山梨県南アルプス市と長野県伊那市にまたがる仙丈ケ岳(せんじょうがたけ)に登りました。
山腹に大きなカールを複数擁する雄大な山で、南アルプスの女王と称されています。アクセス難の山が数多くひしめく南アルプスの中では比較的アプローチしやすい場所に位置しており、3,000メートル峰の入門として人気の高い山です。
今回は北沢峠にテントを張り、一泊二日の行程でお隣の甲斐駒ケ岳とあわせて登る大変な贅沢な山行きをしてきました。
2016年9月3日に旅す。
南アルプスの女王陛下こと仙丈ケ岳は、いかにも南アルプスの山らしい重厚な山容を持つ大柄な山です。
昨年の夏に北岳へ登った時に、対岸にデンと構えたこの雄大な山を一目見た瞬間から、これは絶対にいつか登らなければいけない山だと密かに焦がれていました。ようやくその悲願をかなえる機会が訪れたと言う事です。
南アルプスと言うのは、玄人好みな重量級の山がひしめく、ある種の魔境と言うイメージがあります。仙丈ケ岳は、そんな山深き南アルプスの中にあっては、比較的アクセスしやすい一帯に存在します。
南アルプス林道により、標高2,000メートル地点の北沢峠までバスで行くことが可能だからです。山頂までの標高差は1,000メートルしかなく、3,000メートル級の山にしては比較的簡単に登ることのできる山です。
それでは、麗しの女王陛下へ、お目通りを願いに行ってみましょう。
コース
長兵衛小屋より、子仙丈ケ岳をへて仙丈ケ岳へ登頂。下山は馬の背ヒュッテを経由して北沢峠へと下る。仙丈ケ岳登山としては最も一般的なルートです。
1.仙丈ケ岳登山 アプローチ編 甲府からバスを乗り継ぎ北沢峠へ
4時20分 夜明け前の甲府駅よりおはようございます。広河原行きの始発バスに乗り込むべく、甲府に前泊してやって参りました。
今からおよそ一年前に北岳へ登った時は、このバスに乗るためにバス停のベンチで野宿しました。当日に飛び込みで甲府駅周辺の宿を探すも、何処もいっぱいで泊まれなかったからです。
今回はちゃんと前もって宿を押さえてきたので、なんの問題も無く前泊できました。やはり何事においても、計画性というのはとても大事ですね。単に前回が無計画すぎただけじゃない?
バスは南アルプス公園線の山道をグネグネと時間をかけて走り、6時33分に広河原に到着しました。ここ広河原は南アルプス北部における登山基地です。北アルプスで言うなら上高地ポジションの場所ですな。
その割には、やたらとこじんまりしておりますが。北アルプスと南アルプスの人気の差が良くわかりますね・・・
北沢峠に向かうには、ここから更にバスを乗り継ぐ必要があります。運賃は550円ですが、さらに荷物運賃が200円かかります。
こちらのマイクロバスです。広河原から先の南アルプス林道は、フルサイズの路線バスが立ち入れないような狭隘な山道となっています。
7時35分 北沢峠に到着しました。途中からは未舗装の道でむちゃくちゃ揺れました。乗り物酔い体質の人はお気をつけくだされ。
こちらは北沢峠に立つこもれび山荘です。とてもオサレな佇まいをしておりますな。テント場があるのはここではなく、峠から南方へ少し下った所にある長兵衛小屋になります。
2.長兵衛小屋にテントを設営する
というわけで、バスが登ってきた道を少しばかり引き返します。
こうして道があるので勘違いしそうになりますが、現在地は麓から歩いて登ってきたら、それだけで丸一日かかってしまうような山の中です。
河原にあるテントサイトです。周囲にゴウゴウと水音が轟く、実に心地のよい空間です。
こちらが長兵衛小屋です。ここでテントの受付をします。
幕営料は500円でした。水場とトイレの使用料を含みます。北アルプス幕営料相場の半額です。こんなところにまで深刻な南北格差があるのですね。
小屋の近くは軒並み埋まっていたので、少し離れた場所にスペースを確保しました。
地面は砂地で、ペグは刺さり易いですが簡単に抜けてしまいます。石はたくさん転がっているので、それで固定する方が良いでしょう。
3.仙丈ケ岳登山 登頂編 深い原生林を抜け、ハイマツの稜線が広がる世界へ
8時30分 早々と重荷を降ろして身軽になりました。張り切って登山を開始します。
上り始めは鬱蒼とした原生林です。実に南アルプスらしい光景ですな。
上り始めてすぐに北岳の見晴台がありました。名前が地味謙虚な山として知られる、日本第2位の高峰です。
北岳をズーム。今まさにガスに食われんとしているところですね。まだ午前中だと言うのに、もうそんなにガスが登って来てしまいましたか。
尾根に乗ったところで2合目に到着です。ここで北沢峠から直接登ってくるルートと合流します。
尾根伝いの道を登っていきます。道幅が広く、傾斜も緩めで非常に歩きやすい道です。
背後を振り返ると、甲斐駒ケ岳の全容が一望できました。ヤバイ、甲斐駒超イケメン
個人的に、この山の格好良さは一頭地を抜いていると思います。それはそうと、いい年して超とかヤバイとか言ってしまうような痛い中年にだけはなりたくないものです。
さしたる労も無く3合目に到着です。この調子でどんどん登っていきます。
4合目です。代わり映えのしない光景が続きます。
年間を通じて雨が多く雪はさほど多くない南アルプスは、北アルプスに比べると森林限界となる標高は高めです。おおむね2,700メートル付近までは、鬱蒼とした原生林に覆われています。
馬の背ヒュッテへの分岐地点までの来ました。ここが5合目です。ようやく半分登ってきたと言う事ですな。
豪雪地帯の山に良く見られる、雪の重みで曲がった木がチラホラと現れ始めました。森林限界に近づいてきている証です。
徐々に周囲の背の高い木が少なくなって来ました。そろそろ森林限界を超えて視界が開けそうです。
こちらは甲斐駒のお隣さんである鋸岳(2,685m)です。鋸(のこぎり)の名を冠した山は日本全国に数多ありますが、この鋸はその中での最高峰です。
聞いた話では、バリエーションルートしか存在しない非常に難しい山なのだとか。
等倍まで引き伸ばしてみたら、自分のテントもバッチリと写っていました。
6合目に到着しました。ここまで登って来て、ようやく森林限界を突破しました。
さあこの先からはいよいよ、待望のハイマツの稜線歩きです。張り切って行きましょう。
谷を挟んだ向かいに馬の背ヒュッテが見えます。下山時にはあちら側の尾根を伝って下る予定です。
目の前に見ているピークが、仙丈ケ岳の前衛鋒である小仙丈ケ岳です。一見緩やかそうにみえて、意外と急峻な尾根ですな。
稜線好きの人間なら、見ただけでテンションが上がってくるような光景です。要するに、私のテンションは先ほどからアガりまくっていると言うことです。いやっほーう!
この辺りは真っ赤な実をつけたナナカマドの木が多い茂っていました。紅葉シーズンになれば、さぞや素晴らしい光景を見せてくれることでしょう。
10時50分 小仙丈ケ岳に到着しました。残念なことに、ガスが沸いて来てしまいました。先ほどから無意味にアガリまくっていたテンションが、一挙にクールダウンです。
山頂の様子
岩が散乱しているものの、そこそこ広いスペースがあり、休憩には格好の場所です。
ここからはいよいよ、仙丈ケ岳本体の姿が・・・見えません。がっくし。麗しき女王陛下は、その美しきお姿を我々庶民の眼には見せては下さらなんでしたか。
小仙丈ケ岳からはしばしの間、高低差のあまりない緩やかなハイマツの尾根歩きとなります。晴れていればさぞや絶景であろうことが容易に想像できるため、その分ガッカリ感もひとしおです。
山頂まで、天空を歩くがごとき最高の稜線ハイクを満喫することが出来ます。ガスっていなければ。
8合目を通過します。この辺りから少し傾斜がキツくなってきます。
登山道上には徐々に、ハイマツ帯から突き出した岩が目立つようになってきました。
不意にガスが晴れて、ここまで歩いてきた稜線が一望できました。正面に見えているのが小仙丈ケ岳です。
こちらは馬の背と呼ばれる尾根です。ひたすらながーいルートのようですが、いつか歩いてみたい。
晴れていれば、こちらの方向には富士山が見えて、北岳と並んだ標高1位と2位のツーショットを見ることが出来ます。今日はこの通り、とても残念な状態です。
急坂を登りきると、再び平坦な稜線が現れます。非常に大柄な山だけに、なかなか山頂部に辿り着きません。
山腹に刻まれた見事なカール。仙丈ケ岳は山腹に大きな三つのカールを擁しています。これは小仙丈沢カールです。
山頂部をズーム。山頂にいる登山者の姿が、はっきりと視認できます。
仙丈ケ岳の山頂部は、藪沢カールを囲い込む様に馬蹄形をしています。山頂へ向かって、大きく回りこんでいきます。
ガスが取れそうでいてなかなか取れてくれません。一瞬でも良いから晴れてくれないものかな。
藪沢カールの底にある仙丈小屋が見えました。山頂を仰ぎ見る抜群のロケーションと言いたいところですが、冬に雪崩にやられたりはしないんでしょうかね。
山頂直下に少しだけ険しい岩場がありました。仙丈ケ岳は3,000メートル級の山にしては珍しく、危険な岩場が殆ど存在しない山です。
12時10分 仙丈ケ岳に登頂しました。登山開始からちょうど4時間をかけての到着です。北沢峠からだと、3000メートル峰とは思えないほど楽に歩けました。
山頂の様子。両側が切れ落ちた非常に狭い岩場です。あまり休憩向きの場所ではありません。
登山者の足元を縫うようにイワヒバリがうろうろしていました。ひょっとして、登山者がこぼした残飯をあさっているのでしょうか?
残念ながらガスっていて遠くは見えませんが、眼下に見下ろす藪沢カールは圧巻の光景です。氷河期に作り出された荒々しき景観です。
山頂部は狭くあまり休憩向きなスペースが無かったので、仙丈小屋まで下って休憩することにします。
4.仙丈ケ岳 下山編 藪沢コースを下り北沢峠へ
小屋まで下ってきました。ここで山バッジと山荘オリジナル手拭という、鉄板のお土産セットを購入しました。
仙丈小屋前から見上げる藪沢カール。この絶景を眺めながら弁当を広げました。
下山を開始します。小屋から少し下がったところに水場がありました。
南アルプス天然水が汲み放題です。冷たくて美味しい・・・と言いたいところですが、冷たすぎて身震いがしました。
9月ともなれば、カールから雪渓が消えてだいぶ経つと思うのですが、意外と水は涸れない物なのですね。
ハイマツの藪の中を黙々と下って行きます。すっかりガスが濃くなってしまい、展望は全くといっていいほどありません。
尾根ルートに比べて歩く人は少ないと見えて、道がハイマツに侵犯されつつありました。
なにやらゴチャゴチャとした道標のある分岐地点までやって来ました。ここは馬の背ヒュッテ方向へ。
鹿除けネットに囲われた道をしばらく下ると、馬の背ヒュッテが見えてきました。
売店に寄ろうかとも思いましたが、覗いてみた限りでは、土足を脱がないと入れない構造っぽかったので、面倒になって素通りしました。
ここでもナナカマドが真っ赤な実をつけていました。紅葉シーズンの涸沢に行ったことがある人ならご存知かと思いますが、ナナカマドはホントにいい色に紅葉します。
ここからは沢沿いの道になります。藪沢という名の沢で、先ほど通った山頂直下の藪沢カールが源頭となっています。
年間を通じて降雨量の多い南アルプスらしく、夏でもかなり水量が豊富な沢です。
藪沢沿いからは、真正面に甲斐駒ケ岳の姿を一望することが出来ます。まあ、本日はすっかりガスってしまっておりますが・・・
周囲のアチコチから南アルプスの天然水が染み出して、多くの滝を作り出していました。
尾根筋を辿る安心安全な子仙丈ケ岳経由のルートとは違い、沢沿いを行く藪沢コースはそこそこワイルドな道です。
このルートは全般的にやや荒れ気味でした。途中何箇所か高巻きする場所もあり、小仙丈ケ岳経由のルートに比べると若干危険度は高いです。
一部崩落している個所もあり、高巻きする迂回路が案内されていました。
途中で沢から離れ、樹林帯の中に逆戻りです。ここまで来ればあとはもう消化試合のようなものなので、サクサクと足早に下山します。
15時35分 大平山荘に到着しました。苦行のような樹林帯歩きがようやく終わりました。
昔ながらの薪ストーブの山小屋です。こもれび山荘や長兵衛小屋に比べて、周囲の人影も少なく落ち着いた佇まいです。
南アルプスらしい静かな夜を過ごしたい人は、ここに泊まるのが良いかもしれません。
ちなみに、ここは北沢峠よりも北側へ少し下った場所です。南側にある長兵衛小屋へ戻るには、峠へ上り返さなければなりません。
ここまでの道のりで大分疲れが溜まっていた体には、何気にこの登り返しが堪えました。
北沢峠まで戻って来ました。あとは憩いの我が家に向けて下って行けば良いだけです。
16時5分 長兵衛小屋のテント場に帰還しました。スタートしてから7時間55分の行程でした。
とりあえず腹ペコなので、テントに戻って早々に食事の支度をします。仕度といってもお湯を沸かすだけですけれどね。
アルファ米にチキンラーメンと言う、健康的かつ文化的な食事でこの日一日を締めくくります。翌日の甲斐駒ヶ岳に備えて、食事を済ませ後は早々と就寝しました。
仙丈ケ岳は遠くから見た姿の通り、実に大きなボリュームを備えた山でした。稜線に出て以降も、歩けど歩けどなかなか山頂に辿り着かず、その山容の大きさの程が窺えます。
子仙丈ケ岳を越えた先に続く稜線は天空の回廊そのもので、最高の稜線ハイクを心ゆくまで堪能することができます。南アルプスの女王と言う呼び名に誇張は少しもありません。正に女王の風格十分な山です。
危険な場所もなく、あらゆる人にオススメします。今回は紅葉シーズンにはまだ少し早かったですが、ナナカマドが紅葉する時期に訪れるのが一番良いかもしれません。
<コースタイム>
北沢峠(7:30)-長兵衛小屋(7:45~8:10)-小仙丈ケ岳(10:50)-仙丈ケ岳(12:10)-仙丈小屋(12:30~12:50)-馬の背ヒュッテ(13:30)-大平山荘(15:35)-北沢峠(15:50)-長兵衛小屋(16:05)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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