆われた道なき道を行く玄人向けの道です。少なくとも一般登山者が気軽に歩けるような道ではありません。
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皇海山が目の前にあります。これだけ近ければもうすぐにでも到着しそうなものですが、しかしそう簡単にはまいりません。
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片側が完全に切れ落ちた、断崖絶壁に沿って進みます。落ちたら確実に滑落ではなく墜落になる高さなので、慎重に参りましょう。
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いよいよ鋸山がその全容を見せました。・・・それで、この崖の一体どこを登れと言うのでしょうか。
鋸山

良く見ると、先行者がありえない場所に貼り付いている姿が見えました。なるほど、あそこを登るのか。
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その前に、まずはここを下らなければなりません。このクサリ場、途中から先が見えないんですけれど・・・
鋸山のクサリ場

下りてから振り返るとこんな感じです。90度近い角度になっている部分もありますが、よく観察すれば足を乗せられる突起はあります。焦らずによく足場を探って慎重に下ってください。
鋸山のクサリ場

下って早々ですが、すぐに登り返しです。下から見上げると、ほとんど絶壁ですなこれは。
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取り付き地点までは岩場のトラバースです。トラバースが大の苦手な私は、この後の登りよりもこの取り付きの方がよほど肝を冷やしました。
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恐怖のトラバースが終わるとすぐに登りです。皇海山はもともと火山であり、この岩は冷え固まった溶岩石です。表面にざらつきがあるため極めてグリップが良好で、見た目の恐ろしさとは裏腹に結構スイスイと登れます。
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流石に張り付いている最中に写真を撮る余裕はなかったため、登り切ってから振り返って見たところです。ここが鋸山の核心部であろうと、この時はまだそう思っておりました。この後に待ち構えていた真の恐怖の事などはつゆとも知らずに・・・
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先ほど下った垂直のクサリが良く見えます。まったく、こんな所をわざわざ歩こうとするだなんて、修験者と言うのは揃いも揃ってなんと言うもの好きなの人達なのでしょうか。
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勝手にやり切ったムードを漂わせてしまっていますが、鋸の歯の如き尾根を辿る道はまだ続きます。ほら、まだ気を抜くな。キリキリ歩け。
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何気ないトラバースですが、先ほどの登りよりもよほど怖いんですけれど。
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小さいハシゴが掛けてあったり。写真だと分かりにくいですが、左右は両側とも切れ落ちた断崖絶壁です。
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上ったり下りたりと忙しい道です。まさに鋸ですね。何事もなかったかのようにコメントしておりますが、背を向けてハシゴに取り付く瞬間がかなり怖いポイントです。
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例えばこういうのはどうだろう。もうクサリ場は終わりにしないかい?(提案)
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若干泣き言が入ってきたところで、ようやく終わりが訪れました。
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8時45分 鋸山に登頂しました。いやー緊張した。なかなかどうして、手に汗握る道のりでありましたよ。確かにこれはとても一般向けであるとは言い難い道でしたな。
鋸山の山頂

ここまで歩いて来た庚申山方面への尾根を振り返る。このクラシックルートにおける最大の見せ場は、間違いなくこの鋸山越えです。皇海山の本体などは、最早オマケみたいなものだとさえ思えます。
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6.皇海山登山 登頂編 忘れた頃にやって来た真の核心部と、地味なる山頂

最大の核心部は無事に乗り越えました。もうあとは、山頂に向かってビクトリーロードを突き進むだけです。・・・この時はそう思っていました。
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しかし、真の核心部は思わぬ場所に潜んでいたのです。鋸山の日陰となる北側の斜面には、びっりちと霜が降りて凍り付いていました。・・・この岩、すごい滑るんですけれど。
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動揺のあまり、周りの景色を眺めてしばしの現実逃避です。麓のカラマツ林の紅葉が見事ですねー、右奥には赤城山(1,828m)の姿も良く見えています。
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・・・オーケイ、そろそろ現実と向かい合おうか。まず靴のグリップは全くもって信用が置けません。ほぼ100%滑ります。
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となれば、ロープと木の根を掴んで腕の力だけで態勢を整えながら、強引に滑り下りるしかありません。もし途中で手を離してしまったら・・・良くて大怪我。最悪墜落死ですかね。

何とか恐怖の凍結地帯を突破して人心地つくことが出来ました。鋸山からの下りについては全くもってノーマークであったため、かなり気が動転しましたよ。
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8時45分 不動沢のコルまで下って来ました。ここは鋸山と皇海山の間の鞍部であり、現在は廃道状態となっている群馬県からの登山ルートとの合流地点でもあります。
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厳密にいうと、群馬県側の登山道自体は廃道になってはいません。ただし、登山口に至る栗原川林道が車両通行止めのまま復旧される見込みもないため、事実上の廃道状態であると言うだけです。
不動沢のコル
栗原川林道は徒歩でならば通り抜けは出来るらしいのですが、あまりにも距離が長すぎるため、現状群馬県側からのアプローチは現実的ではありません。

皇海山の本体に向かって最後の登りです。不動沢のコルからはサクッと往復できるのかと思いきや、意外としっかり登らされます。標準コースタイムで言うと1時間の登りです。
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皇海山は山頂には全く展望がありませんが、途中に一か所だけ開けた眺望スポットがあります。と言ってもこの程度ですけれどね。
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先ほど乗り越えて来た鋸山の姿が見えます。一目見ただけで、ヤバいヤツだという事が良くわかる姿をしておりますな。
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山頂直下はかなり急な登りです。遠目に見てもかなり急峻な山容をしていましたから、まあ当然と言えば当然ですかね。
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体調は相変わらず絶好調で、結構なハイペースで飛ばして登ります。やはりいつだって睡眠はとても大事ですね。

この剣が現れたら、山頂はもう目の前です。さあ、雄叫びをあげながらゴールを決めましょう。・・・いやまあ別に、嫌だったら無理に叫ぶことはありませんが、私はちゃんと叫びましたよ。
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10時15分 皇海山に登頂しました。庚申山荘を出発してから、実に5時間45分をかけての登頂です。いやはや、噂に違わぬ手ごわい道程でありましたよ。
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山頂の様子
展望も何ない静寂な空間です。確かに群馬県側から登って来た人からすれば、つまらない山であったことでしょう。深田久弥がこの山を百名山に選んだのは、あくまでも鋸山とのセットで評価した結果なのだろうと思います。
皇海山山頂の様子

眺望は無いのですが、木の間からちょこっとだけ燧ヶ岳(2,356m)が見えました。つまり、あの辺りはもう福島県だという事です。
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7.皇海山登山 下山編 忘れたころに再び訪れた核心部と、笹薮に埋もれた六林班峠

10時40分 そうそう気軽に来れる場所でもないので名残惜しくはありますが、僅かな山頂滞在時間で再び行動を再開します。
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何しろ、本日はかじか荘まで帰り着かなければなりませんからね。まだまだ先は長いのです。

11時10分 サクサクとテンポよく下って、割とあっさりと不動沢のコルまで戻って来ました。
皇海山 不動沢のコル

下山は六林班峠経由の巻き道を歩くつもりでいるのですが、六林班峠方面への分岐地点は鋸山の山頂にあります。つまり、またあそこまで登り返さないといけないという事です。
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笹の尾根道を緩やかに登り返します。この辺りはまだいい。問題なのは、あの凍り付いたスリップ地帯の登り返しです。願わくば、気温の上昇と共にあの霜がとけていますように。
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左手には、日光連山の山々が綺麗に並んでいるのが良く見えました。確かに男体山の山頂からは、中禅寺湖越しに皇海山の姿が良く見えていように記憶しています。当然ながら、逆もまたしかりな訳ですな。
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これは右手前が黒檜岳(1,976m)で、右奥が社山(1,827m)かな。南側の斜面が禿山状態になっているのは、足尾銅山から出ていた鉱毒を含む煙の影響だと言われています。
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鋸山本体に取り付いたところで、急な登りが始まります。霜はとけておらず、下った時のままの状態でした。。
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その後はすっかりと気が動転してしまって写真を撮る余裕もなかったため、これは登り切った後に見下ろしたところです。
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下りれたんだから登れるだろうと、登り返しについては楽観視していたのですが、しかしそう簡単には行きませんでした。下るときは強引に滑り下りた訳ですが、登るとなると同じことは出来ません。

結局はまたも腕力頼みで強引に、色々なものを掴みながら何とか登り返しました。

11時50分 鋸山に戻って来ました。結局のところ、このクラシックルートにおける最大の核心部は、鋸山への登り返しであると言う、まったく予想だにしていなかった事態でありました。
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凍ってさえいなければ、そこまで難しいポイントではありません。紅葉ももう既に終わってしまっておりますし、ちと訪問の時期が遅すぎたようですね。

皇海山の姿はもうこれで見納めです。さらば皇海山。恐らくたぶんもう、再訪することは無いでしょう。
鋸山から見た皇海山

この先は元来た道へは戻らずに、六林班峠方面へと進路を転じます。
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何だかいかにも楽に歩けそうな尾根が続いているのを見て、ほっと安堵のため息をつきそうになる所ですが、しかし現実はそう甘くありません。
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この先もかなり酷い道が続くので覚悟してください。皇海山には最後まで慈悲はありません。

それにしてもこのカラマツ林は綺麗ですね。この森の中を栗原川林道が通っていた訳ですが、前述の通り現在は廃道状態です。
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まるで小金沢連嶺を思い出すような気持ちの良い笹の尾根道ですが、しかし長くは続きません。
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すぐに足元が崩壊気味の、危なっかしいトラバースに変わりました。
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背丈を越えるような笹薮の中を突っ切ります。ひたすら「ロックリンパーン♪」と繰り返すだけの即興のメロディーを口ずさみながら下りました。
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・・・恐怖の凍結地帯を無事に突破した安堵感からなのか、少しばかりおかしなテンションになっていたようで。

栗原川林道の通行止めに伴い、今後はクラシックルートを歩く人が増えるであろうことを見越して、この道は最近になって大々的な整備が加えられました。
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確かにこうしてしっかりと整備はされています。されてはいますが、しかし歩きやすいかと問われれば答えは明らかにノーです。でも昔はもっと酷い道だったということですよね。

大丈夫です、別に迷子にはなっていません。もともとこう言う道なだけです。
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笹薮と格闘する事おおよそ一時間。ようやく峠が見えました。
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13時 六林班峠に到着しました。ここは袈裟丸山方面へと続く縦走路との分岐地点です。話に聞く限りでは、かなり長く苦しい道程であるようですが。
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8.庚申山荘へと続く、ひたすら長い巻き道を駆け抜ける

峠からは、ぐるりと進路を転じてトラバースに移ります。往路に歩いて尾根道の中腹付近をずっと迂回しながら庚申山荘に戻るイメージです。
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この巻き道は比較的フラットで歩きやすい道ですが、ただしひたすら長いです。庚申山荘までは山と高原地図の標準コースタイムで2時間15分の行程です。
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かじか荘の人曰く、だいたいみんな2時間30分くらいはかかっていると言っていました。

途中で何度か沢を横断します。水の残量に不安がある人は給水して行きましょう。キンキンに冷たくてとてもおいしい。
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沢を横切る地点は所々で崩落しており、なかなか簡単には歩かせてくれません。
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この崩落地も、最近になって足元に土嚢を敷き詰める整備が行われてだいぶマシになりましたが、以前はもっと通行に難儀するポイントでした。
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尾根上を歩くのとどちらが安全かと問われれば、まだこちらの方がいくらかはマシでしょうかね。
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百名山ハントをしているのだけれど、クラシックルートを歩ける自信がないと言う方は、この六林班峠経由のルートを往復するのが現状で唯一の選択肢でしょうか。

かなりの遠回りになるので、庚申山荘に2泊しないと難しいかもしれません。

標高が下がって来たことにより、周囲に紅葉が戻って来ました。だいぶ日も傾いてきたため、この辺りからは半分駆け足のようなペースで歩きました。
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進めど進めど終わりの見えない道に、いい加減ウンザリしてきたところで、ようやくこの苦行の終わりが見えました。
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15時10分 庚申山荘に戻って来ました。昨日はガスっていて見えていませんでしたが、庚申山と言うのはこんなにも立派な岩山だったんですね。
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さあ、最後の仕上げです。かじか荘に戻りましょう。この日は最後まで絶好調で、途中で失速することもなく足が前に出続けました。やはり睡眠はとても大事です。
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16時 一の鳥居に戻ってきました。日没までは残すところあと30分少々です。何とかヘッドライトを取り出さずに歩き切れるかな。
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最後の林道歩きが地味に長い。そうした点までを含めて、このルートは苦行だと言われ続けているのでしょう。
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17時 かじか荘に戻って来ました。受付で下山の報告を済ませつつ、再び足尾タクシーに電話をかけて配車を依頼します。
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以前は下山後にここで温泉に入れたらしいのですが、現在はコロナ対策の一環として、日帰り入浴の受付時間が15時までに短縮されてしまっていました。残念!

タクシーに揺られて通洞駅に戻って来たときには、もう辺りはすっかりと暗くなっていました。
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駅で40分ほど待ってやって来たわたらせ渓谷鉄道で撤収します。
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貸し切り状態でこそなかったものの、昨日の昼間の喧騒が嘘の様に、車内は閑散としていました。
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相老駅から往路と同様に特急りょうもうへと乗り込み、帰宅の途につきました。
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皇海山クラシックルートは、前評判に違わぬかなりの険路でありました。私の感覚ですと、同じく危険な山として名高い剱岳の別山尾根よりも、総合的な難易度は高いように感じました。
剱岳は基本的に、どこを掴んでどこに足を乗せるべきなのかが比較的明瞭である場合がほとんどなのですが、皇海山のクサリ場はそもそもどこに足を乗せてよいのか悩む場面が多く、ルートファイティング能力を求められます。また至る場所で道が崩れており、長めのコースタイムも相成って、最後まで集中力を維持し続けるのは容易なことではありません。皇海山は誰にでも登れる山ではなく、登る者を選ぶ山です。
決して楽な道程ではありませんが、修験の道を行くことで得られる体験は、ここにしかない唯一無二ものです。皇海山を歩くのであれば、ただ山頂を踏むのではなく、是非ともこのクラシックルートを歩いてみてほしいです。

<コースタイム>

1日目
国民宿舎かじか荘(13:45)-一の鳥居(14:55)-庚申山荘(16:15)

2日目
庚申山荘(4:30)-庚申山(6:05)-薬師岳(7:30)-鋸山(8:45)-不動沢コル(9:35)-皇海山(10:15~10:40)-不動沢コル(11:10)-鋸山(11:50)-六林班峠(13:00)-庚申山荘(15:10)-一の鳥居(16:00)-国民宿舎かじか荘(17:00)

皇海山山頂での記念撮影

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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