一切経山 吾妻連峰の魔女の瞳と秘湯を巡る

一切経山と魔女の瞳
福島県福島市と猪苗代町にまたがる一切経山(いっさいきょうざん)に登りました。
山形県と福島県にまたがる広大な火山郡である吾妻連峰に属する活火山です。遠目には非常になだらかな山容を持ち、荒涼とした火山高原と針葉樹の原生林が織り成す独特の景観が広がります。また、火山の恩恵ともうべき豊富な山の出湯により、吾妻連峰は多くの秘湯名湯が点在する一大温泉地でもあります。
秘湯の温泉と魔女の瞳に魅入られる山旅をして来ました。

2018年8月11日に旅す。

今回の行き先は吾妻連峰の一切経山です。山頂付近から盛んに噴煙を上げている現役の活火山です。麓には、浄土平と呼ばれる広大な湿原帯が広がり、多くの人が訪れる観光地ともなっています。
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吾妻スカイラインと呼ばれる観光道路により、標高1,600メートル地点の浄土平まで直接車で乗り入れることが可能です。山頂までの標高差は300メートルほとしかなく、比較的簡単に登ることが出来ます。

一切経山の人気を支える最大の要因と言えるのが、山頂直下にある火口湖の五色沼です。通称魔女の瞳と呼ばれており、その深いブルーの湖水を湛えた姿は見る者を魅了します。
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遠路遥々と東北地方へと、魔女に魅入られに繰り出します。

コース
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浄土平から酸ヶ平を経由して一切経山へ登頂。下山は東北の秘湯として名高い高湯温泉へと下ります。

標準コースタイム5時間ほどの、お手軽な行程です。

 

1.一切経山登山 アプローチ編 お盆休み初日に行く東北への旅路

7時45分 JR東京駅
さて、時は8月11日。そう「山の日」です。多くの人にとって、この日はお盆休みの初日でもあります。
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私は盆休みの初日の東京駅と言うものを、少々甘く見ていたようです。普段より少し余裕もって来たつもりが、まずは切符を買う所で躓きました。凄い行列だ・・・

切符を買うだけで15分近い時間を要し、発車1分前と言う実に際どいタイミングで、何とかお目当ての車両に乗り込めました。
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当然のことながら座席はすべて満席で、福島駅までずっと立ちっぱなしでした。

9時30分 1時間30分の乗車時間で福島駅へと到着です。
新幹線の旅が快適なのは、座席に座れている場合に限ります。決して安くない料金を払ったうえに1時間半立ちっぱなしと言うのは、なんだかとても悲しい気分になります。
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だったら指定席券を買えよと言う話になる訳ですが、そもそも自由席がすべて埋まるような状況と言うのは、指定席もすでに満席であることが多いのです。

9時50分発の吾妻スカイライン循環バスに乗車します。浄土平まで運賃は1,810円です。
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本来であれば、その名が示す通り吾妻スカイラインを循環する路線なのですが、豪雨の影響で浄土平から高湯温泉間が通行止となっていたことに伴い、浄土平止まりの往復運行となっていました。

路線用バスではなく高速バスタイプの車両での運行です。紅葉シーズンには相当込み合うと言うこの路線も、お盆休みシーズンに訪れる人は少ないと見えて、いたって空いておりました。
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普段はテープ音声での観光案内が行われるらしいのですが、この日は現在研修中だという福島交通のバスガイド嬢による案内付きでした。

浄土平までの乗車時間はおよそ1時間30分と、かなりの長丁場です。バスは吾妻スカイラインを辿って、クネクネと少しずつ高度を上げて行きます。
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ガイドの案内を半分まどろみながら聞きます。本当にどうでも良いことですが、高村光太郎夫妻による東京の空ディスりが割とひどい。

11時30分 浄土平に到着しました。
正午近くにもなって、ようやく登山口に立てました。せめてもう1時間早くに運行してくれればとは思いますが、登山者向けの路線と言うわけは無いので、こればかりは致し方ありません。
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吾妻スカイラインを走っている最中には、周囲が完全にガスってしまっていました。どうなることやらとヤキモキしておりましたが、着いて見ればスカッと快晴の空が広がっておりました。

これは、すべてがうまくいってしまうパターンか。

2.周囲を火山に囲われた浄土平

目指す一切経山は目の前にあります。浄土平からの標高差は僅か300メートルほどしかありません。
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こちらは吾妻子富士と呼ばれている山です。下から見るとただの丘のようにしか見えませんが、一切経山の上から見ると、見事な富士山型をしています。
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浄土平に一切経山という極めて宗教色の強い名称からもわかる通り、ここはかつて信仰の山でした。吾妻山信仰はかつて、数多くの信徒を擁する奥州随一の規模を誇る宗教勢力でした。

やがて八幡太郎義家によって奥州が制圧されると、吾妻山信仰も衰退し、信徒の多くは羽黒山を中心とする出羽三山神社に吸収されてしまったのだとか。

と言うのはすべて、バスガイドさんが語った内容の受け売りです。

浄土平には、日本一標高の高い場所にあるという天文台が存在します。人里から遠く空気の澄んだ場所であるため、星がとても良く見えるのだそうです。
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確かにいい所に立ってますねえ。浄土平は周囲を山に囲まれた窪地状の場所なので、市街地からの光害も一切なさそうです。
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一切経山の山腹からは、激しい蒸気の噴出音と共に、勢い良く噴煙が立ち上っていました。きっと、この山の中はアッツアツなのでしょう。
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浄土平一帯には湿原が広がっており、散策のための木道が整備されています。お花のシーズンはもう過ぎてしまっており、緑一色の状態でした。
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案内板に書いてることを要約すると「浄土平は尾瀬ヶ原とは一味違うぜ」。
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レストハウスの売店で買い物を済ませ、11時45分に行動を開始です。まずは木道に沿って進みます。
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湿原の中を乳白色をした小川が流れています。誰かが上流で石鹸を使った訳ではなく、火山性物質が溶け出しているためでしょう。
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ススキの穂が育ちつつありました。東北地方の山では、もう夏は終わり秋が始まろうとしているのですね。
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3.一切経山登山 登頂編 湿原の広がる酸ヶ平と荒涼たる山頂

木道地帯を抜けて山道へと分け入ります。道が川と一体化し、足元が水浸しでした。
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程なく分岐地点が現れます。東吾妻山に向かいたいなら左、一切経山に向かうなら右です。ここは当然右へ。
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東北地方の山の良い所は、森林限界の標高が低いことです。登山開始してから間もないと言うのに、すぐに視界が開けました。
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花のシーズンはもう終わってしまっていますが、僅かながら咲いている花も残っていました。これはヤマハハコかな。
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背後を振り向くと、吾妻子富士の噴火口がぽっかりと口をあけていました。まるで絵に描いたような噴火口そのものといった姿です。
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登り始めて30分と立たずに、開けた場所に出ました。酸ヶ平(すがだいら)と呼ばれる湿地帯です。火山の近くに割とよくある地名ですね。
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ワタスゲの名所として知られる場所ですが、もうシーズンは終わってしまっております。

酸ヶ平に建つ酸ヶ平避難小屋が見えました。これはまた良いところに建っていますねえ。
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この避難小屋は文字通り緊急避難するための小屋です。中はすべて土間スペースとなっており、宿泊のための設備は備わっていません。
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避難小屋を過ぎると、いよいよ一切経山本体へと取り付きます。
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背後には酸ヶ平に広がる鎌沼が見えます。周囲を散策できるコースも存在しますが、今回はコースタイム的にあまり余裕の無い行程を組んでいるので、寄り道するのは諦めました。
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登山道は大渋滞を起こしていました。大半は地元の人だと思われますが、一切経山の人気の程が窺えます。
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ここで正面に山頂部がお目見えです。急な斜面は存在せず、どこまでも穏やかな山容です。
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南には東吾妻山(1,975m)が、これまたなだらかな山容で佇んでいます。あちらからは、安達太良山や磐梯山が良く見えるとのこと。もっとも、この日は雲に覆われていて全然でしたが。
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鎌沼をアップで。酸ヶ平などと言う名前がついていることからもお察しの通り、鎌沼は火山性物質の溶け込んだ酸性度の高い沼です。微生物すら住めない環境であるが故に、非常に透明度が高いのだとか。
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山頂へ向かいましょう。いつしか周囲は、火山以外の何者でも無い荒涼たる風景に変わっていました。
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周囲は雲に覆われており、浄土平周辺の上空だけが晴れているような状態です。今日の行き先に一切経山を選んだのは、我ながら冴え渡った判断だったようです。
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まあ実のところ、一切経山へ行こうと思い立ったのは、前日になってからの突発的な思い付きだったのだけれどね。

山頂直下最後登り。風が強くなり少し肌寒くなって来ました。
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4.魔女の瞳に魅入られる

12時45分 一切経山に登頂しました。登山開始からちょうど1時間での到着です。高尾山レベルの山ですね。
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山頂の様子
平坦で非常に広々としています。野球が出来そうなくらいの広さです。
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ありがとう空気!
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こちらは背後のここまで歩いてきた道です。方角的に安達太良山があるはずですが、雲に覆われていて全く見えません。
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本日のお目当て、魔女の瞳こと五色沼にご対面です。鮮やかなコバルトブルーをしています。
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瞳と言うよりは、大豆みたいな形をしておりますな。

水深によって色が変わり、グラデーションがかって見えます。流石に5色は無いかな。
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こちらは西側の展望。吾妻連邦最高峰の西吾妻山(2,035m)と続く稜線が一望できます。顕著なピークの無い穏やかな山容です。
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北側の展望。方角的に蔵王連峰が横たわっているはずですが、雲っていて見えません。本当に浄土平の周囲だけが晴れ渡っている状態です。今日の一切経山は何かに守られているのか。
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上空に雲が掛かることによって、瞳の色が変化して見えます。ずーと見ていも飽きません。
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魔女に魅入られる人々。
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13時10分 下山を開始します。
浄土平へは戻らず、秘湯と名高い高湯温泉を目指します。まずは五色沼の湖畔に向かって下って行きます。
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藪の中に突っ込みました。浄土平方面ほどには歩かれていないコースのようですね。ちゃんと整備されているのか若干心配になって来ました。
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山頂からも見えていた川原状の場所まで下って来ました。噴気は見当たりませんが、濃厚な硫黄臭が漂っています。
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湖面まではまだ高低差があり、水際までは接近できません。藪の中を突っ切る気があるのならば行けるかもしれませんが。
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最低鞍部から振り返ってみた一切経山は、あまり火山っぽくは無い姿をしています。見る方向によってずいぶんと印象の変わる山です。
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対岸に向かって登り返します。下草が刈り払われてはいますが、径が狭く不安定な足場です。
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登りきったところで、見事な五色沼と一切経山のツーショットを見ることが出来ました。いやホント、いい所ですねえ。
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正午になって雲が上がってきたことにより、雲海の下にあった福島市の市街地も見えてきました。
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5.一切経山登山 下山編 長き下山路を経て秘湯の温泉を目指す

魔女の瞳はこれで見納めです。高湯に向かって降下を開始します。
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またもや藪の中へ突入します。足元が見え難く油断のならない道です。
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野生のサルの群れに遭遇しました。観光地に居るような人馴れしているサルと違って、警戒心剥き出しでこちらを眺めていました。
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硯石とよばれる分岐地点を通過します。この先に避難小屋があるようですが、地図を見る限り少し離れているので、見には行きませんでした。
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高湯温泉から出る最終バスの発車時刻は17時15分なので、余りのんびりしていると風呂に浸かる時間がなくなってしまうのです。

硯石を過ぎると、道の傾斜が殆どなくなり平坦な道になりました。
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再び分岐です。この先に慶応吾妻山荘という名の営業小屋があります。
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この日は営業はしていないようした。水場があるとのことですが、必要十分な量を携行していたので見には行きませんでした。
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さあ、どんどん行きます。工事現場の足場のような危なっかしい橋を渡ります。
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これはいくらなんでも、隙間が空きすぎなのではないでしょうか。
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傾斜の無い道が延々と続きます。歩きやすいのは良いのですけれど、ひたすら長くてダレてきます。
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一切経山の山頂を出発して以来、いまだ一人の登山者にも遭遇していません。浄土平での喧騒が嘘のようです。高湯温泉側のルートはあまり人気が無いのでしょうか

不意に車道に飛び出しました。不動沢登山口と呼ばれる場所です。
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しばらく車道沿いに歩いたところで、再び登山道に突入します。判り難いかもしれませんがここが入り口です。
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入り口こそ、本当に大丈夫なのかと心配なるような姿をしておりましたが、中はいたって普通の登山道が続いていました。
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人工物が見えてきたと思ったら、砂防工事中の現場でした。こんな山の中でのお仕事、まことにお疲れ様であります。
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工事用と思われる地図には無い道があったりして、今どこを歩いているのか段々わからなくなって来ました。
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「下ればいいんだろう下れば」と言うことで、目の前の道をがむしゃらに降りてゆきます。・・・これって、一番やってはいけないパターンですよね。

16時20分 無事に目的地の高湯温泉に下山しました。
もはや途中からどこをどう歩いてきたのかも判りませんが、結果として狙った通りの場所に下りてきました
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日帰り温泉専用施設のあったか湯に立ち寄ります。入浴料金は驚きの250円です。まあその代わり、シャワーも石鹸もシャンプーもありませんが。昔ながらの湯治場といった所です。
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お湯は私の大好きな白濁した硫黄泉でした。強酸性で、金属製品は錆びるから湯に漬けるなと言う注意書きが張り出されていました。

バス停はあったか湯の目の前にあります。急いだ甲斐あって、ゆっくりと湯に浸かることが出来ました。
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時刻表より5分ほど遅れて現れたバスに乗って、帰宅の途に着きました。
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突発的な思いつきで訪れた山の日の小旅行は、かくして大満足の内に終了しました。吾妻山は今、花シーズンと紅葉シーズンの合間にあたり、ベストシーズンとは言えない時期での訪問となってしまいましたが、それでも十分に楽しむことができました。
浄土平を起点にして、一切経山と一緒に東吾妻山や吾妻小富士などとセットで巡るのがもっとも一般的な行程であろうかとは思いますが、秘湯と呼ばれる温泉に興味があるのであらば、高湯まで足を伸ばすことをオススメします。なにより、一切経山と五色沼のツーショットは、こちらのルートを歩いた時にしか目にすることが出来ません。
本文中でも述べた通り、公共交通機関を利用してこのルートを歩く場合は、コースタイムを少し巻き気味に歩かないと、最後に入浴する時間がなくなってしまいます。その点だけはご注意点下さい。

<コースタイム>
浄土平(11:45)-酸ヶ平避難小屋(12:20)-一切経山(12:45~13:10)-硯石(14:15)-高湯温泉(16:20)

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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