岩手県と秋田県の境界にまたがる八幡平(はちまんたい)を歩いて来ました。
東北地方の背骨、奥羽山脈の北部にある古い火山です。長年の浸食により山頂部はなだらかな台地状となっており、雪解けシーズンになると、数多くの池塘が出現し高山植物が一斉に花を咲かせます。
花満開のベストシーズンを迎えた高原を、のんびり散策してきました。
2019年7月6日に旅す。
名前に平と付いていることからも察せられる通り、八幡平は、極めて平坦な山容をした山です。遠目には山というよりは高原台地のようにも見えます。
八幡平は今からおよそ100万年前に、火山の噴火によって成立しました。山頂部に残された多くの火口には何時しか水が溜まり、山頂部には広大な湿原といくつかの火口湖が点在しています。
東北地方の山々が遅い雪解けを迎える初夏の季節になると、湿原の辺には高山植物が一斉に花を咲かせ、一面がワタスゲに覆われます。
まさに初夏の季節は、八幡平が最も美し輝く瞬間であると言えます。
八幡平アスピーテラインと呼ばれる道が山頂直下まで通じており、山頂に立つだけならば1時間とかからずに登頂できます。あえて言うならば、霧ヶ峰や美ヶ原などと同じカテゴリーの山です。スケール感で言えば、八幡平の方が断然上です。
いつまでもグズグズと梅雨の明けない関東甲信に見切りをつけて、ベストシーズンを迎えた東北の山で存分に楽しんで来ました。
コース
黒谷地(くろやち)バス停より源太森を経て八幡平へ登頂します。下山は八幡平登山口へ。標準コースタイム2時間30分ほどの、登山というよりは散策と言った方が妥当な行程です
1.八幡平登山 アプローチ編 梅雨の関東を脱出し、遠路はるばる東北地方を目指す
5時55分 JR新宿駅
シトシトと雨の降りやまない東京をおさらばして、東北地方へと向かいます。なお、早朝の時間帯は中央線快速が走っていないため、もともと遠いと感じている東京駅がさらに遠くなります。
新宿よりも西に住んでいる都民にとって、東京駅と言うのは何気に結構遠いのですよ。いや本当に。東京ではなく新宿に新幹線を通して欲しいくらいです。
東京駅より盛岡駅まで最速で行ける、はやぶさ1号に乗車します。なお、この電車は全席指定です。そして当日の朝に私が切符を買い求めた時には、既に満席でありました。。
席が無い状態だと、立ち席特急券とか言う謎の切符しか買えません。要するに、デッキに立って乗れという事です。
8時48分 盛岡駅に到着しました。
1万4千円も払って2時間以上立ちっぱなしというのは、とても悲しい気分になります。
という事でみなさん。全席指定の特急に乗りたいときは、ちゃんと前日以前に切符を手配しておきましょう。もっとも私の場合、東北へ行こうと思いたったのが前日のことだったので、始めから手遅れだったわけですが。
朝に東京を出発して、この時間に盛岡駅に降り立てるというのは、一昔前には到底考えられなかったことです。新幹線はまさしく夢の超特急の名に恥じない乗り物と言えます。とっても高い上に座れなかったけれどね。
盛岡市は岩手県のちょうど中央付近にあります。なちなみに岩手県は、北海道に次いで日本で2番目に広い都道府県です。面積は東京都の約7倍あり、四国とほぼ同じ大きさです。
盛岡駅前より八幡平行きのバスへ乗車します。このバスの乗車時間もまた非常に長く、およそ2時間かかります。
八幡平ヘは通常の路線バスでも行けますが、季節運航の八幡平自然散策バスと言う便が存在したので、そちらに乗車しました。目的の黒谷地までの運賃は1,300円です。
八幡平自然散策バスは、通常の路線バスで行くよりも少し早くに山頂へ立てる上に、希望者にはガイドによる案内が付いて来ます。まあ、私は一人で好きなように散策しますが。
11時13分 2時間ほどを山道に揺られて、ようやく黒谷地バス停に到着しました。もうすでに正午近い時間ですが、公共交通機関を利用して八幡平を訪問したければ、これが最速となります。
この時点ですでに標高は1,438メートルです。山頂までの標高差は200メートルもありません。登山というよりは散策ですね。
2.花とワタスゲが満開の黒谷地湿原
早速沿道にハクサンチドリがお出迎えしてくれました。天気はイマイチピリッとせず、眺望にはあまり期待できそうにもありませんが、花の方には大いに期待できそうです。
バスを降りた地点から少し歩いたところに黒谷地の入り口があります。その名が示す通りの谷に沿った湿原で、木道が整備されています。
ニッコウキスゲはまだ咲き始めと言ったところです。八幡平の花の季節は、入れ代わり立ち代わりしながらまだまだ当分続きます。
この小さな白い花はイワイチョウかな。まだ入り口に立っただけだと言うのに、すでにこれだけ多くの花々に出会えます。初夏の八幡平は、間違いなく素晴らしい場所です。
早速お目当てのワタスゲがお出迎えしてくれました。ポワポワした質感が素晴らしい。
水辺に咲くのは、高山植物の大定番にして大正義のチングルマです。花が咲き終わると今度は綿毛に変態すると言う、一粒で二度おいしい(?)花です。
同じく大定番のイワカガミも、足元一杯に花を咲かせていました。
ほんの少しですが、頭上に青空が見え始めました。これはひょっとして、すべてがうまくいってしまうパターンなのか。
湿原と言う言葉から想像され通りの光景が目の前に広がります。姿こそ見えませんが、辺りはカエルの大合唱です。
ポワポワのワタスゲに癒されます。歩き始めて10分とせずにこんな光景に出会えるとは、八幡平は侮れませんぞ。
熊の泉と呼ばれる水場がありました。・・・ひょっとして、熊が水を飲みに来るのでしょうか。
三つの注ぎ口が並ぶ変わった形状の水場です。誰がいつ置いたともしれないコップを躊躇することなく使って、美味しく頂きました。
なお、木道は荒れ気味です。表面が雨で濡れている状態だと、歩行難易度がエクストリームにまで跳ね上がるかもしれません。
雰囲気が良すぎてなかなか歩みが進みません。先を急ぐ旅でもないので、ゆっくり湿原の光景を楽しみながら歩きます。
11時40分 黒谷地湿原まで登って来ました。これで八幡平の主稜線上に乗ったことになります。もっとも、稜線というほど稜線らしい姿はしておりませんが。
日当たりの問題なのか、湿原のチングルマはすでに綿毛に変態した後でした。あらゆるものがポワポワしている、圧倒的な癒しの空間です。
コバイケイソウも今が満開の時です。甘い香りに誘われたミツバチたちが、慌ただしく辺りを飛び交っていました。
木道の脇にはチングルマの群生。どこヘ目を向けても花満開です。
ここで何よりも嬉しい太陽が顔を見せてくれました。まあ、その後割とあっけなく、再び雲に没してしまいましたが。
3.八幡平登山 登頂編 広大な平原の上に広がる楽園のような山頂部
ボチボチ山頂に向かって行動を再開しましょう。凝った滑り止めの施された木段を登ります。
これは安比岳(あっぴだけ)へと続く稜線でしょうか。東北地方の山の稜線というのは、どこも歩いたら気持ちが良さそうな姿をしています。
苔生す針葉樹。普段から雨や霧の多い場所であることが窺えます。
ルートの途上に源太森と呼ばれるピークがあるので、立ち寄って行きます。
12時30分 源太森に登頂しました。
山でも岳でもなく森とは、なんともユニークな山名です。
山頂の様子
周囲に背の高い樹木が存在せず、文字通り360度の展望が開けます。
眼下に山頂直下にある火口湖の八幡沼の姿が見えました。頂上部はガスに覆われていて見えません。これは、ガスが取れるまで待機するだけの価値がありそうな場所です。少し待ってみることにしましょう。
待つこと数分。ガスが晴れて、期待通りの光景が目の前に広がりました。名前に平とついているだけのことあって、広大な平地が広がっていました。
八幡沼の背後にあるのが八幡平の山頂です。のっぺりしていて、どこが最高地点なのかイマイチよくわかりません。
八幡沼の辺に広がる湿原もまた、大規模なワタスゲの群生地であるという事です。これまで見てきたポワポワ具合からして、これは大いに期待できそうです。
そうこうしている内に、再び周囲はガスに覆われました。きっとこれは、そろそろ行動を再開しろという事ですね。
八幡沼の辺まで下って来ました。八幡平登山口から登ってきた人々が合流したからか、周囲には一気に人の姿が増えました。
果たしてここには、前評判通りのワタスゲ天国が広がっていました。
ワタスゲが好きな人にとって、ここは間違いなく楽園です。控えめに言って最高です。
ここで前方に山頂部がお目見えです。ここだけ見ると、ちっとも山らしくない姿です。
八幡池のすぐ脇を散策できる木道も整備されています。木道が水面の方向に向かって傾いてたので、歩く際には要注意です。
山頂に向かってゆるゆると登ります。急坂は一切なく、どこまでもなだらかです。
こちらは八幡沼の脇に立つ稜雲荘です。無人の避難小屋です。これまた良い場所に立ってますねえ。
日影側の斜面には、僅かながまだ雪渓が残っていました。この豊富な残雪が、八幡沼にフレッシュな水を供給しづけているわけですな。
展望台から見下ろした八幡沼です。周囲を一周すると、おおよそ1時間ほどだそうです。
八幡沼の少し上にもう一つ沼があり、こちらはガマ沼と呼ばれています。この沼もまた、もとは火口だったとのこと。
山頂に向かいます。足元は整備された石畳となっており、登山道らしさは微塵にもありません。
ほどなく山頂が見えて来ました。山頂には一切に眺望が無いと言う、苗場山などと同じパターンです。
13時45分 八幡平に登頂しました。
道中にキツイ場面の一切ない、気持ちの良い散策行でありました。
さてその展望台からの眺望ですが・・・なーんも見えません。晴れていれば八甲田山などが良く見えるそうです。
まあ、八幡平の魅力というのは基本的に内向きに完結していると言うか、八幡平自体にあるので、周囲の眺望が無かったからと言っても、それは八幡平の魅力を少しも減じるものではありません。
4.八幡平登山 下山編 整備しつくされた石畳の道とドラゴンの眼
展望皆無な上に人だらけな山頂に留まっても、なにも得るものはありません。着いて早々ですが、早々と下山を開始します。
その名の通り、二つの沼が並んでいます。ちゃんとメガネのように見えますな。
続いてこちらはドラゴンアイの異名を持つ鏡沼です。どうでしょう、ドラゴンの眼に見えますか。
ドラゴンレール大船渡線というネーミングと言い、岩手の人はドラゴンが好きなのでしょうか。
下山開始から30分とせずに、八幡平登山口が見えて来ました。この山は登頂するだけなら、本当にあっという間です。
スノーモビルの乗り入れ禁止という看板が、冬の八幡平がどんな場所なのかを雄弁に物語っています。
車道に出ました。八幡平アスピーテラインと呼ばれる道です。もともとは有料道路でしたが、現在は無料化されています。
八幡平は秋田県と岩手県のにまたがる山です。道路上に県境の標識がありました。
14時15分 八幡平山頂バス停に到着しました。実にあっけない下山でありました。やはりこの山は、登山ではなく散策をしに来る場所ですね。
ちょうど松尾鉱山史料館行きのバスが止まっていたので、そのまま乗り込みます。なお、盛岡駅直通の便も存在しますが、本数は少なめです。
火山である八幡平には、実に多くの温泉が存在します。また、その豊富な湯量を利用した地熱発電所も行われています。
平野を挟んだ向かいに見えるこの山は、盛岡の裏山である姫神山(1,124m)でしょうか。聞いた話では、この山も素晴らしい山であるようですね。
松尾鉱山史料館で盛岡行きのバスに乗り換えます。乗り継ぎはスムーズで、待ち時間は殆どありませんでした。・・・資料館を覗ける時間くらいはあった方が良いんじゃないだろうか。
車窓から望むは、岩手のシンボル岩手山(2,038m)です。この日は完全に雲隠れ中でした。しかしこうして見ると、でっかい山ですな。
山頂から再びキッカリ2時間かけて、盛岡駅前へと舞い戻って来ました。
5.盛岡市内をブラブラと散策する
少しばかり盛岡市内散策して行くことにします。橋の上から北上川の先に岩手山という、これぞ盛岡と言う光景を狙うも、岩手山は相変わらず雲隠れしていました。
川沿いの遊歩道は今まさに花満開と言ったところ。良い季節です。
盛岡は美しい街です。街並みの美しさで言うならば、全国の県庁所在地の中でも一二を争う存在だと思います。
ちなみに盛岡の中心地と言えるのは、駅からは少し離れた場所にある大通りと呼ばれる一帯です。駅の周辺はむしろ閑散としています。
繁華街の中心に城の跡がポツンとありました。かつては、ここが文字通り南部藩の中心だったわけですな。
南に見えているこの山並みは何でしょうか。何分まったく土地勘のない場所なので良くわかりません。
橋まで戻って来ると、岩手山が僅かに頭だけを雲間から覗かせていました。
という事で、こちらの宿が本日のゴールです。わざわざ一泊するという事はつまり、翌日にもう一座行きます。
実のところ、八幡平は前泊するついでに行ってみただけのことで、本命は翌日の方です。明日はいよいよ、前々からずっと行きたいと焦がれていた憧れの山へと赴きます。
初夏の八幡平はまさしくワタスゲの楽園でありました。ポワポワした白い綿毛の大群は癒しの空間です。高層湿原の光景が好みの人にとっては、必ず訪問すべきなマストな山だと思います。ベストシーズンは間違いなく花の季節だと思いますが、紅葉も素晴らしい場所であるようです。なお、もう少し歩きたいと言う人は、黒谷地の一つ手前の茶臼岳登山口からスタートすれば、もっと登山らしい登山にすることも出来ます。
マイカーの無い人にとっては、少々アクセスが面倒な場所ではありますが、大いに推奨します。
<コースタイム>
黒谷地バス停(11:20)-黒谷地湿原(11:40~11:50)-源太森(12:30~12:45)-展望台(13:30)-八幡平(13:45)-八幡平登山口(14:15)
※ゆっくりと写真を撮りながら歩いたので、あまり当てにならないコースタイムです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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