長野県松本市と岐阜県高山市にまたがる乗鞍岳(のりくらだけ)に登りました。正確には登ろうとしてきました。
北アルプスの南に位置し、飛騨山脈の主脈からは少し外れた独立峰の様相を持つ山です。非常に広大な裾野をもつ大きな山で、3,000メートル峰の中では冬季であっても比較的登りやすい山と言われています。
晴天の予報を信じて訪れた山で待っていたのは、視界一面真っ白の猛吹雪に覆われた山頂部でした。
2017年3月19日に旅す。
タイトルに書いたとおり、これは登頂の記録ではなく敗退の記録です。
早いもので、いつしか季節は3月も下旬。
春山シーズンの到来前に、今年の冬の集大成として残雪の3,000メートル峰にのぼってみたいなー、と漠然と考えておりました。
そうなったときに、そもそも自分の技術・体力で冬でも登れる3,000m峰となると、それはもう乗鞍岳しか選択肢には無いのですよ。(登れなかったけど・・・)
3,000メートル峰と言われると、このような切り立った岩峰を想像するのではないでしょうか。
こんな夏でも危険そうな山に雪のある季節に登るなんて、普通に考えれば雪山初心者の手に負えるわけはありません。
ところが、乗鞍岳はそうではないのです。
これは中央アルプスの木曽駒ケ岳からみた乗鞍岳です。
比較対象物が無いのでイマイチスケール感が伝わりにくいかもしれませんが、広大な裾野を引く非常に大きな山です。
裾野の長さだけで言うならば富士山をも上回ります。
この長大さゆえに、乗鞍岳は3,000メートル峰の中では珍しく切り立った岩壁がほとんどないない、非常になだらかな山容をしています。
大きな山だけに、当然ながら歩行距離は長くなりますが、技術的に難しい箇所はありません。
この山はひたすら体力勝負です。
コース
登りは乗鞍高原スキー場のリフトが使用できるので、リフトの頂上部からスタートします。その先は、道と言えるものはすべて雪の下なので、尾根筋に沿って歩きやすそうところを適当に登ります。
下山はリフトが使えないので、スキー場のゲレンデを歩いて麓まで戻ります。
1.乗鞍岳登山 アプローチ編 松本市内に前乗りし、乗鞍高原スキー場へ
3月18日(土) バスタ新宿
朝に東京発で乗鞍岳を日帰で登るのは、時間的に相当無理があるので、今日は前乗りします。
松本BTまでは3,500円です。乗り鉄を自認する私はバスより鉄道旅のほうを好みますが、本日は倹約モードです。
三連休初日とあって大変混雑しています。普段ここを利用するは深夜ばかりなので、日中の混み具合を見たのは初めてかもしれません。
寝てる間につきました。下車した瞬間の感想は「寒っ!」です。盆地と聞くと夏の猛暑を思い浮かべますが、冬には結構冷えるものなのですね。
この日は松本市内に宿泊です。松本駅界隈は宿がやたら沢山あるので宿探しには困りません。
あまりに寒過ぎて、夕飯を食べた後は散策もろくにせずに、早々と寝床に潜り込みました。
空けて3月19日
槍ヶ岳の初登頂者として名高い播隆上人に朝のご挨拶を済ませて、この日の行動を開始します。
パノラマ図によれば、乗鞍岳はガスタンクの後ろにあるはず。天気予報によると乗鞍岳は快晴・・・のハズなんですが、曇っていて見えません。
夏のハイシーズンには満員電車と化す上高地線ですが、冬はガラガラでした。公共交通機関で冬のスキー場に向かう人というのは圧倒的に小数派なんですね。
新島々バスターミナルで乗鞍高原行きのバスに乗り継ぎます。
松本から乗鞍高原スキー場までの運賃は片道1,750円です。松本駅で往復3,300円の切符が買えるので200円ほどオトクです。
8時58分 乗鞍スキー場に到着です。高速バスタイプの車両のおかげで実に快適でした。横座シートではちょっと耐え難そうな山道です。
2.ゲレンデトップから位ヶ原へ
チケット売り場でリフト券を購入します。400円×3回分です。
スキー板を履いていない状態でリフトから下りるのって結構難しいんですね。この真ん中のクワッドリフトはプラットフォームで減速するタイプの高速リフトだったので乗り降りは容易でしたが、他の二つのリフトでは降りるときに肝を冷やしました。
こちらが最上段のかもしかリフト。この時点ではまだ青空が広がっていました。
9時55分 かもしか平に到着です。この時点で既に標高は2,000メートルほど。山頂までの標高差はおよそ1,000メートルです。
アイゼン装着などで、10分ほどを身支度に費やし、10時5分に登山開始である。
かもしか平からしばらくはバックカントリー用のコースに沿って進みます。ゲレンデ外と言いつつもしっかりと圧雪されていました。
スノーボードを背負って歩く人の姿がチラホラと見えます。重そう(月並みな感想)。
下山は圧倒的に楽でしょうね。
登るにつれて段々雲行き妖しくなってきました。この時点ではまだ風も無く、暑くなってきて手袋外して登っているくらいでした。
11時5分 位ヶ原山荘分岐に到着
ここから森林限界を超えます。これまでのような判りやすい「道」はなくなり、雪原の上を適当に山頂を目指して登ります。
3.暴風が吹き荒ぶ中を肩の小屋へ。そして敗退
森から抜けたことで風が出てきました。天候は回復するどころか、ますます悪化する様相を呈しています。
まだ天気予報を信じて、いずれは晴れるものと高を括っておりました。
道なき道を適当に進みます。本来なら進むべき目印として山頂が見えているはずなのですが、先に見えるのは乳白色の空だけです。
遠くに薄っすらと小ピークが見えました。この時はまだかろうじて視界が残っておりました。
さあ、どんどん天候が悪化してきましたよ。トレース以外に目印になるものが何もありません。
通称トイレ小屋と呼ばれる無人小屋が見えてきました。ここを過ぎると急登が始まります。
小屋の脇に入って風を避けて休憩中の人の姿がチラホラ。トイレ小屋と呼ばれるくらいだからトイレが使えるんですかね。確認はしませんでした。
暴風に加えて雪まで振り出しました。ここまできてようやく「もしかしてこのまま晴れないんじゃね?」と言う思いが脳裏に過ぎります。
写真だと前を歩く人の姿がはっきりと見えていますが、ゴーグル越しだとここまで視界は効きません。
12時50分 肩の小屋に到着
晴れるとか晴れないとか言う次元を超えて、暴風雪が吹き荒れていました。ここからは稜線になるのですが、これまでとは桁違いの強風が吹き荒んでいます。
これがはじめて体験する、3,000メートル峰の冬か。
本日はジャケット以外の防寒具をオールモンベルで固めて来ましたが、稜線の強風に吹かれても特に寒さを感じることはありませんでした。
とりあえず防寒に関しては問題ないようです。やはりモンベルは最強か。
剣ヶ峰への登山口。コースタイムではここから山頂まではあと50分。
続行か撤退か、暴風に晒されながら10分ほど揺れ動きました。せっかく乗りかかった鞍だし、とりあえず行けるだけ行ってみようと言うことで続行します。
最終的に撤退を決断したのは、朝日岳山頂直下にある急登に差し掛かった時点です。強風と視界不良で足元が覚束なくなり、これ以上は危険と判断しました。
達成感より山岳展望を重視する私としては、この状況下で山頂に立つことにさほど意味を感じなかったと言うのもありますが・・・
後でGPSのログを確認したところ、地図で言うと大体この辺だったようです。
本当にあと少しだったんですけれどねー(負け惜しみ)。
13時40分 撤退開始
後から登って来たパーティーとすれ違いました。彼らは無事に登頂できたのでしょうか。
強風でトレースがあっという間に消えてしまうため、なんとなく方向感覚だけを頼りに下ります。肩の小屋がうっすっらと見えてきたときには思わずほっとしました。
4.乗鞍岳登山 下山編 ホワイトアウトの危機が迫る苦難の下山~持ってよかったGPS
下山開始です。登って来た当初より視界は更に悪くなっています。
撤退を決めたものの、どちらかと言えばここからが正念場です。風と積雪でトレースは綺麗さっぱり無くなっていました。
行きに右手に見えていた尾根から付かず離れずの距離を維持しながら下っていきます。
トイレ小屋を通過。
さあ、ここから先は何も目印がない雪原です。雪山初心者は、はたしてこの状況から生きて帰れるのか。
ホワイトアウトとは、こういう状態を言うのでしょうね。
何も無いところにカメラを向けると、オートフォーカスがいつまでもグイングイン言い続けてシャッターが下りません。被写体になりそうなもの(枯れ枝)を見つけてようやく撮影できました。
んー?たしか登りはずっと尾根筋だったよね。と言うことで谷には降りないようにしながら適当に下ります。客観的に見れば道迷遭難寸前の状況なわけですが、特にパニックも起こさずに黙々と下りました。
冷静で居られた理由は、単純にGPSを持っていたからです。普段はただのログ記録装置状態であまり活用していませんでしたが、こういう状況下では非常に心強い装備品です。
持ってて良かったeTrex!
・・・私はガーミンの回し者ではありません。
なんとも腹立たしいことに青空が見えました。山頂付近だけが大荒れ天気なようです。
と思いきや急に吹雪だしたりする。山の天候と言うのは本当に予測不能です。
15時45分
出発地点のかもしか平に戻ってきました。
リフトは下りでは使用できないので、ここからはゲレンデを歩いて下ります。
上級者向けの滑走コースがシリセードするのにちょうど良さげな傾斜に見えたのですが・・・
ちょっと傾斜がキツ過ぎたようです。
ここでまさかの滑落停止初体験を行うハメに。滑落停止なんて気休めかと思いきや、結構停まるものですねえ。
最後の斜面の中級コースで再びシリセードを試みる。
こちらは良い按配でした。と言うわけで、滑走コースでシリセードする際には中級コースをオススメします。
16時30分 スキー場入り口に無事下山。ここからは車道を歩いて温泉に向かいます。
日帰り温泉施設の湯けむり館にやって来ました。私の大好きな硫黄泉です。
スキー場のリフト営業終了と被ってしまったため、物凄い混雑具合でした。
温泉後のソフトクリームと言うのは、なぜこんなにも美味しいのでしょう?
観光センター前バス停から、18時23分の新島々行きバスに乗ります。
これが最終便です。バス本数は非常に少ないので気をつけてください。
同じアルピコ交通の運行とあって、バスから電車への乗り継ぎは実にスムーズです。
北アルプスの南端に位置する乗鞍岳は、北南中央のアルプス全体を見張らせる格好の展望台です。
山岳展望への期待に胸を膨らませて訪れた山行きでしたが、結果はご覧頂いたとおり。後に残ったのは一面乳白色なピンボケ写真の山です。
雪山は晴れている日に登ってナンボです。
吹雪の中の山登りなどただの苦行であるばかりか、危険でさえあります。
とりあえず今回の山行きから学んだ教訓としては
1.雪山では天気が怪しかったら早々と切り上げるべし。
2.GPSは必携。ホワイトアウト状態からコンパス直進とか絶対ムリ。
3.防寒はハードシェル+インナーにジオラインHWを着ておけば問題なし。フリースもダウンも不要。
(個人的な感想です。耐寒性には個体差があります)
の3点でしょうかね。
冬に行くかどうかはさておき、乗鞍岳にはいつか必ず再戦します。
<コースタイム>
かもしか平(9:55)-位ヶ原山荘分岐(11:05)-トイレ小屋(12:05)-肩の小屋(12:50)-撤退地点(13:40)-肩の小屋(14:10)-トイレ小屋(14:25)-位ヶ原山荘分岐(15:05)-かもしか平(15:45)-乗鞍高原スキー場(16:30)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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