三重県と滋賀県の境界上に連なる鈴鹿山脈にある、鈴鹿セブンマウンテンを縦走して来ました。
かつて開催されていた鈴鹿セブンマウンテン登山大会の目的地であった山々です。縦走2日目の今回は石榑峠からスタートして、釈迦ヶ岳と雨乞岳を越えて御在所岳を目指します。当初は7座全てを縦走する計画でしたが、諸々あって5座目の御在所岳まででリタイアする結果となりました。
色々と波乱万丈だった、鈴鹿セブンマウンテン縦走2日目と3日目の記録です。
2024年6月4~5日に旅す。
縦走2日目は釈迦ヶ岳と雨乞岳に登り、御在所岳の少し手間の七人山のコルまで歩くことを計画していました。しかしこの雨乞岳が難物と言うか、鈴鹿山脈の中でも奥まった場所にあり、少々遠すぎました。
前日の疲れが十分に抜け切れていないかったところに、道中のアップダウンの連続にすっかりと打ちのめされて大幅に失速し、雨乞岳に到着したのは日没後の事でした。
暗がりの中、当初の予定とは異なるバリ―エーションルートの県境尾根に迷い込むアクシデントもあり、思っていた以上に時間と体力を消耗することとなりました。
中断か続行か最後まで揺れ動きましたが、最終的には今すぐにでも温泉に入りたいという気持ちが勝り、御在所岳からロープウェイで下山する運びと相成りました。
計画未達に終り不完全燃焼感が漂う結果となった、縦走2日目と3日目の模様をお届けします。
コース
石榑峠近くの縮地からスタートし、三池岳をへて釈迦ヶ岳へ。釈迦ヶ岳から雨乞山へ縦走したのち七人山のコルでテント泊の予定でしたが、県境尾根コースに迷い込み予定と異なる地点で1泊しました。
翌日は沢谷峠を経て御在所岳に登頂したのち、ロープウェイで下山しました。
1.釈迦ヶ岳の前座、三池岳
4時40分 石榑峠近くの野営地よりおはようございます。前日の夜遅くまで歩き回った疲れが、少しは取れているような取れていないような微妙な体調ですが、どもかく始動します。
まだ夜明け間の時間ですが、東の空がオレンジ色に染まりつつありました。テントの撤収作業を進めつつ、ご来光の時を待ちます。
朝日が昇って来ました。「あーたーらしーい あーさがきたー」と、いつものように脳内でラジオ体操のテーマが自動再生されました。
多少雲がかかってはいますが、伊勢湾の上空は晴れ渡っていて本日も良いお天気になりそうです。願わくば、あまり暑くはなりませんように。
昨日登った竜ヶ岳は雲の中に隠れていました。ちょうど鈴鹿山脈の上空にだけ薄く雲がかかっているような状態です。この程度であれば、ある程度気温が高くなって来れば雲は上に抜けてくれるでしょう。
5時30分 のんびりと撤収作業を終えたところで、縦走2日目の行動を開始します。初日に踵が靴擦れしてしまったのでテーピングで応急処置をしてありますが、痛みが完全になくなる訳でもなく、立ち上がりから不安感が付きまとう展開です。
石榑峠を出てしばらくの間は、急登個所もなく緩やかな登りが続きます。ウォーミングアップには程よい塩梅です。
鈴鹿山脈は太平洋側にある山地ながら積雪量が多く、稜線上にはあまり大きな木が育ちません。おかげでこうして所々で展望が開けている場所があり、海を望みながら歩ける気持ちの良い尾根道です。
真砂(まさご)と呼ばれる、風化した花崗岩の白い砂地が目につきます。鈴鹿山地の南側は、主に花崗岩できた山が主です。
行く先の稜線が依然として雲に覆われたままで、三池岳や釈迦ヶ岳の姿が一切見えないのが気がかりです。私が到達するまでに、取れてくれると良いのですが
登り一辺倒ではなく、緩やかにアップダウンを繰り返します。この辺りはまだキツイ登りもなく、それこそ鼻歌混じりに歩けるような尾根道です。・・・本当にキツくなるのは、釈迦ヶ岳を過ぎてからです。
真砂が露出したザレ場を直登する箇所が何度か出現します。手掛かりに乏しく、ここでは少々苦戦を強いられました。登りはともかく、反対向きに下るのは結構怖そうです。
今にも崩落に巻き込まれそうな際どい場所もあり、安心安全な尾根道のようでいて注意を要する場面が結構あります。石榑峠からの釈迦ヶ岳は、難易度判定的には初心者向きという感じではないです。
良い感じに稜線上にかかった雲が取れました。今正面に見えているのは鈴鹿セブンマウンテン一つであるの釈迦ヶ岳ではなく、その前座とでもいうべき三池岳と言うピークです。
山頂まで登って来ました。頭上が開けていて、真砂が白く輝く気持ちの良いピークです。
7時40分 三池岳に登頂しました。本日の行程における最初のチェックポイントと言ったところです。厳密に言うと三池岳の最高地点はここではなく、さらに5分ほど進んだ縦走路からは少し外れた位置にあります
これから歩く釈迦ヶ岳へと続く稜線が一望できます。釈迦ヶ岳は依然として雲を被ったままですが、かなりの速さで西から東へ雲が流れているので、そのうち取れてくれることでしょう。
アップダウンはそれほどキツくはなさそうですが、それにしてもちょっと遠くない?と言う感想を抱いたわけなのですが、釈迦ヶ岳から雨乞岳に至る区間はさらに遠かったというのは、まだ先の話です。
2.鈴鹿セブンマウンテンの中では比較的地味な釈迦ヶ岳
行動食をつまんで軽くエネルギー補充を済ませたところで、先へと進んで行きます。この先はほぼ同じような高さの尾根を、ひたすら小刻みに登って降りてします。
どこか丹沢主脈を思わせるような光景で、日帰りで荷物が軽かったら、それこそスキップでもしながら歩けそうな気持のよい尾根道です。もしも近所に住んでいたら、間違いなく足繁く通うだろうなと思います。
ちなみに現在地は標高1,000メートル未満です。この標高でこれほどに植生が乏しく視界が開けているのは、冬の積雪と多雨と言う鈴鹿山脈の気象条件の厳しさによるものです。
鳥居が立っており、何やら日本庭園を思わせるような装いの光景です。
8時10分 八風峠に到着しました。かつて近江の商人達が伊勢の国へ行商へ出かける際に通ったと言う、八風街道がこの峠を越えていました。八風街道は北へ大きく回り込んで関ヶ原を通る東海道の短絡路として、非常に重要な街道でした。
八風街道の正当な後継である国道421号線は八風峠ではなく石榑峠を越えていますが、現在でも滋賀県と三重県を結ぶ重要な幹線道路であることに変わりはありません。
ただの通過点程度に思っていた場所に、思わぬ歴史ロマンが埋まっていました。
先へ進みましょう。相変わらずの小刻みなアップダウンが続き、気付かぬところでジワジワと累積疲労が積み上がってゆきます。
平野部の上空は雲一つない快晴状態で、ちょうど鈴鹿山脈の上にだけ雲が沸き立っているような状態です。鈴鹿山脈は琵琶湖の上空を通って来た湿った空気の通り道になっているため、1年を通じてこんな感じの空模様であることが多いようです。
風向きが反対になっても、今度は伊勢湾上空の湿った空気が流れていくだけなので、風向きがどう転ぼうとも雲が沸き立つ宿命にある山脈だと言えます。
山肌が大きく崩れて、花崗岩が露出している場所が多く見られます。これも雨や雪で表土を削り取られた結果なのでしょう。
崖際ギリギリの結構際どい場所に登山道が付いています。落ちたらタダでは済まない高さなので、ここは慎重に行きましょう。
シロヤシオらしき木が目立ちますが、もうとっくに花のシーズンは終わっているため咲いている花は残っていません。うーむ、これは訪問する時期を間違えてしまったのかもしれない。
ここでついにヤマビルと遭遇しました。靴の上を這っているところをデコピンで迎撃して被害はありませんでしたが、やはり出るのかと暗澹たる気分になりました。ここからは足元を警戒しないといけません。
雲が取れて釈迦ヶ岳の本体が姿を見せました。あともう一息の距離です。頑張って登りましょう。
山頂に向かってラストスパート・・・と言いたいところですが、ラストではないし、なんなら釈迦ヶ岳は本日の行程における前座的な立ち位置でしかありません。すでに結構お疲れ風味なのですが、先が思いやられます。
9時45分 釈迦ヶ岳に登頂しました。鈴鹿セブンマウンテンの3座目を踏破です。石榑峠からの所要時間はおよそ4時ほどと、結構な距離でした。
ちなみにこれでも、標準コースタイムよりはほんの少しだけ巻いています。やっぱり遠くない?
展望は東側だけが僅かに開けているのみで、鈴鹿セブンマウンテンの中では一番地味な山頂です。この山頂で、ようやくこの日始めとなる他の登山者と遭遇しました。あまり人気は無い山なのかな。
3.猫岳を越えてゆく、意外に遠いハト峰峠への道程
先へ進みましょう。実のところ釈迦ヶ岳までの道程は、本日の行程におけるウォーミングアップでしかありません。本当の苦難はここから始まるのですが、この時の私はまだそのことを知りませんでした。
釈迦ヶ岳の山頂を過ぎて以降はしばしの間、眺めのよい崖際の道を行きます。くれぐれも足元には要注意です。よそ見ダメ絶対。
足元に四日市の街並みを見下ろせます。四日市では冬の間に鈴鹿山脈から吹き下ろしてくる空っ風の事を、鈴鹿颪(おろし)と呼ぶそうです。この~颪と言う呼び名は、結構全国各地に存在します。六甲颪や赤城颪などは特に有名です。
分岐が現れました。ハト峰峠方面へ下って行きます。釈迦ヶ岳までは尾根沿いのほぼ一本道でしたが、この先は分岐が多数あります。自分が歩くつもりでいる道順を良く確認しておきましょう。
前方に予定では明日登ることになっている御在所岳が姿を見せました。鈴鹿山脈の中では人気・知名度ともに最も高い山です。ちなみにこの山にはロープウェイとリフトがあるので、一切登山をしなくても山頂に立てます。
このままハト峰峠まで下って行くのかと思っていたら、その前にひと山立ちはだかりました。猫岳と言う名のピークです。
この猫岳への登り返しが地味にしんどい。下って行くだけだと思っていたところにキツめのアップダウンを追加されたので、肉体面よりも精神面にダメージを負いました。
ええいッ気合いだ気合。人生において直面する困難の8割5分くらいは、気合と筋肉あればだいたい解決できると相場は決まっているのです。
10時45分 だいぶヘロヘロになりつつ、猫岳に登頂しました。なるほど猫耳っぽい岩がありますな。
実はこの猫岳、釈迦ヶ岳と標高が40メートルくらいしか違いません。ほぼ下った分をまた登ったようなものです。
展望も一応ありますが、釈迦ヶ岳山頂からの眺めと大きな違いはありません。ここから眺めるべき理由は特にないので、先へ進みましょう。
今度こそ峠に向かって下って行きます。最終的に釈迦ヶ岳から300メートルほど標高を落とします。鈴鹿さんはなかなか容赦がありません。
鈴鹿セブンマウンテン4座目となる、雨乞岳の姿が視界に入りました。・・・これは、いくら何でも遠すぎませんか?しかもこの後、何回アップダウンがあるんだろう。
なかなか心をへし折りに来る距離感ですが、ともかく前進を続けます。人生において直面する困難の8割5分くらいは、気合と筋肉あれば以下略。
谷底へ降りて行く過程で、愛知川渓谷や朝明渓谷と言った渓谷へ降りて行く分岐が何ヵ所かに現れます。雨量の多い山脈だけに、渓谷地形が発達しているのでしょう。
なお何れの渓谷へ下っていっても、登山口となる場所にバスなどの公共交通機関は乗り入れていません。ここまで来たら、御在所岳まで歩かないことにはエスケープの手段は存在しないと言う事です。
鈴鹿山脈は全般的に、公共交通機関利用の登山者にはあまり易しくはない山域です。駅から直接登ることのできる藤原岳だけが、例外的な存在と言えます。
地図にも記載がないような小さな沢が複数あり、至る所から水が染み出て来るウェットな空間です。いかにもヤマビルが好みそうな環境で、足元への警戒感が高まります。
そろそろ峠に着く頃のはずなのですが、その前に白く輝く花崗岩のピークとも呼べないような小さな盛り上がりが現れました。
一応は羽鳥峰と言う名称がつけられているようです。ここまでずっと道標上にはハト峰峠と書かれていましたが、漢字で書くと羽鳥峰らしい。
なにやらナスカの地上絵よろしく、真砂の上に石で巨大な絵が描かれています。この光景は何かのメディア上で目にしたことがある気がするので、有名なのかもしれません。
どう見ても猫の絵なのにハトと書かれいるのはご愛嬌として、誰が何を目的に始めた事なんでしょうかね。宇宙へのメッセージかなにかなのか。←たぶん違います。
12時5分 ハト峰峠に到着しました。この場所が本日の行程における、ほぼ中間地点となります。
石榑峠を出発してから既に6時間以上が経過していますが、この後もさらに6時時間くらいはかかると言う事なのだろうか。それは流石にしんどいな。
計画を立てた段階から薄々感じてはいましたが、やはり2日目の行程にはだいぶ無理があった様な気がします。
石で絵を描かないでくださいとの注意喚起が、わざわざ掲げられていました。まあ当然か。
4.アップダウン地獄の金山と水晶岳を越える
ハト峰峠を過ぎると、待ちかね(?)のアップダウンが再開します。このハト峰峠周辺の区間は、距離の割にやけにコースタイムが長めだなとは思っていましたが、歩いてみて納得です。平坦な箇所がほぼありません。
一つ提案があるのですが、いちいち下るのはもうやめにしませんか。
下った後は当然登り返し。疲労で徐々に足が前に出なくなって来ましたぞ。日帰り装備ならまだしも、テントを背負った状態で1日10時間以上の行動時間は、そもそも計画自体が無謀であったか。
金山と言うピークがありますが、登山道は山頂を通らずに脇をかすめています。大した距離ではないので、一応はピークを踏んでいきましょう。
12時45分 金山に登頂しました。分岐からはそれそこ1~2分の距離です。なかなかの好展望地なので、立ち寄って行くことを推奨します。
ここまで歩いて来た釈迦ヶ岳と猫岳の姿が良く見えます。流石に強い疲労感を覚えたので、ここでザック落として釈迦ヶ岳を出発して以来となるまともな休憩を取りました。
20分くらいグッタリし、多少は疲労が取れた感じがしたところで行動再開です。少しばかりペースを上げて行かないと、昨日に続いてまた真っ暗になるまで歩くことになってしまいます。
ここでもザレた崖際の結構際どい場所を歩きます。そう遠くはない将来に、崩れて道が付け替えになるのではなかろうか。
もう何度目になるのかもわからない鞍部が現れました。水が抜けたような跡が複数あり、季節によっては湿地になったりするのかな。
13時45分 中峠を通過します。金山を越えて来たというだけで、またハト峰峠と同じくらいの標高にまで下って来たことになります。
続いて今度は水晶岳と言うピークに向かって登り返します。本当に登ったり下りたり忙しいルートですな。
ここでも、沢とも言えないような小さな水流が複数あります。ずっとヤマビルに警戒していますが、一度遭遇して以降は今のところまだ出没していません。数はそれほど多くは無いのかな。
水晶岳のピークは登山道から少し外れた場所にあります。既にだいぶ時間も押して来ているので、さも当然のようにスルーしました。
大きく洗堀されている道を下って行きます。地図の等高線を見た限りでは、この水晶岳まででアップダウン地獄はひとまず終わるはずです。と言ってもまだ、雨乞岳へ登り返しと言うメインイベントが控えてはいますが。
14時30分 根の平峠まで下って来ました。ここから直進すれば御在所岳に至るのですが、その前に雨乞岳への大迂回が始まります。
5.愛知川渓谷を通り杉峠を目指す
根の平峠は四方に道が伸びる四差路となっていますが、雨乞岳を目指すにはタケ谷と書かれた方へ下って行きます。道標に雨乞岳の名は書かれていないので注意を要します。
谷底に向かって緩やかに下って行きます。ちなみにこの後、雨乞岳の山頂まで500メートルくらい登り返します。
何度か沢を渡渉します。花崗岩に磨かれた美しい清流です。ここでザブザブと顔と言うか頭全体を洗ってクールダウンしました。冷たくて気持ちが良い。
谷底に近づくにつれて、複数の沢が集まって来てちょっとした湿地帯のような光景です。鈴鹿の上高地と呼ぶ人もいるのだとか。確かにどこか上高地っぽい光景だとは思います。
上水晶谷と呼ばれる沢を渡ると、道は再び下りから登りへと転じます。
杉峠までまだあと100分もかかるらしいと言う事実に、暗澹たる気分になって来ました。雨乞岳は遠い。遠すぎる。
ここから杉峠まで、愛知川源流の沢を遡って行きます。川沿いの緩やか登り坂は歩きやすく、ここまでのアップダウンの連続でだいぶやさぐれて来ていた気分をいくらか和ませてくれました。
この辺りは鈴鹿山脈の中でも最奥部と言って良い場所ですが、沢沿いには炭焼き窯の跡などの昔から人の手が入っていたことを示す痕跡が残っています。古くから人との係り合いが強い山であったことが伺えます。
16時5分 コクイ沢出合まで歩いてきました。二つの比較的大きな沢がここで合流しています。
登山道は沢の左側に続いてるのですが、合流地地点をパスするために都合2回の渡渉を行う必要があります。沢の水量は結構多めですが、なんとか靴を脱がず飛び石伝いにれました。
沢の右側を歩いて合流地点をパスしたのちに、再び対岸に戻ります。取り付き地点は崩れかけており、這い上がるのにはかなり難儀しました。
暫しの間沢沿いの道が続きます。この辺りは本当に歩きやすくて、水の流れる音が心地よい空間です。
しかしそんな安息の時は長くは続きません。沢沿いを離れると、杉峠に向かって一気に標高を上げ始めました。
前方の雨乞岳の姿が見えて来ました。まだまだかなりの標高差が残っているのは一目瞭然です。え、今かあれに登るの?正気ですかい。という気分になって来ましたぞ。
17時10分 御池鉱山旧跡まで登って来ました。ここにはかつて主に銅や銀を採掘する鉱山が存在し、昭和30年まで採掘が行われていました。
最盛期には300人ほどがここに暮らしており、小学校まであったのだとか。こんな山奥に。
当時の建物は全て解体撤去されていますが、石垣などの痕跡が残っています。平場があり水を取れる沢もすぐ近くにあることから、ここも幕営適地の一つです。
今にして思えば、ここでこの日の行動を切り上げて一泊していれば、あるいは7座全ての縦走を完遂出来ていたかもしれません。既に時間も押していたし、なによりもう疲れ果てていましたから。
しかしそれでは最終日3日目の行動時間が長くなりすぎてしまうと思い、結局は行動続行を決めてしまうのでした。
鉱山跡から杉峠までは、さらに20分程の急登を登る必要があります。道がかなり分かりづらい場所もあるので、目印のピンクテープを見失わないように注意を要します。
17時55分 杉峠まで登って来ました。当初の予定ではもうテント張っていたはずの時間ですが、途中から大きく失速してしまいました。いやはやしんどい。
6.暗闇が迫る中を雨乞岳に登頂し、そして道に迷う
雨乞岳まではもうあとひと踏ん張りです。最後の気力を振り絞って果敢に急登へ挑みます。それにしても、いくら何でも急すぎませんかね。(白目)
ようやく雨乞岳の山頂が見えて来ました。竜ヶ岳の山頂付近とよく似た雰囲気の、笹原の広がる山頂部です。
もうあと一息だと言うのに、いよいよ足が前に出なくなりました。この時既に行動開始から12時間以上が経過しており、極度の疲労状態にありました。
ちょっと今回は、己の体力を過信しすぎてしまいました。どう考えても、御池鉱山旧跡で行動を打ち切るべきでしたね。
ここで下から登ってきたガスに山頂部がすっぽりと覆われてしまいました。視界は効きませんが山頂部はかなり広々としており、池塘なのかただの水溜まりなのか分かりませんが池がありました。
18時40分 雨乞岳に登頂しました。これで鈴鹿セブンマウンテンの4座目です。晴れていればさぞや眺めの良い山頂なのでしょうけれど、絶景は心の目で見ましょう。
何も見えない上に暴風が吹き荒れている山頂に留まっても、なにも良いことはありません。先へ進みましょう。すぐ隣に東雨乞岳と言うピークがあるはずなのですが、ガスに阻まれてその姿は見えません。
不意にガスが抜けて、正面に東雨乞岳が姿を見せました。あそこまで一旦登り返します。気乗りはしませんが、道がそうなっている以上は致し方ありません。
19時 東雨乞岳に登頂しました。雨乞岳よりもこちらの方がさらに眺めは良さそうです。晴れていれば真正面に御在所岳の姿が見えるはすです。
あとは幕営予定地の七人山のコルまで下って行けば良いだけです。笹藪に埋没しかけていて、なんだかやけに歩きにくい道だなあと思いつつ、山頂から真っすぐ下って行きます。
実はこの時私は、予定していたルートとは異なる、バリエーションルートの県境尾根に迷い込んでいました。
具体的に地図で示すと、赤い線が本来下るつもりだったルートで、水色の線が県境尾根ルートです。県境尾根は山と高原地図には記載自体が存在しない、完全なるバリエーションルートです。
既に辺りが暗くなっていたからか、あるいは単に疲労で注意力が散漫になっていたのか。ともかく道標をしっかりと確認していればまず起こらなかったであろう初歩的なミスを私は犯しました。
ヘッドライトを装着し、とても鈴鹿セブンマウンテンの一つである山のメジャートだとは思えない不明瞭な道に戸惑いつつも、黙々と下って行きます。しかし一向に七人山のコルらしき場所は現れません。
19時30分 道の脇にテントを張れそうな平場があるのを発見した私は、そこで本日の行動を打ち切る決断を下しました。ちなみにこの写真は、翌朝になってから撮影したものです。
結局今日一日の行動時間は14時間にもなってしまいました。そりゃあ疲れもするだろうさと納得しつつ、横になるなりあっという間に眠りにつきました。
7.御在所岳へ登頂したのち、途中リタイアを決断する
明けて6月5日の5時20分
周囲が十分に明るくなってから行動を開始します。ちなみにこの時点でもまだ私は、自分が県境尾根に迷い込んでいることには気が付いていませんでした。
一晩寝て疲れは多少取れた気はしますが、靴擦れの方はいよいよ皮が完全に剥がれてしまいました。絆創膏とテーピングで処置を施してから歩き始めます。
今までファーストエイドキットには消毒薬しか入れていなかったのですが、軟膏も含めた方が良いのかなこれは。
昨夜テント張った地点から少し下って行くと、すぐに鞍部が現れました。ここが七人山のコルなのかなと思いつつも、地図を見る限りではコルから右方向に進路が変わるはずなのに、そうはなってないことに戸惑いを感じます。
5時40分 三人山なるピークが現れました。ここに至って、ようやく自分が今どこにいるのかを理解しました。
東雨乞岳まで戻らないといけないのかと暗澹たる気分になりましたが、スマホの電波は入ったので調べてみると、どうやらこのまま下って行けば谷沢峠でもともと歩くつもりだったルートと合流出来るようです。
そういう事ならばと、このまま県境尾根を進みます。踏み跡自体はしっかりとしてますが、いかにもバリエーションルートらしく藪もあり、アップダウンも多めで、歩きだして早々からスタミナを大きく削がれる苦しい展開です。
これは御在所岳までで終了かな。とそんな考えがチラチラと脳裏をよぎり始めたのはこの辺りからです。
少し展望が開けて、右手に鈴鹿セブンマウンテンの一つである鎌ヶ岳の姿が見えました。御在所岳の次に登るつもりでいる山です。
やっぱり何とかあそこまで行ってみたいなあと、この時点では続行か中断かの決意は付かずに、気持ちは揺らいでいました。
6時55分 沢谷峠まで下ってきました。これで本来のルートに復帰したことになります。
立て看板に「日没後に県境尾根に迷い込む遭難事故が多発しています」と注意喚起がされていました。へぇー、そんなうっかりミスをする人が居ルノデスネ。(すっとぼけ)
御在所岳に向かって登りが始まります。初っ端からいきなりのトラロープが垂らされた急登です。
取り付きは急でしたが、尾根に乗って以降は至って普通の山道になりました。ただ、この沢谷峠からのルートはあまりメジャーではないらしく、道は少し藪っぽいです。山と高原地図上では破線の扱いになっています。
猪岩と呼ばれる巨大な花崗岩が道の脇に横たわっています。御在所岳は、三重県側から見るとかなり険しい山容の岩山で、山全体が花崗岩でできています。
沢谷峠から1時間ほど登り続けたとところで、不意に視界が開けて人工物の裏手に出ました。
正面に回り込んでみると神社でした。御在所岳の山頂に立つ御嶽神社です。明治17年に木曽御嶽山から分祀されて建てられた、比較的新しい神社です。
御在所岳の山頂が視界に入りました。昨日と同様に、稜線上は朝のうちはガスに覆われているようです。
前述の通り御在所岳はロープウェイで山頂まで登って越える山で、山頂部の一帯は道が舗装までされていて完全に観光地の装いです。前日までの光景とのあまりの変容ぶりに戸惑い感じます。
山頂が見え来ました。まだロープウェイは動き始めていない時間であるため、周囲には人影もなく静まり返っていました。
8時 御在所岳に登頂しました。これで鈴鹿セブンマウンテンの5座目を踏破しました。山頂はほぼ全方位に展望が開けていますが、ガスが出ていて周りは全く見えない状態です。
この後どうするかをまだ決めあぐねていた私が、最終的にリタイアを決めたのはこの時でした。決断の最後の決め手となったのは、既に汗だくで今すぐにでも温泉に入りたい気分になってしまったからです。
御在所岳の麓には湯の山温泉がありますが、7座目の入道ヶ岳まで縦走した場合の下山予定地である椿大神社に温泉はありません。
御在所岳の山頂も三重県と滋賀県の境界上にあります。何のことはない。雨乞岳の山頂からここまでずっと、県境のラインを忠実になぞって来ただけの事でした。
御在所ロープウェイの山頂駅と御在所岳の山頂は少し距離が離れていますが、リフトによって連絡しています。営業開始時刻は9時からと言う事で、こちらもまだ動いてはいません。
山頂の案内図が掲げられていますが、ロープウェイとリフトを乗り継ぐと、一歩も登山することなく山頂に到達することができます。完全に観光地の装いです。冬にはスキー場になります。
8.ロープウェイでラクラク下山し温泉に浸かる
リタイアすると決めたからには、速やかに温泉へと向かいましょう。リフトが動き出すのは待たずに歩いてロープウェイ山頂駅へと向かいます。
御在所岳の山頂は二つの頂を持つ双耳峰になっており、もう一つのピークにロープウェイ山頂駅があります。山頂に見えている円形のドームは雨量計レーダーの施設です。
目の前まで下りてくると、意外と登り返しが大きくてゲンナリします。わざわざリフトが用意されるくらいですからね。
これまた昨日と同様に、下界はカラッと晴れています。これがいつもの鈴鹿山脈の光景と言ったところなのだろうか。
リフトの下を潜ってロープウェイ山頂駅を目指します。最近ではあまり見ない一人乗りのリフトです。
深田久弥曰く遊園地化している山とのことですが、確かにアミューズメントパーク感が漂う光景です。だから百名山には選ばなかったのだという趣旨の発言なんでしょうけれど、それを言ったら筑波山だって似たようなものだと思うんです。
9時5分 御在所ロープウェイ山頂駅に到着しました。なんか普通に車が止まっているんですが、ロープウェイで吊って運んだのでしょうか。流石にここまで登ってこれる車道は無かったはずです。
ロープウェイの片道料金は1,500円なり。朝一番にいきなり下りの片道切符を買い求めて来た客を、係りの人が怪訝そうな表情で見ていました。
お隣の鎌ヶ岳の姿がよく見えます。かなり急峻そうな山容をしており、縦走を続行していたらそれこそまた一苦労したしょうね。途中リタイアしたことが悔しくないと言えば嘘になりますが、今はとにかく温泉に飛び込みたい。
反対向きに上を見上げると、かなりの急勾配です。標高差は780メートルあり、15分程の空中散歩です。
ロープウェイと言うこの偉大なる文明の力により、あっさりと下まで降りて来ました。そして下山した地点が温泉街だという点がまた素晴らしい。
素晴らしいのですが、湯の山温泉の日帰り入浴はどこもだいたい受付が11時からとなっており、まだ1時間以上時間があります。
そういう事ならば、朝の6時から営業しているという入浴施設のアクアイグニスに移動しましょう。ちょうどバスが発車する直前だったので、大急ぎで乗りこみます。
途中で東急の湯の山温泉駅を経由しつつ、終点のアクアイグニスへとやって来ました。温泉の他にオーガニック野菜のレストランなどが併設された複合施設です。
ちょっとおしゃれ過ぎて、汗と泥にまみれた登山には似つかわしくない空間のようにも思えますが、ともかく温泉へと直行します。日帰り入浴の料金はたしか600円だったかな。
一風呂浴びたてスッキリしたところで、湯の山温泉駅へと向かいます。駅までは直接歩いて行けないこともない距離ですが、せっかくバスがあるだから乗って行きましょう。時間帯にもよりますが、バスは概ね1時間に1~2本あります。
温泉からは5分少々の乗車時間で、湯の山温泉駅に到着しました。ここからは電車を乗り継いで帰れます。
当初の予定とはだいぶ違ってしまいましたが、結果的に温泉にも入れたしこれで良かったのかな。いつかまたリターンマッチに訪れることを心に誓いつつ、帰宅の途に着きました。
石榑峠からの雨乞岳は遠かった・・・。無念の結果に終わった鈴鹿セブンマウンテン縦走でしたが、縦走初日の前日に前入りを行ってもっと早くに行動を開始するか、もしくは2日目に無理をせず宿泊地を御池鉱山旧跡にしていたら、おそらく7座縦走の完遂は出来ていたのではなかろうかと思います。いずれにせよ釈迦ヶ岳から雨乞岳に至る区間を一日で踏破するのはかなりハードなので、7座縦走を目指している人は十分に覚悟したうえでご訪問ください。
鈴鹿山脈の南部の山は、どこか放牧的な雰囲気の北部の藤原岳や竜ヶ岳とは全く異なる岩峰が多く連なります。同じ山脈でありながら、実に多様な表情を見せてくれる山域です。たった一度の訪問では、その魅力を味わいつくことは到底できません。
結果として取りこぼしてしまった鎌ヶ岳と入道ヶ岳については、回収のためにいつかまた必ず再訪します。
<コースタイム>
2日目
石榑峠テント場(5:30)-三池岳(7:40)-八風峠(8:10)-釈迦ヶ岳(9:45~10:00)-猫岳(10:45)-ハト峰峠(12:05)-金山(12:45~13:10)-中峠(13:45)-根の平峠(14:30)-コクイ沢出合(16:05)-御池鉱山旧跡(17:10)-杉峠(17:55)-雨乞岳(18:40)-東雨乞岳(19:00)-ビバーク地点(19:30)
3日目
ビバーク地点(5:20)-三人山(5:40)-沢谷峠(6:55)-御在所岳(8:00)-御在所ロープウェイ山頂駅(9:05)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント
鈴鹿セブンマウンテン縦走、おつかれさまでした。愛知の友人から聞いてはいたのですが、標高の割りにアルプスの名にふさわしい山容に驚きました。なお、御在所岳と筑波山の件は、やっぱり独立峰なのが決め手だったのでしょうか?
nobuさま
コメントをありがとうございます。
御在所岳の周辺だけを見ると完全に観光地なのですが、少し奥地へ分け入っただけでその山深さと標高1,000メートル少々の山とは思えない景観に圧倒されました。
筑波山については、過去の歴史の重みが余りにも強すぎて、たとえ現在は遊園地化していようとも無視はできなかったのだろうなと想像します。
ご無事でよかったです。話には聞いていましたが下山時の道迷い、びっくりしました。
野営って怖くないんですか?
畑で野営キャンプした人が、謎の野生動物の鳴き声がけたたましかったそうです。私には出来ません…
ようこさま
コメントをありがとうございます。
周囲が明るい状態だったらどうなっていかはわかりませんが、東雨乞岳の山頂からは何の疑いもなく県境尾根に吸い寄せられました。入口に警告の類は無かったように思います。
多分鹿だろうとは思いますが、野生動物の気配は普通にしました。野営については、何もない山中よりもむしろ餌(作物)のある畑の近くの方がよほど怖いと思います。
お疲れ様でした。
外部から見ているだけですと思考や行動が完全に遭難者のソレですね。
無事で何よりです。
ただ、それを踏まえても鈴鹿セブンマウンテンの素晴らしさが伝わりました。
関東圏だと中々訪問がしにくい所なのが残念です。
U-leafさま
コメントをありがとうございます。
野営具を持っていなかったら確実に遭難コースでした。気をつけないといけません。県境尾根の最大の問題は登山地図には記載がないのに割と踏み跡が明瞭である点で、そもそもルートの存在自体を認識していないと、迷い込んでしまった事実を自覚するのが難しいです。
名古屋に長く住んでいた頃、ちょくちょく通った鈴鹿の山々で、見ていて懐かしい気がしました。
縦走には手が出せませんでしたが、地図で標高見るとそこそこの高さながら、実際に歩くと植生や地形から割に高度感がある、あの感じは好きでした。
岩井三四二さんの短編に「八風越え」というのがありますが、下からエイヤエイヤ登っていくと峠の鳥居が出迎えてくれる、あの感じが面白かったです。
ただ、不思議と言うべきなのかそうでないのか、(自分では少々不思議に思ってますが)
「常に状況掌握。地図をしっかり読んでおればそうそう道に迷うもんではない」
と日頃思っていた私のロスト経験は、なぜか過半が鈴鹿の山です。
鎌ヶ岳から武平峠に下ろうとしていつの間にか湯の山への作業道へ迷い込んだのと、竜ヶ岳から降りようとして滝からの道が見つからずに林道経由で石榑峠に回ったのとが、ロスト経験の双璧です。
お前の読図能力がお粗末なんだと言われても反論するつもりはありませんが、オレだけじゃないのかなと言うのか、道迷いの話を読んで「へえ」と、かなり強くそう思わされました。
貫徹さま
コメントをありがとうございます。
実際に歩いてみた感想として、鈴鹿の山は登山地図に記載のない道がかなりたくさんあり、全容を把握していないと迷い込んでもなかなか気が付きにくいのかなと感じました。遭難事故にありがちな、道ではない場所を下りて行ってしまうパターンではなく、想定していたのとは違う道に入ってしまう道迷いが多そうに思えます。