雨乞岳 南アルプスの前衛に静かに佇む雨乞信仰の山

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山梨県北杜市にある雨乞岳(あまごいだけ)に登りました。
山梨県と長野県の県境近くにある、南アルプス前衛の山です。隣接する甲斐駒ヶ岳など同様に花崗岩からなる山で、その名が示す通り、古くから雨乞い信仰の対象となってきました。
人里離れた深い山で、梅雨明けを願った逆雨乞登山としてきました。

2020年7月19日に旅す。

時は一向に終わりの見えなてこない梅雨の最中。もうこれ以上雨を降らせないでくださいと逆雨乞(?)すべく、山梨県の雨乞岳へと繰り出してきました。

山頂に砂浜があることで人気の、日向山の向かいにある山です。日向山と同様の花崗岩でできた山であり、山腹に通称水晶ナギと呼ばれているザレ場があるのが外見上の特徴です。
日向山から見た雨乞岳
一応は山梨百名山というタイトルを保持している山ではあるものの、付近のメジャーな登山ルートからは外れた場所にあり、訪れる人の姿も疎らな静かな山となっています。

山頂に至る登山ルートは二つあります。かつての雨乞信仰の道であった石尊神社から登るクラシックルートと、比較的新しく整備されたヴィレッジ白州から登るルートです。
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今回は、標高差が少なく楽に登れるヴィレッジ白州側から登り、クラシックルートで下る周回コースを歩いて来ました。

終日に渡り雲が多めでピリッとしない天気ではありましたが、ほとんど人とすれ違う事の無い幽玄なる深山を、存分に満喫してきました。
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コース
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ヴィレッヂ白州の登山口よりスタートし、雨乞岳へ登頂します。下山は水晶ナギに立ち寄った後に石尊神社方面へ下ります。

標準コースタイム7時間ほどの行程です。

1.雨乞岳登山 アプローチ編 電車とタクシーを乗り継ぎ、登山口のヴィレッヂ白州へ

6時11分 JR高尾駅
どんより曇り空の東京を抜け出します。6時14分発の松本の行きの鈍行列車に乗り込み、小淵沢駅を目指します。
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え?特急あずさ?あんな自由席すらないようなブルジョワな乗り物はお呼びではありません。

8時27分 小淵沢駅に到着しました。登山者の数がいつもより少なめなのは長梅雨の影響でしょうか。はたまたコロナか。
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さて目指す雨乞岳はと言うと、見えませんな。この厚ぼったい雲の中のどこにあるはずです。
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登山口のあるヴィレッヂ白州まで乗り入れている、バスなどの公共交通機関は存在しません。小淵沢駅からはタクシーを利用することになります。
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なお、韮崎駅から出ている下教来石(しもきょうらいし)線のバスを使えば、一応は公共交通機関によるアプローチも可能です。

当初は私も路線バスでアプローチする計画を立ててみましたが、その場合だと標準コースタイムを2時間近く巻かないと帰りの最終バスに間に合わないことが発覚したため、タクシーを使った計画に方針転換しました。

私もいい加減良い年をしたオッサンなので、あまりに慌ただしいタイムアタック登山は、もうやめにしておこうかと思う今日この頃です。

9時 ヴィレッヂ白州の少し先にある、雨乞岳登山口に到着しました。ここまでの運賃は4,250円でした。
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ここまですれ違いも困難な林道を延々と登ってくる必要がありますが、小淵沢のタクシードライバーにとっては慣れっこな道らしく、特に嫌がられたりはしませんでした。

せっかっくタクシーが登山口の目の前につけてくれたところではありますが、登山開始前に前に少しばかり引き返して寄り道します。200719雨乞岳-009
なんのことは無い、ヴィレッヂ白州の辺にある平久保池の姿を見てみたかったからです。

登山口から2~3分ほど下った場所に入り口がありました。ヴィレッヂ白州は平久保池の周囲を取り囲むように造成されたキャンプ場です。コテージが何棟かある他に、テント泊も可能です。
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こちらが平久保池です。湖面のリフレクションたいへん素晴らしい。どうやら天然の池ではなく、農業用のため池であるようです。
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再び登り返して、登山口まで戻って来ました。身支度を整えて、9時25分に登山を開始します。
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2.南アルプスの深き森と、延々続く階段地獄

歩き始めるなり、足もとを覆う笹原と深い森が出迎えてくれました。夜叉神峠付近の森と近い雰囲気で、前衛の山と言えどもしっかりと南アルプスらしさを感じられます。
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歩き始めて程なく、階段地獄が始まりました。この光景はこの後もしばらくの間、延々と続くことになります。
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一段の間隔が狭い階段です。せっかく整備してくれたものにケチをつけるようですが、歩幅と全く合わないので歩きにくくてかないません。
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登山道上に植物が侵犯しつつありました。やはりあまり歩く人はいない道なのでしょう。そもそも山中を侵犯しているのは、道の方だと言えなくはありませんがね。
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何かの気配を感じてとっさに振り向いたら、カモシカでした。見たところまだ若いオスですね。
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陽を浴びて輝く若葉が美しい。森の濃さゆえに直射日光を浴びせられることはありませんが、気温が上がって来たらしく蒸し暑くなってきました。
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登るにつれて植生が変わり、いつしか周囲はカラマツ林に変わりました。カラマツ林は杉林と比べて地表に届く光の量が多く、明るい雰囲気の森になります。
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光がしっかり地面まで届くおかげなのか、下草が階段を埋め尽くす勢いで大いに繁茂していました。
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9時55分 遊歩道出合と書かれた地点まで登って来ました。この周囲には、登山道と並行するように散策路が整備されています。
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しかし、この遊歩道までわざわざ登ってくるようなヴィレッヂ白州の宿泊客は、はたしてどれくらいいるのでしょうか。

まるで分岐地点を見守るかのように、コメツガの巨木が立っていました。
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階段地獄はなおも続く。この木階段は濡れていると絶対に滑るやつなので、特に下山時には要注意です。
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木の間からちょこっとだけ展望がありました。見ているのは八ヶ岳連峰の編笠山(2,524m)かな。
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階段地帯を突破すると、傾斜が緩んでほぼ水平移動に近いような道になりました。か細い径ではあるものの、踏跡も明瞭で歩きやすい道です。
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少しガスが出て来ました。視界を奪うほどの濃さは無く、陽の明るさが透け見える程度の薄っすらとした霧です。
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これはこれで、いかにも南アルプスの山にふさわしい幽玄さを感じさせてくれる光景かもしれません。少しは涼しくなるかと期待したものの、相変わらず蒸し暑いままです。
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周囲に水の流れる音が轟き始めました。右手の谷に沿って沢があるようです。
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運が良ければ水場と書かれたプレートが掲げれれていました。という事は、季節によっては枯れていることもあるという事でしょうか。
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私は運が良かったらしく、水は滾々と湧き出ていました。キンキンに冷たくておいしい。
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まるでこの森の主であるかのような苔生した木が、水場を見下ろすようにして佇んでいました。
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3.雨乞岳登山 登頂編 笹原と針葉樹林に覆われた、静かなる雨乞い信仰の頂へ

水場を離れると、ここまでの緩やかな道から一転して、少しばかり道の傾斜が増して来ます。
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しかしそんな急坂は長くは続きません。割とあっけなくガレ場上と銘打たれた地点まで登って来ました。言うほどガレてはいなかったような。
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先ほどからガスっては晴れるを目まぐるしく繰り返す天気です。ちょうど今いる雨乞岳の尾根が、天気の境界になっているかのような状態です。
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山頂付近には、かなり広々とした平坦な空間が広がっていました。地図によるとこの一帯は、笹ノ平と呼ばれているようです。なんと言うか、そのまんまな名称です。
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晴れそうで晴れないもどかしい空模様です。雲が無ければ、この場所からは展望が開けて富士山まで見えるそうです。
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なんらかの人為的な力を加わえられかのように見える平坦地がありました。登山道からは少し外れていますが、林業関係の小屋でもあったのでしょうか。
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雨乞岳の最後の抵抗を一跨ぎして、山頂へのラストスパートです。
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背の高い木が少なくなり、周囲の視界が開けて来ました。
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12時10分 雨乞岳に登頂しました。歩行距離はそこそこあるものの、全般的に緩めの傾斜で歩きやす道程でありました。
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山梨百名山の山頂標識は、南アルプスエコパーク仕様の四角いタイプです。・・・そんなところに注目する人が、はたしてどれくらいいるのかどうかはさておき。

山頂の様子
あまり広くはない空間に、やけに多くの倒木が散乱していました。
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甲斐駒ヶ岳が真正面にあるはずなのですが、完全に雲隠れしてしまっており、その姿は見えませんでした。雨乞岳の上空だけが、ぽっかりと晴れている状態です。
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眼下に白い花崗岩が露出した場所があるのが見えます。あの場所から雨乞岳そのものの姿を眺めることを、本日の最終ミッションと位置付けます。
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山頂から人が居なくなったタイミングを見計らって「もう雨を降らさないでー!」と叫んでおきました。果たして雨乞山は、従来とは真逆のリクエストを受け入れてくれたのでしょうか。

4.日向山と正対する花崗岩のガレ場、水晶ナギ

13時 雲が取れる瞬間が無いものかと山頂で粘りましたが、晴れる様子はありません。諦めて下山を開始します。
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下山は元来た道は引き返さずに、途中で水晶ナギに寄り道しつつ石尊神社方面へ下ります。

向かいにギザギザの稜線が連なっているのが何となく見えます。山梨百名山最難関との呼び声が高い鋸岳(2,685m)です。
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この鋸岳には前々から興味津々なのですが、行きたくとも自分の技量では登れるのかどうかがかなり怪しい山であったりします。

この山にはそもそも一般登山道が存在せず、バリエーションルートのみです。登るにはロープによる確保が必須と言う話もチラホラ耳にします。

視界が開けているのは山頂直下のごく一部だけです。すぐにまた、針葉樹林帯の中へと舞い戻りました。
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こちら側のルートの山頂付近は割と急峻です。お助けロープがあったので、ありがたく使わせてもらいつつ下ります。
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急坂を下りきると、すぐに登りと同様の緩やかな尾根道に変わりました。雨乞岳は山頂付近の一部を除き、全般的に緩やかな山容をしています。
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13時25分 水晶ナギとの分岐まで下って来ました。当然ながら寄り道して行きます。
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分岐地点からは緩やかな下りです。大した高低差は無く、ほぼ水平移動のようなものです。
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ほどなく前方に、白く輝く山肌が見えました。
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山頂から見えていたザレ場です。風化した花崗岩の砂の事を真砂(まさご)と呼びますが、真砂が堆積して砂浜のような状態となっていました。
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振り返って見た雨乞山はあれまあ残念、ガスに覆われつつありました。結構なスピードで横に流れているので、粘れば晴れる瞬間はあるかもしれません。
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ちなみにここはまだ水晶ナギではありません。水晶ナギはもう少し先へ進んだ所にあります。

という事で先へ進みます。大きく切れ落ちた谷沿いに、巨大なガレ場が形成されていました。
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13時40分 水晶ナギへとやって来ました。この場所ではその昔、本当に水晶の採掘が行われていたそうです。
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足元はグズグズの真砂の砂丘です。一度足を踏み外したら、たぶん谷底までは止まらないと思います。もっと先まで行けるらしいのですが、途中までにしておきました。
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狙いすましたかのようなタイミングで、前方のガスが取れて視界が開けました。
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山頂にビーチがある山として人気の日向山(1,660m)が向かいに見えます。遠くから見る分には、あまりビーチっぽくは見えませんな。
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眼下には清流の里として名高い、白州の街並みが見えます。周囲にある花崗岩の山々で磨かれた水が集まる場所です。
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北には鋸岳があるはずですが、こちらは相変わらずガスに包まれたままです。
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満足しました。寄り道はこれ位にしてそろそろ下山を開始しましょう。
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途中のザレ場まで戻ってきたところで、ガスの取れた雨乞岳の姿もこの通りバッチリと頂きました。これでもう、思い残すことは何もありません。
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遠くに見えているこの横に長い山は、白岩山(2,267m)と言う名の山です。名前からして、この山も恐らくは花崗岩の山なのでしょうね。登山道は存在せず、登ることは出来ないようです。
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5.雨乞岳登山 下山編 ひたすら長い尾根道が延々続く、雨乞信仰のクラシックルート

14時15分 水晶ナギ分岐まで戻って来ました。ここから、路線バスのある国道20号(甲州街道)まで歩いて下ります。
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相変わらずの、傾斜が緩やかな道が続きます。歩きやすい道ではありますが、その分なかなか標高は落ちません。
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水晶ナギが横から見えました。広範囲にわたってザレれているのが良くわかります。
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林業関係の道なのか、尾根上の登山道とは別の小道が脇にありました。
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ほぼ水平移動が1時間以上続いた後に、ようやく降下が始まりました。九十九折れを延々と繰り返す、面白味は無いけれど最も効率よく標高を稼げる道です。
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ただの登山道にしては、妙に幅が広くて傾斜の緩い道です。古道由来の道なのか、もしくは林業関連でブルドーザーか何かを乗り入れていたのでしょうか。
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真砂が露出している場所もあります。雨乞岳は山全体が花崗岩で出来ています。
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道が薮っぽくなってきました。ここまでくれば、麓まではもうあと一息です。
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標高の低い一帯は、杉の植林となっていました。まだ日没前の時間であるにもかかわらず、杉林の中はライトが欲しくなるくらいの薄暗さです。
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16時35分 雨乞岳登山口まで下って来ました。目の前に張られたロープは、通行止めではなくただの注意喚起ためのものです。
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この登山口は比較的新しく作られたもので、古来からの登山口はここから少し離れた位置にある石尊神社内にありました。神社から登るルートは、雨乞祈願をする際の参道であったという事です。
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舗装道路には辿り着きましたが、バス停までまだひと道あります。
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5万部の1スケールの山と高原地図では少々わかりにくいですが、登山口に出たら目の前の道を左折し、続いて次のY字路を右に曲がります。

水車小屋の跡がありました。この細い水路を流れる水の力で動いていたのでしょうか。
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集落まで下って来ました。周囲には、お屋敷風の立派な建物が多く建っていました。
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満開を迎えたヤマユリが、強烈な芳香を周囲に漂わせていました。ちょっと香りが強過ぎて、正直この花は余り好きではありません。
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頭に雲を被った八ヶ岳が、目の前に立ち並んでいました。近くから見るとかなりの迫力と言うか、圧迫感のある姿をしています。
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右手には鳳凰三山がこれまた絶壁のように立ちはだかっています。地蔵岳の山頂にあるオベリスクのおかげで、この山は山座同定が容易です。
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振り返って見た雨乞岳です。朝には山頂部をすっぽり覆っていた雲もすっかり取れて、完全な姿を見せてくれました。
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国道20号の鳥原交差点まで歩いて来ました。ここから右へ少し進んだ所にバス停があります。
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17時 松原上バス停に到着しました。冒頭で少し触れた、韮崎駅から出ている下教来石線のバス停です。
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やって来たバスは、安定の貸し切り運行でした。私一人のためにすまんのう。
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韮崎駅のホームからは、世界遺産のアイツの姿が良く見えました。本日のお天気は上り調子だったのようで。
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帰りは珍しく奮発して、自由席のないブルジョワな乗り物特急あずさに乗り込み、帰宅の途に付きました。
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雨乞岳は、いかにも南アルプスらしい幽玄なる森の中にひっそりとありました。
山梨百名山に選ばれたおかげで、今日では登山道の整備がかなりしっかりとされていますが、もともとは今よりもさらにひっそりとした藪山であったそうです。人影まばらな深山で、静かな時を過ごしたい人におススメです。
歩行距離は少々長めではありますが、危険個所もなく全般的に傾斜が緩やか登りやすい山です。比較的手軽に登れて、それでいて十分に南アルプスらしさを感じることの出来るこの山へと、繰り出してみてはいかがでしょうか。

<コースタイム>
ヴィレッヂ白州(9:25)-水場(11:00)-雨乞岳(12:10~13:00)-水晶ナギ(13:40~14:00)-雨乞岳登山口(16:35)-松原上BS(17:00)

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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