朝日連峰縦走 以東岳から大朝日岳へと延々続く長き稜線を行く【day2】【day3】

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山形県と新潟県の境界上に連なる朝日連峰(あさひれんぽう)を縦走してきました。
朝日連峰北部に立つ以東岳からスタートし、最高峰の大朝日岳(おおあさひだけ)を目指して縦走する行程です。全体を通して一度も標高が2,000メートルを超えることのない背丈の山脈ですが、冬には豪雪地帯となるため森林限界を超えて展望の開けた稜線が続きます。
視界内に人工物が一つも目に入らない奥深き稜線を縦断してきました。

2024年10月18~19日に旅す。

縦走2日目となる今回は、最高峰の大朝日岳を目指して朝日連峰の中心部へと足を踏み入れていきます。今回の山行きにおけるハイライトとでもいうべき行程です。
北寒江山から見た寒江山
以東岳から大朝日岳までの歩行距離はおよそ14kmほどあり、なかなかのロングトレイルとなります。道中はアップダウンも多く、アプローチの困難さもあって、決して万人向けとは言い難い縦走コースです。

午前中の間は完璧な晴天でしたが、大朝日岳にたどり着く頃にはすっかりとガスに覆われてしまいました。日本海側に位置する朝日連峰は割と天気が気難しい山域で、なかなかスカッと晴れてはくれません。
ガスに覆われた大朝日岳の山頂

最後は雨にも降られ、後半は晴天に恵まれたとは言い難い山行きでしたが、長年の憧れであった朝日連峰の稜線歩きを満喫してきました。縦走2日目と3日目の記録です。
急な下りが続く中ツル尾根

マップ
大朝連峰縦走のコースマップ
初日の宿泊地の以東岳避難小屋からスタートして、途中にある複数のピークを越えながら大朝日岳を目指します。大朝日岳山頂直下にある大朝日岳山頂避難小屋に宿泊し、最終日は中ツル尾根から朝日鉱泉へ下山します。

朝日連峰主脈の端から端までを歩き通す行程です。

1.花崗岩のザレ場が目を引く狐穴小屋までの道程

5時20分 以東岳避難小屋からおはようございます。まだ夜が明けていない時間ですが、本日の行程は先が長いのため、ヘッドライト装着の状態で歩き始めます。
夜明け前の以東岳避難小屋

避難小屋から以東岳の山頂までは、せいぜい5分少々でしかない距離です。昨日にも1度歩いた道をゆるゆると登って行きます。
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山頂まで登って来ると、昨日脇を通って来た大鳥池を満月の月明かりが煌々と照らしていました。ISO感度を上げているので写真は明るく写っていますが、実際にはまだライトが無いと足元が見えないくらいの薄暗さです。
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鳥海山と月山が並んで雲の上に頭を出していました。何れ劣らぬ東北地方の名峰たちですが、交通アクセスが極めて悪いという点についても共通しています。
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今いる朝日連峰についても同様の事が言えますが、基本的に東北地方の日本海側にある山と言うのは、車が無いと訪問が困難な山ばかりです。

私の様な車も買えない貧乏人環境意識高い系ハイカーにとっては、普段よりもいっそう意識の高さを厳しく問われる山域であると言えます。

下界は完全に雲海の下に隠れており、東の空がオレンジ色に染まり始めつつありました。ここからご来光を眺めて行きたい気もしますが、先は長いし何よりもじっとしていると寒くて仕方がないので、先へ進むことにします。
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この先は視界の開けた稜線が続くので、ご来光はどこか途中から見えることでしょう。

縦走路へと踏み出します。視界の先には、遥か彼方まで草原状の稜線が続いています。稜線マニアには垂涎ものの光景です。
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ちなみに、本日のゴール地点である大朝日岳はこの尖った山です。いくらなんでも遠くない?と言うのが初見での感想です。本日は長い一日となりそうです。
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以東岳から大朝日岳に至る区間は、最初から最後まで日影が一切ありません。真夏の晴天時に歩いたら、きっと暑さで地獄を見ることでしょう。吹き曝し稜線であるため、秋が深まった10月にもなると今度は寒さが身に染みます。
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以東岳の周辺では、こうした花崗岩が露出しているザレ場が多くあります。一見するととても歩き易そうな見た目に反して、初っ端から意外に歩行に難儀します。
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太陽が昇って来ました。下界は雲に覆われているようですが、上空は今のところ雲一つない晴天です。残念ながらこの晴天は午前中のみで、正午過ぎからは曇る予報となっています。
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長年の洗堀による結果なのか、花崗岩がまるで波打つようにえぐれています。この縦走路は一応メジャールートだと言って良い道だと思いますが、全般的にあまり整備はされておらず自然の成り行きにゆだねられている感じがします。
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日の出前はそれこそ身を切る様な空気の冷たさでしたが、陽の光に照らされるなり一気に暖かくなり、早々と手袋とハードシェルジャケットを脱ぎました。毎度のことながら、お天道様の力は本当に偉大です。
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下界を覆っている雲海が、雲滝となって溢れ出していました。やがてはあの雲がこちらまでやってきて、稜線を覆てしまうのでしょう。まだ晴れている間に、絶景を満喫できるだけ満喫しておくことにしましょう。
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鞍部になっている平坦な場所には、ポツポツと池塘が点在しています。こうした高層湿原はある程度冷涼な環境にしか生じえないもので、東北地方の山で特に多く見られます。
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7時10分 中先峰まで歩いて来ました。あまりピークと言う感じはしない、以東岳と寒江山 (かんこうざん)の間にある稜線上の小さなコブと言ったところです。
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すぐ隣に同じような高さのもう一つのピークがありますが、あちらには特に名前は無いようです。広義には2つ合わせて中先峰と言う事なのかな。
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この中先峰の2つ目のピーク(?)からの下りが、洗堀により地面が大きく抉れていて何気に難儀しました。
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なんだかんだで、以東岳から300メートルほど標高を落としました。前方に大きく立ちはだかっているのが、次なるピークの寒江山です。
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鞍部から振り返ってみた中先峰です。こちら側から見るとしっかりとピーク感があり、やはり双耳峰のように見えます。
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だいぶ霞んでいますが、彼方に薄っすらと日本海の海岸線が見えています。朝日連峰はかなり奥まった場所に位置していると言う印象があり、海が見えるのは少し意外な感じがします。
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ここでもやはりザレ気味の斜面を登り返します。南東に向かって進んでいるため、この時間帯は基本的にずっと逆光です。
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もうだいぶ前からずっと度入りのサングラスが欲しいと言い続けているのに、いまだに作ってはいません。何気に結構いいお値段がするんですよ。

前方に狐穴小屋(きつねあなごや)の建物が見えて来ました。朝日連峰はエスケープするのも容易ではない奥地にあるだけに、稜線上にはこうした避難小屋が数多く存在します。
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小屋の周辺は広々とした湿原に囲まれていました。東北地方の山の場合、地形的に小屋のを建てるのに適していそうな平坦な場所というのは、大抵は湿原になっているのでしょう。
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7時55分 狐穴小屋に到着しました。今回私は2泊3日の行程で計画を組んでいますが、同じルートを1泊2日で歩きたい場合には、初日のうちにここかもしくは次の竜門山避難小屋まで辿り着けないと、行程的に厳しいものとなります。
狐穴小屋

小屋の前に水が引かれていますが、これは自然の湧水ではなく沢からくみ上げているものです。避難小屋に管理人が常駐している間は維持されますが、シーズオフになると停止するので要注意です。
狐穴小屋の水場
以東岳を出発してからずっと歩き詰めで流石に少し疲労を覚えたので、腹ごしらえしつつ一本立てました。まだまだ先は長い。

2.寒江山を越えて竜門小屋へ

8時10分 行動を再開します。本日は平日と言う事もあってか、ここまでですれ違った人は僅かに2人だけです。10月の3連休中ともなればこうはならなかったでしょうから、訪問のタイミングをずらしたのは大正解でした。
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もっとも、そのために払った犠牲もまた大きかったですけれどね。タクシー代だけで32,000円…

ここまでの緩やかな登り返しから一転して、結構しっかりと登らされます。それでもまだ、スタート地点の以東岳よりは100メートル近く低い標高です。
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背後を振り返ると、その以東岳の姿が良く見えました。朝日連峰と言うと、どうしても最高峰の大朝日岳にばかり注目が集まりがちですが、以東岳もとても良いですぞ。
寒江山から見た以東岳

東側の下界を覆っている雲海が、徐々に高さを上げてこちらの朝日連峰主脈上に迫りつつあります。予想していたよりも上昇が早く、焦燥感に駆り立てられます。出来る事ならば、雲に追いつかれる前に大朝日岳までたどり着きたい。
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寒江山は3つのピークを持つ山で、前方に見えているのは北寒江山と呼ばれているピークです。パッチワークのように疎らに紅葉してはいますが、全体的にハイマツの緑が目立つ山です。
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北寒江山まで登って来ました。見たところ山頂標などは立っておらず、ただの通り道の様な扱いをされていました。
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ここまで歩いて来た道程が一望できます。既に結構な距離を歩いたような気分になっていますが、現在地まだ半分ですらありません。
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寒江山の本体はなかなか存在感のある姿をしていました。ここだけを切り取って見ると、谷川岳主脈を思い出すかのようなアップダウンの多さで、エビス大黒ノ頭を見上げた時の様な気分になります。
北寒江山から見た寒江山
・・・この例えが分かる人は、果してどれくらいいるのだろうか。

と言う事で、割としっかり登らされます。遠目には鼻歌混じりに歩けそうな稜線に見えましたが、やはり実際に歩いてみないと分からないことはたくさんあるものです。
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9時 寒江山に登頂しました。ここが以東岳と大朝日岳のほぼ中間地点となります。全方位に展望が開けている山ではありますが、この山自体を目的地に登ってくる人はほぼ存在せず、通り道であることに徹しているかのようなピークです。
寒江山の山頂

寒江山から次の南寒江山へと至る区間は、殆ど標高差もなくほぼ水平移動のような尾根が続いていました。ずっとこんな感じだと良いのだけれどな。
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寒江山の背後に隠れて見えなくなっていた大朝日岳が、再び姿を見せました。ここから見るとかなり尖って鋭利なピークのよう見えます。
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お次の竜門山へと向かうのですが、その前にまた一度しっかりと標高を落とします。先ほどから登ったり下りたりと忙しないですが、縦走登山と言うのはそういうものでございます。
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登り返しの最中にも、名前もない尾根上のコブの様な小ピークがいくつか並んでいます。一つ一つは大した登りではありますが、ここまでの累積疲労がボディブローのように徐々に効いて来ましたぞ。
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ここで遂に、谷底から上昇してきた雲が稜線上にまでかかり始めました。始めから約束されていた未来だったとは言えども、まだ時刻は10時前だと言うのに。雲の進行が早い。早すぎる。
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行く手の前方もガスで覆われ始めました。今日はもはやここまでかと悲嘆しかけましたが、幸いにも1次的なものでガスはすぐに晴れました。
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竜門山の手前にある最後の名も無き小ピークに登ったところで、竜門山避難小屋の姿が見えました。狐穴避難小屋とよく似た立地にあり、軽く既視感を覚えます。
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周囲が湿原に囲まれているところもそっくりです、まあ、避難小屋を建てるのに適した立地と言うのは、必然的に似通ってくるものなのでしょう。
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10時10分 竜門山避難小屋まで歩いて来ました。狐穴小屋と同様に、この小屋の前にも沢水を引いている水場があります。今期は既に停止しており、水は出ていませんでした。
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夏以降の季節に朝日連峰を歩こうと考えている人は、この水場はあまり当てにはしない方が良いのかもしれません。

国土地理院で地図上では竜門山と言う名称になっているのですが、小屋の入り口に掲げられた表札には龍門山とあります。「竜」と「龍」のどちらが正しいのだろうか。
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周囲には人影もなくすっかりと静まり返っていましたが、この小屋も10月の三連休には大混雑するそうです。狐穴避難小屋の方が比較的空いていることが多いので、少しでも混雑を避けたい場合はそちらに泊まることを検討してください。

3.西朝日岳で遂に虚無に呑み込まれる

避難小屋から竜門山の山頂までは、せいぜい15分くらいの距離です。小屋に宿泊した人は、夕焼けやご来光を拝みに行くのも苦にはならない距離だと思います。
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左手に見えているこの山は、朝日連峰主脈から派生した枝尾根上にある清太岩山(1,465m)です。この尾根沿いに下ると、日暮沢小屋に下山することができます。朝日連峰では数少ないエスケープ可能ポイントです。
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エスケープ可能とは言っても、降りた先に公共交通機関は存在しないし電波も入りません。離脱する際には、電波が入る稜線上にいるうちにタクシーを呼んでおきましょう。

10時30分 竜門山まで登って来ました。朝日連峰の中でも最深部と言って良い場所にある山ですが、日暮沢小屋から日帰りで往復する人はそこそこいるらしい。
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背後を振り返ると、ちょうど朝日連峰主脈の稜線が雲をせき止めているかのような状況で、寒江山の先に以東岳の頭付近だけが僅かに見えました。
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竜門山の山頂は横に長く、あまりピークらしさはありません。ここでもただの通り道の様な雰囲気です。
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続いて前方に姿を見せたのは西朝日岳です。左後方にある大朝日岳の山頂は、既に雲に覆われてしまっていました。やはり間に合わなかったか。まあ致し方なし。
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ここから稜線は本格的に標高を上げ始めます。だいぶ累積疲労も溜まってきている感じはしますが、もうひと踏ん張り頑張って歩きましょう。
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この西朝日岳への登りに最中で、ようやく昨日登った以東岳の標高を超えました。朝日連峰なかで最も標高の高い一帯に差し掛かって来ました。
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いつしか頭上もどんよりとした雲に覆われていました。ここまで歩いて来た稜線が、かろうじて雲の下に収まっている状態です。そろそろ景色も見納めか。
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西朝日岳の山頂に辿り着く直前で、ついに虚無の世界に突入しました。予想されていた事と言うか、天気予報は残酷なまでに正確でした。朝のうちはあんなに晴れていたのに!
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11時40分 西朝日岳に登頂しました。ここまでやってくれば、長かった縦走もいよいよ終盤です。後は大朝日岳を残すのみ。
西朝日岳の山頂

その大朝日岳は完全に雲に覆われていました。ここは本来大朝日岳を目の間に望む絶好の展望所であるはずだったのですが、間に合いませんでした。うむ、残念。
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背後の稜線は眼下にまだ辛うじて見えています。ちょうど大朝日岳の山頂だけを覆い隠すかのように、標高1,800メートル付近に垂れ込めている雲であるようです。あともうちょっとだけで良いから、上空に昇ってくれないかな。
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4.驚きの白さに覆われたおゝ朝日岳

落胆は隠せませんでしたが、ともかくゴールへ向かいましょう。周囲を覆ているのはそれほど厚みのあるガスではないらしく、時よりこうして視界が開ける瞬間があります。
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山の麓には、見事な紅葉の錦模様が広がっていました。それでもやはり緑色の部位が多く、今年の紅葉前線はかなり進行が遅れているようです。
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大朝日岳の本体に取り付く前に、中岳と言うそのままな名称のピークを挟みます。最後の最後にまで、なかなか勿体つけてくれますな。
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登山道は中岳のピークを踏まずに、脇を巻いていました。周囲は湿原になっているらしく、一面の枯草に覆われていました。
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今度こそ大朝日岳の本体に取り付きます。今はまったく全く見えていませんが、遠巻きに見えていたシルエットからして、恐らくはかなりの急登であるはずです。ラストスパートをかけていきましょう。
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と意気込んだ矢先ですが、この中岳と大朝日岳の間の鞍部に水場があるので、アタックをかける前に給水していきます。この水場はなんでも金玉水と言うらしい。ふむ、どこかで聞いたことがあるような名前ですね。
大朝日岳 金玉水分岐

水場は稜線からは少し下った場所にあります。往復してもせいぜい10分程度の距離です。この付近は8月の頭頃までは雪渓が残る場所で、かつてはキャンプ指定地が存在しました。
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現在は磐梯朝日国立公園の特別保護区に指定されており、テント泊は禁止されています。

と言う事でこちらが金玉水でございます。秋以降にも基本的に涸れることはほぼない、信頼のおける水場です。翌日の分も含めた必要量を確保しておきましょう。
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本当にどうでもいいことですが、筒が2本になっているのは何かのこだわりなんですかね。2つあるべきものは玉であって、筒では無かろうに。

周囲に広がる湿原からも、ジワジワと水が常時染み出して来ています。湿原の泥炭層が持つ保水力の高さが良くわかる光景です。ここも初夏にはお花畑になるのでしょうね。
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水が加わってズシリと重くなった荷物にため息をつきつつ、最後の登りに取り掛かります。先は全く見えませんが、予想していた通りの急登です。
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息を切らせつつえっちらおっちらと登って行くと、不意にガスの中から避難小屋の建物が姿を見せました。
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13時50分 大朝日岳山頂避難小屋に到着しました。本日はこちらに宿泊します。
大朝日岳山頂避難小屋
名目上は避難小屋ですが、夏から秋にかけてのシーズン中は管理人が常駐しており、売店の営業もあります。準営業小屋と言ったところでしょうか。宿泊する際の協力金は2,000円です。

朝日連峰にある避難小屋の中では最も利用者の多い小屋で、連休中はそれはもう大混雑します。取って付けたかのように天井から吊るしたロフトがありますが、混雑時にはあそこも宿泊スペースになるのだろうか。
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本日は平日と言うこともあってか、宿泊客は私一人だけの貸し切り状態でした。

田中陽希のサインが壁にかかっていました。どういうルートを辿ろうとも、ここを通らなかったはずはないですからね。
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寝床を確保したところで、空荷で山頂へ向かいます。どのみち明日も下山時に通ることにはなるのですが、まあ時間もあるので今日のうちに登っておきましょう。小屋から山頂まではおよそ15分ほどの距離です。
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頭上に何となく青空が見えています。ひょっとしたらガスが取れる瞬間があるのかもしれないと、期待が高まります。
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しかしそんな願いもむなしく、山頂は驚きの白さに覆われていました。おゝ朝日岳よ、あなたは何故そんなに白いのですか。
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14時25分 大朝日岳に塔著しました。晴れていれば360度全方位に展望が開けている山です。晴れていればね。大事な事なので2度言いました。
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山頂には僅かに電波が入るので、ガスが取れるのを待つ間に、左沢駅前に営業所がある大江タクシーに電話をして、明日の下山後の配車を依頼しておきます。

何時頃に下りれるか確証が持てなかったので、少し余裕を持たせて13時に迎えを頼みました。

その後1時間近くも山頂で粘りましたが、結局ガスが晴れることはありませんでした。明日の朝には少しでも晴れる瞬間があると良いなと願いつつ、小屋へと引き上げました。
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5.急勾配の岩尾根が続く中ツル尾根を下る

明けて10月19日 5時40分
大朝日岳山頂避難小屋よりおはようございます。本日の予定は朝日鉱泉へ下るだけですが、天気予報は曇りのち雨となっております。出来れば雨が降り出す前に下山してしまいたいところです。
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隣の中岳は見えていますが、その先の西朝日岳は雲に覆われています。昨日から雲の状態はあまり変わっていなさそうです。
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昨日も一度登った道を再び登り、大朝日岳の山頂へ向かいます。昨日は空荷状態だったから特に何の苦も感じませんでしたが、結構な急勾配です。
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朝日が昇って来ました。大朝日岳から望む朝日と洒落込みたかったのですが、ガスってしまっていては如何ともなりません。
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上空には何となく青空が見えている点も、昨日と全く状況が変わっていません。ちょうど大朝日岳の山頂付近にだけ雲がまとわりついているかのような状態です。
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左手に小朝日岳(1,647m)へと続く稜線が見えています。少し遠回りにはなりますが、あちらを経由して朝日鉱泉に下るルートも存在します。
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6時 1日ぶり2度目となる大朝日岳に登頂しました。雨が降り出す前に下山を終えたいと言う事情もあるため、本日はもう粘らずに速やかに下山を開始します。
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朝日鉱泉まで最短距離で下ることのできる、中ツル尾根コースから下山します。避難小屋の小屋番の方曰く、かなり急勾配な尾根なので十分に注意すべしとの事でした。気を引き締めていきましょう。
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ガス越しに朝日が差し込み、周囲が何とも言えない不気味な色に照らされています。このガスにはあまり厚みはなく、下界は晴れていそうです。
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周囲の山々が、あまり目にしたことのないような黄金色に照らされていました。これはなかなか神々しい光景です。
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予想の通り、下り始めて程なく雲の下に抜けました。谷底まで一直線に尾根が続いているのが良く見えます。先ほどから強い横風が断続的に吹いており、ゆすぶられてバランスを取るのになかなか難儀します。
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遠くに山形盆地が見えています。別名で村山盆地とも呼ばれています。五月雨を集めると早いという、かの高名な最上川が運んだ土砂の堆積によって形成された扇状地です。
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中ツル尾根は確かに急と言えば急ですが、割と足元がしっかりとしている岩尾根であるため、とくに歩き難さは感じません。泥濘もなく、東北地方の山としてはむしろかなり歩きやすい方だと思います。
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一部に痩せてる箇所があり、そこを通り抜ける時だけは注意を要します。よりにもよって痩せ尾根を通過中に不意の強風に見舞われて、かなり肝を冷やしました。
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なんというか、明確な殺意を感じるかのようなタイミングでした。山の神様の勘気に触れるような振る舞いをしたつもりはないのだけれどな。

紅葉前線がある標高まで下って来ました。しっかりと色付いてはいるのですが、紅葉に関して言うと今回は完全に期待外れであった感じがします。夏の猛暑の影響もあってか、今年は紅葉の外れ年であったようで。
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何気に背後を振り返えって見ると、雲が取れて山頂部が見えていました。もう少し粘れば良かったのかもしれませんが、まあこの後雨が降ると言っているし、こればかりは致し方ありません。
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森の中まで下って来ると、先ほどまでの強風が嘘のようにピタリとやみました。あとは粛々と下山と言う作業に取り組むのみです。
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8時 5合目まで下って来ました。ここまでは特に早くも遅くもないペースで、順調に下ってこれました。
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6.油断ならない沢沿いの道が続く、朝日鉱泉への道程

5合目を過ぎて程なく、ポツポツと雨粒が落ち始めました。思っていたよりもずっと早くに降り始めてしまいました。この後はもう天候が回復する見込みもないため、早々とレインウェアを着込みます。
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この先は、あまり写真も撮らずに黙々と下り続けました。

9時40分 場面は一気に飛んで、二股出合まで下って来ました。ここから先は沢沿いのほぼ水平移動の道となります。
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この吊り橋は気のせいではなく明らかに傾いています。普段はこのくらい気にもしないのですが、雨で濡れている時だと踏板の上を横に滑りそうな気がして、ちょっとした恐怖を感じます。
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朝日鉱泉まではあと1時間45分とあります。距離の割に所用時間が長めなのは、それだけ道の状態が良くないと言う事なのでしょうか。十分に注意していきましょう。
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標高差自体はもう殆ど残っていないのですが、そこは沢沿いの道だけに高巻きなどもあり、小刻みにアップダウンを繰り返すなかなかの悪路です。
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うろ覚えですが、確か3回くらい沢の両岸を行ったり来たりします。この吊り橋の踏板は、雪対策のため冬になる前に撤去されます。通行可能な時期が決まっているので、訪問する際は事前に確認して下さい。
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崖際の危なっかしい上り下りなどもあります。中ツル尾根ルートを下山に使う場合、核心部と言えそうなのは二股出合まで下って以降の、沢沿いの道に入ってからでした。
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日本全国津々浦々に伝承が残る謎の高僧、弘法大師の名を冠した水場がここにもありました。真面目に数えたこともありませんが、弘法清水を名乗る水場は一体全国に幾つ存在するのだろうか。
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後半はだいぶ端折りましたが、何とか転んで沢に転落することもなく朝日鉱泉の建物が見える場所まで下って来ました。
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最後にこれまででもっと長い吊り橋を渡ります。足元がスカスカなので、高所恐怖所のきらいがある人にとっては、この橋こそが最大の核心部であるかもしれない。
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下を流れる川はその名も朝日川と言う名称で、最上川の源流の一つです。
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最後の最後に少しだけ登り返しがあります。あと250歩と書かれていますが、本当に図ったのだろうか。
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11時45分 朝日鉱泉に到着しました。足元が濡れていたからと言うのもありますが、なかなか神経が磨り減る下山路でした。安心安全に下りたければ、多少の遠回りになろうと小朝日岳経由の方が良かったのかもしれません。
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このナチュラリストというのは、自然主義過激派(?)の事でしょうか。いや何となく、言葉の響き的にね。
朝日鉱泉ナチュラリストの家
ここで食事や日帰り入浴が出来ると言う事前情報を得ていたのですが、それはどうやら休日のみの営業らしく、本日はやっていませんでした。

タクシーを待つ間の時間調整を兼ねて、ひと風呂浴びられたら良いなと思っていたのですが、残念でした。

少し離れた場所に駐車スペースがあり、車でお越しの人はここまで入ってこれます。迎えのタクシーも恐らくここに来るだろうと言う事で、後1時間少々突っ立って待つことにします。
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ちなみにこの辺りは谷底であるため、携帯の電波は一切入りません。タクシーを呼びたい場合は、電波が入る稜線上にいる間に呼んでおく必要があります。

朝日鉱泉で電話を借りることも可能ではあるようですが、衛星回線電話であるため高額の電話料金が発生するとのことです。

多少は早くに来てくれないかなーと期待して待っていた迎えのタクシーは、結局ほぼ時間通りにやって来ました。
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朝日鉱泉からはおよそ1時間ほどかけて、左沢駅に到着しました。左沢と書いて「あてらざわ」と読みます。一見さんには絶対に読めない地名です。
左沢駅の駅舎
朝日鉱泉ここまでのタクシー料金は15,400円でした。わかっていたこととは言えど、やはり遠いぞ朝日連峰。

次の山形駅行きの電車・・・ではなく気動車は、およそ2時間後の16時15分までありません。地方のローカル線らしい、スカスカの時刻表です。
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なお駅の周辺に時間つぶしの出来そうな商業施設などはありません。大型のドラッグストアが1軒あり、そこで飲み物や総菜弁当などは買えます。

そもそも左沢駅が何線の駅なのかも未確認と言う言う山ナメならぬ旅ナメをしていた訳なのですが、その名もJR左沢線の駅でした。山形駅と左沢駅を結んでいるローカルな地方交通線です。
241018大朝日岳-115

山形駅からは全席指定のブルジョワな乗り物、山形新幹線つばさ号に乗り込み、帰宅の途に付きました。
241018大朝日岳-116

長きにわたって自分内部での懸案事項であり続けた朝日連峰縦走でしたが、ようやく完全な形で歩き通すことが叶いました。大朝日岳山頂からの展望こそ拝めませんでしたが、それでも満足感もひとしおな山行きでした。
アプローチの困難さもあってか、最高峰の大朝日岳だけを往復して終わりにしてしまう人も多いかと思いますが、以東岳へと続く主脈の稜線を歩かないのは、映画館に行っておきながら予告編だけを見て帰るようなもので、とても勿体ないことだと思います。
なかなか予定を組むのは難しいかもしれませんが、是非とも以東岳まで繋げて歩て見てほしいです。
誰でも気軽に登りに行ける山では決してありませんが、登山が好きならば一生に一度くらいは訪れるべきマストな存在であると思います。

<コースタイム>

2日目
以東岳避難小屋(5:20)-以東岳(5:25~5:40)-中先峰(7:10)-狐穴小屋(7:55~8:10)-寒江山(9:00)-竜門小屋(10:10)-西朝日岳(11:40~11:55)-大朝日岳山頂避難小屋(13:50)

3日目
大朝日岳山頂避難小屋(5:40)-大朝日岳(6:00)-5合目(8:00)-二股出合(9:40)-朝日鉱泉(11:45)

大朝日岳山頂での記念撮影

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

コメント

  1. ニーガン より:

    影ながら記事が更新されるのを楽しみにしている一人です
    文章も写真も分かりやすくて良いですね
    私は日帰り登山が基本ですが、テント泊、山小屋泊した気分になれます

    あと、再就職頑張って下さい
    そうなると山に行くのはタイトル通り「週末」に戻るんでしょうかね

    • オオツキ オオツキ より:

      ニーガンさま
      コメントを頂きましてありがとうございます。

      確かにタイトルに偽りあり状態になってしまっていますね。あまり頑張り過ぎなくてもよい生活を手に入れるために頑張りたいと思います。