鹿島槍ヶ岳 二つの頂が天を衝く後立山連邦の盟主

爺ヶ岳から見た鹿島槍ヶ岳
長野県と富山県の境界にまたがる鹿島槍ヶ岳(かしまやりがたけ)に登りました。
北アルプス後立山連峰のほぼ中央に位置する、連峰の盟主とでも言うべき山です。南峰と北峰の二つの頂を持つ双耳峰で、麓から見上げた際にひと際目を引く存在です。夏には稜線上に多くの高山植物が花を咲かせ、華やかなる天空の縦走路が出現します。
申し分ない快晴のもと、後立山連峰からの絶景を大いに満喫してきました。

2020年8月18~19日に旅す。

鹿島槍ヶ岳は、後立山連峰の山並みの中にあっても特に目を引く存在です。大糸線沿いに仁科三湖付近を移動していると、この極めて特徴的な双耳峰の姿を、すぐに見つけだすことが出来きるでしょう。
信濃大町から見た鹿島槍ヶ岳
日本百名山の著者である深田久弥は、自身が一番好きな山としてこの山の名前をあげています。曰く「有り合わせの形容の見つからない、非通俗的な美しさ」を持った山であると。

私も前々からこの山には大いに興味を持っていたものの、欲深い縦走計画を立てては、結局日程の都合がつかずに流れるというのを、何度か繰り返して来ました。

そこで今回は、欲はかかず鹿島槍ヶ岳だけに的を絞り、冷池山荘(つめたいけさんそう)泊で一泊二日の行程で登って来ました。
冷池山荘
いやまあ実際の所は、単に夏休みを2日間しか取れなかったと言うだけのことなんですけれどね。五竜岳方面への縦走は大変魅力的なプランではありますが、どうしたって2泊以上は必要です。

かくして訪れた後立山連峰の盟主、鹿島槍ヶ岳。天気はこの上ないほどに上々で、早くも2020年ベストの山行きが決まったしまったかと思わせるような、会心の山行きでありました。
鹿島槍ヶ岳からの眺望

コース
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扇沢駅から柏原新道を登り種池山荘へ。そこから爺ヶ岳を越えて冷池山荘に一泊します。翌日に冷池山荘から鹿島槍ヶ岳を往復し、元来た道を扇沢へ戻ります。

1.鹿島槍ヶ岳登山 アプローチ編 新幹線とバスを乗り継ぎ、扇沢駅を目指す

6時13分 JR東京駅
北陸新幹線に乗り込みに長野駅へと向かいます。本当は初日の行動時間を少しでも多くするために、夜行バスで現地入りしたかったのですが、前日の夜に仕事があったためしかたなく当日の朝に始動しました。
東京駅の新幹線ホーム

7時39分 長野駅に到着しました。流石は新幹線です。高いけれど早い。早いけれど高い。
長野駅の新幹線ホーム
夜行バスであらば、およそ半額で済んだのですけれどね。まあ、こればかりは仕方がありません。

8時15分発の扇沢行きのバス乗車します。従来のダイヤでは、この便の一本前に7時50分発の急行バスが存在したのですが、コロナ渦の影響で始発便は運休になっていました。
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客が減っている分減便するのはやむおえないにしても、始発と最終バスの時間を縮めるのは勘弁してほしいのですが。。。

例年だと、どれくらいの乗客がいるのかは知りませんが、バスは空いていてガラガラでした。まあ、平日ですからね。
扇沢行バスの車内

9時55分 扇沢駅に到着しました。爺ヶ岳や針ノ木岳などの周囲の山へのへ登山口であると同時に、かの有名な黒部立山アルペンラインの出発地でもあります。
扇沢
登山開始時間としてはいささか遅い到着ですが、当日の朝出発だと最速でもこうなってしまいました。冷池山荘に予約の電話を入れた際に「10時に扇沢着のバスで行きます」と言ったら、「アンタ本当に辿り着けるの?」的な反応をされました。

標準コースタイム通りのペースで歩いた場合、この時間からだと冷池山荘の到着時間は17時近くになってしまいます。よって本日は、少しばかりコースタイムを巻いて行く必要があります。

さて初日の宿泊地である冷池山荘へ行くには、その手前にある爺ヶ岳を越えて行く必要があります。その爺ヶ岳はこの通り、スタート地点の扇沢からすでに見えています。
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現在地からの標高差はおよそ1,200メートルです。つまりは丹沢の大倉尾根と同程度という事ですな。まあ、標高が高いぶん空気は丹沢よりもずっと薄いので、単純に比較はできませんが。

2.ストイックな登りが延々と続く、種池山荘への道のり

身支度を整えて10時5分に行動を開始します。爺ヶ岳の登山口は、扇沢から元来た方向へ少し戻った場所にあります。
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登山口の脇にも駐車場があります。平日であるにもかかわらず、なかなか盛況なようで満車状態でした。鹿島槍方面への入山者は、そこそこいるようですな。
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轟々と大きな音を立てて流れるこの沢は、その名も扇沢です。やはりアルプスの山は、沢一つとってもスケール感が桁違いです。
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爺ヶ岳への登山口は、扇沢にかかる橋を渡った対岸の脇にあります。扇沢駅からは歩いておよそ10分程度でした。
柏原新道の登山口

登山口から稜線上に出るまでは、標準コースタイムで3時間50分の行程となります。それでは気合を入れていっちょう行ってみましょう。
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これから登ろうとしているこのルートは、柏原新道と言う名称です。経験上、新道と名の付く登山道はどこも大抵は無理やりな感じの急登であることが多いように思えます。

さてはたしてこの柏原新道は、どんな感じの道なのでしょうか。

背後に針ノ木岳方面の稜線が見えます。今から登ろうとしている後立山連峰の主稜線です。つまりは今からほぼあの高さまで登るという事ですな。
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登山届の投函ポストもあります。用紙も筆記用具も備え付けられているので、ここで提出して行きましょう。
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登り始めは緑が濃い樹林帯の道です。九十九折れ繰り返しながらグイグイと高度を上げていきます。
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ちょこっと展望が開けて、信濃大町方面の街並みが見えました。糸魚川構造線に沿って、回廊状の平野が南北に伸びています。
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人気の百名山の主要なルートという事もあって、登山道は大変よく整備されています。大きな段差もなく登りやすい道です。
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なにしろ新道なので、恐らくは胸付くような急登なのだろうと身構えていましたが、どうやら杞憂であったようです。

登り始めてから1時間ほどたったところで、森を抜けて眺めの良い場所に出ました。
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スタート地点の扇沢駅が、もうこんなに小さく見えるようになりました。ノンストップの登りで一気に高度を稼いだようです。
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11時25分 ケルンのある地点まで登って来ました。柏原新道の最初のチェックポイントと言ったところです。
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ケルンから先はしばし間、左手の視界が開けた道が続きます。それはつまるところ、ここからは容赦なく直射日光に晒されると言うことでもありますが。
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前方の稜線上に、溜池山荘の姿が視認できます。本日宿泊予定の冷池山荘と同系列のグループが運営する山小屋です。鹿島槍ヶ岳からは少々遠い立地にあるためか、冷池山荘よりも比較的空いており、予約も取りやすいそうです。
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扇沢を挟んだ対岸に見えるこの山は、岩小屋沢岳(2,630m)ですかね。稜線上のただの通り道扱いされることが多い不遇の頂です。
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目的地がずっと見えているのに、歩けど歩けど一向に近づいた気がしない現象に見舞われます。この柏原新道は、登りだけではなく横への移動距離も長めです。
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爺ヶ岳の頂上も見えました。稜線に出た後は、あの山を乗り越えて行くことになります。
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標高が上がってきたところで、足元に石が散乱する地帯に入りました。その名も石畳と呼ばれている場所で、この辺りは足場が悪く少々歩きにくい道です。
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石畳を抜けると、進路を西に転じて傾斜のほとんどない水平移動になりました。
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その名も水平道だそうです。こんな道の一つ一つにまで名前を付けて、しかもわざわざ案内板までぶら下げているのは、流石は北アルプスのメジャールートです。
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南側の展望が開けました。正面に見えいるのは右が針ノ木岳(2,821m)で、左の大柄な山が蓮華岳(2,799m)です。北アルプスの山の中では比較的歩く人の少ない、穴場的な山です。
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続いて今度は石ベンチだそうです。
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この石の事かな。確かにベンチのような形状で、座って休憩するのにはうってつけな場所です。せっかくなので、ここで腰を下ろして水の詰め替えを行いました。
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ほぼ水平のトラバースがしばしの間続きます。歩きやすいのは良いのですが、なかなか稜線に取り付けません。
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ガレ場を横断します。柏原新道で唯一の危険個所と言えないこともない場所です。特にロープなどの補助は無いので、慎重に行きましょう。
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このガレ場はまるで引っかき傷の様に、スタート地点脇を流れていた扇沢まで一直線に続いています。
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続いて今度は富士見坂です。富士見を名乗っている以上は、きっと富士山が見えるのでしょう。
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振り返って見た光景はこの通り。・・・心の目で見ればきっと見えます。
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長かった新道の終わりが、ようやく見えて来ました。
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13時40分 種池山荘に到着しました。もっと巻けるかと思っていたのですが、意外と時間が掛かりました。10時過ぎにスタートするなら、本来初日の宿泊地は冷池ではなく、ここにしておいた方が無難なのでしょうね。
種池山荘

小屋の周囲は、綿毛化したチングルマに覆われていました。全盛期に訪れていたら、さぞや素晴らしい光景が見れたことでしょう。
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3.爺ヶ岳を乗り越えて、今宵の宿の冷池山荘へ

さて、農取門限まではもうあと残すところ1時間20分しかありません。疲れてはいるものの、休憩は取らずに行動を続行します。
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前方に北アルプスの偉大なるグランパこと、爺ヶ岳の全容が姿を現しました。北峰、中峰および南峰の三つの頂を持つ山です。扇沢から見えていたのは、一番手前の南峰になります。
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ここでまで来てようやく鹿島槍ヶ岳がお目見えです。もっとも雲隠れ中でしたが。
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今から目指す冷池山荘の赤い屋根が、右の方に見えています。種池山荘とほぼ同じ標高に建っていますが、たどり着くには爺ヶ岳を乗り越えて行く必要があります。

という事で、まずはこの目の前のお爺ちゃんを攻略しましょう。ハイマツの稜線の只中を登って行きます。
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爺ヶ岳は、北アルプスの山の中でも特に多くのライチョウが住んでいることで有名です。

ただし、ライチョウが人前に姿を見せてくれるのは、周囲がガスっている時が主で、本日のようなピーカン照りの日にはなかなか現れません。

背後には立山連峰と剱岳が居並んでいました。この後立山連峰と言う名称は、完全に富山側から見た呼び方ですよね。
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爺ヶ岳の最高地点は中央峰です。もう時間が押してしまっていることだし、南峰には登らずに巻き道で巻いてしまいます。
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さてこの爺ヶ岳越えですが、遠目にはほぼ水平のトラバースで巻いて行けそうにも見えますが、実際は割とアップダウンが多めです。ただ通り過ぎたい人にとっては、厄介な障壁です。
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最高峰の中峰は、巻かずに登って行きます。何故ならば、そこにピークがあるから!
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サクッと往復と言いたいところですが、割と真面目に登らされます。
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山頂が見えて来ました。
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14時30分 爺ヶ岳に登頂しました。山頂からは360度全方位の眺望が開けます。、
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単なる鹿島槍ヶ岳への通り道扱いされてしまう事も多い山ですが、この山だけを目当てに登っても、十分に満足できるだけのポテンシャルを持った名峰です。

北には、明日登る鹿島槍ヶ岳の姿が一望できます。山頂部を覆っていたガスは、いつの今にか綺麗に取れていました。
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西には立山連峰の山並み。
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眼下には麓の集落が一望できます。左の方にちょこっとだけ見えている水面は、仁科三湖の一つである青木湖です。
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南の彼方に槍ヶ岳(3,180m)が見えました。その隣の奥穂高岳(3,190m)は雲隠れ中のようです。
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いよいよ時間も押してきているので、先を急ぎましょう。山頂を辞去し、巻き道へ合流します。
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巻き道は傾斜の緩やかな富山側の斜面に沿って続いています。あまり水平ではなく、小刻みにアップダウンを繰り返します。
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後立山連邦の稜線はどこも基本的に、信州側が鋭く切れ落ちています。この稜線自体が糸魚川構造線のフチに相当しているためです。
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北峰も巻いて、ようやく降下が始まりました。冷池山荘は鞍部から少し登った場所に立っており、この後もう一度登り返しがあります。
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15時40分 冷乗越の到着しました。ここから大町方面へ直接下ることの出来る、赤岩尾根ルートとの分岐地点です。相当険しい道であるようですが。
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本日最後の登り返しです。やがて前方からディーゼル発電機の音が聞こえて来ました。
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15時50分 冷池山荘に到着しました。結局、農取門限を50分も超過してしまいました。これは受付時に「山を舐めるな」と怒られてしまうパターンでしょうか。
冷池山荘

4.冷池山荘で過ごす一夜

山荘の脇に小さな池がありました。これが山荘の名前の由来である冷池なのでしょうか。
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宿泊の受付をします。特に到着が遅かったことに対するお小言等はありませんでした。
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この小屋はもともと要予約の扱いですが、コロナ対策により今年はさらに徹底されています。予約なしで転がり込んだ場合は、ペナルティ料金を上乗せするとのことです。

例年と違い、いくつかのルールが追加されています。ホームページビルダーで手作りした感が満載の公式webサイト上にすべて提示されているので、事前にしっかりと確認しておきましょう。
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こちらが寝室の様子です。病院のベットのような仕切りのカーテンが設置されています。一人につき布団一枚が約束されている分、予約が取れさえすれば例年よりもむしろ快適かもしれません。
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談話室も仕切り付き。複数人での会食は避けるように言い渡されているためか、利用者もおらず静かなものでした。
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とりあえずコーラで一服。ちゃんと冷えていて400円なり。
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本当はビールで祝杯をあげたいところではありますが、私は山でアルコールを摂取するとほぼ100%の確率で強烈な頭痛に見舞われるので、下山するまで酒は一切ナシです。

空き缶を捨てる場所がしっかりとあるあたりが、流石は北アルプスの山小屋です。これを当たり前の事だと勘違いしてしまった登山者が、他の山域でトラブルを起こさないかが少々気になりますが・・・
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小屋の正面に、自炊の出来るベンチスペースがあります。鹿島槍ヶ岳を目の前に望む好ロケーションです。朝のご来光もここから見えます。
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下界はすっかり曇り模様で、雲海が出来ていました。
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お楽しみの晩御飯です。ご飯とみそ汁はお替りできます。塩分濃いめの味付けが、疲れた体には嬉しい。
冷池山荘の夕食
新型コロナ対策の一環という事で、向かいわずに全員が同じ方向を向いて食事する、いわゆるスクール形式での提供でした。

お替りする時も、自分ではよそうのではなくスタッフに声をかけてよそってもらいます。これは給仕サービスの一環と言う事ではなく、「米櫃に近づくな」という事なのでしょう。

素晴らしいロケーションに建つ小屋ですが、方角的に夕日だけはイマイチです。夕日に関して言えば、小屋から10分程登って行った場所にある、テント場から眺めると良い感じです。
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夕日に染まる爺ヶ岳。横着して小屋の中から撮影しました。
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黄昏の立山連峰。すべてのものが美しく見える時間です。
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鹿島槍ヶ岳と雲海。この後、夜中の星空撮影に備えて少し仮眠を取りました。
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周囲が十分に暗くなってから小屋を抜け出すと、期待していた通り一面の星空が広がっていました。
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天の川がはっきりと視認できます。もっともこの写真は、RAW現像で明度をかなり盛ってはおりますが。。
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明けて8月19日、4時45分。山小屋の朝は早い。むしろ普段より長く寝たおかげで、体調は万全です。
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冷池山荘の朝ご飯です。夕飯と同様に、ご飯とみそ汁はお替り可能です。ご来光まであまり時間が無かったので、大急ぎでかき込みました。
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大急ぎで小屋の前に出ると、ちょうど良い感じに空が焼け始めていました。日の出地点に薄っすらと雲がかかってはいますが、あの程度の雲であれば問題なく見えそうです。
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暁の鹿島槍ヶ岳。この時間帯特有のえもいわれぬ色味です。
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朝日が昇って来ました。今日と言う一日が、間違いなく素晴らしき日になる事を予感させてくれる夜明けです。
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朝日に染まる鹿島槍ヶ岳。この時間帯に山頂に立つために、ヘッドランプを装着して夜中に出発した人もチラホラといたようです。
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山荘が朝日に染まって行きます。新たな一日の始まりです。
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5.鹿島槍ヶ岳登山 登頂編 花咲く稜線を越えて、大絶景が待つ頂へ

5時25分 身支度を整え、鹿島槍ヶ岳に向かって出発します。本日は山頂を往復した後、また元来た道を引き返して扇沢へ下る計画です。
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ウォーミングアップする間もなく、始めから結構な急坂です。気合を入れていきましょう。
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急坂を登りきったところで、冷池山荘のテント場があります。小屋からは大体10分ほどの距離です。新型コロナ対策の一環で、今年はこのテント場も完全予約制です。
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中々好立地にあるテント場ですが、小屋まで行かないとトイレが無いのが唯一の難点です

立山連峰を目の前に一望できます。先ほども少し触れましたが、夕日を眺めたいのであらば、小屋からよりもここから眺めるのが一番です
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岩と雪の殿堂こと剱岳(2,999m)。こちら側から見るとあまり屹立している感はありませんが、しかし恐ろし迄にギザギザしているのはよくわかります
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テント場からはしばしの水平移動です。天空を歩くが如き、極上の稜線歩きを楽しめます。
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もう花の季節には少々遅いのであまり期待はしていませんでしたが、稜線上には思いのほか多くの花がまだ残ってくれていました。
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チングルマはもう完全に綿毛化しています。
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毒草の代名詞トリカブト。まるで袋の様な、独特の形状の花弁です。
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池塘が残っていました。稜線上に残雪が無くなってから、もう既に結構な日が経過していると思いますが、意外と残っている物なんですね。
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鹿島槍ヶ岳は特徴的な姿の双耳峰だと言いましたが、実際には二つではなく三つの頂があります。まずは前衛のこの布引山を越えて行く必要があります。近くから見ると意外と大きい。
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振り向けば、昨日乗り越えてきた爺ヶ岳の姿があります。ふむ、これは実に良い稜線だ。
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もしかしなくても、これは富士山ですね。頭の方だけですがしっかりと見えました。遠くからでも意外と見えるものですね。
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6時30分 布引山に登頂しました。もう一息と言いたいところですが、ここから山頂までは標準コースタイムでまだあと50分ほどかかります。すぐそこの様に見えるのですけれどね。
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天空の稜線歩きはなおも続く。これぞアルプスと言う光景なのではないでしょうか。
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稜線はどこも花でいっぱいです。八月中旬でもまだこれだけ咲いているという事は、雪解け直後の最盛期に訪れたら、どんな素晴らしい光景が広がっているのでしょうか。
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自分の影と共にゆったりと歩む。
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山頂直下はガラ石が山積する急坂です。高山帯ゆえの空気の薄さも相成って、なかなか苦しい登りです。
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喘ぎながら登るうちに、山頂が見えました。
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7時20分 鹿島槍ヶ岳に登頂しました。山荘からは2時間ほどの道のりでした。写真を撮りながらゆっくり歩いた結果なので、空荷でそそくさと歩けば1時間半くらいの距離でしょうか。
鹿島槍ヶ岳の山頂

山頂の様子。
周囲には視界を遮るものは一切なく、360度全方位の展望が開けます。どちらを向いても絶景三昧なので期待して良いですよ。
鹿島槍ヶ岳 山頂の様子

6.鹿島槍ヶ岳山頂から望む眺望

北側には、白馬岳へと続く後立山連峰の山々が連なります。
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お隣の五竜岳(2,814m)の背後には白馬三山が連なります。ちなみに唐松岳(2,696m)は五竜岳の後ろに隠れてしまうため、ここからは見えません。
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五竜岳との間のこの鞍部一帯は、八峰キレットと呼ばれています。日本三大キレットなるものの一つに数えられている険路です。
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アップで見ると、まるで鋸の様にギザギザとした稜線が続いています。もう後二日休めるなら、このまま五竜岳まで繋げてみたい所ではありますが。
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吊り尾根の先には、もう一つの山頂である北峰があります。往復でおよそ1時間ほどかかるそうです。
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当初はこちらにも寄って行くつもりでいましたが、この光景と往復1時間と言う数字を見て、すっか気分が萎えてしまい結局行きませんでした。

今日中に東京へ帰らなければならないと言う事実が重く肩にのしかかり、少しばかりナーバスになっていたかもしれません。

北峰の背後には、戸隠連峰や頚城山塊などの北信地方の山並みです。薄っすらと靄がかかっていました。
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続いて東側、日本列島の最も太い部分を見下ろす光景です。先の見えない台地がどこまでも続いています。
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南には、ここまで歩いて来た稜線を一望できます。
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北アのお爺ちゃんこと爺ヶ岳。またここを越えないと帰れないと言う事実に、思わずため息がこぼれます。いや、爺ヶ岳自体はとても良い山ですよ。
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遠く彼方には槍・穂高の山並み。一番左は前穂高岳かな。
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針ノ木岳の背後には、水晶岳(2,986m)や赤牛岳(2,864m)等の北アルプス最深部の山並みが連なります。
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これは北アルプスの女王こと薬師岳(2,926m)です。遠目にも目立つかなり大柄な山です。「登りたい山リスト」の上位に名を連ねているので、何れ訪れることになるでしょう。
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西には立山連邦の山並み。ここからだと直接は見えませんが、間にある谷が名高き黒部峡谷です。
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北西には薄っすらと富山湾が見えました。その先には微かにですが能登半島の姿も見えます。
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そして最後に富士山です。すぐに見えなくなるかと思いきや、意外と頑張っていました。
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7.再び爺ヶ岳を越える~ピストンとはそう言うものです

8時 絶景を思う存分目に焼きつけました。名残惜しくはありますが、下山に移ります。
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それにしても素晴らしい稜線ではありませんか。時間と体力が無限にあるのなら、どこまででも歩いて行きたいと思わせる光景です。残念ながら、そのどちらも有限なんですよね。
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布曳山への登り返しがありますが、大した高さではありません。
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眼下にある谷底までの比高が、他の山域とはまるで桁違いです。このスケール感はアルプスならでのものです。
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極上の稜線歩きをゆりと楽しみます。お天気も上々で、最高の登山日和です。この日にこの場所を歩くことが出来た幸運を、山の神様に感謝せねばなりませんね。
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テント場まで戻って来ました。時間的に周囲はすでに撤収ムードです。
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冷池山荘が見えました。こうして上から見ると、結構崖際の際どい場所に建っているんですね。
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9時20分 冷池山荘に戻って来ました。宿泊客をすべて送り出した直後の山荘は、静まりかえっていました。
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「あー帰りたくねー、もう一日泊りまりて―」と言う思いを何とか断ち切って、行動を再開します。
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前日から既に約束されていた未来であった、爺ヶ岳への登り返しです。体感的には、冷池山荘からの登りの方がキツく感じられます。
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振り返って見た鹿島槍ヶ岳。この時間になってもまだガス一つ湧いてはいません。まさに最高の登山日和だったようで。
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中峰には登り返さずに巻き道を進みます。巻き道と言っても結構アップダウンはあります。
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せっかくなので、往路では巻いてしまった爺ヶ岳の南峰をピークハントして行く事にしますう。大した登り返しではありません。
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11時10分 爺ヶ岳南峰に登頂しました。こちらも中央峰と同様に、360度全方位の眺望が開けます。
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振り返って見た鹿島槍ヶ岳と爺ヶ岳中央峰です。森林限界越えの稜線を歩く喜びが、全てが詰まっているかのような光景だとは思いませんか。
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ゴールの扇沢駅が眼下に見えます。標高差はざっと1,200メートルです。パラグライダーか何かで一気に下りたいな。
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槍ヶ岳が、鹿島槍から見た時よりもずっと近くに見えます。しかし本当に目立つ山ですな。
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種池山荘の背後には立山連峰の山並み。実に良い稜線です。針ノ木岳方面にも縦走してみたいですねえ。
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8.鹿島槍ヶ岳登山 下山編 そして夢のような時間は終わり、酷暑の下界へ

素晴らしい眺めですが、しかしいつまでもここに居るわけにも参りません。そろそろ日常に戻らねばならない時間です。ボチボチ下山を始めましょう。
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鹿島槍ヶ岳はこれで見納めです。さらば鹿島槍。いつかまた縦走しに来ます。
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サクサクと順調に下り、あっさりと種池山荘まで下って来ました。結局二日目もライチョウには出会えずじまいです。
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12時 種池山荘に到着しました。ちなみにこの山荘は、1,000円の釜焼きピザが名物です。せっかくなので食べていきたいところですが、こう暑いと焼き物にはイマイチ食指が伸びません。
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結局ピザは頼まずに、冷たい飲みものだけを頼んで喉を潤しました。

さあ帰ろう。この先はもう消化試合のようなものです。一気にかけ下りますよ。
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小さい秋見つけた!
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徐々に大きくなって行く扇沢を横目に、黙々と下山と言う作業に取り組みます。標高が下がるにつれて、気温が高くなって行くのが体感できます。
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14時30分 汗だくになりながら、ようやく登山口まで下って来ました。
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残念ながらまだゴールではありません。扇沢までは緩やかに登り返します。それにしても下界は暑い。暑すぎる。
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14時45分 暑さにだいぶやられながら、なんとかスタート地点の扇沢駅に戻って来ました。平日の日中とあってか、昨日到着した時と同様に辺りは静かなものです。
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破砕帯の冷たくて美味しい水を頂いて、ようやく人心地つきました。いやー暑かった。
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帰りは往路と同じ道を逆に辿り、長野駅から新幹線に乗ろうと考えておりました。しかし、コロナ対策減便の影響で長野行きのバスは17時まで無いという事であったため、信濃大町行きのバスに変更しました。
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信濃大町と言う呼び名を使うのは主に県外人で、地元長野の人は単に大町と呼びます。大町は長野県北西部の中心都市であり、付近の交通の要所ともなっています。

ここから新宿行きの高速バスも多数運行されていますが、中央高速バスは渋滞にはまると時間が読めないので、素直に電車で帰ることにします。

駅の跨線橋の上から、鹿島槍ヶ岳の姿が良く見えました。あそこに登って来たのだと思うと感慨深い。
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大糸線の鈍行列車に乗り込みます。松本を経由して、特急あずさで帰宅の途に付きました。
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かくして文句なしの晴天のもと、鹿島槍ヶ岳への登山は大満足の内に幕を下ろしました。
可能であればお隣の五竜岳まで足を延ばしたいところではありましたが、それにはもうあとプラス二日の休日と五竜山荘の予約争奪戦に勝ち抜く必要があり、なかなかハードルが高いところです。八峰キレットの縦走は、何年後かもう少し状況が落ち着いた頃の楽しみに、取っておくことにします。
扇沢から往復する場合、鹿島槍ヶ岳への道程にこれと言った危険個所はありません。歩行距離がそれなりにあるため体力勝負となる面はありますが、北アルプスの山の中では比較的手軽に登れる山に分類されるかと思います。あらゆる人に自信をもっておススメします。
深田久弥も絶賛の美しき稜線の姿を眺めに、後立山連邦へと繰り出してみてはいかがでしょうか。

<コースタイム>

一日目
扇沢駅(10:05)-爺ヶ岳登山口(10:15)-種池山荘(13:40)-爺ヶ岳中峰(14:30~14:50)-冷池山荘(15:50)

二日目
冷池山荘(5:25)-布引山(6:30)-鹿島槍ヶ岳(7:20~8:00)-冷池山荘(9:20~9:50)-爺ヶ岳南峰(11:10)-種池山荘(12:00~12:15)-爺ヶ岳登山口(14:30)-扇沢駅(14:45)

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

コメント

  1. Candy より:

    はじめまして、こんにちは。
    オオツキさんの写真が素晴らしくて、僕も先週鹿島槍へ行ってきました。

    夕方テント場まで夕日を見に行きました。
    立山連峰のシルエットに夕日が落ちていく様はとても美しかったです。
    小屋泊りだったので、この記事を読まなければわざわざテント場まで見に行くことはなかったと思います。

    剱岳の唯一無二の山容を横手に見やりながら、気持ちの良い稜線を歩け、僕にとっても記憶に残る山行となりました。

    どうもありがとう!
    これからも更新を楽しみにしています。

    • オオツキ オオツキ より:

      Candy様
      はじめまして、コメントをありがとうございます。

      私は見損ねてしましましたが、やはりテント場からの夕日は良い感じでありましたか。
      その瞬間に居合わせることが出来たのは羨ましい限りです。

      またご気軽にご訪問下さい。