山梨県南アルプス市と北杜市にまたがるアサヨ峰(あさよみね)に登りました。
甲斐駒ヶ岳と鳳凰三山の間に連なる早川尾根上にあるピークで、山梨百名山にも選ばれている一座です。南アルプス北部一帯の山の中でも、歩く人の数は少なく静かなる頂です。ほぼ無名に等しいマイナーな山ながらも、周囲を名だたる名峰に取り囲まれた立地にあるため、山頂からの眺めは圧巻です。
早川尾根小屋にテントを張り、広河原から往復して登って来ました。
2023年8月26~27日に旅す。
アサヨ峰は南アルプス北東部の、早川尾根上にある山です。甲斐駒ヶ岳と鳳凰三山の間にある尾根だと言えば、大体の位置が伝わるでしょうか。
南アルプス北部一帯の中でも歩く人の少ない、極めてマイナーなエリアにある山です。
アサヨ峰は標高が2,800メートル近くある堂々たる高峰ですが、北沢峠からスタートすれば容易に日帰りが可能な山です。
しかしながら広河原と北沢峠の間を結んでいた南アルプス林道バスは、令和元年台風19号による土砂災害の影響により今だに運休状態が続いています。
長野県側の戸台口から北沢峠へのアクセスは可能ではあるのですが、戸台口は公共交通機関の利用を前提とした場合の交通アクセスが極めて悪い場所で、移動だけでほぼ丸一日を費やすことになってしまいます。
そこで今回は北沢峠ではなく広河原からスタートし、早川尾根小屋にテント泊して一泊二日の行程で登って来ました。北沢峠から登る場合よりも長距離を歩くことになりますが、現地までの公共交通機関によるアクセスはこちらの方がはるかに良好です。
初日の夜は生憎の雷雨に見舞われましたが、二日目には大逆転の快晴の空が広がっていました。
山頂からは北岳や仙丈ケ岳、甲斐駒ヶ岳と言った、南アルプス北部における花形的な名峰たちの大パノラマが広がります。早川尾根からの大展望を満喫してきた二日間の記録です。
コース
広河原バス停からスタートし、途中にある早川尾根小屋にテント泊してアサヨ峰を往復します。健脚な人ならば日帰りも十分に可能ですが、一泊して歩いたほうが無理のない行程です。
1.アサヨ峰登山 アプローチ編 公共交通機関で行く広河原への旅路
8月26日 6時57分 JR高尾駅
甲府駅からのバスへの乗り継ぎ時間の都合もあり、普段よりもややゆっくりと始動しました。当然ながら鈍行列車による旅路です。・・・当然ですよね?
8時39分 高尾駅からおおよそ1時間30分をかけて、終点の甲府駅に到着しました。電車を降りるなり、むわっとした生暖かい空気が出迎えてくれました。今日も暑くなりそうです。
今日も甲府の町を見守る武田信玄像です。山梨に足繁く通い過ぎたせいか、もはや親の顔より見た光景になりつつあります。
9時5分発の広河原行き直通バスに乗車します。早朝時間帯の便に比べれば空いているだろうと予想していたのですが、意外にも行列が出来上がっていました。
はたして乗り切れるのか心配していましたが、臨時便が増発されて無事に並んでいた全員が着座できました。
終点の広河原までの運賃は1,990円で、交通系ICカードにも対応しています。また運賃と別に南アルプス林道の利用者協力金として300円が必要で、こちらの支払いは現金のみです。小銭を用意しておきましょう。
広河原までの所要時間はおよそ2時間とかなりの長丁場です。途中にある芦安で一回トイレ休憩が入ります。芦安から先の南アルプス林道にはマイカー規制が敷かれているため、車でお越しの人もこの先はバスか乗合タクシーに乗り換えとなります。
11時8分 広河原に到着しました。南アルプス北部一帯の登山拠点となる場所です。以前はここから北沢峠行きのマイクロバスが運行していたのですが、前述の通り令和元年台風19号による土砂災害の影響で運休状態が続いています。
北沢峠には行けない以上、恐らく現在広河原を訪れる登山者の9割5分以上は北岳を目指すのでしょう。実に夏らしい雲が沸き立ち、その北岳はすっぽりと雲に覆われていました。
2.南アルプス林道を進み、広河原峠登山口へ
11時25分 身支度を整えて行動を開始します。登山開始時間としてはいささか遅いですが、本日は早川尾根小屋まで行くだけなので特に先を急ぐ必要もありません。
広河原峠への登山口に向かうには林道を道なりに真っすぐ進むのですが、その前にちょっと寄り道をして、北岳方面へ向かう吊り橋を渡ります。
橋の上から、ちょうど真正面に目指すアサヨ峰の姿が見えました。この光景を見たいがために、わざわざ橋を渡った次第です。
アサヨ峰は広河原から見た時に一番最初に朝日に照らされる位置にあることから、もともとは朝日岳と呼ばれていました。なぜ朝日がアサヨに変わってしまったのか、理由は良く判りません。
寄り道は程々にして先に進みましょう。北沢峠行きのバスが運休しているため、道を行き交う車両の姿はなく静かなものです。ちなみに現在は、徒歩であっても北沢峠への通り抜けはできません。
下界の甲府市内よりはぜんぜん涼しいものの、それでも直射日光の下を歩くとやはり暑い。はやく樹林帯の中に逃げ込みたいものです。
ゲートから15分ほど歩いたところで、白鳳峠への登山口が現れました。たしか以前、鳳凰三山を歩いた際にここへ下山したっけか。
白鳳峠経由でも早川尾根小屋には行けますが、少し遠回りとなるため、さらに先にある広河原峠登山口を目指します。
11時45分 広河原峠登山口に到着しました。ここから山中へと分け入り、早川尾根の上を目指します。
道標には峠まで3時30分かかるとあります。ここから峠までの標高差は750メートルほどしかなく、このコースタイムはいささか大げさなように思えます。恐らく多少は巻くことが出来るでしょう。
3.胸を突く急登が続く、広河原峠への道程
森の中に分け入ると、かつては工事車両が出入りしていたと思われる幅の広い道が続いていました。おそらくは砂防堰堤工事のための道の跡です。
すぐに沢沿いの道になりました。地図によると西広河原沢と言う名称で、早川尾根の急峻な斜面を流れ下るっているためか、大量の土砂が堆積していました。
幾重にも連なった砂防堰堤を巻きつつ進みます。この荒ぶる西広河原沢から南アルプス林道を守るために、相当な苦労を重ねているのであろうことが伺えます。
先の令和台風19号による土砂崩れに触れるまでもなく、極めて峻厳な野呂川の谷沿いに作られた南アルプス林道を通行可能な状態に維持するためには、途方もない維持管理コストが生じているのであろうことは容易に想像がつきます。
この光景を見てしまうと、たかが300円程度の協力金は安いものだと思えてきます。
進行方向の左側から西広河原沢に合流してくる小さな沢が現れたところで、本流からは外れてこの支沢沿いに進路を転じます。かなりわかり辛いですが、目印のピンクテープがしっかりとあります。
沢に沿って薄っすらと踏み跡が続いていました。この辺は地形が複雑で、5万分の1スケールの山と高原地図を見ても全くわかりません。よく周囲を観察して歩く必要があります。
しっとりと苔生す癒しの空間です。まだ登り始めて早々ですが、早くも汗だく状態であったため、顔をザブザブと洗ってクールダウンしました。
沢沿いに登って行くと、すぐに水流は無くなり涸れ沢になりました。この少し先で、踏み跡は沢沿いから右側にある尾根上へ移ります。
12時25分 尾根の上に乗りました。ここから先は峠に出るまでずっと、緩むことの無い急登が続きます。覚悟を決めて参りましょう。
この場所が2/10地点であるらしい。途中に1/10地点の案内もあったのかもしれませんが見落としました。まだまだ先は長い。
地図上の等高線の密度を見た時から薄々と察してはいましたが、思った通りの急登っぷりです。
広河原峠の一つ隣にある白鳳峠への登山道も、同じくかなりの急勾配であったように記憶しています。早川尾根は、どこから取りつくにしてもなかなかの鉄壁です。
下山時に迷い込みそうな紛らわしい場所は、しっかりとトラロープで閉鎖してありました。今歩いている道は比較的マイナーなルートであろうかと思いますが、こうしてしっかりと整備はされています。
いかにも南アルプスらしい、亜高山帯の苔生す針葉樹林の光景に癒されます。キツイ登りではありますが、森の雰囲気や良しです。
13時10分 5/10地点まで登って来ました。どこを10合目としたの刻みなのかわからずにいたのですが、広河原峠までの距離を現していると明記されていました。
記名によると、この看板を整備したのは本日の宿泊予定地である広河原峠小屋の方のようです。
話に聞く限りでは早川尾根小屋はかなり年季の入った小屋で、小屋番も日によっては不在なことがあるとのことですが、果たして今日はいるのかいないのか。
5合目を過ぎるとさらに勾配が増して、見上げる角度の急斜面になりました。1日目の全行程の中でも、この辺りが一番の頑張りどころです。気合を入れていきましょう。
ひとづつ増えて行く合目を横目に、黙々と標高を上げて行きます。テント泊装備を背負っているからというのもあるでしょうが、思っていた以上にキツイですぞこの登りは。
7合目を過ぎてからまだ5分少々しかたっていませんが、前方に合目の標識らしきものが見えます。あれ、いくらなんでも早すぎない?
これまでほぼ等間隔に合目を刻んで来ていたのですが、7合目と8合目の間隔だけが妙に短いです。どちらかの設置場所を誤ったのでしょうか。それともこれは疲労困憊した登山者を励ますために、後になるほど間隔が詰まって行く仕様なのか。
8合目と9号目の間は別にあっという間でもなかったので、やはりただの間違えでしょう。代り映えのしない景色の急坂が延々と続いて、流石に少々ゲンナリしてきましたぞ。
9合目まで登って来ました。日陰でいくら涼しいとはいえ、すでに滝のようにダラダラと汗を垂れ流しております。早く風の吹き抜ける稜線上に立ちたい。
背後を振り返ると、北岳(3,193m)の山頂らしき場所がひょっこりと見えました。本日は午後から曇り夕方には雨になると言う予報ですが、まだ辛うじて天気の方は持ちこたえています。
14時10分 広河原峠に到着しました。多少は巻けるだろうという予想の通り、登山口から2時間25分での到着でした。やたらとキツく感じられましたが、少々オーバーペースであったのかもしれない。
これまで全く見えていなかった、尾根の反対側の展望が広がります。雲にすっぽり覆われていますが、正面に見えているのは八ヶ岳のはずです。
4.森の中にひっそりと佇む早尾根小屋
ここからは先は早川尾根沿いの道です。多少のアップダウンはありますが、広河原峠までの道のような急登はもうありません。
シャクナゲの藪の先に、何やら展望が開けそうな予感です。しかしタイミングが悪いことに、ちょうどガスが湧き立ちつつありました。
思った通り視界が開けましたが、やはりガスがかかりつつありました。前方に薄っすらと見えているのがアサヨ峰なのかな。
展望が開けたのは一瞬で、道は再び亜高山帯の森の中へと入りました。広河原峠付近の早川尾根は、森林限界をギリギリ超えそうで超えない高さが続いています。
枯れ木越しに北岳と小太郎山(2,725m)の姿が見えました。あちらの天気はまだ持っているようで、ちょうど早川尾根がガスの侵攻を食い止めている様な状態です。
森の中に小屋が見えて来ました。これはまた、こじんまりとしていてなかなか趣のある小屋ですね。
14時50分 早川尾根小屋に到着しました。この日は管理人の方がいたので、テント泊の受付をしてもらいます。幕営料は千円です。
もっとオンボロのあばら家のような小屋を想像していたのですが、意外にも小奇麗で少々拍子抜けしました。なんでも最近リニューアルしたばかりなのだとか。
この小屋に管理人は常駐していませんが、夏山シーズン中の週末であれば大抵はいるとのことです。
ウエルカムコーヒーをご馳走していただきました。小屋番の男性は見たところかなりのご高齢であると思われますが、好々爺という言葉がしっくりとくる快活な方で、小屋泊テント泊の隔てなく細々と世話を焼いてくれます。
小屋番の不在時には、こちらの解放小屋を避難小屋として利用できます。・・・聞いた話では、ネズミと同衾することになるそうですが。平日の訪問を考えている人は、テントを担いで来た方が無難だと思います。
稜線上の小屋であるにもかかわらず、水場があるのが素晴らしい点です。おかげで大量の水を担ぎ上げなくても済みます。冷たくておいし水でしたよ。
小屋の前の空き地がテント場スペースです。詰めれば10張りくらいはいけるかな。小屋泊は要予約ですが、テント場は事前予約不要です。
もっとも、そんなに込み合うような場所ではないですからね。この日は最終的に4張りになりました。
5.絶え間なく雷鳴が轟く眠れぬ一夜
夜中の内にもしも晴れたら、その時は星空の撮影をしよう。そう思い夕食を済ませた後は早々と寝床に入ったのですが、期待とは裏腹に外では大粒の雨が降り始めていました。
この様子では星空は望み薄かなと思いつつ、一応はアラームを仕掛けて眠りにつきました。
そして迎えた深夜0時頃のこと。突如鳴り響いた鼓膜が破れそうになるような轟音とテントがビリビリと震える振動により、私は文字通り叩き起こされました。
外ではまるでバケツをひっくり返したかのような大雨が降り注ぎ、絶え間なくドッカンドッカンと雷鳴が鳴り響き始めました。光と音が同時にやって来るので、雷はまさにこの早川尾根の真上で発生しているようです。
早川尾根小屋は樹林帯の中にある小屋ですが、しかしテント場の頭上は大きく開けていて、まるで無防備な状態であるかのようにも感じられます。今からでも解放小屋に逃げ込むべきか。
いやしかし、テント場の周囲には背の高い木がいくらでもあるし、何なら小屋自体がテント場よりも高い場所にあります。一般的に雷は高い場所へ落ちやすいこと考えるに、よほど運が悪くない限り狙いすましたかのようにテントを直撃される可能性はまずないでしょう。
今はヘタに動かない方がいい。そう判断した私は、シュラフにうずくまってただひたすら雷が去ってくれるのを待ち続けるのでした。
しかし樹林帯にあるテント場でもこれだけ怖い思いをすると言う事は、稜線上にあるテント場で雷に遭遇でもした日には、それこそ泣き出したくなるのではなかろうか。
6.アサヨ峰登山 登頂編 幾多のアップダウンをへて、大絶景の広がる頂へ
明けて8月27日 5時
よく眠れたような眠れていないような微妙な心地ですが、二日目の行動を開始します。ずぶ濡れのテントは一旦このままにして、アサヨ峰を往復してきます。
エアライズの耐候性能は素晴らしく、あれだけの大雨に降られたにもかかわらず中は一切濡れませんでした。以前剱沢キャンプ場にテント泊したときに台風に直撃されたこともありましたが、それでもビクともしなかったくらいですからね。
時刻はまだ夜明け前で、森の中に入ると足元が良く見えなくらいの薄暗さです。日の出まではヘッドライト装着で行きます。
当初はアサヨ峰の山頂から朝日を拝むというプランも考えてはいたのですが、早川尾根小屋からのコースタイムが思いのほか長かったため取り止めました。
ご来光は、登っている最中にどこからか見れるでしょう。
ひょこりと北岳さんがお早うございます。あちらは大人気の山なので、今頃山頂には、ご来光待ちの登山者が大勢詰めかけていることでしょう。それに比べて、我らがアサヨ峰のなんと静かな事か。
東の空がだいぶ茜色に染まりつつありました。ひょこりと尖って見えているのは赤岳(2,899m)かな。
前方に大きく盛り上がったピークが見えますが、あれはアサヨ峰ではなくその手前にある名も無き2,553メートルのピークです。アサヨ峰の本体に取り付く前に、こうした小ピークをいくつか越えて行く必要があります。
徐々に周囲が明るくなり、ヘッドライトがいらないくらいの明るさになりました。相変わらず周囲は亜高山帯の苔生す針葉樹林に覆われており、奥秩父や北八ヶ岳とよく似た雰囲気です。
そうこうするうちに、ようやく森の中に眩い朝日が差し込み始めました。まだまだ厳しい残暑の日が続いていますが、日の出時刻は確実に遅くなりつつあります。
できればこの先の展望が開けた場所でご来光を拝みたかったのですが、間に合いませんでしたか。残念。
ここまでの緩やかな尾根道から一転して、岩場の急登が始まりました。昨夜の大雨により足元はドロドロ状態で、登りはともかく帰路には神経を使いそうです。
野呂川を挟んだお隣の北岳の山頂も、朝日に照らされてバットレスが赤く染まっていました。
北岳は見る方角によってかなり印象の変わる山だと思いますが、早川尾根側から見ると小太郎尾根の稜線が非常に目を引きます。
周囲が開けて、背後に鳳凰三山へと続く早川尾根を一望できました。中心に見えているピークは高嶺(たかね)です。一般的にあの高嶺から仙水峠までの区間を早川尾根と呼びます。
下界は完全の雲の下で、雲海が広がっていました。山の上の天気も晴天なのは午前中の間だけで、午後からは再び曇り空の予報となっています。
名も無き2,553メートル峰の山頂が見えて来ました。見るからに眺めが良さそうで期待が高まります。
正面に目指すアサヨ峰が姿を見せました。ここからまだまだ結構な距離があり、重なっていてわかり難いですが手前にもう一つ大きなピークが控えています。
北岳に続いて甲斐駒ヶ岳(2,967m)さんがお早うございます。普段見慣れている甲府側から見た時とは、ちょうど反対側からの姿です。
八ヶ岳も端から端まですべてが並んで良く見えます。逆にいうと、八ヶ岳からも早川尾根やアサヨ峰の姿が良く見えていることになりますが、あまり意識して見たたことはありませんでしたな。
小太郎山がちょうど真正面に見えます。そう言えば確かに、小太郎山に登った際にはアサヨ峰が真正面に見えていたっけか。
森林限界超えたハイマツ帯になっているのはピーク付近の僅かな区間だけで、またすぐに森の中に入ります。早川尾根は本当に森林限界を超えるか超えないかのギリギリの高さに連なっています。
続いて前方に盛り上がっているのは、山と高原地図によればミヨシノ頭と言う名のピークです。この名称は、国土地理院の地図には記載がありません。
ミヨシノ頭の手前で、鞍部に向かって大きく標高を落とします。それはすなわち、帰りには漏れなく登り返しが付いてくることを意味しています。今からすでに気乗りしないなあ。
大きく下ったあとに待っているのは、当然ながら大きな登り返しです。ミヨシノ頭への登りはかなり急峻で、直登はできなかったと見えて登山道は南側から回り込みます。
良い感じに息も絶え絶えになってきたところで、ようやくミヨシノ頭の山頂が見えて来ました。ゼーハーゼーハー。こんな伏兵がいるだなんて・・・聞いていない・・・。
6時30分 ミヨシノ頭まで登って来ました。正面にようやくアサヨ峰本体の姿を捉えました。もっとサクッと往復できるのかと思いきや、意外と骨がありますぞ。
そしてここでもまたしっかりと標高を落とします。一見すると気持ちよく歩けそうな尾根道ですが、足元にはガラ石が散乱していて地味に歩きにくいです。
甲斐駒ヶ岳が近い。普段はあまり見たことが無い裏側の姿ですが、実はこんな断崖絶壁になっていたのですね。当然ながら、こちら側から登る道は存在しません。
もう一息だと思っていたら、さり気なく間に小ピークを挟みこんできました。早川尾根小屋との標高差から受ける印象に比べると、なかなか一筋縄にはいきません。
最後の小ピークも乗り越えて、ようやくアサヨ峰の御本体に取り付きました。ラストスパートをかけていきましょう。
山頂直下で再び周囲は森林限界を超えたハイマツ帯になりました。それにより周囲の視界が開けますが、当然ながら直射日光をモロに浴びます。
背後にここまで歩いて来た早川尾根の山並みが一望できました。とても素敵な尾根だと思うのですが、しかし何故かあまり歩く人はいません。不思議ですよね。
山頂が見えて来ました。北沢峠側から登って来た登山者も合流するため、ここまでの静けさから一転して多くの人の姿がありました。
7時5分 アサヨ峰に登頂しました。早川尾根小屋からもっと簡単に往復できるのかと思いきや、アップダウンが多めで意外と歩き応えのある道のりでした。
マイナーな山ながらも、一応は山梨百名山と日本三百名山と言う2つタイトルを保持しています。
山梨百名山の標柱は、山頂の真ん中を占めている大岩の裏側にありました。これで自身の山梨百名山登頂数は、いよいよ残すところあと1つの99座目となりました。
しかしよりによって一番厄介そうな、笊ヶ岳が一番最後まで残ってしまっているのですよね。今年中になんとか完登したいところですが。
7.アサヨ峰山頂からの展望
アサヨ峰の山頂からは、文字通り360度全方位の展望が開けています。南側には富士山と北岳の、日本国内標高第1位と第2位のツーショットが拝めます。良く見ると間ノ岳も辛うじて見ているので、3位までのスリーショットか。
手前の山に遮られて見えないかと思いきや、富士山も割としっかり見えました。これは思ってもいなかった嬉しい誤算です。
南アルプス南部方面については、大部分が北岳の背後に入ってしまうためあまり見えません。北岳の右隣に、かろうじて間ノ岳(3,190m)の山頂が何となく見えています。
北岳の右後方に小さく見えているこの山は塩見岳(3,047m)です。南アルプスの山らしく、この山も大柄でかなりの存在感があります。
西側には南アルプスの女王こと仙丈ケ岳(3,033m)の姿がありました。何度見ても惚れ惚れするくらいに大柄で、雄大という表現がこれほどシックリくる山はなかなかないと思います。
仙丈ケ岳は山腹に大小3つのカールをもつ山です。アサヨ峰からちょうど正面に見えているのは大仙丈沢カールです。スプーンでえぐった様な地形と言われるのが良くわかります。
北には仙水峠を経て甲斐駒ヶ岳へと続く尾根が連なります。アサヨ峰登山としては、こちら側から登ってくる方が一般的です。今日歩いて来た広河原からルートは、どちらかと言うと裏ルートです。
駒津峰の背後に小さく鋸岳(2,685m)の姿が見えます。ここから見るとあまり鋸っぽくは見えませんが、なかなかエキサイティングな山ですよ。
東側には八ヶ岳と奥秩父の山並みが広がります。朝には地上を覆っていた雲海も、いつしか晴れていました。今日も暑い一日になりそうです。
南東には早川尾根の山並み。今日何度目になるか分からないですが、あまりにも良い景色なのでもう一度。
地蔵岳(2,764m)のオベリスクは、本当にどこからでも良く目立ちます。
足元の谷底には、スタート地点の広河原が見えます。写真だと少々わかり辛いですが、中心付近に昨日アサヨ峰を見上げた吊り橋も何となく見えています。
素晴らしい眺望を心行くまで堪能しました。名残惜しくはありますが、そろそろ撤収に移りましょう。
8.アサヨ峰登山 下山編 怒涛のペースで広河原へと駆け下る
7時40分 山頂を辞去して下山行に移ります。ピストンなので脇目もふれずにサクサクと参りましょう。
東側から湧き上がってきた雲が、早川尾根に覆いかぶさりつつありました。早くも午前中の好展望タイムは終わりなのかな。
振り返るとアサヨ峰の本体もガスに巻かれつつありました。展望を台無しにされる前の絶妙なタイミングでの登頂でした。
行く先にも雲が舞い上がって来ました。もう後は帰るだけなので、日光を遮ってくれるのであれば、かえって好都合です。
始めから約束されていた、下山時の登り返しと言う憂鬱な作業に黙々と勤しみます。
一時ガスッたと言うだけで、再び晴れ間が戻って来ました。気温もジワジワと上昇して暑くなって来ましたよ。尾根の上でもこの有様とあっては、今日も下界は相当暑いのでしょうね。
9時15分 早川尾根小屋に戻って来ました。どうやら私が最後尾だったらしく、他のテントは既に撤収してなくなっていました。
まだぐっしょりと濡れたままで乾いていないテントを手早く片付けます。水を吸って心なしがズシリと重くなったザックにため息をつきつつ、下山行に移ります。
9時35分 眠れぬ雷雨の一夜を過ごした早川尾根小屋に別れを告げます。次回訪れることがあったら、その時はテント泊ではなく小屋に泊まります。
この時間からなら、広河原12時発の甲府行きのバスに間に合うかもしれません。そういう事であれば、ここからは少し足早気味に巻いて行きましょう。
上高地などとは違って、広河原には付近に時間つぶしが出来るような観光スポットがあるわけでもないので、長く待たされることになると辛いものがあるのですよ。
10時 広河原峠まで戻って来ました。ここからは怒涛の急な下り坂が続きます。いっちょう気合を入れて行きましょう。
急な下りではあるものの、足元の土が柔らかいため足に優しく下山向きな道です。これ幸いと、ノンストップで足早に駆け下りました。
11時30分 そんな訳で、登りでは結構苦労した割に帰りは実にあっけなく、広河原峠登山口まで戻って来ました。
達成感に満たされそうになる瞬間ですが、もうあと一息、林道を歩いて戻る必要があります。残り時間も少なくなってきているので、最後まで気を緩めずにキリキリと歩きましょう。
今回のような一泊二日の行程でピストンする時、私はいつも前日の自分とどの辺りですれ違うのかを何となく意識します。本日はちょどこの登山口付近ですれ違うと言う、狙いすましたかのようなタイミングの良さでした。
あっけなく広河原が見えて来ました。目論見通りに12時発のバスに間に合わせることが出来ました。
先日と同様に、北岳は正午前からすでに雲の中へと没していました。本日はうまい具合に朝の快晴の時間帯を突いた、会心の山行きでありました。
11時50分 広河原に到着しました。12時発のバスが既に乗り場に待機していたため、そのまま乗り込みます。
帰路のバスも満員御礼状態でしたが、夜叉人峠と芦安駐車場を過ぎると車内はガラガラ状態となりました。
大半が下りとなる帰路の方がバスの所要時間も短く、広河原を出発してから1時間45分で甲府駅まで戻って来ました。バスから降りるなり、下界のあまりの暑さに面くらいました。
本当にどうでもいいことですが、この風林火山はなの舞と言うのは、通常のはなの舞と何が違いがあるのでしょうか。
帰路でも当然ながら鈍行列車に揺られて、帰宅の途に着きました。・・・当然ですよね?
こうして自身にとって99座目となる山梨百名山への訪問は、大満足のうちに終わりました。残すところはあと一座。大雨で登山道が通行止めにでもならない限りは、今年中に完登は出来そうです。
アサヨ峰は北沢峠からアプローチするのが最も一般的であろうかと思いますが、広河原からのルートにも南アルプスらしさをふんだん感じることの出来る多くの魅力が詰まっていました。今回は行程の都合で広河原からピストンしましたが、北沢峠行きのバスが運行を再開した暁には、横断ルートを取るのが良いのではないかと思います。
周囲を名だたる名峰たちに囲われているためか、なかなかあえてこの山に登ってみようと言う訴求力を見出しにくい山かもしれませんが、その名山たちを間近から眺めるための展望台としては一級の存在であると思います。
居並ぶ名峰たちのパノラマビューを眺めに、静かなる早川尾根を歩いてみては如何でしょうか。
<コースタイム>
1日目
広河原バス停(11:25)-広河原峠登山口(11:45)-広河原峠(14:10~14:20)-早川尾根小屋(14:50)
2日目
早川尾根小屋(5:00)-ミヨシノ頭(6:30)-アサヨ峰(7:05~7:40)-早川尾根小屋(9:15~9:35)-広河原峠(10:00)-広河原バス停(11:50)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント
天気よく最高の景色ですね。
nomigon52さま
コメントを頂きましてありがとうございます。
夜中に雷雨に降らた時はどうなるかと思いましたが、大逆転の青空でした。
早川尾根小屋のテン場目当てで北沢峠〜アサヨ峰〜早川尾根小屋テン場をこの夏に歩きました。個人的には早川尾根小屋から白鳳峠までは未踏地帯なので広河原峠〜早川尾根小屋が特に参考になりました。いつか鳳凰三山と早川尾根を繋げて歩くのも面白そうだな、と妄想してます。オオツキ様も書かれている通り広河原にせよ北沢峠にせよスーパースター揃いのエリアなのでアサヨ峰は後回しに普通はなりますね。早川尾根は今後も静寂好きの味方でいてくれると思います笑
ペン生さま
コメントをありがとうございます。
深南部ほどではないにしろ、南アルプスにおける穴場的な存在であることは確かです。むしろ早川尾根小屋が存在すること自体が、ある種の奇跡のようなものとも思えます。
広河原と北沢峠間のバスが復活した暁には、高嶺から仙水峠までの早川尾根完全縦走もやってみたいですね。
はじめまして。私も車を持っていない京王線ユーザー(最寄は東府中駅)なので、山行の際、こちらのレポートはとても参考にさせてもらっています。ありがとうございます。また、自宅からJR中央線武蔵小金井駅、JR南武線南多摩駅、JR武蔵野線北府中駅までそれぞれ徒歩1時間なので、暗いうちに出発して1時間歩き、始発に乗ることで、結構遠くまで日帰り登山に行くなどして、行動範囲を拡げる工夫をしています。
ところで、山梨百名山の登頂があと1ヶ所、笊ヶ岳のみとのことですが、「秋山二十六夜山」には登られましたか? ブログには、「道志二十六夜山」の方には登られたレポートが載ってますが、秋山二十六夜山のレポートは無いようで。道志二十六夜山は「都留市二十一秀峰」や「新・花の百名山」には選ばれていますが、「山梨百名山」には選ばれていません。また、道志二十六夜山の山頂には山梨百名山の山頂碑はありませんが、同百名山に選ばれている秋山二十六夜山の方にはちゃんと同山頂碑があります。なお、道志二十六夜山と繋がっている今倉山は山梨百名山に選ばれています。
私も一応、自分が登った山梨百名山の数だけは数えていて、現時点で67ヶ所、登頂済みです。ただ、残った山々は車がないとアクセスできなかったり、自分のレベルでは技術的・体力的に困難(特に山百四天王)だったりで、山梨百名山の登頂コンプリートは事実上、不可能です。オオツキさんは本当に凄いことをやっていらっしゃるので、憧れに近い思いを持っています。頑張ってください。
Taka High Dohさま
コメントを頂きましてありがとうございます。
秋山二十六夜山にもしっかりと登ってはいるのですが、お天気がイマイチだったのでボツ(記事にはせずにお蔵入り)にしています。
ちなみに同じく山梨百名山の高柄山についても、二十六夜山と同日に登ったため記事化されていません。そのうち再訪するか、もしくは蔵から引っ張り出すかはしようと思います。
そうでしたか、これはとんだ釈迦に説法をしてしまい、失礼いたしました。これからも楽しみにしています。