神奈川県の横須賀市、葉山町および逗子市にまたがる三浦アルプスを歩いて来ました。
三浦半島の中央付近に連なる標高200メートル前後の低山の連なりです。この横断コースの魅力は何と言っても、東京湾と相模湾の両方を目にすることが出来る点です。
いかにも低山らしい深く濃い森の広がる半島の山間部をゆくハイキングは、何気に本格的なガッツリ登山でありました。
2019年3月9日に旅す。
今回の行き先は、日本全国に増殖中のご当地アルプスの一つ、三浦アルプスです。
ご当地アルプスと呼ばれる山の多くは里に近い低山で、本格的な登山と言うよりは、お散歩コースに毛が生えた程度のものであることが多いように思われます。ところがこの三浦アルプスは、なかなかどうして本格派です。
標高こそ200メートル前後とさほどの高さはありませんが、まるで密林のような深い常緑広葉樹林と、アップダウンの激しい谷が入り組んだ複雑な地形が広がります。
全般的に道標はあまり整備されておらず、径の細い作業道が幾重にも入り組んだこの山域は、決してお気軽な散歩道などではなく、何気に高難易度な山域であったりします。実際、何度も道に迷いそうになりました。
半分藪漕ぎのような道を越えた先に待っていたのは、美しき湘南の夕暮れの光景でした。
コース
京急線の安針塚駅よりスタートし、畠山、乳頭山および仙元山をへて新逗子駅へと下る。三浦半島を東から西へ横断する行程です。
このコースは全般的に道標が少なく、非常に道がわかりにくくなっています。ほぼ全域で携帯の電波が入るので、GPSアプリを起動した状態で歩くことを強く推奨します。
1.三浦アルプス アプローチ編 赤い電車で三浦半島を目指す
10時45分 品川駅
さて本日の登山は、夜勤明け睡眠時間2時間少々のビハインド状態からのスタートです。翌日の日曜日は天気が悪そうだったので、根性で始動しました。
ちなみに先週も金曜が夜勤で、土曜は快晴日曜は雨という嫌がらせのような天気で山へ行きそびれました。
極めて重篤な好山病患者である私は、2週連続で山へ行けないとなるとそれはもう、フラストレーションが破局的大噴火する危機です。
自身の精神衛生の安寧のためにも、たとえどんなに眠かろうがお出かけするのです。
特急よりも早い快速特急なる、京急線独自のネーミングルールに少々戸惑う。
11時25分 金沢八景駅に到着しました。
うたた寝のつもりがガチ寝していたらしく、あやうく寝過ごすところでした。
浦賀行き各駅に乗り換えます。京浜エリアの地理には疎いのですが、浦賀と言うと黒船が来たところですね。
11時37分 安針塚駅に到着しました。
「あんじんづか」と読みます。振り仮名がないと読めませんね。三浦按針(本名ウイリアム アダムス)の墓があることから付いた駅名です。
圧倒的に海のイメージが強い三浦半島ですが、山がすぐ海際まで迫ってきているような複雑な地形をしています。そのため、海際を行く京急線もトンネルが多く明かり区間は少なめです。
駅前に、三浦アルプスハイキングコースに関する案内の類は一切存在しません。行動開始早々に、行く先に不安を感じる展開ですね。
2.東京湾を一望する好展望地、塚山公園
11時40分 身支度を整えて行動を開始します。塚山公園へ向かうには駅前から三回右折します。
長閑な住宅地の中を登って行きます。海際の丘陵地と言うのは、夏は涼しくて過ごしやすそうですね。
沿道の桜は満開の少し手前と言ったところ。もうすっかり春の光景です。
このピンクの桜は川津桜なのかと思いきや、おかめ桜と言う品種でした。ソメイヨシノより少し早くに開花する早咲き種です。
品種改良によって生まれた園芸種であり、マメザクラの仲間です。花弁が下向きに咲いているのが特徴的です。
足元にもすでに春の気配が漂っていました。これはコミヤマカタバミ。典型的な雑草です。
これはアフリカンデージー。園芸種が野生化したもので、繁殖力が強く問題なることも多いそうです。
相変わらず案内板一つない道が続きます。ちなみに、ここは左です。
既に多くの観光名所を有する三浦半島にあっては、今更ご当地アルプスを大々的に売り出す必要性が乏しいのかもしれません。地元の行政による公式サイトも存在せず、強くプッシュしようとする意志がまるで感じられません。
振り返ると東京湾が見えました。巨大なコンテナ船が所狭しと往来する光景は、東京湾ならではのものです。
眼下に見えているのは本町山中有料道路です。走ったら気持ちの良さそうな道ですな。
高台にある塚山公園まで、さらに高度を上げて行きます。こんな小径の道なのに意外と交通量が多めなので、轢かれないように要注意です。
12時10分 塚山公園に到着しました。
市街地の中にある公園ですが、ここが事実上の三浦アルプスの起点と考えてよい場所です。
公園の周りを囲っているこの木は、どう見てもすべて桜です。もしかしなくても、これは訪問時期を間違えたか。
桜が咲くのはまだ先のことですが、梅の花は良い感じに見ごろを迎えていました。
「海の見える丘」なるスポットがあるので、当然ながら寄って行きます。
真正面に東京湾を一望できます。何となく狭そうなイメージがありますが決してそんなことは無く、対岸が霞んで見えないほど広大な湾です。
海上自衛隊の横須賀基地がちょうど真下にあります。こんな上から覗ける位置に公園の展望所があったら、スパイされ放題なのではないだろうか。
右後方に護衛艦「いずも」が写っておりますな。
空母にしか見えない形をしておりますが護衛艦です。決して空母ではありません。ちょっと改造しただけでF-35Bを運用できるかもしれませんが、それはまったくの偶然です。空母ではありません。
憲法の条文には手を入れず、解釈だけを変えてやってきた国らしいレトリックと言うやつです。
猿島の先には、対岸の房総半島がすぐそこのように見えます。直線距離だとこれほど近くにあるものの、陸路で行くとなると非常に遠まわりで大変です。
反対方向に目を向けると、そこには富士山の頭だけが見えていました。
見晴台からの眺望はというと、先ほどの海の見える丘からの光景とさほど違いはありません。ここへはやはり、桜が満開の時に訪れたいものですね。
塚山公園には三浦按針ことウィリアム アダムスの墓があります。ちなみに、この人物が関ヶ原で小早川秀秋の陣に大砲をぶっ放したと言うのは只の伝説であり、裏付けるとなるような史料は存在しません。
3.何気に奥深い三浦半島中央の山間部
12時35分 塚山公園を後にし、三浦半島中央部にある乳頭山を目指します。
イノシシが出没してるとのことです。熊と比べて危険性を軽く見られがちな生き物ですが、過去に野生のイノシシ殺された人間は何人もいるのだと言う事実を、肝に銘じておかなければいけません。
石畳道と呼ばれる道に沿って進みます。その名から想像されるような舗装された石畳ではなく、石を削っただけの道です。濡れているせいか恐ろしく滑ります。
10分とせずに入り口まで下ってきました。ここからはしばらく舗装道路歩きです。
相変わらず道標は一切なく、スマートフォン片手にキョロキョロしながら進みます。この先は道なりに進み、川を渡ったら右です。
横浜横須賀道路の下を潜ります。不法投棄されたゴミが散乱してしているのは、里に近い山の宿命と言ったところでしょうか。
取ってつけたような鉄の階段が埋め込まれた、エグイ傾斜の登りが始まります。ようやく登山らしくなってきました。
登り切ったら鉄塔がありました。なるほど、この急階段は送電鉄塔の巡視路だったわけですな。
巡視路を外れて、いよいよ三浦半島の中央部へと足を踏み入れます。
急勾配の場所にはロープが張られていました。前日まで降り続いた雨の影響で、地面はヌルヌルです。
初めて道標が現れました。ルート上から100メートルほど外れた場所に、畠山というピークがあるらしいので、寄り道して行きます。
たったの100メートルなので、あっさりと山頂が見えて来ました。
13時15分 畠山に登頂しました。
標高は205メートルしかありませんが、何気にここが本日の行程の最高地点であったりします。
山頂の様子
樹林に囲われており、眺望は殆どありません。腰を下ろせるベンチなども一切ないため、レジャーシートの持参を推奨します。
山頂で唯一展望が開けている場所からの光景はこんな感じです。塚山公園からの眺望とほとんど変わらず、特筆すべき点はありません。
分岐まで戻って、乳頭山を目指しましょう。行く手には似たり寄ったりの高さの低山がダンゴになっており、どれが乳頭山なのかはよく分かりません。
痩せ尾根に沿った道が続きます。標高が低いためか、周囲は3月上旬とは思えないほどに緑の濃い森が広がっています。
お手軽なイメージのご当地アルプスらしからぬ、そこそこ険しい山道です。しっかりとアルペン的な要素がつまっていて良い感じです。
麓には梅園があるようですね。季節的にも、塚山公園ではなく田浦梅の里経由のルートを歩くべきであったか。
山頂直下の道は崩落気味で、通過するのに少し緊張しました。北アルプスだろうが三浦アルプスだろうが、滑落すれば結果は同じです。
三国峠と名乗る場所へ出ました。ちょうどここが横須賀市、葉山町、逗子市の境界であるようです。それにしても、普通は市区町村の境界を国境とは呼ばないのではないだろうか。
山頂直下最後の上りです。私が勝手に三浦アルプス標準仕様と命名した鉄階段が再び姿を見せました。ここも巡視路のようですな。
13時50分 乳頭山に登頂しました。
標高は202メートルです。低山ながら登山らしい登山ができる、なかなかの険路でありました。
山頂の様子
濃い樹林に覆われています。畠山と同様に、ベンチの類は一つも存在しません。
横浜方面を一望できます。空気はやや霞がちであるものの、その先の都心部まで薄っすらと見えました。
4.道迷い多発地帯の中尾根ルート
14時10分 行動を再開します。ここから先は、鉄塔巡視路や林業用の作業道やらの間道が複雑に入り組んだ、非常に道迷いの多い一帯となります。
道標に取り付けられたボックス内に、無料配布の地図が格納されていました。有難く一枚頂戴します。
・・・貰っておいてこんなことを言うのもなんではありますが、この地図がまた曲者でして。地図上に描かれた道の線の太さと、実際の道の太さがアンマッチで、混乱を増長しかねない内容です。
地図上でマーカー付きで書かれている道よりも、破線で描かれている道の方が、実際には幅の広い明瞭な道なのです。何度も見返してして、ようやく進むべき道は破線の方なのだという事を理解しました。
という事で、中尾根と呼ばれている尾根沿いに進みます。一部に痩せている場所はあるものの、踏跡は明瞭で歩きやすい道です。
細い作業道と何度か交差します。どっちを指しているのかわかりにくい道標に惑わされつつ、慎重にルート確かめながら進みます。
基本は尾根沿い一本道の北アルプスの稜線なんかより、三浦アルプスの方がよっぽど難易度が高いのではないだろうか。
山頂にアンテナの立っている山が見えて来ました。どうやらあれが二子山(209m)のようです。
本当は二子山へも立ち寄りたかったのですが、時間が大分押してきているので今回はパスします。なにせ、登山を開始したのが正午近くになってからでしたから。
二子山の手前で、中尾根は森戸川に向かって標高を落とし始めます。
川縁まで下って来ました。二子山へ向かう場合はここを右ですが、パスして左の林道方面へ向かいます。
小規模ながら渡渉があります。防水のハイカットシューズを履いていない人は慎重に。
ここは林道終点と呼ばれている地点です。ベンチがあるので、休憩するならここで取るのが良いでしょう。
いたる所から水が染み出すウェットな空間です。シダの一族が大いに繁栄していました。
ドロドログチャグチャな道でズボンの裾がすっかり泥まみれになってしまいました。三浦アルプスはゲイターを履いて来るべき場所ですね。
花粉をたわわに湛えた圧倒的杉林が頭上高くから林道を見下ろしていました。先ほどから私の花粉症の方も最高潮で、寝不足と相成って目を開けているのが辛い。
これだけ立派に育っているのだから、とっとと伐採して出荷すれば良いものを。「こちとらさっきから痒いんだよコンチクショウめがー」と天に向かって唾を吐きかけておく。
県道217号の下を潜ります。森の中に突如として現れた巨大土木建築物は、違和感ありまくりですな。
脇の甘くない林道入り口のゲートまで歩いて来ました。通用口が狭すぎて、あやうく挟まるところでした。
住宅地を通り抜け、三浦アルプス最後のピークである仙元山の登山口を目指します。
こちらのピークは阿部倉山(168m)です。三浦アルプス全山縦走を目指すならば、二子山ともども登らなければならない山です。まあ再訪の機会があれば、今度はもっと朝早くに来て全山縦走を目指すことにしましょう。
5.相模湾を見下ろす好展望地、仙元山
時刻が16時を回ったところで、再び山道へと足を踏み入れます。この時間になってから山へ登り始めるだなんて、山ナメも良いところです。
陽がだいぶ傾いて来ました。ゴールに向かってスパートをかけて行きます。
山頂らしき場所が見えて来ました。もう仙元山についたのかと思いきや、ここはその手前の名もなき189メートルのピークです。
真正面に江ノ島が姿を見せました。半島中央を突き抜けて、ようやく相模湾にお目にかかれたと言う訳です。
東には太平洋の大海原。名もなきピークにしてはなかなかの実力ですね。
ゴールの仙元山へと向かいます。仙元山に至っては標高は118メートルしかなく、ガッツリと下ります。
16時40分 仙元山に登頂しました。途中で二子山をスキップしてしまったもの、これで一応は三浦アルプス縦走登山の完了です。
山頂の様子
海側に広く視界が開けた好展望地となっています。
三浦アルプの中で最も眺めが良いのは、間違いなくここ仙元山です。最後の最後にこんな取って置きを残していたとは、三浦アルプスはなかなか侮れませんな。
真正面には相模湾越しに富士山の姿を一望できます。素晴らしいクォリティの眺望です。三浦半島と言うのは、こんなにも素敵な場所でありましたか。
海の中にポツンと、厳島神社みたいな鳥居が佇んでいるのが見えます。源頼朝が建立したと言いう、森戸神社の鳥居です。夏には渡し船が運行されて、上陸することも出来ます。
眼下に見ているこの教会がゴール地点です。仙元山からは10分もあればたどり着ける距離です。
日没まで残すところ1時間を切りました。せっかくなので、少し待機して夕焼け染まる相模湾を眺めて行くことにします。
箱根に向かって陽が沈んで行きます。間の悪い場所に雲が掛かってしまい、日没の瞬間を眺めることはかないませんでした。
それでも、オレンジ染まった見事な光景を眺めることが出来ました。
「せっかくだからこのまま湘南の夜景を眺めて行こうぜ」という、抗いがたい囁きが脳内から聞こえてきます。しかし、ここでふと我に返りました。そもそも、ヘッドランプを持ってきていたっけか?
ザックを漁ること数秒。うん、ライトは持ってきていない。
6.三浦アルプス 下山編 夕闇の中を下り新逗子駅へ
「それ急げッ!」という事で、黄昏の明かりが消えぬうちに、大慌てで仙元山をかけ下りました。
ちなみに、低山だからライトは要らないだろうと言う山ナメをしていたわけではなく、単に入れ忘れていただけです。・・・なお始末が悪いですね。はい、気を付けます。
あっさりと教会まで駆け下りて来ました。ここから先は街灯があるので、もう慌てる必要はありません。
教会へ至る坂道は、すごい急勾配でした。これではお祈りに来るものラクではなさそうですね。
町まで下って来ました。達成感に満たされそうになる瞬間ですが、まだゴールではありません。
帰路の新逗子駅はこの丘陵を越えた先にあります。これから山越えをしろだなんてことは言われませんからご安心ください。道沿いに歩いてトンネルを潜ります。
歩道のあるトンネルなので、通行に際して恐怖を感じるような場面はありません。
18時20分 新逗子駅に到着しました。なんやかかやで、半日をガッツリと使った充実の登山となりました。
海が見えるご当地アルプス巡りはこれにて終了です。お手軽な低山歩きかと思いきや、意外とガッツリの山行きでありました。
三浦アルプスのトレッキングコースは、特に半島中央付近があまり整備はされておらず、一部には藪漕ぎに近いような場所もあります。しっかりとした装備と計画でもって訪問した方が良い山域と言えます。
三浦アルプスにはいくつかのモデルコースが設定されおり、仙元山や二子山を単体で巡るコースであれば、それこそ散歩感覚で気軽に登ることも可能です。自信の好みに合させて色々とルートを策定するのも、この山域の楽しみ方の一つではないかと思います。
<コースタイム>
安針塚駅(11:40)-塚山公園(12:10~12:35)-畠山(13:15)-乳頭山(13:50~14:10)-林道終点(15:05)-ゲート(15:45)-仙元山(16:40~17:40)-新逗子駅(18:20)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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