山梨県北杜市と長野県伊那市にまたがる甲斐駒ケ岳(かいこまがたけ)に登りました。
日本全国に多数存在する「駒ヶ岳」の名を持つ山の中の最高峰です。標高は標高2,967メートルあります。南アルプスの北端付近に位置するこの山は麓の甲府盆地からも良く見え、その白亜に輝く美しい姿により古くから名峰として親しまれてきた山です。
前日の仙丈ケ岳に引き続き、北沢峠から登って来ました。
2016年9月4日に旅す。
前回から引き続き南アルプス登山の二日目です。登るのは、甲斐の名峰として名高い甲斐駒ケ岳です。
南アルプスのほぼ北端に位置するこの山は、麓の甲府盆地から見上げた際に、最も目に着く位置に存在します。そんなこともあり、相当古くから山岳信仰の対象となって来ました。
日本百名山の作者である深田久弥は、日本の山の中から百座ではなく十座を選ぶとしても、甲斐駒ケ岳は絶対にはずせないと書いています。
言うなればこの山は、名山の中の名山だということです。
日本の主要な山をほぼすべて登りつくしたとまで豪語した深田久弥に、そこまで言わしめた山とあっては、いやが上にも期待が高まろうと言うものです。
それでは早速、名山の中の名山に足跡を刻みに行きましょう。
コース
長兵衛小屋のテント場から仙水峠を経由して駒津峰へ登頂。駒津峰から甲斐駒ケ岳山頂を往復します。
下山は双子山を経由して北沢峠へ下る周回コースです。
1.甲斐駒ケ岳登山 出発編 お誕生日に登る名峰の中の名峰
ハッピーバースデー!
私事でありますが、3x回目になる誕生日を一人テントの中で迎えました。
・・・自分が今何歳なのかしばらく思い出せず悩みました。標高2,000メートルオーバーの環境で一晩を過ごしたから、きっと酸欠気味で頭の働きが鈍くなっているのでしょう。
昨夜は小雨がぱらついたらしく、周囲のあらゆるものがしっとり湿っていました。
と言いたいところですが、見えているのは甲斐駒ケ岳本体ではなく、その脇にある摩利支天(まりしてん)です。本体は北沢峠からでは見えません。
5時25分 北沢を渡って登山を開始します。まずは仙水峠を目指して登って行きます。
始めは沢沿いの道です。夜明け前と言うこともあって周囲はまだ薄暗い状態でした。
いきなりロープ場が登場です。昨夜の雨で岩場は濡れており、非常に滑りやすい状態です。ここはゆっくり慎重に登りました。
前日の仙丈ケ岳が余りにも安心安全の山だったので、登り始めて早々に冷や水を浴びせられた気分です。
丸太でできたワイルドな橋を渡ります。手すり代わりにロープが張られてはいるものの、これもまた滑りやすくて肝を冷やしました。
この辺りは陽も差さない沢沿いの湿った場所なので、一度濡れるとなかなか乾きそうにはありません。要注意ポイントです。
6時ちょうどに仙水小屋を通過しました。森の中にひっそり佇むこちらの小屋は、食事に刺身が出ることで有名です。山で刺身・・・、不思議な組み合わせですね。
小屋の前に水場があります。利用するときは一声かけろと言う張り紙がありました。過去に何かトラブルでもあったんですかね。
私は既に長兵衛小屋の水場で必要量を調達済みだったので、ここは素通りしました。
苔むした道が続きます。沢筋を離れて以降も、全般的に湿っぽい空間です。
森を抜けたところで、突然目の前にごろ石の山が出現しました。思わず「なんじゃこりゃ」と独り言が口をついて出ます。
これがどのようにして出来たものなのかを説明する案内版の類は、一切存在しません。ただの山崩れの跡なんですかね。
ここからが大変でした。浮石が沢山あって非常に歩き難い道です。
道は基本的に右端の森との境界付近にあるのですが、何故か気付くと斜面の上の方へ登ってしまいます。なんどもルート修正して大幅にタイムロスしました。
真正面からコンデジのダイナミックレンジ限界をはるかに超える光量の朝日が照り付けます。まぶしくて前が見えません。サングラスを用意すべきであったか。
6時40分 仙水峠に到着しました。
相変わらず真正面から朝日が差し込み、とても眩しい場所です。
昨日登った仙丈ケ岳も見えます。素晴らしいまでの快晴です。・・・少なくともこの時はまだそうでした。
2.仙水峠から甲斐駒ヶ岳の前衛、駒津峰を目指す
ここから甲斐駒ケ岳の前衛峰である駒津峰に向かって、急登が始まります。この登りで一気に標高差を稼ぐ格好です。
全然関係ない話ですが、30歳を過ぎたころから、自分の年齢がわからなく無くなることがしばし起こるようになりました。
私だけですかね?同世代の見解を是非とも聞いてみたいものです。
背後にはアサヨ峰その先に連なる早川尾根の姿が見えます。この甲斐駒と鳳凰山とを結ぶ尾根も、素晴らしい眺望な場所らしいですね。いつか歩いてみたいところです。
鳳凰山(2,840m)のオベリスクも見えました。
こちらは日本第2位の高峰、北岳(3,193m)。深田久弥曰く「謙虚な山」だそうです。それってようするに地味だって言ってるよね。
世界遺産のアイツが、稜線越しに頭だけ見えました。
急騰故に短時間でグングン高度が上がって行きます。見上げる高さだった甲斐駒山頂も、だいぶ近づいて来ました。
7時40分 駒津峰に登頂しました。
仙水峠手前でのタイムロスを取り戻すべく、かなり頑張って登りました。普通に歩いたらもう少し時間が掛かるでしょう。
西には南アルプスの女王こと仙丈ケ岳が、広大な裾野を広げて佇んでいます。圧倒的なまでの大きさの山体をもつ、実に雄大な山ですね。大きいことはいいことだ。
先ほどまでは綺麗に見えていた北岳は、ガスに食われてしまいました。
北側には鋸岳(2,685m)がそびえ立っています。一般登山道の存在しない急峻な岩峰です。山梨百名山のコンプリート目指す人間の前に立ちはだかる、最大の難関となっています。
中央アルプス越に頭だけ見えているのは御嶽山(3,067m)ですかね。圧倒的な大きさです。
これは北アルプスの乗鞍岳(3,026m)です。御嶽山と同様に、非常に大きな山なので遠くからでも目立ちます。
3.甲斐駒ケ岳登山 登頂編 白亜に輝く名峰の頂へ
甲斐駒ケ岳に向かいます。駒津峰からは痩せた岩尾根伝いに進んでいきます。
これは、少し進んだところで駒津峰を振り返ってみた光景。これは良い稜線です。
大きくアップダウンを繰り返しながら甲斐駒ケ岳本体へと近づいていきます。
ようやく本体直下まで辿り着きました。ここからはいよいよ、白亜の岩場歩きです。
直登ルートと言うのもありますが、道なりに進んでいたらいつの間にか分岐を通り越していました。しっかりと分岐地点を写真に収めていながら、何故か気が付かないと言う。
遠くから見ると、一見雪を被っているかのごとく白く見える甲斐駒ケ岳山頂部ですが、白く見える理由はこの山が花崗岩で出来ているからです。
アップで見るとこのようにザラザラした表面をしています。非常に風化しやすく、触るとパラパラとはがれて砂状になります。
砂状になった花崗岩は真砂(まさご)と呼ばれます。山頂付近の登山道上には、この真砂が大量に堆積していました。
つまり、物凄く滑ると言うことです。
振り返ってみる駒津峰。甲斐駒ケ岳へと続く尾根がナイフリッジ状になっているのが良くわかります。
足元が滑りやすいので、ゆくっり慎重に登っていきます。登りはまだいいとして、下山は結構怖そうです。
岩の隙間に1本だけダケカンバが生えていました。果たしこの木は、大木に成長するまでここで生き残ることが出来るのでしょうか。
見上げる山頂部。この傾斜では当然ながら直登は出来ないので、右側から大きく迂回して登ります。
この登りが結構ツライです。足元がズルズルと滑って、なかなかペースが上がりません。そうこうしているうちにガスが湧いてきてしまいました。
9時 甲斐駒ケ岳に登頂しました。
残念なことに、山頂部はすっかりガス駒ケ岳と化していました。
盆地に近い甲斐駒ヶ岳は、もともと南アルプスの山の中でもガスが掛かりやすい場所です。夏山シーズン中に快晴の甲斐駒山頂に巡り合えたら、それはかなりの幸運をつかんだと言えるでしょう。
山頂の様子
山頂標識のほかに一等三角点があります。余り広くはありません。
おなじみの、山梨百名山であることを主張する標識もしっかり建っていました。山頂は山梨県と長野県との境界です。
こちらは駒ケ岳神社の本宮です。何故かわらじが大量に祭られていました。
山頂より駒津峰方面を見下ろす。ガスっていなければ、遠く北アルプスまでを見渡すことができます。
4.甲斐駒ケ岳 下山編 双児山を経て北沢峠へ
9時20分 一向にガスが取れくれそうにもなく、諦めました。下山を開始します。
思ったとおり、下山は真砂がズルズルと滑りまくりで、大いに肝を冷やしました。
山頂部だけがガスに覆われているらしく、下るにつれて視界が回復してきました。何とも腹立たし限りで。
行きしにも脇を通りましたが、この尾根上をとうせんぼするかのごとく横たわっている岩は、六方石といいます。サイコロのような6面体をしているのが名前の由来でしょうか。
六方石脇より望む北方向の展望。麓の方はこの通り晴れています。甲斐駒本体だけがガスに取り巻かれている状態です。
六方石より見上げるガス駒ケ岳。朝に見上げた青空が嘘のようです。山の天気と言うのは、気まぐれかつ無常なものです。
尾根上を駒津峰に向かって戻ります。反対側から見るとこんな凄いことになっていたのですね。
今よじ登っているこの岩の裏側は、垂直の断崖絶壁です。世の中には、知らずにいた方が良いこともたくさんありますね。
ようやく平らなところにまでまで戻ってきて、人心地つきました。
下山は仙水峠を経由せず、今眼下に見えている双児山を越えて、北沢峠へ下ります。
これは双児山への登り返しの途中で、振り返って撮影した駒津峰です。この後は樹林帯に突入し、展望はなくなりました。
11時 双子山を通過します。山頂の様子を撮影し忘れるくらい何も無いピークです。
ここから北沢峠までの下りがまた結構長いです。代わり映えのしない樹林帯の道を延々と下ります。
長すぎて途中でヤになってきました。この樹林帯歩きの長さもまた、南アルプスクォリティです。
12時20分 北沢峠に下山しました。
足がガクガクになり、心が折れかけたところで、ようやく到着です。
長兵衛小屋まで林道を歩いて戻ります。
昨日テントを担いでここを下っていったのがまるで遠い昔のことに思えるくらい、密度の濃い二日間でした。
麗しの我が家に帰還です。バス時間が近づいているので、手早く撤収します。
5分で撤収が完了。自宅で何度も設営の練習を繰り返したおかげで、テントの展開・撤収は実に手際がよくなりました。
13時30分発の広河原行きバスに乗って、長い長い帰宅の途につきました。
かくして、二日間に渡る南アルプス登山は無事に終了しました。
自身の誕生日に名峰の中の名峰に登頂することができて、大満足の山行きでした。ガスっていなければもっと最高でしたが。。。
沢沿いにあるテント場はとても雰囲気が良く、ただキャンプをしに来るだけでも十分に楽しめそうな場所です。
北沢峠を拠点に出来るので、(南アルプスにしては)交通アクセスも良く、多くの人にオススメできます。
仙丈ケ岳も甲斐駒ケ岳も、どちらも非常に大きな懐をもつ山で、たった一度の山行きでそのすべてを味わいつくすことなど到底出来ません。季節やルートを変えて、いつかまた訪れることがあるでしょう。
<コースタイム>
長兵衛小屋(5:25)-仙水峠(6:40)-駒津峰(7:40)-甲斐駒ケ岳(9:00~9:20)-駒津峰(10:20)-双児山(11:00)-北沢峠(12:20)-長兵衛小屋(12:30)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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