山梨県大月市と小菅村にまたがる奈良倉山(ならくらやま)に登りました。
相模川と多摩川の分水嶺に位置し、東京都の水源林として保護された非常に深い森に覆われた山です。山梨県大月市の最北端にあり、大月市が制定した富士展望に優れた山の称号である秀麗富嶽十二景の一座でもあります。
交通不便な山奥で、あまり人と出会うことの無い静かな山行きをしてきました。
2016年11月3日に旅す。
今回の行き先は、富士山ファンご用達(?)の山の証である秀麗富嶽十二景の一座、奈良倉山です。
大月市自体が中央本線に沿った立地にあるため、秀麗富嶽十二景の山々の多くは、中央線からのアクセスが良好な場所にあります。
大月市の北端に位置する奈良倉山はその中では例外的な存在で、中央本線からは遠く離れており、青梅線の奥多摩駅からでもアクセスできるような場所にあります。
分水嶺の山でもあり、桂川(相模川)水系と多摩川水系の境界となっています。
まあようするに、奈良倉山はすんごい山の中にあると言うことです。もっとも、現代では山間まで舗装道路が拓けており、乗車時間は長くなるものの、山頂近くの鶴峠バスでアプローチが可能です。
コース
鶴峠バス停より奈良倉山に登頂。その後は尾根に沿って進み、松姫峠を経て大マテイ山へ。下山は、多摩川源流の秘湯として名高い小菅の湯へと下ります。
標準コースタイム5時間程度のお手軽な登山です。その分、バスの乗車時間が長くなります。
1.奈良倉山登山 アプローチ言 分水嶺の峠を越えて、多摩川源流域の深山へ
8時27分 JR中央本線 上野原駅
ここから鶴峠行きのバスに乗り込みます。終点の鶴峠までの所要時間およそ1時間20分と、非常に長丁場となります。また、運賃は1,000円オーバーです。
9時48分 鶴峠に到着しました。この時点で既に標高は870メートルもあります。奈良倉山までの標高差はおよそ500メートルほどと、実にお手軽な登山です。
JT小菅の森とな。この美しい森は、愛煙家が吐いた煙とタバコ税によって維持されています。
私自身はタバコを嗜まない人間ですが、かといって別に嫌煙家という事はありません。愛煙家の皆様におかれましては、高額納税まことにお疲れ様であります。
巨大なパラボラアンテナがありました。携帯電話会社のものでしょうかね。山深い山間部にまで通信インフラを維持するためには、こうして多大な労力が必要となるのでしょう。
2.奈良倉山登山 登頂編 紅葉の森を抜けて最北の秀麗富嶽の頂へ
登り始めは至って緩やかな道です。キツくも無ければ緩くも無い、これと言った特徴の無い登山道です。
伐採された一帯に出ました。これからまた杉の木を植えるのでしょうね。お願いだからヤメテ!(By花粉症民)
意外なことに、割と沢山の登山者が居ました。ド・マイナーな山だと思っていたのですが、実はファンの多い山なのでしょうか。
伐採のおかげで、この通り良好な展望が得られます。左奥に見えているのは奥多摩の石尾根でしょうか。
登山道は、途中で何度も林道と交差しながら、山頂に向かって伸びていきます。
木の隙間から奥多摩三山の最高峰、三頭山(1,531m)が見えました。三頭山へは先ほどの鶴峠から登ることの出来る登山道が存在します。
泥と落ち葉が堆積した道が、非常に凶悪なスリップ効果を生み出しておりました。そして、こんなときに限ってストックを持って来ていないと言う。
どんな足の乗せ方をしても滑ると言う文字通りの泥沼状態にはまり、しばし苦戦を強いられました。粘土質の土壌ですね。
頭上には天然林が広がっており、薄っすらと紅葉の色付きが始まっていました。足元が滑りさえしなければ、とても気持ちの良い道です。
秀麗富嶽ファンにはすっかりお馴染みの、大月市の設置した標識が出現しました。境界を越えて、小菅村から大月市の領域に入ったようです。
奈良倉山は、大月市と小菅村の境界となっている尾根上に存在します。そのため、登山道はこの後何度も、大月市と小菅村を行ったり来たりまします。
大月市内に入ったら、山頂まではもう間もなくです。滑る斜面と格闘しながら、ラストスパートをかけます。
11時30分 奈良倉山に登頂しました。鶴峠を出てから1時間35分で登頂です。実にお手軽な登山でした。
この山自体は、多摩川源流部の非常に山深い場所に存在しています。手軽に登れるのは、行程の大半をバスが運んでくれたからにすぎません。
山頂の様子
この通り、樹林に囲まれていて展望はありません。富士山が見える展望スポットは、山頂から少し離れた場所にあります。
と言うことで、こちが富士山展望所からの光景です。秀麗富嶽十二景の中でも最北端にある山とあって、やや小さめに見えますね。
ズーム
右上の雲が少々邪魔ですが、まずます綺麗に見えました。
実はこの山には、ちょうど一年前にも訪れています。そのときは、この通りとても残念な状態でした。一年越しの再戦がかなって大いに満足です。
お目当ての富士山は無事に見れましたが、これだけでは少々物足りないので、今日はもう少し先まで足を延ばします。牛ノ寝通りを途中まで歩き、秘境の山として知られる大マテイ山を目指します。
3.紅葉の尾根道を行く、松姫峠への道
まずは松姫峠を目指して、尾根上を進みます。山頂のすぐ下を林道が通っており、登山道と合流します。
アップダウンは殆どなく、フラットな歩きやす道です。この尾根道は、多摩川川沿いに青梅街道が整備される以前の中世期には、街道として利用されていました。
紅葉が良い感じに色づいていました。このように見るべき物があれば、林道歩きでも退屈はしません。
途中で林道と分岐して再び徒歩道が現れます。ここは当然、歩道の方へ行きます。
落葉が深く堆積し、道はやや荒れ気味でした。あまり歩く人のいない道のようですね。
逆光に照らされて輝く紅葉が実に美しい。つい同じような写真ばかりを何枚も撮ってしまいます。
11時20分 松姫峠に到着しました。峠の標高は1,250メートルほど。奈良倉山からはここまでは、アップダウンも少なく、ほぼ水平移動のようなものでした。
この松姫と言うのは武田信玄の娘の名前で、かつて織田信長の軍勢に追われて、この峠を越えて落ち延びたと言う伝説が残っています。
ちなみに、ここを通る帰路のバスは一日3本しかありません。時間的にもずいぶんと中途半端な感じです。ここでバスを待つくらいなら、徒歩で小菅の湯に下ったほうが良いでしょう。
なお、峠の下にバイパストンネルが完成したことに伴い、大月市側の道は閉鎖されています。自動車でのアクセスは、小菅村側からのみ可能です。
4.大マテイ山の周囲に広がる巨樹の森
松姫峠の牛ノ寝通りの登山口より、秘境の山と名高い大マテイ山を目指します。
牛ノ寝通りとは、大菩薩峠の東にある石丸峠より伸びる長大な尾根の名称で、一般的には石丸峠から鶴峠まで間を指します。今日ここまで歩いてきた道も、すべて牛ノ寝通りの一部です。
この日山ほど撮った「逆光と紅葉」の中で、最も会心の出来だった一枚。
11時50分 鶴寝山に登頂しました。これと言って何があると言うわけでもない、牛ノ寝通り上の小ピークです。
山頂の様子
森の中にベンチが二つあります。特筆すべきものは何もない静かな場所です。
ああ、そうそう。何も無いと言いましたが、一つだけありました。この山からも富士山が見えます。
この通り、見えるといえば見えますが、まあ特筆するほどの光景ではないですかね。
題して富士山と逆光と私。後から見返すと、この日私は何故か逆光を利用した遊びばかりしておりました。よほど日差しが強かったのか。
見上げる高さのブナ巨木です。この付近一帯は東京都の水源林として保護されており、一度も斧鉞の入ったことの無い手付かずの原生林が広がっています。
その名もズバリ巨樹の道とな。派手さはありませんが、とてもよい雰囲気の森です。
昼でも薄暗い杉林と違って、陽が差し込む自然林は実に気持ちが良い。
ブナやクヌギ、コナラなどの落葉広葉樹の森です。なお、いずれの木の実もクマの好物なので、恐らくは結構な数がこの森に暮らしているものと思われます。
最盛期にはまだ少し早いようですが、それでも紅葉がとても美しいです。
標高が同じでも、場所によってはまだ緑々しいままです。風の当たり具合等が影響するのでしょうかね。
相変わらず、何処を指しているのだかわかり難い道標によれば、大マテイ山はもう間もなくです。
12時40分 大マテイ山に登頂です。読み方は「おおまていやま」です。本日の行程の中では、ここが最高地点となります。
山頂の様子
展望はありません。鬱蒼とした静かな森が広がっています。
この不思議な名前の由来には諸説あリますが、「大惑い山」が訛ったと言う説が最も有力です。
この辺りは昔から、道迷いの多い場所だそうです。牛ノ寝は幅の広い尾根であるがゆえに、何処でも歩けてしまって、かえって道が判りにくいのでしょう。
5.奈良倉山登山 下山編 多摩巌流の秘湯、小菅の湯へ
展望皆無な山頂に長居してもしょうがないので、早々と下山を開始します。
大菩薩嶺へ向かう道と、小菅の湯へ下る道との分岐点まで降りて来ました。
建物を解体したような跡がありました。昔は茶屋でもあったのでしょうか。
小菅の湯に向かって下山します。このように紛らわしい分岐が何度か出現します。大マテらないように、しっかりとルートを確認しましょう。
道標も何もありませんが、小菅の湯への最短ルートはここを左です。直進しても最終的には小菅の湯へ辿り着けるので、例え見落としても即迷子とはなりませんが。。
標高が下がるに従い、周囲の光景は癒しの天然林から忌々しい杉林へと変わりました。
相変わらずどっちを指しているのか良くわからない道標にマテられつつ、下っていきます。
登山道を下りきると、ワサビ田が現れました。ここからしばし、ワサビ田のある沢沿いに下って行きます。
用水路の保守道が登山道を兼任しています。濡れていて滑りやすいので、ここは慎重に下りましょう。転倒したら、最悪水の中にダイブです。
延長工事中らしい林道にぶつかりました。なんとも珍しいことに、木材を組み上げた路盤の上に道が敷かれいます。
舗装された林道に出てからも、小菅の湯まではもう一道あります。
人工物が現れると、もうすっかり下界に戻って来たかのような錯覚を覚えますが、ここはまだまだ山奥です。
下山開始から1時間半ほどで、ようやく集落まで降りてきました。
周囲は山に囲まれています。静かなる山間の集落といった趣です。
小菅の湯へはここを右です。道標は出ていますが、少々わかり難いかも。
14時20分 小菅の湯に到着しました。本日はここでひと風呂浴びてから帰宅します。
小菅の湯は高アルカリ性の温泉で、いわゆる美肌の湯と呼ばれる泉質です。入浴料は610円と大変リーズナブルです。
かつて秘湯といわれた場所なのですが、松姫バイパスが出来てアクセスがし易くなったためか、今ではすっかり観光地化されていました。
ここからは奥多摩駅行きと上野原行きのバスが出ています。所要時間に大差はありません。わざわざ奥多摩へ行く理由も無いので、上野原行きに乗り込み帰還です。
秀麗富嶽十二景最北端の山は、巨樹が立ち並ぶ森の中に静かに佇んでいました。
中央線からのアクセスが良く、比較的手軽に登れるのが秀麗富嶽の良いところなのですが、奈良倉山に関してはまったくそれに当てはまりません。この山を訪れるのは、秘湯と呼ばれた温泉に関心のある人か、あるいは秀麗富嶽十二景のコンプリートを目指している人くらいなものでしょうかね。
わざわざこんな山奥まで訪れずとも、富士山が綺麗に見える山など他にいくらでも存在します。よって、富士展望目当での訪問はあまり推奨しません。
この山の最大の魅力は、水源林として永きに渡って守られてきた幽玄なる原生林の独特の雰囲気です。人気の山の喧騒を避けて、森の中で静かな時を過ごしたい人にこそ、この山をオススメ致します。
<コースタイム>
鶴峠(9:55)-奈良倉山(11:30~11:50)-松姫峠(11:20)-鶴寝山(11:50)-大マテイ山(12:40)-小菅の湯(14:20)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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