東京都青梅市にある赤ぼっこに登りました。
青梅市内を流れる多摩川の南岸につらなる、長淵丘陵上にある好展望地です。いかにも里山らしい杉の植林地の只中に存在していますが、山頂付近は広く伐採が行われており、周囲を広く見晴らすことの出来る好展望地となっています。
申し分のない晴天のもと、近場のハイキングコースをゆっくりと巡って来ました。
2020年1月13日に旅す。
赤ぼっこ。その不思議な名前の頂は、青梅市内を流れる多摩川脇の丘陵上にひっそりと存在します。
青梅線の青梅駅から隣の宮ノ平駅へと周回することが可能であり、手頃なハイキングコースとしてひそかな人気のある場所です。
樹木が存在しない山頂部からは、広く四方を見渡すことが出来ます。晴れて空気が澄んでいる日であれば、遠く東京湾やその先の房総半島までもが見えます。
この赤ぼっこと言う名称の由来は、今からおよそ100年近く昔の時代に遡ります。
1923年に発生した関東大震災により、この付近の山の表土が崩れ落ち、赤土が露出した姿になったことからこの名がつけられました。
現在はすでに植生が回復しており、赤土が露出したりはしておりませんが、杉林が広く伐採されて好展望地となっています。
一向に雪が降る気配もない暖冬の1月初頭。ぽかぽか陽気の近場の低山をゆったりと歩いて来ました。
コース
青梅線の宮ノ平駅よりスタートして赤ぼっこへ登ります。下山は二ッ塚峠を経由して青梅駅へ。標準コースタイムおよそ4時間ほどのお手軽な周回コースです。
1.赤ボッコ登山 アプローチ編 東京アドベンチャーライン青梅線で宮ノ平駅へ
8時 JR立川駅
本日の計画は近場の低山でユル登山であるため、朝は比較的ゆったりとした始動です。まずは青梅駅に向かいます。
本当にどうでもいいことですが、何故か私は青梅線にのるたびに、愚弄されているかのような被害妄想に陥ります。「次はー、ふっさ ふっさ」
青梅駅で今度は奥多摩行きの鈍行列車に乗り換えます。ちなみにホリデー快速奥多摩号に乗ってしまうと、目的地の宮ノ平駅は通過してしまいますのでご注意ください。
JR東日本は最近、青梅線を東京アドベンチャーラインなる呼び名で売り出そうとしています。あまり普及してはいないように思えますが、本腰を入れてアピールしつつあります。
座席などの内装までアドベンチャー仕様に変わっていました。お金をかけておりますな。
青梅線を日常の足として利用している地元在住の方々は、自分たちの住まう地域がアドベンチャー呼ばわりされていることに対して、なにか思うところがあったりはしないものなのでしょうか。
9時2分 宮ノ平駅に到着しました。青梅駅の一駅隣になります。ちなみに無人駅です。
トイレと待合室があるだけの小さな駅舎です。ここにもアドベンチャーのノボリが立っていました。
駅前にあるこの像には「平和」と言うタイトルが掲げられていました。
ナチュラルハイ状態な人が「ふん!ふん!」とか言いながら歩き回っている姿にしか見えませんが、平和なのはとても良いことだと思います。
2.多摩川を渡り天狗岩ハイキングコースの入り口へ
身支度を整えて、9時10分に行動を開始します。まずは奥多摩方向に向かって青梅街道を道なりに進みます。
味は赤坂、値段は青梅。さり気なく青梅をディスりに行くスタイルですね。
多摩川に向かって一度下ります。そして前方にすでに、赤ぼっこが属している長淵丘陵の姿が見えております。
下り切った所で多摩川を渡ります。この付近の多摩川はまだ山間部で、深い渓谷を刻んでいます。もう少し下った羽村付近から平野部に入ります。
多摩川の水はまだ微妙に濁っております。これは台風19号の影響によるもので、一度泥で濁ってしまったダム湖の水と言うのは、水が入れかわらない限り元には戻らないのだとか。
下流方向に目を向けてみましょう。中心付近に、ポツンと一本だけ木が生えている場所があるのがお分かりになるでしょうか。
ここが本日の目的地である赤ぼっこです。なるほど確かに、とても眺めが良さそうな場所です。
海までは64km。この先には、大河と呼ぶにふさわしいだけの長久な流れが続いています。
多摩川のある場所がもっとも標高が低いため、川を渡った後は当然登り返しです。ここ青梅市をはじめ、山間部の川の周囲にある市街地と言うのは、必然的にどこもUの字型をしています。
またも道標はありませんが、登り切った突き当りを今度は右です。
稲荷神社の脇を今度は左に入ります。
・・・こうして先ほどからせっせと道順を解説しているのは、単に私自身が分かりにくかったからです。
5万分の1縮尺の山と高原地図は、登山計画を立てるのには便利ですが、市街地を歩ていて目の前の分岐を左右どっちに行けばいいのかと言う場面では、まったくと言って良いほど役には立ちません。
すぐにまた横道が現れます。ここがハイキングコースへの入り口となります。
ここで初めて道標が現れました。赤ぼっこの名はどこにもありませんが、天狗岩と書かれている方向を目指せば問題ありません。
光の当たり具合がちょうどよいタイミングであったらしく、石垣の上の草がまるで緑色の灯のように輝いていました。
ここから、日中でも街灯がともってしまうような薄暗い森の中へと入っていきます。立て看板には行き止まりとありますが、これは車両に対するもので、ハイキングコースはしっかりと続いています。
9時40分 林道の終端まで登って来ました。ここから登山道が始まります。
なおこちらのお宅では犬を飼っており、通り抜けようしただけなのにムチャクチャ吠えられました。何もそんな吠えなくったっていいじゃないか。
3.赤ぼっこ登山 登頂編 まっくろくろすけと朝日が差し込む森
登り始めは笹薮に覆われた小径の道です。朝露に濡れた笹を突っ切ったら、全身が水浸しになりました。
よほど湿度が高いのか、横から差し込む朝日の光の筋がクッキリと見えます。天使か何かが舞い降りて来そうな光景です。
薄暗い谷底の杉林に、少しずつ光が満ちて行きます。この朝方の森特有の空気感と言いうのは、なかなか写真では伝わりません。実際に体験してもらうほかないです。
道標上に何か見覚えのあるものがあります。これは「となりのトトロ」に登場したまっくろくろすけですね。出てこないと目玉をくり抜かれてしまうという、壮絶な宿命を背負う存在です。
で、結局のところこいつらは何者なんでしょうね。
眩いサイド光が降り注ぐ森を進みます。狙っていたわけではありませんが、偶然にも最高の時間帯に居合わせることが出来たようです。
単調な杉林の光景をかくも美しものに変えてしまう、この太陽光という魔法の光。
まるで奥多摩のようだと、いつも杉の植林の事を散々けなしてきましたが、横から陽が差す朝と夕方に限って言えば悪くありません。差し込む木漏れ日の筋によって独特の雰囲気が生まれます。
すこし標高が上ったところで、地表付近より湿度が下がったのか、光の筋は見えなくなりました。
ここでなにやら前方に絶景の予感が。期待して行ってみましょう。
うーん残念。視界が開けていそうに思えた先には、手入れももされずに荒れ果てたススキの藪が広がっていました。
山と高原地図には特に記載のない場所ですが、白山社と書かれた社がポツンとありました。
この好き放題に繁茂しているススキもやがては刈り払われて、また杉が植樹されるのでしょうかね。
先へ進みましょう。稜線に出て以降は、緩やかにアップダウンを繰り返す、とても歩きやすい道が続きます。
大寒を目前に控えた季節であるにもかかわらず緑が濃い。低山ならではの光景です。
10時20分 要害山に登頂しました。
丘陵上の小さな突起といった感じの場所で、山頂と言うよりはただの通り道のような場所です。
山頂の様子
狭い空間で展望は全くありません。名前からして恐らくは城跡なのでしょうけれど、遺構のようなものも特に見当たりません。
要害山からすこし先へと進んだ所で、またも視界が開けました。伐採地のようです。
すぐ向かいに隣の尾根があるため、残念ながら特に眺望はありません。既に新しく杉が植樹されており、育ち始めていました。
何となく視界が薄っすらと白みががっています。やはり湿度は高めのようですね。となると、赤ぼっこからの遠望に関しては期待薄かもしれません。
緩やかにアップダウンを繰り返します。急坂は無く、どこまでも歩きやすいコースです。
少しだけ展望が開けました。多摩川を挟んだ向かいの山並みは青梅丘陵です。
ここにも紅葉の名残が。意外と茶色くならずに残っているものですね。
途中で天狗岩方面への分岐があります。この天狗岩から見える眺めは基本的にすべて赤ぼっこからでも見えるため、事実上の下位互換でしかない場所です。という事でここはスルーします。
天狗岩への分岐を見送って程なく、今度は赤ぼっこへの分岐が現れます。ここは当然、赤ぼっこ方向へ進みます。
前方に置きく開けた場所が現れました。おお、これは確かにすごい。周囲が丸見えです。
10時50分 赤ぼっこに登頂しました。写真を撮りながらのんびり歩いても、駅から1時間40分ほどの行程でありました。
山頂の様子
ベンチが用意されており、周囲を眺めながらゆったりと過ごせます。
赤ぼっこの象徴的存在である、山頂に立つ一本檜です。周囲になにもない吹き曝しの場所ですが、台風19号の風雨にもなぎ倒されることなく耐え抜いたようですな。
4.赤ぼっこからの展望
平野に際に位置する丘陵地にあるため、赤ぼっこからは関東平野を広く見渡すことが出来ます。しかし案の定というか、本日は霞っぽくて遠くは余り良く見えません。
山頂にはこのように、四方八方を向いた謎の木の板が設置されています。
これは方位盤の様なもので、その方角に何が見えるのかを示してくれています。霞んでしまっていて東京スカイツリーの姿は全くもって見えはしませんでしたがね。
西側を見てみましょう。左から順に大岳山(1,266m)、御岳山(929m)、日の出山(902m)と並んでいるのが見えます。
みんなご存知の大岳山。特徴的なシルエットのおかげで、奥多摩の山のなかでは一番見つけやすい山です。
右手前の山は麻生山(794m)です。いつか晴れている日に再訪せねばと思いつつ、未だ訪問出来ていません。台風十九号の影響で、確かアプローチが少々面倒な事になっていたはず。
これは日の出山です。山頂にある東屋が何となく見えています。
いつか日の出山から日の出を眺めてみたいと思いつつ、これも未だに実行に移せておりません。そもそも車を持っていない私は、夜中に現地入りしてナイトハイクすると言う方法は取れないので、少しばかりやり方を考える必要があります。
御岳山の宿坊で一泊するか、はたまた山頂の東屋にツエルトでも張って野営するか。どちらにしろ、もう少し暖かくなってからですね。
この横一列に並んでいるのは高水三山です。縦走登山の入門コースとして人気のある山です。
眼下には、行きしに赤ぼっこを見上げた和田橋が見えました。一見するとすぐ近くにも見えますが、ぐるっと回ってきたため歩行距離はそこそこあります。
反対の東側に目を向けてみましょう。良いお天気ではありますが、強い霞の影響で遠くはほとんど見えません。
これは青梅駅付近です。上から見るとこの辺りが平野部の果てであることが良くわかります。
ちなみに、青梅駅があるのは青梅市のなかでも端のほうです。市の中心があるのは、この河辺駅付近になります。
このかすかに見えている白いドームは、所沢にある西武ドームの屋根ですかね。
標識によればこの先には東京湾が見えるらしいのですが、待ったくもって見えません。もっと空気がキンキンに冷えている寒い日に訪れた方が、幸せになれる場所なのかもしれません。
5.赤ぼっこ登山 下山編 二ッ塚峠を経由して青梅駅へ
11時40分 とても1月とは思えないよなぽかぽか陽気の山頂で、ついつい長居し過ぎてしまいました。ボチボチ下山を開始します。
下山を開始してほどなく、フェンスに囲われた場所にぶつかります。
ちなみにこの柵の向こうにあるのは、日の出町のゴミの埋め立て処分場です。そのためか、心なしか嫌な匂いがする空気が漂っているように感じられます。
フェンスの脇に馬頭観音がありました。これがあると言うことは、この丘陵上には古くから人の往来があるという事の証でもあります。
馬引沢峠と呼ばれる場所です。ここから林道を下って宮ノ平駅へ戻ることも出来ますが、もう少しこのまま丘陵沿いに進みます。
埋め立て処分場の敷地沿いの道がしばし続きます。トラバースなどは無く尾根筋を忠実にたどるため、割とアップダウンが多めです。
マウンテンバイクに乗った人を何人か見かけました。たしかに自転車で走れないこともなさそうな道です。どちらにしろ、トレランどころではないハイリスクな遊びであるとは思いますが。
12時10分 二ッ塚峠に到着しました。まだまだ歩き足りないと言う人は、ここからさらに草花丘陵をへて羽村まで歩くロングコースへ進むことも出来ます。
私はこのまま素直に青梅駅へと戻ります。道標上に青梅駅の名はどこにもありませんが、吉野街道と書かれた方角に進めば問題ありません。
二ツ塚峠と言う地名の由来となった伝説の説明がありました。文字通り二つの塚があるからな訳ですが、どうやらその塚の主達は人柱として生きたまま葬られたようですね。
・・・自らの死期を悟った母親が、志願してこの地で人柱になる事を願うと言うところまでは、まだ理解できないこともありません。迷信がはびこっていた時代であるし、人柱になることには意味があるのだと信じられていたわけですから。
しかし娘まで一緒に埋めて、しかもそれを美談であるかのごとく語り継ぐと言うのは、現代人の感覚をもってはおおよそ理解不能ですよね。
下山を開始します。傾斜が緩くて一見すると歩きやすそうな道ですが、路上にやたらと石が多い上にそれが落ち葉で隠されていて、なかなか油断がならない道です。
途中に山と高原地図には記載の無い分岐がありますが、ここは天祖神社方面が正解です。
市が管理している公営の霊園であるそうです。墓地の先に見えている白い建物は、明星大学の青梅キャンパスです。
ここからは舗装道路歩きになるのかと思いきや、もう少しだけハイキングコースは続きます。
ここにもまっくろくろすけがいました。生息域はどこからどこまでなのでしょう。
神社の屋根が見えてきました。長淵ハイキングコースの入口である天祖神社です。
12時55分 天祖神社に到着しました。創建年代がいつなのかよくわからないと言うくらいに、長い歴史を持つ神社です。
この天祖神社の狛犬は、今にもとびかかってきそうな躍動感があってとても良い感じです。狛犬マニア?の方は必見です。
なおこの石段は全部で230段あるそうです。こちら側からスタートする場合は、登り始めて早々に心を折られそうですね。
あとは道なりに駅まで歩いて戻るだけです。割と距離があるので30分くらいはかかります。
そう例えば、庭に壺のある生活。
・・・って、これは一体何でしょうか。人も入れるような大きさの壺が庭に散乱しています。
ここは「藍染工房 壺草苑」という施設で、本格的な染め物の体験が出来るそうです。しかし、この入り口を見ただけでは、壺屋なのかと思ってしまいそうです。
調布橋を渡り再び多摩川の対岸へ戻ります。
この調布と言う地名は、東京都調布市と由来は全く同じで、この辺りが布の生産地であったことを示しています。先ほどの藍染工房も、その伝統を受け継いだものなのでしょう。
そしてこの調布橋は、私にとってちょっとした因縁がある場所です。まあ、因縁と言えるほどの事では無いのかもしれませんが。
それはこの多摩川を決壊させるに至った台風19号が襲来した夜のことです。あの日私のスマートフォンは、何度止めても止めても執拗にアラートがなり続けました。「ポポポポポ-ン ポポポポポ-ン」と。
その警報の内容は、調布橋付近に氾濫危険警報が出されているから直ちに避難しろ言うものでした。だから調布違いだって言っているのに!
と言う訳で、あれはここの事だったのかと一人合点がいった次第でありました。
多摩川を渡ったら、その後は当然登り返しです。往路と全く同様です。
青梅には赤塚不二夫記念館があります。赤塚氏は渓流釣りが趣味で、よく青梅市に滞在していたのが縁でここに建てられたのだそうです。青梅駅の発車メロディーが秘密のアッコちゃんなのもそれが理由です。
13時25分 青梅駅に戻って来ました。全行程4時間15分ほどの、実にお手軽なハイキングでありました。
長淵丘陵は全般的にとてもよく整備が行き届いたハイキングコースであり、半分お散歩のような気分で歩くことが出来ます。お手軽ながらも赤ぼっこからの眺望は素晴らしく、軽めのハイキングをしたいと言う人には大変オススメです。
この青梅市の界隈には、青梅丘陵や高水三山など、登山初心者向けとされる低山コースが多く存在します。その中でこの赤ぼっこは、知名度の点で大きく後れを取っているように感じられますが、その魅力度においては前者に少しも引けを取るものではありません。まっくろくろすけと好展望に出会いに、この近場の山へと繰り出してみてはいかがでしょうか。
<コースタイム>
宮ノ平駅(9:10)-白山社(10:05)-要害山(10:20)-赤ぼっこ(10:50~11:40)-二ッ塚峠(12:10)-天祖神社(12:55)-青梅駅(13:25)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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