福島県二本松市にある安達太良山(あだたらやま)に登りました。
現在も盛んに噴煙を上げる現役の活火山です。なだらかな山容を持ち、スキー場のロープウェイも存在することから、比較的簡単に登ることの出来る山です。周囲には火山の恩恵ともいうべき多く温泉が湧出し、観光地としての顔も持っています。
東北の山々が錦に染まる、ベストシーズンの安達太良山を歩いてきました。
2018年10月8日に旅す。
見せてもらおうか、ほんとの空を。
という事で、今回は東京の空をディスりまくりな作家、高村光太郎氏の智恵子抄に収められた詩文「あどけない話」の舞台として有名な、福島県は安達太良山に行って来ました。
10月上旬の東北地方の山々はまさに紅葉最盛期で、山腹全面が色鮮やかな錦模様に覆われます。高く透き通った秋空に紅葉が映えるこの季節は、間違いなく安達太良山のベストシーズンと言えるでしょう。
東北地方の山の例に漏れず、安達太良山への交通アクセスは自家用車の利用が中心です。公共交通機関によるアクセスは、おおよそ良好とは言えません。
数少ない選択肢として、季節限定ではありますが、福島交通がJR東北本線の二本松駅からあだたら高原スキー場のある奥岳までのシャトルバスを運行しています。これを利用することで、首都圏発であっても安達太良山への日帰り登山は可能です。
かくして訪れた秋の安達太良山。美しき錦の紅葉と、火山らしい荒々しさが同居する、見どころ満載の素晴らしい山でした。
コース
奥岳登山口からくろがね小屋を経由して安達太良山に登頂します。下山はあだたらロープウエイを使用してラクラク下山します。全行程5時間未満の、とても手頃な行程です。
1.安達太良山登山 アプローチ編 公共交通機関を乗り継ぎ、奥岳登山口へ
5時50分 JR東京駅
始発の東北新幹線やまびこ号に乗り込み、郡山駅へと向かいます。
なお、始発電車に乗らないと、この先の乗り継ぎに間に合いません。なにせ東北地方の山へ日帰り登山しようと言うのですから、極めて綱渡りな乗り継ぎです。
7時25分 郡山(こおりやま)駅に到着しました。
東北地方に地縁の無い人には、振り仮名無しでは読めなさそうな地名ですよね。
郡山駅で東北本線の福島行きに乗り換えます。二本松駅までの乗車時間はおよそ25分です。
二本松駅に着くなり、一斉に走り出すハイカーの集団。お目当てはみな同じようですな。全員がバスに乗り切れるのか不安になってくるよな大人数です。紅葉シーズンの安達太良山の人気のほどがうかがえます。
8時15分発の奥岳行きシャトルバスに乗車します。このバスは季節運行です。運行期間は年によって異なるので、詳細については福島交通の公式サイトで確認してください。
案の定、バスは超満員です。臨時便が増発されて、並んでいた人たちは全員乗れたようですが。
紅葉シーズンの安達太良山の混雑ぶりと言うのは、思った以上のものでした。岳温泉を過ぎてからほどなく、バスは渋滞にはまって動かなくなりました。やむなく途中下車します。
うーむ、これは何時ぞやの那須岳に行った時と同じパターンか。
あだたら高原スキー場まではあと2kmほど。まあそれくらいであれば、ちょうどよいウォーミングアップと言えるでしょう。
渋滞にはまる自動車の群れを横目に、そそくさと舗装道路を登って行きます。
ほどなく安達太良山本体が姿を見せました。とても良い感じに紅葉しております。テンション上がって来ましたよ。
あだたら山ロープウェイの姿も見えます。本日の計画では、下山に利用して楽をする予定です。
9時15分 奥岳登山に到着しました。
ここまでは車で入ってこれる場所であるため、周囲にはハイカーよりもラフな格好をした観光客の姿の方が多く見られました。
登山口に温泉があると言うのが大変素晴らしい。下山後のひとっ風呂が始めから約束されているわけです。
2.色鮮やかなる錦に埋る、くろがね小屋
身支度をトイレを済ませて9時40分に登山を開始です。まずはくろがね小屋方面へと向かいます。
登り始めは、車も通行できる林道に沿って進みます。標高1,000メート未満のこの付近では、紅葉はまだ色好き始めと言ったところです。
木漏れ日に照らされた柔らかいオレンジ色が実に美しい。いい色に紅葉していますねえ。
この透き通った水の美しさよ。この清流に沿った渓谷を巡る、1週1時間程度の遊歩道が整備されています。もう少し紅葉が下りてくるころには、きっと素晴らしい光景を見せてくれることでしょう。
ここで馬車道と登山道にルートが分かれます。馬車道の方が、傾斜が緩い分だけやや遠回りをします。登山者的には当然ながら登山道一択です。
ようやく山道らしい道になりました。キツくも緩くもない、ほど良い傾斜の歩きやすい登山道です。
何度か馬車道と交差しながら高度を上げて行きます。要するに、九十九折りの付いた道の真ん中を突っ切る近道のようなものです。
このぴょこんと飛び出した突起が安達太良山の山頂で、その名も乳首(ちちくび)と言います。長久なる大自然の営みは、時としてこのようなわいせつな造形物を作り出してしまうのですね。けしからん、もっとやれ。
山道を延々と登った先に車が止まっているのを見た時のガッカリ感。一般車は立ち入り禁止の場所なので、おそらくはくろがね小屋の関係者の車でしょう。
まるでステンドグラスのように輝く紅葉。目に入るものすべてが美しい空間です。
坂を登り切った所で、平坦な場所に出ました。勢至平(せいしたいら)と呼ばれる平地です。ここからくろがね小屋まで、しばらくの間、水平移動となります。
10時40分 勢至平分岐を通過。
左へゆくと山頂へ最短距離で行けますが、先を急ぐ旅でもないので直進してくろがね小屋に立ち寄ります。
岩の絶壁が見えてきました。鉄山と呼ばれるピークです。目指すくろがね小屋は、鉄山の直下にあります。
途中に金明水と呼ばれる水場があります。ただの排水溝かと思うよう見た目をしておりますが、れっきとした水場です。冷えていてとてもおいしい。
勢至平周辺の紅葉は、今がまさに最盛期でした。視界全体が錦模様に覆われる圧巻の光景です。
近くを歩いていた若者の集団が、しきりに「ばえる」と連呼していたのが印象的でした。最近では「インスタ」という単語すらすら省略して、単に「映える」と言うんですね。
くろがね小屋が見えてきました。冬場に雪崩に直撃されそうな場所に立っていますが、大丈夫なんですかね。
赤よりも黄色が目立ちます。黄葉(こうよう)と言う言葉があるという事を、最近になって知りました。赤かろうが黄色かろうが、すべてをひっくるめて紅葉と言うのだとばかり思っていたので。。
11時 くろがね小屋に到着しました。
通年営業の山小屋です。特記事項として、この小屋には温泉があり、立ち寄り入浴もできます。
売店に寄るために、ちょっと中へ失礼します。昔ながらの風情のある佇まいの小屋です。
恒例の山バッジを購入。今まさに目の間に広がっている光景そのものの意匠です。
小屋の裏手に源泉があります。安達太良山の麓にある岳温泉もここからの引き湯です。有毒ガスが発生しているため、源泉一帯は立ち入り禁止となっています。
3.安達太良山登山 登頂編 爆裂火口を脇を抜けて、乳首の先端へ
さあ、山頂へ向かいましょう。すでに登山口からの標高差の大半を消化してしまっているので、この先もずっと緩い登りです。
ハイシーズン真っ盛りの人気の百名山という事あって、登山道は大渋滞していました。ロープウェイを使って登った人たちが、ちょうど降りてくる時間と重なってしまったようで。
徐々に火山らしい荒涼とした光景になって来ました。周囲には濃厚な硫化水素臭が漂っています。
ガレ場の斜面を登って行きます。登りはともかく、下る時には滑りやすいの慎重に。
11時45分 峰の辻と呼ばれる地点まで登って来ました。
その名の通り、登山道の合流地点となっている場所です。
ここから見ると乳首が二つ見えますが、山頂は左の方です。
目の前の谷を下って直進する山頂への最短ルートも存在しますが、ここは遠回りになるけれど右へ進んで尾根沿いのルートを取ること断然オススメします。理由は、行けば分かります。
牛ノ背と呼ばれている稜線に向かって登って行きます。わりとアチコチの山で良く目にする名前ですね。
牛ノ背の上まで登って来ました。この先稜線の先に、安達太良山を象徴する光景が広がります。
そう、爆裂火口です。「爆発は好きか―?」と意味不明な問いかけをしたくなるような光景が眼下に広がります。
まるでクレーターかのような、迫力のある岸壁が連なります。グランドキャニオンもかくやと思わせるような光景です。
どうらやこの上が爆裂火口鑑賞の特等席であるようです。定員1名までしか乗れそうにないので、順番を待ちます。
特等席から見た爆裂火口は、視界に入りきらないほど巨大でした。
そして、こんな時に限って20mmの超広角レンズを家に忘れくるという大失態です。ザックに入れたとばかり思っていたのに。。
爆裂火口の先に見えているのは、裏磐梯の秋元湖です。磐梯山の噴火によって作られた堰止湖の一つです。
この先へ火口のフチに沿って歩くことの出来るルートも存在しますが、公共交通機関頼みの身では登山口へのアクセスに少々難があります。いいなぁーと思いながら眺めるだけで満足するほかありません。
ではボチボチ、ビーチクの先端を攻めに行ってみましょうかね。(ゲス顔)
ほんとの空には、いつの間にか真夏のような雲が立ち込めつつありました。
馬の背を振り返って見ると、起伏の少ない平坦な光景が広がっていました。爆裂火口の周辺を除けば、どこまでも穏やかなる山です。
こちらは麓の二本松市方面の光景。すっかり雲が沸いて、眺望はイマイチです。
すこし風が出てきて涼しくなってきました。相変わらずの半袖一枚なままでいるのがいけないのでしょうけれど。
乳首手前まで歩いて来ました。ロープウェイから登ってくるルートと合流するため、すごい数の人です。
乳首の先端まで登らなければ、安達太良山に登頂したとは言えないでしょう。という事で、頂上へと向かいます。
山頂部はちょっとした岩場になっていますが、特に難しい要素はありません。鎖を使わなくても簡単に登れます。
12時25分 安達太良山に登頂しました。
登山開始から3時間未満で到着できる、実にお手軽な行程でありました。危険個所もなく、登りやすい良い山だと思います。
乳首の様子
持ったよりも広いスペースがあります。多くの登山者が休憩していました。
西には会津の名峰、磐梯山(1,819m)の姿が見えました。あちらも安達太良山と同様に爆裂火口を持つ活火山です。
北にはこれまた火山帯である吾妻連峰の山並みが広がります。これと言った顕著なピークのない、丘のようなシルエットをしています。
こちらは、ここまで登ってきたくろがね小屋方面の眺望です。中腹当たりの紅葉が最高潮を迎えている様子が分かります。
そしてこちらが、本日のゴール地点であるあだたら山ロープウェイの山頂駅です。あそこまで行けば良いだけなのだから、実にお気楽な下山です。
乳首の先端部には、一応巻き道と言うかハシゴもあります。岩場が不安だと言う人は、こちらから登ると良いでしょう。
こちらは南の和尚山(1,601m)へと続く稜線です。こちっも良い色に紅葉していますねえ。
4.安達太良山登山 下山編 ロープウェイでラクラク下山のはずが思わぬ大渋滞
12時50分 下山を開始します。
ガレ場の歩きにくい道で、登山道は大渋滞を起こしていました。
この時間になってもまだ登ってくる人が大勢おり、しばしすれ違い待ちが発生します。
いつしかガスが立ち上り、ほんとの空を完全に覆い隠してしまいました。この時間に登ってきた人には残念賞です。
最後の最後に一瞬だけ、ほんとの空と山頂部が姿を現してくれました。絶景はこれで見納めです。
ロープウェイ山頂駅を目の前にして、まさかの搭乗待ち渋滞が発生していました。まったく、日本人というのは誰もかれも本当に紅葉好きですねえ。
片道料金は1,000円ちょうどです。券売機はゴンドラに乗る直前の場所にあります。
ロープウェイ最高ー!下山時に楽ができる山は大好きです。私は山に登るのは好きだけど、下るのはキライなのでね。
という事で、ロープウェイと言う偉大なる文明の力により、実にあっけなく下まで降りてきました。そしてこの、ゲレンデまでもが臨時駐車場にされてしまっている混雑っぷりたるや。
そういえば、ルート上の何処かに「この上の空がほんとの空です」と書かれた碑があると聞いていたのですが、結局見つけられませんでいした。
当初の予定通り、登山口にある奥岳の湯に立ち寄ります。この混雑度合いからして芋洗い場状態かと思いきや、意外と空いていました。時間帯がよかったのかな。
湯はうっすらと白濁した酸性の硫黄泉です。あまり強烈ではなく、いたってマイルドな泉質でした。
15時30分発のシャトルバス最終便に乗車します。臨時便の増発はなく、多くの人が殺到したため阿鼻叫喚の様相でした。乗り切れなかった人も何人かいたようで。。
赤字ギリギリでやっているであろう地方交通に、神奈中バス並みの手際の良さを求めるつもりもありませんが、それにしたってもうちょっと何とかならなかったんですかね。
帰りの便は二本松駅へは直通してくれず、岳温泉で乗り換えとなります。接続は悪く、20分以上待たされます。先ほどの悲惨な経験から、みな到着するなり行列を作っていました。
二本松駅から行きと同じ経路を逆にたどり、長い長い帰宅の途につきました。
安達太良山は比較的手軽に登れる山でありながら、展望雄大にしてロープウィエから温泉まで備えており、非常に高いポテンシャルを持っています。行けば確実に良い思いが出来る、優等生的な山と言えるでしょう。
そこへさらに紅葉と言う、日本人の琴線に触れる要素が加味されるわけですから、人気があって当然と言えます。帰りのバスが阿鼻叫喚になるのもまた、必然といった所でしょうか。
大変素晴らしい山でありましたが、あまりの人の多さに閉口させられた山行きでもありました。紅葉シーズンの訪問を考えているのであれば、平日に休みを取って行く方が良いかもしれません。
行くのであれば、もみくちゃになる覚悟を決めてからご訪問ください。
<コースタイム>
奥岳登山口(9:40)-勢至平分岐(10:40)-くろがね小屋(11:00~11:15)-峰の辻(11:45)-安達太良山(12:25~12:50)-ロープウェイ山頂駅(14:00)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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