鈴鹿セブンマウンテン縦走 カルスト台地の藤原岳と草原が広がる竜ヶ岳【Day1】

藤原岳の山頂から見た鈴鹿山地
三重県と滋賀県の境界上に連なる鈴鹿山脈にある、鈴鹿セブンマウンテンを縦走して来ました。
かつて開催されていた鈴鹿セブンマウンテン登山大会の目的地であった山々です。具体的に言うと藤原岳、竜ヶ岳、釈迦ヶ岳、雨乞岳、御在所岳、鎌ヶ岳および入道ヶ岳の7座です。現在ではもう大会は行われていませんが、何れの山も登山の対象として根強い人気があります。
今回は縦走1日目の藤原岳と竜ヶ岳の記録です。

2024年6月3日に旅す。

鈴鹿山脈は滋賀県と三重県の境界上に連なる、概ね標高1,000メートル少々の山の連なりです。太平洋側にある山脈ですが、琵琶湖の上空を通り抜けて来た湿った空気が直接ぶつかる位置にあることから、冬になるとまとまった量の降雪があります。
三岐線の車窓から見た鈴鹿山脈
年間を通じて降水量が極めて多く、その過酷な気象条件により独自の景観と生態系が形成されています。

鈴鹿山脈に属してる山の中でも登山者に特に人気が高いのが、鈴鹿セブンマウンテンと呼ばれている7座の山です。
藤原岳の山頂標識
近畿日本鉄道(近鉄)が中心となり、昭和39年より鈴鹿セブンマウンテン登山大会が開催されていました。この大会はその後34年間にわたって続けられ、人気を博していました。

現在は大会は実施されておらず、鈴鹿セブンマウンテンと言う名称だけが残っています。

当初は7座全てを踏破するつもりで現地に赴いたのですが、想像以上のアップダウンの連続にすっかりと打ちのめされて嫌気が差し、5座目の御在所岳までで途中リタイアする結果となりました。
竜ヶ岳山頂付近の草原
全体としては無念の結果に終わった山行でしたが、今回は当初計画の通りに歩いた縦走1日目の記録をお届けします。

コース
藤原岳から竜ヶ岳への縦走コースマップ
三岐線の西藤原駅よりスタートし。表登山道を登って藤原岳に登頂します。その後は鈴鹿山脈の主脈に沿って竜ヶ岳まで縦走し、石榑峠(いしぐれとうげ)の近くにある幕営適地でテント泊します。

1.序章 鈴鹿セブンマウンテン縦走 計画編

前述の通り当初予定していた鈴鹿セブンマウンテン全山縦走は失敗に終わった訳なのですが、どのような計画だったのかを簡単に解説しておきます。

鈴鹿山脈は伊勢湾に沿うようにして連なる南北に長い山脈で、全長はおよそ約60kmほどあります。鈴鹿セブンマウンテンの7座全てを縦走する場合、総歩行距離はおよそ42km程となり累計標高差は4,500メートルを超えます。
竜ヶ岳から見た鈴鹿山地
世の中にはこのルートを1日で踏破してしまう豪脚のトレイルランナーも存在しますが、一般的な登山者であれば2泊3日か3泊4日で予定を組むのが妥当であろうかと思います。

鈴鹿セブンマウンテンの山は何れも、単体で見ると日帰りで登るのが妥当なボリューム感の山です。そのためか縦走コース上に宿泊可能な有人の山小屋は存在しません。
藤原山荘
避難小屋が何軒かあるにはあるのですが、位置的に縦走に使うのは少々難しいです。そんな事情から、鈴鹿セブンマウンテン縦走を行う場合はテントを担いで歩くのが一般的です。

鈴鹿山脈は国立公園の認定を受けておらず、公式なキャンプ指定地は存在しません。テントを張るのに適した場所はおのずと限られており、何ヵ所かに暗黙のテント場となっている場所が存在します。
石榑峠の幕営適地
沢水ではありますが、水を取れる箇所も道中に何ヵ所か存在します。ただ有人の山小屋や整備されたキャンプ指定地が存在する山域に比べると、縦走登山のハードルはやや高いと言えます。

先人たちが残した山行記録なども参考にして、最終的に2泊3日で以下のように計画を立てました。
鈴鹿セブンマウンテン縦走のコースマップ
西藤原駅から入山し、初日は藤原岳と竜ヶ岳を経て石榑峠で1泊します。ここまでは恐らく大多数の人がまったく同じ予定を組むものと思います。

2日目の宿泊地をどこにするのかが悩ましいところで、雨乞岳手前の杉峠付近も水場に近いため有力な候補となりますが、そうすると今度は3日目の行動時間が長くなりすぎてしまいます。

そのため七人山のコルまで進むことを計画しました。2日目がかなりハードな行程になりそうですが、ともかくこれで何とか頑張ってみようと言う事で当日を迎えたのでした。

2.鈴鹿セブンマウンテン縦走 アプローチ編 近鉄で行く三重県への旅路

5時43分 JR東京駅
なにしろ鈴鹿は遠い。と言う事で今回は、贅沢にも新幹線を利用したアプローチです。贅沢と言っても自由席ですが。
東京駅の新幹線ホーム
鈴鹿山脈は滋賀県と三重県の境界上にある山ですが、公共交通機関を利用してアプローチする場合は、三重県側からのアクセスが一般的です。

やや雲が多めの空模様ですが、今のところは天気は上々です。鈴鹿山脈は天気が気難しい山脈で、雨が多くなかなかカラッと晴れることはありません。今回はなんとか3日間天気が持ちそうな予報が出ていたため、急遽計画を発動しました。
東海道新幹線の車窓から見た富士山

7時34分 名古屋駅に到着しました。東京駅始発ののぞみに乗れば、こんなにも早い時間に名古屋に到着することが可能です。流石は新幹線。高いけれど早い。早いけれど高い。
名古屋駅の新幹線ホーム

続いて近鉄名古屋線に乗り換えます。JR名古屋駅と近鉄名古屋駅は微妙に距離が離れており、移動時間はだいたい10分くらいを見込んでおいた方が無難です。
名古屋駅の構内

8時1分発の松阪行の電車に乗車します。何気に近鉄の電車に乗るのは自身初めてのことで、路線がどこでどう接続しているのか一切知らないため、Yahoo路線検索に言われた通りに乗り換えます。
近鉄名古屋駅の構内

8時34分 近鉄富田駅に到着しました。駅名にことさら近鉄と強調していると言う事は、近くにJR富田駅もあるのかな。
近鉄富田駅のホーム

続いて三岐鉄道三岐線(さんぎせん)に乗り換えます。近鉄とはまた別の独立した私鉄路線です。
240603藤原岳-015
三岐線は三重県と岐阜県の関ヶ原を結ぶことを目的として設立された路線でしたが、三重県内の西藤原駅止まりで岐阜県には足を踏み入れていません。

長野県内は通っていないのに名前に信の文字が入っている上信電鉄と似たような経緯です。・・・分かりにくすぎる例えでしたかね。

駅自体は近鉄線と共用していますが、三岐線は交通系ICカードに非対応なので、一度改札を出て切符を購入してから再入場します。
三岐線の切符

車窓に目指す鈴鹿山地の山並みが見えて来ました。概ね標高1,000メート前後の山で構成されており、突出して背の高いピークはありません。ただ、実際に歩てみればわかりますが、アップダウンはかなり激しいです。
三岐線の車窓から見た鈴鹿山脈

縦走最初の目的地である、藤原岳の姿が見えました。藤原岳は石灰岩の山で、採掘により山腹が大きく削られています。武甲山のように、山頂まで削られたりはしていないようですが。
東藤原駅付近から見た藤原岳

石灰運搬用のホッパ車が目につきます。三岐線は藤原岳で採掘した石灰岩を四日市の工業地帯まで運ぶことを主目的としており、どちらかと言うと旅客輸送の方がおまけのような扱いです
東藤原駅に停車するセメント運搬貨物列車

9時46分 終点の西藤原駅に到着しました。駅に降り立ったのは私一人だけでした。登山を開始する時間としては少々遅めの到着ですが、公共交通機関頼みの身としては、こればかりは致し方ありません
240603藤原岳-018
藤原岳は駅から直接登れる駅チカ物件の山なので、早朝時間帯の電車はそれなりに登山者で混雑するそうです。

蒸気機関車を押したらしい、なかなか個性的な外観の駅舎です。駅前で野良猫に見守られながら出発の準備を整えます。
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3.変わり映えのしない淡々とした登りが続く登山道

9時55分 身支度が整ったところで行動を開始します。本日はテントの他に3日分の食料と4Lの水を担いでいるため、始めから足取りも重くのノタノタと進みます。
西藤原駅周辺の市街地

西藤原駅の周辺は東海自然歩道のルートに組み込まれているらしく、案内が掲げられていました。東京の明治の森高尾国定公園から、こんな遠く彼方までずっと歩道が繋がっているんですね。
240603藤原岳-021

藤原岳は西藤原駅の本当にすぐ裏手にあります。鈴鹿セブンマウンテンの中には、それこそ縦走でもしない限り公共交通機関によるアクセスが極めて困難な山もありますが、藤原岳に関して言えばかなりお手軽です。
西藤原駅付近から見た藤原岳

登山口まで歩いて来ました。休憩所兼トイレの立派な建物が建っています。ここで前泊して翌日早朝にスタートを切ると言うのも、十分に現実的なプランであると思います。
藤原岳登山口の休憩所

駐車場もあります。本日は平日なのですが、それでもほぼ満車状態でした。藤原岳の人気の程が伺えます。
藤原岳登山口の駐車場

元々は公衆電話だったのであろう、登山届の投函ポストもあります。まだ提出が済んでいない人は、ここで投函していきましょう。
藤原岳登山口の登山届投函ポスト

鳥居をくぐって登山を開始します。朝から気温がぐんぐんと上昇を続けており、すでに薄っすらと汗ばんでいる状態です。
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この体たらくで、果たしてそれなりに過酷な2泊3日の縦走登山を歩き切ることが出来るのか。前途に一抹の不安を感じる立ち上がりです。

進むとすぐにまた鳥居があり、神社が立っていました。こうして古くからの信仰の謂れのある山を容赦なく採掘で削り取ってしまっている辺りも、やはり武甲山と共通するものを感じます。
藤原岳の神武神社

良く踏まれた明瞭な登山道です。鈴鹿の山にはヤマビルいるとの事前情報を得ているため、先ほどから足元ばかりがが気になってなかなかペースは上がりません。
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登り始めて15分少々で二合目の案内が現れました。最後までこのペースを維持できるのなら、2時間半くらいで登頂できる計算になりますが、果たしてそううまく行くかどうか。
藤原岳 二合目

二合目を過ぎると、周囲はまるで奥多摩のような杉の植林に変わりました。里の近くにある山と言うのは、何処へ行ってもだいたいはこんな感じです。
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この先の八合目までは、あまり変わり映えがしない淡々とした登りが続きます。読者の皆様を退屈させるのは忍びないので、サクッとダイジェストにまとめておきます。
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八合目を過ぎると、杉林を抜けて頭上が大きく開けました。眺望への期待が高まる一方で、強烈な直射日光に晒されながら歩くことになります。暑っちいな。
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向かいに養老山地の山並みが見えます。濃尾平野の西端に沿うようにして連なる鈴鹿山脈の前衛的な山域で、東海自然歩道はこの山を越えています。
藤原岳八合目付近から見た養老山地
ちなみにこの養老山地には、当然のように養老ノ滝が存在します。千葉県の養老渓谷に真っ向から対向するスタイルですね。

眼下に見えているこのダム湖は鈴養湖です。鈴鹿山脈と養老山地の中間にある湖であることから付いたのであろう、極めて安直な名称です。
藤原岳八合目付近から見た鈴養湖
三岐線は当初、この鈴鹿山脈と養老山地の間を通って岐阜県の関ヶ原まで延伸される計画でした。四日市港と敦賀港を最短距離で結ぶ壮大な構想もあったらしいのですが、実現することはありませんでした。

大きく洗堀された溝を跨ぐようにジグザグと登山道が続いています。この朽ちかけている木橋は本当に大丈夫か。
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一目で石灰岩だと分かる白い岩が散乱しています。長年にわたって登山者の靴に踏まれて磨かれ続けたからなのか、表面がツルツルで滑りやすい常態です。
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9合目まで登って来たところで、大きく展望が開けました。気温が高めなためかボンヤリと霞んでいますが、前方に伊勢湾が広がっているのが何となく見えます。
藤原岳 表登山道の9合目

採掘面は山頂のすぐ下にまで及んでおり、多数の重機が稼働しているのが見えます。この光景もまた武甲山にそっくりです。
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眼下に太平洋セメントの工場が見えます。ちなみに三岐鉄道の親会社です。
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4.カルスト地形が広がる藤原岳の山頂

九合目を過ぎると頭上が大きく開けて、そろそろ山頂が近そうな雰囲気になって来ました。もうあとひと踏ん張りです。
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藤原岳は、鈴鹿山地の北部に広がる近江カルストと呼ばれる石灰岩地層上にあります。大きな樹木がない山上に石灰岩が散乱しており、以前に登ったことのある霊仙山とよく似た雰囲気です。
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前方に小さな小屋らしきに人工物が現れました。
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藤原岳山頂の傍らに立つ藤原山荘です。管理者は常駐していない、無人の避難小屋です。鈴鹿山脈では数少ない山中で宿泊が可能な施設ですが、鈴鹿セブンマウンテン縦走には使いづらい立地にあるのが残念なところです。
藤原山荘

藤原岳の山頂部を視界内に捉えました。もうあとひと登りです。ちなみに、右に見ている建物はトイレです。
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山荘と山頂の間は窪地になっており、雪解け直後の季節には湿地状態になるのかもしれません。今は一面の草原状態です。
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藤原岳は太平洋側の伊勢湾に面している山ですが、冬の西高東低の気圧配置化においては、背後にある琵琶湖からの湿った風が直接吹き付ける位置にあります。そのため積雪量が多く、山頂付近は森林限界を超えた草原状になっています。
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山頂が見えました。いかにも眺めが良さそうで期待が高まります。
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12時50分 藤原岳に登頂しました。駅からほぼ3時間を要しました。鈴鹿セブンマウンテンのまずは1座目です。
藤原岳の山頂標識

南側にはこれから歩く鈴鹿山脈の山並みが連なります。風が少し強いですが、お天気は上々で遠くまでよく見えます。素晴らしい。
藤原岳の山頂から見た鈴鹿山地

このひょっこりと頭を覗かせている禿山が、鈴鹿セブンマウンテン2座目となる竜ヶ岳です。あれ、なんか結構遠くない?と言うのが見た瞬間の率直な感想でしたが、この予感は見事に的中することになります。
藤原岳から見た竜ヶ岳

竜ヶ岳とは反対側の北に見えているこちらの山は、鈴鹿山脈最高峰である御池岳(1,247m)です。何故最高峰を鈴鹿セブンマウンテンに選ばなかったのかは解せないところです。
藤原岳から見た御池岳
藤原岳の山頂から往復してだいたい4時間くらいかかる距離にあります。先ほどの藤原山荘は、御池岳まで足を伸ばしたい人のためにあるのだと考えた方が良さそうです。

山上には独特のカルスト台地の景観が広がります。下から見えていた石灰岩の採掘面は、既にこの大地のフチの部分にまでまで迫っています。
藤原岳山頂のカルスト台地

養老山地の先に見えているこの高層ビルが林立している辺りが名古屋なのかな。だいぶ空気が霞んではいますが、濃尾平野の広大さが何となくわかります。
藤原岳から見た名古屋市街地

東側には伊勢湾が広がっています。三重県は果たして近畿地方なのかそれとも東海地方なのかは昔から議論が尽きないところですが、少なくとも伊勢湾を望む北部の一帯に関しては完全に東海地方の一部であるように思えます。
藤原岳から見た伊勢湾

海沿いに広がる四日市の工業地帯が見えます。公害病と言う悪い意味で全国区の知名度を持つに至ってしまった場所ですが、排煙脱硝装置などの技術の進歩により、現在では煤煙による健康被害は発生していません。
藤原岳から見た四日市の工業地帯

足元に駅から見えていたのとはまた別の採掘面が見えます。多志田谷と呼ばれている場所で、既に80年近くに渡って採掘が行われています。基本的に、どこを掘っても石灰岩だらけな山なんでしょうね。
多志田谷の石灰岩採掘場

5.激しいアップダウンが続く竜ヶ岳への遠き道程

13時35分 藤原岳を後にして先へ進みます。鞍部に向かって勿体ないくらいに大きく標高を落とします。この下りはこの後に続くアップダウン地獄の始まりに過ぎないのですが、この時の私はまだそれを知りませんでした。
240603藤原岳-054

この下りがかなり厄介でした。藤原岳山頂付近の土は粘土質で、濡れていると凶悪なまでのスリップ効果を発揮します。どう足を置いても絶対に滑る絶望的な状況で、時間ばかりが空費されて行きます。
240603藤原岳-055
このペースでは日没までに石榑峠までたどり着けないのではないかと言う、嫌な予感が脳裏をよぎります。そして嫌な予感ほど、その後に的中してしまうものなのです。

木の枝やらいろんなものを掴みつつ、何とか鞍部まで下ってくることが出来ました。
240603藤原岳-056

鞍部付近から振り返って見た藤原岳です。こんな一見何でもなさそうな場所で苦戦を強いられようとは、まったくの想定外でした。
240603藤原岳-057

緩やかに登り返して行くと、すぐに多志田山と言う小ピークが現れました。
240603藤原岳-058

山と高原地図をみると、竜ヶ岳方面へ向かう登山道は多志田山の山頂を通らずに、先ほどの鞍部の辺りから右方向へ入って行かなければならなかったのですが、どうやら分岐を見落としたようです。なんてこったい。
多志田山の山頂

分岐まで引き返さなくても、多志田山の山頂から直接下れそうな明瞭な踏み跡があったので、それに沿って下って行きます。と言うか、まだ下るんかい。
240603藤原岳-060

目指す竜ヶ岳がどんどん見上げる高さになって行きます。藤原岳に登ってさえしまえば、そのあとは丹沢主脈みたいな尾根歩きが出来るのだろうと勝手に思い込んでいた、自分の見通しの甘さが恨めしい。
240603藤原岳-061

下りきると正規のルートと無事に合流しました。正規ルートはどうやらトラバースっぽいので、この非常に滑りやすい足元の状況を考えると、むしろ多志田山を経由した方が安心安全かもしれない。
240603藤原岳-062

今歩いている田志田山から治田峠に至る区間は迷い尾根と呼ばれており、山と高原地図上では破線ルートの扱いになっています。確かに直登なのかトラバースなのかが分かりずらい場所が複数個所ありました。
240603藤原岳-063

単にもう時間が遅いからなのかもしれませんが、藤原岳を出発して以降は全く人とすれ違わなくなりました。藤原岳にしろ竜ヶ岳にしろ、単体で登る人の方が多数派で、縦走は圧倒的に少数派であるようです。
240603藤原岳-064

わかりづらい道と藪に四苦八苦しつつ、何とか最低鞍部まで下って来ました。
240603藤原岳-065

15時30分 治田峠に到着しました。なんだかんだで、藤原岳の山頂からは400メートル近く標高を落としています。
240603藤原岳-066
ここから竜ヶ岳に登り返した後、石榑峠に向かってさらに大きく標高を落とすことになるのですが、先の事はひとまず考えないことにします。

だいぶ疲労も溜まって来たので、ゆっくりとしたペースで登り返して行きます。早くも西日が差し込み始めており、若干の焦りを感じます。
240603藤原岳-067
テントを担いでいるので、最悪どこでもビバークが可能と言えば可能なのですが、石榑峠までたどり着かないことには水場がないのですよ。

思った以上にしっかりと登り返しさせられます。大荷物を担いで登ったり下りたりしているからなのか、踵に靴擦れになりかけているような痛みを感じます。泣きっ面にハチ状態やな。
240603藤原岳-068

何とか登り切りました。この先へ少し進むと銚子岳と言うピークがあるようですが、既に時間も余力もないのでスルーします。
240603藤原岳-069
この後は竜ヶ岳に向かって尾根を緩やかに登って行けば良いのだろうと。と、この時はそう思っておりました。

しかしここに来て、さらなる絶望が待ち構えていました。竜ヶ岳よりも手前でまたもや一度大きく標高を落とします。
240603藤原岳-070

なにもそんなに下らなくてもいいじゃないですかー!今更なんですが、実は2泊3日の鈴鹿セブンマウンテン縦走って、行程的にすごくキツくない?
240603藤原岳-071

竜ヶ岳が再び見上げる高さになってしまいました。ちょっともう勘弁してください。マジで。
240603藤原岳-072
出発時間が遅かったからというのもありますが、数字で見ても藤原岳から竜ヶ岳への縦走は決して容易だとは言えない道程です。もっとも、2日目の行程の方がさらにキツイのですが・・・

泣き言などは聞きたくない。四の五の言わずにとにかく登れ。と心の中の鬼軍曹に激しく叱咤されつつ登り返します。サー、イエッサー!
240603藤原岳-073

グネグネに曲がった木が、どこか伊豆半島の山を思わせる光景です。鈴鹿山脈は年間降水量が非常に多い山域なので、同じく雨の多い伊豆半島と植生的に近いのかもしれません。
240603藤原岳-074

だいぶヘロヘロになりつつ、何とか登り返しました。ルートから少し外れた場所に静ヶ岳と言うピークがあるようですが、さも当然のようにスルーします。
240603藤原岳-075

この辺りはセキオノオバと呼ばれており、いくつかの池が点在しています。単に雨水が溜まっているだけなので、日照りが続くと消滅します。
240603藤原岳-076

ようやく竜ヶ岳の山頂を直接うかがう場所までやって来ました。もうあとひと踏ん張り、頑張って登りましょう。
240603藤原岳-077

6.草原が広がる強風の通り道の竜ヶ岳

時刻は間もなく17時になろうとしています。日が長い季節だったから良かったものの、よもやこれほどの苦戦を強いられようとは想定外でした。
240603藤原岳-078

ヤマツツジがポツポツと疎らに咲いています。今年はツツジの外れ年だったので、本来はもっと華やかな光景が広がるのでしょう。
240603藤原岳-079

頭上が大きく開けました。遠目からも見えていた禿山になっている部分に到達したようです。
240603藤原岳-080

稜線に出ると期待した通りの展望が広がり、同時によろめきそうな激しい横風に晒されました。竜ヶ岳に大きな樹木が育たず草原状になっている理由は、この風の強さにあります。
竜ヶ岳山頂付近の草原

鹿の大群が我が物顔で周囲を闊歩していました。彼らからすれば、まさかこんな夕方の時間帯になってから登って来るもの好きな人間がいるなどとは、思ってもいなかった事でしょう。
240603藤原岳-081

気温の低下に伴い昼間に比べると空気の霞もだいぶ少なって、伊勢湾の先の志摩半島までもが良く見えました。
240603藤原岳-082

自身初めて訪れた山なのですが、山梨県にある竜ヶ岳について検索しているとこの山の画像が良く紛れて来るので、どこか既視感のある光景です。
240603藤原岳-083
どちらの竜ヶ岳も大変眺めが良く、甲乙つけ難い山であると思います。

山頂に向かってラストスパートです。まるで火山のような荒涼とした光景が広がっていました。
240603藤原岳-084

山頂部には、これまでとは桁違いのまともに立っていられないような強風が吹き抜けていました。さささ寒いんですけれど。
240603藤原岳-085

17時50分 竜ヶ岳に登頂しました。鈴鹿セブンマウンテンの2座目を踏破です。いやー、しんどかった。
藤原岳の山頂

山頂からは、とても標高1,000メートル少々の山だとは思えない展望が広がっていました。しかしあまりにも風が強すぎて、ゆっくりと景色を眺めていられる余裕はありません。
竜ヶ岳山頂の様子

取り急ぎ見るべきものをパパッと見ていきましょうか。藤原岳から見た時よりもさらに近くから、四日市と伊勢湾を眼下に一望できます。
240603藤原岳-088

ここまで歩いて来た藤原岳方面の展望です。こうして見ると、やはりアップダウンが相当エグイですね。
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背後には琵琶湖が見えています。地形的にちょうどこの場所が琵琶湖からの風の通り道になっているのが良くわかります。
竜ヶ岳から見た琵琶湖

明日以降に歩く山々も良く見えます。石榑峠に向かって、かなり大きく標高を落としているのが一目瞭然です。明日以降もアップダウンに苦しめられることになりそうですな。
竜ヶ岳から見た鈴鹿山地

峠から少し登り返した地点にある、本日の幕営予定地もこの通り良く見えています。先客のテントがひと張りだけあるのが何となく見えます。
竜ヶ岳から見た石榑峠のテント場

7.宵闇が迫る中を石榑峠へ下る

日没時間まではもうあと僅かしか残っていません。完全に真っ暗になってしまう前に峠へ向かいましょう。
240603藤原岳-092

登山道の一部が崩落してしまっているらしく、ロープで封鎖されていました。ロープ沿いに右側から迂回します。
240603藤原岳-093

なんてことは無い迂回なのですが、強烈な横風により歩くこと自体に難儀します。テントが入っているでかザックを背負っているので、ある意味帆を張っているようなものですからね。
240603藤原岳-094

峠に向かって急降下が始まりました。足元は藤原岳の山頂直下と同様に粘土質の滑りやすい土で、下るだけでもなかなか難儀します。
240603藤原岳-095

ある程度下って来ると、足元は花崗岩と真砂の堆積した砂地に変わりました。まあ、どのみち滑りやすくはありますが。
240603藤原岳-096

こちらは重ね岩と呼ばれている岩です。白く輝く一目でそれとわかる花崗岩です。鈴鹿山脈の北側は石灰岩から成るカルスト台地の上にありますが、南側は主に花崗岩の山で構成されています。
竜ヶ岳の重ね岩

足元がだいぶ薄暗くなってきたので、ここでヘッドライトを装着します。この後は写真も撮らずに黙々と下りました。
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19時30分 石榑峠まで下って来ました。正面にある建物はバイオトイレです。
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石榑峠は三重県と滋賀県の境界になっている峠で、国道421号線の旧道がこの峠を越えています。平成23年に石榑トンネルが開通して以降、三重県側の道は通行止めとなっていますが、滋賀県側からは登って来ることが出来ます。
240603藤原岳-100

峠からバリケードで封鎖されている三重県側の道を少し下った地点に水場があります。沢水ですが、花崗岩に磨かれた水なので恐らく問題は無いでしょう。
240603藤原岳-101
辺りがすっかり暗くなってしまったので写真だと少々わかりずらいですが、橋の欄干を跨ぎコンクリートの土台の上に立って汲む必要があります。

幕営適地は峠から少し登り返した地点にあります。ますはこの脇が甘くないゲートをガードレールを跨いで通り抜けます。この道は釈迦ヶ岳への登山コースの一部なはずなのですが、まっとうな迂回方法がないのは如何なものだろう。
240603藤原岳-102

しっかりと舗装された道が続いています。もともとキャンプ場か何かだったのだろうか。
240603藤原岳-103

20時 幕営適地に到着しました。すでに真っ暗になってしまっていたので、この写真は翌朝になってから撮影したものです。
石榑峠の幕営適地

手早く今宵の宿を組み立てます。山頂の暴風に遭遇したときはどうなるかと思いましたが、幸いにも峠まで下って来ると風は穏やかでした。
240603藤原岳-104

峠から夜景の写真を何枚か撮影して、あとは翌日に備えて早々と寝床に入りました。
240603藤原岳-105
初日からだいぶ疲弊してしまった感がありますが、明日以降も計画通り歩き続けることができるのだろうか。ともかくおやすみなさいZzzzzz

かくして鈴鹿セブンマウンテン縦走の初日は、だいぶヘロヘロになりながら周囲が暗くなるまで歩き続けてようやく終了しました。竜ヶ岳手前のアップダウンはなかなか心が折れそうになる険しさでした。竜ヶ岳まで縦走するのであれば、もう少し早い時間に行動を開始すべきであると思います。
藤原岳も竜ヶ岳も標高1,000メートル少々の山からのものとは思えない大展望が広がる山で、どちらも単体で日帰り登山する分にはたいへん手軽な山です。人気があるのにも納得の2座でした。

<コースタイム>
西藤原駅(9:55)-8合目(11:45)-藤原岳(12:50~13:35)-多志田山(14:10)-治田峠(15:30)-竜ヶ岳(17:50~18:15)-石榑峠(19:30)-幕営適地(20:00)

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

コメント

  1. seysha より:

    東京在住の登山民ですが、鈴鹿や霊仙あたりの関東にはない展望が大変好みです。後編も期待しております。

    • オオツキ オオツキ より:

      seyshaさま
      コメントを頂きましてありがとうござます。

      鈴鹿山脈は首都圏在住の人にはなかなか縁がなさそう山域なのですが、琵琶湖の裏手という立地からくる特殊な気象により、独特の景観があります。鈴鹿の魅力がもっと多く地域の人に少しでも伝われば嬉しいです。