千葉県の鋸南町と富津市にまたがる鋸山(のこぎりやま)に登りました。
地獄覗きと呼ばれる、絶壁上に張り出した岩盤で有名な、房総半島を代表する観光地です。かつては石切り場だったこの山は、垂直に切り立った岩の絶壁が連なる独特の景観をしており、訪れるものを圧倒します。
標高が329メートしかない低山ですが、海際近くにそびえ立っているため、東京湾全体を見晴らすことの出来る格好の展望台ともなっています。
地獄を覗きこみに行くべく、遠路はるばる房総半島まで繰り出してきました。
2017年11月19日に旅す。
今回は、千葉県の房総半島にある鋸山に登って来ました。
良質な凝灰岩を産出する石切り場として、江戸時代より盛んに採石が行われてきた山です。採石によってむき出しになった岩肌が、遠巻きにはギザギザに見えることから、鋸山と呼ばれるようになったと言われています。
正式な名称は乾坤山(けんこんざん)と言います。
鋸山よりも断然カッコイイ名前だと思うのですが、鋸山の名が方が広く知れ渡りすぎてしまった今日では、殆ど使われることの無い呼び名となっています。
さて千葉県と言えば、山と高原地図が一冊も存在しない山無県として知られています。千葉県最高峰である愛宕山からして、標高はたったの408メートルしかありません。
では房総半島に山は無いのかといえば、そんなことはありません。突出して標高の高い山がないと言うだけであって、むしろ山だらけの場所です。
房総の山の多くは、谷が入りこんだ非常に複雑な地形をしています。道標はあまり整備されてはおらず、登山地図と呼ばれるものも数多くは出回っていません。
総じて、気候が穏やかであると言う点を除けば、何気に難易度の高い山域であったりします。
鋸山はそんな房総半島の山の中にあっては、比較的安全に歩くことの出来る山です。有名所だけに登山道は良く整備されており、おまけにロープウェイまであります。観光気分で行ける山です。
そんな訳で、登山と言うよりは半ば物見遊山気分で、房総半島へと繰り出します。
コース
JR内房線の浜金谷駅からスタートし、車力道と呼ばれるルートを通って鋸山に登頂します。
帰りは、有名な地獄覗きや日本一の大きさだと言う大仏などを見学した後、ロープウェイで下山します。
鋸山の見所をくまなく巡る、充実の行程です。
1.鋸山登山 アプローチ編 鈍行列車で行く房総半島への旅路
7時 JR新宿駅
永遠に工事が終わらない新宿駅は、今日も朝から工事中です。ここから黄色い電車に乗りこみ、一路千葉を目指します。
特急さざなみ?なにそれ、おいしいの?
8時14分 千葉駅に到着しました。新宿から1時間以上もかけて、ようやく千葉駅に到着です。千葉って結構遠いんですね。
そして、この先がさらに長い。千葉駅で内房線に乗り換えて、木更津駅へ向かいます。
知る人ぞ知る房総のローカル線である、久留里線(くるりせん)がホームに停車していました。乗り鉄を自認するオオツキとしては、是非一度乗ってみたいと思っている路線です。
10時3分 自宅最寄駅を出てから実に3時間半もかけて、ようやく目的地の浜金谷駅に到着しました。まったく、房総半島は広すぎです。
ずっと座っていたら、内房線の異常に硬いシートのせいでケツが痛くなりました。著距離旅行者には優しくない仕様です。
ちなみに、金谷があるのはチーバくんで言うとへその辺りです。
目指す鋸山は、この通り駅のホームからすでに見えています。垂直に切り立った岩肌が露出した、一見して普通ではない姿をしております。
鋸山ロープウェイもこの通り、駅から見えます。あれを使えば、殆ど歩くことなく山頂に立つことも可能です。
トイレと身支度を済ませて、10時20分に行動開始です。まずは道なりに進んでいきます。
ちなみに、本日は地図を持っておりません。どこでも電波が入る山だし、グーグルマップで十分だろうという山ナメっぷりを発揮しております。
駅前にあった案内板によると、肉屋の前を左折するのが正しいルートとのことでした。目印が肉屋とは、なんともローカル色が満載な場所です。
ちょうど小腹が空いていたので、ここでメンチカツを一枚購入し、かじりながら歩きます。
遠巻きにも、岩肌を綺麗に直角に切り取ったような跡が至る所にあるのがよく見えました。このメンチカツ旨いな。2枚買えばよかった。
舗装道路を20分ほど歩いたところで、山道に入りました。
この道は車力道といって、山から切り出した石材を、ねこ車と呼ばれる荷車に乗せて降ろすための道だったとのこと。前方にガイドつきの団体さんが居たので、遠巻きにタダ聴きしました。
2.鋸山登山 登頂編 歴史ロマンのあふれる車力道を歩く
樹林の道を登っていきます。全般的に南国っぽい感じのする植生です。ちなみに、春から初秋にかけてはヤマビルが出没します。訪問するなら今くらいの季節がベストなのではないでしょうか。
かつて荷車が往来した道ということで、古さを感じる石畳の舗装が遺されていました。
ねこ車と言うのはこういうシロモノです。小型の大八車といったところでしょうか。時代的に、当然ながらゴムタイヤなどはなかったのでしょう。
苔生す石畳の道をのんびりと登っていきます。房総の山を歩くのは自身初めての経験ですが、雰囲気やよしです。
振り返ると、海が見えました。浦賀水道と呼ばれる、東京湾の幅が最も狭くなっているところです。対岸に見えているのは三浦半島です。
ルートの分岐地点まで登ってきました。右が石切り場跡方面で、左が鋸山の山頂方面です。ひとまずは山頂を目指します。
道は絶壁を避けるように左から回り込む形に付けられています。結構な急登です。
階段は手すり付きです。まあ、半分観光地のような場所ですからね。
背後にスタート地点の金谷の市街地が一望できました。上から見ると、とてもこじんまりとした集落です。
尾根の上まであがってきました。東京湾を望む展望台というのがあるので寄って行きます。ちなみに、浜金谷駅前の案内板には「地球が丸く見える展望台」と書かれていました。
と言うことで、こちらが展望台から見える光景になります。おおっー、確かに地球は丸い。
こちらは金谷から鋸山を挟んだ向こう側にある保田の集落です。金谷と同様に、こじんまりとした港町です。
浦賀水道と対岸の三浦半島が正面にあります。泳いででもで行けそうな距離ですが遊泳は禁止されています。大型の船舶がひっきりなしに通る水道ですからね。
展望台の上はこの通り、すごい人だかりでした。
鋸山は非常に人気の高いスポットだとは聞いてはいましたが、これほど多くの人が居るのは少し意外でした。大半の人は、ロープウェイを使って、地獄覗きの周辺を散策するだけだろうと思っていたので。
鋸の名を冠しているだけのことはあって、山頂までの道は小刻みにアップダウンを繰り返します。
足元の濡れた土が結構滑ります。展望台から山頂までの区間は、観光地ではなくしっかりと登山の範疇にあると考えた方が良さそうです。
11時40分 鋸山に登頂しました。標高はたったの329メートルですが、スタート地点が海際でほぼゼロメートル地点であることから、きっかり標高分を登ったことになります。
それでも千葉県内では12番目の高さだそうです。房総半島には低山しかないことが伺い知れます。
山頂の様子。
ベンチが一つだけあるだけの狭い空間です。ここにも驚くほど多くの人が居ました。
展望は北西側だけが開けています。見える光景は、地球が丸く見える展望台からの眺めと大差ありません。
遠くに薄っすらと、東京スカイツリーが見えました。等倍まで拡大するとこんな感じです。
タイミングよく山頂に人が居なくなったので、ここで1本立てて弁当を広げました。
3.石切り場跡を見学する
食事を終えたところで行動を再開します。まずは石切り場跡への分岐地点まで戻ります。
結構激しく登ったり降りたりさせられるのは、鋸の名を冠した山へ登る者の宿命です。
12時15分 分岐地点まで戻ってきました。石切り場方面へと進みます。
ここから先は、石切り場の跡を見学できる散策コースとなっています。
そそり立つ垂直の壁です。真下から見上げると、かなりの迫力があります。
まるで古代の神殿跡を思わせるような見た目の絶壁が立ちはだかります。
一体全体、どういう切り出し方をしたらこんな姿になるんでしょうか。「またガイドつきの団体が通りかかって解説してくれないかなー」などとしょうもないことを考えつつ見上げます。
かの有名な地獄覗きが、ついにその姿を現しました。確かにすごいインパクトのある光景です。英語で言うとヘル・ビューアー?
結構高い所にありますね。つまり、またあそこまで登り返さなければならないということです。
地獄を覗きに行く前に、石切り場跡をもう少しだけ見学して行きます。
岩壁に囲まれたコンサートホールのような空間が広がっていました。実際に音響効果は抜群です。ヤッホー!が大いに捗ることでしょう。
地獄覗きに向かって登り返します。先ほど見えていた絶壁を登らなければならないわけですから、当然ながら凄い急坂です。
再び急階段です。今日はやけに階段を登ったり下りたりする日ですな。
4.房総の片隅で地獄の底を垣間見る
地獄覗きを含む山頂部一帯は、日本寺の私有地となっております。立ち入るには拝観料600円を収める必要があります。
ここで受付のおじさんに「ユーはイングリシュのほうがいいのか?」と聞かれました。
・・・おじさん、それ日本語やん。と言うかルー語?
多少ホリが深い顔をしてはおりますが、私は日本語しか話せません。
いつのまにか、地獄覗きの真下に来ていました。と言うことで、ヘル・ビューアーをトゥギャザーしに行ってみましょう。ボッチ登山中だけどな!
※トゥギャザーとは「共に」とか「一緒に」と言う意味です。一人ではトゥギャザー出来ません。
こちらは百尺漢音です。東京湾周辺での海難事故の犠牲者を慰霊するために立てられたものだそうです。
一尺がおよそ30センチだから、百尺だと高さはおよそ30メートルです。
地獄覗きに向かって最後の登りです。ロープウェイで上がってきた人たちと合流するため、周囲に一気に人が増えました。
ここから地獄覗きが真正面に望めます。お友達と一緒にお越しの人は、ここから写真を撮ってもらうと良いのではないでしょうか。
ええ、私は一人なので誰にも撮ってはもらえませんけれどね。
地獄を覗きたい人たちの待ち行列が出来ていました。みんな、そんなに地獄が見たいのですか?
まあせっかく600円を払ってここまで来たのだから、行列に並ぶことにしました。
周囲は皆、ロープウェイで登ってきたであろう家族連れでばかりです。山登りの格好をしたソロハイカーには、圧倒的なまでのアウェー空間です。
鋸山は一人で訪れるべき場所ではありませんね。
結局、30分以上近く並ぶことになりました。まさか、鋸山がこれほどまでの人気スポットだったとは・・・
と言うことで、これが地獄を覗いた光景です。なんと言うか、普通ですね。
正面は絶景です。まあ、なにがなんでもここから見なくてはならない光景でもありませんが。
こちらが右側。下から見上げていた石切り場の、ちょうど真上にあたる場所です。
地獄覗き終了。すぐに見れるのであればともかく、正直30分も並ぶほどの価値はないですね。
右側の絶壁の上からみた地獄覗きです。先ほどよりも、さらに行列が長くなっていました。
5.鋸山登山 観光編 日本寺で日本一の大仏と対面する
帰る前に日本寺の大仏を見物していきます。当初はスルーするつもりでいましたが、パンフレットに日本一大きい大仏だとの記載があったのを見て、俄かに興味が沸きました。
大きいことはいいことだ。
大仏広場へ行くためには、結構大きく下る必要があります。今日は、登ったり降りたりが実に忙しない一日です。
全長は31メートルあります。奈良の大仏は18メートルだというから、その大きさの程が窺えます。奈良に行ったことはありませんけれど。
見るものも見たし、あとは下山するのみです。下山といいつつも、金谷方面へ戻るためには、また登り返さなければいけない訳なんですけれどね。
またもや階段です。高尾山の一号路も顔負けの階段だらけの山ですな。
こちらは弘法大師護摩窟と呼ばれる石像群です。首がもげてる率がやたらと高いのが気になります。
穴ぼこだらけの壁面がそびえ立っていました。人為的なものなのなのか、それとも単に風雨の侵食によるものなのか。なんとも面妖な模様です。
日本全国の至る所に存在する不動の滝が、ここにもありました。
こんな岩だらけな低山の何処にそんな保水力があるのか不思議ですが、鋸山というのは年間を通じて、水の涸れることが無い山なのだそうです。
ロープウェイだけではなく、駐車場までありました。鋸山は基本的に観光地であって、登山をしに来る人は圧倒的に小数派です。
ロープウェイの山頂駅からでもこれだけの眺望が得られるわけですから、わざわざヒルの出る山道を歩いて登ってくる必要など全く無いわけです。
どんよりと曇っていたはずの空が、いつの間にかすっかり青空になっていますね。
ロープウェイ山頂駅に、何故か山頂標識が立っていました。記念撮影用でしょうか。ここは山頂ではないのですけれど。
山頂駅より見下ろす金谷港。海に近い山ならではなクォリティの光景です。
ロープウェイ山頂駅周辺には、野良猫が沢山闊歩していました。相当人馴れしているらしく、逃げる素振りは全く見せません。
ここで、鋸山の名物だというジェラートを頂きました。やたら沢山種類がありましたが、ブルベリーヨーグルト味をチョイス。
もっとよこせー、フギャッー!
一口あげたら大変なことになりました。
6.鋸山登山 下山編 ロープウェイで楽々下山
帰りはロープウェイを使って楽々下山します。まあ歩いて下っても、1時間とかからずに下山できる距離なんですけどね。
私は基本的に、山に登るのが好きなのであって下山はキライです。下山時に楽が出来るのであれば、最大限楽をします。
日本中のすべての山に、下山専用のロープウェイを設置して欲しいくらいです。
距離にしてたったの680メートルで、所要時間は3分ちょっとです。
やけにちっこいゴンドラで、乗り込む際に頭を打ちそうになりました。
このゴンドラはスイス製だそうです。スイス人と言うのは大柄なイメージがありますが、何故こんな小さくしたのだろうか。
ロープウェイ下山最高ぅ。断崖絶壁を横目に、鋸山に別れを告げます。
時刻は既に14時半を回っているというのに、この時間から登ろうとする人の行列が出来ていました。早出早立ちが基本である登山者の感覚からすれば、信じがたい光景です。
やはり鋸山というのは、登山の対象ではなく観光地なんだなあと思わされた瞬間でした。
駅まで歩いて戻ります。タクシーが何台か待機していましたが、歩いてもせいぜい10分少々の距離です。
15時5分 浜金谷駅まで戻って来ました。行動開始からまだ5時間とたってはいませんが、実に密度の濃い一日でした。
最後に、青空の下の鋸山の姿を写真に収めて、本日のミッションは終了です。
房総半島への初進出はこんな感じで無事終了です。圧倒的に家族連れの多い人気スポットなので、一人で来ると少々肩身が狭い場所でした。
標高が300メートルちょっとしかない純然たる低山ではありますが、見所をすべて巡ろうと思うと、結構激しく登ったり降りたりを繰り返す必要があります。そういった意味では、それなりに歩き応えはあるコースです。ここでしか見る事の出来ない唯一無二の光景に出会える、名峰の名に恥じない山だと思います。
これからの季節、標高が高い山は軒並み雪と氷に閉ざされて行きます。そういった時は、ゆるりとした低山巡りをして見てはいかがでしょうか。そこではきっと、高山歩きとはまた一味違った楽しみを見出すことが出来るでしょう。
<コースタイム>
浜金谷駅(10:20)-地球が丸く見える展望台(11:15~11:20)-鋸山(11:40~12:00)-石切場跡(12:30~12:45)-日本寺北口管理所(13:00)-行列に並ぶ(13:15~13:45)-大仏(14:00)-鋸山ロープウェイ山頂駅(14:20)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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