栃木県栃木市、鹿沼市および佐野市の飛び地にまたがる三峰山(みつみねさん)に登りました。
木曽の御嶽山信仰が伝わる霊場の山です。山の麓にある御嶽山神社にはセツブンソウの自生地が存在し、2月の中旬から下旬ごろにかけて見頃を迎えます。山の西側には良質な石灰岩の層があり、山容が大きく変わってしまうほど削り取られています。
マイナーな栃木の里山で、ゆるくお花見登山をしてきました。
2023年2月23日に旅す。
今回はマイナーな里山回です。栃木県の栃木市と鹿沼市の境界に立つ、三峰山に登って来ました。と言っても三峰山に登ったのは言ってみれば物のついでで、本当のお目当ては麓の御嶽山神社にあるセツブンソウの自生地です。
セツブンソウとはキンポウゲ科に属する多年草で、早春の時期に咲く春の前触れの花です。石灰岩質の土壌を好む性質があり、自生地は極めて限定的にしか存在しません。
そんな珍しい花であるセツブンソウが見頃を迎えったと言うニュースを目にし、遠路はるばる栃木県まで繰り出して来ました。
セツブンソウが咲くと言う事実から察せられる通り、三峰山は石灰岩の山です。古くから採掘がおこなわれており、現在では山容が多きく変わるほどに削られています。
半分削れた信仰の山をゆるりと歩いて来た一日の記録です。
コース
御嶽山神社を起点に奥の院から三峰山山頂を周回します。行動時間4時間未満の手軽な行程です。
1.三峰山登山 アプローチ編 鈍行列車に揺られててゆく、栃木への旅路
7時11分 JR赤羽駅
先週の庵滝に続いて2週連続での栃木県訪問です。今回は特急列車には乗らずに鈍行で栃木駅を目指します。東武で行く方が運賃的に若干安上がりですが、やたらと乗り換えが多い上に時間もかかるので、割高なのは承知でJRにしました。
栗橋駅で東武に乗り換えます。何度も辿ったことのある経路なので、最早すっかり慣れたものです。
車窓に雪を頂いた日光連山の姿が見えて来ました。今のところどんよりとした空模様ですが、この後は回復に向かう予報となっています。
8時35分 栃木駅に到着しました。県名と同じ名前でいかにも県庁所在地っぽい駅ですが、栃木県の県庁所在地は栃木市ではなく宇都宮市です。
駅前は簡素で静かなものです。駅から少し離れると、一面にいちご畑が広がる長閑な場所です。
なにやらモンスターボール的なオブジェがありました。自分で言っておいてなんですが、私は年齢的にポケモン世代からは外れており、それこそ誰でも知っているであろうピカチュウくらいしか識別はできません。
8時40分発の出流観音行きのバスに乗車します。栃木市ふれあいバスの寺尾線と呼ばれている路線です。料金は距離に関係なく一律200円の前払いです。
交通系ICカードには対応していないので、あらかじめ小銭を用意しておきましょう。
9時34分 星野御嶽山入口バス停に到着しました。ここまでずっと「みたけさん」なのだとばかり思っていたのですが、バスの車内アナウンスを聞いてはじめて「おんたけさん」なのを知りました。
2.セツブンソウが見頃の御嶽山神社
バス停に真正面に目指す三峰山の山並みが見えました。相変わらずどんよりとした空模様ですが、予報通りであればこの後徐々に晴れて行くはずです。
こちら側から見る分にはどこにでもでもありそうな至って普通の里山ですが、裏側には石灰石の採掘場があり山肌が大きく削り取られています。
御嶽山神社へと向かいます。バス通りを道なりに進んで、すぐに橋を渡ります。
正面に見えているピークが、御嶽山神社の奥の院がある場所です。木曽の御嶽山を中心とする御嶽信仰の山であり、修行のための霊場となっています。
バス停からは5分とかからずに、御嶽山神社の入り口までやって来ました。ハイカーのみならず、セツブンソウが目当てだと思われる観光客の姿もチラホラとあります。
御嶽山神社を起点とした周回コースが設定されています。三峰山は現役の修行場であり、この日は見かけませんでしたが白装束を着て巡る人もいるようです。
それで、肝心なセツブンソウの自生地はどこにあるのでしょうか。境内を少し探してみましょう。
と思った矢先に、探すまでもなく足元いっぱいに咲いていました。環境省の絶滅危惧種レッドリストにも登録されている大変希少な花です。まかり間違っても踏んづけてしまわないように、足元には要注意です。
新春のちょうど節分の頃に芽吹くことからセツブンソウと呼ばれています。その頃に芽が出ると言うだけで、開花するのはだいたい2月も中旬を過ぎた頃からになります。
セツブンソウの群生地と言えば、秩父の小鹿野町にあるセツブンソウ園が特に有名です。御嶽山神社の群生地は、小鹿野町に比べるとずっと小規模です。その分だけ、人も少なく空いていました。
予報の通り頭上に青空が広がり始めました。であればボチボチ山登りに取り掛かりましょうかね。軽い腹ごしらえをしつつ身支度を整え、9時50分に行動を開始します。
3.幾多の石碑に見守られなら歩む、奥の院へと続く霊場の道
御嶽山神社の境内から、階段を登って登山道に入ります。信仰の山の参道を歩くわけだから、登山ではなく登拝と呼ぶべきなのかな。
振り返って見た御嶽山神社です。半ば観光地化しているようなもっと大きい寺院を思い浮かべていましたが、意外にもこじんまりとした佇まいです。
階段を登った先にも拝殿と思われる建物が建っていました。ちょうどのその背後に見ているのが奥の院のあるピークです。まずはあの場所目指して登って行きます。
建物の裏手から、動物除けのゲートを通って山道へと分け入ります。この金網の戸はカラビナで固定してあるのですが、意外とタイトで外すのに一苦労しました。
見ているだけ目鼻がムズムズして来そうな、圧倒的杉林が出迎えてくれました。ムズムズして来そうと言うか、実際にムズムズします。里山歩きが辛い季節になって来ましたね。
登り始めてほどなく、またもや建物が建っていました。寺院的で造りではなく、作業場かなにかのように見えます。
ここは清滝不動と呼ばれている滝行場です。なるほど、小さなか可愛らしい滝がチョロチョロと流れていました。先ほどの建物は、着替えのためのスペースでしょうかね。
滝行場を過ぎて以降も、相変わらずの圧倒的杉林が続きます。参道の杉並木と言う感じではなく、あくまでも林業のために植林された奥多摩的な杉林です。
またもや鳥居が現れました。道の両脇に多数の石碑が並び、信仰の山らしい景観です。一礼して先とへ進みます。
この辺りから傾斜が増して、かなりの急登となりました。足元は石段になっており、急ではあるものの特に危険は感じません。
全国各地の山々にお経を埋めて回る謎の高僧、弘法大師の足跡がここにもありました。弘法大師にまつわる伝説は北海道を除く全国各地に存在し、その総数は5千ヵ所にもおよびます。
これらの伝承には相当な尾ひれがついていると思いますが、少なくとも四国の八十八箇所を遍歴したのは伝説ではない歴史的事実であり、そうとうな健脚者だったんでしょうね。
一目で石灰岩だとわかる岩が、登山道上に無数に散乱していました。それがために既に半分近くに削り取られてしまっている訳なのですが、御嶽山神社の参道を歩いている分には特にそれを感じさせる要素はありません。
ロープ場なども現れて、いよいよ修行の山らしい道になって来ました。足元はパサパサに乾燥しきった砂地なので、特に下る際には注意を要します。
御嶽大神御お岩戸と呼ばれる地点まで登って来ました。見上げる高さの岩の岸壁に、多数の石碑が置かれています。
岩壁を直登する、割と本格的なクサリ場もあります。ただし、ここから登ると奥の院を通らずに稜線上に出るルートに乗ってしまいます。
展望が開けるかなと期待して途中まで登ってみましたが、それほど周囲は見えませんでした。
と言う事でクサリ場からはすごすごと退散し、奥の院方面へと進みます。ルートは岩戸との直接対決避けて回り込むように、トラバースになっていました。片側が切れ落ちているのでここは慎重に通り抜けましょう。
岩場を過ぎると、周囲はまたもや圧倒的な杉林になりました。日中でも薄暗いこの密集具合たるや、なんと恐ろしい。こんな物騒なものは全て伐採し、つまようじにでもしてしまえばよいのですよ。
三峰山の主稜線に乗りました。ここから、奥の院をサクッと往復します。
緩やかな尾根道ですが、どうやら霜柱が溶けた直後らしく足元が泥濘状態です。凍っていてくれた方が歩きやすいのですが、もうそんな暖かい季節になってしまいましたか。
木の隙間から男体山らしき山が見えました。あちらは朝から変わらず、どんよりとした雲に覆われたままのようです。
11時15分 奥の院まで登って来ました。霊場らしい岩場とありふれたの里山の光景を交互に繰り返す、なかなかユニークな道でした。
奥の院に並んでいるこの三体の像は造化三神とのことです。
造化三神とは、高天の原に最初に降り立ったとされる天之御中主(アメノミナカヌシ)、高御産巣日(タカミムスヒ)および神産巣日(カムムスヒ)の事です。
天照大神よりも前の世代の、日本神話における最初の神々ですね。
石灰石の採掘面が僅かに見えました。地図を見る限り、山の西側はかなりごっそりと削り取られてしまっているはずです。さて、どんな感じなのでしょうか。
4.三峰山登山 登頂編 半分削れてしまった地味なる頂
周囲の景色はあまり変わらず、圧倒的杉林が続きます。紛らわしい横道が多くありますが、分岐には必ず道標が立っています。
やがて前方に、これまで全く見えていなかった西側の斜面の姿が見えて来ました。ここからは山の雰囲気が一変します。
物々しいロープと金網によって、登山道の片側が完全に閉鎖されていました。つい先ほどまで霊場にいたはずなのが、いきなり工事現場に迷い込んでしまったかのような景観の変容ぶりです。
登山道のある尾根すぐ下にまで採掘場が迫ってきています。このまま拡大を続けると、いま歩いているルートを辿れなくなる日も来るのだろうか。
ゆるゆるとアップダウンを繰り返しつつ進みます。道の上にまで露出した石灰岩の姿が目立つようになって来ました。
11時45分 剣ヶ峰と呼ばれるピークを通過します。あまり尖っている感じはしない山容で、名前負けしている感があります。
そう思ったのも束の間で、反対側はそれなりに急峻でした。乾燥した砂地の急坂で、下るのに結構難儀しました。
剣ヶ峰から下った鞍部の地点から下山できるルートもあるようです。まだ最高地点の土を踏んではいないので、このまま尾根沿いに進みます。
徐々に尾根が痩せて岩場の道になって来ました。やはり修行の山を名乗るからには、こうでなくてはいけません。
振り返って見た剣ヶ峰です。遠目にもやはり完全に名前負けしているような。
岩場は長くは続かず、またもや圧倒的杉林へと突入しました。この先もゆるゆると小刻みのアップダウンがしばらく続きますが、読者の皆様を退屈させるのも忍びないのでスパッと割愛します。
と言う事で場面は飛んで、山頂の直下でやって来ました。山頂もすでに西側半分が削り取られてしまっており、フェンスで閉鎖されていました。
12時25分 三峰山に登頂しました。鬱蒼とした杉林の覆われた地味なる山頂です。ポツンと立つ小さなお社だけが、ここが信仰の山であった事実を僅かに伝えていました。
展望は金網越しにしかありません。と言う事で、カメラを金網の上にかざして撮影してみました。特撮ヒーローの撮影でも行われていそうな光景です。
採掘は山頂の下にも及んでおり、山体の内部には巨大な空洞が存在します。万が一山頂に居合わせたタイミングに巨大地震でも発生しようものなら、そのまま陥没に巻き込まれる可能性があります。
ここまで歩いて来た尾根を振り返ったところです。片側だけが削り取られてしまっている様が良くわかります。古くからの信仰の対象であった存在を、よくもまあここまで容赦なく削りましたな。
遠くに薄っすらと日光連山の山並みが見えています。三峰山は眺めの良い山なのか問われると、返答が難しいですね。金網越しでよければ悪くない、としか答えようがありません。
5.三峰山登山 下山編 急斜面を一気に下り、再びセツブンソウを鑑賞する
なにはともあれピークハントは無事に達成されました。帰りのバス時間もあるので、ボチボチ撤収に移りましょう。奥の院までは戻らずに、手前にある下山路を下ります。
こちらのルートは小さな谷に沿って真っすぐに下る、かなり急勾配の道です。傾斜がキツイ分だけ、短時間でモリモリと標高が下がって行きます。
特にこれと言った見所も無いので途中をだいぶ端折りましたが、およそ1時間ほどで麓まで下って来ました。
ここでもやはり入口がカラビナでロックされていました。これが三峰山の標準仕様なのだろうか。手袋をしていると、地味に外すのに難儀するのですが。
13時35分 御嶽山神社に戻って来ました。のんびりと歩いても3時間45分程度の、実にお手軽な行程でした。
帰りのバスの時間までまだ少しの間があるため、今度は日光の下のセツブンソウの姿を眺めて行くことにしましょう。
地面の上に一斉に咲き誇るその姿は、まるで小雪がパラついたかのようにも見えます。
朝の時点では気が付いていませんでしたが、よく見るとフクジュソウも沢山咲いていました。
セツブンソウと同様に、早春に咲く春の前触れの花です。2月に咲く花としては、ロウバイやマンサクと並んで定番の存在です。
そろそろ良いお時間なので、撤収します。帰路の栃木駅行きのバスは2時間に1本しかないので、事前に良く時間を確認しておいてください。14時10分のバスを乗り逃すと、次は16時までありません。
万が一帰りのバスを乗り逃してしまった時は、近くに星野遺跡と言う後期旧石器時代の遺跡があるので、そこで時間つぶしをするのが良いかと思います。今回私は立ち寄りませんでしたが、お食事処も近くにあります。
どんより曇っていた朝から一転、青空の下の三峰山の姿を写真言収めて、本日のミッションは終了です。
時間通りにやって来たふれあいバスで撤収します。以外にもと言ったら怒られそうですが、座席がすべて埋まるくらいには盛況でした。
栃木駅は特急けごんの停車駅ですが、帰りも鈍行に揺られてのんびりと帰宅の途につきました。
御嶽山神社のセツブンソウ群生地は、有名な小鹿野町のセツブンソウ園に比べるとはるかに小規模です。それは見方をかえると穴場であるとも言えるので、混雑を避けてゆっくりとセツブンソウを鑑賞したいと言う人にはおススメです。
古くからの霊場である三峰山は、色々と見所が詰まった魅力的な里山である事は間違いありません。しかし、東京から遠路はるばる訪れるだけの手間に見合うかと問われると、それは人によって意見が別れそうです。
地元の人々に愛されている里山、という立ち位置が一番シックリと来そうな一座です。
<コースタイム>
御嶽山神社(9:50)-奥の院(11:15~11:25)-剣ヶ峰(11:45)-三峰山(12:25~12:35)-御嶽山神社(13:35)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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