南アルプスの白根三山を縦走して来ました。
白根三山とは赤石山脈(南アルプス)に連なる北岳(きただけ)、間ノ岳(あいのだけ)および農鳥岳(のうとりだけ)の総称です。この標高3,000メートルを超える稜線が連なる天空の回廊のごとき山並みは、多くの登山者を引き付け魅了します。今回はそんな魅惑の白根三山を、余裕のある2泊3日の行程で巡って来ました。
まずは縦走1日、北岳の訪問記です。
2019年9月1日に旅す。
南アルプスの北寄りに連なる白根三山は、標高3,000メートルを超える高峰の連なりです。遠目から眺めたその姿は、威風堂々と言う言葉を体現しているかの如き貫禄で、何れ劣らぬ秀峰です。
縦走初日となる今回は、北岳へと登ります。
北岳は標高日本第2の堂々たる高峰であるにも関わらず、どちらかと言うと地味な山と見なされがちです。日本百名山の著者である深田久弥にも「謙虚な山」などと書かれています。
その地味さ加減は、よくビジネス系の自己啓発本などでネタにされてしまっているほどです。だいたいこんな風に、、
講師「皆さんは日本で一番高い山の名前を知っていますか?」
生徒「富士山です」
講師「その通り。では日本で二番目に高い山はどこか知っていますか?」
生徒「・・・・わかりません」
講師「知らないでしょう。二番では無意味なんです。一番でなければ意味はありません。一番を目指しましょう(ドヤ顔)」
しかし、そんな風潮に対し私は一言モノ申したい。北岳の一体どこが地味なのかと。そりゃ名前でしょう。
山頂直下にバットレスと呼ばれる大岩壁を擁するその姿は、日本第2位の高峰の肩書に恥じぬだけ貫禄があります。眺望ありお花畑あり登りごたえありと三拍子そろった北岳は、多くの魅力が詰まった文句なしの秀峰です。
こんな比較は無意味だし口にすべきではないのかもしれませんが、富士山に登るよりよほど楽しいですよ?
人生2度目の成人式となる誕生日を目前に控えた2019年の夏。ついに私も、アラウンドが取れてリアルフォーティーになってしまう日がやってきました。
30代最後となる登山で完全燃焼すべく、白根三山縦走へと繰り出して来ました。さあ、真っ白に燃え尽きるぞ!
コース
広河原より右俣コースを登って北岳に登頂します。その後は、北岳山荘へ下り一泊します。
1.白根三山縦走 アプローチ編 甲府で前泊し、始発バスで広河原へ
8月31日 21時10分 JR高尾駅
広河原行きの始発バスへ乗車すべく、本日は甲府へ前乗りします。という事で、小淵沢行きの鈍行列車へと乗り込みます。
え?特急かいじ?あんな自由席すらないようなブルジョワな乗り物は、始めからお呼びではありません。
22時55分 甲府駅に到着しました。一本前を走っていた電車が初狩駅付近で鹿に接触したことにより、15分ほど遅延しての到着となりました。
甲府駅の界隈にはビジネスホテルが数多くあり、宿探しには苦労しません。本日の宿はこちら。駅から徒歩3分と言う好立地な割にお安めでした。
ちなみに今から4年前に北岳に登った時は、宿がどこも満室でやむおえず駅前のベンチで野宿しました。今となっては良い思い出です。。
山梨県における観光資源は、主に桃と葡萄と武田信玄によって成り立っているとっても過言ではありません。(※過言です)
県内のどこへ行っても、この通り武田だらけです。500年前の歴史上の人物が今なお県の誇りであるというのは、よくよく考えてみると凄いことですよね。
明けて9月1日、4時15分。ライトアップされた武田信玄像に見守られながら、広河原行きの始発バスを待ちます。
時刻表通りに現れた広河原行きのバスに乗り込みます。並んでる人数に合わせてバスを出してくれるので、乗り損なう事はありません。この日は2台出ました。
この広河原線は何故か未だ頑なに古めかしいパンチタイプの乗車券を使用しています。ICカードに対応できない理由でもあるのでしょうか。
甲府からの運賃は、マイカー規制協力金を含めて2,150円です。
夜叉神トンネルを抜けると、車窓に白根三山が姿を見せました。左が間ノ岳で、中央右奥が北岳です。三山が並んでいる姿を見たいと言う人は、夜叉神峠まで登りましょう。
眼下に広がるは、野呂川が刻みし南アルプスの大峡谷です。林道から河原までの標高差は、実に400メートル近くあります。
6時30分 広河原に到着しました。広河原は南アルプス北部における登山拠点となる場所です。北沢峠へ向かうバスもここから発着します。
鳳凰三山に登った時以来だから、私自身2年ぶりとなる訪問です。
2.沢沿いを行く大樺沢ルート
6時50分 腹ごしらえと身支度を整え、この日の行動を開始します。
この吊り橋を渡ったところが登山口です。ちなみにこの吊り橋は、結構揺れます。
イマイチピリッとしない天気ではあるものの、北岳の山頂が見えました。高曇りで、今のところ山頂はガスってはいないようです。
頭上高くにそびえる北岳。広河原から北岳山頂までの標高差は、1,650メートルほどあります。決して楽に登れる山ではありません。覚悟を決めて行きましょう。
橋の上から北に目を向けると、そこにはアサヨ峰(2,799m)が佇んでいました。南アルプス天然水のCM撮影地になった山です。
この山は広河原から見たときにちょうど朝日に照らされる位置にあることから、もとは朝日岳と呼ばれていました。なぜ朝日がアサヨに変わってしまったのかはよく分かりません。
野呂川の辺に立つ広河原山荘。ここで前泊すれば、甲府からの始発バスに乗るよりもさらに早く登山を開始できます。
広河原山荘の脇から登山道が始まります。巨樹が立並ぶ森の中をゆるゆると登ってゆきます。この辺りはまだ傾斜も緩く、ウォーミングアップのようなものです。
最近の長雨の影響なのか、登山道が水浸しで川のようになっていました。
20分ほど登ったところで、分岐地点に辿り着きました。このまま大樺沢沿いに進むルートと、白根御池を経由するルートに分かれます。
4年前の訪問時には白根御池経由ルートを歩いたので、今回は沢沿いのルートにしてみました。ゴウゴウと音を立てて流れる沢を横目に登って行きます。
大樺沢はかなり水量豊富な沢です。定番のスローシャッターで一枚。三脚は無いので腕力手振れ補正です。
逆に高速シャッターでもう一枚。この辺は好みにもよるのでしょうけれど、個人的には高速シャッターのスプラッシュな感じの画の方が好みです。
道の脇の至る所から清水が湧き出してきていました。南アルプス天然水が汲み放題です。冷たくておいしい。
花のシーズン最盛期はとっくに終わってしまっておりますが、こうして所々にその名残が残っていました。これはシモツケソウですね。
冷たい空気に満たされた気持ちの良い空間です。思った以上の涼しさに、少々戸惑いを感じます。もしかしなくても、稜線出でたら寒いのではないだろうかと。
一度沢の対岸へ渡ります。ちゃんと橋がかかって、徒渉しろなどとは言われませんのでご安心を。
数えきれないほど小さな沢を渡りながら進みます。南アルプスの山々は、どこも非常に水が豊富です。
道中には黄色い花の姿が多く目につきます。これはオタカラコウかな。
苔生す木々のトンネル。深い考えもなしに選んだ大樺沢コースですが、雰囲気やよしです。
沢を流れ下る水の量もだいぶ少なくなってきたところで、ようやく北岳バットレスの岩壁が頭上高くに見える場所まで登って来ました。
見上げると迫力満点です。「チース。北岳パイセン、マジバットレッス」
やがて前方に、大樺沢二俣と呼ばれる地点が見えて来ました。バイオトイレが目印です。
足元にはお花畑がまだ枯れずに頑張っていました。こちらはお馴染みのハクサンフウロ。
これはタカネナデシコですね。二俣の周囲は、紫色の花の勢力下にありました。
9時15分 二俣に到着しました。
ここで再びルートが分岐します。このまま沢沿いに登り上げる左俣コースは割と険しく、稜線上へ上がる右俣コースは比較的歩きやすい道となっています。
背後を振り返れると、大樺沢の谷の先に鳳凰三山が立ち並んでいました。
3.北岳登山 登頂編 稜線直下の急登をの乗り越え、日本第二の頂へ
北岳山荘に直接向かうのであれば左俣コースが最短ですが、北岳を経由して行きたいので、ここは右俣コースへ進みます。
始めから結構な急勾配です。この急登は稜線に出るまで続きます。
紫色の猫じゃらしの様な花が沢山咲いていました。これはクガイソウかな。
時節はもう9月に入ったと言うのに、大樺沢の上部にはまだ雪渓が残されていました。この残雪が、北岳に豊富な水をもたらしているわけですね。
雪の重みで曲がっってしまったダケカンバの姿が目立ち始めました。森林限界に近づいてきている証拠です。
不意に前方の視界が開けました。残念すぎることに、北岳パイセンの頂上はガスに屈しつつあるように見えます。そこをなんとか踏ん張ってくれい。
稜線に向かって急登を這い上がります。本当に這い上がる様な勾配で、この辺りがこの日一番キツかった場面でした。
花の撮影を口実にしばし小休止。これはコウメバチソウかな。季節的にもう花にはあまり期待していませんでしたが、晩夏であっても意外と残っているものですね。
増々濃くなって行く北岳のガス。これは4年前の訪問時に引き続き、眺望皆無で北岳に来ただけになってしまうパターンなのか。
白根御池方面からの登山道と合流しました。稜線に出るまで、もうあとひと踏ん張りです。
ひと踏ん張りとか言いつつ、まだ結構距離があったりしますがね。こんなに登ったっけかなあ。なにせもう4年前の記憶なので、意外と覚えていません。
11時15分 ようやく稜線まで登って来ました。案の定、風が強くて猛烈な寒さです。慌ててレインの上着を羽織り、手袋を装着しました。
さあ、ここからはいよいよ、天空を行くがごとき稜線歩きが始まりますよ。天気はイマイチだけどね。
東側には野呂川の谷を挟んで鳳凰三山が立ち並びます。名前と言い見た目と言い、この山は格好良すぎます。
それに比べて我らが北岳は・・・見た目はまあ十分にカッコ良いと思いますが、やはり名前でだいぶ損をしている感が否めません。
北には南アルプスきってのイケメンマウンテン、甲斐駒ヶ岳(2,967m)が佇んでいます。いつみてもカッコいい山ですな。
甲斐駒ヶ岳の右奥には八ヶ岳の山並みです。やや雲が出てはいるいるものの、編笠から蓼科まで、連峰のすべての山の姿が見えていました。
甲斐駒と仙丈ケ岳の間には、遠くに北アルプスこと飛騨山脈の山並みが連なります。穂高周辺から後ろ立山連峰まで、一直線にきれいに並んでいるのが良く見えました。
穂高周辺を拡大。やはり槍ヶ岳の姿はどこから見ても目立ちますね。
そしてこちらが、南アルプスの女王こと仙丈ケ岳(3,033m)です。ちょうど小雨がパラついてきて、レンズに水滴がついてしまいました。
そしてこちらが、日本第二位の山から望む第一位の山の姿です。雲に纏り付かれつつも、僅かに顔を見せてくれました。
グルっと周囲を見渡してみてふと思ったのですが、ガスに隠れて見えないのは、よりによってこれから向かう北岳だけであるとオチでした。なんと言う間の悪さなのでしょう。ぐぎぎぎぎ。
特に甲斐駒の周囲は、憎たらしいくらいに良く晴れています。その晴れ間をこっちにも分けてください。
稜線上に一ヵ所、北岳で唯一の危険個所と言えないこともない岩場があります。まあ、普通に三点支持で登れば、何ら問題はない岩場です。
眼下の大樺沢にヘリが降下していました。誰ぞ怪我でもしたのでしょうか。
暴風の吹き荒れる稜線を進みます。歩くのに難儀するような風です。3,000メートル峰の気象の激しさと言うのは、やはりその他の山とはステージが一つ違う感じです。
11時55分 北岳肩ノ小屋まで登って来ました。この場所はちょうど、標高3,000メートル地点となります。
テント場もあります。鳳凰三山を目の前にする素晴らしい立地です。ここまでテントを担いで来るのは決して楽ではないでしょうけれど、是非とも泊まってみたいと思わせるロケーションです。
ちょうど小腹が空いて来たので、小屋で千円のカレーを注文して昼食休憩を取りました。山で食べるカレーというのは、なぜこんなにも美味しいのでしょうか。
カレーを食べている間に、北岳の山頂を覆っているガスが取れて来ました。これはひょっとして、すべてがうまくいってしまう兆しなのでは。という事で急ぎ行動を再開します。
甲斐駒は晴れてるよー。(しつこい)
標高3,100メートル付近の層に雲が立ち込めている状態です。北岳山頂をギリギリ隠してしまう高さです。
仙丈ケ岳もギリギリ埋没を免れています。そっちは曇っても良いからこっちを晴れにしてくれと、手前勝手極まりないことを考えながら歩いていました。
仙丈ケ岳へ登っている人達は今頃、「曇ったのは北岳だけでラッキー」とか思っているんでしょうねきっと。
仙丈ケ岳の背後には、中央アルプスこと木曽山脈の山並みです。木曽駒ヶ岳もギリギリガスへの埋没を免れていました。なぜ北岳だけがこのような仕打ちを。。
眼下にはスタート地点の広河原を見ろせます。ほとんど一直線に登ってきたのだという事が、良くわかる光景ではないでしょうか。
山頂付近は大きな岩が散乱していて、少々歩きにくいです。金峰山の山頂付近に近いイメージです。
前方に、明日歩くことになる間ノ岳へ続く稜線が目に飛び込んできました。ここから見ている稜線のすべてが、標高3,000メートルを超えています。まさに天空の回廊です。
眼下に見える赤い屋根の建物が、本日の宿である北岳山荘です。
北岳の山頂がお目見えです。ちょうどうまい具合に、ガスが取れているではないですか。やはりカレーは食べるものですよね。
13時 北岳に登頂しました。僅かですが周囲を見渡すことが出来ました。どうらやら今回はなんとか、北岳に来ただけとはならずに済んだようで。
山頂の様子
あまり広くはない岩の空間です。大勢が詰めかけると、あっという間に人で埋め尽くされてしまう事でしょう。
毎度お馴染みの山梨百名山標識は、他の山とは少しデザインの異なる北岳特別仕様でした。
眼下に見えるこの尾根は池山吊尾根です。広河原が整備される以前の北岳登山は、夜叉神峠から一度野呂川まで下り、この尾根を登り上げるのが一般的な行程であったとのことです。
相当厳しい行程であるようですが、一度歩いてみたいですね、このクラシックルート。
4.ガスに巻かれてしまった山頂を辞去し、北岳山荘へ
13時15分 もう少し周りが見えないものかと山頂で粘っていましたが、天候はかえって悪化しつつありました。あきらめて行動を再開します。
すっかりガスってしまった中を下って行きます。こう言う視界不良時は道間違えに特に注意です。
例えガスッてしまっても、そう悪い事ばかりでもありません。ひょこりと雷鳥が姿を見せてくれました。
全部で4羽の家族連れです。断崖絶壁の岩場を器用にヒョイヒョイ歩き回っていました。
丸太の階段が整備されていました。はて、こんな場所あったっけか。なにせ周りが見えないので、道を間違えているのではないかと言う不安がよぎります。
稜線上の草が、既に薄っすらオレンジ色に染まりつつありました。3,000メートル峰の夏は既に終わり、もう秋になりつつあるのですね。
山頂から下り続けることおよそ1時間で、ガスの中から北岳山荘が姿を現しました。
14時20分 北岳山荘に到着しました。何故かここに来るときは、いつもガスと暴風に祟られているような気が気がします。
宿泊料金は一宿二食付きで8,700円です。北アルプスの山小屋相場に比べると幾分か安めです。少人数であれば事前の予約は必要ありません。
炭酸飲料全滅。繰り返す、炭酸飲料全滅。もう今年は荷揚げはしないのでしょうかね。
本日の宿泊は北岳の間です。間ノ岳の間と農鳥岳の間もあります。
翌日は平日であることもあってっか、さほど混んではおらず布団は一人一枚でした。
外は大荒れの天気で何も見えはしないので、談話室で雑誌などをを眺めつつ、ダラダラと過ごします。
お楽しみの晩御飯はサバの味噌煮とカレーでした。うわぁーい、二食連続でカレーだー。カレーは大好きなので、別に一日三食カレーでも全然かまいませんよ。
こうして北岳山荘の夜は更けって行くのでした。
2度目の北岳訪問はこうして終わりました。前回よりは幾分ましとは言え、少々残念なお天気でありました。
名前こそ地味極まりない北岳ですが、この山に登ることによって得られる体験には、少しも地味なところなどありません。日本第二の高峰から望む光景は、どちらを向いても一級品です。営業小屋も多く存在し、自分の体力度にあったコース設定が可能です。あらゆる人に自信をもってオススメ出来る山です。
白根三山縦走登山は翌日以降も続きます。二日目となる次回は、前々からずっと行って見たいと願っていた伝説の山小屋、農鳥小屋へと赴きます。
<コースタイム>
広河原(6:50)-二俣(9:15~9:30)-北岳肩ノ小屋(11:55~12:20)-北岳(13:00~13:15)-北岳山荘(14:20)
二日目に続く
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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